パラノーマンズ・ブギーD
「ケチャップ色の世界 中編』
作者:domino


棗(なつめ)/伝馬 ヨミ(てんま よみ):(過去は13歳)16歳。女性。本名、伝馬ヨミ。レム能力世界に捕らわれている。

レム:16歳。女性の見た目をしているけど、本当は小学生男子。

木元 佳祐(きもと けいすけ):外見年齢27歳。見た目はヘタレ、しかしその正体はーーゾンビーマン!

キリコ:30歳。クールビューティなナースさん。黒タイツが好き。

花宮 春日(はなみや はるひ):26歳。女性。速見興信所所属の超能力者。泣き虫。

速見 賢一(はやみ けんいち):(過去は39歳)42歳。速見興信所所長にして、陰陽師。足臭い。

伝馬 シン(てんま しん):(過去は16歳)19歳。女性。時代錯誤の和装美女。えっちなのはいけないと思います。

伝馬 セイ(てんま せい):(過去は24歳)27歳。男性。嗚呼、彼の愛はどこへ行く。



コメンテイター:テレビ番組の出演者。ナレーションと被り役。

教団員:青の教団員。ナレーションと被り役。

伝馬側近:伝馬一族の武闘派。ナレーションと被り役。




※必読※パラノーマンズ・ブギーDにおける世界線についての説明

【木元佳佑のいる赤い月の世界】
パラノーマンズ・ブギーC「あるいは」の後の正当な時間軸

【棗とレムのいる能力世界】
パラノーマンズ・ブギーA「幸運少女」の後から、C「あるいは」までの時間軸

【速見と伝馬一族の世界】
パラノーマンズ・ブギー@よりも遡ること3年前の時間軸






【あらすじ】
青の教団員レムの能力世界に捕らわれた棗は、自らの記憶を見せることでレムに交渉する。
2人は棗の中に封印されていた伝馬一族の記憶を辿ることになる。
記憶の中では、陰陽師・速見賢一と伝馬の若者たちが怪異の封印に挑んでいた。
そして現在。記憶を失った男、木元佳佑は、自らの中にある超能力者としての本能に気づき始めていた。
苦悩する彼の前に、超能力者を名乗る女が現れる。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−







 ◆


レム:……伝馬一族のお題目。
   怪異の封印……その正確な記憶。
   ふふ……楽しくなってきましたね。

N:棗は顎に手を当てたまま考え込んでいた。
  レムは上気する頬に手を当てながら棗の顔を覗き込んだ。

レム:貴女が自分以外の記憶を持っているのは、恐らく。

棗:あん? ……そりゃあ、能力を使ったんだろうさ。
  恐らくは、賢一に。

レム:ですが、その記憶は封印されていた、と。

棗:封印と呼べる代物どうかはわからないけどな。
  セキュリティは甘々だしよ。
  と、なるとーー(舌打ち)まあ、今はいいか。

レム:なんにしても、取引をして正解でしたね。

棗:正解だぁ?

N:レムは悪戯っぽく舌を出すと、ウインクをした。

レム:取引の元は取れそうです。
   十分に、私の主を喜ばせられる。

棗:……ふうん。

レム:……なんですかね、その反応。

棗:いや、麗奈の顔でそういうのやると、似合うもんだなと思ってさ。

レム:え……何、そっち系の人ですか?

棗:気持ちわりいこと言うな……。
  まあ、なんだ……麗奈のやつ、表情のバリエーションが多くなくてさ。
  お前は表情がコロコロ変わるからさ……見た目なんて宛になんねえのはわかってても、
  ちょっと新鮮にうつったりするもんなのかもな。

レム:へえ……そうですかぁ。

N:レムは口調とは裏腹に鋭い眼差しで棗を見つめていた。

レム:……大切、なんですね。

棗:麗奈が? うん、まあ、そうだな。

 間

レム:ならどうしてーー

棗:お前を前にして、平静でいられるか?

 間

棗:お前らがどんな目的で麗奈を狙ったのかは知らないが。
  レム、俺達は諦めが悪いんでな。

レム:大丈夫だと、言い切るつもりですか。

棗:違うなァ。大丈夫なんだ……俺達はな。
  絶望することは許されない。そんな世界観で生きてるんだよ。

 間

レム:(呟く)……なんだよ、ソレ……。

N:レムは視線を伏せたまま次の扉を作り出した。

レム:……見せてくださいよ。その自信が本物なのか。


 ◆


 【伝馬ヨミ・過去の記憶】

N:悪鬼羅刹(あっきらせつ)、魑魅魍魎(ちみもうりょう)。それらを統べるもの。
  須(すべか)らくそれらは門を通じて現れる。
  しかしその時まさに、血みどろの戦いの末に、門は再び眠りにつこうとしていた。

セイ:今です! 速見様!

速見:オウ! どいてろォ! テメエら!

N:速見は無数の札に寄って守られた神剣を、門に突き立てた。
  亡者の怨念が怨嗟の悲鳴を上げる中、速見の指が素早く印を刻んでいく。

速見:祝詞(のりと)をあげんのは得意じゃねえンでなァ……!
   俺のスーパーパンチで、向こう数千年はマットに寝てろォ! このボケナス共ォ!

N:小鳥のさえずりが鳴ったかと思うと、次の瞬間ーー
  そこは何もなかったかのような静寂に包まれていた。
  速見は手を合わせると、手のひらに巻かれた数珠から血液が滴り落ちた。

速見:……お前らにはまだくれてやれねえが……ゆっくり休みなァ。

セイ:まだ立てるものは直ぐに負傷者を外へ!
   里全体に成功だと伝えろ! ここはすぐに撤収する!

N:こうして、300余年ぶりにこの地を襲った大災厄『羅刹の門(らせつのもん)』は、
  この地を護る伝馬一族と、『陰陽師』速見賢一の手によって、3年の歳月をかけて封印された。
  その日のうちに死傷者の弔いが行われると、翌日の昼には伝馬一族の大宴会が行われた。
  速見は喧騒から少し離れた庭園の石の上に座っていた。

シン:ねえ! 賢一ったら!

速見:……お前。さっきまで広場で踊ってなかったか?

シン:稽古しましょう!

速見:バァカ……パスだ、パス。
   ほら、見てよ。可哀想にお手てが血だらけでいたいいたいなンだぜ?

シン:ふぅん……じゃあ私も手を傷つけるからぁ! ね! いいでしょお!?

速見:ダァー! ったく! どうしてお前はそんなバトルジャンキーに育っちまったかね!?

シン:だって……賢一が悪いのよ? 私をあんなにめちゃくちゃにするから……。

速見:あのなぁ……この里にならお前より強いやつはごまんといるだろ。
   それこそセイに面倒みてもらえよ。

シン:お兄様は……嫌よ。楽しくないんだもの。

速見:どうしてだよ。

シン:お兄様は、私を殺してしまうから。

速見:……物騒な兄妹だこと……。

N:速見は足元の石を拾うと、軽く蹴り上げた。
  まっすぐと落ちてきたそれを、地面につけずに何度も蹴り上げる。

速見:せっかく一生に一度のお勤めが終わったンだ。
   お前も、里を出てみるべきだと思うけどね。俺ぁ。

シン:里を、出る? そんなことできっこないわ。

速見:(笑って)それこそ、外にはお前のいう”強いヤツ”はごまんといるぜ。

シン:本当!?

速見:そうさなぁ……シンにオススメっていうと……。
   生意気なやつがいンだよ。そいつもシンと同じバトルジャンキーでさ。
   口癖は「俺が最強」っつーとんでもないバカよ。

シン:最強、ふふ、面白い響き。
   ……そう。世界って広いんだものね。

 間

速見:世界はな。オムライスなんだよ。

シン:オムライスって?

セイ:外界の食べ物だよ。

N:セイは優雅な身のこなしで2人の間に立った。

セイ:シン。母上が呼んでいる。すぐに行きなさい。

シン:ええ? どうしてぇ!

セイ:夜にクレナイ様が集会を開くとおっしゃったんだ。
   そんな服では出席は許されないぞ。

シン:もう……せっかくおもしろかったのにぃ……。

N:シンは名残惜しそうに大太刀を引きずっていく。
  セイは困ったように微笑むと、速見に歩み寄った。

セイ:速見様。あのような話をされると困ります。

速見:別にいいだろ。減るもんじゃなし。

セイ:シンは……恐らくは里から出ることはできないでしょう。

速見:お前の後を継いで、査察の任につくとしたらアイツだと思うけどねえ。

セイ:実力には目をみはるものがあります。
   ですが、人間性がどうにも……。あいつは俗物的すぎる。

速見:ふぅン……お前らは、わからんね。
   こんなに面白い世界ン中で、こンなに縮こまってやがる。

セイ:それが、伝馬というものですから。
   ……それより、さっきのお話の続きは?

速見:ン? ああ。オムライスの話か。

セイ:ええ。興味がありまして。

速見:別に大したことじゃねえけどな。
   この世の中は黄色い卵に覆われてるオムライスみたいなもンだって話よ。
   スプーンでつつきゃ何がでてくるかわからない。
   かといって、ほじくっちまったら最後、卵はひび割れちまって食うしかないのさ。

セイ:食うしかない、とは?

N:速見はセイの眼前に拳を突き出した。

速見:お前ならわかるはずだぜ。世界はもう、変わりはじめてる。
   ここや京都、四国の怪異なんぞは金をかけてなんとかしちゃあいるが……。
   俺が面倒見てる奴らそうはいかねえ。
   ”超能力者”ばかりは、塞げば済む話じゃねえンだよ。

セイ:超、能力……。いくら速見様でもその言葉をこの里で口にするのはご遠慮願いたい。

速見:ハァ? てめえら、力場を感じる訓練しといて何バカなこと言ってやがる。

セイ:……それとこれとは。

速見:気づいてねえと思ってンのはお前らだけだぜ……?
   伝馬ァ……お前らが対超能力者用の戦闘技術を鍛えてんのをよぉ。

セイ:恐れながら……それは我らの秘術故、他言は無用でーー

速見:嫌だね。

セイ:速見様ッ!

N:速見は悪戯っぽい笑みを浮かべてセイを見つめた。

速見:自分らが正しいと思うのは勝手さ。
   人間は自分の視界しか持たない生き物だからなァ。
   だが、そうやって生きるには覚悟をしておくことだ。
   嫌いなケチャップライスだって、喰わなきゃいけないことをな。

N:速見はセイの脇をすり抜けるように歩き去ろうとする。
  セイは、拳を握りしめながらその後姿に向き直った。

セイ:僕には! 嫌いなものなんて、ありません。

速見:そういうところが、お前のつまらンところだ。セイ。
   好みのメシよりも、嫌いなメシを言えるようになれ。

セイ:速見様は……どうしてそう、意地悪ばかりおっしゃるんですか。

速見:甘ったれンじゃねえ!

N:速見は地面を踏みしめてセイを睨みつけた。

セイ:な、にを……!

速見:大局を見ろ! セイ。
   お前はこれから俺と……いや、世界とどういう関係になっていくのかを、
   しっかり考えなきゃなンねえのさ。

N:セイの瞳には、驚愕と悲哀の色が浮かんでいた。

セイ:僕は……ただ、許せないんですよ。
   あなたを縛る、そんなものが、総て……!


 ◆◇◆


コメンテイター:『政府も、一刻も早く国民の不安を取り除かなくてはならないわけです』

木元:不安、ね。

N:木元はソファに寝転がりながらニュース番組を観ていた。
  番組の中では、コメンテイターが眼鏡の奥を光らせながら話をしていた。

コメンテイター:『今までもですね、誤った情報が出回ったことで、
         それが大きな騒ぎになった事例はありました。
         ですが、今回の件は常軌を逸しています』

木元:たしかに。

コメンテイター:『赤い月についても科学的見解といいながら曖昧な会見一つ。
         そして新たに噂されている、超能力者というキーワードがーー

木元:(ため息)超能力者……。

N:木元はテレビの電源を消すと、大きく伸びをした。
  そして身体の具合を入念にチェックしていく。
  本人は覚えていないことではあるが、それらは総て、木元佳祐本来の癖なのであった。

木元:やっぱり、そうだよなぁ……。
   俺、超能力者だったかもしんないしょ。実際。

N:木元は部屋の隅の鏡に歩み寄ると、深呼吸をして腕を伸ばした。

木元:……使うとしたら、どうだ?
   えっと……『力よ! 来い!』

 間

木元:具体的に言わないと使えないのか?
   ……炎よ! 我が手に来たりてーー違うか。
   水よ……! いや、風よ!

キリコ:イメージが大切なんじゃないんですか?

木元:ああ、そうか。じゃあ……そうだな。
   うおおおお……! はかいこうせん! でろ!

 間

木元:ぬあああああ!? キリコさん!
   い、いつからそこに……!

キリコ:(ため息)あなたがニュース番組に逐一突っ込んでいるところからです。

木元:あ、あれは、そのですねーー

キリコ:どうでもいいですけど。人の部屋で『はかいこうせん』なんて物騒なもの、
    放たないでくださいよ。

木元:いや……ほんと……勘弁してください……。

キリコ:……傷を、見せてください。

木元:え? あの、この状況でですか?

キリコ:いいから。

N:キリコの真剣な眼差しに、気圧されるように木元はパーカーを脱いだ。
  暑く巻かれた包帯を外すと、そこには綺麗な肌があった。

木元:……は?

キリコ:服、着てください。

木元:あれ〜? えっと……俺、斬られたんすよね。
   それも、信じられないくらい真っ二つに……。

キリコ:いいから。服を着てください。

木元:いや! おかしくないっすかね!? これ!
   手術の後の一つもないってーー

花宮:それが、あなたの能力ですから。

N:部屋の入口から声が聴こえた。

木元:え? あ、あなたは?

花宮:私は、花宮春日といいます。
   超能力者です。

木元:えあ、いや。なんつーかその、理解が追いつかないっていうかーー

N:超能力者、花宮春日は一切表情を崩さないまま、木元に歩み寄った。
  そしてキリコに視線を向ける。

花宮:いいですか? キリコさん。

キリコ:……ええ。許可を出します。

花宮:田島先生に、このお話は。

キリコ:いえ……私の独断です。
    ですがーーあの人は、よくも悪くも慣れっこなんですよ。
    超能力者達の闇医者なんて、お人好しじゃないとできっこないでしょう?

花宮:それも、そうですね。
   私も、お世話になる度に心配かけるようなことばかりですから。

キリコ:……ですが、今回のことは、私も悩んで決めたことですから。

花宮:ええ。わかってます。

木元:あの、蚊帳の外すぎて、そのーー

N:花宮は深淵のような真っ暗な瞳で木元を見つめた。

木元:へ。あ、あの、君は、いったい。

花宮:木元佳祐さん。黙って、ついてきていただけますね。

木元:……説明は、ないんすか。

花宮:現地で、させていただきます。

木元:現地ってどこっすか……!

 間

木元:それで、俺自身のこと、わかるんすよね。

花宮:ええ……少なくとも、今よりは。

 間

木元:わかりました。行きます。
   
花宮:では、私についてきてください。

N:木元は頭をかきむしりながら、花宮の背中を追って部屋を出た。


 ◆◇◆


棗:さて、次の扉に行くかぁ。

 間

棗:どうした、レム。

レム:……いえ。

棗:もしかして、記憶に当てられたか?

レム:いえ……そうかも知れない、ですね。

棗:しっかりしろよ……重要な局面なんだぜ?
  伝馬と、超能力者と、そしてお前ら『青の教団』との関係を知る上でな。

N:レムは目を見開いた、

レム:何故、その名前を……!

棗:ああ……あんた。向いてないよ。
  俺がただ黙って、自分の実家の事情を眺めていると思ってんのか?

レム:やはり貴女は、危険だ。

N:レムの瞳が漆黒を宿し、その超能力が発動する。
  夢の世界は黒へと色を変えて、黒い影が何本も棗へと飛来する。
  レムの能力の影は、棗の四肢を瞬く間に拘束すると、その身体を宙に縛り付けた。
  そして、ついには首に巻き付くと、棗の喉を締め上げていく。

棗:グッ……!

レム:私は確かにお人よしかもしれませんが……。
   重要参考人である貴女の尋問を任されているのには列記としたわけがあるんですよ。

棗:カッ、ハ……!

レム:文字通り締め上げるには、貴女は若すぎると思ってた。
   でも、そうでもないようですから……。一層このままーー

N:棗の瞳が光を失うと、周囲の影が一斉に霧散した。

レム:な、にを、しました?

N:レムは、暗闇の中に膝をつきながら、棗を睨みつけた。

棗:(息切れしながら)……ククク……やっぱり、そうか。
  俺の能力はーー単なるサイコメトリーじゃねえみたいだな。

レム:能力……これが、あなたの……?
   ”こんなもの”が能力だというんですか!?

棗:そう怯えるなよ……俺だってまだ、よくわかってないんだ。

 間

棗:記憶の中で俺は、賢一の身体に触れずに、賢一の記憶にアプローチしていた。
  そこで思い出したよ。何故忘れていたのかもわからないほどはっきりとな。
  俺の力場の有りかが、な。

レム:記憶と共に封じられていたとでも!?

棗:そういうことらしいな。
  だが、これは悪くない。失った身体を取り戻してる気分だ。

 間

レム:……私をどうする気ですか。

棗:どうも勘違いしてるようだけど……俺はお前の敵じゃない。

レム:いえ、私はーー

棗:敵ってのはなァ! そう簡単に使っていい言葉じゃねえ!
  それがわかんねえから、お前はヌルいっつってんだよ……!

レム:私はッ……。

棗:お前のことも今は手に取るようにわかるぜ。
  教団に盲信した両親。
  両親を連れ戻そうとした矢先、目覚めた超能力。
  そして、お前を嬉しそうに眺めるイルカの怪物。

レム:僕は!

棗:お前もあの頃の俺と一緒なんだろ。
  環境に縛り付けられて、その立場に甘んじるしかない。
  そんな世界の中で必死にあがいて、それでも抜け出せやしない。
  だから俺の記憶を手土産に、両親を救えるんじゃないかなんて甘い夢を観る。

レム:僕は……! ただ、父さんと、母さんを……!

N:棗は麗奈を姿をした、『中にいる少年』に優しく微笑んだ。

棗:……たかだか小学生の男子が背負うにしちゃあ重い責任だ。

レム:僕は、ここで死ぬわけには……。

 間

棗:次のドアを出せ。

レム:え……?

棗:どうしてもというなら、お前を脅してやる。
  どうやら俺は、力場だけでお前の能力を潰せるみたいだからな。

レム:どうして、ですか。

棗:俺は、もう檻を抜け出した人間だ。
  だが、力が足りねえ。このままじゃ、何も救えねえ。
  俺はもう、嫌なんだよ。
  誰かに利用されんのも、何かに巻き込まれんのも……!
  俺は、識(し)ってやる! 総てを識(し)って、それでーー
  世界征服してやるッ!
  力を貸せよ、レム。
  お前が力を貸せば、それでいい。お前の両親も、俺が支配してみせる。

 間

レム:あなた、は……。

N:レムは両手をあげた。
  すると、棗の前に白い扉が現れた。

レム:……脅されて仕方がなく、ですからね。

棗:(笑って)おう。頼むぜ。

レム:随分、嬉しそうですね。

棗:楽しめよ。レム。
  こんな力を持ってんだからさ。

レム:楽しむって……何を……。

棗:真実を知る喜び、だよ。

N:棗は喉の奥で笑いながら、光の扉に手をかけた。


 ◆


 【伝馬ヨミ・過去の記憶】

N:伝馬の現当主、クレナイは齢も百は優に越えようかという老人であった。
  分家を合わせて六十人余りの伝馬一族が並ぶ大広間の奥で、クレナイは目を瞑って座っていた。
  クレナイが目を開くと、一族の皆は身を固くした。
  伝馬一族の当主が代々引き継いできた、奇跡ともいえる魔眼がそこにはあった。
  その眼が漆黒に輝く時、総てを越えて総てを見透かす『天眼通(てんげんつう)』
  クレナイはそんな魔眼を開くことなく、老人らしい深い思慮でもって周囲を見渡した。
  そして、側近の一人であるセイを呼び寄せた。
  セイはクレナイの口元に耳を寄せると、その言葉を伝えていく。

セイ:皆の衆。この度は門の封印、ご苦労であった!
   この国にとって数百年に一度の災厄を抑えることができたのは、
   間違いなく皆の日頃の研鑽と、その身を捧げた魂の成果である!
   伝馬を誇るが良い!

N:一族は怒号にもにた熱い返礼と共に腕を突き上げた。
  セイは再びクレナイの言葉をしっかりと刻みこむ。

セイ:……私は随分と年をとった!
   故に、私は当主の座を譲ろうと考えている!

N:一族は疑問も一切なく腕を突き上げた。
  この統率力もまた、伝馬の教えの賜物であると言えた。
  セイは再びクレナイの口元に耳を寄せた。
  そしてーー目を見開いた。

セイ:……やはりか……。

N:静寂の中、セイが一人呟いた。

セイ:やはり貴女など、信用するべきではなかった……。

N:セイはふらふらと立ち上がると壁にその背をつけた。
  一族を動揺が包む中、セイはその顔を修羅に染め上げた。

セイ:さすれば!

N:セイは目にも留まらぬ速さで抜刀する。
  その刃はクレナイを一瞬にして斬り捨てた。

セイ:死ぬがいい……!

伝馬側近:セイッ! 血迷ったかぁ!?

セイ:誰が血迷うものかぁ!

N:襲いかかる側近達。
  それらをセイは一刀のもとに斬り捨てていく。
  一人、また一人と血溜まりに沈んでいく中、鍛え上げられた技がセイに迫る。

セイ:チィッ!

N:セイが傷を覚悟した瞬間、周囲に血の花が咲いた。
  シンは身の丈ほどはあるであろう大太刀を構えながら、恍惚とした表情で血を浴びていた。

シン:ふふふ。はははは!

セイ:シン……!

シン:落ち着きなさいよぉ。大婆様は引退を表明されたのですからぁ。
   もはや当主では無くただの一族の民でしょう?

N:再び静寂を取り戻した大広間の机の上で、シンは大太刀の血を拭った。

シン:それにぃ……お兄様が乱心するような人物ではないことはすでにご承知のはず……。
   側近筆頭でもあるお兄様のお話を聞くのは、あなた達の義務ではないかしらぁ?
   文句があるなら、かかっておいでなさいなぁ。

N:セイは端正な顔に平静を貼り付けると、一段高い座敷に登った。

セイ:我々は、欺かれていた。

 間

セイ:伝馬を導くものは、この女が持つ魔眼を引き継いでいくものだと。
   そして、その魔眼によって災厄を見通し、この地を守っていくのだと。
   だが! それは虚言だった! この女が持っていたのは、超能力と呼ばれる禁忌の力よ!
   私は外界で観てきた! 秩序無く、選ばれること無く、呪いのように蔓延する力!
   我が里において、鬼の力と称された力だ!
   同時に我々はこの里で学んできた、あの力を滅する『超気功』を。
   時代を切り開く一刀として、学んで来たのだ。
   この矛盾はなんだ! その矛盾とは……! この女が作り上げてきた虚像であった!

N:セイは刀を地面に突き立てた。

セイ:クレナイは言った! 次期当主は、この里の奥にある檻に居ると……。
   産まれながらにして、『天眼通』の異能を持った者であると。
   名前は、『伝馬ヨミ』という。私の不肖の父が遺した隠し子であるという。
   (間)
   もし、魔眼が神聖なものであり、我らを導く象徴ならば、
   クレナイはこうも無残にくたばるだろうか……?
   否! この女もまた虚像に過ぎなかった!
   私達は、この先も作られた象徴に導かれていくのか?
   否だッ! 伝馬とは! このような鬼の力を斬り伏せるもの!

N:ドン、ドン、と地面を踏み鳴らす音が大広間に響き始める。
  ある者はかかとで、ある者は刀の鞘で床を叩き、音はだんだんと大きくなっていく。

セイ:この時より! この伝馬セイが、伝馬一族の当主となる!
   異論はあるか!

N:異論は、なかった。

セイ:よろしい!
   クレナイの鬼子については私にまかせておけ。
   他のものはここの掃除を……夜には新しい方針を発表する。
   これより伝馬は新しい時代へと参るのだ。
   皆の衆、ついてくるが良い!

N:そして鬼殺しの一族は咆哮をあげた。


 ◆◇◆


N:夜風が、現実を伴って容赦なく木元の横顔を殴りつけた。

木元:なんすか、これ。

N:ビルを遠くに眺める巨大ショッピングモールの駐車場で、うごめく無数の影。
  怒号と悲鳴が、現実を寸分の狂いもなく削ぎ落としていく。

木元:なんなんすか! これぇ!

花宮:わかりませんか。

N:花宮は木元の背に手を当てると、少しだけ前に押しやった。
  それだけのこと。それだけのことで、木元は自分の身体が震えているのに気がついた。

花宮:これは、戦場です。

木元:戦場……なんの……!

花宮:何の……とは。

木元:だから! どうしてこのご時世にーー

花宮:戦いに、理由なんてもの、ありませんよ。
   戦うことに、理由なんてあってたまるものですか。

木元:君は……一体、なんなんだ。

N:花宮は微笑むと、目尻に浮かんだ涙を拭った。

花宮:私は、木元さんに仕事を教わりました。
   戦い方を、教わりました。

木元:俺が、君に……?

花宮:でも! 同時に教わったことは……!
   傷つけないことなんです!
   誰よりも傷ついてきた貴方だから、それを誰よりもわかっていたから……!
   だから私は、木元さんに学んだことを今ここでお返しします!
   もう! 貴方は泣かなくてもいい……! 傷つかなくてもいい!
   だって、あなたは生きていてくれた。助けてくれた。
   あなたはーー

N:2人の眼前に、男が転がってくる。
  男は、苦悶の表情を浮かべると、白目を向いて意識を失った。

木元:ヒッ。

花宮:……私はそろそろ仲間の元へ行かないと。
   木元さんーー引き返してください。
   貴方はもう、戦わなくていいんです。

N:花宮は呟きと共に、その内に秘めた超能力を発動した。
  その『空間位相能力』によって、力場内の光エネルギーが花宮に集結し、
  次の瞬間、彼女は戦場の中心に立っていた。

花宮:ごめん、あそばせ。

教団員:ク、クライベイビー……!

花宮:瞬く間に、終わりにしましょう。

教団員:二つ名持ちだァ!

花宮:ここから先はァ! 私がいただきます!


 ◆


 【伝馬ヨミ・過去の記憶】

ヨミ:どうして……?

N:ヨミは牢屋の中で震えていた。
  暗い世界の中、時折自分の透視能力で里を観てきた。
  まだ一度も会ったことがない、しかし顔や名前だけは知っている里の者達。
  そしてここに自分を幽閉したクレナイ。
  物心がついたころには両親がいなかったヨミにとって、彼らは唯一の家族だった。
  その家族が今、凶刃に惑っていた。

ヨミ:どうして……! どうしてこんなことに!
   私が、こんな力を持ってるから!?
   そんなの……!

N:牢にうなだれるように手を触れる。
  固い地面を、自然と涙が濡らしていく。
  そんな涙を、無骨な手が受け止めた。

速見:おい。なにやってやがる。

N:速見賢一は鼻を鳴らして笑った。

ヨミ:ケン、イチ。

速見:おうおう……そんな女の子みたいに泣いちまってまあ……。
   強がりはどうしたァ。

ヨミ:う、ん……でも……大婆様が……。

速見:クレナイの婆さんが斬られた……?
   そりゃ、本当か……。

ヨミ:視えた……。

速見:(舌打ち)あいつは……思った以上にぶっ壊れてたみたいだなァ……。

N:速見はヨミを安心させるように笑うと、その手を握った。

速見:うっし、じゃあ、行くか。

ヨミ:行くって……どこに?

速見:行ったろ? ここから出してやるって。

ヨミ:……え?

 間

ヨミ:私、出られるの……?

速見:(ため息)あンなぁ……。
   お前はいいこちゃんすぎるンだよ。
   お前くらいの年なら、学校サボってゲーセンでもいってくんねえと張り合いがねえわ。

ヨミ:ゲーセン? ……うわっ!

N:速見はヨミを担ぎ上げると、牢獄から駆けでた。
  少女一人を背負って山を駆け下りていくその速さは、ただの中年男性とは到底思えなかった。
  目まぐるしく変わる景色を見つめながら、ヨミはただ目を輝かせていた。
  十月の夕暮れは、伝馬の里の染まりかけた木の葉をさらに赤く染め上げていた。

ヨミ:これが……世界。

速見:あン!? なんだってぇ!?

ヨミ:世界って! 赤くて綺麗!

速見:(吹き出して)おう! ケチャップライスみたいだろ!

ヨミ:ケチャップライスって、なあに!?

速見:今度食わしてやるよ!

ヨミ:うん!

N:人道に差し掛かったところで、速見は足を止めた。

速見:かぁ〜ッ早いねえ……!

N:通りの先から高速で飛び出してきたのは、シンだった。

シン:ケンイチー!

速見:はいはい! お転婆なんだからテメエは!

N:速見は腰から日本刀を引き抜くと、シンに向けて抜き放った。
  シンは大太刀でそれをいなすと速見の首筋に刃を潜り込ませる。

シン:貰った!

速見:甘えよ。

シン:(空気を吐き出す)カ、ハ。

N:速見は肘をシンの腹に突きこんでいた。
  シンはよだれを撒き散らしながら大木に叩きつけられる。

速見:お前さァ……結局セイについたわけ?

シン:そう、だけどぉ?

速見:どうしてだよ。お前ら、反りが合わなそうだろ。

シン:えぇ? だってーー

N:シンは恍惚とした表情でフラフラと立ち上がった。

シン:……あの時お兄様につけば、人が斬れたんだものぉ。

速見:残念だねぇ……お前も一緒だ。

シン:何がぁ?

速見:俺が滅ぼすべき存在。悪鬼羅刹よ。

N:速見は合掌すると、目を閉じた。

シン:ケンイチも……私を殺すのぉ?

速見:時が来たら、俺が眠らせてやる。

シン:……優しいんだぁ……。

ヨミ:賢一! 右手!

N:次の瞬間、シンの右袖から小刀が放たれていた。
  速見は身を捩ってソレをなんとか躱す。

速見:あッぶねえ……! サンキュー。

シン:へえ……あなたが……。

 間

シン:貴女、お父様の隠し子なんですって?
   だったらもしかして、私のいもうと?

N:シンはヨミを見つめて、下弦の月のような笑みを浮かべた。

シン:おもしろぉい。

ヨミ:あ、え、っと……。

シン:私はねぇ、伝馬シンっていうの。
   はじめまして。

ヨミ:私はーー

シン:もってるんでしょお?
   クレナイ様の『天眼通』

N:シンは品定めをするように、ヨミの姿を下から眺めた。

シン:でも……戦えはしないみたい。

速見:こいつ、ずっと牢獄にいたからな。
   そンぐらい察しろっての。お姉ちゃんだろ?

シン:ふふふ……そう。じゃあ、育つまで待たないとね。

N:シンは妖しげに笑った。
  速見はヨミの頭を叩くと、小さく呟いた。

速見:いざとなったら、逃げろ。

セイ:その必要はありませんよ。

N:セイは穏やかな笑みを浮かべながら山道を歩いてくる。
  彼の着物には、血痕がいたるところに張り付いていた。

速見:よう。セイーーいや、伝馬の新当主様と言ったほうがいいかな。

セイ:なるほど。そこのモノの力ですか? 便利なものですね。

速見:テメエの妹だろうが……モノ扱いすんじゃねえ……!

セイ:降って湧いたような妹に自覚などわきませんよ。
   それに、鬼の力を持ったモノなら、特に。

N:セイは腰の刀を持ち上げると地面に突き刺した。

セイ:シン。お前は先に戻っていなさい。
   未だ、納得していない連中がいるようでね。
   彼らの『説得』をしておいてもらえるかな。

シン:……わかりましたわぁ。
   それでは、またねぇ。
   次会うときまでに、強くなっておいてね。イモウトちゃん……。

N:シンの背中を見送ると、セイはその場にそっと腰を降ろした。

セイ:さて。交渉といきましょう。

速見:……いいだろう。

N:速見もセイの正面にあぐらをかいて座った。
  ヨミは黙ったまま速見の背に隠れるように立っていた。

セイ:私達はこれから新たな伝統を作らなくてはなりません。
   故に……ソレが生きているのは非常に困ります。
   『旧伝馬』の再建の旗頭にでもされたらたまりませんからね。

速見:ごもっともな意見だな。
   クレナイ無き今、『天現通』なんてもンお前らには目の上のたんこぶでしかないもンな。

セイ:ですが速見様はソレを生かそうとしている。
   本来ならば斬り結ぶのが道理ーーですが、今ここで敵対するのは避けたいのが本音です。

速見:へえ……少しは考えるようになったみたいだな。

セイ:あなたに言われたことは、総て覚えていますよ。総て、ね。

 間

速見:で、どうしたい。

セイ:その娘の記憶と力の封印を。

速見:そりゃあーー案としちゃあ悪くないが。

N:速見は横目でヨミの顔を観た。
  ヨミは、自体を理解したようにゆっくりと頷いていた。

速見:ヨミ……?

ヨミ:あの……ひとつだけ、いいですか?

セイ:……僕に言っているのか?

ヨミ:ええ、そうです。

 間

セイ:……ひとつだけなら、聞いてあげよう。
   ひとつだけだ。

 間

ヨミ:あなたは……私のお兄様、なのですか。

 間

セイ:僕はずっと前から、君のことを知っていた。
   クレナイの元にある血統書でね。
   ……それが真実を書いていたと信じるのなら。
   僕たちは血縁関係にあるということになる。

 間

ヨミ:そうですか。

セイ:ただ。さっきも言ったけれど、僕は君を殺すことを厭わない。
   その程度にしか思っていないし、これからもそれは変わらない。

 間

ヨミ:それでも……家族が居るというなら、まだ救われます。

セイ:……さて、速見様。返答は、どうなさいますか。
   私としては、ここは穏便に済ませたいところなのですが。

N:速見はため息をついて立ち上がると、ヨミに向き直った。

速見:いいんだな、ヨミ。

ヨミ:ええ。かまいません。それで、争いが起こらないというのなら。

速見:……今からお前の中に俺の式神を入れる。

N:速見は胸から札を取り出した。

速見:しばらくは混濁するだろうが、お前の精神と融合すると、上手いこと作用するはずだ。

ヨミ:……はい。

速見:来い。我が下僕、『棗』よ。

N:白い札が宙に舞った。

速見:……痛くねえから、力抜いてな。
   入れッ! 棗!

ヨミ:あ、ああああ!

N:速見は式神、『棗』をヨミの身体に宿すと、ヨミは数度痙攣した後、意識を失った。
  速見はヨミの身体を受け止めると、そっと担ぎ上げた。

速見:……契約は成立だ。こいつは、棗として俺が預かる。

セイ:いいでしょう。

速見:次会うときは……いや、二度と会わないことを祈るぜ。
   血塗れの当主よ。

N:セイは立ち上がると、今にも泣きそうな顔で速見を見つめた。

セイ:……そんなこと、おっしゃらないでくださいよ。
   僕だって、あなたに嫌われたくなかった。

速見:だったらーー

セイ:でも! 仕方がないじゃないですか!
   あなたは、あの汚れた鬼共にご執心で、僕のことなんて観てもくれない!

速見:お前ーー

セイ:僕が、目を覚まさせてあげます。あんなもの!
   僕たちが戦っていたものと何ら変わらないってことを教えてあげますから!

速見:お前! そんなことのためにッ!

セイ:そんなことじゃあない!

 間

セイ:愛して、いるんです。

速見:セイ……。

セイ:愛しているんです! 速見様を!

速見:セイ。

セイ:速見ーーいえ! 賢一! 私は、貴方を愛しています!
   心から! ですから……ですから、もう一度……いえ!
   何度でも私に会いにいらしてください!
   そして願わくば、私にご慈悲をーー

速見:セイ!

 間

速見:……悪い。お前の気持ちには答えられない。

セイ:……そう、ですか。

N:速見は、セイに背を向けるとゆっくりと歩き出した。

セイ:でしたら、私は……斬ります。

速見:さようならだ。

セイ:私は! 斬ります! 貴方の総てを!
   それが、私の愛、ですから!

速見:さようならだ! 伝馬セイ!

N:2人を分かつ道は、眼に見えて遠ざかっていく。
  セイは、速見の背が見えなくなると、その場に崩れ落ちた。

セイ:(泣きじゃくりながら)あ、あああ、ああああ! ケンイチッ!
   ケンイチィ! あああああああ!


<前編>
<後編>


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