パラノーマンズ・ブギーD
『ケチャップ色の世界 後編』
作者:ススキドミノ
棗(なつめ)/伝馬 ヨミ(てんま よみ):(過去は13歳)16歳。女性。本名、伝馬ヨミ。レム能力世界に捕らわれている。
レム:16歳。女性の見た目をしているけど、本当は小学生男子。
木元 佳祐(きもと けいすけ):外見年齢27歳。見た目はヘタレ、しかしその正体はーーゾンビーマン!
キリコ:30歳。クールビューティなナースさん。黒タイツが好き。
花宮 春日(はなみや はるひ):26歳。女性。速見興信所所属の超能力者。泣き虫。
速見 賢一(はやみ けんいち):(過去は39歳)42歳。速見興信所所長にして、陰陽師。足臭い。
大藤 一(だいとう はじめ):30歳。速見興信所職員にして、青の使徒。その仮面はいくつあるのか。
伝馬 シン(てんま しん):(過去は16歳)19歳。女性。時代錯誤の和装美女。えっちなのはいけないと思います。
伝馬 セイ(てんま せい):(過去は24歳)27歳。男性。嗚呼、彼の愛はどこへ行く。
※必読※パラノーマンズ・ブギーDにおける世界線についての説明
【木元佳佑のいる赤い月の世界】
パラノーマンズ・ブギーC「あるいは」の後の正当な時間軸
【棗とレムのいる能力世界】
パラノーマンズ・ブギーA「幸運少女」の後から、C「あるいは」までの時間軸
【速見と伝馬一族の世界】
パラノーマンズ・ブギー@よりも遡ること3年前の時間軸
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
【あらすじ】
青の教団員レムの能力世界に捕らわれた棗は、自らの記憶を見せることでレムに交渉する。
2人は棗の中に封印されていた伝馬一族の記憶を辿ることになる。
記憶の中では、伝馬セイのクーデターによって、崩壊する伝馬一族の光景があった。
そして伝馬ヨミは、自らがなぜ棗となったのかを知り、覚醒するのだった。
記憶を失った男、木元佳佑は、自らの中にある超能力者としての本能と、目の前の光景に立ち向かっていた。
超能力者とは、戦争とは、いったいなんなのだろうかーー
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
◆
N:記憶の扉が閉まると、棗とレムは白い空間に立っていた。
レム:……棗って、ひょっとして。
棗:ああ、そうだ。俺のことだよ。
レム:……え? あ、あなたは!
N:そして2人の側に立っている人物がいた。
棗と全く同じ容姿をした少女、伝馬ヨミだった。
ヨミ:『私』を守ってくれていたのは、貴方だった。
棗:ハンッ。別に守ってたつもりはねえぜ。
ヨミ:もちろん。私は、貴方だもん。でしょう?
棗:……ったく。賢一のやつ、こんな面倒なお守りさせやがって……。
レム:えっと……自分の能力の世界だっていうのに混乱しちゃってるんだけど。
君の中には、2人いたってことでいいのかな。
ヨミ:正確にはそうじゃないんだけどね。
棗が私を押さえて、上手くコントロールしてくれてたの。
レム:……それで、これは一体どういうことになるわけ?
N:棗とヨミはよく似た笑みを浮かべると、お互いの手をとった。
ヨミ:今度は、私が戦わなくちゃ。でしょう?
棗:ああ……エスコート、頼むぜ。
N:そうして2人はひとつに重なり合った。
棗ーー伝馬ヨミは、ゆっくりと瞳を開くと、不敵な笑みを浮かべた。
ヨミ:さぁて……ここからはヨミ様の出番ってことだな。
◆◇◆
木元:あれが……超、能力……!
N:木元は、花宮が戦場を駆けていくのを呆然と見つめていた。
彼女を捕らえようと、ありとあらゆる超能力による運動エネルギーが、戦場を駆け巡る。
花宮は閃光の中を軽やかに移動していく。その光景はまるで、心清き乙女に集まる妖精であるかのようだった。
木元:な、んで、俺……。
N:木元は地面へと座り込んだ。
木元:なんで、俺、なんで! なんでッ!
知ってるはずだろう! 知ってたはずなのに!
どうして……! 俺は、こんなところにいるんだ!
俺は、誰なんすか……! 俺はッ!
ヨミ:『知りたいか?
N:木元の頭の中に、声が響いた。
木元:な、んだ、これ。
ヨミ:『知りたいか? 自分のことを。
木元:誰っすか!?
ヨミ:『今は1人の戦力でも欲しい状況でね。
だから、ハルヒさんに無理を言って、ここまで連れてきてもらったんだけど。
木元:……意味が、わかんねえんす。
間
木元:意味がわかんねえんすよ! 俺が目覚めたときにはもう!
何もかもが終わってるっつーか……!
記憶だけじゃない! 胸ン中も空っぽで!
ただ……! うずくんすよ! このままでいいのかって!
このままキリコさんの側で、ゆっくりしていたらーー
俺は、壊れちまうんじゃないかって……!
ヨミ:『時間がないんだ。
木元:わかってるっての! さんざんぱら言われ尽くしてっから!
好き放題いいやがって……! 外野はいいよなぁ!?
本人はたまったもんじゃないっての!
ヨミ:『どうする。
木元:理不尽すぎんだろッ! 俺が何をしたってんだよ!
ヨミ:『決めろ。
木元:うっぜええええ! いいから早く!
俺を寄越せえええ!
N:木元の怒号に、花宮は弾かれたように振り返った。
花宮:ッ木元さん! 駄目です!
ヨミ:『欲するなら……開け、扉を。
N:木元は自らの漆黒の瞳の先の、白い扉に手をかけた。
◆
N:時は数か月前に遡る。
速見興信所職員ーー木元佳祐はその日、事務所の庶務室にて書類の束に突っ伏して寝ていた。
木元:……あれ?
大藤:(微笑んで)おはよう。
木元:ハジメっちじゃないっすか……なんで事務所にいんの。
出張とか言ってなかったっけ。
大藤:一日早まったんだよ。
それより書類……よだれまみれにしてないだろうなぁ。
木元:え? なぁ!? やっべえ……!
大藤:俺、知らないからな。
木元:あぁ〜……っと……うん! 大丈夫っすよ、これくらいなら。
大藤:珍しいな。佳祐が昼寝とは。
木元:あー、いや……。
大藤:知ってるよ。連日、諜報任務だったんだろ。
能力関係なしに、疲れるよな。
木元:別に、そんなきつかったわけじゃねえんすけど……。
どうにも、個人的に考えることがあったっていうか。
大藤:考えること?
木元:まあ……単純な話っすよ。
(ため息)青の教団絡みは栄ちん……というか、ハヤミジュニアに任せるとして。
所長からちょっとした言伝があったもんで、そっちをね。
大藤:へえ……お前が自主的に調べるとは、俺も興味あるな。
木元:所長が直で関わってる案件だけあって資料は豊富っすよ。
ただ、引っかかるんすよね。
多分っすけど、こいつらはこれから関わってくるだろうなっていう。
大藤:第三勢力、か?
木元:……伝馬ーー
N:大藤は目を見開いて、木元の顔を覗き込んだ。
大藤:もう一度、言ってみろ。
木元:……何興奮してんすか。
妙な動きをしてる伝馬一族のことっすよ。
大藤:……なるほどね。君の口からその名前をきくとは。
木元:むしろ、その反応のほうが驚きっすけどね……ハジメっち。
大藤:ああ、ごめん。あまりにも唐突だったものだからさ。
間
木元:間違いなく今回の件はデカイ争いになるっすよ。
それこそ、戦争のようなね。
大藤:伝馬がこの戦いに噛んでくると?
木元:まず間違いなく、来るだろうね。
俺の記憶が正しければ、昔一度聴いたことがあるんすよ。
門と、赤い月のことを。
大藤:悪鬼の門が開く時、その頭上には赤い月が瞬く。
木元:よく知ってるっすね。
それが伝馬に伝わるーーは?
N:次の瞬間、木元の胸から真一文字に血が吹き出した。
木元:カ、ハッ……!
N:大藤は血に濡れた太刀を振るうと、冷たい瞳で木元を見下ろした。
大藤:気が変わったよ。今日にする。
木元:ハジメ、なに、を。
大藤:お前らを今日、殺そう。
N:立ち込めた殺気に、職員達が庶務室に駆け込んでくる。
木元:お前らアアアア! 来るなアアアア!
大藤:やあ、君達。
N:殺戮が始まった。
大藤は職員達に迫ると、悲鳴を上げる間もなく右手の死神の鎌を振るっていく。
木元:やめろ……。
N:アルバイト店員の女子の悲鳴が響く。
木元:やめろ……!
N:超能力を使う間もなく、仲間達は倒れ伏していく。
木元:やめてくれェ!
N:そして、静寂に満ちた室内に、大藤は太刀についた血液を拭き取りながら入ってきた。
大藤:……君はまだ、生きているよね。
『超回復』の木元佳祐。
木元:や、め、ろ……。
大藤:驚いたな……力場ごと斬ったつもりが、もうふさがりはじめてるのか。
木元:お前、なんで、こんなことッ……!
クソがッ! クソッ! この人でなし!
鬼が! 鬼畜がよぉ!
大藤:うるさい。
木元:あ、ぁーー
N:大藤は、木元の胸の中心に太刀を差し込んだ。
大藤:気持ち悪い……。気持ち悪いんだよ、お前。
なんで斬った傷が治ってるんだ? ありえないでしょ。
ねえ。どういうことかな。どうなってるんですか。
自覚アンのか? どうなんですかねえちょっと。
『イカれた玩具(パラノーマンズ)』さんったら。
木元:お前、は。
N:大藤は木元の胸に突き刺した刀を、乱暴に動かした。
大藤:わかるかい……今日だってそうだ。
君がいなければ、今日彼らは死ぬことがなかった。
そうですよ。そんなんです。
君達が僕ら人間に対して行ってきた理不尽はッ!
こんなもんじゃねえぞォ!!
わかってんのかァ! おい!
間
木元:……寂しい、やつだな。お前。
大藤:ふふふ、はははははは!
……誰だって、虚しい。
こんな世界は、虚ろだ。
だからといって、生きることをやめてはいけない。
生きるためには……戦うしかないんだよ。
N:大藤は刃を引き抜くと、もう一度振り上げた。
◆
木元N:それからどうした。
N:木元はゆっくりと目を明ける。
そこには、泣きはらしながら能力を使っている女性が見えた。
花宮:『やだァ! ヤダヤダヤダァ! みんなぁ!
死んじゃやだよぉ!
木元N:また、泣いてるんすか。
N:木元はココロの中で小さく微笑んだ。
思えば、木元が7年近くこの事務所にい続けたのも、目の前の女性が居るからだった。
自分よりよほど強い癖に異様に泣き虫で、アンバランスな強さをもったこの女性を、
ただただ側で観ていたかったのだ。
花宮:『キング、さん? キングさん! 無事ですか!?
今どこにーー嫌です! 私だけ逃げるなんてーー
木元N:いいから、逃げてくださいよ。
っていうか、そうしてくれなきゃ俺が浮かばれねえっすから。
N:途切れる意識の彼方で、女性の姿はもう見えなくなっていた。
木元は深遠の中で、走馬灯のように自分を思い返していた。
木元N:そういえば、俺……小さい頃はヒーローになりたかったんだ。
少年漫画のヒーローみたいに。
もちろん、そんなものが作り物だってわかったのはそのすぐあとで。
俺自身、変に正義感が強いとかそういうこともなく、どこにでも有り触れた
普通の考え方をしてるってことにも、すぐに気づいて。
そういえば、超能力があるってわかったのは……
あーっと、バイクの事故の時でしたっけ。
山の中で目覚めた時、驚くのと同時に、ガッカリしたんすよね。
手から炎がでるとか、ビームがでるとか、そういう能力じゃないんかって。
失礼な話っすよね。あれがなかったら、死んでたってのに。
N:そして、流れる意識の中、自分の中に灯る炎を見つけた。
木元N:そんなに大したもんじゃないんすよ、俺なんて。
大体それくらいで語り終えちゃうくらいのつまんない男なんすよ。
……でも、そうだな。だからこそ、ダサくていい理由には、なんないんすよね。
(間)
ダサくていい理由にはッ! なんねえんすよ!
カッコつけなきゃ! カッコつけてカッコつけて、それで!
あいつカッコつけてんなァって気づかれたりして!
N:木元の身体が力場の中を蠢いていた。
池のような血溜まりが収束し、球体となって木元の身体に注がれていく。
木元N:俺はッ! どれだけ打ちのめされても、何度でも起ち上がってッ!
何度でもカッコいい決めポーズをする!
ただ! 一瞬でも誰かのヒーローになるッ!
N:そして木元は、ゆっくりと顔をあげた。
木元:そう……決めたんすよ……!
N:覚醒した木元は、傷ついた身体を引きずって、事務所の中をゆっくりと歩いて行く。
震える手で所内の電話に手をのばすと、とある番号をコールする。
キリコ:『もしもし。
木元:田島、せんせ、助けてくれェ。
キリコ:『速見興信所ですね。今すぐにーー
N:木元は電話を放りなげると、息も荒く、血溜まりの事務所の戸棚に歩み寄った。
ガラスを素手で割ると、注射針を一つ、なんの躊躇もなく掴みとる。
木元:テロリスト製、超能力者用興奮剤、かっこ副作用で絶対死ぬかっことじ……。
(笑う)あー、らしくねえっすけど、やるっきゃないっすよねぇ……。
誰か1人でも、助かってくださいよォ……そんで、泣き止んでよ、ハルヒちゃん……。
間
木元:南無三ッ。
N:木元は注射器を首筋に突き刺した。
◆◇◆
木元:そうだ。俺は……。
N:木元はゆっくりと顔をあげた。
すっきりとした表情とは裏腹に、その瞳は漆黒に染まっていた。
木元:俺は、速見興信所職員。木元、佳祐。
N:木元はふらふらと戦場へ歩みを進めた。
何者かが投擲したナイフが木元へ飛来する。
木元はそれを避けもせずに腕で受け止めた。
腕に深々と突き刺さったナイフを引き抜くと、そこに在るはずの傷は存在しなかった。
木元:一度死んで、生き返ったモノ。
N:『化け物』そう呟く声をよそに、木元は目の前の男を殴り飛ばした。
木元:どうせなら、こう呼んでくれよ。
『死体の英雄(ゾンビーマン)』って。
花宮:木元さんッ!
N:木元の視界の先で、花宮は瞳に涙を澑めて立っていた。
花宮:どうしてッ……! 思い出さなければ!
もう戦わなくてすんだのにッ!
木元:泣くんじゃねえええ! 後輩ィ! 状況報告!
N:木元の怒号に花宮は背筋を正した。
木元は周囲の人間を殴り飛ばしながら、ゆっくりと花宮へ向かって歩いて行く。
花宮:はい! 状況報告致します!
木元:事務所のやつらはどうしたァ!
花宮:皆さん……息を、吹き返しました!
現在治療中です!
木元:俺が死んだかいはあったってこったな!
花宮:はい! 田嶋医師の説明によると、木元さんの能力が暴走し、周囲の人間のも影響を及ぼしたそうです!
木元:他の連中はどうしたァ!
花宮:はい! ムハンマド・ラーマーヤナが、死亡しました!
殺害したのは、大藤一です!
木元:そうか! 他に味方側の変化は!
花宮:協力関係にあった速見探偵事務所所長、速水朔が死亡!
探偵事務所は解体! メンバーは散り散りで行方不明です!
現状では警察庁公安特務及び、特務機関を名乗る軍隊と作戦を展開中です!
木元:敵対関係はァ!
花宮:現在交戦中なのは、青の教団関東支部と、教団子飼いの戦闘組織「いろは」との混成部隊です!
木元:そうかァ!
N:木元は花宮の眼前に立つと、花宮の頭を乱暴に撫で付けた。
木元:大体わかったよ。ありがとう。
花宮:木元、さん。
木元:俺が死んでる間に、色々あったみたいだな。
よく、頑張った。
でももう、1人で戦わなくても良いっすよ。
俺が、いるんすから。
花宮:(泣いている)……はい。
木元:(微笑んで)さあて。
N:木元は大きく息を吸い込んだ。
そしてーー
木元:待て待て待てぇッ!
N:戦場の中心で、叫んだ。
木元:俺が相手だっつぅんすよ!
N:自称ゾンビーマンは、再び戦場に舞い戻った。
◆◇◆
N:美しい着物を着た女性に見えた。
セイ:ケチャップ色の世界、だったかしら。
N:人影は赤い月に照らされたビルの屋上で、煙管(キセル)の紫煙を夜に吹きかけた。
セイ:ふふ……嫌いよ。そんなもの。
味もそうだけれど、とっても下品なんだもの。
不均一で、不誠実でーー
N:男が隣に音も立てずに現れる。
セイ:あら……?
大藤:こんなところにいたら風邪をひくよ。セイ。
セイ:ハジメったら……心配性なんだから。
N:大藤は、愛おしそうに着物の人物ーー伝馬セイの頬を撫でた。
大藤:君はあまり里の外に出ないだろ。
都会の空気が合うとは思えなくてね。
セイ:大丈夫よ。今のところ、とっても過ごしやすいわ。
……あの赤い月さえなければ。
大藤:赤い怪異、か。
N:2人は自然に手を絡めると、肩を並べて月を眺めていた。
セイ:役者は揃ったのかしら。
大藤:うん。あの悪魔も、速見も、そしてその息子たちも……。
総ての駒が盤面に揃うところさ。
セイ:そう。
N:セイは大藤に口付けた。
セイ:……大変な役回りばかりさせて、ごめんなさいね。
大藤:……君と僕の未来は同じだっていっただろう?
もちろん、君の理由には何時まで経っても嫉妬してしまうけど。
セイ:それはーーまあ、いいじゃないの。
N:セイは腰の刀を外すと、街に向けて振り下ろした。
セイ:総てが白日の元で、白刃に晒され、そしてーー
美しい赤色に染まるのね……。
大藤:ああ、そうだ。
世界は少し混ざり合いすぎた。
N:大藤は腰の刀を外し、セイの刀に重ねるように添えた。
大藤:さあ……悪魔と、人間と、超能力者(パラノーマンズ)……。
生き残るのは誰かな?
間
大藤:はじめよう。戦争をーー
◆◇◆
N:戦場から離れたマンションの一室で棗ーー伝馬ヨミはテレビを眺めていた。
その横でキリコは不機嫌そうに紅茶をカップに注いでいた。
キリコ:……それで。
ヨミ:んー? 何だよ。
キリコ:大丈夫なんですか?
ヨミ:何が?
キリコ:何って……戦場です。
戦っているんでしょ? 今も。
ヨミ:ああー。そんなにあのヘタレお兄さんが気になる?
間
キリコ:……そういうんじゃなくて。
いや、そういうのですけど。患者ですし。
ヨミ:(笑って)からかった、ごめん。
戦場なら大丈夫。木元と春日さんで押さえ込んでるうちに公安が制圧したよ。
もうすぐふたりとも戻ってくる。
キリコ:……そうですか。
間
キリコ:その、貴女の能力って、相手の考えも読めたりするんですか?
ヨミ:ん?
間
ヨミ:んー、どう思う?
キリコ:いえ……もしそうなら、色々と大変そうですから。
ヨミ:この力については、何をどこまで視れるのか誰にも言うつもりはないよ。
バレたら必殺技としては使えなくなっちまうしね。
キリコ:……そうですか。
まあ、彼らが無事なら良かったです。
ヨミ:あんたにしろ、田島センセにしろ、本当にお人好しだよね。
キリコ:別に、そういうわけじゃありませんよ。
N:キリコは紅茶をヨミの前のテーブルに置いた。
キリコ:一度関わったものの、責任というか、意地というか、そんなものです。
ヨミ:……そっか。そりゃあお人好しっていったのは謝らなきゃな。
本当に、立派な心がけだよ。お世辞抜きにさ。
間
ヨミ:俺達もさ、持たなきゃいけないんだよな
キリコ:力を使う責任、ですか。
ヨミ:そう。
キリコ:十分に払っているとは思いますけどね。
ヨミ:そりゃあ払うもんは払ってきたさ。
能力者なら誰もが、ね。
でも、能力者になる前にいくら払ったって、
生きている限り責任ってのは増してくるのさ。
キリコ:……人も、超能力者も同じですね。
ヨミ:そうそう。おんなじこと。
間
ヨミ:大事な友達救うのに、力を手に入れようとしたらーー
また1人大事な友達を失うのさ。それの繰り返しだよ。
キリコ:それは……経験談ですか?
ヨミ:それも、内緒だ。
◆
レム:え?
N:棗の中のヨミが目覚めた直後のことだった。
レム:あれ。なん、で。
N:レムの身体からみるみる血液が溢れ出していった。
そして、そこには見るからに小学生くらいの少年が泣きそうな顔で立っていた。
ヨミ:は? お、おい! どうした! レム!
レム:あ、れ? 僕、もしかして、身体がーー
ヨミ:現実か!? クソッ!
N:ヨミは能力を使った。
天眼通がレムの能力の先を見通す。
するとそこには、刀を持った女が立っていた。
ヨミ:伝馬、シン……姉様……!
シン:あらぁ? この声……もしかしてぇ、ヨミちゃんの声ぇ?
この能力者の力で眠っているんじゃないのぉ?
ヨミ:やめろ! こいつは!
シン:その様子だと、力が戻ったみたい……。
お兄様が喜ぶわぁ。
ヨミ:何が目的なんだよ!
シン:つまらない質問……見通して御覧なさいよぉ。
N:シンは頬を膨らませた。
シン:仕方がないから……一つだけ教えてあげる。
伝馬一族は戦争に参加するわぁ。
ヨミ:戦争、だと。
シン:お仲間が来たみたいねぇ……。
あの女の人も、美味しそうな力場を持ってるけど、
お兄様に怒られてしまうからそろそろ帰らないと。
ヨミ:おい、待て!
N:シンは踵を返すと、刀を引き抜いて去っていった。
レム:……あ、なつ、めさん……。
ヨミ:レム!
N:周囲の景色が歪み、様々に形を変えていく。
公園、住宅、ショッピングモールーー語るまでもなく、それらはレムの走馬灯。
思い出の景色をみながら、レムはその場に倒れ込んだ。
レム:さ、むい……さむい、よ……。
ヨミ:そうか……大丈夫。俺はここにいるぞ。
レム:これ、そうだ、僕……お父さん……おか、あさん……。
ヨミ:まかせろ。俺が絶対にお前の両親を教団から連れ出してやる。
レム:やく、そく……。
ヨミ:ああ、約束だ。
レム:ねえ……僕は……たのし、くてーー
ヨミ:ああ。
レム:とも、だち、に、なってーー
ヨミ:ああ。友達だ。
N:ヨミはレムの身体を抱きしめながら能力を使った。
天眼通がレムの精神を包み込むと、とある部屋のリビングを映し出す。
そこではーー大人の男女が笑っていた。
レム:おとう、さん、おかあ、さん、かえって、きたの。
ヨミ:ああ。そうだ。約束しただろ? つれて帰ってきたぞ。
レム:そう、なんだ。ありが、とう。
ヨミ:礼はいい。友達だろ?
レム:うん、僕ね、僕、ね、僕……。
N:そして、レムの世界は『消えた』。
◆◇◆
N:部屋の一室にて、伝馬ヨミは相変わらずテレビを眺めていた。
木元:何がそんな面白いんすか?
キリコ:動かないでください。検査中です。
木元:いや……俺の能力戻ったんすから。傷なんかあるはずーー
キリコ:おすわり。
木元:は、はい……。
N:花宮は棗の隣に座ると、シャワーで濡れた髪を丁寧に拭いていた。
花宮:……えっと、ヨミちゃん、でいいんだよね。
ヨミ:え? ああ。まあ、棗でも、好きに呼んでよ。
花宮:うん。ごめんね……目覚めたばっかりで、戦場に引っ張り出すことになっちゃって。
ヨミ:そんなの、気にするなよ。俺なんて、それこそ直接助けてもらってるんだ。
花宮:それは、うん、まあ……でも、作戦を立てたのも全部、朔ちゃんだったし。
間
ヨミ:……心配すんな。
花宮:え?
ヨミ:あいつは確かに平気で勝ち逃げするようなクソ野郎だけどな。
相手が悔しがる顔を見逃すほど間抜けじゃねえよ。
花宮:それって……朔ちゃんが、生きてるってこと?
N:ヨミは軽く笑うと、見上げるように背後に声をかけた。
ヨミ:おいゾンビマン!
木元:え? それ俺のことっすか?
ヨミ:あんた、一回シンだよなぁ?
木元:は?
ヨミ:事務所の連中もまとめて。そうだろ?
木元:いや……結構トラウマなんだけど、イジるの早くない?
君とはちょっとしか面識ないんだけどーー
ヨミ:な? 世界ってのは、言葉で出来てるようで、実はそうでもないんだよ。
花宮:言葉、じゃない。
ヨミ:そういうこと。真実は春日さん。あんたの目の前を必ず通り過ぎるのさ。
例えばーーはじまるか。
N:ヨミがテレビの音量を上げると、画面にノイズが入った。
そして数秒後、テレビ画面にある男が映った。
男は、映るなりすぐに襟首のネクタイを緩めると、頭を掻きながら口を開いた。
速見:『えー。我が国にお住まいの皆様におかれましては、突然の放送に動揺されていることと思います。
大変ご迷惑をおかけいたしますが、おつきあいいただければと思います。
私は、政府を代表いたしまして今回の緊急会見をさせていただきます、
防衛省預かりの……ええー、なんつったらいいかな……あー……
相談役、でいいか。相談役の、速見賢一と申します。
花宮:所長……?
木元:いないと思ったらこんなとこに……。
速見:『えー、皆様も御存知の通り、数週間前より我が国のみならず、
世界中で赤い月が観測されていると思います。
そんな赤い月の噂と共に、様々な憶測が飛び交っていることと存じます。
そういった憶測に対する答えーーというわけではないンですが、そのー……。
あー、この台本周りくどいわ。
えー。この世界には『超能力者』と呼ばれる超能力を持った者たちが存在します。
ついでに言えば、鬼もいれば、妖怪も、ともすれば悪魔みたいなもんもいます。
そんなこんなで、我が国はこれより、そんな総ての種を引っくるめてのーー
戦争状態に突入します。
N:その男は、世界をオムライスに例えてみせたのだ。
パラノーマンズ・ブギーD
『ケチャップ色の世界』 了
<前編>
<中編>
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台本一覧