パラノーマンズ・ブギー@
『有り得ない 後編』
作者:domino


速水 朔(はやみ さく):24歳。男性。天才とか呼ばれてますよ、でも性格は壊滅的。。

田中 新一郎(たなか しんいちろう):25歳。男性。国内屈指の実力者ですよ、でもパシられ体質

棗(なつめ):16歳。女性。速見興信所、所員。男言葉で喋る実は素直なプリティガール。

荒人(あらひと):21歳。男性。速見興信所、所員。背の高く腕っ節の強い、目指すは兄貴分。

栄 友美(さかえ ゆみ):23歳。女性。商社勤務。完全に関わっちゃった系オフィスレディ。

大藤 一(だいとう はじめ):29歳。男性。速見興信所、所員。微笑み系腹黒お兄さん。

異能狩り(ハンター):年齢・性別不問。公安特務所属。ナレーションと被り。






【あらすじ】
ある夜の出来事だった。
栄は、人智を超えた『超能力』に覚醒した村田により、その身を拉致された。
そんな彼女を救ったのは、超能力者が所属する一般企業『速見興信所』
栄は、速見探偵事務所の新人、棗と荒人に連れられ、車にて事務所へ向かう。
しかしその道中、正体不明の超能力者たちが、3人の乗った車を強襲した。
追い詰められた3人を救うべく現れたのは、所長の速水率いる『速水探偵事務所』所属の超能力者、田中だった。


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 ◆◇◆


速水:『……状況は。

田中:間に合ったみたいだな。少女が1人に、成人女性が一人……それにあれは、背の高いーー

速水:『超人(スーパー)の荒人か。

田中:そうだ。

速水:『他に、女が2人いるだろう。

田中:あ? ああ、いるけど……なんで知ってんだ?

速水:『子供の方が例の新人能力者。もう一人の女は、一般人だ。

田中:……ん? は!? 一般人!? なんで一般人が!

速水:『せいぜい僕が着くまで護衛をしておけ。じゃあな(通話が切れる)

田中:おい! ったく…切りやがった!

棗:……お、おい……あんた……。

N:通りを歩いてくる田中の姿に、棗は警戒を強めた。
  反面、荒人は田中の姿を見て目を丸くした。

荒人:え!? 新一郎さん!?

田中:荒人クン、久しぶりだな。

荒人:新一郎さんがなんでここに?

田中:ああ、それはなーーちょっと待て。

N:田中が腕を一振りすると、今にも飛来せんと周囲を浮遊していた数本の鉄骨が、すべて地面に墜落した。
  轟音と、激しい砂埃が辺りに響き渡る。

栄:え? な、何が……。

田中:いやぁ、なんつーか俺の能力もスマートじゃないな。

栄:……の、能力……これも……。

棗:おい、先輩。こいつ誰だ。

荒人:あ? ああ、新一郎さんは……なんつったらいいか、うちの所長の知り合いだ。

棗:堅一の?

栄:と、とりあえず悪い人ではないんですね?

田中:悪い人、ね。これでもお兄さんはお前たちを守る為に来たんだけど。

荒人:つまり、援軍ってことですか?

田中:まあ似たようなもんだーーったく!

N:田中が腕を振ると、再び飛来した鉄骨が地面に落ちた。

田中:おちおち話もできやしないな。

栄:それじゃあビルの中にーー

棗:ダメだ。……やつらは手を触れずにモノを動かす力を持ってる。
  ただし、狙ってなのかなんなのか、動かしているモノの性質が限定されているんよな……。

荒人:なんだよ、その性質って。

栄:今まで飛んで来ているもの……あ! もしかして、金属?

荒人:金属……確かにそう言われると。

棗:条件が限定されている超能力っていうのは、その分だけ強力であることも少なくない。
  つまり、材料に鉄筋を使っているビルも倒壊させられるかもしれない。
  まぁ……仮説だけどな。

栄:棗さん、すごい!

田中:へえ、小さいのに頭良いんだな。うちの所長を見てるみたいだ。

棗:小さいだあ? この優男が。

田中:……口が悪い所まで似てるってか。

荒人:あのサイコキネシストの持ち球は分かったかもしれねえが……どうすんだよ。
   今は新一郎さんが何とかしてくれてるが……。

棗:とにかく、攻めないことには始まらないな。
  ……どうする?

栄:(含み笑い)

棗:ん? なんだよ。

栄:もう、「放っといて逃げろ!」とか言わないんだなぁと思って。

棗:はあ!? うっせえバーカ!

田中:仲がいいのはいいが、お前たちはどうしたい?

棗:……あんた、強い能力者なんだろう? だったら何とかーー

田中:俺は護衛。お前たちを守るのが仕事。

N:田中は悪戯っぽい笑みで3人を見た。

田中:だから、お前たちの問題を自主的に解決してやる気はない。

棗:な……!

田中:もしどうしても俺に倒して欲しいって言うんであれば、今直ぐに始末してきてやるけど、
   本当にそれでいいのか?

棗:(深呼吸)
  どいつもこいつも俺を舐めやがって!
  ……オイ優男! 任せていいんだな!

田中:ああ。なんでも言ってくれ。

棗:栄サンを守れ。傷一つでもつけたら許さねえからな!
  ……先輩。手貸してくれ、敵、ぶっ飛ばすぞ!

荒人:は!? でもよーー

棗:いいから! やるんだよ!

荒人:……ったく。わかったっての……新人の癖に先輩を顎で使うかね。

棗:いいから、いくぞ。

荒人:つっても、何処にいんのかわかんのか?

棗:こいつを“ミル”。

荒人:さっきの指輪? 見るって何をだよ。

棗:こいつの記憶をさ。

N:棗は指輪を握りしめて、目を見開いた。
  宙を見つめる瞳が色を失ったかと思うと、棗の身体は糸が切れたパペットのようにその場に崩れ落ちる。

荒人:おい! 大丈夫か!?

N:駆け寄る荒人の腕を手で制して、棗はフラフラと立ち上がる。
  その瞳は軽く泳いでいるものの、意識はしっかりとしているようだった。

棗:……ビルの裏手だ。とはいってもさっきの時点ではだけどな。
  2人、コートのやつと黒い装甲を着てるやつがいる。

荒人:お前……なんで?

棗:俺の能力はモノの情報が“観る”ことだ。
  さっき先輩が放り投げたお陰で、『この指輪は周囲を見渡した』
  俺は指輪の見た情報ーーつまり、さっきの時点での周囲の場景をーー

荒人:なぁ。よくわかんねえ。

棗:馬鹿。

荒人:うるせえ!

棗:そうだな……とりあえず、攻めてみるか。
  ちょっと耳かせ。


 ◆◇◆


N:棗と荒人の作戦会議を、栄は暖かな眼差しで見つめていた。
  胸中に浮かぶのは、日常か、それとも。
  田中はそんな栄の横顔を、視界の端で眺めていた。

栄:私、昨日まで普通の生活をしていたんです。

田中:ん?

栄:私一般人だったんですよ。昨日まで。

田中:ああ、きいたよ。
   今ここで言うのもどうかと思うけど……もう戻れないと思うよ。ここまで関わったら。
   政府の能力者が干渉しきるには記憶が溜まりすぎてるーーっていってもわかんないか。

栄:いいんです。

田中:いい?

栄:なんだかよくわからないうちに巻き込まれて、よくわからないうちに死にかけて、
  まだ良くわかってないし、すごく怖いけど……。
  ーーでも生きているんですよね、私。
  だから、いいんです。
  (苦笑)……単純すぎですよね。

 間

田中:どう思う?

栄:え?

田中:俺達……いや、超能力者という存在をさ。

N:田中はそういって両腕を広げる。
  田中の瞳が色を失っていく。
  その瞳はまるで黒いビー玉のようだった。

栄:な、何を?

N:次の瞬間、周囲の車がまるで紙風船のように浮き上がった。
  その数、20数台。
  離れた位置から棗と荒人が驚きと抗議の声を上げるが、田中は気にせず続ける。

田中:……理解を超えた能力を持つ超能力者。
   俺はその中でも強い力を持っていてさ、恥ずかしながら“巨人(ジャイアント)”なんて呼ばれてる。

栄:……すごい……。

田中:そんなすごい力を持っている俺達だが……実は重大な欠陥がある。
   超能力者は皆“衝動”を抱えている。
   力を使う度に、その衝動は強く心に働きかけてくる。
   そして、その衝動に飲み込まれ身をまかせることも少なくない。
   所謂暴走状態ってやつ? そりゃあもうひどいもんさ

N:田中が腕をおろすと、浮かんでいた車がゆっくりと着地する。
  壁を乱暴に叩き付けるような音が周囲に木霊した。

田中:君は、もう少し恐れた方がいい。

 間

栄:……なんで、そんなことをいうんですか?

田中:君が何かを乗り越えたのも、あの2人を理解しようとしているのもわかる。
   ーーでも、超能力者はそう単純な存在じゃない。
   傷ついてからじゃ遅いってことだ。

栄:そんなの!

 間

栄:……そんなの、あなたに言われる筋合いはない。
  あなたはわかるなんて言いますけど、あなたは私の何を知っているんですか。
  『一般人』
  違いますか? あなたは私を一般人だとしか思っていないんじゃないですか。

 間

栄:私は、私です。一般人じゃない。
  あなたも、荒人君も棗さんも、“超能力者”でひとくくりなんておかしいです。
  第一あなたはーー

田中:田中新一郎。

栄:……え?

田中:俺の名前。   

栄:え、あ。栄、ユミ、です。

田中:ユミちゃん、ね。
   ……あのさ、俺と食事しない。これが終わったら。

栄:あ、いや……。

田中:返事は後で良いよ。考えておいて、前向きにさ。
   ……そこで続き聴かせてよ。

栄:……いや、え?……あの、どうして突然?

田中:(苦笑して)野暮なこときくね。
   面と向かっていうもんじゃないでしょーー君を知りたくなったから、なんてさ。


 ◆◇◆


N:小綺麗なオフィス街に一台の薄汚れたバンが止まっている。
  あまりにも場違いなそのバンを見て、会社員達は訝しみながら通り過ぎていく。
  速水朔は、運転席でつまらなそうにあくびをした。

速水:……思ったよりも遅かったね。

N:ふと呟いた速水の言葉に応えるように、一人の男がドアを開いて助手席に座った。
  男ーー大藤一は困ったような笑みを浮かべる。

大藤:お待たせ……なんていうと思ったのかい。
   何故君がここにいる。

速水:答え合わせと、ちょっとした質問にね。

大藤:……答え合わせ……なんのことだい。

速水:(鼻で笑う)大藤ハジメさん。あんたが強いのは知っているよ。
   超能力者で無いにも関わらず、超能力者を単身で制圧できる数少ない人間だ。
   ただーー

N:速水は、鋭い視線で大藤を射抜いた。

速水:ーー僕の前で嘘や誤摩化しが通用すると思っているなら、3流以下だぞ。

大藤:わかった、わかったよ。悪かった。
   まったく、1日に2度も年下に口で負かされるなんてね。
   それで……何が知りたいんだ。

速水:3日前、棗に三郷運送の荷物をサイコメトリングさせたのはあんただな。
   表向きの理由は“棗の力を確認するため”
   三郷にも親父にもそう伝えてある。
   つまり速水興信所と、三郷運送の間には、合意の上での協力関係があった。

大藤:その通りだ。

速水:そして、三郷の能力者が棗を襲う。
   始まる能力者同士の戦闘。
   これも予め用意したシナリオ通りだろう。
   この戦いには、今後チームを組ませる『棗と荒人】、2人の能力の相性を確かめるという意図もある。
   当然、棗も荒人も知らされていない。
   今も死ぬはずのない戦いで、生き残る為に必死に戦っている筈だ。

大藤:いきなり実戦というわけにもいかないからね。
   どこの企業でもやっていることさ。
   現場にいる三郷の超能力者2人。
   どちらも非常に優秀な能力者で、間違ってもあの2人に殺されることはないだろう。
   いざというときの為に、うちの能力者も数人待機させてある。

速水:嘘はやめろよ3流。
   速水興信所の能力者は1人も現場にはいない。

大藤:……。

速水:戦闘開始後、うちのバカが駆けつけた先には3人しかいなかった。
   興信所の能力者が“本当に待機しているの”なら、
   本来予定には無い筈の“関係ない一般人”も巻き込まれている時点で、作戦を中止しなくてはならない。
   何故作戦は継続されているのか。
   興信所の連中は『大藤一が監督していると思っている』んだよ。
   おかしいよな、大藤一はここにいる。

大藤:……電話でもしたんですか。

速水:ここからが本題だ。

N:速水の瞳には、明確に怒りの感情が浮かんでいた。

速水:巻き込まれた女、“栄友美”
   貴様、彼女を“異能狩り(ハンター)”を呼び出す餌にしたな。
   気づかれないうちに栄友美に“情報を仕込んだ”
   そうだろう。

 間

大藤:まったく、恐ろしい男だ。君は。
   今更になるが、何故君達が今回の件に関わっているのか……きいてもいいかな。

速水:“異能狩り(ハンター)”が出てくるなら対処できるのはうちのバカくらいだ。
   俺達が“自主的に動くように”指示を出したのはーー

大藤:速見堅一、でしょう。
   見抜かれているとは……いや、舐めていたつもりはありませんが。
   私の手には負えませんね、『ハヤミ』は。

速水:……大藤ハジメ、あんた、“何の組織”に所属している?
   何故、意図的に“異能狩り(ハンター)”をおびき出す必要があった。

大藤:(含み笑い)回りくどいね。
   君の事だ、答えは絞れているんだろう。

速水:確定していないものなど、僕にとっては答えとはいわない。

大藤:……なら、答えはあげられないな。
   ただ、絞り込む材料ならあげよう。

N:大藤は感情を失ったかのような無表情で、速水を見つめていた。

大藤:僕はね、嫌いなんだ。『超能力者(パラノーマンズ)』が。
   あの幼稚で、歪な、神経毒のような存在がね。
   君も人間ならわかるだろう。彼らは“違う”。
   彼らの存在そのものを否定するわけではないけどね。

速水:『超能力者(パラノーマンズ)』……ね。
   あんた、差別主義者(レイシスト)か。

大藤:はは、僕は差別主義者というわけではないよ。主観だけどね。
   随分と長い事過ごしてきた事務所の能力者達には、親愛の情を感じたりもするさ。
   ただし、どうしても斜めからしか見れない理由が僕という存在の根底に眠っている。
   ……話すのはここまでだ。少しは答えに近づけたかな。

速水:さぁね。

大藤:それで……どうしたら僕のした事を黙っていてくれる?

速水:なんの話。

大藤:困るんだ。今、速見興信所から離れるわけにはいかなくてね。

速水:……あんたが企んでいることは見過ごせないけど、
   あの親父があんたを泳がせてる以上、僕が今どうこうしようとしても面倒になるだけだ。
   ーーそうだな。黙っていてもいいが……責任をとってもらおう。


 ◆◇◆


N:ビルの影に一陣の風が吹き込む。

荒人:ようやく会えたなあ!

N:荒人は地面を這うように、高速でコートの男に迫る。
  男はコートの内側から警棒を取り出すと、迫る荒人に向かって振り下ろした。

荒人:(舌打ち)

N:男の瞳が光を失うと、男の持つ超能力が発動する。
  次の瞬間、男の持つ警棒が激しい音を立てた。

荒人:……あんた身体から電気かなんかでるのか?

N:荒人の瞳が光を失う。深淵のような瞳がコートの男を映し出す。

荒人:かっこいいじゃねえの!

N:荒人が凄まじい早さで腕を振るうと、風切り音と共に空間が歪む。
  コートの男はとっさに頭を下げる。
  男の頭上の空間を通過した不可視の刃は、背後のビルの壁に激突し、大きな切断痕をつけていた。

荒人:だけどよぉ、俺もかっこいいだろ!

N:間髪入れず、荒人は男の懐に踏み込んだ。
  強靭な下半身から伝えられた力が、荒人の拳を押し出した。
  胸に突きこまれた打撃に、男の口から苦悶の呻きが漏れた。

荒人:ぐっ!?

N:同時に荒人の身体も激しい激痛に見舞われていた。
  男の蹴りが荒人の脇腹をとらえていたのだ。
  痛みのあまり膝をつく荒人を、再び男の脚が襲う。

荒人:今だ! 後輩!

N:荒人は頭上を見上げて叫んだ。
  男はとっさに荒人の頭上を見る。
  が、そこにはビルの壁があるだけだった。

荒人:なーんつって!

棗:こっちだよ、電気マン。

N:男の背後で棗が呟く。
  男の背に手を触れさせた棗は、容赦なく超能力を発動させた。

棗:ミセてみろ……お前のナカ。

N:直後、男は意識を失い、地面に倒れ込んだ。
  棗は自身のふらつく身体をビルに預ける。

荒人:おい、今何をしたんだ?

棗:こいつの情報を“ミタ”んだ。脳が処理できなくてパンク……ま、言ってもわかんねえだろ。

荒人:はは、倒せりゃなんでもいいわな。

棗:なんだよ……そういうことかよ……!

N:棗は頭をかきむしった。

荒人:……なんだ、なんかあったのか?

棗:こいつの記憶を読んだんだが……。
  (ため息)どうやら俺達は躍らされていたらしいな。

荒人:あん?

棗:俺達は試されてたんだ。
  2人でどこまで戦えるか、ってな。

荒人:どういうことだよ。

棗:これは実戦じゃなくて、実戦形式の戦闘訓練だってことだよ。

 間

荒人:……はぁ!? ちょっとまて!
   ってことは、これはお前を狙ってるんじゃないのか!?

棗:3日前、俺が三郷の荷物をサイコメトリーした時から、ずっと掌の上だった……クソッ!
  これは俺達の能力の相性を調べるために、三郷運送と速水興信所が合同で行っている実戦訓練だ!
  このぶっ倒れてる電気野郎も三郷の新人で、実戦訓練だと聞かされてるんだよ……!

荒人:それで手加減されてたのか……。
   (ため息)なんつーか……気張ってたってのに!
   こっちの緊張感返してほしいぜ!

棗:ああああクソがッ! 絶対許さねえ!
  関わっているやつら全員ぶんなぐってーー

 間


棗:いや、ちょっと待て。

荒人:まだなんかあんのか?

棗:……もう1人はどこだ?

荒人:もう1人。ああ、さっき言ってた黒いやつか。
   そういや仲間が襲われてるってのに出てこねえな。

棗:この電気男……名前は周健人(しゅうけんじん)。電磁系の“超人(スーパー)”。
  そしてもう1人が最初にちょっかいだしてきた忌々しい“念動力者(サイコキネシスト)”
  名前はブルック。南アフリカ人だ。

荒人:今更だがお前の能力、恐ろしいな……。

棗:先輩の能力こそ、意味わかんねえだろ。
  さっきも下手したら真っ二つになってたぜ。

N:熟れた果実を握りつぶすような音だった。

荒人:……あ?

棗:え……? な、これ……!

N:横に落ちてきた赤黒い物体がなんなのか、2人は一瞬理解できなかった。

荒人:……おい、後輩……。

棗:な、何?

荒人:もしかして……こいつか、ブルックってのは……!

N:地面に倒れ伏しているのは、黒い装甲に身を包んだ超能力者ーーブルックだった。
  その身体は無惨にも切り裂かれ、身体からは大量の血液が溢れ出している。
  既に息が無いことは、一目瞭然だった。

棗:こいつ、死んでる……! いったい誰が!

ハンター:ひ、ひひ。

荒人:っ! まさか!?

N:2人が頭上を見上げる。
  すると、ビルの屋上から路地裏の2人を覗き込んでいる小さな人影が見えた。
  荒人の身体が、小刻みに震え、その瞳が恐怖の色に染まる。

荒人:後輩……!

棗:あ、え?

荒人:逃げるぞ! こいつは俺が担ぐ!

棗:お、おい! 先輩、あいつはなんなんだ!


 ◆◇◆


栄:あ、棗さん! 荒人くん!

田中:……様子がおかしい……。
   どうした!

荒人:新一郎さん! 異能狩り(ハンター)だああああ!

N:その叫びを聴いた瞬間、田中は駆け出していた。
  必死に走る2人とすれ違った瞬間、足を止め腕を振るう。
  轟音。周囲に落ちていた瓦礫や鉄柱、車やガラスが一瞬にして集まり、宙を漂う。
  それはさながら、巨人の腕のようであった。

栄:あれが……“巨人(ジャイアント)”!

棗:おいおい、なんだありゃ。無茶苦茶だ……。

N:田中は、物を集めて出来上がったその巨大な腕を、高速で振るった。
  向かう先には、全身を白い包帯のようなもので乱雑に巻いている、小さな人影だった。

田中:久しぶりだなぁ! 異能狩り(ハンター)!

N:巨人の腕がハンターの小さな身体に襲いかかる。

田中:来いよ。遊んでやる。

ハンター:くひひっ。ひひひひ。

栄:あ、あれは?

荒人:公安特務の異能殺し……俺達はハンターって呼んでる。

棗:公安特務……警察だってのかよ、あれが。

荒人:正確には、『警察が飼ってる超能力者』だけどな。
   一般市民を守るという名目で戦場に現れて、文字通り狩っていくのさ。

栄:狩るって、何を?

荒人:超能力者を、だよ。周囲に存在する超能力者を皆殺しにする。
   そこいらのやつとは強さの次元が違う……俺なんかじゃもって数秒だ。

栄:……嘘……! あの瓦礫を避けてる!?

N:ハンターはその小さな身体で、高速で迫りくる無数の障害物を避けきっていた。
  どうしても避けられないモノは腕で、脚で、頭でたたき落としながら、笑い声を上げる。
  田中はそれにいらついた様子も無く、両の拳を眼前で叩き合わせた。

田中:喰らえコラアア! 

N:破砕音。巨人の両拳がハンターを圧する。
  巻き上る埃の中、白い光が瞬いた。

田中:(舌打ち)

N:田中が咄嗟に横に転がると、田中の脇を光線が通過する。
  光線はビルにぶつかると、壁に大穴を空けた。
  ハンターから放たれた必殺の光線である。

棗:な、なんだ、あれ。
  は、はは……笑うしかねえな。あんなもんギャグだぜ。ギャグ。

田中:ユミちゃん、ちゃっちゃと逃げてくれ! 荒人! ちっさいの! テメエらは離れるな!

棗:ちっさい言うな!

栄:あの! どうして私だけなんですか!?

田中:アレは超能力者しか狙わねえんだよ!

栄:……でも!

田中:ああああもう! 聞き分けねえなあ! ガキかテメエは!
   んな泥だらけで俺様とデートする気か!?
   とっとと帰って! シャワー浴びて! 着替えて化粧でもして待ってろ!


 ◆◇◆


N:速水と大藤を乗せたバンは、制限速度を超えて大通りをひた走る。

速水:人が全くいないな。これもあんたの仕業か?

大藤:なかなかいい気分だろう。いつもなら渋滞しているからね、この辺は。
   ……どうやら、もう始まっているみたいだね。

速水:どうだかね。本当に始まっていたらこの辺りはもう瓦礫の山だ。

大藤:“巨人(ジャイアント)”、田中新一郎。
   現代最強の念動力(サイコキネシスト)の呼び声も高い、高位能力者。
   加えて、あの“異能狩り(ハンター)”に3度遭遇し、撃退している。
   凄まじいな。“キング”が一目置くわけだ。

速水:バカだよ……バカなガキだ。
   あんたの嫌いな。

大藤:……ん?

N:通りの先に、息を切らして走る女ーー栄友美の姿が見えた。

栄:とまって……! とまってください!

大藤:栄さん! 大丈夫ですか!?

速水:しらじらしい……。

栄:だ、大藤さん!? あ、あの! 大変なんです!

大藤:事情は知っています! さぁ、乗って!

栄:あの、あそこに気を失った超能力者さんが……!
  えっと、敵なんですけど、その、ハンターが現れて。

大藤:手伝いましょう、後ろを空けてください!
   彼は僕が運びます!

栄:はい!

速水:なんの茶番だよ……。

N:栄と能力者を後部座席に詰め込み、再びバンは走り出した。

栄:あの、そっちで今……!

速水:知ってるよ。

 間

栄:えっと……あ、あなたは?

速水:『田中新一郎』ときいてわかるかな。

栄:え? ええ。

速水:僕は、アレの飼い主だ。

栄:か、飼い主……。

大藤:彼は速水朔。うちの所長の息子さんで、田中君の雇い主だよ。
   今回の緊急事態に、彼らが協力を申し出てくれてね。

栄:そうなんですか……。

速水:そうだ。協力を申し出た。僕は良いやつだろう。
   ……あそこか。

N:バンを道端に停めると、速水と大藤はバンから降りた。
  数百メートル先では常軌を逸した戦いが繰り広げられていた。

速水:行くか。

大藤:……栄さん、あなたはここで待っていてください。

栄:は、はい。
  ……あの! お気をつけて! みんなを、助けてあげてください!

速水:何を言っている。僕は超能力なんてもってないただの人間だぞ。

 間

速水:ーー見ていろ。やつらを止めるなんて朝飯前だ。

N:速水は白いコートを翻し、戦闘の中心地へと歩いていく。
  大藤もスーツの中から刃渡り50cm程の短刀を取り出し、速水の後に続いた。


 ◆◇◆


棗:なぁ先輩!

荒人:どうした! 後輩!

棗:俺達、守られてるんだよな!

荒人:そうだな!

棗:じゃあ、なんでさっきから巨大な瓦礫がこっち目がけて飛んできてんだ!

N:前方で無数の瓦礫を操る田中は口元に楽しげな笑みを浮かべていた。
  数度目になるだろうか、田中の制御を逃れた瓦礫達が棗と荒人に飛来する。
  荒人はそれらを自らの超能力で産み出された、衝撃波で切断する。

荒人:(舌打ち)制御が甘い……押されてるのか……!?

棗:いや! 違う、これは制御が甘いんじゃない!
  俺達の事を気にしてないだけだ!
  かなりの時間、高出力の力場(りきば)を操り続けてる……!
  もしかしたら……。

田中:ククク、カカ!

荒人:おい……! まさか!

棗:間違いない……『衝動』だ……!

N:2人は田中の後ろ姿を見つめた。
  肩がゆらりゆらりと揺れる。
  田中は、嗤(わら)っていた。

田中:ハンタアア! テメエの名前を出すとどいつもこいつもビビりやがる!
   なんだよ、なんなんだテメエ! おもしれえなあ! カカカ!
   俺様を狩れるって思ってやがんのか!? それとも感情なんて落っことしちまったか!
   どっちにしろ気持ちいいじゃねえか! テメエはどうしようもなく“超越してる”!
   だからよお! つまりよお!

N:田中の身体が浮き上がり、周囲に暴風が吹き荒れる。
  それをハンターの漆黒の眼球が見つめていた。

田中:テメエを“超え”りゃあ俺様が“越え”たってことだろ!

ハンター:きひ、ひひひ。

N:ハンターが驚異的な速度で、空中の田中に飛びついた。
  視認さえ困難な超高速で突き出される無数の手刀。
  何の小細工も無い単純な暴力は、執拗に田中の心臓を襲う。
  田中は一見遅くも見える達人的な体捌きで、その手刀をかわしていく。

速水:バカが……調子に乗るからそう醜くなる。

N:躍るように戦う2人。
  かわしてもなお、ハンターの鋭い手刀は田中の皮膚を傷つけていく。
  同時に空間に無数に生えた田中のーー巨人の腕がハンターの白い外装を食い破り、ハンターの肉体を捉えていた。
  いつしか2人の周囲には、真っ赤な血飛沫が小雨のように降り始めていた。

栄:綺麗……。

N:一般的人間社会に身を置くものにとってはそれは幻想的に見えただろう。

棗:なんだ、これ。

荒人:さぁな。死んでねえのが不思議なくらいだ。

N:同じ超能力者ならば、自らを遥かに超えた力を前に、呆然と立ち尽くすかもしれない。
  しかしその規格外の本当の意味を知るものはきっとこう呟く。

大藤:あり得ないーー

N:そう、『あり得ない』と。

大藤:ーーあれが本物の『超能力者(ちょうのうりょくしゃ)』か。
   ハンターの外装をああも簡単に引きはがすとは。

速水:“ハンターを撃退する”とはそういうことさ。
   ああなった新一郎の力場(りきば)は、文字通り次元が違う。
   ……のんびりしている暇はないよ。
   あんたにはあの化け物を止めてもらわなきゃいけないからね。

大藤:はは……この震えが武者震いである事を祈るよ。

荒人:大藤! ……どうする気だよ!

大藤:少し事情があって、さ。

速水:君たち、良く見ておきなよ。これからは、これが君たちの基準だ。

棗:基準って、どういうことだ……ってか、お前誰だよ。

速水:……お前、だと?

大藤:抑えて抑えて……こういう子なんだ。

速水:まぁいい……これ以上奴らの不快な血液を浴び続けていたら何の病気を移されるかわかったものじゃない。
   行くよ、大藤ハジメさん。

N:速水は遥か上空にいる田中とハンターに向けて、無骨な大型拳銃を構えた。

速水:見てろ超能力者共。お前らの無能さを。

N:発砲。速水が放った銃弾は暴風吹き荒れる戦場に真っすぐに突っ込んでいく。
  そしてーー

荒人:当たった……!

N:銃弾を受けたハンターの右腕が跳ね上がる。

棗:今までの銃弾並の速度の攻撃を簡単に避けていたのに……。
  どんな魔法をーー

速水:ーー確率で考えろ。
   いくら異常な反応速度をもってしても、100%攻撃を避けられるものじゃない。
   常に動き、思考する生物である限り、一瞬一瞬で確率は変動する。
   『避けられやすい』時もあれば、『当たりやすい』時もある。
   僕は『当たりやすい』時に『当たりやすい』場所に銃弾を撃った。それだけだ。

棗:……あり得ない……。

速水:君にはこれくらい出来るようになってもらわなくちゃ困るんだけどね。
   ……今だ。

N:再び速水が放った銃弾が戦場を奔る。
  ハンターの膝に銃弾が突き刺さった。
  その見た目以上に堅牢な装甲に阻まれはしたものの、ハンターのバランスを崩すには十分だった。
  そんな隙を逃がすはずもなく、巨人の腕がハンターに襲いかかった。
  ハンターは吹き飛ばされ、勢いもそのままにビルの壁を突き破っていった。

田中:おい……。おいおいおい! なんだってんだよ!
   これからがいいところだってのに……!
   テメエ……! 邪魔すんじゃねええ!

N:田中は宙の瓦礫を蹴って速水に跳びかかった。
  巨人の腕を振りかぶると、凄まじい圧力が速水に迫った。
  しかしーー。

 間

速水:……落ち着いたか、バカ。

N:腕は速水に当たる前に止まっていた。
  田中は荒い息を整えながら着地する。

田中:(息を切らしながら)……落ち着いた。すまん、俺ーー

速水:くだらない自己嫌悪は後にしろ。今はお前なんかに構っていられない。
   大藤ハジメさん、後は頼むよ。

大藤:ああ、もちろん。君との約束を信じよう。

N:大藤は短刀を鞘から抜いて鞘を荒人に預けた。

棗:約束? なんのことだよ。大藤に何をさせる気だ?

速水:……さっきからうるさいな。それくらい自分で考えなよ。

棗:んだと……? インテリ気取りの根暗野郎!

荒人:はいはい。落ち着け落ち着け。

棗:つーか先輩だれだよこいつ! さっきからマジむかつく!

速水:そんなことは後だ。気を抜いているとーー死ぬぞ。

N:爆音。ビルの中から光線が飛び出す。
  光線はまっすぐと棗を捉えたかに思われた。

大藤:……大藤一、参る。

N:光線は大藤が振るった短刀に阻まれていた。

荒人:あのレーザーを……斬った。

N:驚きもつかの間、ビルからハンターが白き矢の如く飛び出してくる。

大藤:はぁっ!

N:大藤はハンターと背後の能力者達の間に割り込むと、短刀を一閃した。

大藤:……人間は攻撃しない、ですか。

ハンター:は、ひひ。

大藤:両断できるとは思っていませんでしたが、傷一つないってのは堪えますね……!

N:大藤はハンターの腕と撃ちあいながら唇を噛んだ。
  その背後で速水は田中に手招きをした。

速水:……おい、新一郎。

田中:なんだ。

速水:おとりになってこい。能力は使わず。

田中:はあ!? 何いってやがんだ!

速水:地の底まで墮ちた株を引き上げるチャンスだぞ。

N:田中は栄の姿を探した。
  栄は田中の視線に気がつくと、口を動かした。

栄:『大丈夫ですか』

田中:(ため息)……策はあるんだろうな。

速水:僕を、誰だと思ってる。

田中:いっちょやってみますかね。
   いざゆかん! とぉりゃああ!

N:無防備に特攻してきた田中を見て、ハンターは標的を切り替えた。
  一瞬にして田中との距離を詰めると、高速の手刀を繰り出す。
  大藤はその間に上手く身体を滑り込ませーー

棗:なっ……!

荒人:大藤おおおお!

N:大藤の左腕が宙を舞った。

大藤:(苦痛の声を噛み殺す)

荒人:何やってんだよ!? お前わざと!

速水:いいんだ。

荒人:何がいいもんかよ!

速水:よく見ろ。

N:ハンターは血に染まった自らの腕を見つめて固まっていた。
  その漆黒の眼球が泳いでいるのが遠目にみてもわかる。

棗:もしかして……人間を攻撃してはいけない。
  それがあいつのルールで……それをやぶったから、混乱しているのか。

速水:近いが、足りないな。やつのそれはシステムに近い。
   安全装置がなければあんな狂犬を制御なぞできないからな。
   言うなれば、あれが『奴ら』が理想とする『完璧な駒(パラノーマンズ)』ってやつなんだろう。

荒人:それで、なんで大藤が……こんな!

大藤:……これは僕が言い出した事なんだ……。

荒人:どうして!

大藤:今回の件は僕の不注意によるものだ……。
   僕がしっかりと監督していれば、こんなことにはならなかった。

荒人:そんなのおかしいだろ!
   あんなやつがくるなんて思ってなかったんだから、仕方ないだろうが!

大藤:それじゃあダメなんだよ……! いいか、荒人クン。
   『僕たちの世界』には『取り返しのつかない失敗』というのが存在する。
   今回のこれは、僕の『取り返しのつかない失敗』だったんだ……!
   それを償う責任があった……腕一本で済むなら安いもんさ。

荒人:だからって!

田中:聞き分けがねえなあ……ガキじゃねえだろ。
   ご覧の通り、切断面は寒気がする程綺麗だ。
   これなら直ぐに手術すれば元通りになるだろうぜ。

荒人:本当、ですか……。
   
田中:……ほら、直ぐに大藤さんを病院まで運ばないとな。手伝ってくれ。

荒人:……ああ。大藤、持ち上げるぞ。

大藤:……頼む……。

N:荒人と田中は大藤を持ち上げてバンへと向かう。
  棗は、視線を泳がせ呆然と立ち尽くすハンターをじっと睨みつけていた。

棗:……こいつ、どうすんだよ。

速水:しばらくすれば公安のやつらが回収にくるだろうさ。

棗:そうか……。

 間

棗:……なんだったんだ……クソッ。

N:それは無力感だったのか。それとも傷跡が疼いたのか。
  今にも膝をつきそうになっている棗にとって、これが本当の意味での敗北だったのかもしれない。

棗:……こんな力を持ってるってのに、何一つわからなかった……!
  最初から最後まで躍らされて、利用された!
  それがいやで逃げてきたってのによ……!
  ざまぁないぜ……結局俺は何も変わっちゃいない。
  いつまでたっても、俺は……私は……!

 間

速水:……何もかも知っている僕に、疑問だらけの君の気持ちはわからないけど、
   それを悔しく思うなら、君には少しだけ素質がある。

棗:……素質って、なんのこと。

N:しかし、一度の敗北が運命を変える、ということは往々にしてあるものだ。

速水:棗……本名、伝馬(てんま)ヨミ。君は今日から僕がーー『速水探偵事務所』が貰い受ける。
   その代わり……2度と自分に絶望することは許さないからな。覚悟しておけ。


 ◆◇◆


N:数日後、とあるファミリーレストランの禁煙席に、綺麗に着飾った女性が憮然とした表情で座っていた。

栄:さいってー。

田中:……ま、まぁ、そういうなよ……。

栄:さいっっってー。

田中:いや、そのうち! ちゃんとした所連れて行くからさ!

栄:あの、次があると思ってるんですか……?
  あれだけ偉そうに誘っておいて、ファミレスって!
  もう絶対田中さんとなんてデートなんてしません!

速水:(物を食べながら)ふん、ざまぁないな。バカにはふさわしい末路だ。

田中:あ! 朔てめぇ! 俺のピザだっつってんだろ!?

栄:しかもコブ付きって……! 私の事知りたいとか抜かしてた癖に……!
  舐めてんのか!

田中:え!? あ、いや! この後に仕事の打ち合わせがあってさ……。

栄:……もういい。好きなもの食べていいんですよね?
  これで割り勘なんていったらぶん殴りますよ?

田中:そ、そりゃあ俺のおごりだよ。うん。

栄:すみませーん。あの、このクラブハウスサンド一つと、コーンスープ。
  あと、豆乳プリンと、ティラミス、特製ぜんざいとバナナクレープ、それからグレートパフェ一つ。

速水:この女が頼んだデザート類をもう1セット頼む。

田中:……おい、お前のは奢らないからな!

速水:『衝動』なんぞに飲み込まれて街をさんざん破壊した身分でよくも言えたものだな。

田中:ぐっ……あれは悪かったっていってんだろ……。

栄:(微笑)

速水:……栄、だったか。大藤一はどうだ。

栄:え? ええと……大藤さんは術後の経過も驚くほど良好で、再来週にはリハビリに入るかも知れないそうです。

速水:ふん……無駄に丈夫だな。これだから気に入らない。

田中:それで、興信所の仕事の方はどうなんだ。

栄:まだ一週間と少しですからなんとも……ただ、皆さん親切にしてくださっているので、なんとか事務くらいは。

速水:優秀だな。その調子ならすぐに慣れる。
   “速水興信所(あそこ)”には馬鹿なやつも多いが、そう悪い所でもない。

栄:はい。頑張ります。
  あ……そういえば、荒人クンと棗ちゃん、どうしてます?

田中:あいつらは……ま、元気すぎる程元気にしてるぜ。
   いきなりウチに来る事になってへこんでるかと思いきや、毎日うるせえのなんの。

栄:それなんですけど……どうして棗ちゃんと荒人クンだけ、興信所から移る必要があったんですか?
  実はその、あまりわかっていなくて。

速水:……今回の件では、組織の噛み合い方が予想以上に入り組んだ形になってしまったからな。
   組織同士の体裁を保つためにあいつらは『元から速水探偵事務所に所属する予定のあった能力者』ということにするのが一番だったんだ。

田中:新人教育押し付けられた感もするけどな。まさか、おっさんもそこまで考えちゃいなかっただろうけど。

速水:……ありえるな、あいつなら……気に食わん。

栄:それで2人を鍛えてるんですか?

田中:そういうこと。俺が荒人に、朔が棗に仕事を教えてるんだが……予想はつくだろ。

栄:ふふ、お2人の弟子じゃあ息付く暇もなさそうですね。

速水:あんな不出来なやつを、僕は弟子とは認めない。

田中:だとよ。まぁ、確かに2週じゃなんともいえんわな。
   ……そういや、棗なんかは特にユミちゃんに会えなくて寂しがってるぜ。
   今度遊びにきてやってくれよ。

栄:ええ! 是非、私も会いたい。

速水:来るなら来るでしっかりと連絡は入れろよ。茶ぐらいは出してやる。
   ……時間だ。僕はクライアントに連絡をしてくが、万が一居ないうちにデザートが来るようなら呼びにこい。

N:速水は席を立つと店の入口へと歩いて行った。

 間

田中:それで、変わらなかったか。

栄:何がですか。

田中:俺の『衝動』をみてもさ。

 間

栄:ーーさぁ。

田中:は?

栄:なんでもかんでも聴いたら帰ってくると思ったら大間違いですよ。
  ……どれだけすごい力を持ってるかは関係ない。
  相手を知るにはもっと別の力が必要だったりするんです。

田中:別の力、ねえ。

N:栄は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

栄:それがわからないうちは、超能力者を怖いなんて思いませんし、距離なんかとってあげません。
  せいぜい、知りたがりの私を怖がってくださいね。甲斐性なしの超能力者さん。

 間

田中:はは……あり得ねえ……。







 パラノーマンズ・ブギー@
 『有り得ない』 了


<前編>
<中編>



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台本一覧

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