パラノーマンズ・ブギー@
『有り得ない 中編』
作者:domino


速水 朔(はやみ さく):24歳。男性。めっちゃ頭良いですよ、でも性格に難アリ。

田中 新一郎(たなか しんいちろう):25歳。男性。見た目カッコいいですよ、でも苦労人。

棗(なつめ):16歳。女性。速見興信所、所員。男言葉で喋る色々訳ありなプリティガール。

荒人(あらひと):21歳。男性。速見興信所、所員。背の高く腕っ節の強い、猪突猛進ボーイ。

栄 友美(さかえ ゆみ):23歳。女性。商社勤務。裏の世界を知っちゃった系オフィスレディ。





【あらすじ】
ある夜の出来事だった。
栄は、人智を超えた『超能力』に覚醒した村田により、その身を拉致された。
そんな彼女を救ったのは、超能力者が所属する一般企業『速見興信所』
栄は、速見探偵事務所の新人、棗と荒人に連れられ、車にて事務所へ向かうのだった。


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 ◆◇◆


栄:20年前?

N:鼻歌混じりに車を運転する荒人の顔を、栄はバックミラー越しに見つめていた。

荒人:そ。20年前に俺達みてえなのが初めて現れたらしい。

栄:そんな……全然知らなかったです……。

荒人:ジョーホーキセーっつーの? そう簡単に存在を知られないようになってるみたいだぜ。
   それでもさっきのやつみたいに突然目覚めちまったりするわけだから、
   あんたみたいに関わっちまうやつはそれなりいるってわけ。
   そこで登場するのがーー

N:荒人はそこで言葉を切ると、退屈そうに窓を眺める棗に眼をやった。

荒人:所謂、超能力ってわけだ。
   精神干渉系の能力者ってやつらが、その辺の所を上手い事やってる。

 間

栄:……すごいんですね……。

荒人:すごい?

棗:ーー見たろ。

栄:え?

棗:あいつの力さ。

栄:村田、ですか?
  ……腕や脚がムチのようにしなって、それに身体能力も人間離れしていて……。

棗:そう。人間離れしているんだ。俺ら『超能力者』はさ。
  だからこそ俺達は管理されているんだ。

栄:……管理?

棗:俺達にはタグがつけられてる。そしてルールで縛られてる。
  今回のように一般人を傷つけた村田ヒロタカも、当然タグをつけられ、ルールに縛られる事になる。
  ……ただ。

栄:ただ、なんです。

棗:ただね。あいつが裁かれることはないよ。

 間

栄:え……? なんで……あれだけの人を傷つけたのに!

棗:人間離れしてるからさ。

栄:でも、超能力者には超能力者のルールがあるんでしょう!?
  一般人を傷つけてもいいなんてルールがあったら、隠蔽なんて成り立たないじゃない!

棗:……あんた、バカじゃないね。

N:棗はくすりと笑って身体を起こした。
  相変わらず眠たげな眼差しではあったが、その瞳の奥が鈍く光ったように見えた。

棗:栄ユミさん。ルールってのは作ったやつの都合のいいように出来てんのさ。
  後に超能力者なんてものを管理しようと考えたやつら、こいつらは最初、超能力者を見て何を思ったと思う?
  (拍手をして)『素晴らしい!』
  ……いいかい、やつらは超能力者に魅入られちまったのさ。
  正確には自分たちの想像を超えた超常的な力そのものにね。

栄:……つまり、彼らは超能力者を管理する事で、自分達がその能力を好きに使おうと思ったっていうんですか。

棗:誰だってそう思うさ。思い通りに管理できるとなればね。

栄:じゃあ村田も……。

棗:あんたが美食家だとして、せっかく手に入れた霜降り肉をゴミ箱に捨てないだろう。
  しっかりと下ごしらえをし、調理をし、美味しく喰う。
  村田ヒロタカはルール通り、軽い注意と教育を受けるだけさ。そのあとに拘束されたり、裁判にかけられたりすることはない。
  あとはあいつの力を使って美味しい思いをするだけさ。先輩はどう思う?

荒人:あん? ……そうだな……海外支部にでも派遣されて終わりじゃねえか。

棗:覚えておきなよ。これが、超能力者が発見されてからの流れだ。

N:栄は下を向いて拳を握りしめた。何かを鎮めるように荒くなった呼吸音が車内を踊る。

栄:……そう、なの。

棗:理不尽だと思うだろ。

栄:……。

棗:それが正常だ。超能力者に深く関わった大半の人間は俺達に良い感情なんて抱きやしない。
  ま、そんなもんはこっちには関係ないんだが……管理側のやつらはそんな俺らをどうしても下に見たいらしくてね。
  俺達のことをこう呼ぶ……『超能力者(パラノーマンズ)』ってさ。


 ◆◇◆


N:とあるマンションの一室。
  成人男性が1人は入るであろう大きな壷を前にして、男は頭を抱えていた。

田中:……おい、朔。なんだこれ。

速水:何?

田中:何、じゃねぇ。とりあえずこっちみろ。

速水:まったく、うるさいな……。

田中:(壺を叩く)なんだこの巨大な壷は。

速水:何って……香港の報酬だが。

 間

田中:……は?

速水:いくらお前が阿呆でも覚えてるだろう。一週間前のことなんだからな。

田中:ちょっ、ちょっと待て! 香港ってまさかーー

速水:だから、そうだ。二回も言わせるな。

田中:コレがあの仕事の報酬だってのか……?

速水:そう。あの程度の仕事で、コレは安いものだろ。

田中:……どの口が言いやがるこのド阿呆が!
   現地行ったのも、巨大化した狂犬どもにワクチン打ったのも、黒幕突き止めて警察に突き出したのも、
   全部俺だろうが!

速水:お前こそ、どの口で僕に口答えしている。
   そもそも、役割分担は元から決まっているんだから今更グダグダ文句言うんじゃない。
   このマンションにいながらにして、遠く離れた異国に蔓延る巨悪を華麗な推理で突き止めたのは僕だ。
   こんな優秀な僕の元で働けて感謝こそされ、文句を言われる筋合いなんてない。

田中:じゃあその優秀なお前にお尋ねしますがね! 俺の給料はどうなってんだよ!
   こちとらお小遣い程度の経費で、危険な仕事こなしてんだ!
   この阿呆みたいにデカイ壷を割って、その破片を皿だって言い張って骨董品屋に売ったるぞ!

速水:(鼻で笑う)それでもいいが、その中に封じ込められてるやつに殺されても知らないぞ。

田中:封じ込められてる?

速水:悪魔。

田中:なんで悪魔入りの壷が報酬なんだよ!

速水:東海に沈んでいた古代の大妖怪を封じ込めた壷だぞ! 欲しいだろう!

田中:さてはお前……最初っからこれ狙いだったのか……!

速水:偶然だ偶然。途中でクライアントが報酬に提示してきたんだ。

田中:(ため息)

速水:せいぜい働け、居候。
   生意気にも見た目はいいんだ、此所が嫌ならそこいらの女でも引っ掛けて、
   ヒモにでもなって出て行けば良い。

田中:お前なあーー

N:リビングのパソコンから、ピンという甲高い音が鳴る。

速水:……新一郎。

田中:はいはい……(パソコンを見る)えっと、新規メール3件だってよ。

速水:送信先は。

田中:Anazon(アナゾン)。

速水:次。

田中:パティスリー・ノワール、お菓子通信……なんだこれ。

速水:次!

田中:お! 速見 堅一(はやみ けんいち)。おっさんからじゃん。

速水:……パソコン?

田中:……携帯のアドレスからだな。

速水:ふーん……読んでよ。

田中:あん? いいのか? プライベートなメールとかだったらどうすんだよ。

速水:僕とあの親父がそんなメールするところ想像できるか?

田中:……読むぞ。
  「香港のブラック・ドッグの沈静化、どうやらお前らの仕業だとか。
   相変わらず元気なようで安心したぞ。
   ところでうちの事務所に新人が入ったんだが、こいつが色々と訳ありでな。
   三郷(ミサト)の荷物をサイコメトリングしてしまったらしい。
   今その処理をしようとしているんだがいかんせん時間が足りん。 父より」

速水:(ため息)……まったく……あの親父は……。

田中:また能力者助けか……なんつーか、おっさんらしいなーー

速水:そうじゃないバカ。早く準備しろ。

田中:は?

速水:バイクで出ろ。インカムで指示を出す。

田中:おい、どういう事ーー

速水:うるさい! 急げ!


 ◆◇◆


栄:……事務所って、代々木の方でしたよね?

荒人:ああ、そうだけど。眠くなったなら寝てても良いぜ。
   ……もう1人寝てるみたいだしな。

N:栄が顔を横に向けると、自分の肩に寄りかかって寝ている棗の寝顔がよく見えた。

栄:能力を使うと眠くなるとか……?

荒人:別に能力を使わなくたって眠くなるぞ、俺は。

栄:あ……そうですよね。

 間

栄:寝顔は普通の女の子なのになあ……。

 間

栄:すごい力を持ってるんですね。

荒人:ああ、そうだな。

栄:でも……それだけです。

荒人:……それだけ?

栄:ええ、それだけ。私はそう思うんです。なんとなく。

荒人:……ふーん。

 間

栄:やっぱり……おかしくないですか?

荒人:何が?

栄:いえ……代々木だったらもう着いていておかしくない時間ですよ。

荒人:それは何……俺の運転が悪いっていってんの?

栄:そうじゃなくて! 道は合ってると思うんですけど、なんていうか、違和感があって……。

荒人:んなこといったってナビはーー

N:荒人がナビを見ると、画面が完全に止まっていた。

荒人:壊れた? 一回車、脇に止めるか。

栄:ちょっと待って……そういえば、人が1人も……。こんな大通りで?

棗:……あいつらだ。

荒人:なんだ、お前起きてたのかよ。

栄:あいつらって?

N:突如、車がギリギリという音を発し始める。

栄:キャア!

荒人:何だ!?

棗:全員、車の外に出ろ!

N:3人は車の外に飛び出すのと同時に、車がメキメキという音を立てて形を変えていく。
  10秒もすると美しかった外国車は、みるも無惨な鉄の塊へと変わっていた。

栄:こ、これって……!

荒人:ああああ! やっべええええ!

栄:え! 何ですか!?

荒人:車が……! 大藤に……殺される……!

棗:言ってる場合か……!


 ◆◇◆


N:田中を乗せた大型バイクが夜の街を疾走する。
  重いバイクのエンジン音の隙間で、田中のつけたインカムが速水の言葉を告げた。

速水:『その先の小学校、右。

田中:了解! ……そんで! 俺は何しにどこに向かってるわけ!

速水:『仕事をしに向かってる。

田中:仕事ぉ!? なんの!

速水:『あのクソ忌々しい親父の策略だ。
    メールの文面にあったろ、三郷の荷物をサイコメトリングしたと。

田中:ああ!

速水:『サイコメトリー。物体に残ったものの残留思念を読み取る力の事だ。
    制約はあるが、力が強ければ思念のみならずその場で何があったのかすらも“見る”ことができる。
    企業にしてみれば、喉から手が出る程、欲しい能力だろう。

田中:なるほど! 速水興信所の新人能力者はそのサイコメトリーを使うと!
   つまり俺達は報酬を押し付けられたわけか!

速水:『そうだ。超能力者の情報には価値がある。
    大手企業は、所属超能力者の能力秘匿のために専門の部署を用意するというのがいい例だ。
    そんな超能力者の情報をメール一本でーー
    タダで教えてもらってそのままというのは業界上まかり通らないからな。
    そこまで見越して、あの親父、その超能力者の僕たちに護衛させようってわけだ。

田中:にしても! 速見興信所に人手がたりねえって!?
   キング、ハルちゃん、大藤ハジメ! 俺が言うのもなんだが化け物揃いだぞ、あそこ!

速水:『何らかの理由で護衛につけない、と考えるしかないな。
    やつらの1人でもいるならーー交差点、右。

田中:はいよ! じゃあ代々木の事務所に向かえばいいんだな!?

速水:『いや、そのままミッドタウン方面へ行け。

田中:どうして!

速水:『そこで、超能力者同士の殺し合いがある。


 ◆◇◆


棗:くっ!

N:棗の首のネックレスが意思を持ったかのように浮き上がった。
  そしてそのまま棗の首に巻きついていく。

栄:棗ちゃん!

荒人:ったく! なんだってんだ!?

N:荒人は棗の首のネックレスを引きちぎった。
  バラバラになったネックレスは空を走り、地面に散らばっていく。

荒人:念動力者(サイコキネシスト)か……! 随分景気のいい挨拶かましてくれやがって……!

栄:棗ちゃん! 大丈夫!?

棗:寄るなバカッ! とっとと逃げろ!

荒人:次! くるぜ! 下がってろ!

N:電灯の支柱がぐにゃりと曲がり、折れた鉄柱が荒人達に飛来する。
  荒人は鉄柱めがけて飛び上がると、それをブーツの裏で蹴飛ばした。

栄:すごい……!

荒人:おい! お前ら、俺から離れるな!

棗:はぁ!? 何いってんだよあんた! 

荒人:死にたくねえだろ! 固まってれば防ぐくらいはなんとかなる!

栄:……はい! わかりました!

棗:おい! 違うんだって! 狙われてるのはーー

荒人:この能力者、息切れしないな!(飛んできた支柱を蹴り飛ばす)

棗:聞け! いいか! あいつらが狙ってんのは俺ーー

栄:荒人くん! 横です!

荒人:ありがと、さん!(車のボンネットを殴り飛ばす)

棗:だから! 狙われてるのは俺なんだよ! だからお前らはさっさと逃げろって!

荒人:うっせえ後輩! 先輩が仕事教えてやってんだ! 黙ってみてろ!

棗:なっ……!
  ……バッカじゃねえの!?

栄:気をつけて! 上!

荒人:げっーー

N:3人を大きな影が覆った。
  ビルの上から巨大な看板が、3人を押しつぶさんと落ちてくる。

栄:キャアア!

荒人:だあ! くそ!

N:荒人の瞳が色を失っていき、漆黒の瞳が看板を捉える。
  荒人は、超高速で腕を振るった。
  空気を震わすような風切り音が鳴ると、看板は4分割され、四方に散った。
  破片の激突したビルの壁が、各々に悲鳴を上げる。

栄:い、今のって……!?

荒人:あの野郎……! 俺に能力使わせやがって!
   くそっ! どこにいやがる!

N:荒人は、黒いビー玉のような瞳で周囲を睨みつけた。

棗:それが先輩の能力か……!

荒人:そうだよ!

棗:能力……そうだ! 栄サン!
  長く身につけてて大事にしてるもん持ってないか!?

栄:え!?

棗:なんでもいい!

栄:えっと……どうかな……! この指輪、とか?

棗:貸せ!(指輪を外す)
  オイ! 先輩! この指輪、真上に思いっきり投げてくれ!

荒人:あ!?

栄:は!? ちょっと! 棗ちゃん!? 何するの!

棗:高さはだいたいビルを超えるくらいまで! ちゃんと近くに落ちるようにしてくれよ!

荒人:あんまコントロールに期待すんなよ!

栄:いや! ちょっと! やめて!

荒人:うぉらああああ!

栄:いやああああ!

N:荒人は指輪を思い切り上空へ投げた。指輪は真っすぐ、高くあがっていく。

栄:何してるんですか! 大事なものだっていってるでしょ!?

棗:この状況で騒ぐくらい大事にしてるもんなわけだ。だったら上等だぜ。
  落ちて来た!

N:指輪は3人の10メートル程先に落ちると、数回跳ねて、ブティックの前に転がった。

荒人:おい! そんでどうすんだ?

棗:拾ってくる!

荒人:ああ!? おい、お前ーー

N:言うや否や棗は指輪の方へ駆け出した。
  8メートル、4メートル、2メートルあと少しで指輪に届くというところで指輪に異変があった。
  指輪はまるで意思があるようにふわりと浮き上がると、棗の前を漂った。

棗:……くそったれ……! なめやがって!

荒人;おいバカ! とっとと戻ってこい! 

栄:棗ちゃん!

N:指輪は再び動き始めた。しかしーー

棗:……え? なんで?

N:指輪は棗の中指にはまった。

田中:おいおい、女の子から指輪を奪うのがどれだけ重い罪なのか知らないのか?

N:棗の視線の先、信号機の下で、田中はヘルメットを指先で弄んでいた。


<前編>
<後編>


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台本一覧

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