青春と辟易
作者:ススキドミノ


【※最初に】
 本台本は有料上演配信使用権付き台本の販売がございませんので、基本的には読み合わせや友人同士の声劇などでお使いください。



貞緒(さだお):高校一年生。一見、モテない男子高校生だが、実は――

京一郎(きょういちろう):高校一年生。容姿端麗、頭脳明晰、運動もできるスーパーマンだが、天然なところがある。

聡太(そうた):高校一年生。読書研究部部長。本をこよなく愛する変人。




※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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貞緒N:晴天の霹靂だった。

京一郎:なあ、こんなこと言ったら……お前を困らせるのはわかってるんだけど。

貞緒N:高校二年生の夏休みを目前に控えた、ある放課後のことだ

京一郎:なんていうかなーー

貞緒N:俺は、クラスメートの友人に――

京一郎:俺……お前のこと、好きみたいなんだ。

貞緒N:告白をされた。


【青春と辟易】


 <読書研究会部室>
 <貞緒は机に頬杖をついて、小説を呼んでいる聡太をじっと見ている>

貞緒:……なあ聡太。

 間

貞緒:なあ。

聡太:……何?

貞緒:実は相談があってさ。

聡太:……何?

貞緒:……それが恋愛の相談なんだけどさ。

聡太:……何?

 間

貞緒:ちょっとは興味持っても良くない?

聡太:ちょっとは本読ませてくれても良くない?

貞緒:恋愛の相談だぞ! しかも夏休み前の超ホットなタイミングときてる
   聞きたくなるってのが男子高校生の性だろ!

 <聡太は本を閉じる>

聡太:(ため息)……読書研究部。

貞緒:うげ。

聡太:ここ、読書研究部だよね。たしかに人数足りないから名前貸してとは言ったけど……部室にくるんなら最低限マンガでもなんでも読書してくれるもんだと思ってたわけ。
   なのに貞緒と来たら本も読まずに携帯いじるかゲームやるかで、自分に悩みがあったら何?
   僕が本読んでるのを中断してまで君の話を聞けってわけ?

貞緒:あーわかったわかった! ごめんなさい! 俺が悪かったです!

聡太:思ってないくせに……ま、別に何しててもいいけどね。
   僕にとって貞緒は都合のいい名前だけの部員だし。
   貞緒にとってはこの部室は暇つぶしスペースなんだろうし。

貞緒:言うなよそういうこと! 読む! 本読むからさ! な?

総太:はあ? 別にいいよ。興味ないんだろ?
   それで? 恋愛の話だっけ?

貞緒:頼む、機嫌直してくれよ……!

総太:別に怒ってないよ。それで……話って何?

貞緒:え? あー……いや……なーんか熱が冷めちまった……。

聡太:ほら。そういうところが都合がいい。
   少し攻められると何にも言わずに飲み込むところ。
   で、そういうところが原因でなかなか恋愛が上手く行かないと……。
   なるほど……難しいな。
   よしわかった。諦めて流されるままに生きるのが一番だよ。

貞緒:まてまてまてまて。勝手に話終わらせんな……!

聡太:どうせ好きな娘がいるとかそういうのでしょ?

貞緒:それがそうでもなくてーー

聡太:なくて? 何なわけ。

 間

貞緒:……いや、やっぱやめとく。

 間

聡太:興味湧いてきた。
   まさか貞緒、女子に告白されたわけ?

貞緒:は? ……ああいや、そうじゃないんだけど。

聡太:やっぱり告白したほうなわけか。

貞緒:告白されたのは事実なんだけどさ。

聡太:……マジで? 貞緒が?
   どこの物好きの女子? っていうか完全に騙されてるよ。
   警察行きな。あ、僕が呼ぼうか。

貞緒:だぁかぁら! 話を聞けっての!
   なんていうか……その……。

聡太:回りくどいな……! 誰に告白されたっていうわけ!?

貞緒:だあああああもう!

 間

貞緒:……男だ。

 間

聡太:は?

貞緒:男なんだよ……! 男子に告白されたんだ。


 ◆


 <貞緒と聡太は教室のドアから教室の中をうかがっている>

聡太:冗談だ。

貞緒:俺だってそう思ってるよ。

聡太:あり得ない。

貞緒:だから俺だってそう思ってるって。

聡太:いいや! 絶対に僕の方が思ってる!

貞緒:なんなんだよその自信は!

聡太:あのさ。聡太に限らず、男が男に告白するのってどういう状況だと思う?

貞緒:は? そりゃあまあ……罰ゲームとか。

聡太:正解。基本的には冷やかしとか罰ゲームで言わされてるとか。
   大体聞いたことあるのだとラブレターとかだけどね、女の子の筆跡真似てとかさ。

貞緒:じゃあ、罰ゲームなのか?

聡太:早合点するな。
   もう一つ、男が男に告白する状況があるだろ。

貞緒:え? なんだよ、それ。

聡太:まったく……お前はそっちを先に考えたんだろ?

貞緒:……あ。

聡太:そうだよ。本当に好きで告白したってこと。

 間

聡太:何照れてるんだよ気色悪い。

貞緒:照れてねえよ! 考えてんの!

聡太:で、仮にどちらかの理由で相手が貞緒に告白したとすると……どちらが理由なのかが重要になってくる。
   それを知るために相手を見に来たわけだけど……。
   ねえ……本当に貞緒に告白した相手って――

 <京一郎は教室の中で友人と談笑している>

聡太:京一郎で間違いないんだよね。

貞緒:ああ。そうだ。

聡太:(ため息)はああああ……。

貞緒:なんだよ……!

聡太:そこがわかんないんだよな……。

 <聡太は頭を抱える>

聡太:京一郎だよ? あの! 京一郎!

貞緒:どのだよ!

聡太:だぁかぁら! 頭脳明晰、運動神経抜群で高身長で顔も美形!
   にも関わらず! にも関わらず! 誰にでも親切で根っからの真面目!
   学年一のモテメンズの京一郎だよ!

貞緒:『にも関わらず』なんで二回言ったんだ。

聡太:は? イケメンは基本性格悪いだろ。

貞緒:性格悪いのはお前な。

聡太:神様はだいたい人間の能力をシーソーゲームで決めるんだよ。何かが高ければ反対に何かは低いもんなんだ。
   なのにあいつはシーソーどころかトランポリンで大ジャンプだ。
   ……純粋にいいやつ過ぎて妬むこともできない。

貞緒:だとしたらお前は神様に地面に突き刺されたのかもな。

聡太:うるさいな! 本題はそこじゃないんだよ!

貞緒:いや、京一郎をトランポリンで飛ばせたのはお前だろ。

聡太:そんなスーパーいいヤツの京一郎は、絶対に罰ゲームや冷やかしなんかで告白したりしないんだ。

貞緒:……ってことは、マジってことだよな。

聡太:そこなんだよ。

貞緒:は?

聡太:仮に京一郎が男性が好きだとしても、相手は貞緒じゃないだろ。

貞緒:なんでだよ。

聡太:謎は深まるばかりだ……。

貞緒:おいコラ。

聡太:うん……これは迷宮入りだな。

貞緒:なんで俺じゃないんだ。釣り合わないとでもいいたいのかコラ。ほら言ってみろ。

聡太:京一郎と貞緒じゃ釣り合わない。

貞緒:はっきり言うんじゃねえ。

聡太:言えって言ったくせに。
   ……でも……んー。

 間

貞緒:どうした? 聡太。人の顔をジロジロと。

聡太:……いや。確かにね、惚れられるような顔じゃないしね。

貞緒:おい、失礼がすぎるぞ。

聡太:それに、惚れられるような性格じゃないし。

貞緒:おい。どっちも無くなったぞ。
   あと、性格についてはお前にとやかく言われたくねえ。

聡太:っとまあ……現状はわかった。
   で、貞緒は僕にどうして欲しいの?

貞緒:え?

 間

貞緒:え? あ、いやぁ……なんも考えてなかった。

聡太:とりあえず共有したかったってことね。

貞緒:……まあ……そういうことかな。

聡太:ま、何にしても真意を知らなくちゃどうしようもないからな。

貞緒:え? あ! おい! 聡太! 心の準備が――

 <聡太は教室の中に入る>

聡太:おーい京一郎。

京一郎:ん? おう、聡太か。

聡太:ちょっと来てもらっていい?

京一郎:ああ。いいぞ。

 <京一郎が廊下に出てくる>

京一郎:どうした?

聡太:悪いね、急に。

京一郎:……貞緒?

貞緒:お、おう! 京一郎! 元気か!

京一郎:ああ、元気だけど。……なんだ?

聡太:とりあえず部室で話したいことがあるんだよね。

京一郎:部室? 聡太って何部だったっけ。

聡太:……読書研究部だよ。知名度なさすぎだろ。


 ◆


 <読書研究会部室>

京一郎:へえ、文化棟はほとんど来ないから知らなかったけど、結構部屋広いんだな。

聡太:京一郎のとこはバレー部だろ? 運動部と比べるとものがないから、広く感じるだけだよ。

京一郎:確かに……広さは同じくらいか。

聡太:うちは部員も少ないし――って……そんな話をしに呼んだわけじゃなくてさ。

 <聡太は貞緒の頭を掴んだ>

貞緒:うぐ……!

聡太:こいつからちょっとした相談を受けてね。

京一郎:相談? って……ああ、もしかして。

聡太:そう。貞緒が京一郎に告白されたって言ってるんだけど……マジ?

京一郎:……ああ。したよ。

 間

貞緒:……聡太?

聡太:ごめん。一回気絶してた。

貞緒:あの……悪いな。京一郎。
   聡太に話しちゃったけど。良かったか?

京一郎:それはいいよ。っていうかしょうがないと思う。
    俺がお前の立場でもそうすると思うから。

貞緒:おう。サンキュな。。

聡太:ふざけんなよ普通に話進んでるじゃないか……! なんで僕を噛ますんだ……!

貞緒:いや。お前は重要だよ。クッション太。

聡太:誰がクッション太だ。口塞いで窒息させるぞお前。
   ……で、もうちゃちゃっと本題入るけど。京一郎は本気なわけ?

京一郎:それって、俺が貞緒を好きかってこと?

聡太:……貞緒。照れんなっての。

貞緒:いや……面と向かって言われるとな……。耐性ないんだよ。

聡太:で、どうなの。

京一郎:うん……。

 間

京一郎:……正直。わからない。

聡太:ガーン。

貞緒:勝手に効果音つけんな。

聡太:どういうことだよ。好きかどうかがわかんないけど告白したってこと?

京一郎:っていうか、貞緒見てこう……ドキッとしたことがあるんだよ。
    それで、もしかしたら俺は貞緒のことが好きなのかもって。

 間

聡太:は?

貞緒:……それだけ?

京一郎:それだけっていうけど……俺には初めての経験だったんだ。

聡太:ドキっとねえ……。

貞緒:ちょっと待てよ。初めてっていうけど……そういえば京一郎って、彼女居るだろ?

京一郎:え? どこで聞いたんだそれ。

貞緒:どこでっていうか……。

聡太:いやもうそんなもの予定調和中の予定調和だよ。
   京一郎クラスになると十人百人女子を侍らせて、女子の鎖骨にシャンパン溜めて、戯れに一口ずつ飲んでるに決まってるじゃん。

貞緒:なんだその妄想。キモ。

聡太:実際女子達からしたら、誰のアプローチも受けないあたり、学校外にモデルの彼女でも居るんじゃないかって噂になってるよ。

京一郎:いや、だから……そもそも俺、彼女なんて今までいたことないんだけど。

聡太:……え?

京一郎:だから学校外のモデルの彼女も……鎖骨にシャンパンも全くのデマだ。

貞緒:鎖骨にシャンパンは馬鹿の妄想だから気にすんな。

聡太:……京一郎。

京一郎:何だ?

聡太:俺、お前のこと、好き。

京一郎:お、おう。ありがとう。

貞緒:オイコラ。この状況でその単語はややこしいんだよ……!

聡太:だってこいつ童貞なんだぜ!?
   こんなイケてるのに! 僕たちの仲間じゃん!

貞緒:お前は、腐っても素直だな。

京一郎:とにかく。俺はその……恋とかをしたことがないんだ。

聡太:まあ……言いたいことはわかった。
   (ため息)状況を整理するぞ。

貞緒:頼んだ。クッション太。

聡太:京一郎は、恋愛をしたことがない。
   そんなある日、貞緒を見て胸がドキッとすることが続いた。
   そのドキッが恋愛感情だと判断した京一郎は、貞緒に好きだ。と告白した。

京一郎:正確には『好きみたいなんだ』って言ったと思う。

聡太:となるとだ。告白の返事どうこうの前に、やることがあるってことだな。

貞緒:やること?

聡太:京一郎のドキッが、本当に恋なのかどうかだよ。

京一郎:……なるほど。確かに、俺もこの気持ちがなんなのか知りたいよ。聡太。

聡太:そのセリフ、女子に言われたかったよ。京一郎。
   んー……京一郎が貞緒のどこにドキッっとしてるか……。

京一郎:ありがとう、悪いな。付き合わせて。

貞緒:いや、元はと言えば俺が――っていうか、どうすんだ?

聡太:そうだな……京一郎が貞緒にドキッっとする状況っていつだったとか覚えてる?

京一郎:え? それは……うーん、いつだったか……。
    正直、曖昧なんだよな。

貞緒:大体の日にちとかも覚えてないのか?

京一郎:日にちか……多分だけど、先月の終わりの方だったと思う。

貞緒:二週間前か。

聡太:二週間も自分の中の恋心の種に水を与えてきたってわけ。ロマンチックだね。

京一郎:そういわれるとなんか照れるな……。

貞緒:無駄に文学的な表現やめろ。

聡太:……日にちじゃなくてもさ、どんな授業があったかどうかくらい覚えてないの?

京一郎:授業? そうだな……。地理は午前に合ったと思う。
    あとは数学と、日本史……だったかな。

貞緒:京一郎のクラスの時間割表あるか?

京一郎:ああ。携帯に入れてあるよ。これだ。

 <聡太と貞緒は京一郎の携帯を覗き込む>

聡太:どれどれ?

貞緒:地理が午前にあって、他に数学と日本史があるっていうと……火曜か金曜だな。

聡太:いいや、金曜だ。間違いなくね。

京一郎:え? どうしてわかったんだ?

聡太:は? いや、京一郎は貞緒にドキッとしたっていったろ?

貞緒:それがなんだよ。

聡太:ってことはその日、京一郎は貞緒と直接会ってるわけだよ。
   休み時間や昼休み、放課後って可能性もあるけど……もし授業で会ってるとしたら。
   貞緒のクラスと京一郎のクラスが合同でやってる授業があるはずだ。
   火曜は単独の授業が多いけど、金曜日は――体育と生物がうちのクラスと合同授業だろ。

京一郎:なるほど。俺と貞緒は、体育と生物の授業で会ってるってことか。

聡太:まあそこでドキッとしたかどうかはわからないけどね。
   さっきも言ったけど、普通に休み時間や放課後の可能性もあるし。

貞緒:休み時間って可能性はないのか?

聡太:その線は薄いとは思うんだよな。

京一郎:どうしてそう思うんだ?

聡太:確かに俺達は同じ中学出身ってことで仲は良いかもしれないけど、そもそもクラスが違うし。
   それに京一郎って普段、クラスの超一軍と一緒にいるだろ?
   貞緒は八軍だし、そんなに接点もないと思うんだけど。

京一郎:(聡太を睨む)聡太……その言い方は好きじゃないな。

聡太:わかってるって。京一郎が誰にでも偏見なく平等に接せることができるやつだってことはさ。
   ……でも実際、貞緒と京一郎って、ほとんど休み時間には話さないだろ?

京一郎:まあ確かに……クラスも違うからな。

貞緒:……その前に、俺が八軍ってところにまだ引っかかってんだけど。

聡太:例えば……そうだな。
   ちょっと、そっちに椅子を並べてくれ。

京一郎:わかった。

貞緒:何をするんだ?

聡太:生物室を再現するんだよ。

京一郎:そうか。その日のことを思い出すために、同じ状況を作ってみるわけだな。

 <三人は部室の椅子を並べる>

貞緒:っと……少し数は足りないが、まあ大体こんなところだな。

聡太:で、そうだな……二人はどこに座ってた?

貞緒:え? いや……急に言われても。
   っていうか、その日に何の授業やってたかもわかんねえし。

聡太:なるほど、貞緒のテストの点が壊滅的な理由が良くわかった。

貞緒:それに関してはなんも言えねえ……。

聡太:京一郎。君は授業のノート、とってるよね。

京一郎:ああ。ちゃんと板書もしてるぞ。

聡太:流石。今あったりする?

京一郎:ああ、今日は生物もあったしな。
    (ノートを取り出して)……これだ。先月の末……金曜日はーー
    遺伝情報とその働き、だな。

貞緒:やっぱり聴き覚えがねえ。

聡太:期末テストで貞緒とはお別れみたいだね。

貞緒:あのさ……京一郎。このノート……あとで貸してくれるか?

京一郎:コピーしたのでよければいいぞ。

貞緒:神よ……!

聡太:ま、ノートを見たくらいで成績が上がるなら苦労しないと思うけどね。

京一郎:その日の授業は……DNAの二重螺旋構造か……。そういえば――

聡太:なにか思い出した?

京一郎:この日は……そうだ。DNAの構造を表した模型を使ったんだ。

貞緒:あ。なんかちょっと思い出した。
   なんか棒に珠を刺していく、みたいなやつだよな。

京一郎:そうそう。

聡太:大体どれくらいの距離感だったんだ?

京一郎:えっと、俺がこの辺に座ってて、貞緒は確か……その辺だよな。

貞緒:あー、そうだな。俺はいつもここ座る。

京一郎:授業は前半が座学で、その途中で実験道具が配られたんだ。

 <三人は部室の中に散らばる>

聡太:実験には、玉を使ったんだよね。……テニスボールでいいか。
   はい、これ。

貞緒:なんでこんなにテニスボールあるんだよ?

聡太:うちの部室の外によく溜まってるんだよ。
   コート、すぐそこだろ。

貞緒:いや、なんで返してないのかって意味で聞いてるんだけど。

聡太:え? ムカつくから。
   スコート姿の女子を横目に爽やかな汗流して、キャーキャー言われてさ。

貞緒:……そうか。ちゃんと返せよ。

聡太:とにかく! これ渡すから、なんか実験のときの感じとか出せよ。
   なんか思い出すかもしれないし。

貞緒:つってもなあ……。

京一郎:……貞緒。あの日の授業で……何かやらなかったか?

貞緒:え? なんかって?

京一郎:確か玉をこう……お手玉みたいな。

 間

貞緒:あーー! やったやった! ジャグリングを披露したわ!

聡太:授業中に何をやってるんだお前は……!

貞緒:で! 皆にはウケたんだけど、すぐ先生に注意されて、それで……。
   思い出した! 先生の声にビビって玉を落としたんだ!

聡太:うわーダッサいなあ。

貞緒:で、玉がころころ転がって……。

 <貞緒はテニスボールを転がす>

京一郎:俺の足元へ来た。

聡太:お! いいぞいいぞ! 何かが起こる予感がする!

京一郎:俺は貞緒に、何やってんだよって笑って言った。

貞緒:俺は、悪いな京一郎っていいながら京一郎に向かって歩いていって――

聡太:これは……! 来るのか! ドキッが!

 <貞緒はゆっくりと京一郎に手を伸ばす>

貞緒:俺が京一郎に向かって手を伸ばすと――

京一郎:貞緒の足元にもう一つ玉が転がっているのが見えた。

貞緒:俺は玉を踏んで思い切り後ろに転びそうになった。

京一郎:俺はとっさに貞緒の手を掴んだ。
    だけど勢いが強くてそのまま貞緒に引き倒された――


 <京一郎は貞緒に覆いかぶさる>

京一郎:いってて……! 貞緒、大丈夫か?

貞緒:……う、うん。ありがとう、京一郎……。

京一郎:(微笑んで)まったく。お前は器用なのに、変なところでドジだな。

貞緒:そ、そんなこと……!

京一郎:ほら。立てるか?

貞緒:うん……ありがとう。ドキドキッ。


聡太:(貞緒の頭を叩いて)お前がドキッとしてんじゃねえか!

貞緒:うわほんとだ! 俺がドキッとしてる! 京一郎イケメンすぎ!

聡太:いや! でもわからないぞ!
   男ってのは守りたい生き物。目の前で照れる貞緒の顔見て、京一郎がドキッとした可能性もある!

貞緒:そ、そうか! どうだったんだ! 京一郎!

京一郎:え? あーいや……普通に、貞緒って感じかな。

聡太:まあ、普通にキモいよな。

貞緒:オイコラ。普通に傷つくんだが。

聡太:となると……生物の授業じゃないか。

貞緒:あとは体育の授業だけど……。

京一郎:先月はずっとバレーボールだったと思う。
    でも、バレーはクラスでコートが別れてるから、貞緒と話した覚えがないな……。

聡太:覚えてないって言われると弱るなぁ……。

貞緒:休み時間か放課後だと正直確かめようが無いぞ。

京一郎:確かに……貞緒といつ何を話したかって聞かれたら、正直なんとも言えないな。

貞緒:うーん……。

 間

聡太:……ブレてる。

貞緒:は?

聡太:話がブレてるだろ。
   そもそも! 京一郎が貞緒を好きになったってところから始まってるわけだよ。

京一郎:まあ、そうだな。

聡太:ってことはだ! 確かめ方がそもそも間違ってる。

貞緒:どういうことだ?

聡太:京一郎が貞緒を好きになったきっかけばかり探してるけど、答えなら今も目の前にあるってことだよ。

 <聡太は貞緒と京一郎の手を掴んで並ばせる>

貞緒:おい! なんだよ!

京一郎:聡太?

聡太:ほら! ここに向かい合って立って。

 <聡太と貞緒は向かい合って立つ>

貞緒:お、おい……! 何させる気だよ!

聡太:黙れっての! 僕に相談してきたのはお前だろ!?

京一郎:……で、何をするんだ?

聡太:京一郎。貞緒をハグしてみて。

 間

貞緒:なあああに言ってんだてめえは!?

京一郎:聡太! そ、それは流石に!

聡太:じゃかあしい! 普通に中学のときから罰ゲームとかでキスとかしてんだろ俺たち!

貞緒:そういう問題じゃねえだろ!?

聡太:もし本当に! もし本当に……京一郎が貞緒に恋してるんなら、きっと同じようなドキッが来るかもしれない。

京一郎:……それは……。

聡太:……わかったよ。じゃあ、ハグな。

京一郎:え? あ、ああ……わかった。

聡太:じゃあ……さん、はい!

 <京一郎と貞緒は抱きしめ合う>

聡太:……うわぁ……なんだよこの絵面は……。
   僕、何を見せられてるんだ……?

貞緒:も、もういいか?

京一郎:……ああ。

貞緒:じゃあ、離れるぞ……。

 <京一郎と貞緒は離れる>

貞緒:(深呼吸)ふうー……。

聡太:で、どうだった?

貞緒:え? ああ、思った以上にいい匂いが――

聡太:お前じゃないっての!
   ……京一郎、どうだった?

京一郎:……いや。違うかもしれない。

貞緒:……は?

京一郎:すまない。俺は貞緒を好きなわけじゃないと思う。

 間

貞緒:そ……そうか。はは!
   なんだよー! 安心したぜ! 本当、どうしようかと思ったわ!

聡太:なんでお前がフラれた感出してんだよ……。

貞緒:冗談はさておき。まあ、本当に良かったぜ。
   俺はほら……京一郎の気持ちには答えられないって思ってたし。

京一郎:貞緒……。

貞緒:(笑って)それにさ。やっぱ京一郎とはほら……友達でいたいっていうかさ。

 間

聡太:はいはい! これで一件落着!
   ったく人騒がせな……。

貞緒:いやー! 悪かったな、助かったぜソタえもん!

聡太:ゴロわっるいな……! ……はらたつから帰り、なんかおごれよ。

貞緒:牛丼でいいか?

聡太:上等じゃん。なあ! 京一郎も行くだろ?

貞緒:京一郎の分は奢らねえけどな!

 間

聡太:京一郎?

 <京一郎はうつむいている>

貞緒:おい京一郎、どうした?

京一郎:……思い出したんだ。

聡太:は? 何を。

京一郎:俺が貞緒にドキッっとした瞬間。

聡太:……え? マジで!?

京一郎:ああ。

 <京一郎は椅子に座る>

京一郎:先月の末に、体育の授業の前。

貞緒:体育の前?

京一郎:ああ。教室で着替えして、体育館に行く前……。
    少し寒いと思って、ジャージの上を取りに教室に戻ったんだ。

 間

京一郎:貞緒の教室を通りがかったとき、ちらっと中を覗いたんだ。
    そうしたら、貞緒の机の前にジャージを着た人が立ってて……。
    確認してみたら確かに……貞緒に見えたんだ。後ろ姿だけど。

聡太:まあ、貞緒だろうな。

京一郎:それで、上着を脱いだら……。

聡太:脱いだら?

京一郎:……おっぱいが、あった。

 間

聡太:……は?

京一郎:確かにその……おっぱいがあったように見えたんだ。

 間

京一郎:いや! だからあの! ちゃんと全部見たわけじゃなくてだな!
    横からちらっと見えただけなんだ!
    お、俺は別にその……! やましい気持ちがあったわけじゃなく――

聡太:いやいやいや! そうじゃないそうじゃないって!
    え!? いや! 貞緒におっぱい!?

京一郎:あ、ああ……俺とっさにごめん!って言って教室を出たんだけど……。
    その時に多分、ドキッっとしたと思う……、

聡太:いや、マジで、本当、なにそれ……!
   いやマジで! なんでそれを忘れられるわけ!?

京一郎:だって! そんなのただの見間違いだって思うだろ!?
    それに俺、そのあと一生懸命バレーしてたから忘れてたんだ……!

聡太:鳥頭か! バカか! いや、ちょっと天然なのは知ってるけど、それにしてもお前……!

 間

聡太:っていうかそれもちがああああう!
   そんな話どうでもいいんだって! 貞緒におっぱいがあった!?

京一郎:そ、そうだな! どうなんだ、貞緒……!

聡太:なんかさっきから黙ってるよな……!

貞緒:あ、おう……。

聡太:……は? なんだよ、その反応……!

貞緒:え? ああ、いや……だから……なんていうかさ。

 間

聡太:……え。マジで……?

京一郎:さ、貞緒……お前まさか……女の子、だったりするのか?

 間

貞緒:……ああ、俺。女だけど。

 間

京一郎:そ、聡太。こう言ってるけど……。

聡太:待て……京一郎。思い返せ。
   中学の時、貞緒の裸を何度も見てるはず。
   プールでも、修学旅行の風呂でも……!

京一郎:ごめん……覚えてない。
    貞緒ってプールの授業休んでなかったか?

聡太:んなわけあるか! 僕は貞緒とプールに……!
   ――あれ? いや、入ったっけ?

京一郎:修学旅行でも班が別だったし、一緒に入った覚えがない……。

聡太:嘘だ。嘘だ嘘だ嘘に決まってる!
    貞緒が女なわけあるかよ!

貞緒:……いや、嘘だよ。

京一郎:でも本当に貞緒が女の子だったとしたら色々と辻褄があう。
    女子とも全然付き合わなかったりとか。

貞緒:だから嘘だって。

聡太:僕達は、ただただ貞緒がモテないだけだと思ってたけど……根本的に違っていたってことか!

貞緒:ただただモテないんだよ! お前ら話を聞け!

 <貞緒は2人の頭を叩く>

聡太・京一郎:いった……!

貞緒:俺は男だっての!

聡太:……証拠は?

貞緒:なんでそっちを疑ってんだよ! お前らが言ったんだろ!

京一郎:……だったら、あの時見た人はいったい……。

貞緒:あー……それだけどな。

聡太:なんだよ、心当たりあるのか?

貞緒:え? あーいや……別に……無いといえばないけど……。
   あるといえばあるって感じで……。

聡太:なんだよ、言ってみろ。

貞緒:……じゃあ、ひかないって約束してくれるか?

 間

聡太:ひいたわ。

京一郎:ああ、見損なったぞ。

貞緒:まだ何も言ってないだろ!
   だから! なんていうか……そんとき教室居たのは俺だよ。

聡太:で……何してたんだよ?

貞緒:だから……その、俺結構、最近太ってきたっていうかさ……。
   それでその……寄せて上げたら、おっぱいになるかなーって、ほら、試しにやってみてさ。
   意外といけるなと思ったからその、写真にとってみたり――

 <聡太と京一郎は鞄に荷物をまとめ始める>

聡太:帰るぞ、京一郎。

京一郎:ああ。

貞緒:おい! ひかないって約束したろ!

京一郎:すまないな、聡太。騒がせて。

聡太:ったく……本当だよ。人騒がせな。

京一郎:ああ、俺も色々疲れてたみたいだ。

貞緒:おい! 無視すんなって! オイ!

聡太:じゃーな、変態。

京一郎:貞緒、またな。

貞緒:マジで先に帰る気かよ! おい――


 <貞緒を置いて聡太と京一郎は廊下へ出る>

聡太:なんなんだよこのしょうもないオチは……!

京一郎:我ながらなんというか……。

聡太:それにしても京一郎……おっぱい見ただけで好きになったってわけ?
   本当に童貞仲間なんだな。大好き。友達として。

京一郎:え? あ、いや……そう言われると恥ずかしいな。

聡太:恥ずかしがることないって! 僕だってもし女の子の裸見たら絶対好きになっちゃうし。
   ……まあ、お前の場合は、変態相手だったけど……。

京一郎:……それなんだけどさ。
    ほら、貞緒ってモテないけどその……整った顔してるだろ?

聡太:は? 貞緒が?
   ……まあ、認めたくはないけど。中性的な顔してるよね。

京一郎:高校に入ってからその……体つきも丸いというか。

聡太:確かに、ちょっと太ったかな。

京一郎:生物の授業の時に触った時も、身体、柔らかかったんだ。

聡太:……おいおい……マジでいってんのか?
   勘弁してくれよ……!

京一郎:そうじゃなくて! ただ、あの時に驚いて振り向いた貞緒の顔が……ずっと忘れられなくてさ。
    まるで、本当の女の子みたいに、目を見開いて。
    俺、やっちまったって思ったのと同時に……なんか綺麗だなって――

 間

聡太:京一郎……。

京一郎:何だ?

聡太:お前、本当にいますぐ彼女作った方がいいよ。

京一郎:お、おう。好きな人ができたら――

聡太:いいや! 今すぐ! ほら! すぐにでも告るんだ!
   でないと僕はお前と友達でいられなくなる!

京一郎:い、いや待てって――


 <読書研究部の部室>
 <一人、部室の鍵を手に取る貞緒>


貞緒:あー、にしても……見られてたのかぁ……。
   最近サラシもきついし……いい加減潮時っぽいなあ。
   っていうか……あいつら以外みんな知ってんのに、なんであいつらは俺が女だって気づかないんだ?
   修学旅行の時も女子部屋にいるし、健康診断とか全部女子側にいんのに。
   そういや今日……一応あいつらに、俺が女だって言ったよな。
   うん……まあ、一応、こう、言ったんだから、俺は悪くないよな。うん!
   (微笑んで)……ま、俺もあいつらと男子のノリで居んの居心地いいし、もう少し付き合ってやるかぁ。

 <貞緒は電気を消して部室を出る>

貞緒:(吹き出して)明日は気づけよ、バーカ。





 完





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