歌うように晴れたら 第4話
作者:ススキドミノ
【※最初に】
本台本は有料上演配信使用権付き台本の販売がございませんので、基本的には読み合わせや友人同士の声劇などでお使いください。
登場人物
石野文香(いしのふみか):女性教師。看護教諭。
深川敦也(ふかがわあつや):男性教師。音楽教師。
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
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<音楽室>
文香:深川先生。
敦也:ん? あー、石野か。どうした。
文香:あのぉ……私が気を使って深川先生って呼んでるのに……。
敦也:あ、そう。石野看護教諭、どうしましたか?
文香:ほんっと、ひねくれてますよね。深川先輩。
敦也:はい。先輩って言ったからお前も同罪な。
文香:……女子生徒が数人出ていきましたけど?
敦也:ああ、あいつら用もねえ癖に音楽室に入り浸ってんだよ。
こっちは忙しいってのに。
文香:ふぅん……。それって、先輩と話したいからだってわかってます?
敦也:はぁ?
文香:わかんないかぁー。先輩みたいな不良っぽい先生は、女子高生にはモテるんですよ。
敦也:おいこら、不良っぽいって何だ……。
文香:自覚ないんですね。
敦也:っていうか石野。何か用事あったんじゃないのか?
文香:いえ、別に。
敦也:お前なぁ……。
文香:いいじゃないですか。たまには。
敦也:たまにじゃねえよ……お前、暇っつーとすぐ来んだろ。
文香:あ。じゃあ、今週末飲みに行きません?
敦也:暇つぶしついでに誘ってくんな。こっちは忙しいんだよ。
文香:ああ。合唱祭近いですもんね。
敦也:っていうか、お前も手伝え。
文香:え、何をですか?
敦也:そっちに各クラスの自由曲をまとめてあるから、石野は楽譜を探してくれ。
文香:うえー……マジかー……。
敦也:追い出すぞ、てめえ……。
文香:了解です……。
<二人は黙々と作業している>
文香:……先輩と音楽室いるのって、不思議な気分です。
敦也:あぁ?
文香:いや、まあ……学校は違いますけどね?
でも、音楽室だなーって。
敦也:確かにな。つーか……お前と同僚になるってのが不思議だよ。
文香:そうですか?
敦也:ああ。普通にビビった。
文香:先輩のこと追いかけてきたって言ったら、どうします?
敦也:普通にキモい。
文香:うわ、ひっどい。
敦也:っていうか、お前の方が先に居ただろうが。
文香:あ。じゃあ先輩が私を追いかけてきたパターン?
敦也:だったらどうする?
文香:……え?
間
敦也:……は? 何お前、マジだと思った?
文香:……普通にキモいですね。
敦也:だろ。
文香:あーあ……なんか先輩ってロマンチックと程遠いですよね。
敦也:勝手に期待すんな。
文香:高校時代の先輩は素敵だったのになぁー。
敦也:はぁ? 何の話だよ。
文香:合唱部に入ったばっかりの時に、私が曲のことで悩んでたら、先輩が声かけてくれて――
敦也:覚えてねえ。
文香:うわ、ひどい……!
敦也:っていうかお前、入ったばっかの頃から上手かったろ。
文香:そんなことないです! 全然ハイトーンが出なくて、悩んでましたもん……!
敦也:そういう技術的なことじゃねえよ。
文香:じゃあなんですか……。
敦也:教師になってから尚更思うけどな……高校生ってのは、自分の性格を表に出すことだって怖いもんだ。
だから、本質的に自分に何ができるかってこともわからなかったりする。
文香:はい。そうですね。
敦也:お前は、高校から合唱部に入って、周囲の部員に直ぐ馴染んだ。
他の部員に声かけて、よく一緒に練習してたりしてな。
文香:……はい。
敦也:高校時代からお前は、上手かったよ。自分を出すのが。
文香:……何か、先輩って……。
敦也:なんだよ……。
文香:いや……ずるいよなって……。
敦也:ずるいってなんだ……!
文香:だって! 普段ひねくれてて、口悪い癖に……!
たまにこう……! 真面目なこというじゃないですか!
敦也:本人を目の前によくそこまで言えたもんだな……お前……。
文香:……先輩って、どうして教師になったんですか?
敦也:んだよ、急に。
文香:いや。てっきり音楽家になるものだと思ってたんで。
敦也:……才能あるやつなんて、山ほど居る。上には上がいるもんだろ。
文香:……本当ですか?
敦也:んだよ……話し辛いことなんだから、察しろよ。
文香:すみません。でも……大学言ってからの深川先輩のことって、知らないので。
敦也:じゃあ、今度飲み行った時にでも話してやる。
文香:え? 本当ですか?
敦也:お前が誘ったんだろ。断ったら殴るぞ。
文香:あ、え? いや、なんか……意外な展開……。
敦也:うるせえな……。っていうか、手動かしてんのか?
文香:動かしてますよ。あとちょっとで終わります。
間
文香:はい! 終わりました。楽譜の方に、付箋貼ってますから。
敦也:おう。助かるわ。
文香:いえいえ。私も、保健室戻らないと。
<ドアに向かう文香を敦也が呼び止める>
敦也:おい、石野。
文香:はい?
敦也:これだろ。
<敦也は楽譜を文香に見せる>
敦也:俺がお前に教えた曲。
文香:……忘れたって言ってませんでした?
敦也:バーカ、忘れねえよ。
今度、久しぶりに歌って聴かせろ。
文香:……考えておきます。それじゃ。
<文香は音楽室を出ると、小さく息を吐く>
文香:……本当……ずるいよ、先輩は……。
ああもう……好きだなぁ……!
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第5話
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