リサと魔法使い
作者:紫檀




オズ♂:自称魔法使い。頭と口の回転が早い
リサ♀:オズの自宅に使用人奉公している少女
アカネ♀:女の子
ミカ♀:女の子
熊:リサの妄想に登場する熊。オズがやる
モブA~G♀:リサの妄想に登場するモブ。全部リサが兼ねる。がんばれ


※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)





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 山奥のささやかな木造の家

 キッチン

 眠たげな目を擦りながらオズが登場


オズ:……おはよう

リサ:あ、おはようございます、オズワルドさん

 リサが食卓の用意をしている

リサ:今日はお早いんですね

オズ:ああ…今日は少し予定があってね。寝ていたいのはやまやまなんだが

リサ:グウタラしているより余程いいんじゃないんですか? ちょうどスープが出来上がる頃合いですよ

オズ:なんだ人をいつでもグウタラしているみたいに。(香りを嗅いで)んー、いい香りだなあ。何のスープだい?

リサ:ペイザンヌです。お野菜たっぷりの

オズ:何か手伝う?

リサ:いいえ、お気遣いなく

オズ:いいじゃないか。手伝うよ

リサ:そう言って昨日もお皿を2枚割りましたよね?

オズ:あれは…ちょっとした事故?

リサ:はいはい。オズワルドさんはグウタラしているくらいが丁度いいんですよ

オズ:そうか…仕方ない


 オズが食卓につき、リサは正面を向く

リサM:皆さん、ごきげんよう。私はリサ。リサ・バルトーニャと申します

リサM:こうして皆さんの前でお話を始めますと、皆さんはまず最初に、私はどこで生まれたとか、どんな哀れな子供時代を過ごしたとか、はたまた恵まれた家庭に産まれたとか、私が生まれる前に両親が何をしていたとか、そういった “デイヴィッド・コパフィールド” 的なあれこれを知りたがるかも知れません

リサM:でもハッキリ言って、そういったお話をするつもりはないのです

リサM:ひとまず私については、あちらに座っているオズワルドさんという方の、身の回りのお世話をしている、とだけ添えておきたいと思います


 リサ、スープを味見する

リサ:うん。いい感じ

オズ:どうだい? 味の方は

リサ:はい! ここ数日で一番かも知れません

オズ:そりゃ楽しみだ。あ、食器でも並べようか?

リサ:…オズワルドさん

オズ:…分かったよ


リサM:こちらのオズワルドさん、私の遠縁にあたる方なのですが、身の回りのことは何をやっても駄目駄目。一時あまりにも荒れ果てたその生活環境から、見かねた親族が私を遣わせたというわけです


オズ:いやしかし、リサが来てくれて本当に助かったな。人類の文明的な生活態度というものに気づかされたよ

リサ:本当に…来た時は目を疑いました…

オズ:いや、私も本来ならば身の回りの整理をこなしうる能力くらいは備えている。しかし、なにぶんあまりにも長い時間を山奥で過ごしてきたものだから、少々人間界の常識というものに疎くなってしまっていて――

リサ:はいはい、朝食が出来上がりましたよ

オズ:おお! うまそうじゃないか!

リサ:うまそうじゃなくて、美味しそう、です。はしたないですよ

 リサ、食卓に料理を運び自分も席に着く


リサM:さて、一見ズボラでなんの取り柄もなさそうなオズワルドさんですが、ひとつだけ、彼には言及すべき点があるのです


オズ:それでは…いただきます

リサ:いただきます

オズ:(食事を口に運んで)んー! うまい!

リサ:うまいじゃなくて、おいしい、です

オズ:おいしい!

リサ:(やや呆れたように笑う)…それで、このあとの予定というのは、いつもの――?

オズ:ああ、『魔術セミナー』さ


リサM:それは彼が、“自称”『魔法使い』であるということ


リサ:噂には聞いていましたが、やっぱり本当にあったんですねえそういうの

オズ:うむ、今回も非常に有意義な会となることを期待しているよ

リサ:ふーん…

オズ:ん、このサラダもなかなかうま……おいしいな

リサ:…その会合、私も見に行っていいですか?

オズ:(噴き出す)

リサ:実は私も結構興味あるんですよね、魔法

オズ:(しばらくむせながら)…だめだめ! 我々とて近代化の波に乗って『セミナー』なんて意識高めな呼び方をしているが、あくまで魔術の徒にとっては伝統と格式を重んじた神聖な場なんだ! 一般人がおいそれと参加していいようなものじゃないよ

リサ:えー、駄目ですか

オズ:それにだ、リサ。(咳払い)我々の扱うような魔術や術式の類いは、ともすれば人に対して害を与えうるものだ。こうして私に尽くしてくれているリサを、危険な目にあわせたくはないのだよ…

リサ:なるほど〜


リサM:しかし彼に奉公すること早一ヵ月、彼が実際に魔術のようなものを行使するところを私は一度も見たことがありません


オズ:…さてはリサ、私の事を疑っているな? 私が実は何の魔法も使えないただのペテンだと!

リサ:そんなことないですよー

オズ:いやわかる、わかるぞリサ、君の気持ちはよおく分かる。なにせ我々魔法使いは決して表舞台には姿を表さない、いわゆる陰の住人だ。過去何百年にもわたってその存在は秘匿され、口に出すことすら禁忌とされてきた。ゆえにペテンとの見分けを付けることはそう容易なことではない

リサ:その割には随分あっさりカミングアウトされましたが

オズ:つまりはこういう事だろう。「本物の魔法、わたし見てみたいです!」…と!

リサ:まーそんな感じですねー

オズ:…いいだろう。今から一つやって見せよう

リサ:分かってますよ。どうせまた……えっ、本当ですか!?

 リサ、思わず椅子から腰を浮かせて前のめりになる

オズ:……ああ、特別にね

リサ:「魔法使えるなら掃除も魔法でやってください」って頼んでもまったくやる気を見せなかったのに!?

オズ:うむ

リサ:「しつこいカビ汚れがあるんですけど魔法で落とせませんか」と聞いたら「結局磨くのと労力も面倒臭さも変わらない」とか言ってベッドでごろごろしてたのに!?

オズ:どうしたんだリサ。まぁ少し落ち着きなさい

 オズ、スプーンを一本持ち、目の前に縦に構える

オズ:今からこの、銀のスプーンをだね――

リサ:スプーンを指先の力だけで曲げるなんてつまらない冗談なわけないですよね?

 オズ、スプーンをそっと机の上に置く

オズ:(深呼吸)

リサ:オズワルドさん?

オズ:リサ。やはり先ほども言ったように、魔法というのは非常に危うい…危険な行為なんだ。人間一人の命や人生を簡単に、捻じ曲げてしまうことが出来る

リサ:はぁ

オズ:だから申し訳ないが、あくまで一般人である君の目の前で、そういった力を行使する事は出来ない。これは私個人の名誉についてではなく、魔術師としての信念の問題なんだ

リサ:なるほど…そういうことなら、まぁ仕方ないですね

 がっくりと俯くリサ

オズ:しかし……

リサ:!!(顔を上げる)

オズ:やって見せる事は出来ないが……話して聞かせるということは出来る

リサ:へ…?

オズ:実は君は……魔法それ自体は見てはいないが……それに近しい事象を既に目にしているんだ

リサ:? どういうことですか?

オズ:より正確に言えば、一種異様の者が存在していること、それ自体を既に目撃している

リサ:はぁ

オズ:三日前のことを覚えているかな

リサ:三日前? ああ、あの珍しくお客さんが来た――


 三日前

アカネ:ごめんくださーい

 間

ミカ:どう? いそう?

アカネ:う〜ん、どうだろう

ミカ:ここで合ってると思うんだけどなあ…

アカネ:人は住んでそうだけどね

ミカ:違ったらどうしよう…

アカネ:まぁその時は謝れば許してくれるって!

 扉が開きリサが顔を出す

リサ:はーい、どちら様……って、あら?

アカネ:あ! あの――


 現在

オズ:そうだ。三日前、女学生が二人ここを訪れただろう

リサ:はあ、まあ……。アカネちゃんとミカちゃん、でしたっけ


 再び三日前
 机を挟んでオズとリサ、アカネとミカの二組が向かいあって座っている

アカネ:あの、この辺りに住んでいるらしい薬師(くすし)の先生をさがしているんですけども

リサ:とのことなんですが…

オズ:ふむ…薬師ねぇ…

ミカ:………

アカネ:人の住んでそうな場所がここしかなかったので、もしかしてと思ったんですけど、やっぱり違いましたかね

リサ:(遠慮がちに)そうですねぇ…この辺りで薬師というのは耳にしたことが――

オズ:いかにも、私がその薬師だ

リサ:えっ

アカネ:本当ですか!

オズ:ああ、この付近で薬師と言えば私をおいて他にはいまい。むろん薬師を名乗るペテンがいれば話は別だが、幸いそういった輩はこんな山奥には住まない。だろう?

リサ:ちょっと、先生

オズ:紹介しよう、私の優秀な助手で薬師見習いのリサ・バルトーニャだ。今はまだ簡単な薬の調合しか出来ないが、その仕事の丁寧さは私が保証しているよ

リサ:(呆れかえって言葉がでない)

アカネ:凄い…本当にいたんだ…。やったね、ミカ!

ミカ:う、うん


 現在

リサ:本当に、今後いっさい先生の言葉は信用しないと誓いました

オズ:まあまあ、嘘も方便というやつだ。この時点では彼女たち二人の目的を知る事が何よりも先決だった


 三日前

オズ:しかし妙だな。いったいどこで薬師がいるなんていう話を聞きつけたんだね? 街に広告を出した覚えはないんだが

ミカ:おばあちゃんから聞いたんです、私の

オズ:ほう

ミカ:昔、何度かここを訪れたと言っていました。メアリーという名前で花屋を営んでいた女性に覚えはありませんか?

オズ:(はっと何かに気付いたように)マダム・オズボーンか!

ミカ:はい!

アカネ:うそ! やっぱりメアリーおばあちゃんの知り合い!? てかオジサンいくつなんですか!?

ミカ:ちょっとアカネ! 失礼だよ

アカネ:えーいいじゃん!

オズ:ふふふ、美容には気を使ってるんだ、なんたって薬師だからね


 現在

リサ:そういえば、あの娘(こ)のお祖母さんが訪れた薬師というのは一体

オズ:ああ、この家の前の家主だよ。私も何度か会ってはいてね、地下にある調合用器具のほとんどがその人の残したものだ

リサ:なるほど…通りであんなに反応が早く…

オズ:偏屈なジイさんだったよ。西海岸の生まれでね

リサ:今はどちらに?

オズ:故郷(ふるさと)の土の下に埋まっているよ

リサ:………

オズ:他に質問は?

リサ:もう一つだけ。なんでそのお祖母さんの姓が分かったんですか?

 間

オズ:それは勿論……魔法だよ

リサ:(小声で)魔法は危険だったんじゃ……

オズ:厳密に言えば、魔力的な何かを感知するタイプのアレがソレだよ

リサ:ハンカチではなく?

オズ:ん?

リサ:彼女が手に持っていたハンカチに“メアリー・オズボーン”と書かれた刺繍がしてあったので。お祖母さんからのお下がりとかですかね? それを見たのかと思いました

 間

オズ:………驚いた、素晴らしい観察力だ。リサ、君は探偵を目指した方がいい

リサ:いや褒めても誤魔化されませんよ!?

オズ:私は全然気付かなかったなあ!

リサ:絶対嘘ですよね!? 絶対ハンカチのことガン見してましたよね!

オズ:さあ話を戻そう!


 三日前

オズ:しかし、君たちのような可憐な少女がこんな山奥にまで来て求める薬というのは一体何なんだろうね。惚れ薬とか?

ミカ:アリザリン、です

リサ:アリザリン?

ミカ:はい

オズ:ほう…これはまた随分とピンポイントな注文だ

リサ:アリザリンって、何に使うんですか?

ミカ:えっと、それは……

 ミカとアカネが目を見合わせる

アカネ:どこから説明したらいいんだろう?

オズ:……オズボーンさんは、まだ花屋を続けられている?

ミカ:はい。といっても、今はほとんど母が店番をしていますが

オズ:そこに関係していることかな

ミカ:そう、ですね。私もいずれは後を継ぐということで、いくつか花を育てる手伝いをしているんです

オズ:ふむ

ミカ:ただ…最近になって問題が起きて…

リサ:問題?

アカネ:ある花だけぜんぜん育たなくなっちゃったんだよね〜

ミカ:…そうなんです。肥料の種類を変えたり、色々と手を尽くしてはみたんですが、上手くいかなくて

オズ:そこでマダム・オズボーンに相談をしたと

ミカ:はい。そしたら、ここへ来てアリザリンという薬を貰い、水やりに混ぜれば良くなるかも知れないと

オズ:なるほどねえ。アリザリンかあ…

ミカ:少ないですが、こちらが謝礼になります。どうかお力添え頂けないでしょうか

オズ:なんて礼儀正しい子なんだ

リサ:ちょっと先生…! ごめんなさいねミカさん、そのお金は受け取れないんです。そもそもウチにはアリザリンなんて――

オズ:あるんだなこれが

ミカ:本当ですか!?

リサ:ちょっと先生!? (オズを部屋の隅まで引きずって)こればっかりは嘘だったら絶対に許しませんからね!?

オズ:いやほんとにあるって

リサ:いいですか、人間には絶対に越えてはならない一線というものがあるんです。今回のこれがその一線です。もしあの子たちを騙して適当なものを渡すつもりなら…

オズ:大丈夫。絶対大丈夫そんなことはしない

リサ:……

オズ:私を、信じなさい

リサ:(溜息)……じゃあせめて、あんな若い子たちからお金を受け取るのはやめてください

オズ:えー

リサ:先生?

オズ:………はい

リサ:――ということでミカさん、アカネさん、すぐに薬をご用意しますからね

ミカ:は、はい。ありがとうございます

アカネ:ありがとうございます!

 ぶつくさ言いながらオズが部屋の奥へ消えていく

リサ:謝礼もお気持ちだけで結構ですので

ミカ:そんな、いいんでしょうか

リサ:大丈夫です。本当に


 現在

オズ:かくして、私はボーナスを受け取り損ねたものの、彼女たちは無事に目的であるアリザリンの入手を達成したわけだ

リサ:受け取ったところで変な用途に消えるだけじゃないですか

オズ:欲しかったなあ…龍涎香(りゅうぜんこう)…今週の目玉商品だったんだ…

リサ:またわけのわからないものを…。ところで、最初の話はどこに行ったんですか

オズ:え? 話って?

リサ:異形(いぎょう)のモノがなんとかって、言ってたじゃないですか

オズ:あーそういえばそんな話だった

リサ:今のところ、ふたりの健気な少女がお使いに来ただけの話に思えるんですが

オズ:ああ、あのアカネと名乗った方の少女だがな

 不敵な笑みがオズの口元に浮かぶ

オズ:彼女は“アンデッド”だ

 間

リサ:は?

オズ:それでミカちゃんの方がその主人、“死霊使い(ネクロマンサー)”というべきかな

リサ:あの、ぜんぜん理解が追い付かないんですが

オズ:一種異様とはそういうものだ。順を追って説明しよう


 場面はふたたび三日前へ
 音声はなく、オズとリサの会話する声だけが流れてくる


オズN:まず着目すべきは、二人の行動の順序だ

オズN:はじめに玄関から入る時、リサが引いた扉をアカネが支え、先にミカを室内に入れていた

 オズの言葉通りにそれぞれが行動していく

リサN:友人としての気遣いじゃないですか?

オズN:次に、部屋に招かれ着席し、我々に茶を勧められた時だ。ミカが先に腰を下ろし、先にカップに口をつけた。対してアカネはまるで主人の二歩後ろをつけるように逐一行動していた

リサN:…たまたまじゃないですか

オズN:極めつけは、私がアリザリンの入ったフラスコを手渡す場面だ。私が差し出したフラスコをまずアカネが受け取り、軽く中身を確認するような動作とともに、用意していた風呂敷に包んでから、ミカに渡している


 現在へ場面が戻る

リサ:言われてみればそんなことをしていたような…

オズ:このように、彼女たちの行動ひとつひとつに焦点を当ててみると、そこには主従関係に近しいものが介在しているように思えてこないかね? ただの同級生だというには少しばかり不自然な…

リサ:言われてみればそんな気がしないでもないですが…。でもだからってそれで彼女たちがネクロマンサーとアンデッドだなんて、そんなことにはならないんじゃ

オズ:そもそも、ここは人里離れた山の奥だ。そんなところに、ごく普通の可憐な少女がたった二人きりでやってくると思うかね

リサ:それは確かに…

オズ:祖母の紹介があるとは言え相手は山奥に住む偏屈な薬師、無事に辿り着いた所で何をされるかわかったもんじゃない。それに帰りの道中だって…日が暮れてきたら熊が出るかもしれない! まぁ私は見たことはないが

リサ:なんだか一理あるような気がしてきました

オズ:だろう? つまり現時点で推察される事として、彼女ら二人は戦闘能力に相当の自信がある

リサ:はいはいはい! ちょっと待ってください

オズ:ん?

リサ:今聞いた限りの情報からだったら、こういう風にも考えられると思います。つまり、アカネちゃんはミカちゃんの――執事(バトラー)だった


 リサの脳内の映像へ

熊(オズ):グオオオオオオオ!!

ミカ:あらあら、森の中でくまさんに遭遇だなんて、まるでどこかの童謡みたいな状況ね

アカネ:全くです、ミカ様

ミカ:見た所大きめの個体のようだけれど、どの位かかりそうかしら?

アカネ:“穴(あな)持たず”のようですね。普段より5秒多く頂ければと

 ※穴持たず…何らかの理由で冬眠できなかった熊。とても凶暴

ミカ:構わないわ。付近の住人のためにも、確実に息の根を止めなさい

アカネ:『Yes, My lord(はい、ご主人様)』 (かっこよく手袋を装着する)


 場面、戻る

リサ:という感じで、アカネちゃんは代々ミカちゃんの家に仕える召使(サーヴァント)の家系だったんですよ

オズ:なんかキャラクター変わってないか

リサ:これだったら、ミカちゃんを優先するようなアカネちゃんの行動や、たった二人で山奥まで訪ねてきたことにも説明がつきます!

オズ:確かに可能性は否定できないな

リサ:ですよね! だからいきなりアンデッドだなんて突拍子もない話は――

オズ:まあ待ちたまえ、これから核心に触れるところなんだから

リサ:核心?

オズ:そうだとも。ずばり――“花屋”というのはな、“死霊使い(ネクロマンサー)”の隠語なんだ

 間

オズ:我々の界隈ではな

 間

オズ:なんだねその顔は

リサ:本当かなあという顔です

オズ:まったく信用されていないな

リサ:逆に聞きますけどこれまでに信用できる要素がありましたか?

オズ:――彼らに“花屋”なんていう可愛らしい愛称がついた理由は遥か14世紀初頭、死霊魔術(ネクロマンシー)の誕生にまで遡る

リサ:……

オズ:世界で最初のネクロマンサーとなった人物、はたして男性だったか女性だったかは神のみぞ知るところだが、ここではミカさんとしよう

リサ:ミカさん

オズ:そしてミカには唯一無二の親友とも呼べる存在がいた。この人を便宜的(べんぎてき)にアカネと呼ぼう

リサ:なんだかややこしくなりそうですね

オズ:彼女たちは辺境の小さな村に住んでいた。ミカは平凡な魔術師の見習い、アカネは花屋の娘だった


 場面はオズの脳内(?)映像に

アカネ:ミーカっ

ミカ:アカネ!? なんでここに

アカネ:メアリーおばさんから聞いたの。裏山にいるって

ミカ:お母さんが? お店の手伝いはいいの?

アカネ:うん、今日はもう閉めるって。感謝祭も近いしね

オズN:平和な大地と、長閑(のどか)な空気。ゆっくりと流れる時間の中で、二人の友情は育まれた

アカネ:今はなんの実験?

ミカ:…これ

アカネ:…枯れ葉?

ミカ:見ててね

 ミカ、地面に枯れ葉を置き、その上から薬品のようなものを垂らす

アカネ:なにこれ…!

 薬品の垂れた場所から芽が生え、あっという間に綺麗な花へと成長する

アカネ:凄い! お花になっちゃった!

ミカ:おばさん達には言わないでね

アカネ:え、なんで?

ミカ:ほんとはいけないの、死んだものに命を宿らせるのは。それにほら

 いつの間にか花は枯れている

アカネ:あれ、枯れちゃった

ミカ:魂がね、昇華(しょうか)して逃げちゃうんだ。繋ぎとめる何かが見つかればいいんだけど

アカネ:ふうん、そっかぁ

ミカ:だから、これは私とアカネだけの秘密

アカネ:ひみつ……なんかいいね、それ

オズN:この時の彼女たちには知る由(よし)もなかった。大都市から離れ、教皇庁の影響力が薄れたその地で、禁忌とされた死霊魔術(ネクロマンシー)の萌芽(ほうが)もまた育まれていたという事を

アカネ:じゃあさミカ、わたしの秘密も聞いてよ

ミカ:アカネの…秘密?

アカネ:うん、わたしね、いつかこの村をお花でいっぱいにするのが夢なんだ。それをミカにも手伝って欲しいの

ミカ:ええ、お手伝いなんて出来るかな

アカネ:きっと出来るよ! ミカのその魔法が完成したら、いっぱいお花を咲かせられるでしょ?

ミカ:た、たぶん…

アカネ:だから、ミカは魔法を研究して、私はお花を育てて、それを皆に買ってもらうことでこの村をお花でいっぱいにするの。素敵じゃない?

ミカ:素敵…うん、素敵だね!

アカネ:その夢を叶えられるようになるまで、これは二人だけの秘密……約束だよ

ミカ:うん、約束する

アカネ:よし! じゃあ今日のところは戻ろう! お腹もすいて来ちゃった

ミカ:うん!

オズN:それはあまりにも危うい才能であった。大いなる歴史の力が、看過することを許さないほどの…


 現代へ

オズ:さて、ここで私の優秀なる助手リサ・バルトーニャ君に一つ質問だ。14世紀初頭、我が大陸を騒がせた流行り病をご存知かな?

リサ:…ペスト、でしょうか

オズ:そう、ペスト。語源はラテン語で伝染病を意味する“pestis”。高い致死性を持っていたこと、罹患(りかん)すると皮膚が黒くなることから「黒死病」とも呼ばれ恐れられた

リサ:でも、今となっては殆ど化石みたいな病気ですよね?

オズ:その通り。公衆衛生と医療技術の発達した現代においてはさほど恐ろしい病ではない。だが彼女たちの生きていた当時にしてみれば、それは間違いなく「死」の概念そのものだった

リサ:まさか…そのペストが彼女たちの村にも?

オズ:風か水か、はたまた人か。その経路が何であれ、死神は彼女たちの元へ送り届けられた。ひょっとするとそれは、命を弄(もてあそ)んだ者たちへの報復だったのかも知れない


 場面転換
 勢いよく扉が開かれると、ミカが部屋の中へ駆け込む

ミカ:アカネっ!

アカネ:あ……ミカ……(咳き込む)

 ベッドの上に横たわるミカ
 かつての面影もないほどに皮膚のあちこちが腫れあがっている

ミカ:アカネ…! こんなことって…

アカネ:ミカ、なんで…

ミカ:おじさんから聞いた。アカネが倒れたって

アカネ:ゲホッ…駄目だよ、あんまり近づいたら。うつしちゃう

ミカ:関係ないよ! ねえアカネ、これ飲んで。お母さんから貰ってきたの、腫れと熱によく効くの

アカネ:ありがとう……

 アカネ、ゆっくりと身体を起こす

ミカ:はい…お水

アカネ:ん…

 アカネ、ミカの差し出したコップで薬を慎重に飲み下す

ミカ:アカネ……

 間

アカネ:ねえ…ミカ…

ミカ:なに…?

アカネ:ごめんね

ミカ:なんで謝るの。駄目、そんなの聞きたくない!

アカネ:お願い…聞いて、ミカ

ミカ:アカネ…

アカネ:私ね、何となくわかるの。お医者さまは言おうとしないけど、これは悪い病気だって

ミカ:そんなことない。きっとすぐ治るよ

アカネ:肉屋のオスカーさんが亡くなった

ミカ:…! なんでそれを…

アカネ:お母さんたちの話をこっそり聞いちゃった。テレサも、マイクも、向かいのメイおばさんのところも…役場の人たちも何人も倒れてるって

ミカ:……

アカネ:きっと死神さまがやってきたの。黒い死を運んで、私たちの行いを正しに…

ミカ:アカネは悪くない! 何も悪くないよ!

アカネ:ごめんね…約束、守れそうにないや…

ミカ:いやだ。いやだよ

アカネ:ミカ…

ミカ:…!

アカネ:もう…ここへ来ちゃ…駄目だ…よ…

ミカ:アカネっ! アカネぇ!!


オズN:ほどなくして、アカネが息を引き取ったとの報(しら)せがミカの元へ届けられた。村の実に半数以上の犠牲を出した疫病は、ミカに対してだけはその死の鎌をふるわなかった

ミカ:なんで……私だけが……生き残って

オズN:最愛の友人を失ったという絶望…それが、最後の一線を踏み越える決意を彼女に与えたのだった。

ミカ:もう一度…アカネに会うんだ…絶対に、絶対に…ッ!


オズ:…ということで、ついに彼女の禁断の研究が始まったわけだ

リサ:なるほど……最愛の友人を蘇らせたいという想いが、死霊魔術(ネクロマンシー)の誕生に繋がったわけですか

オズ:そういうことだ。ミカの強いパッションが、魔術史に残る偉大な発明を生み出したのだ…

リサ:なんかカッコつけて言ってますけど今のは仮のミカさんの話ですよね? うちに来たミカちゃんとは今のところ何の関係もないですよね?

オズ:そうだ、ミカさんの話だ

リサ:なんてややこしい…

オズ:そしてここからもう一つ重要なキーワードが――

リサ:待ってください。私からもあります

オズ:なに?

リサ:今の先生のお話を聞いてピンとくるものがありました。ネクロマンサーなんかよりもよっぽどリアリティがあるお話です

オズ:なんだと

リサ:あの二人を繋いだ運命の悪戯(いたずら)、それは禁断の魔術などではありません。―――禁断の“恋”です

オズ:禁断の………恋……?


 場面が切り替わる(リサの脳内映像)

アカネM:私の名前はタチバナ アカネ。どこにでもいる普通の女子高生。親の転勤で突然海外に留学する事になって、今日からアニー・クラフト・シニアハイスクールでの新生活が始まります

モブA(リサ):ハロー、私はキャサリン、今日からルームメイトよ。気軽にキャシーって呼んでよね

アカネ:ハーイ、キャシー。私はアカネ、ニッポンからの留学生よ

アカネM:そう、私の故郷は、ニッポン。サムライがニッポンソードを振るい、ニンジャが日夜暗躍する国。全国民が毎日寿司を食べる国。そんな所からたった一人で留学、転入してくる事になった私は、不安もあるけど、海外のイケメンプレイボーイ達との薔薇色の青春への期待で胸を踊らせていたわ。でも――

モブA(リサ):クラスメイトを紹介するわね。彼女はジュリア、ダンスクラブの部長なの。彼女はナンシー、図書委員で本を読むのが大好き。そして彼女はアンナ、数学が凄く得意で、難しい課題が出た時は皆から頼られてるわ。そして彼女は――(アドリブで他に何人出しても良い。ただし全員女の子)

アカネM:ここ女子校じゃん!

モブA(リサ):共学校? ああ、隣の地区にあるアニー・コックロフト・ハイスクールの事かしら。イケメンが多いらしいわね

アカネ:ガーン(何かが崩れ去る音)

アカネM:しかもここは全寮制で、外部との不純異性交遊は禁止!? そんな……私の薔薇色の青春が……モテモテイケメンパラダイスが……!

 急にザワつくたクラスメイト達

アカネ:ん? 皆どうしたの?

モブB(リサ):ねぇ、ミカ様が久しぶりに登校なさったって…

モブC(リサ):え!? あのミカ様が!?

アカネ:ミカ様って?

モブD(リサ):転入生なら知らないのも無理ないわね。ミシェーラ・ローズ・オズボーン様、通称ミカ様は、我が校の中等部を3年間常に成績トップの首席で卒業し、3年連続ミス・コンテスト優勝のパーフェクト・ヒューマン。生徒達からは絶対的な人気と崇拝を集め、校内にはファンクラブだけで勢力図が出来上がるほど。つまり、我が校のスクールカーストの頂点に立つお人よ

 取り巻きの者達によって扉が開かれ、ミカが登場する

ミカ:…皆様、ご機嫌麗しゅう

モブE(リサ):ハアンッ! ミカ様! 今日もなんとお美しい…!

ミカ:あら、アナタは…アカネさんね

アカネ:はい!? なんで私の名前を――

ミカ:聞いているわ。新しい転入生なんですってね。これから宜しくお願いしますわ

アカネ:あ…ど、どうも

モブF(リサ):誰あの子!? ミカ様に話しかけて貰えるなんて…!

モブG(リサ):しかも初対面なのに名前まで覚えられてるの!? 許せないわ…キーッ!

アカネM:この時の彼女の視線が、まさかあんな意味を持っていたなんて、私には知る由もなかった…


リサN:キーンコーンカーンコーン。そして放課後…

アカネM:なんだろう…ロッカーの中に入ってたこの手紙…。「放課後、一人で指定の教室に来なさい」。L108…ここかな

 扉を開くアカネ

ミカ:待っていたわ…アカネさん

アカネ:貴女は! ミカ…様…?

ミカ:うふふ、様だなんてやめて欲しいわ。でも…そういうのも悪くないわね

 アカネに歩み寄るミカ

アカネ:えっと…あの

ミカ:私ね、ずっと興味があったの。だって“貴女たち”って、こちらの人より随分と柔らかそうに見えるから

アカネ:えっ

 ミカ、そっとアカネの頬に手を触れる

ミカ:ねえ、今まで遠目にしか見た事がなかったから教えて欲しいのだけれど

アカネ:何をでしょうか

ミカ:“東洋人”って皆、貴女みたいに可愛らしい顔をしているのかしら?

アカネ:……ッ!(トゥンク)

 ミカの口がアカネの耳元に近付いていく

ミカ:この教室ね、今は誰も使っていないの。だから誰も来る心配はないわ…(アカネの耳に息を吹きかける)

アカネ:ひゃあッ!!(思わず飛び退く)

ミカ:うふふ、可愛らしいわぁ。冗談よ。…でも半分は本気

アカネ:あ、あの、その

ミカ:今日の所はこれくらいにしておいてあげるわ。また明日、この場所に来てちょうだい

アカネ:……あわわ

ミカ:勿論この事は他言無用。昼間の様子を見たでしょう。他の生徒にバレてしまったら…貴女大変な事になっちゃうわよ? ふふっ

 ミカ、教室を出ていく

アカネ:……………どうしよう

アカネM:私の名前はタチバナ アカネ。どこにでもいる普通の女子高生だったけど、今日からなんと海外の学校での新生活! 外国系イケメン達との薔薇色の日々を期待していたのに…入ってみたら女の子しかいない女子学校! しかもスクールカースト一位の超絶美少女から早々に目を付けられて!? 一体私、これからどうなっちゃうの〜!?!?


 場面転換(現実へ)

リサ:ということです!

オズ:いやどういうこと!?

リサ:分からないんですか? 分からないんですか、この尊さが!?

オズ:趣旨が変わってるじゃないか! ボツだボツ!

リサ:そんなぁ〜…

オズ:昨今はな、あんまり露骨なのは逆に煙たがられるんだぞ

リサ:そうですか…

オズ:えー…それで、私の方はどこまで話したかな

リサ:確か、重要なキーワードがなんとかって

オズ:そうだった。(咳払い)うちにやってきた女学生二人について、“花屋”という隠語の他にもう一つ重要なキーワードがあった。それが―――アリザリンだ

リサ:あ〜、そもそもそれが彼女たちの目的でしたよね

オズ:そうだ。アリザリンの用途は知っているかな?

リサ:肥料ですかね? 水に混ぜて花にあげるって言ってませんでした?

オズ:そういう使い方もある。だがアリザリンは肥料としては一般的ではないんだ

リサ:そうなんですか?

オズ:ああ、毒性があるからな。だから肥料としては、植物の中でも特定のものにしか使えない

リサ:つまりミカさんはその種類の花を育てていたと?

オズ:素直に解釈すればそうだが…アリザリンにはもっとポピュラーな使い方があってな

リサ:ポピュラーな?

オズ:アンデッドの保存液だ



リサ:……それポピュラーなんですか

オズ:ああ、我々の世界ではな

リサ:はぁ

オズ:話はふたたびミカさんの時代まで遡る


 場面はまた14世紀へ

ミカ:もう一度…アカネに会うんだ…絶対に、絶対に…ッ!

オズN:親友を取り戻すため、禁じられた魔術に手を染める事を決意したミカ。だがその過程には多くの苦難があった

ミカ:……! またッ!

 机の上の研究器具をなぎ倒すミカ

ミカ:なんでッ…! なんで魂が定着してくれないの…!

オズN:研究は失敗の連続だった…。数々の生物、動植物を対象に蘇生魔術を施したが、施した直後から細胞の崩壊が始まり、みるみるうちに朽ち果てて行った。単純な菌類の蘇生すら不可能だった

ミカ:また…失敗…

オズN:試せる触媒は全て試した。だがいずれにしても、最終的に彼女の目の前には、朽ちた黒い塊が残された

ミカ:アカネ……会いたいよ……。アカネ…!

 間

オズN:そんなある日のことだった。彼女は彼女の庭で、あるものが生えているのを見つけた

ミカ:これは…アンズタケ…? なんでこんなところに

オズN:彼女は即座に、その場所の意味に気付いた

ミカ:ここは……そんな、まさか!

オズN:そう、その黄色いキノコの生えていた場所は、まさに前日に彼女が実験での失敗作を埋めた場所だったのだ。しかも全く同種をだ

ミカ:もしかして…子実体(しじつたい)が残っていたの? いえ違うわ。それにしては成長が早過ぎる

オズN:そしてふと見上げると、彼女が同じ庭に植えていたある植物が目に入った

ミカ:アカネの…花


リサ:アカネの花!?

オズ:そうだ。運命的だろう

リサ:そうか、アリザリンって…そういえば、アカネの

オズ:その通り。セイヨウアカネの根から分泌される強力な抗酸化物質、それがアリザリンだ

リサ:なるほど…

オズ:今でこそ化学的に合成されているものが殆どだが、古くはアカネの根から精製していた。そしてこの物質が、ミカの死霊魔術(ネクロマンシー)を完成させる最後のピースとなったのだ


ミカ:滅びを誘(いざな)う死の神よ
   生命(いのち)をもたらす地の母よ
   万物流転の理(ことわり)を我は拒む
   森羅万象の法(のり)を我は却(しりぞ)ける
   彼の者の運命(さだめ)を覆(くつがえ)し
   我は修羅の道に身を委(ゆだ)ねよう
   彼の者に持てるすべての呪いと祝福を

ミカ:レス シータ ティオ!!


 ・
 ・
 ・


 場面、現在に戻る

オズ:仮にあのミカという少女が本当にただの花屋だというのであれば、アリザリン程度のものは自分でアカネを栽培して採取すればよいだろう。

リサ:確かに

オズ:だが彼女はこんな山奥まで来て、わざわざ薬師が“魔術用”に精製したアリザリンを求めていった。この時点で、もう答えは出ていると思わないか?

リサ:う〜ん…つまりは蘇生の魔法に使うためのアリザリンが無くなってしまったから、ここに来たと

オズ:というより、“維持”のためだろうな

リサ:維持?

オズ:ああ、隣にいたアカネちゃんのためにな

リサ:ええっ!?

オズ:彼女がアンデッドであろうことは先ほども言ったが、加えてわずかに芳香(ほうこう)性の匂いを感じた。恐らくはかなり昔に…それこそ彼女が産まれるのとほぼ同時期に呼び出された個体だろう。ゆえに下界で新規に作られたアリザリンでは肌に合わず、わざわざ祖母のつてを辿って年季の入った「昔風」のアリザリンを求めに来た。そんなところだ

リサ:なるほど…

オズ:さて、以上を踏まえてみてだ。どうだね? リサくん

リサ:どうって、何がですか

オズ:我々の生活のすぐそばに魔術的存在が跋扈(ばっこ)していること。そして自らが、それらのすぐ近くに身を置いているということ。……ご理解頂けたかな?

リサ:…うーん、あまり実感はありませんが

オズ:うんうん、まあ急には難しいだろうが、ゆっくりと受け入れていけばいいさ

リサ:なんだかいいように言いくるめられた気しかしませんが…

オズ:では、私はそろそろ『セミナー』に向かうとしよう! 夕方には戻るよ

リサ:はーい、道中は熊に気を付けてくださいね

オズ:なぁに熊程度、私の火炎魔法でイチコロさ、ハハハハハ!

 オズ、高笑いしながら去っていく

リサ:ふむ…納得できたような、イマイチ腑に落ちないような…


 チャイムが鳴る

リサ:はーい! 今出ます!

 玄関に出るリサ

リサ:はい? 手紙ですか。オズワルド先生に? はあ、ありがとうございます

 リサ、部屋に戻る

リサ:差出人は……ミカ・オズボーン!?

 リサ、思わず周りを見回し、おそるおそる手紙の封を切る

リサ:えー…拝啓、薬師ピエール=ジャン・ロビケ様へ


ミカ:先日は急な訪問にも関わらず、親切にして頂きありがとうございました。また、あれだけの上質なアリザリンをすべて無償でお譲り頂き、感謝の念に尽きません

ミカ:ロビケ先生から頂いたアリザリンのお陰で、成長の止まっていた花が、無事にまたすくすくと育ち始めました。祖母も大変喜んでおります。

ミカ:これでまた、うちの花屋でアカネを育てることができます。また、先生から頂いたアリザリンをもとに、新しい肥料のレシピも作ることができました。

ミカ:“アカネ”も、先生に感謝していると申しております。

ミカ:本当にありがとうございました。感謝のしるしとして、こちらの手紙に花を添えさせて頂きました。いよいよ寒さの深まる頃ですが、先生もどうかご自愛ください。 敬具


リサ:………アカネの花

 リサ、言葉を失い目を見上げる





















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