ロールプレイングケーキ
作者:ススキドミノ


三島 春香(ミシマ ハルカ) ♀ 女子生徒。
能代 恵一(ノシロ ケイイチ) ♂ 男子生徒。
上谷 舞子(カミヤ マイコ) ♀ 女子生徒。
秋野 連太郎(アキノ レンタロウ) ♂ 男子生徒。
八谷 亜紀(ハチヤ アキ) ♀ 教師。


※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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真夜中の教室。
秋野が真っ暗な教室内に入ると、そこには担任教師の八谷が立っていた。
八谷は秋野に気づくと、小さく微笑みを浮かべた。


連太郎「・・・」

八谷「あら、秋野君。どうしたの?こんな時間に教室に来るなんて」

連太郎「はっちこそ、なんでこんなとこにいるんですか?」

八谷「こら、ちゃんと八谷先生って呼びなさいっていってるでしょ。それに、質問に質問で返すのはマナー違反」

連太郎「・・・それは失礼しました。質問に答えると、僕は先ほど電話をいただきまして」

八谷「それで、どんな電話だったの?」

連太郎「ただ、今からこの教室へ来いと・・・それが僕がここにいる理由です」

八谷「ふふ、そんな電話に従うなんて、意外と好奇心旺盛なんだね」

連太郎「こう見えて、知らないことがあるのは許せないタチなんで」

八谷「だったら、授業もサボらないでしっかり受けてくれるとうれしいんだけど」

連太郎「善処します。それで?八谷先生は、何故ここに?」

八谷「私は、ある人を待っていたの」

連太郎「それはそこにいる"それ"のことですか?」

八谷「いいえ、"これ"は違うわ」

連太郎「待っていた・・・ということは、待ち人は現れたんですね」

八谷「ええ、その通り」

連太郎「なるほど・・・。八谷先生、もう一つ聞いてもいいですか?」

八谷「いいわよ、何かしら」

連太郎「"それ"は、生きているんですか?」


 秋野が指差したのは教壇。
 教壇には、血にまみれた生首が鎮座していた。




 場面転換。



 昼休みの高校。
 秋野は雨がふる屋上の扉を開ける。



連太郎M
「雨がふっている。
 街全体がモノクロのフィルターを通したように味気なくて、物悲しくて、どうしようもなく落ち着く。
 塗れたアスファルト独特の匂いと、キラキラと光る建物だけが、僕を現実へ引き戻してくれる。
 雨がふると大抵僕は高い所へ登る。
 例えばそう、今日のような昼過ぎの通り雨の時には、高校の屋上のドアを開きにいく。
 そこから見える景色に、期待して。


連太郎「あ・・・」


連太郎M
「その日、屋上には先約がいた。
 全身をくまなく雨に濡らした彼女は、防護フェンスをこえた先に一人佇んでいた。
 彼女が僕と同じ様に、空想の境目を求めてきたのであれば、物語も少しは変わっていたのかもしれないけれど。
 どうしようもなく、彼女は現実主義だったんだ。


春香「・・・私は一人です」

連太郎「・・・奇遇だね、僕も一人なんだ」

春香「他人は好きです。私じゃないから」

連太郎「僕は他人は嫌いだな。僕じゃないから」

春香「笑い声を聴くのはたのしいです。一人じゃないんだって教えてくれるから」

連太郎「笑い声を聴くのはこわいよ。一人なんだって自覚させられるからね」

春香「秋野君は、一人なんですか?」

連太郎「見ての通り、僕は一人さ」

春香「私は今・・・もしかしたら一人じゃないのかもしれません」

連太郎「何故だい?」

春香「ここには秋野君がいるじゃないですか」

連太郎「・・・そう思うのは自由だけどさ」

春香「・・・私、一人って嫌なんですよ」

連太郎「え?」

春香「お菓子って、好きですか?」

連太郎「あまいものは好きなほうだと思うよ」

春香「それじゃあ、ケーキは、どうですか?」

連太郎「考えたことがないけど・・・どうしてそんなことを聞くんだい?」

春香「ケーキになりたいなーって」

連太郎「・・・」

春香「ほら、家族が皆笑顔でテーブルを囲んで、その中心にはケーキがあるじゃないですか?」

連太郎「それはほんの一例に過ぎないだろう。幸せじゃないケーキだってたくさんある」

春香「例えば、なんです?」

連太郎「例えば・・・ケーキは太る。女の子はそういうの気にするんじゃないかな」

春香「ふふ、それは幸せ太りっていうんじゃないですか?」

連太郎「・・・それじゃあ君は、自分がケーキじゃないから生きていくことをやめるってこと?」

春香「・・・可笑しなこといいますね」

連太郎「君にそれを言われるとは思わなかったな。・・・そこから飛び降りる気だったんだろう?」

春香「ええ、さっきまでは」

連太郎「やっぱり可笑しいのは君さ」

春香「でも私、言ったじゃないですか、一人じゃないかもしれないって」

連太郎「言ってたね」

春香「秋野君も言ったじゃないですか、そう思うのは自由だって」

連太郎「・・・言ったね」

春香「だから、私は一人じゃないんです。だから、生きていけます」

連太郎「理解が追いつかないんだけど・・・結局君は飛び降りるのをやめたってことね」

春香「そうです」

連太郎「あっそ・・・。ねぇ・・・三島さん」

春香「なんですか?秋野君」

連太郎「そこ、いってもいいかな。僕の特等席なんだよね」




 場面転換



 昼休みの教室。
 能代の目の前に、上谷が座っている。



恵一「あーだりぃ・・・頭いてぇ・・・」

舞子「あーだりぃ〜あたまいてぇ〜」

恵一「・・・真似すんなよ・・・」

舞子「まねすんなよ」

恵一「・・・めんどくせぇ・・・」

舞子「ふふ、そういえば、次の数学自習になるらしいね」

恵一「あ?何で?」

舞子「さっき八谷先生がいってたよ。数学の・・・なんだっけ?あいつが出張だそうだ」

恵一「木村先生な。もう三年なんだから・・・それ位覚えておけよ」

舞子「必要なこと以外極力覚えないようにしてるのさ」

恵一「いちいち疲れるわ、お前の相手してると・・・」

舞子「全然傷つかない!」

恵一「ほんと、変なやつだよ。お前は・・・。お、連太郎」

 体操着を来た連太郎が教室に入ってくる。

舞子「やぁ、連太郎君」

連太郎「ただいま」

恵一「ん?なんでお前体操服なんて着てんだ?」

連太郎「雨にふられちゃってね」

舞子「また屋上?飽きないね」

恵一「雨の日くらいやめりゃあいいのによ」

連太郎「雨だから、かな」

恵一「はぁ・・・だから俺の周りは奇人変人の集まりだとかいわれるんだ・・・」

舞子「もしかしてその奇人変人の中には私も入っているのかな?」

恵一「不服か?」

舞子「いや、光栄だ」

連太郎「・・・あれ?木村先生、珍しく遅いね。いつもならこの時間には準備してるのに」

恵一「どうやら自習らしいぜ」

連太郎「そうなんだ」

 濡れた制服のまま、三島が教室に入ってくる。
 それをみた恵一はバックのなかからスポーツタオル取り出すと、
 はじけたように三島のもとへ走り寄る。

舞子「おや、めずらしい。三島さんが教室に来てるじゃないか」

連太郎「付け加えるなら、びしょ濡れで」

舞子「うーむ、シャツも透け具合がなんとも。青少年達の目の毒・・・いや、この場合眼福というべきかな」

連太郎「親父くさいよ」

恵一「春香!」

春香「恵一君」

恵一「なんて格好してんだ・・・!着替えはねぇのか?」

春香「うん。でも、大丈夫だよ。すぐ乾くし」

恵一「そういう問題じゃねぇんだよ!」

春香「怒らせるつもりはなかったんです・・・ごめんなさい」

恵一「・・・俺の体操着貸すから、とりあえず廊下に出るぞ」

 能代は、三島の手を引くと、教室を出て行く。

舞子「相変わらず仲むつまじいねぇ」

連太郎「僕としては彼らのヒーローヒロインっぷりに頭が痛くなるけどね」

舞子「・・・ヒーロー、か」

連太郎「どうしたんだい?」

舞子「なんでもない」




 場面転換。



 夜の教室。
 興味深そうに生首を観察する秋野を八谷は見つめている。



八谷「秋野君はどう思う?」

連太郎「質問に質問で返すのはマナー違反じゃないんですか?」

八谷「これは先生からの問題です。職権は有効に使わないとね」

連太郎「ちゃっかりしてますね。・・・僕は今まで、首だけで生きている人間を見たことはないです」

八谷「正解、確かに"彼女"は死んでいるわ」

連太郎「何故女性だと分かるんですか?」

八谷「それはもちろん、彼女が私の教え子だったからよ。顔くらい覚えているわ」

連太郎「だった・・・だなんて、つめたいんですね」

八谷「死んでもお前は俺の生徒だ!!・・・どう?様になってる?」

連太郎「様にはなってますが、シャレにはなっていません」

八谷「おもしろい!そのセンスに先生ハナマルあげちゃう!」

連太郎「やったー。ついでに単位もください」

八谷「それはダメ。単位がほしいんだったらちゃんと授業に出るように」

連太郎「ちっ・・・」

八谷「舌打ち、減点1点」

連太郎「職権乱用です」

八谷「職権は有効に使わないとっていったじゃない」

連太郎「・・・で、"それ"の残りはどこにあるんですか?」

八谷「あなたもひどい言い方するわね、元クラスメートでしょう」

連太郎「死人に口無し。"彼女"は別にどういわれても文句はいいませんよ」

八谷「・・・どうしてこんな生徒になってしまったのかしらね」

連太郎「先生の献身的な教育の賜物ですかね」

八谷「教師としてやっていく自信がなくなってきたわ・・・。職種、変えようかしら」

連太郎「それは困ります。僕ははっちが大好きですから」

八谷「またその呼び方・・・けどうれしいから許しちゃう」

連太郎「・・・現金な人ですね」

八谷「真夜中の教室で生徒に告白される・・・教師になる前からの夢のシチュエーションだったのよねー」

連太郎「その夢にはちゃんと首だけの死体も出てきたんですか?」

八谷「そこは乙女フィルターでなんとかなるのよ」



秋野はゆっくりと教壇に近づくと、覗き込むように"彼女"の顔を覗き込む。
八谷はそれを見てやわらかく微笑んむ。




 場面転換。



 女子トイレの前で三島の着替えを待っている能代。



恵一M
「俺は、自分でいうのも何だが、正義の味方気質なんだと思う。
 困ってる人を見ると放って置けなくなる。
 自慰行為にふけっている時の快感がほしかった。
 春香に興味をもったのも俺のそんな性癖からだったのかもしれない。


恵一「どうだ?着替え、終わったか?」


恵一M
「俺は自信を持って言える、春香が好きだ。
 こうしてお姫様が大魔王にさらわれそうになる度に、俺はどうしようもなくそれを感じるのだ。
 コントローラーを握り締め、一人竜王に攫われた姫を助けに向かう。
 与えられたものは"さびたつるぎ"と"なけなしのお小遣い"。
 それでも数々の苦難を乗り越え、勇者は姫を助けるのだ。
 ・・・つくづく救えないな、俺ってやつは。



春香「お待たせしました。服、ありがとうございます」

恵一「おう・・・で、どうして雨に濡れて・っ!」

 能代の言葉の途中、三島は能代の唇を自らの唇で塞ぐ。
 ゆっくりと2人の顔が離れる。 

春香「ごめんなさい、心配かけて」

恵一「ばっ・・・か・・・!学校なんだぞ?」

春香「授業中ですから、誰も見てませんよ」

恵一「そういう問題じゃ・・・もういい!教室、戻るぞ」

春香「はい」

八谷「あら、二人してサボりかしら?」

 教室に戻ろうとする二人を八谷がが呼び止める。

恵一「な、はっち!?」

春香「八谷先生・・・あの」

八谷「ふふ、事情は聞いてるから、気にしないで」

恵一「そういうことで・・・今から教室戻るんで」

八谷「はいはい、相変わらず能代君は恥ずかしがりねぇ」

恵一「なっ!」

春香「そこがいいんです」

恵一「おい!」

八谷「ふふ、ご馳走様」

恵一「はぁ・・・」

八谷「そうそう、三島さん」

春香「なんですか?」

八谷「校舎裏まで顔かせや!」

春香「えっ?」

恵一「・・・なにいってんですか?」

八谷「ちゃんとツッコんでよ・・・。ツッコミがないとボケは死んで行くのよ!?」

恵一「・・・本当にあんたは教師か・・・」

八谷「つまり、お呼び出しってこと。ちょっと話があるから、職員室まで一緒にきてくれるかしら」

春香「あ、はい。わかりました」

恵一「最初からそういえよな・・・じゃあ、俺は先に教室戻ってるから」

春香「それじゃあ、いってきますね」




 場面転換。



 夜の教室。
 椅子に座ってボーっとしている秋野と、その横にたつ八谷。



八谷「ねぇ、秋野君」

連太郎「なんですか?」

八谷「・・・こういうのもなんなんだけど、この状況って異常じゃない?」

連太郎「夜中に何者かに呼び出されて教室に来てみたら、待っていたのは生首と担任教師。
    これを正常だという人がいるのなら、それこそ異常です」

八谷「じゃあ私達は正常なのかしら」

連太郎「胸を張ってそういえる自信はないですね」

八谷「ふふ、まさかクラスメートの死体を見て、そんなに冷静だとは思わなかったわ」

連太郎「それは嘘でしょう。そう思っていないのなら、僕を呼び出したりはしない筈です」

八谷「貴方の取り乱す姿が見たかったのよ」

連太郎「変態ですね」

八谷「減点2点。デリカシーの欠如」

連太郎「採点が厳しすぎやしませんかね・・・」

八谷「これでも秋野君には甘くしてるんだけどな」

 八谷はゆっくりと秋野に近づくと、秋野の首筋に舌を這わす。

八谷「ん・・・」

連太郎「なにしてるんですか・・・?」

八谷「・・・人間って、こういう異常な状況に置かれると興奮してしまうものなのよ」

連太郎「ただの性癖の問題でしょう?」

八谷「また・・・減点されたいの?」

連太郎「いいえ。ただ今回は、はっちが減点ですね。"彼女"が見てます」

八谷「死人に口無しじゃなかったのかしら?」

 八谷は"彼女"に微笑みかける。

八谷「ごめんなさいね、"生徒"の前でこんなことしちゃって」

連太郎「僕には謝罪無しですか」

八谷「あら、貴方は特別。いうなれば特待生。それに、今更じゃない?」

連太郎「・・・"彼女"と仲良かったんですよね」

八谷「生徒に大人気の八谷先生を舐めてはいけません」

連太郎「"彼女"からも、相談を受けていたんですか?」

八谷「と、いうより話をせざるを得なかったわね、"この子"の場合」

連太郎「つまり、お気に入りだったわけですね」

八谷「どうしてそう思うの?」

連太郎「はっちが問題児好きだからです」

八谷「自分が問題児だって自覚はあったのね」

連太郎「いえ?ただ僕の場合はいい男だったから、そうでしょう?」

八谷「自分でそういっている男ほど、異性からはそうは思われないものなのよ」

連太郎「勉強になります」

八谷「その台詞、授業中に聞きたかったわね」

 八夜は秋野のおでこに軽くでこピンを打つ。

連太郎「いてっ」




 場面転換。



 放課後の教室。
 能代の机で眠っている上谷。
 それを眺めている恵一。


舞子M
「人と考えが違うと孤立していくということははやい段階で気づいていたし、
 そのために必要なものもわかってはいた。
 ただ、それよりも譲れないものがあった、それだけなのだ。


舞子「私は妖精なんだ!」


舞子M
「高校に入学して初めての自己紹介でそう叫んだ瞬間から、私は誰かの世界の敵になったのかもしれない。
 もし仮にヒーローが存在するというのなら、私は倒されるべき悪役なのだ。
 ロールプレイングゲームはいつだってハッピーエンドだ。
 勇者は魔王を殺して、お姫様と結婚し、一国の主になる。
 どうしようもなくハッピーエンド主義者の私だからこそ、
 選んだキャラクターだったのかもしれない。
 人生なんてなんてことはない。
 ただのロールプレイングゲームだ。


恵一「おい、こら。いつまで寝てんだ」

舞子「ん・・・?おや・・・いつの間にやら寝てしまっていたようだ」

恵一「ったく、もう放課後だぞ?」

舞子「時間に縛られないのが私の性分で・・・ん〜!身体が眠りを欲していたんだから、尊重してやっただけさ」

恵一「うらやましい性格だよ」

舞子「さて、移動するとしようかな」

恵一「ん?何か用事があるのか?駅まで一緒に帰ろうと思ってたんだけどな」

舞子「いや少し用があってね。恵一こそ、彼女さんと帰宅するんじゃないのかい?」

恵一「春香のやつ、はっちと面談してたらしいんだが・・・先に帰っちまったみたいでさ」

舞子「相変わらず、理解に苦しむねぇ」

恵一「お前にいわれたくねぇと思うぜ・・・?」

舞子「私は彼女よりは十二分に妖精らしいと自負しているよ」

恵一「うちの彼女を勝手に妖精にカテゴライズしないでくれ」

舞子「女の子は誰だってピンクの妖精さんなんだよ。わかってないな」

恵一「ピンクなのはお前の頭の中だけで充分だ」

舞子「こわいこわい・・・。さて、私の用事は直ぐ終わる予定なんだ。待っていてくれるかな?」

恵一「じゃあ終わったらメール・・・は、しない派だったよな」

舞子「ああ、終わったら電話をかけるよ」

恵一「了解・・・じゃあ、俺は昼寝でもしてるかね・・・」




 場面転換。



 放課後の屋上。
 三島と秋野がたっている。



春香M
「彼は、私を特別な人だといってくれる。
 不登校気味で、あまり教室にも顔も出さない私のことを好きだといってくれる。
 それはとてもうれしいことで、幸せなこと。
 だけど、それにはワケがある。
 

春香「来て下さってありがとうございます」


春香M
「私は彼のお姫様。
 私が持っているお姫様の資質はただ一つだけ、か弱いただの人間だということ。
 皆に愛される物語のヒロイン。
 私の憧れ。彼の憧れ。
 私は愛されなければならない、万人から。
 私は攫われなければならない、魔王から。
 私はどちらの人間でもないから。
 私は選択するのだ、ヒロインであることを。
 私はケーキになるのだ。
 小さな頃憧れた、幸せの形に。


春香「さぁ、私を食べてください」
 
 
 三島は制服を脱ぎ始める。

 
連太郎M
「世の中には役割というものが少なからず存在する。
 人間関係というものを役柄に依存したゲームだとするのなら、僕のキャラクターはなんだろう。
 考えるまでもない、村人Aだ。
 

連太郎「"ようこそ、ここが現実世界です"」


連太郎M
「僕は彼らにここがどこなのかを教えるだけの存在なのだ。
 勇者と、魔王と、お姫様。
 ファンタジーを守ろうとする現実世界の住人"勇者"
 ファンタジーを壊そうとする幻想世界の住人"魔王"。
 それに巻き込まれる"彼女"はどちらの人間なのだろう。
 ヒロインが魅力的なゲームはおもしろいものだけれど・・・。


春香「はぁ・・・はぁ・・・」


連太郎M
「それでは村人Aに素肌をさらし、しなだれかかるヒロインはどうだろう?
 おもしろい?つまらない?
 答えるまでもない、最高におもしろいじゃないか。


春香「秋野君・・・早くしてください」


連太郎M
「うつくしいお姫様が目の前で自分を抱けといっている。
 村人Aならどうする?
 答えは決まっているさ。

 
 秋野と三島は激しく抱き合った。



 暗転。


 数分後。
 

 激しく乱れ、倒れ伏している三島と、服を着なおしている秋野。
 そこに、上谷が笑顔を浮かべながら現れる。


 
舞子「連太郎君、愉快なことをしているじゃないか。

連太郎「・・・やぁ、上谷さん」

舞子「お姫様はお休みかい?」

連太郎「どうだろう、三島さん。大丈夫?」

春香「ええ、大丈夫です」

舞子「慣れているからね、彼女の場合」

連太郎「君が一枚かんでいるとか?」

舞子「私は少し人を集めてあげているだけさ。彼女の希望でね」

春香「いつも助かってます」

 三島と上谷はお互い顔を見合わせる。

舞子「ぷっ・・・あはははは!」

春香「ふふふふ!」

連太郎「まったく、これこそ理解できないよ・・・」

舞子「しかし、良かったのかい?ここは屋上だよ」

連太郎「ん?」

舞子「特等席なんだろう?しばらく見納めかもしれない」

連太郎「構わないさ、僕が見たかったのは現実なんだ。もう、ここには用はない」

舞子「なるほど・・・それじゃあ、またあおう」

連太郎「どうだろうね、じゃあね、2人とも」

春香「はい、お世話になりました」




場面転換



 夜の教室。
 窓に腰掛ける八谷と秋野。



連太郎「そういえば僕は村人Aなんですよ」

八谷「何それ、心理テストか何か?はやってるの?」

連太郎「僕の中では」

八谷「じゃあ・・・そうね・・・私は踊り子!」

連太郎「"ぱふぱふ"とかする、あの?」

八谷「それは嫌・・・じゃあ、バニーガール!」

連太郎「"ぱふぱふ"とかする、あの?」

八谷「もう!そればっかりじゃない・・・」

連太郎「僕ってスケベなんです」

八谷「ふふ・・・知ってるわ。・・・それで?」

連太郎「それで・・・って、何がですか?」

八谷「この物語の筋書きは?村人Aさん」

連太郎「知ってるわけがないでしょう」




場面転換。



 屋上。
 上谷は能代の携帯を鳴らす。



恵一『あ?屋上に来いって・・・なんでまた。
   分かった。すぐいく』

 携帯を閉じると、上谷は笑顔で倒れている三島を見下ろす。
 三島は虚ろな目でそれを見返す。

舞子「良かったじゃないか。もうすぐ勇者様がやってくるよ」

春香「勇者って、誰ですか?」

舞子「随分・・・らしくなったじゃないか。立派なヒロインだ。
   いや、君の場合はケーキといった方が喜ぶんだったかな?」

春香「ケーキ・・・そう!ふふ、頑張ったんです!
   皆に愛されて、皆幸せそうな顔をしてくれました」

舞子「彼は、どんな顔をしてくれるんだろうね・・・。
   ほら、やって来たよ」

 能代が入ってくる。

恵一「・・・お・・・う」

舞子「やぁ、恵一君」

 能代は笑顔でたつ上谷と、乱れ倒れる三島を交互に見つめる。

恵一「え・・・?あ、おう。あれ?なんだ?おかしいな」

 三島はゆっくりと身体を起こす。
 蹂躙された後がところどころに見られる。

春香「恵一君」

舞子「ほら、お姫様が呼んでるよ」

 恵一は足の震えを腕で押さえながら、ゆっくりとあとづさる。

恵一「ちょ、ちょっとまて・・・。これは、な、な、なんの冗談だ?」

春香「ねぇ、けいいちくん」

恵一「頼む、ちょっと、時間を・・・じ、時間がないと、だめだ。だ、だめだこれは」

舞子「なんで足が震えているんだい?なんで声が震えているんだい?
   君は勇者なんだろう?ガッカリさせないでくれよ」

恵一「黙ってろ!!」

舞子「・・・」

恵一「一つもわかんねぇ・・・一つも・・・一つもだ・・・。
   説明しろ・・・いや、説明するな・・・いやっ・・・」

 三島がそれをみて困ったような笑顔を浮かべる。

春香「恵一君・・・。そろそろさむいんです・・・。
   服、貸してくれませんか?」

恵一「へ・・・?あ・・・あ、ああ!すまない」

 能代は上着を脱ぎ、三島に駆け寄る。

舞子「くく・・・」

恵一「・・・大丈夫か?春香・・・」

春香「ええ・・・。後・・・あの・・・。
   はずかしいんですけど・・・ティッシュを・・・」

恵一「え・・・あ・・・」

 能代は三島の  から流れ出る  を見つめる。

舞子「くくくく・・・」

恵一「あ・・・ああああ。これは・・・誰の・・・だ?
   誰の・・・誰が・・・」

春香「恵一君ごめんなさい・・・」

恵一「え?」

 三島は申し訳なさそうな笑顔を浮かべる。
 それをみて上谷はおかしそうに顔を歪める。

春香「覚えてないの」

舞子「はははははははははははははは!!」

恵一「・・・何なんだよ・・・。何なんだよ!!!」

舞子「彼女は悪くない。もちろん、私も。君もだ」

恵一「・・・」

舞子「彼女は自傷癖のある寂しがりやの"ただの女"だった。
   だから不特定多数の男に抱かれることで自分の居場所を確認する、肉体的に、精神的に。
   究極のリアリストだったんだよ」

恵一「ああ・・・」

舞子「いいかい?彼女は、君の求めていたファンタジー世界のお姫様じゃなかった。ただそれだけのことさ」

恵一「あああああああああああああ!!!!!!!
   春香!違う!違うだろ!?誰にやられた・・・全員俺がぶっ殺してやる!!
   お前がそんなことを望むはずがねぇだろ!?
   お前は大人しくて、気弱で、でも心優しくて・・・」

春香「恵一君・・・私は一人じゃないんです。
   恵一君の隣で胸を張っていられるように、たくさん愛されたんですよ」

恵一「や、やめろ・・・!やめろ!やめろ!やめろ!!」

春香「ようやく、ケーキになれたんです」

恵一「は、はは・・・けーき・・・。ははは、そうか。けーきか」

舞子「ゲームオーバー、だね」

恵一「皆で食べられるように・・・切り分けないとな・・・」

 能代は涙を流しながら三島の首に手を伸ばした。



 場面転換。
 


 夜の教室。
 机に座る秋野と八谷。



連太郎「はっちは知ってるんでしょう?」

八谷「何を、かしら」

連太郎「物語の筋書きを」

八谷「私が知っていたのは、"彼女のしていた事"くらいよ」

連太郎「止めなかったんですか?」

八谷「相談に乗るとはいったのだけれど、何もいってこなかったわ」

連太郎「無責任な大人ですね」

八谷「減点10点」

連太郎「これじゃあ赤点だ」

八谷「気にするタイプじゃないでしょう」

連太郎「それはそうなんですけど」

八谷「さしずめ私は村人Bって所かしら」

連太郎「残念ながら僕達はメインキャストから洩れたようですからね」

八谷「しかし、売れなさそうなゲームよね。これ」

連太郎「最近はバッドエンドもはやってるみたいですよ?」

八谷「だからよ、ヒロインが幸せになってしまったらハッピーエンド。でしょう?」

連太郎「・・・確かに、幸せそうな顔ですね」

八谷「さ、警察にでも連絡しましょうか」

連太郎「僕もいちゃっていいんですか?」

八谷「ゲームは終わったのよ?村人Bから転職しなくちゃ」

連太郎「その様子だと・・・僕も道連れなんですね」

八谷「皆一緒よ。ほら、電源が切られるわ」



以下、声だけが響く。



春香「いつまでゲームしてるんですか?」

恵一「もう少し・・・」

春香「早くいかないと」

恵一「もう少しだけ・・・」

春香「電源、切りますからね」

恵一「あっ・・・!ああああああああ!!
   セーブ・・・してなかったのに・・・」

連太郎「"ようこそ、ここが現実世界です"」


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