ロマンチック忍者
作者:ススキドミノ
チィ:千代川 莉世(ちよかわ ちよ)気だるげな女子大学生。
クウ:栗原 空也(くりはら くうや)お調子者の男子大学生。
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
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<大学の学生ホール・机に座って向き合う二人>
クウ:……ロマンチックとは。
チィ:……は?
クウ:それが如何様なものなのか、知りとうござる。
チィ:……何? その喋り方。
クウ:悪い。ちょっと言うの恥ずかしくて茶化した。
チィ:(ため息)……っていうか、相談したい悩みってそれ?
クウ:それというか、それに連なる事象というか……。
チィ:回りくどい……もっとはっきり言いなさいよ。
女子大生の時間は貴重なんだけど。
クウ:それ、女子高生の時にも言ってたような。
チィ:女の時間は須(すべか)らく貴重なの。
その鈍さからして、クウはロマンチックから遠いんじゃないの。
クウ:だからそのロマンチックとはなんだって話で――
チィ:だからなぜロマンチックとはなんだって話をしたいのかを話しなさい。
間
チィ:好きな女が出来た。
クウ:なんで!?
チィ:はいせいかーい。
クウ:なんでそんなんわかるんだよ!
チィ:なんでわかんないと思うのよ。
クウ:それがわかんないんだよ!
チィ:あのね。私達、幼稚園から今いる大学までの長ーい付き合いでしょ?
今までクウが私に何かを相談するって言ったときは、いつだってそうなの。
恋とは何ぞや、手を繋ぐとは何ぞや、デートとは何ぞや――ぜーんぶ相談乗ってきたでしょうが。
逆にわかんないと思う理由がわかんないんだけど?
クウ:……確かに。
チィ:で、誰? 横山さん? 藤木さん? 亀井さん?
クウ:ちょ、ちょっと待った! な、なんでそうスラスラと――
チィ:あーこの中にいるなぁこれ。横山さんか、亀井さんかな?
クウ:も、黙秘! 黙秘権を行使する!
チィ:はぁ? 人に相談してるってのに黙秘権だぁ?
クウ:そもそも、そうじゃないんだよ!
チィ:そうじゃないって何が。
クウ:だからぁ! その……今回の話は、ほんの少しだけ……趣(おもむき)が違うんじゃよ。
チィ:言い方で茶化すな。
クウ:真面目に言うと、なんつーか……告白するとかそういうことの前にさ、ロマンチックってのはそもそも何なのかなぁと。
雰囲気なのか、言葉なのか、行動なのか、とかさ。
チィ:別に、ロマンチックなんて受け取る側の感じ方だと思うけど。
クウ:チィはあんの? ロマンチックな経験。
チィ:は? なんでそんなこと言わなきゃいけないわけ。
クウ:感じ方なんだろ? チィは今まで付き合ったりした中で、ロマンチックだなぁって思ったことあんの。
間
チィ:……黙秘する。
クウ:はー、ないんだ。
チィ:ありますぅ!
クウ:ないから言えないんだ。そーなんだ。
チィ:舐めんなコラ! あるわ! ありすぎて出てこないの!
クウ:ってことはだぜ?
<クウは眼前で人差し指を立てる>
クウ:そんなに幾つものロマンチックを感じとったことがあるチィは、生粋のロマンチストってことになるけど。
チィ:ぐ……! それはそれでムカつく――いいよ。わかった正直に言う。
クウ:なんだよ。
チィ:ないよ……。
クウ:何が?
チィ:ロマンチックだなーって思ったこと、あんまりない。
クウ:……へえ。
チィ:なによその顔潰すよ。
クウ:真顔だったろうが。気にしすぎだって。
チィ:気にしてない。
つまり私はそもそもロマンチストじゃないから、ロマンチックが何なのかなんてわかんないってこと。
クウ:まあ、チィが自称リアリストなのは周知の事実なんですけどね。
チィ:ならなんで私に相談するわけ。
クウ:んー……。強いて言うなら、俺の幼馴染みのチィこと千代川 莉世(ちよかわ ちよ)は、疑問とあらばなんでも納得しないと気がすまないという特性をもっているから。
チィ:何そのムカつく分析。
クウ:でも事実だろ? そして俺こと栗原 空也(くりはら くうや)は、そんなチィと一緒に疑問を整理し、納得してきたわけだ。
いつだってチィと俺なら解けない問題はない、だろ?
チィ:……まあ、いいわ。釈然(しゃくぜん)としないけど、考えるくらいなら付き合ってあげる。
確かに、そういうの考えるのは嫌いじゃないしね。
クウ:さすがは頼れる幼馴染み。
<チィはノートを取り出すと机の上に広げる>
チィ:まずは、ロマンチックな状況について考えましょう。
クウ:あー、そういやさ、大学に入ってからよく聞くだろ? ロマンチックな話。
例えば、二人で夜空を見に行ったとか、夕暮れの海で抱き合ったとかさ。
チィ:あるあるって感じね、それ。大学に入ると、車を持ってる男も増えるし。
クウ:そういう景色を見に行くことが、ロマンチックってのは間違いないよな。
チィ:ロマンチックかどうかで言われれば、ロマンチックだと思う。
クウ:つまりは景色に想定されているロマンチック度が、相手のロマンチックタンクのゲージを埋めうるということに――
チィ:ストップ。黙りなさいおバカ……。
クウ:……へい。
チィ:ロマンチック度だのロマンチックタンクだの……基本そうやってふざけてばっかなんだから。
クウ:なんていうか、癖なんすよね。
チィ:……わかった。順を追って整理しましょう。
デートをするってなったらまず思いつくのは、『どこか』ってこと。
それは映画とか、ショッピングとか、ボウリングとかカラオケとか、遊園地とか水族館とか……まあ、たくさんあるわよね。
クウ:そうだな。
チィ:例えば、遊園地にデートに行くって、その……ロマンチック度は高いと思う?
クウ:いや……そこはまあ、普通っちゃ普通かな。
チィ:でもそれだけじゃないと思うのよ。
例えばデートの終わり際、夜の遊園地を歩いていて、女の子がこう言うわけ。
「ねえ……最後に、アレ、乗りたいな」
クウ:アレって何だ?
チィ:「観覧車。ほら、行こう!」
手を取って走る彼女に連れられて、観覧車に乗るわけ。
二人っきりの空間で、段々と景色が高くなっていくわけ。
クウ:見下ろすと夜景が広がってるわけだ。
「へぇ、結構綺麗だな」
チィ:「うん! すごい高いね!」
沈黙が心地よくて、ずっとここに居たいような、そんな感覚になって――
クウ:おい! ロマンチックじゃないか!
チィ:でしょ?
クウ:遊園地のデート自体は別にロマンチック度が高いわけじゃないのに、観覧車はロマンチック度が高いってことか……。
……っていうかチィ、男と遊園地行ったことあんの?
チィ:は? 何よ急に。
クウ:だって、今のすげえリアルだったじゃん。
経験したことあるんじゃないかなって。
チィ:しつこい……! 行ったことあるにはあるけど――別にいいでしょ。
話を戻すわよ。遊園地に行くこと自体は普通のデート。
でも、そこにもロマンチックな空間は存在する。
クウ:となると、遊園地に限らず、どんなロケーションでも有り得そうだ。
チィ:ロマンチックな状況っていうのは、場所というよりも環境や関係性、言動等によって作られるってことね。
クウ:確かに、一人で綺麗な夜景を見たって、綺麗だなーと思うだけだもんな。
チィ:あと……話していて気づいたんだけど、こういうロマンチックな状況って常に能動的に選択するものなんじゃない。
クウ:能動的?
チィ:どちらもロマンチックだと思おうとしなければ、そうはならないってこと。
クウ:……なるほど。一方がロマンチックだと思っていても、片方がそう思おうとしなければ成立しないってことか。
それだとロマンチックな状況を作る要素は、『相互の関係性』が上位にくるよな。
チィ:ロマンチックな状況になるためには、『それ以前のロマンチックな関係』が求められるのかもしれないわね。
お互いに明確な好意を持っているとか、それに準ずる何かしらが前提になってくる。
クウ:つまりは、海に行くとか、遊園地に行くだとかの前に、受動的なロマンチックが存在してるってことだよな。
チィ:受動的なロマンチックって?
クウ:お互いを意識し合うような瞬間とか――ようはドキドキロマンチックタイムを経験してるってこと。
チィ:は? ごめん……よくわかんない。例えばどういうこと?
クウ:例えば、そうだな……一目惚れとか、ロマンチックじゃん。
意図しない形で、急に訪れる感情だろ?
一目惚れした相手と海に行くことになったりしたら、そりゃあロマンチック発射準備オーケーだと思うけどな。
チィ:そうかもしれないけど……モデルケースとしてはどうかな。
誰もがそんな経験があるわけじゃないもの。
クウ:んー……じゃあそうだな。異性同士で長い付き合いだったりとか?
チィ:それってロマンチック……?
クウ:自然に関係が継続してるわけだろ?
どこかで相手を意識した瞬間に、それまでの関係が一気にロマンチックに感じられたりとかさ。
花火大会でふと手が触れ合って、「キャッ!」みたいな。
チィ:無くはないと思うけど……でもそれもレアケースじゃない?
クウ:友達から恋人へ、なんて一番よくあるパターンだと思うけどな。
チィ:恋愛の導入における理想系のひとつなのは確かだと思うけど――なんか主題から逸れてる気がする……。
<チィはノートにメモをしながら顔を上げる>
チィ:……わかった。じゃあ、恋愛的感情そのものが『ロマンチックを受け入れている体制が整っている』ってことでいいんじゃない?
クウ:お! それだそれ!
チィ:っていうか、気づいたら完全に恋愛前提の話になっちゃってるわね……。
別にロマンチックって恋愛のことだけを指す言葉じゃないと思うんだけど。
クウ:そりゃそうだけど。
話のスタートが恋愛におけるロマンチックだったから、今回は恋愛に絞るのが自然っちゃ自然じゃないのか。
チィ:ん。確かに……クウに好きな女ができたってところからだしね。
クウ:黙秘してんだっつの……!
……でもまあ、「きゃー! ロマンチックー!」って声あげたくなるのって、大抵恋愛絡みだしな。
チィ:そうね。『ロマンチックな関係』なんていったら、熱愛している恋人関係を指したるするわけだし。
一旦その路線でいきましょ。
クウ:オーケー。整理すると、だ。
他人に対して恋愛感情、またはそれに近い感情を持っている状態の人間を、仮に『ロマンチック保有者』と呼ぶ。
『ロマンチック保有者』同士が、適切な環境で、お互いにロマンチックな言動をとる。
その場にいる『ロマンチック保有者』が、現状をロマンチックだと認識した瞬間、『ロマンチックゾーン』に到達することができると。
チィ:また変な単語を勝手に……。
でも……まぁ、うん。恋愛路線での終着点としては、いい線いってると思う。
<クウは机に身体を投げ出す>
クウ:はあああ……じゃあつまり、そもそも『ロマンチック保有者』にならないと、ロマンチックできないってことかぁ……。
チィ:……何落ち込んでんのよ。
クウ:だってさぁ……ロマンチックって、お互いに恋愛的感情を持っていることが前提なんだろ?
じゃあ『ロマンチック』になりたいって思っても、自分だけならまだしも、相手が『ロマンチック保有者』である保証なんてないわけで……。
それじゃあ『ロマンチックゾーン』なんて夢のまた夢なわけで……。
チィ:……ロマンチックって言いたいだけじゃないでしょうね……?
クウ:そうかも……。俺もわかんなくなってきた……。
チィ:(ため息)そんなに亀井さんと『ロマンチックゾーン』とやらに行きたかったわけ?
クウ:なんで誰なのかまで決めつけるかね!
チィ:違うの?
クウ:黙秘してますから!
チィ:あっそ……。
<チィは頬杖をついてクウを見つめる>
チィ:……まあ、まだ結論を出すには早いんじゃない?
クウ:……へ?
チィ:あるかもよ。ゼロからロマンチックを作る方法。
クウ:え!? マジ!? なにそれ!
チィ:だから……例えばほら、サプライズとか。
クウ:お、おおおお! きたきたきた! 復活したぜ!
そうか、サプライズ! いつもの日常かと思いきや、ドロン!
チィ:一応聞いとく……ドロンって何。
クウ:ん? 『ロマンチック忍者』だけど。
間
チィ:……は?
クウ:……いや、この空気に関してはごめんだけど……。
でも! 意味としては正しいんじゃないでござるか?
どこからともなく現れ、ロマンチック手裏剣をハートに突き刺す! ロマンチック忍者、推参(すいさん)!
間
チィ:……まあ、うん。はいはい。
クウ:悪かったって! ドロンするから!
チィ:忍者でもなんでもいいけど――
……いや……意外と的を射てるかもね。
クウ:へ?
チィ:サプライズって暗殺(あんさつ)と似てるところない?
クウ:は? 暗殺? なんだよ、物騒だな。
チィ:何いってんのよ。
忍者と言えば諜報(ちょうほう)、謀略(ぼうりゃく)、暗殺(あんさつ)でしょ?
クウ:ぐ、いや、まあ、間違ってないけど……。
情報の捉え方がリアルすぎるんだよな……。
チィ:言っとくけど、クウが言ったんだからね。忍者使って話進めるからね。
クウ:承知したでござる……。
チィ:サプライズがロマンチックだとされているのは、気づいていない相手を驚かせて、喜ばせるからよね。
これは忍者でいう暗殺任務。
クウ:危険はないと思わせて、ズバッと一太刀だもんな。
バレたら台無しなわけだ。
チィ:だからこそ、緻密な計画が必要になる。
相手の好む言動や、好む状況を分析して、情報を集める。
これは忍者における、諜報活動。
クウ:「なるほど……SNSをチェックする限り、相手が欲しているのは化粧品でござるか。
しかし、拙者と相手の関係を考えると少しハードルが高いでござるな……。
そして自然にことに及ぶためにはロケーションが重要でござる。
無難にレストランという手もあるが、ロマンチック度が低い可能性もある。
もう少し情報を集める必要があるでござるな」
チィ:場合によっては協力者が必要になるわよね。
相手や目的を伝えた上で、他者に悟られないように暗殺の手助けを依頼する。
情報が漏れないかどうか目を光らせながら、暗殺までの予定を立てる。
これは忍者における、計略(けいりゃく)活動の一環ね。
クウ:「すまぬが、拙者に力を貸してくださらんか!
ただし、相手にバレてはならぬ故(ゆえ)……このことは他言無用でお頼み申す……!
この御恩には必ず報いる! どうか! どうかお力添えを……!」
チィ:そしてすべての準備が整った所で、何も知らないターゲットに近づき――
クウ:「サプライズ! ……拙者はロマンチック忍者……。
お主はもう……ロマンチックで殺されているでござる」
<二人は顔を見合わせる>
チィ:うん……そうか。ロマンチック忍者は実在するんだ。
クウ:え? あ、いや、俺もノッといてなんだけど……どういうこと?
チィ:ロマンチックな状況になるには、両者が能動的にロマンチックだと感じる必要があるってのがさっきの推論ね……!
でも、サプライズっていうのは成功した瞬間、強制的にその場にロマンチックが産まれる可能性があるのよ!
クウ:……そうか。そうだな!
相手と恋愛関係にあるかに関わらず、ロマンチックな空気になるんだ……!
<二人は席を立って拳を握る>
チィ:関係が成立していない状態でも、相手を脅かせたうえで喜ばせたいと思う気持ちは、ロマンチックなのよ!
クウ:サプライズバースデイパーティなんかもいい例かもしれない!
チィ:そうね! 全く気づいていない状態で、綺麗に飾り付けられた会場に案内されたりしたら、ロマンチックだと思わざるを得ないわ!
クウ:そっかぁ! 日頃からみんながなんでサプライズをするのかって思ってたけど……あれはみんな、ロマンチック忍者なんだな!
チィ:ええ! あれはロマンチック忍者による、ロマンチック暗殺なのよ!
クウ:そうか! ロマンチック暗殺なんだ!
間
<二人は周囲を気にしながらゆっくりと席に座る>
チィ:……なんか……クウに当てられた……。恥ずかしい……。
クウ:……うん……なんか、すまん……。
<チィは小さく笑ってクウを見る>
チィ:でも……良かったわね。
クウ:ん?
チィ:だから、ほら。出来ること、あるじゃん。
クウ:ロマンチックになるために?
チィ:そうそう。
誰かとロマンチックになりたいと思った時は、相手をサプライズで喜ばせればいい。
これからクウは……誰かさんのロマンチック忍者になれるんだよ。
クウ:だからぁ……なんで俺にそういう相手がいる前提の話になるんかね……。
チィ:わかるから。
クウ:……は?
チィ:わかるよ。クウのことだもん。
<クウは目を丸くしてチィの瞳を見返す>
クウ:……あっそ。
チィ:単純だしね。
クウ:ああそうですか!
チィ:あ、でも……ロマンチック忍者候補生さん。
クウ:ん?
チィ:気をつけないと、忍者の暗殺には失敗がつきものだってことはお忘れないように。
クウ:失敗って……例えば?
チィ:それはもちろん、相手がサプライズを受け入れないってこと。
動画とかでも見たことない? たくさんの人を使って盛大なサプライズプロポーズをして、断られてる場面。
クウ:うぐ……! 確かに……アレ見て、討ち死にした侍みたいだなーって思ったことある……!
チィ:しっかりと諜報や謀略を怠(おこた)らないようにしないと、あえなく打首獄門(うちくびごくもん)なんてことにもなるんだからね。
クウ:ぐぬぬぬ……! しかし! 失敗を恐れていては忍びの名折れ!
チィ:ま、頑張んなさいよ。
クウ:うむ! 心得た!
チィ:あと、その口調は心の中の忍者の里に置いてきなさい。
絶対引かれるから。
クウ:ああ……はい。気をつけます。
チィ:よろしい。
<チィはノートを仕舞う>
クウ:で、今回のロマンチック談義についての総評は?
チィ:んー……なんだかんだ結構面白かったかも。
クウ:そっか、なら良かった。
っていうか……俺はやっぱりロマンチストだと思うんだけどなぁ。チィは。
チィ:どこをどうとったら私がロマンチストになるわけ……?
クウ:わかるんだよ、俺も。
チィ:……あっそ。
<チィは席を立つ>
チィ:それじゃ、また――
クウ:ストップ。
チィ:まだなんかあるの……?
クウ:俺の好きな人、チィだから。
<クウはチィの顔をまっすぐ見つめている>
チィ:え。いや。……なんて?
クウ:だから、俺の好きな人。チィなんだよ。
<チィは真顔で聞き返す>
チィ:……なんて?
クウ:だから! 俺の好きな人! チィなんだって!
チィ:なんて!?
クウ:聞こえてないわけないだろ!?
チィ:なんて!?
クウ:現実逃避すんなって!
<クウをチィに近づくと、手を取る>
チィ:ちょ、何――
クウ:好きなんだよ。チィが。
チィ:……何、言ってんの。
クウ:俺に好きな人がいるのはわかるのに、何言ってるかわかんないわけないじゃん。
チィ:そういう意味じゃなくて……!
クウ:チィは今まで、ロマンチックな経験はないって言ってたよな。
チィ:はぁ……!?
クウ:男と遊園地の観覧車には乗ったことあるみたいだけど、それはチィにとってはロマンチックな経験じゃなかったってことだ。
チィの中で、ロマンチックかどうかがロケーションで決まるんじゃないなら――だったら、ここで伝えるのもいいって思ったんだよ。
チィ:大学の学生ホールで……!?
どういうロケーション選びなのよそれ……!
クウ:それに、長い付き合いがある異性に対して、恋愛感情に抱くことも無くはないって言ったろ?
恋愛の導入としては理想だとも言ってたしさ。
チィ:それは……! 確かに言ったけど! それが、私とクウだなんて思ってなかったし……。
クウ:実は、その会話こそ、拙者の撒いたマキビシだったんでござる。
チィ:茶化すな!
クウ:見事に踏み抜いたでござるな。
チィ:だから茶化すなっての!
<クウはチィの手を離して笑う>
クウ:(笑う)……茶化してないよ。だって俺……これからチィのロマンチック忍者になるから。
チィ:はあ!? ここにきてロマンチック忍者!?
クウ:気づいてないでござるか? もう既に、チィは拙者を意識している――立派な『ロマンチック保有者』!
『ロマンチックゾーン』へ足を踏み入れているのでござるよ!
チィ:ふざけた造語をこれでもかと連発して来んな!
<チィは胸を抑えて深呼吸する>
チィ:(深呼吸して)……っていうか……全然、ロマンチックじゃない告白されたんだ、私……。
クウ:何いってんだよ。ロマンチックなのはこれからなんだぜ?
俺はロマンチック忍者! 影から忍び寄り、ロマンチックをお見舞いする!
チィ:あのねぇ! クウは私をどうしたいわけ!?
付き合いたいとかそういうんじゃないの!?
クウ:あー、うん。もちろんそうなんだけど。
チィ:じゃあ私の返事はどうかとか……! 聞くことがあるでしょうが……!
クウ:そう言うけど、チィって今すぐ返事とかできんの?
チィ:ぐ……! それは……だって、急だし……混乱してるし。
クウ:でも俺のこと、嫌いじゃないよな。
チィ:なんでそんなに平然と言えるわけ……!
ほんっとデリカシーないね!
<クウは真剣な顔でチィを見つめる>
クウ:わかるんだ。
チィ:な、何よ……急に、そんな真剣に……。
クウ:俺だってさ、チィのこと、わかるんだ。
……チィはロマンチストだよ。
空想だらけの俺の言動に、いつだって嫌な顔もせずに付き合ってくれる。
俺のくだらない疑問に、いつだって面白いと思える答えを見つけてくれる。
そんなチィと、小さいころから積み上げてきた俺達の関係って、結構ロマンチックなんだと思うんだ。
チィ:それは……腐れ縁ってやつで、全然話してなかった時期もあるし……。
クウ:チィは頭で考えるだろ。自分の感情とかそういうのも、頭で全部考えちゃうんだ。
俺のこと……俺達のこと、ごちゃごちゃ悩んで、これから絶対わけわかんなくなる。
だから、そういうの考える暇もないくらい、俺が――
<クウはチィの頭に手を伸ばす>
クウ:君を毎日、ロマンチックで殺してやる。
<チィは目を見開らく>
チィ:なによ……それ。
クウ:……なによそれって……なによ。
チィ:……質問に質問で返さないでよ。
クウ:……そんな真顔で言わないでよ。
チィ:……本当、普段から何言ってるかわかんないのよ。
クウ:……正直、俺も何言ってんのかわかんないのよ。
<二人は吹き出して笑う>
チィ:あーあ……でも、初めてだったかも――
<チィは笑顔で言う>
チィ:さっきのセリフ、ロマンチックだって思っちゃったじゃん。バカ忍者。
<クウは呆けたようにチィを見つめる>
チィ:……何?
クウ:……別に……。
<クウはゆっくりと人差し指を眼前に構える>
クウ:ド……ドロン。
チィ:……あ。
<逃げようとするクウの手を、チィが掴む>
チィ:コラ……! 何逃げようとしてんの!?
クウ:うぐ……恥ずかしくなってきたんでござるよ!
チィ:まずはその言動を恥ずかしがりなさい!
間
クウ:……ドロン!
チィ:させん!
了
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