そして孔雀は幸せな夢を見る
作者:たかはら たいし


くじゃく:
こぶた:
いぬ:
おおかみ:


※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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■scene1.くじゃくちゃんのおうち。

こぶた「あるところに、1匹の孔雀がいました。」

くじゃく「くじゃくチャンネルをご覧の皆さん。こんにちわ、くじゃくです。
今日はこの、まつげ美容液を使ってみた感想を紹介していこうと思いまーす。
それでは、くじゃくチャンネル、スタート。」

こぶた「孔雀は、とても綺麗な美貌の持ち主でした。」

くじゃく「皆さん見えますか?お風呂から上がった後、
毎日まつげ美容液を塗っているので、ちゃんと生えてきています。
抜けてなかった場所も伸びているのが、はっきりわかりますねー。
ちなみに私は、スカルプルンDの美容液を愛用しています。
このチャンネルを見て、気になった皆は試してみてね?
良かったら、グッドボタンとチャンネル登録もお願いします。
それじゃ皆、次回の動画でまた会おうね。くじゃくでしたー、バイバーイ。」

こぶた「孔雀は、優しい心の持ち主でもあり、皆からとても好かれていました。」

くじゃく「うしちゃんにニワトリちゃん。今度みんなで渋谷にお買い物しに行こうよ。」

うし(いぬ)「エーッ!渋谷って、もしかして、あの若者のメッカ?」

ニワトリ(おおかみ)「くじゃくちゃんはともかくとして、アタイら二匹は外見に自信が無いから気が引けちゃうなー。」

うし(いぬ)「ニワトリちゃんの言う通りだよ。私たち、くじゃくちゃんみたいに可愛くないし・・・。」

ニワトリ(おおかみ)「おいどん達二匹は、上下三本線の入ったジャージで充分でゴワスよー。」

うし(いぬ)「そうそう。ニワトリちゃんの言う通り。」

くじゃく「そんな事ないよー。うしちゃんもニワトリちゃんも私はとっても可愛いと思うな。」

うし(いぬ)「えっ、ほんと?」

ニワトリ(おおかみ)「私たち、かわいい?」

くじゃく「うん。私は好きだよ。私、皆でお洒落なお店をいっぱい回ってみたいな。」

うし(いぬ)「ええーっ、それって3匹でぐるぐる回るって事ー?」

ニワトリ(おおかみ)「そんな事したら目が回って気持ち悪くなっちまうでゴワスー!」

くじゃく「ううん。そういう事じゃなくて。皆でお洒落なお店を巡ってみたいって事。」

ニワトリ(おおかみ)「ああ、そういう事ね!」

うし(いぬ)「モーウ!早とちりしちゃった!恥ずかしい!」

くじゃく「うふふ。皆でお買い物して、お茶出来たらいいなーって、私ずっと思ってたの。」

うし(いぬ)「くじゃくちゃん!嬉しい!楽しみにしてる!」

ニワトリ(おおかみ)「最近のティーンのトレンドを沢山教えてね、くじゃくちゃん。」

くじゃく「うん、もちろん。皆と遊びに行けるの楽しみにしてるね。」

こぶた「くじゃくは、類まれな美貌とその優しさで、
欲しい物は何でも手に入れる事が出来ました。例えば・・・、」

くじゃく「ドラ猫おじさま、私専用のナイトプールが欲しいわ。」

ドラ猫(おおかみ)「そう言われるかと思って、くじゃくちゃん専用のナイトプールを建てたよ!鶯谷に!」

くじゃく「ありがとうドラ猫おじさま。でも、鶯谷じゃなくて別の場所に建ててほしかったな・・・。」

ドラ猫(おおかみ)「そ、それなら六本木に建てるよ!
僕の主食が当面、ふりかけご飯になるだろうけど、くじゃくちゃんの頼みなら!」

くじゃく「ありがとう、ドラ猫おじさま。いつも本当にありがとう。」

こぶた「またある時は、」

くじゃく「新しいベッドが欲しいんだけど、デスギルガン君、なんかオススメ無いかな?」

デスギルガン(いぬ)「ワーオ!」

くじゃく「ん?僕、ベッドは全然詳しくないから、今度一緒にホームセンターに行こうよ?
・・・うーん、それでもいいけど。実は私、天蓋付きのベッドが欲しいの。
でも、値段がとっても高くて買えないんだよね。」

デスギルガン(いぬ)「ワーオ!」

くじゃく「えっ?他ならない、くじゃくちゃんの頼みならローン99回払いで僕が買ってあげるよ?」

デスギルガン(いぬ)「ワーオ!」

くじゃく「勿論だよ。僕の主食が当分、水で浸したティッシュペーパーになるけど。
でも、お醤油をかければ、なんとか食べられるから心配しないでね、くじゃくちゃん。
・・・ありがとう!私の為にそこまで尽くしてくれて凄く嬉しい!
デスギルガン君が友達で本当によかった!」

デスギルガン(いぬ)「ワーオ!」

くじゃく「みんな、本当にやさしい動物達ばかり。
皆のおかげで私は毎日、とっても幸せな夢を見ているかのよう・・・。」

こぶた「孔雀は優しい心を持った友達に囲まれ、何一つ不自由なく、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。」



くじゃく「こぶたちゃん?」

こぶた「あれ?今のマイク入ってなかったかな・・・、アーアーアー。」

咳払いをするこぶた。

こぶた「孔雀は優しい心を持った友達に囲まれ、何一つ不自由なく、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。」

くじゃく「(食い気味に)こぶたちゃん?こぶたちゃん?」

こぶた「えっ?」

くじゃく「あの、さっきから何ぶつぶつ言ってるの?」

こぶた「あっ。私なんか言ってた・・・?」

くじゃく「うん。大丈夫?体調悪い?」

こぶた「ううん、大丈夫・・・。」

くじゃく「それなら良かった。」

こぶた「うん。心配させちゃってごめん・・・。」

くじゃく「ううん。こぶたちゃんが元気でよかった。」

こぶた「あ、うん・・・。」

くじゃく「それで、この間お願いしたもの、持ってきてくれた?」

こぶた「うん・・・。はい、これ。東の高原地帯に3万年に1度だけ咲くルビーのお花・・・。」

くじゃく「わー、とても綺麗・・・。
私のために取ってきてくれてありがとう、こぶたちゃん。」

こぶた「うん。」

くじゃく「本当に綺麗・・・。
こないだ知り合いから、ダイアモンドで出来た花瓶をもらったんだけど、
飾るお花がなくて困ってたの。後で早速ネットにあげるね。」

こぶた「うん。楽しみに、してる・・・。」

くじゃく「でも、大変だったんじゃない?
東の高原地帯はとても物騒だって聞いてたから、私、心配してた。」

こぶた「うん。確かに途中、全長5メートルはある一つ目の化け物とか、
ゾンビ化したドラゴンに追いかけられたけど、なんとかね・・・。」

くじゃく「(こぶたを無視して)うーん。撮影する時、
カーテンは開けておこうかな?それとも閉めておこうかな?」

こぶた「あと、崖から落ちちゃって・・・、左腕のこの辺、打撲しちゃった・・・。」

くじゃく「え?なに?ごめん。聞いてなかった。
・・・そういえばこぶたちゃん、その左腕どうしたの?」

こぶた「えっ、これは・・・、その・・・。」

くじゃく「大丈夫?」

こぶた「うん、大丈夫。・・・ちょっと転んだだけだから、心配しないで。」

くじゃく「こぶたちゃん・・・。いつも本当にありがとう。」

こぶた「どうしたの、くじゃくちゃん。藪から棒に。」

くじゃく「私、こぶたちゃんが友達でよかったって心から思ってる。」

こぶた「こちらこそ。こんな私なんかの友達でいてくれて、とても感謝してる。本当にありがとう。」

くじゃく「これからもよろしくね。こぶたちゃん。」

こぶた「うん。」

くじゃく「腕、おだいじに。」

こぶた「う、うん。ありがとう。」

くじゃくの家に、いぬが入ってくる。

いぬ「ワオーン!」

くじゃく「あ、いぬくん。こんにちわ。」

いぬ「ワンワンワン!ワン!」

こぶた「いぬくん、こんにちわ。」

いぬ「ワンワン!ワンワンワン!ワオーン!」

こぶた「い、いぬくん?」

くじゃく「(めんどくさそうにため息を吐く)」

こぶた「(くじゃくの顔色を察して)い、いぬくん!今日は日本語喋らないの?」

いぬ「ワオーン!」

こぶた「いや、普通に喋ってくれていいよ?」

いぬ「アオーン!」

くじゃく「(にこやかに)いぬくん?めんどくさいから、ちゃんと喋ってくれない?」



いぬ「・・・えっ?おれ、今もしかして、犬語で喋ってた!?」

こぶた「うん・・・。すごく流暢に犬語喋ってた・・・。」

いぬ「マジでー!?いやー、すまんすまん!えーっとそれで、今日は俺に何の用?」

くじゃく「うん、いぬくんにお使いを頼みたくて。」

いぬ「ったく、しゃーねーな。まぁ、くじゃく姫の頼みなら喜んで引き受けますよー!」

くじゃく「ちょっといぬくん。その姫っていうのやめてよー。」

いぬ「だって姫は姫じゃん。な、こぶたちゃん。」

こぶた「えっ。あ、うん・・・。」

くじゃく「もう。私は別に姫なんかじゃないよぉー。」

いぬ「くじゃくちゃんは姫だよ。エニモーの姫。」

くじゃく「ちょっとー、ヲタサーの姫みたいに言わないで。」

いぬ「あ、バレた?あははは!」

くじゃく「それにお姫さまなら、私よりもこぶたちゃんの方が似合ってると思うな。」

こぶた「えっ?私?」

くじゃく「うん。とっても似合うと思う。」

こぶた「私・・・、くじゃくちゃんみたいに可愛くないし、お姫さまなんて似合わないよ・・・。」

くじゃく「そんな事ないよー。ね?いぬくんもそう思うよね?」

いぬ「えっ?う、うーん。まぁ、俺はこぶたちゃんはお姫さまっていうよりも、」

くじゃく「(圧のある感じで)ね?そうだよね?いぬくん。」

いぬ「(くじゃくの顔色を察して)お・・・、おう!いやー!実はさ!
俺もずっと前からこぶたちゃんお姫さまっぽいなーって思ってたんダヨネー!」

こぶた「えっ?ほんと?とっても嬉しい。実は私、子供の頃、白雪姫に憧れてて、」

くじゃく「(こぶたの台詞を遮り)それで今日の本題なんだけど。」

いぬ「おう!」

こぶた「・・・。」

くじゃく「いぬくん、東の森に行った事はある?」

いぬ「いやー、無いな。あんな辺鄙な場所に行く用事も無いし。」

くじゃく「そう。」

いぬ「さては、今日のお使い。東の森に行ってこいって事だろー?」

くじゃく「いぬくん流石。察しがいいね。」

いぬ「おう!野生の勘ってやつだな!」

くじゃく「ふふっ。それじゃあ、いぬくん、おおかみさんって動物は知ってる?」

こぶた「・・・!」

いぬ「んー?おおかみ?おおかみって誰?オス?メス?」

くじゃく「おおかみさんはオスだよ。」

いぬ「いやー、知らない奴だなー。こぶたちゃんは知ってる?」

こぶた「・・・。」

いぬ「こぶたちゃん?」

こぶた「えっ?あ、ああ・・・。うん・・・。」

いぬ「おおかみってどんな奴?」

こぶた「おおかみさんは、その・・・、とても・・・、」

くじゃくが険しい目でこぶたを睨む。

こぶた「あっ、あの・・・。」

いぬ「ん?」

こぶた「と、とっても怖い動物で!皆から嫌われてるって、聞いた事、ある・・・。」

いぬ「えーっ?マジで!?」

くじゃく「そんなことないよ。おおかみさんはちょっと不器用な所があるけど、凄く優しい動物よ。」

こぶた「えっ?」

くじゃく「(圧のある感じで)ね?こぶたちゃん?」

こぶた「う、うん!」

いぬ「うーん。なーんかめんどくさそうな感じがするけど、大丈夫かなー?」

くじゃく「うん。いぬくんなら、きっと大丈夫。」

いぬ「そうか!くじゃくちゃんがそう言うなら大丈夫だな!」

こぶた「あ、あの・・・、その、おおかみさんは、」

くじゃく「(圧のある感じで)大丈夫だよね?こぶたちゃん?」

こぶた「う、うん・・・。」

いぬ「で、そのおおかみって奴のところに、俺は何しに行けばいいんだ?」

くじゃく「うん。おおかみくんが持ってるシルバーのリングを譲って下さいって、お願いしてきてほしいの。」

いぬ「シルバー?リング?シルバーのリングってなんだー?
俺、イカリングはすげー好きだけど。なー?イカリングうめーよな、こぶたちゃん!」

こぶた「・・・。」

いぬ「こぶたちゃん?」

こぶた「えっ、あっ、うん!イカリング、おいしいよね。私、カレー味のイカリングが好き・・・。」

いぬ「わかるわー、うめーよなー、イカリングー!」

くじゃく「(食い気味に)二人ともー!・・・私が欲しいのはイカリングじゃなくて、銀色の指輪。」

いぬ「指輪?」

くじゃく「そう。指輪。おおかみさんが持っている、世界に一つだけの指輪。」

いぬ「世界に一つだけの・・・。ふーん。」

くじゃく「どうかした?」

いぬ「いやー。世界に一つだけのって言葉を聞くとさー、マッキーを想像しちゃうんだよねー。」

くじゃく「マッキー?」

いぬ「なんだよくじゃくちゃん。マッキー知らないの?槇原だよ、槇原。」

こぶた「あ、私も同じこと思ってた・・・。」

いぬ「やっぱりそうだよなー!こぶたちゃん!」

こぶた「うん・・・。」

いぬ「あの男性アイドルグループの名曲をうっかり口ずさみそうになるよなー!!」

こぶた「うん。」

いぬ「ちなみに、こぶたちゃんは誰派だった?」

こぶた「私は・・・、吾郎ちゃんが好きだったな。」

いぬ「えっ、そうなの?」

こぶた「うん。」

いぬ「そっかー!いや、俺はてっきり、こぶたちゃんは」

くじゃく「(食い気味に)いぬくん?こぶたちゃん?私の話をちゃんと聞いてくれない?」

こぶた「あっ!ごめん!くじゃくちゃん!」

いぬ「わるいわるい!とにかく、そのおおかみってのが持ってる指輪が欲しいんだろ?」

くじゃく「うん。ごめんね、いぬくん。私が直接頼みに行けばいいんだけど、忙しくて・・・。」

いぬ「くじゃくちゃんが忙しいのは知ってるよ。最近ちゃんと睡眠時間取れてるか?」

くじゃく「うん。実はね、今日もあんまり寝てなくって・・・。」

いぬ「夜更かしは美貌の大敵だぜー、くじゃくちゃん。」

くじゃく「・・・そうだね。」

いぬ「今日この後、おおかみの所に行って
指輪下さいって頼んできてやるから、くじゃくちゃんはゆっくり休んでくれよ。」

くじゃく「うん、ありがとう。実はね。
少し前に、うしちゃんとニワトリちゃんにお願いしたんだけど、
断られちゃって駄目だったみたい。だから、いぬくんのこと頼りにしてるね。」

いぬ「おう!任せてくれよ!」

こぶた「あ、あの・・・!」

いぬ「ん?」

くじゃく「どうしたの、こぶたちゃん。」

こぶた「そのー・・・、私も・・・、おおかみさんのところ、一緒に行ってもいいかな・・・?」

いぬ「えっ?こぶたちゃん一緒に来てくれるの?やったー!」

くじゃく「(圧のある感じで)無理しなくていいんだよ、こぶたちゃん。怪我してるんだし、無理はよくないと思うの。」

いぬ「怪我?あ、ほんとだ。どうしたんだよ、その腕。」

こぶた「こ、これはー、」

くじゃく「(食い気味に)うっかり転んで、怪我しちゃったんだって。」

こぶた「えっいや、これは・・・、」

いぬ「マジかよ。こぶたちゃんはドジっ子だなー。」

こぶた「あ、うん・・・。でも・・・、私は大丈夫だから・・・、その・・・、」

くじゃくがこぶたを険しい目つきで見つめる。

こぶた「いや、あの・・・!」

いぬ「こぶたちゃんが来てくれるなら俺は嬉しいけどな!
くじゃくちゃん?こぶたちゃんと一緒に行っても別にいいだろ?」

こぶた「あ・・・、」

くじゃく「うん。こぶたちゃんも行ってくれるなら、私とっても安心。」

こぶた「えっ・・・?」

くじゃく「そういえば私、大切な事を伝え忘れてた。」

いぬ「ははっ。たまにうっかりなところあるよな、くじゃくちゃん。」

くじゃく「もう、いぬくんうるさい。」

いぬ「ははは。で?なんだよ、大切なことって?」

くじゃく「うん。おおかみさんが、指輪を譲ってくれなかった時のおはなし。」

いぬ「ああー、そっか。うしちゃんとニワトリちゃんがお願いして断られたんだもんな。」

くじゃく「うん。もし、おおかみさんが指輪を譲ってくれなかったら・・・、」

いぬ「譲ってくれなかったら?」

くじゃく「おおかみさんを、やっつけてきてくれる?」



いぬ「え?」

こぶた「・・・」

くじゃく「あ、聞こえなかった?だったらもう一度言うね。
指輪を譲ってくれなかった時は、やっつけてほしいの。おおかみさんを。」

いぬ「やっつけるって・・・。」

くじゃく「はい、これ。」

いぬ「え、えっ?なんだよ、これ。」

くじゃく「これはAK-47(エーケーヨンナナ)。」

いぬ「AK-47って?」

くじゃく「AK-47とは、ミハイル・カラシニコフさんという人が設計して、
1949年にソビエト連邦軍が正式採用した自動小銃(じどうしょうじゅう)
このAK-47はソビエト連邦のみならず、全世界に普及したんだよ?」

いぬ「おう。いや!そういう事じゃなくって!やっつけるってー・・・、つまり・・・、」

くじゃく「うん。殺してきてほしいの。」



いぬ「そ、そうだよな。そういう事だよな。」

くじゃく「うん、そういう事。流石いぬくん、話が早くて助かる。」

いぬ「お、おう・・・。」

くじゃく「頼りにしてるからね、いぬくん。」

いぬ「ああ。でも!そのさー・・・、流石にやっつけるのは、」

くじゃく「(圧のある感じで)もしかして、出来ない?」

いぬ「あ・・・、」

くじゃく「別に無理しなくてもいいよ?嫌なら他の子に頼むから、いぬくんは気にしないで?」

いぬ「いや!やる!やるよ!俺に任せてくれ!」

くじゃく「うん。でも本当に。無理しなくていいよ?」

いぬ「無理じゃない無理じゃない!俺にやらせてくれよ!くじゃくちゃん!」

くじゃく「うん。じゃあ、いぬくんと、こぶたちゃんにお願いしようかな。」

いぬ「おう!直ぐに指輪持って帰ってくるからさ。待っててくれよ!」

こぶた「・・・。」

くじゃく「ありがとう。私、いぬくんの事、信じてるからね。」

いぬ「おう!んじゃ行ってくる!」

くじゃく「うん。いぬくん、いってらっしゃい。」

いぬ「おーう!行ってきまーす!」

AKMを背中に抱えて、いぬくん足早に退場。



こぶた「じゃあ・・・、私も行ってくる。」

くじゃく「(こぶたの言葉を遮り)こぶたちゃん。」

こぶた「へっ?」

くじゃく「くれぐれも、余計な事をいぬくんに言わないようにね。」

こぶた「あ・・・、」

くじゃく「一体どうして、いぬくんについていくなんて言ったの?」

こぶた「あっ、えと・・・、それは、」

くじゃく「(圧のある感じで)どうして?」

こぶた「あ・・・、いぬくん・・・、おおかみさんのこと知らないから・・・、それで、あの・・・、」

くじゃく「そういう余計な真似するの。私、好きじゃないな。」

こぶた「ご、ごめん!」

くじゃく「こぶたちゃんだから許してあげるけど、別の子が同じ事をしたら、お友達をやめてたかな。」

こぶた「(焦った様子で)ごめん!くじゃくちゃん!ごめん!」

くじゃく「ううん、いいの。こぶたちゃん。私、こぶたちゃんの事はとても大切な友達だと思ってる。」

こぶた「う、うん・・・。」

くじゃく「こぶたちゃんのこと、信用してるからね。」



くじゃく「こぶたちゃん?」

こぶた「あの・・・、くじゃくちゃん?実はその・・・、私ずっと、おおかみさんに、」

くじゃく「(こぶたの言葉を遮り)もしも私を裏切るような事をしたら、言わなくてもわかるよね?」

こぶた「っ・・・!」

くじゃく「こぶたちゃんは、とっても賢いもんね?」

こぶた「あ・・・。」

くじゃく「ねぇ?こぶたちゃん?」

こぶた「う、うん・・・。私のこと・・・、信用、して・・・・?」

くじゃく「勿論。気を付けていってきてね。」

こぶた「うん・・・。・・・じゃあ、行ってくるね・・・?」

足早にこぶたも退場。



くじゃく「はぁー。タバコ、タバコ・・・。」

くじゃくちゃんが銜えた煙草に火を灯けて、煙を吐く。

くじゃく「まぁ・・・、どうせお願いしたところで、譲ってなんかくれないだろうけど。」

再び煙草の煙を吐き出すくじゃく。

くじゃく「フッ。ていうか、いっそのこと・・・、食べられちゃえばいいのに。あの子。」

■scene2.おおかみさんが住む谷までの道中。

こぶた「ハァ〜。」

いぬ「おいおい、どうしたんだよ、こぶたちゃん。」

こぶた「うん・・・。」

いぬ「まるで小学校の遠足の帰り、バス酔いしてリバースした挙句、
めちゃくちゃ酷いあだ名を付けられた委員長って感じの顔してるぞ。」

こぶた「それ一体どんな顔?」

いぬ「ああ、もう。わかったわかった(ポケットからビニール袋を取り出す)、ほら吐け。」

こぶた「えっ、いや違くて。」

いぬ「俺は酷いあだ名付けたりしないからさ。
ささ、ほら。オエーってしなさい。オエーって。YOU、出しちゃいなよYOU。」

こぶた「だから違うの。気分が悪くて吐きたいわけじゃないの。」

いぬ「えっ?なんだよ。それならそうと早く言ってくれよー、こぶたちゃん。」

こぶた「ご、ごめん・・・。」

いぬ「危うくゲロブーってあだ名付けそうになったじゃんかー!」

こぶた「危うく付けるところだったんだ・・・。」

いぬ「一体どうしたんだ?元気無いじゃん。もしかして、腕の怪我が痛むのか?」

こぶた「ううん。そうじゃなくて・・・。今日のおつかい大丈夫かな・・・、って、わたし不安で・・・。」

いぬ「だいじょうぶさ!こぶたちゃんは心配しなくたっていいよ!」

こぶた「でも、もしも指輪を譲ってくれなかったら・・・、
いぬ君がしょってる銃で、おおかみさんをやっつけないといけないんだよ?
くじゃくちゃんのお願いとはいえ・・・、幾らなんでも、やっつけるのは・・・。」

いぬ「ま、まぁな・・・。」

こぶた「それに、実は・・・、おおかみさんって・・・、」

くじゃくN「余計な事言ったら殺すよ、こぶたちゃん。」



いぬ「ん?実は?」

こぶた「ううん!なんでも、ない・・・。」

いぬ「・・・まぁ確かに。今日のお使いは大変かもしれないけどさー。
でも、俺たちにとって、くじゃくちゃんはとても大切な友達じゃないか。」

こぶた「うん・・・。」

いぬ「俺とこぶたちゃんが今仲良くしてるのも、くじゃくちゃんのおかげだしさ。」

こぶた「そうだね・・・。」

いぬ「うん。俺にとって、くじゃくちゃんはかげがえのない友達なんだ。そう、あれは三年ぐらい前・・・。」

沈黙

こぶた「えっ?どうしたの?」

いぬ「ああ、ごめんごめん。今から回想シーン入るから。」

こぶた「ああ、うん。マイク、ミュートにしておくからごゆっくり。」

いぬ「おう、ありがとうこぶたちゃん!・・・そう、あれは三年ぐらい前。
ん?あれ?二年前だっけ?えっ、いや、三年前な気もするけど・・・、四年前か?
えーっと、三年、四年・・・、ええーっとーーー・・・」

こぶた「(食い気味に)早く回想入れよ!!!!!!!!」

いぬ「ああ悪い悪い!!じゃあ今から三年前の話だ!先ずはこちらのVTRを見てくれ!」

こぶた「ぶ、VTR、スタート・・・!」

■〜回想〜

いぬ「今日からこの町に住むことになったけど、知り合いが誰もいなくて不安だー。」

くじゃく「ねぇ、そこのあなた。自分がいま置かれた状況をとても説明チックに呟いているそこのあなた。」

いぬ「ん?俺のこと?」

くじゃく「そう、そこのあなた。見ない顔だけど、この町に最近引っ越してきたのかしら?」

いぬ「ああ。今さっき引っ越してきたばかりだ。
でも、引っ越してきたばかりで、これから先の生活がとても不安なんだー。」

くじゃく「あなた、なんだか妙に説明口調ね・・・。」

いぬ「この町で上手くやっていけるかとても不安だー。」

くじゃく「うん。まぁいいわ。もしよかったらお友達にならない?」

いぬ「えっ?」

くじゃく「私、くじゃくっていうの。よろしくね。」

いぬ「あ・・・。お、俺はいぬっていうんだ!」

くじゃく「ふふ、素敵な名前ね。」

いぬ「ああ、ありがとう!その・・・、くじゃくちゃんは・・・、とっても綺麗で可愛いな。」

くじゃく「そんな事ないよぉ。」

いぬ「ほんとだよ!」

くじゃく「ありがとう。」

いぬ「でも本当に、出会ったばかりの俺と、友達になってくれるのか?」

くじゃく「うん、勿論。私、あなたとお友達になりたい。」

いぬN「この時、俺の背中に稲妻が駆け抜けた。
突然だがここで皆に、俺の書いたポエムを披露したいと思う。」

こぶたN「は?」

いぬN「(こぶたを無視して)聞いてくれ『サンダーボルトラブ』

(心を込めて自作のポエムを読み始めるいぬくん)
参っちまうぜ子猫ちゃん
おめぇさんは 欲しがりベイビー
その手の温もり ビリッと来やがる
その手の優しさ 血行を良くする
神々が撃ちたもうた雷鳴 俺は失神寸前
つまりそれは どういう事か説明すると
サンダーボルトラブって事なのさ yeah」

こぶた「(食い気味に)あの、ごめん。いぬくん。回想途中にごめん。」

いぬ「んっ?なんだ?こぶたちゃん?」

こぶた「いや、なにそれ?」

いぬ「なにそれって、魂のポエムだよ。」

こぶた「・・・聞いてる私まで恥ずかしくなるから、出来れば割愛してくれない?」

いぬ「えーっ?だって、このあとまだ第十一楽章まで続くんだぜ!?」

こぶた「いや、いいから回想進めて?お願いだから。」

いぬ「うん・・・。ちぇーっ、最後まで読めなくて残念だなーっ!」

こぶた「ほらいぬくん!つづき!つづき!」

いぬ「おう!それじゃあVTR、スタート!」

■〜回想その2〜

くじゃく「あっ、いぬくん。こっちこっち。」

いぬ「お、おう!」

くじゃく「今日は来てくれてありがとう。」

いぬ「いやこっちこそ。誘ってくれてありがとう!
ていうか、くじゃくちゃんってすげーんだな。こんなにいっぱい友達がいるのか。」

くじゃく「うん。今日はざっと、200匹弱ってとこかな。」

いぬ「お、おう。・・・ていうか本当にいいのか?俺が参加しちゃっても。」

くじゃく「勿論。だって、パーティは皆で楽しむものでしょう?」

いぬ「そ、そうだな。ちなみに今日のパーティって、くじゃくちゃんが主催なんだろ?」

くじゃく「うん、そうだよ。」

いぬ「パーティの準備とか、色々と大変だったんじゃないか?」

くじゃく「うん。まぁね。昨日も色々あって、そんなに眠れなかったかな。」

いぬ「くじゃくちゃん・・・。」

くじゃく「大丈夫よ、いぬくん。気を遣わなくて大丈夫だから。
それに私、いぬくんの事、皆に早く紹介したいの。さぁ、行こう?」

いぬ「トゥンク・・・。」

くじゃく「え、どうかした?」

いぬN「くじゃくちゃんが、何気なく俺の手を掴んだ刹那、俺の背中に稲妻が駆け抜けた。」

こぶたN「えっ?また稲妻?」

いぬN「(こぶたを無視して)突然だがここで皆に、俺の書いたポエムを披露したいと思う。
聞いてください。『燃え上がれ情熱 〜君のその手が僕のハートを掴んだ〜』

(心を込めて自作のポエムを読み始めるいぬくん)
ハァ〜ン 冬の津軽海峡
ハァ〜ン 雪が降っているぜ
俺たちを包む ホワイトスノーが
今年も君に言いたい メリクリ
新しい靴を買いたい メルカリ
聖夜(say yeah)!! 今夜オレの腕の中
聖夜(say yeah)!! 来いやオレの腕の中
然るべき施設で 今夜お前を抱きたい」

こぶた「(食い気味に)いやいや待て待て。最低だなお前最低だな。」

いぬ「ん?一体どうした?こぶたちゃん。」

こぶた「いや、早く回想進めてよ。」

いぬ「こぶたちゃん?なんか怒ってない?大丈夫?」

こぶた「大丈夫!大丈夫だからとっとと進めて!」

いぬ「お、おう!それでは続きをご覧ください。VTR、スタート!」

■〜回想3〜

いぬN「くじゃくちゃんのパーティーは大盛況。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。けれど、そんな中・・・、」

ダチョウ(おおかみ)「オラ!どうした!酒!酒持って来いよ!グヘヘヘ。」

いぬN「参加者のダチョウが酔っ払って、くじゃくちゃんに絡み始めたんだ。」

ダチョウ(おおかみ)「くじゃくちゃーん!ウェ〜イ!ヒュー!楽しんでるかーい!イエーイ!」

くじゃく「う、うん・・・。ダチョウさん。お酒、そろそろやめといた方がいいんじゃない?」

ダチョウ(おおかみ)「オメェばか!バッカ!
何言ってんだよ!狂乱の宴はまだまだ続くぜ〜い!ヒック。」

くじゃく「でも、飲み過ぎは体に毒だよ?」

ダチョウ(おおかみ)「オマエよぉー!今日飲まずして、いつ飲めっていうんですかー!?」

くじゃく「いや、でも、」

ダチョウ(おおかみ)「くじゃくちゃーん。ヒック。今日この後さぁ。俺といい事しようぜー!」

くじゃく「今日は私、このあと片付けとかで色々忙しいから、」

ダチョウ(おおかみ)「いいじゃ〜ん!俺とさぁ・・・、然るべき施設で気持ちいい事しようぜぇ!」

くじゃく「いや、でも・・・、」

いぬ「ちょ待てよ!!」

ダチョウ(おおかみ)「なんだオメーは。」

いぬ「くじゃくちゃんが困ってるじゃないか!そこまでにしておけこの酔っ払い!」

ダチョウ(おおかみ)「んだとぉ!表に出やがれこの野郎ー!」

くじゃく「いぬくん!こっち!」

いぬ「へっ?あっ、くじゃくちゃん!?」

ダチョウ(おおかみ)「おいこの野郎!どこに行くんだこの野郎!ちょ待てよ!待てこのやろー!」

いぬN「くじゃくちゃんの手に引かれるまま、俺はパーティ会場を抜け出した。」

くじゃく「ここまで来れば大丈夫かな。迷惑かけちゃってごめんね、いぬくん。」

いぬ「なんでくじゃくちゃんが謝るんだよ。くじゃくちゃんは何も悪くないだろ。」

くじゃく「うん、ありがとう。・・・その、」

いぬ「ん?」

くじゃく「いぬくんが助けてくれて、私、とても嬉しかった。」

いぬ「いや、だって。周りの皆は見てるだけで、誰も止めに入らなかったから、つい・・・。」

くじゃく「仕方ないよ。ダチョウさんも普段は穏やかなんだけど。
お酒が入ると、ちょっとめんどくさくなっちゃうんだよね・・・。」

いぬ「あいつをパーティに誘うのは、もう止めといた方がいいと思うぜ。」

くじゃく「うん、そうする。」

いぬ「ああ、それがいいよ。」



くじゃく「いぬくん?」

いぬ「ん?」

くじゃく「出会ったばかりのいぬくんにこんな事、
お願いしていいのかわからないけど・・・、これからも私のこと、助けてくれたら嬉しいな。」

いぬ「何言ってるんだよ、勿論だよ。だって友達じゃないか、俺たち。」

くじゃく「うん。いぬくんが私の友達になってくれて、本当によかった・・・。」

いぬ「こちらこそだよ。俺を友達にしてくれて、マジでありがとう。」

くじゃく「・・・いぬくん?」

いぬ「ん?」

くじゃく「いぬくんの事、信用してるから。これからもずっと、よろしくね?」

いぬN「くじゃくちゃんが優しく俺の手を握った刹那、俺の背中に稲妻が駆け抜けた。」

こぶたN「もういいよ稲妻は。」

いぬN「(こぶたを無視して)それでは聞いてください。
『随分とクリーミーなロケンロール』

(心を込めて自作のポエムを朗読し始めるいぬくん)
おめぇさん まるでロッケンロール
おめぇさん めちゃめちゃクリーミー
おかげさまで しっちゃかめっちゃかだぜ
混乱が混乱を 呼んでいるぜ
つまりそれは どういう事か説明すると
おめぇさんは 随分とクリーミーなロッケンロールって事だぜ?
ドゥーユーアンダスタン?」

こぶた「(食い気味に)わかんないわかんない。
アイアムわかんない。いぬくんのポエム聞いてると頭痛くなる私。」

いぬ「・・・とまぁ、俺がくじゃくちゃんの事を、
どれだけ大事に思っているのかVTRをご覧いただきました。」

こぶた「うん・・・。何が言いたかったのか全然伝わってないと思う・・・。」

いぬ「えーっ!つまりさー!
くじゃくちゃんは俺の事を心から信用してくれてるんだよ。
だから、例えどんなに大変なお願いでも、友達として、
俺はくじゃくちゃんの想いを裏切りたくないんだ。」

こぶた「いぬくん・・・。」

いぬ「だってさー。お互いに信頼し合ってこその友達じゃないか、こぶたちゃん。」

こぶた「うん。でも、いぬくん。」

いぬ「なんだ?」

こぶた「回想いらなかったね。」

いぬ「ええー!?」

こぶた「4行ぐらいで済んだんじゃないかな・・・?」

いぬ「いや!絶対必要だったって!俺の書いた渾身のポエムも聞けてよかっただろ!?」

こぶた「いや、ポエムいらなかった。」

いぬ「なんでだよ!って、ウワァーッ!
そうこうしてる間に、おおかみの住む家が見えてきやがったァーッ!」

こぶた「結構長い時間かかったもんね回想・・・。ああ、でも、やっぱり私、不安だなー・・・。」

いぬ「大丈夫だって、こぶたちゃん。」

こぶた「う、うん・・・。」

いぬ「頑張ろうぜこぶたちゃん。安心してくれよ、俺が付いてるんだからさ!」

こぶた「うん・・・!」

いぬ「っしゃー!ちょちょいとお使いこなしてやろうぜー!」

■scene3.おおかみさんのおうち。

他の動物とは雰囲気が全く違う、
怪物のような姿をしたおおかみの前に座るこぶたといぬ。

おおかみ「で、なんだって?もう一度、聞こえるように言ってくれねーか?」

こぶた「(小声で)アノ、ワタシタチニ、」

いぬ「(小声で)オ、オオッ、オオカミサン ガ モッテル シルバーリ、」

拳で机を叩くおおかみ。

こぶた&いぬ「ひいっ!」

おおかみ「“聞こえるように言ってくれ”って、俺の言葉が聞こえなかったか?」

こぶた「聞こえてます!」

いぬ「しっかりとこの耳に聞こえてますぅ!」

おおかみ「聞こえてるんなら何か?俺を馬鹿してるのか?」

こぶた「ちっ!ちちちちち!」

いぬ「違いますゥ!!」

おおかみ「ちっ。めんどくせぇ。・・・ああー、なんだか腹が減ってきたな。」

こぶた「ひっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

いぬ「たたたた食べないでっ!」

おおかみ「お前ら食ってオレに一体、何の得がある?」

席から立ち上がると、気だるそうに首を回すおおかみ。

おおかみ「・・・はァ、イライラさせやがる。少し、席外すぞ。」

そのまま席を外すおおかみ。



いぬ「(小声で)おいおいおい。なんだよアレは・・・。クリーチャーじゃねーか。」

こぶた「(小声で)う、うん・・・。」

いぬ「ありゃもうオオカミっていうより悪魔じゃねーか。邪悪の化身だよ。」

おおかみ「誰が邪悪の化身だー!?」

いぬ「いや!なんでもないです!!」

おおかみ「おう。そうか。」

再び奥にひっこむおおかみ。

いぬ「ていうか、どうしよう!俺ものすごく不安になってきた!」

こぶた「し、しっかりしてよ、いぬくん。くじゃくちゃんの期待に応えるんでしょ?」

いぬ「そ、そうだけど!命の危険がつきまとうお願いだとは思わなかった・・・!」

こぶた「でも、ほら。くじゃくちゃんも言ってたよ・・・?」

くじゃくN「おおかみさんはちょっと不器用な所があるけど、凄く優しい動物よ。」

いぬ「そ、そうだよなー!見た目だけで判断するのは良くないよな・・・。っし!頑張るぞー!」

こぶた「ところで、いぬくん・・・?」

いぬ「ん?」

こぶた「なんか・・・、クンクン。美味しそうな匂いがしない?」

いぬ「えっ?・・・クンクン。おお。確かにとてもいい匂いがする!」

おおかみ「おう、すまねェ。待たせた。」

こぶた「あ、いえ。お構いなく。」

いぬ「それ!ステーキですか?美味しそうですね!」

おおかみ「ああ。ちょっと前に仕入れた牛肉と鶏肉を、塩コショウで焼いてみた。」

こぶた「牛肉と、」

いぬ「鶏肉・・・。」

くじゃくN「少し前に、うしちゃんとニワトリちゃんにお願いしたんだけど、断られちゃって駄目だったみたい。」

こぶた「い、いぬくん・・・?」

いぬ「な、なんだ・・・?」

こぶた「最近、あの二匹と会った・・・?」

いぬ「い、いや・・・。ここ2〜3週間、姿を見てない・・・。」

こぶた「もしかして・・・、」

おおかみ「あぁ、うんめェ。やっぱり肉には瓶ビールが一番だな。おい、お前ら。」

こぶた「は、はい・・・!」

いぬ「な、なんでしょうか・・・?」

おおかみ「お前らも、食うか?」

こぶた「い、いえ・・・!」

いぬ「ぼ、ぼぼっ、僕たちは結構です!」

おおかみ「ハッ・・・。まぁ、食わんだろうな。」

再び、ステーキを頬張り酒を飲み話を続けるおおかみ。

おおかみ「で、俺が持ってる指輪が欲しいって?」

こぶた「は、はい!」

いぬ「おおかみさんが持ってる指輪を、僕たちに、譲ってくれませんか・・・?」

おおかみ「ふん・・・。」



おおかみ「やなこった。お前ら、くじゃくのお使いで此処に来たんだろ?」

こぶた「は、はい・・・。」

いぬ「そ、そうですけど・・・、」

おおかみ「俺は、くじゃくが大ッ嫌いだ。
付け加えると、くじゃくの周囲に群がってるお前らも大嫌いだ。」

こぶた「わ、私たちも、ですか・・・?」

おおかみ「ああ。気持ち悪いんだよ。くじゃくの言いなりで。
お前ら、あいつがどんなにズレた事を言っても、それが正しいと思ってるんだろ?」

いぬ「ズレたこと?」

おおかみ「そうだ。お前ら、自分の頭で物事を深く考えない。
あいつの言う聞こえのいい言葉に騙されて、操り人形みてーになってる。」

いぬ「操り人形って・・・!俺たちはそんなんじゃない!!」

おおかみ「あいつが腹の底で何考えてるか知りもしないで、おめでたい限りだなァ。」

いぬ「あ、あんた!くじゃくちゃんの、何を知ってるっていうんだ!」

おおかみ「知ってるよ。あいつがどんなに醜いメスか。」

いぬ「くじゃくちゃんは醜くなんかない!」

おおかみ「醜い奴なんだよ。俺がこんな辺鄙な土地に住む事になったのも、アイツのせいなんだからな。」

こぶた「あ・・・、」

いぬ「えっ?一体どういう事だよ!」

おおかみがステーキを完食する。

おおかみ「ふぅ、旨かった。だが腹六分目ってとこだな。おい、そこの。」

こぶた「えっえっ?わ、私ですか?」

おおかみ「そうだ。そこの犬っころはマズそうだが、
おまえ、よく見ると、なかなか旨そうだなァ・・・。」

こぶた「いや!私おいしくなんかないです!」

おおかみ「そうか?煮ても焼いても良しってナリしてるぜ?」

こぶた「煮ても焼いてもおいしくないです!全然おいしくないです!!」

おおかみ「じゃあ試してみるか?」

こぶた「ひ、ひっ!」

いぬ「おい!やめろよ!」

おおかみ「ハッ・・・、冗談だよ、冗談。」

いぬ「タチの悪い冗談はよせ!・・・それよりどういう事なんだよ、さっきの話。」

おおかみ「あ?」

いぬ「くじゃくちゃんの事を悪く言ってたじゃないか!」

おおかみ「ああ。教えてやろうか?俺があいつをここまで嫌う理由を。」

こぶた「あの!指輪!もういいです!私たちもう帰らせていただきます!」

いぬ「(こぶたちゃんの台詞を遮って)教えてもらおうじゃないか!」

こぶた「えっ?やめようよ・・・、いぬくん、もう帰ろう・・・?」

いぬ「大切な友達の、くじゃくちゃんの事を酷く言われてこのまま帰れるか!」

こぶた「でも、その・・・、」

いぬ「帰りたいならこぶたちゃんは帰れよ!
でも、くじゃくちゃんは、俺とこぶたちゃんを信じてお願いしてくれたんだぞ?
あんなに好き勝手言われて、このまま大人しく引き下がれるかよ!」

こぶた「そ、それは、そうだけど・・・。」

おおかみ「おい。そっちの旨そうなの。お前はどうする?」

こぶた「わわ、私は・・・、その・・・、えーと、その、」

おおかみ「早く答えろ。さもないと、食っちまうぞ。」

こぶた「ひいっ!はい!私も聞きますッ!!」

おおかみ「っし。じゃあ俺が、これからお前たちに授業してやる。特別にな。」

■scene4.おおかみ先生の特別授業。

おおかみ「はい。ミナサン、コンバンワ。しくじりティーチャーのおおかみです。」

いぬ「(間髪入れずに)ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って。」

おおかみ「ハイ、なんでしょう。」

いぬ「いや、えっ?なに?授業してやるって、マジで授業するって事なの!?」

おおかみ「そうですが、何か?」

こぶた「あのすみません!私たちさっきまで、おおかみさんの家にお邪魔してたと思うんですが・・・。」

おおかみ「そうですね。」

こぶた「私たち、一体いつの間に学校の教室に来たんでしょうか・・・。」

おおかみ「何か問題でも?」

いぬ「いやなんか、その・・・、色々と理論とか法則やらを無視している流れに、」

おおかみ「(遮って)うるせーっ!俺の授業を黙って受けりゃいいんだクソボケどもがーッ!」

こぶた「はっ、はいィィィィ!」

いぬ「ごめんなさいィィィィィ!!」

おおかみ「(咳払いをして)えー、では気を取り直して。
今日は皆さんに、くじゃくさんがどれほど醜い動物なのか、授業していきたいと思います。」

こぶた「なんか、いつの間にか・・・、」

いぬ「机の上に、教科書が置かれてるんだが・・・。」

おおかみ「それでは最初のページをめくって下さい。えー、2ページ目ですね。
くじゃくさんの手口その1。誰にでも、穏やかな笑顔で近づいてくる。」

いぬ「いやいや!この書き方、くじゃくちゃんが詐欺の犯罪者みたいじゃないですか!」

おおかみ「そうです。彼女のやり方は詐欺の犯罪者と同じやり口なんです。
よく思い出してみて下さい。皆さんがくじゃくさんとはじめて出会った時、
彼女は、穏やかな笑顔を浮かべて優しい言葉をかけてきませんでしたか?」

こぶた「・・・。」

いぬ「ま、まぁ確かに?すげー優しく声を掛けてきてくれたけど・・・。」

おおかみ「それが、彼女のやり方なんです。」

いぬ「え、どういう事?」

おおかみ「それをこの後詳しく皆さんに教えていきます。
えー、ちなみに。僕は以前、皆さんが住んでいる麓の町に暮らしていました。」

こぶた「あ・・・、」

いぬ「えっ?そうだったのか?アンタも住んでた事があるのか?」

おおかみ「はい。ですが、この後お話する一件が影響して、
僕は5年前から、この辺鄙な土地での生活を、余儀なくされる事になりました。」

いぬ「5年前・・・。俺が引っ越してくるよりちょっと前の話だな・・・。
そういや、こぶたちゃんって、産まれた頃から麓の町に住んでるんだろ?」

こぶた「えっ!?う、うん・・・。」

いぬ「おおかみのこと、実は知ってたんじゃないのか?」

こぶた「い、いや・・・!知らない・・・、わたし知らない・・・。」

いぬ「ああ、そう・・・。」

おおかみ「元々、僕は北の国に住んでいました。
麓の町への引っ越しが決まった時、
僕が先ず不安に感じたのは、知り合いが誰もいない、という事です。」

いぬ「あ、それ!俺も引っ越す時に思った!」

おおかみ「しかも僕は見ての通り怖い姿をしています。
その結果、麓の町に引っ越した後、こんな状況に陥りました。次のページを捲って下さい。」

ページを捲るいぬくんとこぶたちゃん。

おおかみ「はい。トモダチが一匹も出来ず、常に孤独。」

こぶた「ま、まぁ・・・」

いぬ「うん。そうだよな、まぁそうなるよな。」

おおかみ「僕は北の国にいた頃から、見た目のせいで、色々と損な目に遭ってきました。
それでも僕は、新しい町で友達を作ろうと、色々な動物達に声を掛けました。
ですが、ことごとく逃げられてしまい、誰も僕の言葉に耳を貸してくれませんでした。
その結果・・・、次のページを捲ってください。」

ページを捲るいぬくんとこぶたちゃん。

おおかみ「はい。誰にも話を聞いてもらえなかった僕は、
公園のベンチに座って、一日中一匹で過ごす事が日課になりました。」

こぶた「あ・・・。」

いぬ「いやー!だって、すっげー怖いもんアンタ!見た目と相まって!」

おおかみ「(間髪入れずに)あ?おめぇ今なんつった?もっぺん言ってみろコノヤロー。」

いぬ「いやあの!その!おおかみさんは、なんといいますか、見た目と、雰囲気が・・・。」

おおかみ「(咳払いをして)まぁ、いいでしょう。
先ほども言いましたが僕は、北の国にいた頃から怖がられていました。
だから、麓の町へ引っ越すにあたって色んな本を読み、友達を作る為の話術を勉強しました。
現に今、いぬさんとこぶたさん相手に授業してますけど、さっきみたいに僕の事が怖いですか?」

こぶた「ま、まぁ、」

いぬ「ちょくちょく怖いけど、さっきに比べたら・・・。」

おおかみ「そうだと思います。僕も僕で、自分の見た目が、
他の動物達と付き合う上でネックになると自覚がありました。
それでも、優しく親切にしていれば、僕にも友達が出来るんじゃないかと思っていたんです。
ですが、麓の町の動物たちは、僕を外見だけで判断して、一方的に怖がりました。」

いぬ「ちなみにその当時、自分の見た目のせいで、
めっちゃ凹んだー、傷付いたーって思った体験って何かあります?」

おおかみ「おお。いい質問ですね、若林さん。」

いぬ「若林って誰っすか?」

おおかみ「そうですね。誰だったか、もう覚えていませんが。
ある時、道端で転倒した動物を見掛けましてね。
落とした買い物袋に入っていたりんごが、辺りに転がってしまったんです。
その光景を目の当たりにした僕はすかさず、りんごを拾って手渡そうとしました。」

こぶた「・・・。」

いぬ「なんかもうその先の展開が読める。」

おおかみ「その動物は僕の姿を見るなり、猛ダッシュで逃げていきました。」

いぬ「それは確かにショックだよな。こぶたちゃん?」

こぶた「・・・。」

いぬ「こぶたちゃん?」

こぶた「えっ?う、うん・・・!そうだね・・・。」

いぬ「そりゃあ公園のベンチに、一日中一匹でいる羽目になるよな。」

おおかみ「一つ補足をさせてもらうと、僕が公園に行くと、
園内にいた動物たちが皆、すぐさま公園から出ていくんです。」

いぬ「ああー、自然と一匹になっちゃうんだ・・・。」

こぶた「苦労、されたんですね・・・。」

おおかみ「正直な話。僕はとても悲しかった。皆と話がしたい。
皆と友達になりたい。なのに、皆と全く接点が持てない。
そんな状況が続いた僕は、故郷の北国が恋しくなりました。
もういっそ、荷物をまとめて帰ってしまおうかと考えていた矢先、
僕の前に、一匹の動物が現れます。次のページ。」

ページを捲るいぬくんとこぶたちゃん。

おおかみ「はい。そこに現れたのが、くじゃくさんです。」

いぬ「ああー。くじゃくちゃんがここで出てくるのかー!」

おおかみ「そうです。僕はある日公園で、いつものようにたそがれていました。
先ずは、こちらのVTRをご覧ください。」

■〜おおかみさんの回想〜

公園のベンチでたそがれているおおかみ。

おおかみ「あァ〜、ビールくそうめえ。」

いぬ「はいはいはい!ちょ待てよティーチャー!」

こぶた「お酒飲んでるじゃないですか!」

いぬ「たそがれてないですよね!?」

おおかみ「いや。僕は嫌な事が遭った時は大抵お酒の力を借りる事にしているので。」

いぬ「だめだこの先生。」

おおかみ「あの?回想続けても?」

こぶた「あっ、はい!」

おおかみ「それでは、VTRの続きをご覧ください。」

■〜おおかみさんの回想〜
誰もいない公園のベンチで、おおかみがうなだれている。

おおかみ「はぁ、故郷が恋しい・・・。もういっそ、このまま帰ってしまおうか・・・。」

くじゃく「ねぇ、そこのあなた。」

おおかみ「ん・・・?」



おおかみ「ひょっとして、俺のことか?」

くじゃく「そう。あなたのこと。好きなの?このベンチ。」

おおかみ「え?いや・・・、好きでいるわけじゃない。ていうか、怖くないのか?」

くじゃく「怖いって?」

おおかみ「俺のことが。」

くじゃく「うん。怖くないよ。」

おおかみ「気遣わなくていいんだぜ。」

くじゃく「気なんか遣ってないんだけどな。でも、どうして?」

おおかみ「・・・少し前にこの町に引っ越してきたんだが、トモダチが出来ないんだ。」

くじゃく「うん。」

おおかみ「皆と仲良くなろうと、自分から頑張って一歩踏み出してみるんだが。
この見た目のせいで、避けられちまう。皆、俺の事を怖がって話も聞いてくれない。」

くじゃく「だから、このベンチに?」

おおかみ「ああ。この町で、俺の居場所はここだけなんだ。」

くじゃく「だったら、私とお友達になりましょ?」

おおかみ「は?」

くじゃく「私、くじゃく。あなたは?」

おおかみ「いや、ちょっと待てよ。友達になるって・・・、いいのかよ?俺みたいな嫌われ者と。」

くじゃく「うん。私、あなたと友達になりたい。」

おおかみ「言っておくが、同情なんて俺はいらねーぜ。」

くじゃく「同情?」

おおかみ「無理して友達になる必要なんかないって言ってるんだ。」

くじゃく「そんな事思ってないよ。私ね、この公園を通る度に、あなたを見ていたの。」

おおかみ「え?」

くじゃく「毎日毎日、このベンチで美味しそうにお酒を飲んでた。」

おおかみ「・・・まぁ、それしかする事がなかったしな。」

くじゃく「私、お酒詳しくなくて。
オススメがあったら教えてほしいなーって、あなたを見る度に思っていたの。」

おおかみ「そ、そうなのか?」

くじゃく「うん。ねぇ、どんなお酒が好きなの?」

おおかみ「・・・。」

くじゃく「よかったら、教えてくれない?」

おおかみ「・・・おおかみだ。」

くじゃく「えっ?」

おおかみ「名前。まだ言ってなかった。俺はおおかみ。よろしく。えーと・・・、」

くじゃく「くじゃくでいいよ。おおかみ君。」

おおかみ「本当に、いいのか?俺、くじゃくちゃんの友達になって・・・・・。」

くじゃく「勿論だよ。今日からよろしくね、おおかみ君。」

おおかみ「(小声で)ありがとう。」

くじゃく「え?」

おおかみ「(少しだけ感極まって)ありがとう。」

くじゃく「うん。こちらこそありがとう。」

くじゃくの言葉を聞いたおおかみの瞳から、涙が零れ落ちる。

おおかみ「う、うっ・・・、俺の方こそ・・・、ありがとう・・・、本当に・・・、ありがとう・・・・・。」

■〜回想中断〜

いぬ「くじゃくちゃんマジ天使。」

おおかみ「それからというもの。僕はお友達がたくさん出来ました。
くじゃくさんが他の動物たちに、おおかみさんは優しい動物だと話してくれたんです。」

いぬ「いや本当にそうなんだよ!そういうとこあるある!なー、こぶたちゃん?」

こぶた「う、うん・・・。」

おおかみ「くじゃくさんのおかげで、僕は皆と楽しい毎日を送れるようになりました。」

いぬ「いやァー、おおかみさん、本当によかったー。」

おおかみ「さて、次の回想に移る前に、皆さんにある物を紹介したいと思います。こちらです。」

おおかみが懐からシルバーリングを取りだす。

いぬ「あ、やべ!うっかり感動しちまってた!つか、その指輪ってもしかして・・・!」

こぶた「くじゃくちゃんの言ってた・・・。」

おおかみ「そうです。いぬさんとこぶたさんが、
くじゃくさんから持ってくるようにお願いされた、銀の指輪です。」

いぬ「うーん・・・。なーんか、見た感じは普通の指輪だな。」

くじゃくN「おおかみさんが持っている、世界に一つだけの指輪。」

いぬ「って言ってたから、もっとすげーの想像してたんだけど。」

おおかみ「確かにこの指輪は、くじゃくさんの言う通り、世界にたった一つしかない物です。
この指輪が何故世界に一つしかないのか、回想の続きを見てもらいましょう。おい、そこの。」

こぶた「は、はい!」

おおかみ「キュー振り。頼んだぜ。」

こぶた「わっ、わかりました・・・!VTR、スタート・・・!」

■〜おおかみさんの回想〜
夜、いつもの公園のベンチにおおかみさんが座っている。

くじゃく「ごめんね、おおかみ君。こんな時間にいきなり呼び出して。」

おおかみ「やる事もなかったし構わねーよ。」

くじゃく「待たせちゃったかな?」

おおかみ「いいや。それより、くじゃくちゃん。最近、忙しそうだな。体調は大丈夫か?」

くじゃく「うん。心配してくれてありがとう。大丈夫だよ。なにしてたの?おおかみくん。」

おおかみ「ん?このベンチに座って、思い出してた。」

くじゃく「ん?」

おおかみ「くじゃくちゃんと友達になる前の、文字通り、一匹狼だった頃をさ。」

くじゃく「ねぇ覚えてる?あの時のおおかみ君、このベンチに座ってお酒飲んでた。」

おおかみ「ああ、覚えてるよ。俺、くじゃくちゃんに感謝してるんだ。
くじゃくちゃんが声を掛けてくれなかったら、俺はきっと、故郷に帰っていたと思う。」

くじゃく「うん。」

おおかみ「今じゃ、くじゃくちゃんのおかげで沢山の友達が出来たし、慕ってくれる奴も出来た。
一匹狼だった頃は知らなかったよ。友達と一緒に飲むお酒があんなに美味しいって、わからなかった。」

くじゃく「うん。おおかみ君もすっかり、皆の人気者になったね。」

おおかみ「こないだも夜中、ヤドクガエルの奴にいきなり呼び出されてな。
おおかみさん、俺っちの相談乗って下さいよーって言われて、朝方まで話を聞いてた。」

くじゃく「ヤドクガエル君と?」

おおかみ「ああ。」

くじゃく「ヤドクガエル君、なんだって?」

おおかみ「それがな。恋愛相談されちまってな。
あいつ、元カノとヨリを戻したいらしいんだよ。
別れた今でも、元カノとの指輪を財布の中に入れてるんだとさ。
相手が誰なのか聞いたんだが、全然教えてくれなくてな。
誰かわかれば、もうちょっと良いアドバイスが出来たと思うんだよな、俺。」

くじゃく「へぇ・・・。」

おおかみ「あいつも意外とシャイなとこあるよな。・・・でも、俺を頼ってくれて嬉しかった。」

くじゃく「うん。」

おおかみ「だから・・・、ありがとな、くじゃくちゃん。
なんか・・・、今更こう言うのも恥ずかしいけど。
これからもずっと、俺の大切な友達でいてくれよ、くじゃくちゃん。」

くじゃく「うん・・・。」

おおかみ「ん?どうした?くじゃくちゃん?」

くじゃく「・・・。」

おおかみ「悪い。俺もしかして、マズい事言っちまったか?」



くじゃく「“お友達”じゃなきゃ、ダメなの・・・?」

おおかみ「えっ?」

くじゃく「あのね、実は私・・・。おおかみ君の事、好きなの。」

おおかみ「えっ?ああー、俺もくじゃくちゃんの事、好きだぜ。」

くじゃく「そうじゃないの。きっと、そうじゃなくて。」

おおかみ「ん?」

くじゃく「お友達でいる事を、やめたいの。」

おおかみ「は?えっ?ちょっと待ってくれ、それって一体どういう、」

くじゃく「好きなの。」

おおかみ「えっ?」

くじゃく「友達としてじゃなく・・・、一匹のオスとして。アナタが好き。」

おおかみ「・・・それって、」

くじゃく「おおかみ君がいいなら、・・・私と、お付き合いしてくれませんか?」

おおかみ「・・・。」

くじゃく「・・・。」

おおかみ「・・・俺なんかで、いいのか?」

くじゃく「なんかじゃない。アナタがいい。アナタじゃなきゃダメなの・・・、おおかみ君。」



おおかみ「なんだかさ、」

くじゃく「うん。」

おおかみ「夢みたいだ・・・。」

くじゃく「うん」



くじゃく「夢だよ。」

おおかみ「えっ?」

くじゃく「私たちは二匹で、幸せな夢を、いつまでも見続けるの。」

おおかみ「くじゃくちゃん・・・。」

くじゃく「おおかみ君。私と一緒に幸せな夢。ずっと見続けてくれますか?」



おおかみ「はい。よろこんで。」

くじゃく「おおかみ君・・・。」

おおかみ「くじゃくちゃん・・・。」

抱き合う二匹。

■〜回想終了〜

いぬ「ちょっと待てちょっと待てちょっと待てぇ!!」

おおかみ「なんでしょうか、いぬさん。」

いぬ「え、いや!アンタが!?くじゃくちゃんの・・・、元カレだぁ!?」

おおかみ「そうです。僕はくじゃくさんとお付き合いしていました。」

いぬ「今の回想じゃなくて妄想だろ!?妄想!!」

おおかみ「いいえ。事実です。」

いぬ「ワンワン!!ワンワンワン!!」

おおかみ「彼は・・・、つーか、どうしたんだコイツ。」

こぶた「ショックなんだと思います・・・。いぬくん、くじゃくちゃんに恋してるから。」

いぬ「わおーーーん!!!って、ちょっと待って!!
こぶたちゃん、俺がくじゃくちゃんに片想い中なことなんで知ってるの!?」

こぶた「いや、くじゃくちゃんへの接し方を見てればわかるし・・・。
それに、あんな露骨なクソポエム聞かされたら誰だってわかるよ・・・。」

いぬ「クソ・・・ポエム・・・。まぁそれは一旦置いといてだな!今の話が事実かわからないじゃないか!」

おおかみ「ほう。僕の事が信用出来ませんか?」

いぬ「信用出来ない!というか信用したくない!ってか証拠!証拠がないじゃないか!」

おおかみ「証拠ですか。今とてもいい事を言ってくれましたね。
証拠はあります。この指輪です。この指輪を、よく見て下さい。」

いぬ「その指輪がなんなんだよ。」

こぶた「あっ・・・。」

いぬ「ん?なんだよ、こぶたちゃん。」

こぶた「指輪に、彫られている文字・・・。」

いぬ「文字?・・・えーと、なになに?“おおかみとくじゃく。永遠の夢を誓って”って事は・・・、」

おおかみ「ご理解いただけましたか?
この指輪は、僕がくじゃくさんと交際していた頃に作った世界に一つだけの指輪なんです。」

いぬ「つまり、くじゃくちゃんとのペアリングって事か?」

おおかみ「そうです。」

いぬ「ワオーン!俺もくじゃくちゃんとのペアリング作りたい!!」

おおかみ「ですが、くじゃくさんはとっくに、この指輪を処分しています。」

いぬ「ん?ちょっと待ってくれ。」

おおかみ「はい、いぬさん。」

いぬ「そういや・・・、くじゃくちゃんがなんで今更、元カレの持ってる指輪を欲しがるんだ?」

おおかみ「(元の口調に戻り)お前、さっきからいいとこ突くじゃねぇか。話が進めやすくて助かるぜ。」

いぬ「うるせー!てか、そんなもん見せられたって信用出来るかよ!なぁ、こぶたちゃん?」



こぶた「・・・ごめん。」

いぬ「えっ?」

こぶた「・・・。」

いぬ「ごめんって・・・。どうしたんだよ、こぶたちゃん・・・。」

こぶた「いぬくん・・・、本当にごめん・・・。私・・・、実は知ってたの・・・。」

いぬ「知ってたって、なにを?」

こぶた「くじゃくちゃんと、おおかみさんが付き合ってたこと・・・。」

いぬ「は?」

おおかみ「へぇ。あれと付き合ってた事は表沙汰にしてなかったはずだし、
あの女も決して口外してなかったはずなんだがな。おい、焼豚。」

こぶた「えっあっ、焼かれてないんですけど・・・。」

おおかみ「(無視して)お前、麓の町にずっと住んでるんだろう?」

こぶた「えっ、えーと、」

いぬ「(遮って)そんな事どうだっていい!なんで隠してたんだ!こぶたちゃん!」

こぶた「あ・・・!ご、ごめん・・・!」

いぬ「俺さっき聞いたよな!?おおかみのこと、実は知ってたんじゃないのかって!」

こぶた「あっ・・・。」

いぬ「俺に嘘ついたのか!?」

こぶた「そ、それは、」

おおかみ「言えるわけねぇよな?“タイセツなオトモダチ”だもんな?」

いぬ「大切な友達だからこそ正直に言うべきだろ!」

おおかみ「逆だ。“タイセツなトモダチ”だからこそ、息が詰まって言えなくなるんだよ。なァ?」

こぶた「(気まずそうに頷く)」

いぬ「それは・・・、友達って関係に甘えてるだけだぞ!こぶたちゃん!」

こぶた「ごめん!いぬくん、本当にごめん!!」

おおかみ「余計な事を言うなって、くじゃくに脅されてたんじゃねーのか?」

こぶた「ッ!」

いぬ「くじゃくちゃんがそんな事するわけないだろ!」

おおかみ「どうなんだ、焼豚。」

いぬ「どうなんだよ、こぶたちゃん!」

こぶた「そ、それは・・・、」

沈黙

おおかみ「まぁいい。すっかり脱線しちまったが。そろそろ続き、いいか?」

いぬ「ああ!その前に!一つだけ言っておく事がある!」

おおかみ「なんだ?」

いぬ「こぶたちゃん!俺もうこぶたちゃんの事は信用しない!!」

こぶた「そ、そんな・・・!」

いぬ「だってそうだろ!なんでそんな大事な事を言わないんだ!!」

こぶた「だって・・・、その・・・、」

おおかみ「フッ。まぁ、次の回想を見れば、馬鹿なお前でも気付くんじゃねぇか?」

いぬ「何を!?」

おおかみ「お前ら、指輪を持ってくるように俺にお願いしろって、お使いを頼まれたんだろう?」

いぬ「そうだ。」

おおかみ「じゃあもしも、俺がお前らの頼みを断った時、どうしろって言われてる?」

こぶた「それは・・・、」

いぬ「いや、その場合は・・・、その・・・、別にっ、無理しなくてもいいよって、」

おおかみ「ハハハッ。白々しい嘘だな。おい、犬っコロ。お前が背中にしょってる、その物騒な物はなんだ?」

いぬ「こ、これは!!」

おおかみ「お願いして、もし断られた時はそのAK-47で俺を殺せ。」

いぬ「ッ・・・!」

おおかみ「どう思ったよ?」

いぬ「へ・・・?」

おおかみ「お前、本当になにも、疑問が浮かばかったのか?
くじゃくちゃんはどうしてこんな物騒な事を、俺達に頼むんだろうって。」

いぬ「あ・・・。」

おおかみ「さて、じゃあ次の回想に移るか。おい焼豚。キュー振り。」

こぶた「は、はいっ!それでは・・・、VTR、スタート・・・!」

■〜続・おおかみさんの回想〜

くじゃく「おおかみ君。お願いがあるの。」

おおかみ「おう。なんでも言ってくれよ、くじゃく。」

くじゃく「私ね。どうしても欲しい指輪があるの。世界に一つだけしかない指輪。」

おおかみ「世界に一つしかない指輪か。
っていっても、そんな高そうな指輪、俺の稼ぎで買えるかなー。」

くじゃく「うん。その指輪ね。ヤドクガエル君が持ってるの。」

おおかみ「ヤドクガエル・・・。数年ぶりに聞いたな。あいつの名前。あいつ今、何処で何してるんだ?」

くじゃく「何をしてるのか、私もよくわかんないんだけど、今は東の森に住んでるって。」

おおかみ「東の森?そりゃまた辺鄙な場所に引っ越したなー。」

くじゃく「うん。それでね。
私、ヤドクガエル君が持ってる、世界に一つしかない指輪がどうしても欲しいの。
私の代わりに、指輪を譲ってほしいって頼んできてくれないかな?」

おおかみ「いいぜ。お安い御用だ。久々にアイツとも話がしたいしな。」

くじゃく「ありがとう。おおかみ君。あ、そういえば大事なことを伝え忘れてた。」

おおかみ「ははっ、くじゃくはたまにうっかりなところあるよな。」

くじゃく「もう、うるさいな、おおかみ君ったら。」

おおかみ「ははは。で?なんだよ、大事なことって。」

くじゃく「うん。ヤドクガエル君が指輪を譲ってくれなかった時のはなし。」

おおかみ「ああ、確かに。あいつ、もしかしたら嫌って言うかもしれないしな。」

くじゃく「うん。その場合なんだけど、」

おおかみ「おう。」

くじゃく「ヤドクガエル君をやっつけてきてくれる?」



おおかみ「へ?」

くじゃく「ん?聞こえなかった?だったらもう一度言うね。
指輪をくれなかった場合はやっつけてほしいの、ヤドクガエル君を。」

おおかみ「やっつけるって・・・、」

くじゃく「はい、これ。」

おおかみ「え、えっ?なんだよ、これ。」

くじゃく「これはAK-47(エーケーヨンナナ)。」

おおかみ「AK-47って・・・。」

くじゃく「AK-47とは、ミハイル・カラシニコフさんって人が設計して、
1949年にソビエト連邦軍が正式採用した自動小銃(じどうしょうじゅう)
このAK-47はソビエト連邦のみならず、全世界に普及したんだよ?」

おおかみ「そういう事じゃなくて!・・・やっつけるって、」

くじゃく「うん。」

おおかみ「殺せって事、だろ・・・?」

くじゃく「うん、そういう事。流石おおかみくん、話が早くて助かるー。」

おおかみ「ちょっと待ってくれ。どうしてだ?どうしてそんな事になる?」

くじゃく「どうしてって?」

おおかみ「お前、ヤドクガエルと仲良くしてたじゃないかよ。
それに、アイツすげーいい奴だし、俺がお願いすればきっと、」

くじゃく「おおかみ君。私のお願い、嫌なの?」

おおかみ「いや、そうじゃない!そうじゃなくて・・・、腑に落ちないっていうか・・・!」

くじゃく「だったら無理しなくてもいいよ。他の子に頼むから、おおかみくんは気にしないで。」

おおかみ「いや!やる!やるけど・・・。このAK-47は、お前に返す。
きっと、お願いすれば・・・、あいつなら譲ってくれると思うから。」

くじゃく「うん。わかった。・・・優しいね、おおかみ君は。」

おおかみ「・・・なぁ、ヤドクガエルの奴となんかあったのか?」

くじゃく「・・・。」

おおかみ「それだけでいい。お前のお願い、叶えてやりたいから。だから、教えてくれよ。」

くじゃく「・・・酷い事、言われたの。私が酷い動物だって嘘を、皆に言い振らしたの。」

おおかみ「え?いや、まさかアイツに限って、お前の事を酷く言うなんて事・・・、」

くじゃく「おおかみ君・・・。」

おおかみ「・・・。」

くじゃく「私のこと、信じて・・・。」

おおかみ「・・・くじゃく。」

くじゃく「お願い。これからも一緒に、私と幸せな夢。見続けてくれるんでしょ?」



おおかみ「・・・。」

くじゃく「おおかみ君・・・。」

おおかみ「わかった。お前の事、信じる。」

くじゃく「うん。ありがとう。おおかみ君。」

おおかみ「それじゃ、行ってくる・・・。」

■〜回想終了〜

いぬ「あ、あ・・・・。」

おおかみ「おう。さっきまでの威勢はどうした?
もしかして、あいつから似たようなこと言われたか?」

いぬ「う、うるせぇ・・・。」

おおかみ「ここまで教えてやったんだ。あいつがどんな奴か、いい加減わかっただろ?」

いぬ「・・・どうなったんだ?」

おおかみ「あ?」

いぬ「お前はその後、どうしたんだよ・・・。」

おおかみ「会いに行ったさ、ヤドクガエルの奴に。・・・おい、焼豚。」

こぶた「は、はい!」

おおかみ「あいつは、俺と会って真っ先に、何て言ってきたと思う?」

こぶた「え・・・、その・・・、えーと・・・。」

おおかみ「“おおかみさん。アンタも、俺の事を殺しに来たのか?”」

いぬ「・・・!」

おおかみ「錯乱したアイツが全部話してくれたよ。
くじゃくの奴は俺と付き合う前に、ヤドクガエルと付き合っていたんだ。」

いぬ「え?」

おおかみ「邪魔になったんだよ。元カレのヤドクガエルも。
あいつと付き合っている時に作った、世界に一つしかない指輪も。」

いぬ「は・・・?」

おおかみ「くじゃくは、周囲にでっち上げたんだ。
ヤドクガエル君は、私のことを悪く言う、酷い動物だってな。」

いぬ「んな事あるかよ・・・。」

おおかみ「あるんだよ。お前らみたいに、周囲はくじゃくの言う事をあっさり信用した。
やがて、総スカンを食らったヤドクガエルは孤独に耐え切れず、麓の町からいなくなった。」

いぬ「まさか、そんな事・・・。」

おおかみ「ていうか、お前ら不思議に思わなかったか?
皆に好かれているくじゃくが、俺みたいな嫌われ者を何故友達にしたのか。」

いぬ「それは、くじゃくちゃんが優しい心の、」

おおかみ「厄介者だった俺を友達にする事で、あいつは自分自身の株を上げたんだ。」

いぬ「違う!お前を友達にしたのはくじゃくちゃんが優しい心の持ち主だからだ!」

おおかみ「ああ、そうだそうだ。
ヤドクガエルがくじゃくと別れるきっかけとなった出来事があるんだ。それはな?」

くじゃくN「ヤドクガエル君、お願いがあるの。
コモドオオトカゲさんが持ってる、世界に一つだけの指輪がどうしても欲しいの。」

いぬ「あ、あ・・・・。」

くじゃくN「コモドオオトカゲさんが指輪を譲ってくれなかった場合、彼の事をやっつけてほしいの。」

おおかみ「いい加減わかっただろう?あいつは・・・、
いつまでも綺麗な、皆から大事に想われる清純派ヒロインであり続けたいんだ。
その為に、自分と別れた元カレ全員と、元カレと作ったペアリングを消したい。
元カレという、自分にとって都合の悪い存在全てを、この世から抹消したいんだ。」

いぬ「くじゃくちゃんがそんな事考えてるわけないだろう!」

おおかみ「すげーな、くじゃくの信者は。アタマが沸いてやがる。」

いぬ「どうせ、そのヤドクガエルって奴も!今までの話も全部!お前が作った嘘なんだろ!」

おおかみ「だから嘘じゃねーよ。」

いぬ「じゃあ!ヤドクガエルをここに連れて来い!ここで証言させろ!」



おおかみ「無理だな。」

いぬ「ほら!どうせ嘘なんだろ?
あんたの友達なら、連れてこれるはずだもんな!
あー、よかったー!アンタの話は最初からおかしいって思ってたん」

おおかみ「(遮って)死んだ奴を、どうやって連れてくればいい?」

いぬ「は?」

おおかみ「ヤドクガエルも、あいつが持ってた指輪も、とっくに抹消されちまった。」

いぬ「抹消、って・・・。」

おおかみ「殺されたよ。」

いぬ「え・・・?」

おおかみ「言っておくが、やったのは俺じゃねぇぞ。
結局、俺は指輪も持って帰れなかったし、ヤドクガエルを殺す事も出来なかった。」



おおかみ「“トモダチ”だったからな。」

いぬ「じゃあ、一体、どこの誰が・・・?」

おおかみ「くじゃくが別の友達にお願いしたんだ。俺や、お前たちにお使いを頼んだように。」

こぶた「あ・・・、あ・・・・。」

いぬ「嘘だ・・・、嘘だ・・・。」

おおかみ「嘘じゃねえよ。現に俺も何度も命を狙われてる。
・・・そういや、お前らがここへ来たとき、俺が食べてたステーキ。
あの肉はきっと、お前らの大切なお友達だった成れの果てだ。」

こぶた「(吐き気を催す)うっ、ううっ・・・!」

いぬ「お前・・・!お前、うしちゃんとニワトリちゃんをッ!!」

おおかみ「しょうがねぇだろ。俺がお願いを断った途端、あいつら、俺を殺そうとしてきやがった。」

こぶた「え・・・?」

おおかみ「くじゃくちゃんの頼みは断れない。
くじゃくちゃんに喜んでもらいたい。
あなたなんて死んじゃえ。あなたなんか殺してやる。
だって、くじゃくちゃんは大切なお友達なんだもの。
私たちは、くじゃくちゃんの信用に応えなきゃいけない。
だから、あなたを殺すってよ。」

いぬ「ッ・・・!」

おおかみ「さてさて。お前らは、このあとどうするんだ?」

いぬ「俺は・・・、」

こぶた「私、もう降りる!」

いぬ「こぶたちゃん・・・。」

こぶた「確かに・・・、くじゃくちゃんは、大切なお友達だけど・・・、でもッ、私・・・。」



こぶた「くじゃくちゃんのお願いだろうと、誰かの命を奪うなんて・・・、私には出来ないよ・・・!」

いぬ「ッ・・・。」

こぶた「いぬくん?このまま麓の町に帰ろう?それでくじゃくちゃんに、」

おおかみ「(こぶたの言葉を遮り)ああ、言い忘れてた。
ついでに、もう一つ教えてやる。
くじゃくのお使いを果たせなかった俺がどうなったのか。」

■〜終・おおかみさんの回想〜〜

くじゃく「(酷く冷めた様子で)ふーん。そっか。ダメだったんだ。」

おおかみ「すまねぇ。」



くじゃく「無理なら無理だって。お願いした時にちゃんと言ってほしかったな。」

おおかみ「すまなかった。」

くじゃく「・・・。」

おおかみ「な、なぁ?」

くじゃく「・・・。」

おおかみ「おい、くじゃく・・・。」

くじゃく「・・・。」

おおかみ「な、なぁ・・・?くじゃく!」



くじゃく「ああ、まだいたんだ。」

おおかみ「へ?」

くじゃく「ううん。別に。」

おおかみ「・・・ヤドクガエルの奴から全部聞いたぞ。どういう事なんだ・・・、お前、あいつの事ッ・・・!」

くじゃく「はぁ...辛い...、私じゃなくて、ヤドクガエル君を信用するんだね。
私、悲しい・・・、とっても悲しくて、涙が出そう・・・。」

おおかみ「だって!あいつがあんな風になっちまったのも!!」

くじゃく「(心底悲しそうに)私のこと信用してくれるんじゃなかったの?」

おおかみ「ッ・・・!」

くじゃく「二人でずっと、幸せな夢を見続けてくれるんじゃなかったの?」

おおかみ「お前・・・!」

くじゃく「(間髪入れずに)私とてもショックー。傷付いたー!嗚呼〜、傷付いた!」

おおかみ「お前・・・!あいつにもそうやって・・・!」

くじゃく「あなたみたいな彼氏!もう要らない!」

おおかみ「くじゃく!俺は・・・!」

くじゃく「聞こえなかった?私の前から早くいなくなって?
あなたなんか、この世から細胞の一辺残らず消滅して!!」

おおかみ「くじゃく!!」

■〜回想終了〜

いぬ&こぶた「・・・。」

おおかみ「その後は想像付くだろう?
ある事ない事でっち上げられて、周囲の信用を完全に失った俺は、麓の町を出た。
そして今じゃ、あの女を信じて止まない動物たちから、命を狙われる日々、ってわけだ。」

事実を知り、俯いたまま何も言えないいぬとこぶた。

おおかみ「あの女はな。自分にとっての汚点は、
この世界から全て排除したいって考えの持ち主だ。
自分が欲しい物の為なら、綺麗な自分を維持する為なら、
友達だろうが、彼氏だろうがなんだって利用する。俺以上に怖い奴なんだよ。」



おおかみ「このあとお前らが選択するべき道は、
大切なお友達の為に、俺からこの指輪を殺してでも奪い取るか。
このまま手ぶらで帰って、町から追い出されるか。どっちか一つだ。
・・・あ、これも言っておくが。
もし俺に襲い掛かってきた場合、全力でお前らを返り討ちにする。
シケた毎日だが、まだ死にたくはねぇんだよ、俺もな。」

いぬ「(小声で)それが・・・、」

おおかみ「お?」

いぬ「それがどうしたっていうんだ。」

おおかみ「あ?」

いぬ「それでも俺は、あの子を信じる。あの子を信じてる・・・!」

こぶた「いぬ、くん・・・。」

いぬ「信じるよ!俺はくじゃくちゃんを信じる!
だってあの日!引っ越してきたばかりの俺に!
優しく声をかけてきてくれた事も!俺の手を握ってくれた温もりも!
俺にとって、みんな大切なものなんだ!!
全部!嘘じゃなくて本当のことなんだ!!」

こぶた「でも、」

いぬ「なんだよ、こぶたちゃん・・・!」

こぶた「私はもう・・・、くじゃくちゃんの事・・・、信用出来ない・・・。」

おおかみ「これで、豚はリタイヤだな。」

こぶた「ねぇ?もうやめようよ、いぬくん・・・、麓の町に帰ろうよ?
指輪を持って帰れなかった。おおかみさんをやっつけられなかったって一緒に謝ろうよ。
そしたら・・・、そしたらきっとくじゃくちゃんだって・・・、私たちのこと、許してく」

いぬ「(こぶたの台詞を遮って)ぶーぶーうるせぇんだよ!!」

こぶた「ひっ・・・!」

いぬ「俺は・・・、俺はあの子を信じる。あの子が誰と付き合ってたとか、
あの子が何を考えてるかなんて俺には関係ない・・・!!だって、だって・・・、」

おおかみ「?」



いぬ「好き、なんだよ・・・。くじゃくちゃんの事・・・。
俺、くじゃくちゃんの事が好きなんだ・・・、マジで愛してるんだよ・・・!」

おおかみ「・・・お前。」

いぬ「愛してんだよ・・・!俺はくじゃくちゃんの事!
出会った時からずっとずっと!本気で愛してるんだ・・・!!
その俺が・・・、あの子を信じないで、一体誰を信じろっていうんだ!!」

こぶた「いぬくん・・・・。」

いぬ「あの子がもしも世界を敵に回したとしても!俺はずっと!くじゃくちゃんの隣にいる!」

ポケットからくしゃくしゃになった紙キレを取り出すいぬくん。

いぬ「突然だがここで皆に、俺の書いたポエムを披露したいと思う。」

おおかみ「あ、なんだ?ついにおかしくなっちまったのかコイツ。」

こぶた「あ、あの・・・、いぬくん。今そういう場面じゃあ、」

いぬ「(こぶたを無視し)聞いてくれ。『リリィ』

(心を込めて自作のポエムを朗読し始めるいぬくん)
あなたを見ていて そう思った
あなたと出会って こころ奪われた
毎日 あなたが巡る
毎日 あなたが浮かぶ
白くて綺麗なリリィ

日常は簡単に変わらない
世界は簡単に変わらない

それでも

咲いてくれて ありがとう
一輪だけの大事なあなた
咲いてくれて ありがとう
一羽だけの綺麗なあなた」

沈黙

おおかみ「良い詞じゃねぇか。」

こぶた「・・・いぬくん、ちゃんとしたポエムも書けたんだね。」

いぬ「ああ。俺のポエムの中で、一番のお気に入りさ。」

こぶた「とっても、よかったよ・・・。」

おおかみ「ああ。」

いぬ「俺・・・、くじゃくちゃんの事、こんな風に想っているんだ。
あの子のことをずっとずっと、大事に想い続けているんだ。
だからこれ以上、くじゃくちゃんの事を悪く言うのはやめてくれよ・・・!
どうか、この通りだ。あの子が、そんな酷い事思ってるわけ、無いんだよ・・・・!」

いぬが、おおかみへと頭を下げる。



おおかみ「あー・・・、今のポエムの流れからそう来たか。」

こぶた「いぬくん?今のポエム・・・、本当にとっても良かったよ。
・・・でも、でも、それとこれとは・・・、話が別じゃないかな・・・?」

いぬ「別って・・・。こぶたちゃん、俺がどれだけくじゃくちゃんの事を大切に思ってるか聞いてくれただろ?」

こぶた「いぬくんだって、おおかみさんの説明聞いたでしょ?」

いぬ「・・・。」

こぶた「くじゃくちゃんにお願いされた時、いぬくんだって困惑してたじゃない!」

くじゃくN「これはAK-47(エーケーヨンナナ)。」

こぶた「ねぇなんで?どうしてこんな物騒な銃がいるの?」

くじゃくN「指輪を譲ってくれなかった時は、やっつけてほしいの。おおかみさんを。」

こぶた「ねぇどうしておおかみさんをやっつけないといけないの?」

いぬ「・・・。」

こぶた「よく考えたら!ちゃんと考えたらおかしいんだよ、いぬくん!」

いぬ「・・・。」

こぶた「私たち友達でしょ!?友達なのにッ!!
なんで私たちはくじゃくちゃんの言いなりにならないといけないの!?」

いぬ「うるせぇなぁ!!!!」

背中にしょっていたAK-47の銃口を二匹に向けるいぬくん。

こぶた「あ、あ・・・、」

おおかみ「やっぱり、銃を向けてきたか。」

こぶた「やめよ?いぬくん、銃、下ろそう?」

いぬ「うるせェ!豚のくせして!お前なんかが偉そうに!!
陰で皆から、どんくさいメス豚!イライラするメス豚扱いされてる分際でよ!!」



こぶた「えっ?」

いぬ「あーあ!今まで陰で庇ってやってたのになー!気遣って損したわー!」

こぶた「ちょっと待って・・・、いぬくん・・・。」

いぬ「なんだよ!」

こぶた「(瞳に涙を浮かべながら)それって町の皆が・・・、私のこと・・・、そう思ってるってこと・・・?」

いぬ「ああそうだけどォ?めんどくさい、どんくさい、イライラする。
言っとくけど町の皆、おまえのこと誰も友達だと思っちゃいないぞ。」

こぶた「うそ・・・。」

いぬ「ああ、そうだぁー!お前のことを一番嫌ってるの、誰か教えてやろうかー?」

こぶた「いい・・・!聞きたくない・・・、聞きたくないから・・・、お願いだから言わないで!!」

いぬ「(台詞を遮り)くじゃくちゃんだよこの馬鹿ちんが!!」

こぶた「ッ・・・。」

いぬ「くじゃくちゃんはさ。こぶたちゃんと一緒にいるとすげーイライラするけど、
なんでもお願い利いてくれるからって、仕方なくお前と仲良くしてあげてるんだってさー。」

こぶた「っ、ううっ・・・。」

いぬ「何泣いてんの?寧ろ、くじゃくちゃんの優しさに感謝しろよ。
くじゃくちゃんのおかげでお前はぼっちじゃないんだからさ。・・・でも、もういいや。」

いぬの指が、AK-47の引き金に触れる。

こぶた「いぬくん・・・?」

いぬ「くじゃくちゃんには、お前はおおかみに喰われたって伝えておくよ。そしたらこのお使いは俺だけの手柄だ。」

こぶた「やめて・・・。」

いぬ「ここでお前ら二匹を亡き者にして、その指輪を持って帰って、
俺はくじゃくちゃんにいっぱい褒められて・・・、いずれはくじゃくちゃんの恋人になるんだ。
何が起こっても決して裏切らない、くじゃくちゃんの彼氏に・・・!」

こぶた「やめてお願いだからいぬくんやめて!」

いぬ「あの子と幸せな夢を見続けるのはこの俺だ!死ね!!」

室内に響く銃声。

いぬ「あ・・・、え?血・・・?」

懐から取り出したおおかみの拳銃が、いぬを先に撃ち抜いていた。

おおかみ「さっき言ったろ。」

いぬ「あ、あっ・・・。」

胸から血を吹き出して、いぬが仰向けに倒れる。

おおかみ「俺を殺しにかかるなら、返り討ちにするってな。」

いぬ「あっ、ガッ・・・痛いッ・・・痛てェよぉ・・・・!」

体に激痛が奔り、床をのたうち回るいぬ。
おおかみの脚が、いぬの胸を踏みつける。

いぬ「ガ、ハッ・・・!」

おおかみ「悪く思うな。」

室内に響く二度目の銃声。いぬの右足から吹き出す血液。

いぬ「あッああああ・・・!俺の足ッ・・・!俺の足がッ・・・・!」

程なく響く三度目の銃声。いぬの左手から血液が舞う。

いぬ「あああああ・・・!手ッ・・・おででェッ(おてて)・・・!ぼぐのおででがぁぁぁッ・・・!」

おおかみ「先に仕掛けてきたのはお前だろ。」

いぬ「待っでェ!こぶたちゃん!こぶたちゃぁぁぁん!助け、助けて助けてたしゅけてェっ!」

こぶた「あ、あっ・・・・!」

いぬ「友達だろ俺たち!さっきは酷いこと言って悪かったってエええ!友達なら助けてよ!お願いだがらぁぁぁぁ!」

こぶた「ひっ・・・!」

いぬ「おおかみさんも待っでェ!もう殺ざないがら!指輪もおおかみさんの命も諦める諦めるからァー!」

おおかみ「じゃあな。」

いぬ「ちょっと待っでお願いだがら待って待って待って待っ━━━━」

四度目の銃声の後、いぬくんは動かなくなった。

沈黙

おおかみ「あいつの信者はいっつもこうだ。
うしも、ニワトリも誰も彼も、結局最後はこうなっちまう・・・。」

こぶた「・・・。」

深く、ため息をつくおおかみ。

おおかみ「おい、焼豚。」

こぶた「・・・。」

おおかみ「これ、お前にやるよ。」

こぶたへ、指輪を差し出すおおかみ。

こぶた「・・・。」

おおかみ「くれてやるよ、その指輪。」

こぶた「・・・。」

おおかみ「それ持って、いつも通りの日常に帰れ。」

こぶた「・・・。」

おおかみ「何も気付かないフリして、これまで通りの毎日を送れよ。その方がきっと、お前のためだ。」



おおかみ「どうした?早く受け取れ。」

こぶた「・・・わたし、」



こぶた「わたし、いいです・・・、わたし・・・。指輪、いりません・・・。」

おおかみ「あ?」

こぶた「だって私・・・、くじゃくちゃんの事も・・・、
町の皆の事も・・・、もう・・・、信用出来なくなっちゃったから・・・。」

おおかみ「現実的に考えろ。お前の気持ちもわかるが、じゃあどうする?」

こぶた「・・・。」

おおかみ「俺を殺さなくてもその指輪を持って帰れば、
一応お使いをこなした事になるだろ?それがお前にとっての、一番の選択肢だ。」

こぶた「だって今更、帰っても・・・、
私・・・、みんなの前で・・・、くじゃくちゃんの前で・・・
もう、どんな顔でいればいいのかわからない・・・!それに・・・・!」

おおかみ「それに?なんだ?」

こぶた「私、おおかみさんにずっと言いたかった事があるんです・・・。」

おおかみ「言いたかった事?」

こぶた「私、おおかみさんにずっと謝りたかった・・・、でも言えなくて!
ずっと伝えられなくて!おおかみさんはそのまま、町からいなくなってしまって・・・、」

おおかみ「じゃあやっぱりお前、麓の町にいた頃の俺の事を知ってるんだな。」

こぶた「はい。私とおおかみさんはずっと前に出会ってます!
それこそ、おおかみさんがあの町に引っ越してきて間もない頃に!」

おおかみ「そうか。だが悪い。お前の事は全く記憶に無い。」

こぶた「それこそさっきちょっとだけ・・・、私、おおかみさんの話に出てきましたよ。」

おおかみ「えっ?そんな下りあったか?」

こぶた「こちらのVTRをご覧下さい!」

おおかみ「は、はい・・・。」

■〜さっきの回想〜

いぬ「ちなみにその当時、自分の見た目のせいで、
めっちゃ凹んだー、傷付いたーって思った体験って何かあります?」

おおかみ「おお。いい質問ですね、若林さん。」

いぬ「若林って誰っすか?」

おおかみ「そうですね。
誰だったか、もう覚えていませんが、ある時、道端で転倒した動物を見掛けましてね。
落とした買い物袋に入っていたりんごが、辺りに転がってしまったんです。
その光景を目の当たりにした僕はすかさず、りんごを拾って手渡そうとしました。」

こぶた「・・・。」

いぬ「なんかもうその先の展開が読める。」

おおかみ「その動物は僕の姿を見るなり、猛ダッシュで逃げていきました。」

■〜〜回想終了〜〜

こぶた「おわかりいただけただろうか。」

おおかみ「あの時のクソ失礼な動物!あれお前だったのか!!」

こぶた「あの時は本当に!本当にすみませんでした!ごめんなさいっ!」

おおかみ「・・・。」

こぶた「(おおかみを無視して)ずっと謝りたかったんです!
おおかみさんが、町から追い出された後もずっと後悔してました!
私が勇気を出して、皆くじゃくちゃんに騙されてるって主張していれば、
今頃おおかみさんだって、もっと良い毎日を送れていたかもしれないのに・・・!
でも、私怖くて・・・、友達って存在が、くじゃくちゃんの事・・・、とっても怖かった・・・。」



おおかみ「もういい。お前の想い。よくわかったよ。」

こぶた「・・・ありがとう、ございます。」

おおかみ「ハンカチ、貸してやる。涙はこれで拭いとけ。」

こぶた「す、すびばせん・・・。」



こぶた「あー、あの・・・。」

おおかみ「ん?」

こぶた「その・・・、もう一つだけ、お話したい事が、あってですね?」

おおかみ「なんだ?」

こぶた「あの時、おおかみさんの事が怖くて、逃げ出したわけじゃないんです・・・。」

おおかみ「じゃあ一体どうして、お礼も言わず走り去っていったんだ?」

こぶた「あの・・・、その・・・、」

おおかみ「あ?」

こぶた「その・・・、恥ずかしくて・・・。」

おおかみ「恥ずかしい?まぁ、あれだけ派手にすっ転べばな。」

こぶた「いえ、それもそうなんですけど!その・・・そういう事じゃなくて・・・。」

おおかみ「じゃあどういう事だ?」

こぶた「実は・・・、私・・・、おおかみさんが引っ越してきて、あなたをはじめて見た時から・・・、」

おおかみ「おう。」

こぶた「はじめて見た時から・・・、その・・・、えーと・・・、」

おおかみ「なんだよ。」

こぶた「いや!やっぱりいいです・・・。な、なんでもありません・・・!」

おおかみ「おいどうした?お前なんでモジモジしてんだ?」

こぶた「ほ、ほほ、ほんとになんでもないんです・・・!気にしないで下さい・・・!」

おおかみ「そうか。まぁいいや。・・・でも、そうか。あっはっはっ。」

こぶた「?」

おおかみ「あの時・・・、俺の事が怖くて逃げたわけじゃなかったのか。そうか。ははは。」

こぶた「は、はい・・・。」



おおかみ「こんな・・・、自分がいつ死ぬかもしれない毎日を送っているとな。
時折・・・、何も知らないまま、何も気付かないまま、
あいつの言いなりになっていた方が幸せだったんじゃないかと、後悔する事もある。」

こぶた「はい・・・。」

おおかみ「でも、それでもな。アンタみたいな奴が一匹でもいるなら、
俺の取った選択は間違っていなかったんだと胸を張れる。心を誇れる。そんな気になる。」

こぶた「おおかみさん・・・。」

おおかみ「ありがとな。」

こぶた「えっ!あっ!はい!」

おおかみ「最後にアンタと会えてよかった。・・・明日、この森から出ようと思っていたんだ。」

こぶた「あ・・・、ここから、出て行ってしまうんですね・・・。」

おおかみ「ああ。だがその前にそいつを、森の中に埋めてやるとするか。」

こぶた「いぬくん・・・。」

おおかみ「殺しておいてこんな事言うのもなんだが・・・、こいつも、かわいそうな奴だったな。」

こぶた「はい・・・。」

おおかみ「あいつが書いたポエムのメモ。血で汚くなっちまったが、一緒に埋めてやろう。」

こぶた「あの、それなら・・・、」

おおかみ「ん?」

おおかみ「おおかみさんが持ってる指輪も、一緒に埋めてあげる事は出来ませんか?」

おおかみ「・・・。」

こぶた「くじゃくちゃんからのお使い、ちゃんと果たせたって・・・。
せめて、いぬくんがちょっとでも、幸せな気分で眠れるように・・・。」



おおかみ「わかった。この指輪もこいつと一緒に埋めよう。」

こぶた「あ。私にも・・・、手伝わせてください。いぬくんの、お墓を作るの。」

おおかみ「ふっ・・・、仮に俺が断っても、どうせ手伝うんだろ。」

こぶた「えっ?は、はい・・・!」

おおかみ「お前、気弱そうに見えて中々、頑固なやつだよな。」

こぶた「そ、そうですか?」

おおかみ「ああ。ちゃんと、自分の芯ってやつを持ってる。悪くねぇ。」



おおかみ「・・・一緒に、来るか?」

こぶた「えっ?」

おおかみ「俺と、一緒にお前も来るか?」



こぶた「・・・はい。」

おおかみ「わかってるとは思うが、
俺に付いて来たら、いずれ命を落とす事になるかもしれないぞ。」

こぶた「わかってます。それでも私は・・・、おおかみさんと一緒にいきたいです・・・!」



おおかみ「わかった。」

こぶた「ありがとうございま・・・って、キャッ。」

こぶたの腕を掴むおおかみ。

おおかみ「こうしてよく近くで見ると、お前、中々いいメスだな・・・。」

こぶた「おおかみ、さん・・・。」



こぶた「あの・・・その・・・」

おおかみ「ん?」

こぶた「実は私・・・、ずっと前から、おおかみさんのことが好、」

おおかみ「(こぶたの言葉を遮り)何も言わなくていい。
安心しろ。俺がお前を、優しく食べてやる・・・。」



こぶた「(嬉しそうに)はい。」

おおかみ「いぬの墓を作り終えたら、今日はここで、一緒に眠ろう。」

こぶた「はい。どんくさい私でよければ、あなたの隣で眠らせて下さい。」

おおかみ「朝、目を覚ましたら、世界の果てを目指して一緒に逃げよう。」

こぶた「はい。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、あなたの傍にいさせて下さい。」

おおかみ「世界の果てまで逃げ切って、そこに、ワラと木で作った立派なおうちを建てよう。」

こぶた「はい。でもそれじゃ強い風が吹いた時、おうちが壊れてしまいます。レンガでおうちを作りましょう。」

おおかみ「世界の果てで。死ぬまでずっと愛し合おう。」

こぶた「はい。世界の果てで。私は死ぬまで、あなたを愛し続けます。」



おおかみ「ははっ。」

こぶた「あ・・・、何か、おかしかったですか?」

おおかみ「いやぁ、」

こぶた「?」

おおかみ「(苦笑気味に)・・・よくわかんねぇな、愛って。」

こぶたが穏やかに微笑む。

こぶた「・・・私もです。おおかみさん。」

こぶたは、おおかみをそっと抱き締め返した。

■scene5.夢

こぶたN「その晩、私は夢を見ました。小さな女の子が泣いている夢を。」

くじゃく(幼)「えーん、えーん。」

こぶたN「子供の頃の私が、その子に声を掛けます。」

くじゃく(幼)「えーん、えーん。」

こぶた(幼)「ねぇ、どうしたの?なんで泣いているの?」

くじゃく(幼)「ままもぱぱも、わたしをおいていっちゃった・・・。」

こぶた(幼)「かわいそう・・・。あなた、なんてなまえ?」

くじゃく(幼)「くじゃく・・・。」

こぶた(幼)「あなた、くじゃくちゃんっていうのね。わたしはこぶた。」

くじゃく(幼)「こぶたちゃん・・・。」

こぶた(幼)「くじゃくちゃん、わたしとおともだちになろうよ。」

くじゃく(幼)「いいの?わたしとおともだちになってくれるの?」

こぶた(幼)「もちろんだよ。いっしょにあそぼ、くじゃくちゃん。」

くじゃく(幼)「うん!いっしょにあそぶ!よろしくね、こぶたちゃん。」

こぶた(幼)「こちらこそよろしくね、くじゃくちゃん。そうだ、いっしょにえほんよもうよ。」

くじゃく(幼)「なんのえほん?」

こぶた(幼)「しらゆきひめ。わたし、おっきくなったらしらゆきひめになりたいんだー。」

くじゃく(幼)「きっとなれるよ。こぶたちゃんならおひめさまになれるよ。」

こぶた(幼)「ありがとう、くじゃくちゃん。」

くじゃく(幼)「わたし、こぶたちゃんのことおうえんしてる。
だから、これからもずっとなかよしでいてね、こぶたちゃん。」



こぶたN「とても懐かしくて、温かい、でも、とても寂しい。そんな夢を、私は見ました。」

■last scene.数か月後。
くじゃくちゃんがスマホで通話している。

くじゃく「もしもし?ああー、毒ヘビくん。どうだった?
・・・うん。あらあらまぁまぁ、そう。そうなの。
おおかみ君を殺してくれたのね!ありがとう。嬉しい。
私、毒ヘビくんの事を信じてた!うん。・・・それで?
それで・・・、どうしたの?何かあった?うん。
おおかみ君と一緒に、知らない動物がいたからそいつも一緒に殺した?
毒ヘビくんの知らない豚の・・・、動物。
えっ?いや、私も知らないな、そんな動物。うん。
えっ、それから・・・、なに?まだ何かあるの?ああー、指輪?
うん。そう。指輪・・・、見つからなかったんだ・・・。
住処の中も、二匹の遺体も探したけど、どこにも無かったんだ。
ううん、謝らないで。それならいいの。寧ろ毒ヘビくんに感謝してる。
本当にどうもありがとう。ああ、それからおおかみ君と、
もう一匹の動物の死体は燃やしておいてくれると助かる。
うん。ありがとう。私、毒ヘビくんの事、これからも信じてるから。
うん。それじゃあ、また。」

くじゃくが通話を終える。



くじゃく「・・・そっか。指輪、見つからなかったのか。
チッ。今いち使えないな、毒ヘビ君は。でも、まぁいいわ、指輪は後で探すとして・・・、
それにしても、あの豚。おおかみに寝返ったんだー。
バカな子。おおかみ諸共、死んでくれてよかった。ふふふ、あはははは!」

いぬ「くじゃくちゃん。」



くじゃく「えっ?」

くじゃくの目の前に、いつの間にかいぬくんが立っていた。

いぬ「くじゃくちゃん。」

くじゃく「・・・え?」

いぬ「遅くなっちゃって、ごめん。」

いぬくんを前に、動揺を隠し切れないくじゃく。

くじゃく「いぬ、くん・・・。」

いぬ「ただいま。くじゃくちゃん。」



くじゃく「へぇ・・・、無事だったんだ・・・。」

いぬ「うん。くじゃくちゃん、心配かけちゃってゴメンよ。」

動揺を隠して、いつも通りの優しい笑顔を浮かべるくじゃく。

くじゃく「ううん。よかったー。
いぬくんとずっと連絡取れなかったから私、てっきり・・・。
でも、いぬくんが無事で、こうして帰ってきてくれてとても嬉しい・・・!」

いぬ「ありがとう、くじゃくちゃん。」

くじゃく「えっ?」

いぬ「くじゃくちゃんが、そう想っていてくれた事が嬉しいんだ。」

くじゃく「ああ・・・。うん。」

いぬ「本当に、ありがとう。」

くじゃく「ううん。お礼を言ってもらうような事じゃないよ。
いぬくんは大切なお友達だもの。友達の事を想うのなんて当たり前でしょ。」

いぬ「そうか。そうだね。」

くじゃく「うん。ところで、いぬくん。幾つか聞きたい事が、」

いぬ「(くじゃくの言葉を遮って)子供の頃、」

くじゃく「え?」

いぬ「両親に捨てられた事が、やっぱり影響しているのかな?」

くじゃくの表情から、感情が消える。

くじゃく「・・・いま、なんて?」

いぬ「5歳にして、くじゃくちゃんは両親に捨てられたんだろう?」

くじゃく「ちょっと待って、」

いぬ「元々生まれた町では、背中の羽根が醜いと住民全員から蔑まれ、罵声を浴びせられた。」

くじゃく「いぬくん、」

いぬ「両親にすら嫌われていたくじゃくちゃんは、幼くして、この町の孤児院に売られた。」

くじゃく「なんで、」

いぬ「誰からも愛されていなかったんだね。かわいそうなくじゃくちゃん。」

くじゃく「お前がなんで知ってるのよ!!!!!!!!!!」



いぬ「ずっと孤独で、辛かったよね。」

くじゃく「うるさい!オマエごときが知ったような口を利かないで!!」

いぬ「・・・。」

くじゃく「ああー・・・、あの豚でしょ?あの豚が余計な事を言ったのね。」

いぬ「ううん。違うよ。」

くじゃく「違うわけがない!だって!私の忌々しい過去を知っているのはあの子だけだもの!」

こぶた「それは違うよ。くじゃくちゃん。」

くじゃく「えっ?」

くじゃくが後ろを振り返ると、こぶたとおおかみの姿があった。



くじゃく「は・・・?えっ?なんで・・・?
あなた達、死んだって・・・、さっき、毒ヘビ君から連絡が・・・、」

こぶた「くじゃくちゃんの心の奥底には、いつも罪悪感があったじゃない。」

おおかみ「友達という言葉を。優しさを。愛を。俺たちを。
何もかもを利用してでも、孤独に戻りたくなかったんだろう?」

いぬ「そうぜざる得なかったんだろう?」

こぶた「そうなんでしょう?くじゃくちゃん?」

くじゃく「うるさい・・・。」

いぬ「それでも、」

こぶた「自分の事をよく見せても、」

おおかみ「他者との関わりを増やしても、」

いぬ「孤独な事に変わりはなかった。」

くじゃく「うるさい・・・!」

こぶた「欲しいものをどれだけ手にしても、」

おおかみ「どれだけの称賛を得ても、」

いぬ「君は、幸せな夢を見る事が出来なかったんだ。」

くじゃく「うるさい!あなた達のせい!みんなみんな!あなた達のせいよ!!
あなた達が私に不安ばかり抱かせるから!!
あなた達のせいで私は毎日少しも眠れない!!
あなた達のせいで私は幸せな夢を見る事が出来ない!!」

こぶた「本当にそう?」

おおかみ「本当に俺たちのせいなのか?」

いぬ「くじゃくちゃん自身が招いた結果じゃないのか?」

くじゃく「じゃああなた達に何が出来たっていうの!?
友達がいなかったアナタ達に、私が手を差し伸べてあげた事を忘れた!?
みんなみんな!私のおかげで幸せな毎日を送る事が出来てるのよ!!」

おおかみ「そうだな。」

いぬ「くじゃくちゃんの言う通りだよ。」

こぶた「でも、皆から蔑まれる事になったのも、くじゃくちゃんのせい。」

くじゃく「ッ!」

おおかみ「お前が自分の保身のために、」

いぬ「周囲からよく思われるために、」

こぶた「孤独に戻りたくないから、私たちに差し伸べた手を離した。」

いぬ「これからも、そうやって生きていくつもり?」

くじゃく「うるさい!手を離した?あなた達が勝手に離れていったのよ!手を離したのはあなた達よ!!」

おおかみ「じゃあ、そもそもハナっから、俺たちの手を掴んでいたのか?」

くじゃく「ッ・・・!」

いぬ「俺たち、本当に友達だったのかな?」

くじゃく「やめてよ・・・。」

こぶた「ごめんね、くじゃくちゃん。
はじめての友達だった私が、情けなかったから。全部、私が悪かったの。」

くじゃく「・・・ちがう。」

こぶた「違わないよ。だって私たち、いつの間にか友達じゃなくなってたもの。」

くじゃく「やめて、やめてよ・・・。」

おおかみ「悪かったな、くじゃく。お前の事を最後まで信用してやれなくて。」

くじゃく「違うの・・・。」

いぬ「どうでもいい存在だった俺たちを、利用してくれてありがとう。」

くじゃく「もうやめてよ!!!」

くじゃくが耳を塞いで、地面に座り込む。

くじゃく「・・・だって、だって。こうなってしまったんだもの。
こういう風に生きていくしかなかったんだもの、仕方ないじゃない・・・。」

おおかみ「いや、違う。全てお前のせいだ。」

くじゃく「・・・ッ!」

いぬ「くじゃくちゃんには、友達なんて一匹もいない。」

くじゃく「うるさい・・・。」

おおかみ「子供の頃と同じだ。お前はこれからもずっと、孤独なまま生きていくんだ。」

いぬ「毎日、罪悪感に圧し潰されて、くじゃくちゃんは生き続けるんだよ。」

こぶた「幸せな夢なんて、絶対に見させてあげない。」

くじゃく「うるさいうるさいうるさい!消えて!私の前からいなくなって!!」



くじゃく「私は、私以外の能無し共の事を、こんな大事に想ってあげてるのに・・・!」

いつの間にか、こぶた、いぬ、おおかみの姿が消えている。

くじゃく「だって、あの頃に・・・、子供の頃に戻りたくなかったんだもん。
あんな辛い気持ち、早く忘れたかっただけだもん・・・。
私は悪くない・・・、私は少しも悪くない・・・、全部全部、みんなのせい・・・。」

沈黙

やがて顔を上げたくじゃくが、虚空に向かって話し始める。

くじゃく「えっ、私のこと、許してくれるの?
私は、何も悪くないの?ねぇ?ねぇ、いぬくん、それは本当?
・・・私、自分の事、これ以上責めないでもいいの?おおかみくん・・・。」



くじゃく「これからも、ずっとともだちでいてくれるのね、こぶたちゃん・・・。」



くじゃく「みんな、ありがとう。私とっても嬉しい。ふふっ、ハハハ、アハハハハハ━━━━━」

くじゃくの無邪気な笑い声がしばらくの間、部屋に響き続ける。

■last scene2.病院のお庭。

看護師さんに引かれて車椅子姿のくじゃく登場。
力なく、うわ事のように、小声でぶつぶつ独り言を呟いている。

看護師(いぬ)「ほら、くじゃくさん。」

くじゃく「(看護師の台詞に被せて)私ね、六本木にとても広いナイトプールを所有しているの。」

看護師(いぬ)「今日はいい天気ですねー。」

くじゃく「ダイアモンドの花瓶にどのお花を活けるか迷うわ。何色のお花にしようかしら?」

複雑な面持ちでため息をつく看護師。

くじゃく「私、久しぶりにワインが飲みたいわ。とっても美味しいワインが飲みたい。」

看護婦(こぶた)「(ヒソヒソ声で)あの患者さん。まだ身元がわからないんですか?」

医師(おおかみ)「(ヒソヒソ声で)ああ。それにしても酷い物だ。
余程強いショックを受けたんだろう。一生あのままだそうだ。」

看護師(いぬ)「ほら、見えますか?くじゃくさん。お庭のお花が昨日咲いたんですよ。」

くじゃく「きっとなれるよ。こぶたちゃんならお姫さまになれるよ。」

看護師(いぬ)「くじゃくさん。」

くじゃく「私、こぶたちゃんのこと応援してる。
だから、これからもずっと仲良しでいてね、こぶたちゃん。」

看護師(いぬ)「・・・そろそろ、お部屋に戻りましょうね。」

くじゃく「みんな、本当にやさしい動物達ばかり。皆のおかげで私は毎日、」

看護師(いぬ)「行きましょう。くじゃくさん。」

看護師に車椅子を引かれながら、くじゃく退場。

ナレーション(こぶた)「こうして孔雀はいつまでも、幸せな夢を見続けました。めでたしめでたし。」

おしまい

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