パラノーマンズ・ブギー『カラーズ・ウォーA』
『葡萄鼠の穴 中編』
作者:ススキドミノ



駅 サナエ(えき さなえ):17歳。女。伝馬一族、序列第4位「駅家」の和装少女。二刀流。

金田 利威致(かねだ りいち):18歳。男。カネダ・モータースの次男坊。自称不良少年。

木元 佳祐(きもと けいすけ):外見年齢27歳。男。戦時特務機構『速見興信所』所属の超能力者。階級は少尉。自称「ゾンビーマン」

花宮 春日(はなみや はるひ):27歳。女。戦時特務機構『速見興信所』所属の超能力者。階級は准尉。「泣き虫」二つ名で呼ばれる。


店員:ファミレス店員。ナレーションと被り。

曹長:国防軍。曹長。ナレーションと被り。



※残酷・暴力的表現がございます。


※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




【あらすじ】
人間、超能力者、そして怪異と呼ばれる者達による戦争が勃発した。
世界中のメディアはこぞってこの国に起きた内戦について取り上げた。
しかし、某列強国を中心とした世界政府による迅速な情報統制、
政府による貿易を含む空(くう)並びに海禁政策(かいきんせいさく)の施行によって、
ものの1ヶ月たらずで、この国は数100年ぶりの鎖国状態へと移行した。
内情は小さな島国に閉じ込められることとなる。
歴史家達は後に、この島国の内戦をこう名付けた。
『色戦争(カラーズ・ウォー)』と。


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 ◆◇◆


N:金田は甲高い電子音を聞いて目を覚ました。
  朦朧としながら顔をあげると、積まれた大量の皿が視界に入ってきた。
  ゆっくり身体を起こすと、コンビニで買った無地のTシャツを着た少女ーーサナエが机に肘をついて金田を見ていた。

駅:起きました?

金田:うおっ!

駅:まったく……。

N:サナエは皿の上に積まれたフライドポテトを、丁寧に両手でつまむとちびちびと食べ始めた。
  ファミリーレストランの店内に居るのは、2人を含めた数組の客と、店員だけであった。
  喋り声もまばらな店内には、放送から流れる店のテーマソングと、食器通しがぶつかる音だけが、やけに大きく聴こえていた。

金田:あのさ……。

駅:……なんですか。

金田:これ、お前1人で食べたの?

駅:最初に言うことが、それですか……?

金田:いや……悪い。

駅:まあ、いいですけど。

金田:今、何時だ……?

駅:5時過ぎです。

金田:(あくびをする)三時間しか寝てねえんか……寝みぃわけだわ……。

駅:なんの前触れもなく寝てしまったのに……よくいいますね。

N:サナエは頬を膨らましながら、タバスコをポテトにかける。
  金田がふとサナエの横を見ると、そこには空になったタバスコの瓶が大量に置かれていた。

金田:お、お前、これも全部使ったのか!?

駅:ええ。店員さんが、無料でお好きなだけ使っていいと言ってくださったので。

金田:それにしたって……。

N:金田は店員の方を確認すると、店員は視線に気づいたのか、困ったように会釈をした。

金田:(ため息)お前、あれってやつ? 辛党ってやつか。

駅:カラトー? ってなんですか?
  ……あと、お前じゃなくて、駅サナエです。

金田:いや、辛いもん好きなんかっつーハナシ。

駅:いえ。里にいたころは、食べ物の嗜好は特にありませんでしたから。

金田:里?

駅:はい。こういった場所があることも、今日知りました。
  さっきお店で買っていただいたこのお洋服も。
  あと……この食べ物も。

金田:は? ファミレスも知らなかったっつーの?
   ポテトも? どんな田舎住んでたんだよ……。

駅:ポテト……そう、ポテト。覚えた……。

金田:ただの田舎もん……ってわけじゃねえんだもんな……。

駅:ーーちょっと待ってください。
  あの。店員さん……少しその……お時間よろしいでしょうか?

N:サナエは申し訳なさそうに手をあげた。

店員:はい。御用でしょうか。

駅:あの……何度もお願いして大変申し訳ございませんが、お水を一杯いただくことはできますでしょうかーー

金田:あー、すんません。水、ピッチャーでお願いします。

店員:はい。かしこまりました。

金田:わりぃな……深夜に占領しちまって。

店員:いえ。ごゆっくりどうぞ。

 間

駅:すみません、ありがとうございます。

金田:礼いわれるようなことじゃねえし。

駅:私は、それもわからないので。

金田:いや……別に気にするこったねえだろ。
   誰だって、ほら、なんつーの。育つ場所はチゲェんだしよ。

駅:お気遣いいただいて……。

N:サナエは、視線を落とした。

駅:私は、伝馬(てんま)の里、というところで育ちました。

金田:伝馬……。

駅:聞いたことは、ないと思います。
  そこは、所謂『隠れ里』と呼ばれる場所でしたから。

 間

駅:本来私は、里から出ることなく、生涯を里で終える筈でした。

金田:は? マジで? 死ぬまでってことか?

駅:ええ。死ぬまで、です。

金田:それマジかよ……。

駅:ですが、状況が変わってーー

N:サナエはそこまでいって何かを思い出したかのように言葉を止めた。
  そして、拳を握りしめて、何かを決意したかのような表情で金田を見つめた。

駅:やめです。

 間

金田:は? 何をーー

駅:すみません。今の話は、聞かなかったことにしてください。

金田:おいおい、なんでそーなんだよ。

駅:あなたを死なせてしまうかもしれないからです。

金田:死、ぬーー

N:それが、本当の言葉であることは、今の金田には恐ろしいほどに良くわかった。
  戦場に転がっていた死体の山。吹きすさぶ生暖かい風。
  自分の、金田 利威致の人生に置いては遠い未来に描いていた、その概念。
  死というリアルに、金田は息を呑んだ。

駅:……金田さんは、いい人です。

金田:んだよ……それ……。

駅:もちろん、戦場泥棒をしようとしていたのはいただけませんけど……。
  でも、こうして私を助けてくれた。

N:サナエは優しく微笑んだ。

駅:言葉は汚いけど……臆病で、優しい人です。
  だからーー死んではいけない人だって。

金田:ーーざけんなよコラ。

N:金田は拳を固めてサナエを睨みつけた。

金田:臆病で、優しいだぁ?
   的外れにもほどがあるぜ! こっちは不良でやってんだよ!
   第一、んなもん、お前みたいなやつに言われても嬉しくもなんともねえ!

駅:……金田、さん。

金田:駅サナエさんよぉ。
   どこぞの里では教えねえのかよ。

駅:何をーー

N:金田は机を叩いた。

金田:あのなぁ! 死んでいいやつなんていねえんだよ!
   さっきだってなぁ! 自分は死んでもいいから俺に逃げろみてえなこと言いやがって!
   気に入らねえんだよ! そういうの!

 間

駅:(吹き出す)ふ。

金田:ああ!?

駅:(笑う)ふふふ、あはははは!

金田:テメエコラ! 何笑ってんだ! ぶん殴るぞ!

駅:(笑いながら)いや! 金田さんが私を殴れるわけないじゃないですか。

金田:おいおい……! 女だっつってなぁ、容赦しねぇぞ!?

駅:そうじゃなくて……。本当に、あなたは優しすぎますよ。

 間

金田:(舌打ち)うるせえ……! クソ可愛くねえ女……。

駅:すみません、可愛くなくて。
  ……でも、里の話はやっぱり無しで。

金田:お前なーー

駅:それよりも! ……もっと先の話をしましょう。
  死なないための、お話を。
  ーーでもその前に、金田さんのお名前って、なんですか?

N:金田は、目を丸くした後、バツが悪そうにそっぽを向いた。

金田:(呟く)……言いたくねえ。

駅:……私みたいなやつには、言いたくないですか?

金田:そうじゃねえよ! 

 間

金田:……だあああ! わかったよ……!

 間

金田:(ボソッと)……利威致。

駅:え? すみません、もう一回。

金田:利威致! りいち! リーチだ!
   親父がお袋と雀荘で知り合ったからっつって、リーチなんて名前付けやがったんだよ!
   笑うなら笑えクソッタレ!

N:机に突っ伏す金田を、サナエはキョトンとした顔で見つめていた。

駅:いいお名前じゃないですか、リーチさんって。
  何がそんなに嫌なんですか?

N:金田は、ゆっくりと顔を上げてサナエの反応を確認すると、合点がいったかのように笑顔を浮かべた。

金田:そっか……。そっか! お前、どこぞの里で育ったんだもんな!
   麻雀なんてしるわけねえしーー

駅:麻雀? ああ! 麻雀のリーチという役にちなんだんですね!

 間

金田:……は?なんで、お前、麻雀……!

駅:速見様という方がお好きだそうで、里に広めてくださったんです。

金田:クッソ……速見とやら、余計なことしやがって……!

N:サナエはくすりと笑って、髪を耳にかけた。

駅:でも、私には麻雀は難しくて。
  ーーリーチの役がないと、上がれませんでした。
  だから私、好きですよ。リーチ。

 間

駅:金田さん? どうしました?

金田:あ……いや……別に。

駅:では……改めて。

N:サナエは机の脇から、カラフルな拳銃を取り出した。

金田:モデルガンとはいえ、こんなとこで出すな……!

駅:あ、はい。

金田:……で、そいつがどうした。

駅:これを作った人を、教えてほしいんです。

金田:ああ、それならーー

花宮:あの、お水、お持ちしました。

N:店員が机の上にピッチャーを置く。

金田:あん? ああ……ずいぶん遅かったなーー

駅:金田さん! まずいですッ!

木元:何がまずいんすかー?

N:サナエが動こうとした瞬間、サナエの首に木元の腕が絡みついていた。

木元:お客様、店内でまずいはご法度っすよ。

駅:クッ……!

金田:サナエッ! おいてめェ! 手放しやがれ!

花宮:あのっーー

N:花宮は飛びかかろうとした金田のシャツの襟首を掴むと、なめらかな動きで金田を机に抑え込んだ。

金田:いっつ……!

花宮:ごめんなさい。貴方も、動かないでください。

木元:この周囲は完全に包囲されてるんで、逃げても無駄……っつーか逃がすつもりもないっすけど。

N:木元はサナエの隣に座ると、片手でポテトを手にとった。

木元:君、伝馬のーーっすよね。

 間

駅:……はい。でも、そちらの方はーー

木元:金田利威致。18歳。カネダ・モータースというサイクル店の次男。
   高校中退。現在は府内の工場で週6日勤務。趣味はバイクの改造とギャンブル。
   犯罪歴は無し。

金田:……それ……!

木元:彼が一般人なのは調査済みっすよ。むしろ、白すぎて驚いたくらいっす。

花宮:彼についても、必ず悪いようにはしませんので、ご協力をお願いいたします。

 間

駅:……わかり、ました。

金田:くそっ! マジふざけんな! ぶっ飛ばしてやっから覚悟しとけ!

木元:はいはい……言いたいことはわかるっすから。
   ちょっとだけカッコ悪いの我慢してくれよ、若者。
   (ポテトを食べて)……なんこれ!? かっらッ! 春日ちゃん! 水ッ!

花宮:(ため息)木元さんったら……。


 ◆◇◆


N:閉鎖区画内の空き地に設営された軍用テントの中。
  サナエは腕を後ろ手に拘束されたまま椅子に座らされていた。
  花宮は、待機している軍人に向き直ると、頭を下げた。

花宮:曹長。お仕事、お疲れ様です。

曹長:いえ。任務ですので。
   寧ろ、上官不在の中、木元少尉(しょうい)、花宮准尉(じゅんい)にご協力いただいて感謝しております。

花宮:そんな……! そんなの、別にいいんです。
   私も、私の目的の為にしていることですから。

曹長:……はい。それで、彼女の身柄はーー

花宮:彼女を捕縛したことは内緒。で、お願いします。
   それと、彼女の処遇は私達が決めます。

曹長:しかしそれではーー

花宮:もし。上が何かを言ってくるようなら、中将(ちゅうじょう)の名前を出していただいて構いません。
   責任は、こちらで取ります。

 間

曹長:承知いたしました。
   ですが……そう長くは隠し通せません。手早くお願いいたします。

花宮:はい。ありがとうございます、曹長。

N:曹長が退席したのを見届けると、花宮は困ったように微笑みながらサナエに歩み寄った。

駅:私に聞かせて、良かったんですか? 今の会話を。

花宮:むしろ、聞かせたというのが正しいです。
   貴女の処遇は、私が決めます。もちろん、軍に引き渡すかどうかも。

駅:……私達が、『凶刃』だから、ですか。

花宮:(苦笑して)ええ……そうですかね。

N:花宮はサナエの拘束を解いた。

駅:拘束も、解いてしまうのですね。

花宮:ええ。貴女の力ではーー
   逆立ちしたって私に勝てっこありませんから。

N:柔らかい物腰とは正反対の力強い言葉に、サナエは息を呑んだ。
  同時にそれがただの牽制ではないことも、心のどこかで理解していた。

花宮:駅サナエさん……私は、戦時特務機構『速見興信所』所属、花宮春日准尉です。

駅:速見ーーもしかして……!

花宮:伝馬の方ならご存知ですよね。戦争前は事務所の所長であり、
   今は私の上官に当たる方は、速見賢一中将(ちゅうじょう)です。

駅:速見様の……。

花宮:これから、貴女には今回の北東戦線に介入した目的を含めて、質問に答えていただきます。
   ですがーー

N:花宮は、そっとカーテンに手をかける。

花宮:まずは、服を脱いでください。

駅:え? どうしてーー

花宮:怪我、してますよね。
   治療しないと。

駅:……そんな。

花宮:大丈夫です……。大丈夫。
   女の子なんですから、傷を残したらダメでしょう?

駅:女の、子。

花宮:(笑って)そう。女の子です。

N:サナエがシャツをめくると、腹部の数箇所が痛々しいほどに変色していた。

駅:……先程お渡しした、銃のようなもので撃たれました。
  刀で受け止めましたが、折れてしまい。

花宮:銃創……打撲ーー
   詳しく検査しないとわかりませんが、肋骨も負傷している可能性もありますね。
   ですが、これは実弾ではない……現場には実弾以外は……。

駅:気です。

花宮:気、ですか?

駅:……力場、といえばおわかりになるかと思います。

花宮:力場の、弾丸……?  まさか……力場を打ち出す道具、なんてーー

駅:はい。これがたくさん存在するとしたら……使いようによっては危険です。

花宮:お話が本当だとしたら、確かに危険な兵器だといえる。
   ですがーーその前に駅さん……どうして貴女は力場で撃たれたとわかったんでしょう。

駅:それはーー

N:サナエはその瞳に漆黒の闇を映した。
  それは力場を感知するための触媒。
  超能力者と呼ばれる者たちのシンボル。

駅:私がとっさに、『力場(これ)』をつかって防いだからです。
  実弾ならこれだけでなんとかなったはずーーですが、あの弾丸は、これを貫いてきました。

花宮:駅さん……貴女は。

N:サナエは能力を鎮めると、自嘲気味に微笑んだ。

駅:はい。私は、貴女とーーそして超能力者と呼ばれる方と同じ存在です。

花宮:……伝馬一族は、必ずチームを組んで行動するようですがーー
   駅さんが1人でいるのは、それが理由ですか……?

駅:……そう、ですね。

 間

駅:伝馬一族がなぜ凶刃と呼ばれるようになったのかは、ご存知かと思います。

花宮:……戦場に突如として現れ、怪異を斬り捨てる。
   そしてーー相伝の刀技を用いて、『超能力者とみればどんな者でも』見境なく斬り捨てる。
   私も、何度も戦いました。

駅:そんな一族の中にあって、私はこの力を隠して生きてきました。
  ……生きてきて、しまいました。

N:サナエは自分の顔を腕で覆うと、力なく椅子に座った。

駅:だから……わかってしまったんです。
  一族は……超能力者と呼ばれる者は、怪異と同じく須らく憎むべき存在だとしています。
  だとしたら、私は、って。私を見る一族の目は、優しくて、暖かくてーー
  でも……! 修羅の形相で超能力者に斬りかかるあの人達は……!
  私が同じだと知ったら、私にあの修羅をぶつけるだろうか……?
  その、答えが、わかってしまったんです。

花宮:答え……ですか。

駅:超能力者というのは、ただの呼び名にすぎません。
  力を持たない人と、変わらないんです。
  ですが、そんなただの呼び名に惑い、怒り、刀を振るう。
  私は、それこそが伝馬の『凶刃』だと、気付き、そしてーー

花宮:一族から離れた……そうですね。

 間

駅:逃げるように関西に訪れたとき、偶然、戦場の噂を耳にしてーーそれで……。

 間

駅:わたし。どうしていいのか、わからなくて。
  でも、伝馬の刀は、ひとを、守るためにあって……!
  だから……!

N:花宮はサナエを抱きしめた。

駅:あの……! わたし……。

花宮:自分の信じたものが揺らぐ気持ちは、私にもわかります。
   私も……仲間を失いましたから。

駅:……え。

花宮:家族のように思っていた方でした。
   ですが、その方はそれこそ、凶刃を振るい、他の仲間を傷つけたんです。

駅:どうして、ですか。

花宮:わかりません。最初からそうだったのか、それとも途中でそうなってしまったのか……。
   ただ、私はその人にもう一度会ったとき、どうするかは決めているんです。

駅:……どうするか。

花宮:(笑顔で)はい。
   私はーー止めます。あの人を。

駅:止め、る……そんなこと、できるんでしょうか。

花宮:わかっていることは、私ひとりでは、きっと難しいということ。

N:花宮は、片手でそっとサナエの頭をなでた。

駅:あ……。

花宮:私達はもう随分、ひとりに慣れすぎましたね。

駅:ひとり……。

花宮:もう、大丈夫ですよー。
   いい子いい子。

 間

駅:う、あ……。
  (泣きじゃくる)う、うええええええん!

花宮:よしよーし。よく、ひとりで頑張りましたねー。
   (くすりと笑って)……私以外の人が泣いてるの、ちょっぴり嬉しいです。


 ◆


N:閉鎖区画内の空き地に設営された軍用テントの出口で、金田は木元に詰め寄っていた。

金田:オイ! どうして俺だけなんだよ!

木元:むしろ喜んでくれるかと思ったんすけど……。

金田:サナエを! どうするつもりだよ。

木元:どうするって……。どういったら大人しく帰ってくれるんすか……。

金田:さあな……! ただ、このまま帰ることはぜってえねえとだけ言っとくぜ、オッサン……!

木元:おっ……さん……!
   (ため息)……マジでこんくらいの歳のやつって苦手っすわ……。

N:2人の背後に控えていた兵士が一歩前へでる。

木元:あー、いいっすよ。君は持ち場に戻って。
   ここは俺だけでいいっすから。

N:兵士は敬礼をした後、キビキビとした動きでその場を後にする。

木元:……さて。少しだけ、話を聞くよ。金田利威致君。

金田:……サナエをどうするつもりだ。

木元:それはこれから決める。尋問の後にね。

金田:ジンモン……って、何する気だ。

木元:その名の通り、お話を聞くんすよ。
   一体、なぜ、どうしてーー君だって彼女のことは知らないんじゃないすか?

金田:お前よりは、知ってる。

木元:へえ。何を?

金田:あいつはーー

N:金田はそこで言いよどんだ。思えば、サナエについて知っていることなど、そうは思いつかなかった。

木元:はい時間切れ。

金田:あいつは! ……辛党だ。

木元:……それは身をもって知ってるんすけど。

金田:後! あいつは、世間知らずでーー

木元:どうしてっすか?

金田:それは、『里』がーーいってえ!

N:木元は金田の首を掴むと地面に押し倒した。

金田:何をーー

木元:聞かれたことにだけ答えろ。

N:木元は先程とは打って変わって冷酷な表情で金田を見下ろした。

木元:オマエ、どこまで知ってるんすか。

金田:どこまで、って……。

木元:身をもってしれて良かったっすねえ。
   これが、知りたがってたジンモンっすーー

N:木元は金田の脇腹を殴りつけた。

金田:ぐ、あ……!

木元:答えろよ、このガキ。
   どこまで知ってるのか。

金田:しら、ない。

木元:何を!

金田:田舎に、あるって、ことしか、しらない……!

 間

N:木元はため息を吐くと、金田の上から退いた。

金田:(咳き込む)

木元:……わかったっすか。

N:木元は金田の腕を掴んで立ち上がらせる。

金田:……な、にが……!

木元:君は、助けられたんすよ。あの子に。

金田:……たすけ、られた……。

木元:最後におっさんっぽいこと言っとくっすよ。
   好奇心は持っていい。けど、戦場に忍び込んだのは間違ってる。
   男を通すのもいい。けどーー引き際間違えて、女にケツふかすのは間違ってるっすよ。

N:木元は踵を返すと、テントへ向けて歩いていった。
  金田は、血がにじむほど強く、拳を握りしめた。
  そして、声を上げる。

金田:知ってる!

N:木元は足を止めた。

木元:わかんないやつっすねーー

金田:サナエは、誰かにやられたっつってた!
   そんで……俺が前に色を塗ったのと同じモデルガンを持ってたんだ!

木元:モデルガン……? あの押収品のーー

金田:ああ! そうだ! でも……!
   これはわかんねえけど! もしかしたらそいつが本物で、サナエはそれで撃たれたのかもしんねえ……!
   ずっと聞きたがってたし……。それで、俺。
   俺は、それを作ってる人を、知ってる。

 間

木元:(ため息)……中、入るっすよ。

N:木元はテントの入り口を指差す。

木元:その代わり、しばらく帰れないっすからね。

金田:ああ! もともと家になんて寄り付いてねえし。困りゃしねえよ。


 ◆◇◆


N:木元の運転する車の助手席で、花宮は困ったように後部座席に視線を向けた。
  ガラス窓で仕切られた後部座席には、金田が憮然とした表情で座っていた。

花宮:彼、不満そうですね。

木元:いいのいいの。気にすることないっすよ。

花宮:でも……せっかくだから少しでも会わせてあげたら良かったんじゃ……。

木元:こういうタイプは、相手を目の前にすると無駄ーにカッコつけちまうんす。
   むしろ、引き伸ばしたほうが、効果的っすよ。

花宮:そうなんですか。

木元:……力場を打ち出す拳銃、ね。

花宮:ええ。

木元:そういえばさっきの話、本当っすか。

花宮:はい。朔ちゃーー(咳払い)
   速水朔が使用していたのを、なんども見たことがあります。

木元:……彼がどうして超能力者と渡り合えていたのか疑問だったんすけど……。
   いくらあのジュニア君でも、頭脳だけでなんとかなるわけでもないっすもんね。

花宮:彼は、誰かから譲り受けたと言っていました。
   ……そして、それが”超常的物質(アンノウン)”であるとも。

木元:”超常的物質(アンノウン)”レベルの兵器を、使い捨てとはいえ作り上げる、か……。

花宮:それよりも、そんな兵器を壊れたとはいえ、簡単に戦場に投げ捨てる精神性のほうも気になります。

木元:そう? 案外、自分の力に酔った超能力者なのかもよ。

花宮:木元さん。次ーー

N:コンと、ガラス窓を叩く音がした。
  花宮が振り返ると、金田が何かを言いたげにガラスを指さしていた。

花宮:えっと、木元さん。

木元:あーはいはい……。

N:木元がスイッチを押すと、ガラス窓が開いた。

木元:なんっすか。

金田:その先、右にいけよ。

木元:はぁ? ナビはまっすぐだってーー

金田:信じろって! 俺、この辺地元だからよ。
   週末のこの時間は駅前で配給があるから、人が集まるんだよ。
   車じゃ通れねえぞ。

花宮:ありがとうございます。金田さん。

金田:……別に。それだけ……。

木元:ああ、そうだ。金田くん。
   君がお世話になってるその『仲也さん』についてちょっと。

金田:は? だいたい言ったと思うけど。

木元:この辺の若者を集めて、仕事を斡旋してる。所謂チンピラのボスってことはね。

金田:オイ! なんどもいうけどな! 仲也さんはチンピラじゃねえ!
   俺らと違ってすげえ頭もいいし、キレたりもしねえし。
   何より、すげえ面倒見良くて、優しい人だよ。

木元:ふぅん……どう優しいわけ?

金田:あの人は……戦争入って、娯楽が少ねえからって、子供たち集めて、作った玩具配ったり。
   子供だけじゃねえよ。俺らみたいに学がねえやつ集めて勉強会やったりしてる。
   営業許可の降りてる商店のやつらとか集めて、商売のやりかたを話あったり。
   とにかくすげえ人なんだよ。俺だって、働き口紹介してもらっただけじゃねえ。
   親父のやってる店についても、いろいろと知恵わけてくれてよ……。

花宮:確かに、お話をきいている限りはとても立派な方だと思います。

金田:当たり前だ。

木元:それは、俺たちも気合入れないと……。

花宮:ですね……。

N:車は、街の外れにある工場の前に止まった。

木元:ここで、間違いないね。

金田:おう。

花宮:この時間にもいらっしゃるでしょうか。

金田:ああ、仲也さんは子供に合わせてるっつって朝早いからな。
   大丈夫だ。

木元:さいでっか。……じゃ、大人しくしててね。金田くん。

金田:は? おい俺もーー

木元:君はお留守番。

金田:いや! だったらなんで連れてきたんだっての!

木元:君をそのまま家に返しても抜け出してくると思ったから、どうせなら目に届くところにってね。
   大人しくしててよ。

金田:オイテメエ! マジでぶっ飛ばすぞおっさんーー

N:木元はガラス窓を閉じると、車のエンジンを切った。

花宮:いいんですか? あの……暴れてますけど……。

木元:犯罪者用の護送車両だし大丈夫大丈夫。

花宮:そうじゃなくて……彼にも話を。

木元:聞いたでしょ。春日ちゃん。
   ここにいる仲也ってやつは、間違いなく何か隠してる。
   それもーー大きな何かを。
   彼はまだ、知るべきじゃない。


<前編>
<後編>


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