おっぱい見せろ裁判
作者:ススキドミノ


成人男性A
成人女性B


※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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 <居酒屋 向かい合う男女>


A:おっぱいを見せろ。

B:は? 何だって?

 間

A:ん……? アレ? 俺今おっぱい見せろっていった?

B:いった。

A:お前に?

B:私に。

A:……疲れてんのかな、俺。

B:じゃなきゃいきなり「おっぱい見せろ」なんて言わないでしょ。

A:だよなぁ。

B:疲れてんじゃないの。

A:でもあれだろ、最近は仕事も落ち着いてきたわけで。

B:ま、だからこそこうして定時にあがって居酒屋なんかにこれてるわけだしね。

A:だよな? だったら俺はいったい何でそんな妄言を吐いたわけ?

B:知らんわ。それを私に聞くのはおかしいでしょ。

 間

B:んー……彼女いなさ過ぎて頭おかしくなったとか。

A:んなことあるか?

B:しらないわよ。自分のことでしょ?

A:女だってそういうのあるんじゃないかってこと。

B:あのねぇ、魔が差したからっていきなり男に「ちんちん見せろ」っていう女がいる?

 間

A:いねぇかなぁ。

B:思いを馳せるな! いねぇわそんな女。

 間

B:ってか、それ以前に私、セクハラされたよね。今。

A:あん?

B:いやいや、立派なセクハラでしょ。「おっぱい見せろ」は。

A:セクハラ……だな。「おっぱい見せろ」は。

B:これさ、私訴えてもいいんじゃない?

A:何、うったえんの? 俺を。

B:うん。訴える。「おっぱい見せろ裁判」開廷だよ、マジで。

A:…あのさ、それだと意味合い変わってこねぇか?

B:どういう風に?

A:「おっぱい見せろ裁判」だとさ、俺が「おっぱいを見せろ!」と主張するために起こした裁判っぽくね。

B:……確かに。

 間

B:他のメンツ来るまで暇だからさ、やってみる?

A:何を?

B:「おっぱい見せろ裁判」

A:どっちの意味での。

B:どっちでもいいよ。……じゃあ、そうね。面白そうだから、あんたが起こした方の「おっぱい見せろ」裁判で。

A:ん? つーことは、おっぱい見せろって主張すりゃいいの?

B:そう。

A:っていうかさ、それだと裁判長がいなくね。

B:そこは私が裁判長でしょう。

A:だったら速攻棄却されるじゃん。俺がお前に「おっぱい見せろ」っていうんだからさ。

B:そこは公正にジャッジするわよ。

A:嘘くせぇな。

B:じゃあ、わかった。じゃあさ、マジで裁判勝ったらおっぱい見せてあげるよ。

 間

A:マジ?

B:マジ。

A:暇つぶしにそこまでするか……?

B:うっわ、何? あんた本気でこの裁判に勝てると思ってるわけ? 気持ち悪っ!

A:……いいよ、やろうぜ。いっとくけど、勝ったらマジでおっぱい見せてもらうからな。

B:望むところよ。かかってきな、坊主。

 間

B:えー、静粛に。

A:……お前裁判みたことねーだろ。

B:うっさいな。いいんだよそういう形式的な所は適当で。
  えー、田中さん。

A:あー、田中さんって俺?

B:田中さん。主張をお願いします。

A:えー、私田中は、S大学時代からの知り合いで、職場の同僚Kさんにおっぱいを見せて頂きたいと思っております。

B:その理由はなんですか?

A:えー、それは、私は、えー、交際相手が長期間いなかったので――

B:長期間、とは具体的に?

A:……1年ほどですかね。

B:異議あり!

A:は!? ってか、この裁判におけるお前の役割はなんなんだよ!

B:ん? オールラウンダー。

A:は?

B:野球で言うと遊撃手(ゆうげきしゅ)だよ、遊撃手。

A:……わかんねぇくせに例えに使うな、面倒くさい。

B:だって何処でもやる感じしない? 遊撃手。ポジション関係なく守るオールラウンダー。

A:あーはいはい……で、何の異議があんの?

B:おー、そうだったそうだった。異議あり!

A:はい、遊撃手。

B:田中は嘘をついています。

A:……どんな嘘ですか。

B:今田中は、交際相手が居ない期間が一年ほどといっておりましたが、それは嘘です。
  本当は2年以上交際相手がいたのを見たことがありません。

A:異議あり!

B:異議を却下します。

A:おい! 公正なジャッジはどうした!

B:はいはい……なんですか?

A:ったく……見たことがありません、とおっしゃいましたよね。
  それはつまり「見ていない」だけであって、実際に交際相手がいなかったという証拠にはなりえないのではないでしょうか。

B:一理ありますね。では実際、此方が見ていないだけだったと。

A:……そうです。

B:ほぉ、じゃあその一年前までお付き合いしていたお相手のお名前は?

A:……ゆうこ。

B:名字は?

A:松本。

B:年は?

A:19、です。

B:それは現在の歳ですか?

A:いえ、当時のです。

B:では、職業は?

A:……大学生です。

B:なるほど。どちらの大学で?

A:……S大学。

B:S大学! ということは、私と、そして田中さんと一緒ですね!

A:ええ、そうですね。

B:なるほど! それならば納得です。構内恋愛であれば、貴方が交際できた可能性は十分にある。

A:そう、そういうことです。

B:では、こちらで実際にその「松本ゆうこ」という女子が本当にS大学に在籍していたのかを調べさせて頂きますね。

A:……え、ええ。

B:もしこれが見栄をはるための虚偽だった場合、その時点で裁判は終了とさせていただきます。

 間

B:では、サークルの後輩にメールを――

A:いえ! あの、そうですね。松本ゆうこ、というのは仮名でした。

B:ほう!

A:いやあの、これはプライベートなことなので、名前を伏せさせてもらったというわけで。

B:ほほう! では本名は!

A:それはこの裁判で言う必要はないかと。

B:……ま、それもそうですね。では、続きをどうぞ。

A:えー……。

 間

A:……続きってどっから?

B:あんたの主張。

A:全然進んでねぇじゃん。

B:あんたがしょうもない見栄張るから悪いんでしょうが。

A:うっせぇ! ……えー、それでですね。私は女性の裸体を長期間にわたってみていないわけで――

B:異議あり!

A:なんだよもう!

B:ちょっと気づいたんだけどさ。

A:異議じゃねぇのかよ!

B:いいじゃん、口はさむときにはこれで。
  でー、なんだっけ? ……そうそう、でさ、裁判調にするとなんでも下品じゃなくなるっぽくない?

A:どういうこと。

B:ほら、今のさ、女性の裸体をーとかいうやつ。本当は「最近女の裸見てなくてさー」ってことじゃん。

 間

A:……続けていいか。

B:どうぞー。

A:私は女性の裸体を長期間にわたってみていないわけでして――

B:異議あり!

A:却下!

B:なんでよー!

A:進まねぇだろうが!

B:今度はちゃんとした異議だって!
  (咳払い)長期間女性の裸体を見ていないと仰いますが、貴方はポルノグラフィを持っていますね?

A:……痛いところを……。

B:そういったポルノグラフィには女性の裸体はつきもの。
  それでは「見ていない」とは言えませんよね。それでは理由にならないの思うのですが。

A:えー、先ほど私が申し上げた女性の裸体という表現については訂正させて頂きます。
  正確には長期間、女性の裸体を三次元的に見ていないということであります。

B:ポルノグラフィで見ることと、三次元的に女性の裸体をみることとの違いはなんでしょう?

A:そこが私がこの裁判を行う理由になってくるわけです――

B:あ、ちょっと待って。
  (店員に)すみませーん! 生2つお願いします!

A:……あいつら来る前にこんな飲んじゃっていいのか?

B:遅いんだからしょうがないっしょ。

A:サークルやってたころとは違うんだからさ、そんなポンっと集まれねぇんだよ。あいつらも。

B:でもあんたと私は集まれてんじゃん。

A:それは同じ会社に就職したからだろ。

B:ん、それもそっか。……あー、続けていいよ。

A:まだやんの?

B:面白くなってきたとこじゃん。ほら。

A:……えー、男にとって女性の裸体というものは容易には手の届かない存在なのであります。
  だからこそ我々男はポルノグラフィ等を購入し、平面上で女性の裸体を観賞するわけです。

B:ポルノグラフィを購入できる時点で手を出せているのではありませんか?

A:たとえば、月給が25万円のOLがいたとしましょう。
  彼女は会社帰りにブティックを冷やかすのが趣味で、その日も会社近くの高級ブティックの中を歩いていました。

B:……どっかで聞いたような話……。

A:感情移入しやすいだろ?

B:うっさい。

A:そんな彼女は、あるブランドバックに目を止める。とても美しいバックです。
  しかし値札にはこう書かれている、「60万円」と。

B:うわ……たっか。

A:そう、高いんですよ。だから彼女には買えない、手が出せない。
  だから彼女は、近所の露天で売っていた1万5000円のそのブランドバックに良く似た模造品を買って帰った。

B:つまり、ポルノグラフィとは、手の出せない本物の女性の裸体の代わりに買ったイミテーションだと。

A:その通りです。ですがもちろんそれでは欲求は満たされない。ですから私は――

B:異議あり! その理屈はおかしいです。何故なら、例の場合はブランドバックをちゃんと視認し、目をつけています。
  貴方はKさんの裸を見たことはないですよね――

A:(店員に)あ、ありがとうございます。

 間
 <男、酒を呑む>

A:……のまねぇの?

B:飲むわよ。うっさいわね。

A:で、何?

B:だから、貴方はKさんの裸を見たことがないのだから、ポルノグラフィが彼女の裸体を見るためのイミテーションだということにはならないでしょうっていってるの。

A:……あのさ。

B:何よ。

 間

A:いや、なんでもないわ。

B:何よ。

A:やめ! 負けだよ、俺の負け。

B:は?

A:いや、だってもう負けだし。

B:どうして。

A:わかんだろ。俺には「おっぱいが見たい」っていう理由しかないわけだ。
  でも、お前はそれ以上の理由を要求してるだろ。

B:それ以上の要求って?

A:わかんないでいってたんかい。

 間

B:意外と白熱したね。

A:そうか?

B:うん。良い暇つぶしになった。

A:っつーかあいつら遅くねーか?

B:さっき皆のフォローしてたのあんたじゃん。

 間

A:……いや、なんか気まずいから、さ。

B:気まずいの? あんた。

A:うっせーな。いいよもう。

 間

A:あーもう! よし、わかった。再開するぞ。

B:ん? 何を?

A:裁判。

B:……あんたの負けなんでしょ。

A:いいから! このままいても暇だろうが。

B:ま、いいけど。私負けないぜ?

A:いってろ、小娘。

B:よーし……それでは、再開!

A:えー、先ほど、Kさんの裸体を見たことがないからイミテーションにはなりえないといいましたが、実際に私はKさんの裸体を見たことがあります。

B:はぁ!? 何処で!?

A:脳内で、であります。

B:ばっ! 馬鹿じゃないの! そんなの実際に見たことにならないでしょうが!

A:私とKさんは、大学時代からの知り合いでありまして、現在同じ会社に就職し共に働いた1年を含めると、5年以上の付き合いになります。その姿形は既に頭の中にインプットされており、想像とはいっても、服を脱いだその姿は実際のものと遜色ないものと確信しております!

B:おりますじゃねぇ! うるせーバカ! しね! しんでしまえ!

A:これでは説明になってないでしょうか! 裁判長! 公正なジャッジを!

B:だーもう、じゃあいいよそれで! 続ければ!?

A:ありがとうございます!
  一から整理致しますと、私は長期間三次元的に女性の裸体を見ていなかったため、せめておっぱいだけでも見たいと思いまして、Kさんにおっぱいを見せろと主張したわけです。

B:異議あり! せめておっぱいだけでも、と仰いましたが、「せめて」というのは「裸は流石にあれだけど、おっぱいだったらちょっと見せてくれるんじゃないかなぁ」という打算的な意図が含まれているということでよろしいんでしょうか。

A:意図、ではなく、譲歩、です裁判長。

B:譲歩だぁ!?

A:ええ。そもそもこの裁判は「おっぱい見せろ裁判」ですね。見せろ、というのは見るという動詞の命令形です。
  ですが私田中とKさんの立場は同等。ですから、一歩引いて裸ではなくおっぱいにと――

B:やめだやめ! あんた何いってっかわからん!

A:じゃあ俺の勝ちでいいんだな。

B:んなわけあるか! 有罪だよ有罪!

A:なんの罪でだよ!

B:んなもんセクハラに決まってんだろうが!

A:結局そこに落ち着くのかよ……ま、いいけどさ。

 間

A:つまみ、頼んでいいかな? あー、でも流石に本格的に飲むのはまずいか……。

 間

A:おい、頼んでいいかって――

B:頭きた。

A:あ? 何が。

B:続けるぞ。裁判。

A:はぁ!?

B:田中は、長期間三次元的に女性の裸体を見ていなかったから、おっぱいだけでも見たいと思って、Kさんにおっぱいを見せろと主張したんだよね。

A:……まぁ、そうだけど。

B:それって、風俗でも良かったんじゃないの?

A:……ほらな、そうくるだろ?

B:そうくるって何よ!

A:だから俺の負けだっていったんだよ。

B:なんで。

 間

A:……どうしても続けんの、このまま。

B:あのね、あんたは勝手に完結してるみたいだけど、私はあんたが私に負けるってのが納得できてないわけ。
  ちゃんとそこまで順をおってやってみてくんないとイライラすんの。

A:あっそ……。

B:それじゃ……風俗じゃダメな理由を説明できますか? ストリップ小屋でも三次元的な女性の裸体は観れるでしょう。

A:そうですね。ダメな理由はないです。ストリップ観に行ってきます。はい終了。

B:だからぁ! なんなのよそれは!

A:なんなのって、そのまんまだろ。

B:説明になってないんだっての。

A:うるせぇな! 説明したくねぇんだよ!

 間

B:……何ソレ。マジギレ?

A:ちげぇよ。

B:いや、マジギレっしょ、それ。

A:ちげぇっつってんだろ。

B:悪かったって。ごめんね、私がバカでした。

A:そういうんじゃねぇんだって! なんでそう……!

 間

A:(ため息)

B:からあげでいい?

 間

B:何、まだ怒ってんの? わかった、今日多めに出すからさ。

 間

B:おーい。

 間

B:あ、じゃあおっぱい見せてやろっか――

A:お前さ。本当、バカな。

B:え?

A:これ、マジギレな。本気で怒ってる。

B:は? 何、どうして――

A:説明してやるよ。

 間

A:ってか、説明もなにも、そもそもそれがなきゃ成り立っていない話なんだがな。
  イミテーションじゃ意味がないってことも、風俗じゃダメだって理由も、全部それで方がつく。

B:……何さ。

A:田中は、Kさんの裸だから見たいってことだよ。

 間

B:……は?

A:田中は、Kさんの裸だから見たいんだ。三次元的な、Kさんの裸をさ。

 間

B:え……? ……田中は、どうしてそれをいいたくなかったんですか?

A:ただの遊びでいうようなことじゃないからです。

B:それは……つまり?

A:田中はKさんが好きだから。

 間

B:……異議あり。

A:はい、8番ショート、オールラウンダーバカ女。

B:田中さんはKさんと4年間、同じサークルで活動していましたが、Kさんはそんな雰囲気は一度も感じたことがないと――

A:異議あり。 感じたことがない、とおっしゃいましたね。
  それはつまり「感じていない」だけであって、実際に田中がKさんに好意を抱いていなかったという証拠にはなりえないのではないでしょうか。

 間

B:田中さんは、その、いつからKさんの事を――

A:異議あり。

 間

A:田中は好意を伝えました。それに対する返答がないというのはあまりにも彼が不憫です。

B:……異議を認めます。

 間

B:あのさ。

A:何。

B:場所、変えない?

A:は?

B:いやさ、こんなとこでする話じゃないじゃん。

A:いや、お前が言わしたんだろうが! お前もここで言えよ。

B:嘘、マジで?

 間

A:……別に、俺ならどっちでも、その、気にしないからさ。

B:はぁ!? 異議あり!

A:え?

B:振られてもいい、なんて気持ちで告白するのは失礼だろ!

A:……あーそうかよ! じゃあ、好きだ! 俺と付き合え!

B:命令形かよ!

A:譲歩だよ! 結婚っていわないだけありがたいと思え。
  クソ……なんでこんなとこでいわなきゃ――

B:好きだよ。

 間

B:Kさんも、田中さんがさ。

 間

A:……そうか。

B:おう、そうだ。

A:いつから。

B:んー、今日から……かな。田中は?

A:3年前だよ。

B:松本ゆうこは?

A:誰だ、そいつ。

B:いねぇよそんな女。

 <2人とも笑う>

 間

A:……場所、変えるか。

B:異議なし。

A:……あいつら、どうする?

B:あんたメールしといてよ。

A:いいけどさ……誰と誰がくる予定だったの。

B:ん? あんたが声かけたんでしょ?

A:は? おまえだろ。

B:……どっちも呼んでなかったってオチ?

A:そんなベタな……。

 間

B:ってかさ。これから付き合うわけだしもう「おっぱい見せろ」って言わないわけ?
  私結構気に入ってんだけどあのセリフ。

A:あのなぁ、魔が差したからっていきなり好きな女に「おっぱい見せろ」っていう男がいるか?

B:さぁ、女を追いかけて同じ会社に就職するバカと同じくらいの確率ではいそうだけど。

A:異議あり。先に内定でたの俺。

 間

B:……ちんちん見せろ。

A:いねぇよ、そんな女。

B:異議あり!

A:却下。


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