この恋の届く距離
作者:ススキドミノ


深雪(みゆき)♀
英二(えいじ)♂




※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−









深雪N:一緒にいるときは、いい。


 ◆


 <深雪と英二は二人でベッドに横になっている>

深雪:英ちゃん。

英二:んー?

深雪:……なんでもない。

英二:なんだよ、言ってみ?

深雪:ううん。

 <英二は深雪を抱き寄せる>

深雪:……ん。暖かい。

英二:どう? 言いたくなった?

深雪:別に……言いづらいとかじゃないよ。
   拗ねてるとかでもない。

英二:……そうなの?

深雪:うん。

 間

深雪:……やだなぁ。

英二:何が。

深雪:んー? 帰るの――

英二:ハイ、ダメ。

深雪:えー?

英二:帰るとかそういう系の話、なしって約束したろ。

深雪:……うん。した。

英二:罰ゲーム、何だっけ。

深雪:何だっけ?

英二:今考える。

深雪:変なのやめてよ……?

英二:……じゃあ、俺の好きなとこ。言って。

深雪:……えー……顔?

英二:(吹き出して)嘘、マジで?

深雪:うん。え……? 好きでしょ、普通に。

英二:いや、うん。嬉しい。

 間

深雪:ねえ。

英二:何?

深雪:私のこと、好き?

英二:好き。

 間

深雪:うん。

英二:(微笑んで)別に、罰ゲームじゃなくても言うよ。

深雪:私だって。

 間

英二:あのさ。

深雪:何?

英二:自分の気持ちって、どうやったら相手に伝わるのかなーって思ったりするんだよね。
   例えば……こうして会ってるときは、言葉が要らなかったりする。

 <英二は深雪を抱きしめる>

英二:……こうやって深雪を抱きしめたらさ。
   俺がどういう風に思ってるか、伝わってるって気がする。

深雪:……うん。そうかも。

英二:だろ?

深雪:(吹き出して)うん。ちょっとロマンチストすぎると思うけど。

英二:(笑う)笑うなよ。結構マジで言ってるんだからさ。

深雪:……それで?

英二:だとしたらさ、本当は言葉なんていらないはずだろ?
   全部行動で伝わるなら、必要ないんだから。

深雪:んー、極論だなぁ。それで?

英二:だから、俺はもっと考えてみようと思って。

深雪:どうやって伝えるか?

英二:そう。

深雪:そっか……伝え方か……。


 ◆


深雪N:でも、離れてしまったら――ずっと、駄目なんだ。


 ◆


 <深雪は部屋に帰る>

深雪:……ただいまー。

 <ソファの横に鞄を置くと、ソファに座り込む>

深雪:(ため息)……疲れた。

 間

深雪:電話……今日は英ちゃん仕事かな……。

 <深雪は携帯電話を取り出す>

深雪:着信……?

 <深雪は英二に電話をかける>

深雪:もしもし? 英ちゃん?

英二:『もしもし、深雪?』

深雪:どうしたの? 仕事は?

英二:『早く抜けてきた』

深雪:へえ、忙しいんじゃなかった?

英二:『忙しいよ。無理やりって感じ』

深雪:どうしたの? 体調悪いとか?

英二:『ううん。深雪が家ついたら、おかえりって言いたくてさ』

 間

深雪:嘘、なにそれ……。

英二:『おかえり、深雪』

深雪:え、本当に? 本当にそれ言うためだけに休んだの? 仕事……!

英二:『ああ、そうだよ』

深雪:(笑う)うそー! なにそれ! なんで!?
   どうしちゃったのよ……!

英二:『嬉しい?』

深雪:嬉しいけど! でも……!
   何!? ちょっと変な感じ……!

英二:『伝わった? 俺の気持ち』

深雪:え?

英二:『だからさ、俺がどれだけ深雪を好きかって気持ち。伝わった?』

深雪:……うん。伝わってるよ、いつも。

英二:『そっか』

深雪:……ねえ。一緒にご飯食べよう。

英二:『待ってた。腹減った』

深雪:(笑って)……うん。


 ◆


英二:一緒にいるときは、いい。


 ◆


 <英二は電話をしている>

英二:(電話口に)ええ。はい。それで大丈夫です。
   はい。こちらの方から改めてご連絡しておきます。
   ……はい。はい、わかりました。それでは――(電話を切る)

 <マンションのドアを開けて部屋に入る>
 <郵便受けを開くといくつかの支払い書などをまとめてとる>

英二:ふー……あー……ガス代だけまだだったっけ……。
   あとでコンビニ行かなきゃな。

 <ふと、郵便物の束の中に、可愛らしい封筒があるのに気づく>

英二:ん……? なんだ、この封筒――手紙?

 <封筒の差出人は深雪だった>


深雪:『拝啓――英ちゃん様
    ますます寒さが勢いを増す昨今、如何お過ごしですか?
    私は英ちゃんと一緒に、映画を見た後にこの手紙を書いています。
    それにしても、先日のチョイスは如何なものでしょうか?
    一緒にいるときならまだしも、部屋に一人で過ごしている私に、ホラー映画は些か思慮にかけた選択だったと思います。
    反省してくださいね。
    さて、以前に英ちゃんが言ってくれたこと、私も考えてみました。
    どうしたら、自分の気持ちが相手に通じるのか。
    英ちゃんはいろいろな方法を試してくれていますね。
    だから私も、こうして手紙で伝えてみることにしました。
    例えば、そう――今、これを書いているこの瞬間、英ちゃんはお風呂に入っていますよ。
    新しいシャンプーを試してみるって。
    ねえ、私は、英ちゃんのことが大好きですよ。
    この手紙を書いている瞬間も、そして今、この手紙を貴方が読んでいる瞬間も、私は英ちゃんが大好きです。
    これが、素直な私の気持ちです。
    どうですか? 伝わりましたか?
    追伸、いつもありがとう。 深雪。


 <英二は手紙を閉じると、大事に胸に抱える>

英二:……やられた……。

 <英二は少し涙ぐんで鼻を鳴らす>

英二:人には……ロマンチストだのなんだの……言うくせに……。

 <英二は携帯電話を手に取ると、深雪の番号をコールする>

深雪:『もしもーし。ごめん、私今髪乾かしてて――』

英二:深雪。

深雪:ん、なぁに?

英二:伝わった。

深雪:『(微笑んで)……急にどうしたのかな?』

英二:あのさ……今度はもっと明るい映画にしよう。

 間

深雪:『うん。そうしよう』


 ◆


英二N:会っていないときは、ずっと駄目だって思ってた。


 ◆


 <深雪が駅前で写真を撮っている>

深雪:……うっし、綺麗に撮れた。

 <アプリを開くと、英二に写真を送信する>

深雪:……『帰り道! 今日は早く終わったから、夕焼け! おすそ分け』っと……。

 <しばらくすると、携帯電話に着信が入る>

深雪:……え? 英ちゃん……?
   (電話に出て)……もしもし?

英二:『もしもし』

深雪:仕事じゃないの? もう終わった?

英二:『うん』

深雪:また強引に抜けてきたんじゃないよね?

英二:『そりゃね、この間の、かなり怒られたから』

深雪:(笑って)そりゃそうでしょうとも。
   じゃあ、本当に偶然だ。

英二:『今、帰り?』

深雪:うん。そうだよ。

英二:『さっきの写真、いつもの駅前だよね』

深雪:そうそう。英ちゃんがこっちに来る時、待ち合わせしてるとこの裏手だよ。

英二:『うん。もう大分覚えた』

深雪:買い物とか私より詳しかったりするもんね。

英二:『深雪は決まった店が多いから』

深雪:そうなんだよなぁ。なんていうかさ、いつも同じ道通るのが安心っていうか。

英二:『寄り道嫌いだもんな』

深雪:英ちゃんと一緒にいれるならいいけどさ。
   なんかさ、ちょっと寂しいじゃん。いつも通る道だと……英ちゃんとも歩いてたなって思えるしさ。

英二:じゃあ、寄り道、する?

深雪:……え?

 <深雪の隣に、英二が立っている>

英二:色んな所、歩こう。

深雪:え? え……! 英ちゃん……!?
   なんで……! なんでいるの!?

英二:仕事、辞めてきた。

深雪:は。え。何? どういうこと?

英二:だからもう、離れてなくたっていいんだ。

 <英二は深雪を抱きしめる>

英二:一緒に、いよう。深雪。

深雪:えい、ちゃん……?

英二:どこだっていいんだ。
   なんだっていい。
   伝え方だって……なんだっていいんだ。
   俺は、深雪だから……深雪が相手だから、なんだってできる。
   どんな気持ちも、伝えられる。

深雪:(泣きながら)……英ちゃん……!

英二:伝わるだろ……?

深雪:……うん……! 伝わるよ……!

英二:愛してるよ、深雪。

深雪:私も……! 愛してるよ、英ちゃん……!


 ◆


英二N:一緒にいるときは、いい。

深雪N:離れているときも、いい。

英二N:だって……君が君だから。

深雪N:どんなときも、気持ちは繋がっているから。



英二・深雪:すぐに、愛に行くよ。







−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

台本一覧

inserted by FC2 system