My cheeky boss.
作者:ススキドミノ
村澤 涼(むらさわ りょう):男性。24歳、新人デザイナー。上司の金森と恋人的な関係。
金森 拓也(かなもり たくや):男性。32歳、チームリーダー。未婚。上司の晶とは元恋人。
城地晶(じょうち あきら):男性。40歳、企画部長。既婚。
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
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<某広告代理店・総合企画課>
城地:――以上。クライアント様からのお言葉を代読させてもらった。
全員で取り組み、プロジェクトを成功させたという経験は、必ずこの先の君達の人生の糧となる。
大いに誇り、喜びを共有して欲しい。
同時に、それぞれのプレッシャーがある中での仕事だった。
同僚や、他の部署に対して――会社や俺のような上の役職に対して、不満に思うこともあったかと思う。
そういうときはその時の仕事を思い返すように。
不満を持った相手がどういう仕事をしたのかを冷静に見直し。
相手と自分の間で、どんな仕事をしたのか。そして、どれだけ仕事がし辛かったのか。
問題を明確化することが大切だ。
精神的な苦痛を伴う問題については、我が社ではいつでもカウンセリングを受けることができる。
心身共に健康でなければ、いい仕事はできない。
何よりも自分を大切にすること。
まあ……ちょっとした愚痴だったら、俺が飲みに連れていく。妻や娘の誕生日じゃなければな。
次のプロジェクトが終わったら、盛大に打ち上げをする予定だ。
また、いい仕事をしよう。
お疲れ様でした。
(笑って)……じゃ、今日はもう帰ろうぜ。
お前ら、残んじゃね―ぞ。
<和やかな雰囲気で社員たちは帰り支度を始める>
金森:城地さん。お疲れ様です。
城地:おう。金森。お疲れ。
どうだった、チームリーダー。
金森:はい。慣れました。それなりに。
城地:ばーか、そう簡単に慣れんな。
緊張してるくらいがちょうどいいんだ、お前みたいなタイプは。
金森:僕みたいなタイプ、ですか?
城地:ただでさえローテンションで、感情がわかり辛い。
弱みも見せねえと、下は不安だったりすんだぜ。
金森:(微笑む)……城地さんみたいな感情豊かな人の下にいれば、こうもなります。
城地:(吹き出す)生意気だな。
金森:冷静に尻拭いすることに慣れてしまって。
城地:言ってろガキめ。
金森:言っておきますが、僕ももう、出会った頃の城地さんと同じ年になったんですよ。
城地:じゃあ合ってんじゃねえか。あんときの俺も、クソガキだった。
……ってーかなんだ、やけに絡むなァ? 飲みの誘いか?
金森:いえ、すみません。紹介したい部下が。
城地:珍しいな。もちろんいいぞ。
金森:……村澤君。ちょっと。
<村澤は焦ったように駆け寄ってくる>
村澤:はいっ! 拓也さん!
金森:村澤君……。金森さんと呼ぶように言ったよね。
村澤:はい……? でも、プロジェクト中は――
金森:それはプロジェクト中の話です。
いいですか。あれはチーム内のコミュニケーションを円滑に進めるために、一時的に行っていただけで……。
僕と君は基本的に――何で笑ってるんですか……。
城地:(笑いを堪えている)いや……! 悪い……!
金森:(ため息)……なんですか。悪いですか……?
城地:いやいや違うんだって……! ちゃんとチームリーダーやってるみたいで安心したんだよ。
金森:……うちのチームの新人の村澤涼です。
村澤:村澤です。
城地:覚えてるよ。入社面接、俺担当したよな。
村澤:はい。
<城地は村澤と握手をする>
城地:改めまして、俺は企画部長の城地晶だ。
(笑って)晶さんとは呼ぶんじゃねえぞ。
金森:今回のCM制作にあたって、うちのチームから出したベストアイディアは彼が出したものなんです。
城地:なるほど。期待の新人ってわけだ。
村澤:はい。ありがとうございます。
城地:いいねぇ。謙遜しないってのは。
自分がした仕事をしっかりわかってるな。
村澤:そうですね。僕がこの会社に入ったのは、年齢に関係なく、自分の発想を活かせると思ったからです。
城地:(吹き出す)おい、面接じゃねえんだから。
……村澤。確かに年齢は関係ないが、経験は何よりも重要だ。
これからもチャレンジできる自信は。
村澤:あります。
城地:頼もしい答えだ。
金森が俺に紹介したってことは、相当期待されてんぞ。
ちなみに俺はまだ期待するか決めかねてる。
自分は、プレッシャーを力に変えられると思うか?
村澤:……はい。期待していただきたいです。
城地:うし。じゃあ、期待してるぜ。
金森:次のプロジェクトでは、彼に色々とやってもらいます。
城地:わかった。村澤、時間をくれてありがとう。
村澤:いえ、そんな。
金森:……この後、城地さんは?
城地:ん? あー……わりぃけど、プロジェクトの間、あんまり帰れてないんでな。
家族サービスしねえと。
金森:……そうですか。ありがとうございました。
城地:おう。深酒すんなよ。
そんじゃあ、お疲れさん。
<城地はコートを掴むと部屋を出ていく>
村澤:じゃあ、金森先輩。飲みに行きましょうか。
間
村澤:……金森先輩?
金森:はい。行きましょう。
◆
<個室居酒屋・金森と村澤>
村澤:――そういう意図で、あの時連絡したんですけど……。
金森先輩は、どう思いますか?
<金森は既にかなり酔っ払っている>
金森:……名前で呼んでもいいよ。
村澤:(微笑んで)さっき自分で言ったんじゃないすか。
あれはプロジェクト中の約束だって。
金森:今はもう仕事中じゃないからね。
……それに、城地部長の前だったし……。
村澤:結構酔ってますね。拓也さん。
金森:別に……そんなに酔ってない。
村澤:(店員に)あ、すみません。お水いただけますか?
金森:だから、そんなに酔ってないって……。
村澤:言う人ほど酔ってるんですって。
<村澤は机にひじをつくと、笑顔で金森を見つめる>
村澤:それとも……酔ってる理由は別にあります?
金森:……なんだって?
村澤:だから。僕に下の名前で呼ばせなかったのも、今こうして酔っ払ってるのも……。
城地部長が居たから、じゃないんですか?
金森:晶さんは関係ない……!
村澤:うわ。晶さん、だって。
金森:……クソ……。飲みすぎたかも……。
村澤:ふふふ……。今日は一段と可愛いっすね。
拓也さん。
金森:……もういい。もっと飲む。
村澤:あーこら……! 俺が悪かったですって……!
<村澤は店員からグラスを受け取る>
村澤:ほら。拓也さん。お水、飲んでください。
金森:……わかった。
<金森はグラスを煽る>
金森:はー……。情けない……。
村澤:それは、お酒に酔ってることですか?
それとも――
金森:どっちもだよ……! もう簡便してくれ……。
村澤:お。ようやく口を割りましたね。
<村澤はワインを飲む>
村澤:何で、俺を紹介したんですか?
金森:……え?
村澤:いえ。まあ確かに納得はしてますけど。
実際、今回のプロジェクトではいい仕事をした自覚はありますし。
……でも、なーんとなく勘ぐっちゃうんですよ。
昔の恋人を、嫉妬させたかったのかな? とかね。
金森:……僕と晶さんは――
間
村澤:ん? なんです?
金森:き、気持ち悪い……!
村澤:あーもう! トイレ……! トイレ行きますよ!
◆
<タクシーの中>
村澤:拓也さん。大丈夫ですか?
金森:……あ……涼……? あれ、今って……。
村澤:タクシーですよ。俺んち向かってます。
金森:そうか……。あ。会計……。すまない、今――
村澤:いいですって、そんなの今は。
金森:……迷惑かけて、すまない……。
村澤:少しはスッキリしました?
金森:正直に言うと……まだ朦朧としてる。
村澤:だと思いました。
もうすぐ着きますから。
金森:……家の前に捨ててくれてもいいんだけど……。
村澤:何馬鹿言ってんですか。
拓也さんち、タワマンじゃないっすか。
俺んちなら、拓也さん運ぶのも楽なんで――
(運転手に)あ、そこの角で止めてください。
◆
<村澤宅・金森の肩を支える村澤>
村澤:ほら、拓也さん。
着きましたよ。
金森:……うん。
村澤:ベッド、使っていいんで。
楽にしておいてください。
金森:涼、何から何までごめん……。
村澤:いいんすよ。
(耳元で)……身体で払ってくれたら。
金森:え……?
間
金森:あ、いや……。それは――
村澤:ふふふ……。その反応が見れたらお釣りが来ますよ。
じゃ、風呂用意してきますから。
冷蔵庫のものとか、好きに飲んでいいんで。
<村澤は洗面所に向かう>
金森:……やっちゃったな……。
本当……僕……ダメだな……。
<村澤はベッドに仰向けに倒れる>
金森:……誰かの部屋に来るの……久しぶりだ。
◇
<過去の回想・8年前>
<24歳の金森と32歳の城地>
<城地の部屋>
城地:おい、拓也。
金森:……ん?
城地:お前起きろって! すげーいいとこだぞ!
金森:いいとこって……。
<テレビでは、ホラー映画のクライマックスが流れている>
城地:これ! クライマックスなんだけどさ!
金森:晶さん……。
僕、途中から見てないんですよ?
最後だけ見ても面白くないですって……。
城地:んなことはどうでもいいんだって!
予告編で出てたシーン、大体この辺を使ってんだ。
金森:ああ……確かに……。
城地:退屈なストーリーの映画だったろ?
それこそ、お前が寝ちまうくらいな。
金森:……はい。
城地:それでもクライマックスシーンを繋ぎ合わせれば、それなりの予告編が作れるわけだ。
この映画、予告編詐欺なんて言われてるが、逆を返せば切り取る箇所を見定めて、それを上手いこと繋ぎ合わせて。
制作会社は、すげえいい仕事したってことに――
金森:(ため息)……やめましょうよ……。
プライベートなんですから、仕事の目線で映画見るの……。
城地:げ……まあ、確かに。
<城地は金森の隣に座り直す>
城地:何……? すねた?
金森:すねてません。
城地:悪かったって……。
じゃあ、一緒にお昼寝するか?
金森:いいですって……今の今まで寝てましたし。
城地:そういう顔されると――
<城地は金森に覆いかぶさる>
金森:ちょ……! 晶さん……!
城地:燃えてくるんだよなぁ、俺は。
金森:本当……! 強引なんですよ、いつも……!
◇
<金森は目を覚ます>
金森:……あ……。
村澤:……ん。起きました?
金森:……そっか……僕……。
村澤:一時間くらい寝てましたよ。
今、2時です。
金森:そっか……。
涼……何から何まで――
村澤:いいですから。
ほら、もし飲めそうだったら水飲んでください。
あとは……スープとか買ってきました。
金森:……ありがとう。
<金森はペットボトルの水を飲み干す>
金森:はぁ……。
村澤:どうです? 酔いは。
少し冷めました?
金森:うん……。大分楽になった。
村澤:良かったです。
間
金森:……あの、さ。
村澤:なんですか?
金森:晶さんのこととは……関係ないから。
村澤:えっと、何の話ですか……?
金森:だから……!
僕は、本当に涼が優秀だから、晶さんに紹介したんだ……。
これから大きな仕事を任せたいと思ってるし、だから――
村澤:(吹き出す)ぷっ……ふふふふふ……!
わかった……わかりましたって……!
っていうか、あんなに酔っ払ってたのに、覚えてたんですね。
金森:……覚えてる。それくらい。
村澤:別に、本気でそんなこと思ってるわけないじゃないですか。
金森:僕だって……一応伝えておこうと思っただけだよ。
村澤:本当、そういう真面目なところが可愛いんすよね。
拓也さんは。
金森:そういうところが生意気なんだよ、君は……。
僕が君くらいの頃は――
村澤:あ。昔の話しだしたら急におっさんっぽい。
金森:本当、生意気……。
村澤:っていうか……聞いてもいいですか?
金森:何?
<村澤は缶ビールに手を伸ばす>
村澤:拓也さんと城地部長って、どういう出会いだったんですか。
金森:……何だよ、突然。
村澤:普通に気になってたんですよ。
金森:それは……。
村澤:あーあ。今日めちゃくちゃ面倒みたのになぁー。
金森:それは――謝っただろ……!?
村澤:中々言いづらいってのはわかってますよ。
でも……随分前のことなんですよね?
それとも――
<村澤はビールを一口飲む>
村澤:まだ、引きずってるとか……?
金森:……いや、そんなことはない、けど……。
村澤:じゃあ、話してくださいよ。
間
金森:……わかった。
<金森はペットボトルを額に当てる>
金森:……晶さんと出会ったのは、入社してすぐのことだった。
まだ、うちの会社は規模が小さくて、僕は初めての新規採用だった。
◆
<過去の回想・10年前>
<22歳の金森と30歳の城地>
<会社のデスク>
城地:……あれ? 金森君?
金森:……え?
城地:何やってんの。こんな時間まで。
金森:あ……。いえ。
今日、初めてクライアントとメールのやり取りをさせて頂いたんですけど……。
内容が良くなかったと言われて……。
城地:はぁ? 誰に。
金森:いえ、それは……ちょっと……。
城地:(ため息)まあ、いいわ。それで、なんでこんな時間まで?
金森:過去のクライアントとのやり取りのメールをチェックしていたんです。
<金森はメガネを上げる>
金森:僕のメールの何が良くないのか、わからなかったので。
城地:それで……わかった?
金森:はい。……確かに、僕は必要な情報だけの連絡だけしていて、事務的すぎたのかもしれません。
そこは反省するべき点ではありますが……。
ただ……! 「良くない」という言葉だけでくくられるのはやっぱり納得できません……。
城地:(笑いを堪える)……ああ、そう……!
金森:……もう二度と、あんな言い方はさせるつもりはありませんよ。
城地:そっかそっか。
<城地は金森の肩を叩く>
城地:言われたこと気にしすぎちまってんのかと思ったが……。
金森:……僕、言われっぱなしは我慢ならないので。
城地:おう。それでいいよ。
潰れない程度に、強気でいけ。
うちはベンチャーだからな、既存の社員は自分のルールで動いてる節がある。
簡単に言うとな、俺達は外から入ってきた新人には慣れてないんだ。
納得がいかないことは、はっきり言っちまえ。
もし面倒事になりそうなら、俺や社長に言え。
間に入ってやるから。
金森:はい。
城地:……うっし、じゃあ飯でも行こうや。
金森:城地さんは仕事が残っているとかでは?
城地:ん? 違う違う。
家帰るのダルくてさ。
サウナ、行ってきたんだ。
金森:ダルいって……。
城地:実は最近、会社の仮眠室で寝泊まりしてんだ。
……あ、これ、内緒な? 前、社長に怒られたんだわ。
金森:い、いや……言わないですけど。
城地:ほれ、行くぞ。
◆
<村澤の部屋>
村澤:ははは……! なんですか、それ……!
なんていうか……今の金森さんからは想像つかないですね。
金森:何が?
村澤:上司の言い分が気に入らなくて――とか、そういう熱い感じ。
いつも涼しい顔で何でもサッとこなしているイメージじゃないですか。
金森:こうやって呑んで潰れて、後輩に介抱されてるけどね……。
村澤:それはホラ、相手が俺だから……ですよね?
金森:それは、まあ……。
村澤:あ。やっぱりまだ酔ってる。
いつもはそんな素直じゃないし。
そういう面、他の社員にも見せたらもっと――
間
金森:見せたら、何?
村澤:やっぱ今の無しで。
考えてみたら、俺しか知らないってのは大事なんで。
金森:……あっそう。
村澤:それで? それからは?
金森:それから、僕は晶さんに事ある事に連れ回されるようになって……。
それから……いや……まあ、何ていうか……。
いつの間にかその……。
村澤:……何カマトトぶってんですか。
城地部長とそういう関係になった――ですよね。
金森:うん……。でも、不思議とそれまでとは変わらないところもあったんだ。
飲みに行ったり、休みの日は映画見たり、競馬に行ったり。
村澤:ふうん……。
俺とは競馬行ったことありましたっけ?
金森:無いよ。別に、僕が好きなわけじゃなかったし。
村澤:……じゃあ、俺が行きたいって言ったら行ってくれます?
金森:いいけど……。そんなに賭けないからね。
村澤:(微笑んで)稼いでる癖に。
金森:まあ、涼よりはね。
村澤:うわー……! ハラスメントだ……!
金森:ふふふ……! でも、涼はきっと出世するよ。
若い時の晶さんに似てる。
間
金森:……涼? どうした?
村澤:あ。いえ。
じゃあ! 良いっすか? ついに、聞いちゃって。
金森:これ以上何が聞きたいわけ……?
村澤:ズバリ。別れた時のことを。
金森:……ああ。そのこと……。
……別に聞いても面白くないと思うけど。
村澤:……知りたいんです。
金森:どうしてそんなに――
<村澤は、真剣な顔で金森を見つめている>
金森:……涼。
村澤:知りたいんです。本気で。
金森:……わかった。
◆
<過去の回想・7年前>
<25歳の金森と33歳の城地>
<城地の部屋>
城地:……おう。拓也、来てたのか。
金森:人のこと呼び出しておいて、電話しても全然起きないので……。
こんな時間まで寝てるとは思いませんでしたけど。
城地:ああ、悪い……。
金森:そんなことだろうと思って、ご飯買ってきたんですけど。
城地:なあ、拓也。
金森:なんですか? ……うわ、冷蔵庫空じゃないですか。
飲み物とか――
城地:拓也。
金森:はい?
<城地は、じっと金森の顔を見つめている>
城地:俺、結婚するんだ。
間
金森:決まったんですね。
城地:ああ……決まった。
金森:良かった――あ、じゃないのか。
じゃあ、僕がここにいるのはアレですよね。
すみません。すぐ、出ていきますから。
<帰ろうとする金森の手を、城地が掴む>
城地:待てよ。
金森:……離してください。
城地:いいから。ちゃんと話そう。
金森:話すことなんてありません……!
だから離してください!
城地:逃げないって言うまで離さねえ。
間
金森:……わかり、ました……から……。
逃げません……。
<城地は金森の手をゆっくりと離す>
金森:お相手は……?
城地:……知ってんだろ。
金森:……はい。知ってて言いました。
間
金森:すみません……本当……。
わかってるんです、全部……。
<金森はその場に座り込む>
金森:……僕が、言ったことですから。
城地:……拓也……。
金森:晶さんから縁談の話が上がったとき、その縁談を受けろって言ったの、僕じゃないですか……。
晶さんがお相手を気に入ったって聞いた時も、こういう関係じゃなく、ただの上司と部下になりましょうって言ったのも、僕じゃないですか……!
それから晶さんから距離を置いたのも……全部僕だったじゃないですか!
なのに――
<金森は顔を腕で覆う>
金森:なのに……! なんでこんなに胸が痛いんですか……!
城地:……拓也……。
金森:全部わかってたんです! 全部わかってるつもりになれてたんです……!
でも……! 自分の気持ちすら、わかってませんでした……!
城地:……俺は――
金森:やめてくださいよ! 絶対……!
今、僕に優しくなんてしないでください……!
そうしたら……! この胸の痛みも! 僕らの楽しかった時間も!
全部、意味がなくなってしまいますから!
<金森はゆっくり立ち上がる>
金森:……晶さん。
……僕たちは、これから……どうすれば良いんですか。
城地:……お前……。
金森:ねえ、晶さん。
いつだって、晶さんは強引で……王様で……僕の気持ちなんてお構いなしに引っ張ってくれる人です。
その癖に不器用で、でもやっぱり……誰よりも優しい人なんです。
<城地は頭を抱える>
城地:……マジかよ、お前……。
ここでんなこと言うの、さすがにズルすぎんだろ……!
金森:(微笑んで)今までさんざん降り回したんですから……。
自分のケツは自分で拭いてください。
城地:(深呼吸)……そっか。そうだよな。
<城地は優しく微笑む>
城地:今日から、俺はお前を金森と呼ぶ。
お前は俺を城地と呼べ。
金森:はい。
城地:お前とは変わらずいい友人であり、同僚だ。
だが、俺はこれから家庭を持つ。
今までみたいに頻繁には遊べなくなる。
金森:はい。
城地:こうやって部屋で二人で遊べんのも最後だ。
金森:(泣きながら)……はい。
城地:今まで、本当にありがとう。
<城地は金森と握手をする>
城地:(泣きながら)ありがとうな……! 拓也……!
金森:だから……! 何で最後に名前……!
呼んじゃうんですか……!
城地:悪い……! 俺、悪い男だったわ……!
金森:本当……! 最低ですよ……!
最低で……! 本当に――
◆
<村澤の部屋>
<金森は涙を拭う>
金森:……ごめん。この話、誰かに話したの、初めてで……。
自然と涙が――
間
金森:涼……?
<村澤は顔を伏せている>
金森:涼……どうしたの――
村澤:ふざけんなよ……。
<村澤は、涙を流している>
村澤:ふざけんなよ……!
何だよ……! それ……!
金森:涼……。
村澤:クソ……! クソ!
だって、そんなの……!
<村澤は項垂れる>
村澤:ちゃんと……! 愛してんじゃん……! それさぁ……!
金森:……涼。
村澤:……あー! マジで……!
ちょっとの火遊びかと思ってたのに……!
本当……! 馬鹿だ俺……。
聞かなきゃ良かった……!
<村澤は自分の手を見つめる>
村澤:今日ずっと……! 怖かったんだよ……。
拓也さんの口から、あの人の名前が出るたびに、ずっと……。
やっぱり気になって……聞き出してみたら……!
まあ楽しそうに話すもんだから……!
金森:涼……。誤解しないで欲しいんだけど――
<村澤は金森に覆いかぶさる>
金森:いっ……た……!
村澤:誤解って……、何を……?
金森:涼……!
村澤:俺……本当今、かなりキちゃってるんで……。
マジで、拓也さんのこと、むちゃくちゃにしちゃいますよ。
金森:(微笑んで)……涼。
僕がまだ、城地さんのこと愛してるって思ってる?
村澤:思ってますよ……。
今日だってずっと様子おかしいし……。
変に深酒するし……!
口を開けば晶さん晶さんって……!
さっきなんて……! 俺が若い時の城地部長に似てるって……!
俺があの人に似てるから俺と――
<金森は村澤にキスをする>
村澤:な、んで、今、キスのタイミングじゃないでしょ……!
金森:……いや。嬉しくなっちゃって。
村澤:はぁ!? いや、何が――
金森:僕はね。逆だったんだよ。
……今日、晶さんに涼を紹介してから、涼は晶さんのことばっかり聞くから。
村澤:……は?
金森:正直、晶さんに興味を持ってるんじゃないかってすごく不安だった。
昔の関係を知ってて気にせず聞いてくるし……僕とのこと、カジュアルな関係だと思ってるんじゃないかって。
すごく、嫌だったんだよ。
だから、嫉妬してくれてるってわかって、すごく嬉しい。
村澤:……だって、さっきの話……。
金森:言ったろ? 昔の話だって。
<金森は村澤の頬に手を当てる>
金森:……あの時は確かに、僕は城地さんのことを愛してたと思う。
城地さんはね、ご家族が居なかったから。家庭を持ちたいってずっと言ってたんだ。
僕じゃ、その夢を叶えて上げられないから、身を引こうって思った。
献身的な愛の形ってやつだよ。
村澤:……やめてよ。その話、すごい効く……。
金森:自分が知りたいって言ったくせに。
……あの時は、僕は部下だった。
だけど、今は違う。僕はね……。
<金森は村澤の耳元に口を寄せる>
金森:僕は君の上司だ。
だから、もう僕の愛するものは手放さない。
村澤:……嘘、今――
金森:うん。愛してるよ、涼。
村澤:じゃあ、いいんだよね……?
金森:何が?
村澤:(耳元で)むちゃくちゃにしても、いいんだよねって言ってんの。
金森:生意気な部下を持っちゃったな。
村澤:部下じゃなくて恋人。あと、もう晶さん禁止ね。
金森:わかったよ。僕の恋人さん……。
◆
<数週間後・会社>
城地:よう。金森。
金森:城地部長。出張、お疲れ様です。
城地:おう。ちなみにマジで疲れた。
宴会に接待に宴会に……。
金森:得意分野じゃないですか。
城地:あのなァ……ただ飲みに行くのとはちげーんだよ。
早く出世してお前が代わりに――あ?
<城地は金森の右手の薬指に指輪がはまっているのを見る>
城地:随分と綺麗な指輪じゃねえか。
アクセサリーなんてつけてんの初めてみたぜ。
金森:はい。綺麗でしょう?
城地:ああ。似合ってるんじゃねえか。
<二人の間に村澤が割り込む>
城地:うお。
村澤:おーっと。すみません、書類が重くて。
城地:一気に運ぼうとするからだろ……。
半分持ってやる――
村澤:いいえ! 結構です。
城地:……あれ? 金森……村澤ってこんな感じだったっけ?
金森:(微笑んで)ええ、生意気盛りなんです。
城地:(ため息)……お前なぁ……。そんなところは似なくていいだろ……。
村澤:城地部長……!
城地:はいはい……。なんですか?
村澤:俺、負けませんから!
城地:そりゃいいけど……。
俺がお前くらいの時は、もっと仕事できたよ。
村澤:……え?
金森:まあ、僕も当時を知っているわけじゃないですけど……。
嘘ではないでしょうね。
城地:お仕事、頑張ってねー。
村澤:くっ……! 言われなくても頑張ります!
城地:期待してんぞ。
<城地は去り際に一言呟く>
城地:……あ。お前ら、指輪はいいけど、社内でイチャつくなよ?
金森:ご心配なく。
村澤:……クソ。なんだかんだ、壁が高い気がする。
なんであんな余裕あるんすか……!
金森:ほらほら、お仕事、頑張ってねー。
村澤:うわ、それムカつく!
了
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