My cheeky boss.
作者:ススキドミノ


村澤 涼(むらさわ りょう):男性。24歳、新人デザイナー。上司の金森と恋人的な関係。
金森 拓也(かなもり たくや):男性。32歳、チームリーダー。未婚。上司の晶とは元恋人。
城地晶(じょうち あきら):男性。40歳、企画部長。既婚。




※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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 <某広告代理店・総合企画課>

城地:――以上。クライアント様からのお言葉を代読させてもらった。
   全員で取り組み、プロジェクトを成功させたという経験は、必ずこの先の君達の人生の糧となる。
   大いに誇り、喜びを共有して欲しい。
   同時に、それぞれのプレッシャーがある中での仕事だった。
   同僚や、他の部署に対して――会社や俺のような上の役職に対して、不満に思うこともあったかと思う。
   そういうときはその時の仕事を思い返すように。
   不満を持った相手がどういう仕事をしたのかを冷静に見直し。
   相手と自分の間で、どんな仕事をしたのか。そして、どれだけ仕事がし辛かったのか。
   問題を明確化することが大切だ。
   精神的な苦痛を伴う問題については、我が社ではいつでもカウンセリングを受けることができる。
   心身共に健康でなければ、いい仕事はできない。
   何よりも自分を大切にすること。
   まあ……ちょっとした愚痴だったら、俺が飲みに連れていく。妻や娘の誕生日じゃなければな。
   次のプロジェクトが終わったら、盛大に打ち上げをする予定だ。
   また、いい仕事をしよう。
   お疲れ様でした。
   (笑って)……じゃ、今日はもう帰ろうぜ。
   お前ら、残んじゃね―ぞ。

 <和やかな雰囲気で社員たちは帰り支度を始める>

金森:城地さん。お疲れ様です。

城地:おう。金森。お疲れ。
   どうだった、チームリーダー。

金森:はい。慣れました。それなりに。

城地:ばーか、そう簡単に慣れんな。
   緊張してるくらいがちょうどいいんだ、お前みたいなタイプは。

金森:僕みたいなタイプ、ですか?

城地:ただでさえローテンションで、感情がわかり辛い。
   弱みも見せねえと、下は不安だったりすんだぜ。

金森:(微笑む)……城地さんみたいな感情豊かな人の下にいれば、こうもなります。

城地:(吹き出す)生意気だな。

金森:冷静に尻拭いすることに慣れてしまって。

城地:言ってろガキめ。

金森:言っておきますが、僕ももう、出会った頃の城地さんと同じ年になったんですよ。

城地:じゃあ合ってんじゃねえか。あんときの俺も、クソガキだった。
   ……ってーかなんだ、やけに絡むなァ? 飲みの誘いか?

金森:いえ、すみません。紹介したい部下が。

城地:珍しいな。もちろんいいぞ。

金森:……村澤君。ちょっと。

 <村澤は焦ったように駆け寄ってくる>

村澤:はいっ! 拓也さん!

金森:村澤君……。金森さんと呼ぶように言ったよね。

村澤:はい……? でも、プロジェクト中は――

金森:それはプロジェクト中の話です。
   いいですか。あれはチーム内のコミュニケーションを円滑に進めるために、一時的に行っていただけで……。
   僕と君は基本的に――何で笑ってるんですか……。

城地:(笑いを堪えている)いや……! 悪い……!

金森:(ため息)……なんですか。悪いですか……?

城地:いやいや違うんだって……! ちゃんとチームリーダーやってるみたいで安心したんだよ。

金森:……うちのチームの新人の村澤涼です。

村澤:村澤です。

城地:覚えてるよ。入社面接、俺担当したよな。

村澤:はい。

 <城地は村澤と握手をする>

城地:改めまして、俺は企画部長の城地晶だ。
   (笑って)晶さんとは呼ぶんじゃねえぞ。

金森:今回のCM制作にあたって、うちのチームから出したベストアイディアは彼が出したものなんです。

城地:なるほど。期待の新人ってわけだ。

村澤:はい。ありがとうございます。

城地:いいねぇ。謙遜しないってのは。
   自分がした仕事をしっかりわかってるな。

村澤:そうですね。僕がこの会社に入ったのは、年齢に関係なく、自分の発想を活かせると思ったからです。

城地:(吹き出す)おい、面接じゃねえんだから。
   ……村澤。確かに年齢は関係ないが、経験は何よりも重要だ。
   これからもチャレンジできる自信は。

村澤:あります。

城地:頼もしい答えだ。
   金森が俺に紹介したってことは、相当期待されてんぞ。
   ちなみに俺はまだ期待するか決めかねてる。
   自分は、プレッシャーを力に変えられると思うか?

村澤:……はい。期待していただきたいです。

城地:うし。じゃあ、期待してるぜ。

金森:次のプロジェクトでは、彼に色々とやってもらいます。

城地:わかった。村澤、時間をくれてありがとう。

村澤:いえ、そんな。

金森:……この後、城地さんは?

城地:ん? あー……わりぃけど、プロジェクトの間、あんまり帰れてないんでな。
   家族サービスしねえと。

金森:……そうですか。ありがとうございました。

城地:おう。深酒すんなよ。
   そんじゃあ、お疲れさん。

 <城地はコートを掴むと部屋を出ていく>

村澤:じゃあ、金森先輩。飲みに行きましょうか。

 間

村澤:……金森先輩?

金森:はい。行きましょう。


 ◆


 <個室居酒屋・金森と村澤>

村澤:――そういう意図で、あの時連絡したんですけど……。
   金森先輩は、どう思いますか?

 <金森は既にかなり酔っ払っている>

金森:……名前で呼んでもいいよ。

村澤:(微笑んで)さっき自分で言ったんじゃないすか。
   あれはプロジェクト中の約束だって。

金森:今はもう仕事中じゃないからね。
   ……それに、城地部長の前だったし……。

村澤:結構酔ってますね。拓也さん。

金森:別に……そんなに酔ってない。

村澤:(店員に)あ、すみません。お水いただけますか?

金森:だから、そんなに酔ってないって……。

村澤:言う人ほど酔ってるんですって。

 <村澤は机にひじをつくと、笑顔で金森を見つめる>

村澤:それとも……酔ってる理由は別にあります?

金森:……なんだって?

村澤:だから。僕に下の名前で呼ばせなかったのも、今こうして酔っ払ってるのも……。
   城地部長が居たから、じゃないんですか?

金森:晶さんは関係ない……!

村澤:うわ。晶さん、だって。

金森:……クソ……。飲みすぎたかも……。

村澤:ふふふ……。今日は一段と可愛いっすね。
   拓也さん。

金森:……もういい。もっと飲む。

村澤:あーこら……! 俺が悪かったですって……!

 <村澤は店員からグラスを受け取る>

村澤:ほら。拓也さん。お水、飲んでください。

金森:……わかった。

 <金森はグラスを煽る>

金森:はー……。情けない……。

村澤:それは、お酒に酔ってることですか?
   それとも――

金森:どっちもだよ……! もう簡便してくれ……。

村澤:お。ようやく口を割りましたね。

 <村澤はワインを飲む>

村澤:何で、俺を紹介したんですか?

金森:……え?

村澤:いえ。まあ確かに納得はしてますけど。
   実際、今回のプロジェクトではいい仕事をした自覚はありますし。
   ……でも、なーんとなく勘ぐっちゃうんですよ。
   昔の恋人を、嫉妬させたかったのかな? とかね。

金森:……僕と晶さんは――

 間

村澤:ん? なんです?

金森:き、気持ち悪い……!

村澤:あーもう! トイレ……! トイレ行きますよ!


 ◆


 <タクシーの中>

村澤:拓也さん。大丈夫ですか?

金森:……あ……涼……? あれ、今って……。

村澤:タクシーですよ。俺んち向かってます。

金森:そうか……。あ。会計……。すまない、今――

村澤:いいですって、そんなの今は。

金森:……迷惑かけて、すまない……。

村澤:少しはスッキリしました?

金森:正直に言うと……まだ朦朧としてる。

村澤:だと思いました。
   もうすぐ着きますから。

金森:……家の前に捨ててくれてもいいんだけど……。

村澤:何馬鹿言ってんですか。
   拓也さんち、タワマンじゃないっすか。
   俺んちなら、拓也さん運ぶのも楽なんで――
   (運転手に)あ、そこの角で止めてください。


 ◆


 <村澤宅・金森の肩を支える村澤>

村澤:ほら、拓也さん。
   着きましたよ。

金森:……うん。

村澤:ベッド、使っていいんで。
   楽にしておいてください。

金森:涼、何から何までごめん……。

村澤:いいんすよ。
   (耳元で)……身体で払ってくれたら。

金森:え……?

 間

金森:あ、いや……。それは――

村澤:ふふふ……。その反応が見れたらお釣りが来ますよ。
   じゃ、風呂用意してきますから。
   冷蔵庫のものとか、好きに飲んでいいんで。

 <村澤は洗面所に向かう>

金森:……やっちゃったな……。
   本当……僕……ダメだな……。

 <村澤はベッドに仰向けに倒れる>

金森:……誰かの部屋に来るの……久しぶりだ。


 ◇


 <過去の回想・8年前>
 <24歳の金森と32歳の城地>
 <城地の部屋>

城地:おい、拓也。

金森:……ん?

城地:お前起きろって! すげーいいとこだぞ!

金森:いいとこって……。

 <テレビでは、ホラー映画のクライマックスが流れている>

城地:これ! クライマックスなんだけどさ!

金森:晶さん……。
   僕、途中から見てないんですよ?
   最後だけ見ても面白くないですって……。

城地:んなことはどうでもいいんだって!
   予告編で出てたシーン、大体この辺を使ってんだ。

金森:ああ……確かに……。

城地:退屈なストーリーの映画だったろ?
   それこそ、お前が寝ちまうくらいな。

金森:……はい。

城地:それでもクライマックスシーンを繋ぎ合わせれば、それなりの予告編が作れるわけだ。
   この映画、予告編詐欺なんて言われてるが、逆を返せば切り取る箇所を見定めて、それを上手いこと繋ぎ合わせて。
   制作会社は、すげえいい仕事したってことに――

金森:(ため息)……やめましょうよ……。
   プライベートなんですから、仕事の目線で映画見るの……。

城地:げ……まあ、確かに。

 <城地は金森の隣に座り直す>

城地:何……? すねた?

金森:すねてません。

城地:悪かったって……。
   じゃあ、一緒にお昼寝するか?

金森:いいですって……今の今まで寝てましたし。

城地:そういう顔されると――

 <城地は金森に覆いかぶさる>

金森:ちょ……! 晶さん……!

城地:燃えてくるんだよなぁ、俺は。

金森:本当……! 強引なんですよ、いつも……!


 ◇


 <金森は目を覚ます>

金森:……あ……。

村澤:……ん。起きました?

金森:……そっか……僕……。

村澤:一時間くらい寝てましたよ。
   今、2時です。

金森:そっか……。
   涼……何から何まで――

村澤:いいですから。
   ほら、もし飲めそうだったら水飲んでください。
   あとは……スープとか買ってきました。

金森:……ありがとう。

 <金森はペットボトルの水を飲み干す>

金森:はぁ……。

村澤:どうです? 酔いは。
   少し冷めました?

金森:うん……。大分楽になった。

村澤:良かったです。

 間

金森:……あの、さ。

村澤:なんですか?

金森:晶さんのこととは……関係ないから。

村澤:えっと、何の話ですか……?

金森:だから……!
   僕は、本当に涼が優秀だから、晶さんに紹介したんだ……。
   これから大きな仕事を任せたいと思ってるし、だから――

村澤:(吹き出す)ぷっ……ふふふふふ……!
   わかった……わかりましたって……!
   っていうか、あんなに酔っ払ってたのに、覚えてたんですね。

金森:……覚えてる。それくらい。

村澤:別に、本気でそんなこと思ってるわけないじゃないですか。

金森:僕だって……一応伝えておこうと思っただけだよ。

村澤:本当、そういう真面目なところが可愛いんすよね。
   拓也さんは。

金森:そういうところが生意気なんだよ、君は……。
   僕が君くらいの頃は――

村澤:あ。昔の話しだしたら急におっさんっぽい。

金森:本当、生意気……。

村澤:っていうか……聞いてもいいですか?

金森:何?

 <村澤は缶ビールに手を伸ばす>

村澤:拓也さんと城地部長って、どういう出会いだったんですか。

金森:……何だよ、突然。

村澤:普通に気になってたんですよ。

金森:それは……。

村澤:あーあ。今日めちゃくちゃ面倒みたのになぁー。

金森:それは――謝っただろ……!?

村澤:中々言いづらいってのはわかってますよ。
   でも……随分前のことなんですよね?
   それとも――

 <村澤はビールを一口飲む>

村澤:まだ、引きずってるとか……?

金森:……いや、そんなことはない、けど……。

村澤:じゃあ、話してくださいよ。

 間

金森:……わかった。

 <金森はペットボトルを額に当てる>

金森:……晶さんと出会ったのは、入社してすぐのことだった。
   まだ、うちの会社は規模が小さくて、僕は初めての新規採用だった。


 ◆


 <過去の回想・10年前>
 <22歳の金森と30歳の城地>
 <会社のデスク>

城地:……あれ? 金森君?

金森:……え?

城地:何やってんの。こんな時間まで。

金森:あ……。いえ。
   今日、初めてクライアントとメールのやり取りをさせて頂いたんですけど……。
   内容が良くなかったと言われて……。

城地:はぁ? 誰に。

金森:いえ、それは……ちょっと……。

城地:(ため息)まあ、いいわ。それで、なんでこんな時間まで?

金森:過去のクライアントとのやり取りのメールをチェックしていたんです。

 <金森はメガネを上げる>

金森:僕のメールの何が良くないのか、わからなかったので。

城地:それで……わかった?

金森:はい。……確かに、僕は必要な情報だけの連絡だけしていて、事務的すぎたのかもしれません。
   そこは反省するべき点ではありますが……。
   ただ……! 「良くない」という言葉だけでくくられるのはやっぱり納得できません……。

城地:(笑いを堪える)……ああ、そう……!

金森:……もう二度と、あんな言い方はさせるつもりはありませんよ。

城地:そっかそっか。

 <城地は金森の肩を叩く>

城地:言われたこと気にしすぎちまってんのかと思ったが……。

金森:……僕、言われっぱなしは我慢ならないので。

城地:おう。それでいいよ。
   潰れない程度に、強気でいけ。
   うちはベンチャーだからな、既存の社員は自分のルールで動いてる節がある。
   簡単に言うとな、俺達は外から入ってきた新人には慣れてないんだ。
   納得がいかないことは、はっきり言っちまえ。
   もし面倒事になりそうなら、俺や社長に言え。
   間に入ってやるから。

金森:はい。

城地:……うっし、じゃあ飯でも行こうや。

金森:城地さんは仕事が残っているとかでは?

城地:ん? 違う違う。
   家帰るのダルくてさ。
   サウナ、行ってきたんだ。

金森:ダルいって……。

城地:実は最近、会社の仮眠室で寝泊まりしてんだ。
   ……あ、これ、内緒な? 前、社長に怒られたんだわ。

金森:い、いや……言わないですけど。

城地:ほれ、行くぞ。


 ◆


 <村澤の部屋>

村澤:ははは……! なんですか、それ……!
   なんていうか……今の金森さんからは想像つかないですね。

金森:何が?

村澤:上司の言い分が気に入らなくて――とか、そういう熱い感じ。
   いつも涼しい顔で何でもサッとこなしているイメージじゃないですか。

金森:こうやって呑んで潰れて、後輩に介抱されてるけどね……。

村澤:それはホラ、相手が俺だから……ですよね?

金森:それは、まあ……。

村澤:あ。やっぱりまだ酔ってる。
   いつもはそんな素直じゃないし。
   そういう面、他の社員にも見せたらもっと――

 間

金森:見せたら、何?

村澤:やっぱ今の無しで。
   考えてみたら、俺しか知らないってのは大事なんで。

金森:……あっそう。

村澤:それで? それからは?

金森:それから、僕は晶さんに事ある事に連れ回されるようになって……。
   それから……いや……まあ、何ていうか……。
   いつの間にかその……。

村澤:……何カマトトぶってんですか。
   城地部長とそういう関係になった――ですよね。

金森:うん……。でも、不思議とそれまでとは変わらないところもあったんだ。
   飲みに行ったり、休みの日は映画見たり、競馬に行ったり。

村澤:ふうん……。
   俺とは競馬行ったことありましたっけ?

金森:無いよ。別に、僕が好きなわけじゃなかったし。

村澤:……じゃあ、俺が行きたいって言ったら行ってくれます?

金森:いいけど……。そんなに賭けないからね。

村澤:(微笑んで)稼いでる癖に。

金森:まあ、涼よりはね。

村澤:うわー……! ハラスメントだ……!

金森:ふふふ……! でも、涼はきっと出世するよ。
   若い時の晶さんに似てる。

 間

金森:……涼? どうした?

村澤:あ。いえ。
   じゃあ! 良いっすか? ついに、聞いちゃって。

金森:これ以上何が聞きたいわけ……?

村澤:ズバリ。別れた時のことを。

金森:……ああ。そのこと……。
   ……別に聞いても面白くないと思うけど。

村澤:……知りたいんです。

金森:どうしてそんなに――

 <村澤は、真剣な顔で金森を見つめている>

金森:……涼。

村澤:知りたいんです。本気で。

金森:……わかった。


 ◆


 <過去の回想・7年前>
 <25歳の金森と33歳の城地>
 <城地の部屋>

城地:……おう。拓也、来てたのか。

金森:人のこと呼び出しておいて、電話しても全然起きないので……。
   こんな時間まで寝てるとは思いませんでしたけど。

城地:ああ、悪い……。

金森:そんなことだろうと思って、ご飯買ってきたんですけど。

城地:なあ、拓也。

金森:なんですか? ……うわ、冷蔵庫空じゃないですか。
   飲み物とか――

城地:拓也。

金森:はい?

 <城地は、じっと金森の顔を見つめている>

城地:俺、結婚するんだ。

 間

金森:決まったんですね。

城地:ああ……決まった。

金森:良かった――あ、じゃないのか。
   じゃあ、僕がここにいるのはアレですよね。
   すみません。すぐ、出ていきますから。

 <帰ろうとする金森の手を、城地が掴む>

城地:待てよ。

金森:……離してください。

城地:いいから。ちゃんと話そう。

金森:話すことなんてありません……!
   だから離してください!

城地:逃げないって言うまで離さねえ。

 間

金森:……わかり、ました……から……。
   逃げません……。

 <城地は金森の手をゆっくりと離す>

金森:お相手は……?

城地:……知ってんだろ。

金森:……はい。知ってて言いました。

 間

金森:すみません……本当……。
   わかってるんです、全部……。

 <金森はその場に座り込む>

金森:……僕が、言ったことですから。

城地:……拓也……。

金森:晶さんから縁談の話が上がったとき、その縁談を受けろって言ったの、僕じゃないですか……。
   晶さんがお相手を気に入ったって聞いた時も、こういう関係じゃなく、ただの上司と部下になりましょうって言ったのも、僕じゃないですか……!
   それから晶さんから距離を置いたのも……全部僕だったじゃないですか!
   なのに――

 <金森は顔を腕で覆う>

金森:なのに……! なんでこんなに胸が痛いんですか……!

城地:……拓也……。

金森:全部わかってたんです! 全部わかってるつもりになれてたんです……!
   でも……! 自分の気持ちすら、わかってませんでした……!

城地:……俺は――

金森:やめてくださいよ! 絶対……!
   今、僕に優しくなんてしないでください……!
   そうしたら……! この胸の痛みも! 僕らの楽しかった時間も!
   全部、意味がなくなってしまいますから!

 <金森はゆっくり立ち上がる>

金森:……晶さん。
   ……僕たちは、これから……どうすれば良いんですか。

城地:……お前……。

金森:ねえ、晶さん。
   いつだって、晶さんは強引で……王様で……僕の気持ちなんてお構いなしに引っ張ってくれる人です。
   その癖に不器用で、でもやっぱり……誰よりも優しい人なんです。

 <城地は頭を抱える>

城地:……マジかよ、お前……。
   ここでんなこと言うの、さすがにズルすぎんだろ……!

金森:(微笑んで)今までさんざん降り回したんですから……。
   自分のケツは自分で拭いてください。

城地:(深呼吸)……そっか。そうだよな。

 <城地は優しく微笑む>

城地:今日から、俺はお前を金森と呼ぶ。
   お前は俺を城地と呼べ。

金森:はい。

城地:お前とは変わらずいい友人であり、同僚だ。
   だが、俺はこれから家庭を持つ。
   今までみたいに頻繁には遊べなくなる。

金森:はい。

城地:こうやって部屋で二人で遊べんのも最後だ。

金森:(泣きながら)……はい。

城地:今まで、本当にありがとう。

 <城地は金森と握手をする>

城地:(泣きながら)ありがとうな……! 拓也……!

金森:だから……! 何で最後に名前……!
   呼んじゃうんですか……!

城地:悪い……! 俺、悪い男だったわ……!

金森:本当……! 最低ですよ……!
   最低で……! 本当に――


 ◆


 <村澤の部屋>
 <金森は涙を拭う>

金森:……ごめん。この話、誰かに話したの、初めてで……。
   自然と涙が――

 間

金森:涼……?

 <村澤は顔を伏せている>

金森:涼……どうしたの――

村澤:ふざけんなよ……。

 <村澤は、涙を流している>

村澤:ふざけんなよ……!
   何だよ……! それ……!

金森:涼……。

村澤:クソ……! クソ!
   だって、そんなの……!

 <村澤は項垂れる>

村澤:ちゃんと……! 愛してんじゃん……! それさぁ……!

金森:……涼。

村澤:……あー! マジで……!
   ちょっとの火遊びかと思ってたのに……!
   本当……! 馬鹿だ俺……。
   聞かなきゃ良かった……!

 <村澤は自分の手を見つめる>

村澤:今日ずっと……! 怖かったんだよ……。
   拓也さんの口から、あの人の名前が出るたびに、ずっと……。
   やっぱり気になって……聞き出してみたら……!
   まあ楽しそうに話すもんだから……!

金森:涼……。誤解しないで欲しいんだけど――

 <村澤は金森に覆いかぶさる>

金森:いっ……た……!

村澤:誤解って……、何を……?

金森:涼……!

村澤:俺……本当今、かなりキちゃってるんで……。
   マジで、拓也さんのこと、むちゃくちゃにしちゃいますよ。

金森:(微笑んで)……涼。
   僕がまだ、城地さんのこと愛してるって思ってる?

村澤:思ってますよ……。
   今日だってずっと様子おかしいし……。
   変に深酒するし……!
   口を開けば晶さん晶さんって……!
   さっきなんて……! 俺が若い時の城地部長に似てるって……!
   俺があの人に似てるから俺と――

 <金森は村澤にキスをする>

村澤:な、んで、今、キスのタイミングじゃないでしょ……!

金森:……いや。嬉しくなっちゃって。

村澤:はぁ!? いや、何が――

金森:僕はね。逆だったんだよ。
   ……今日、晶さんに涼を紹介してから、涼は晶さんのことばっかり聞くから。

村澤:……は?

金森:正直、晶さんに興味を持ってるんじゃないかってすごく不安だった。
   昔の関係を知ってて気にせず聞いてくるし……僕とのこと、カジュアルな関係だと思ってるんじゃないかって。
   すごく、嫌だったんだよ。
   だから、嫉妬してくれてるってわかって、すごく嬉しい。

村澤:……だって、さっきの話……。

金森:言ったろ? 昔の話だって。

 <金森は村澤の頬に手を当てる>

金森:……あの時は確かに、僕は城地さんのことを愛してたと思う。
   城地さんはね、ご家族が居なかったから。家庭を持ちたいってずっと言ってたんだ。
   僕じゃ、その夢を叶えて上げられないから、身を引こうって思った。
   献身的な愛の形ってやつだよ。

村澤:……やめてよ。その話、すごい効く……。

金森:自分が知りたいって言ったくせに。
   ……あの時は、僕は部下だった。
   だけど、今は違う。僕はね……。

 <金森は村澤の耳元に口を寄せる>

金森:僕は君の上司だ。
   だから、もう僕の愛するものは手放さない。

村澤:……嘘、今――

金森:うん。愛してるよ、涼。

村澤:じゃあ、いいんだよね……?

金森:何が?

村澤:(耳元で)むちゃくちゃにしても、いいんだよねって言ってんの。

金森:生意気な部下を持っちゃったな。

村澤:部下じゃなくて恋人。あと、もう晶さん禁止ね。

金森:わかったよ。僕の恋人さん……。


 ◆


 <数週間後・会社>

城地:よう。金森。

金森:城地部長。出張、お疲れ様です。

城地:おう。ちなみにマジで疲れた。
   宴会に接待に宴会に……。

金森:得意分野じゃないですか。

城地:あのなァ……ただ飲みに行くのとはちげーんだよ。
   早く出世してお前が代わりに――あ?

 <城地は金森の右手の薬指に指輪がはまっているのを見る>

城地:随分と綺麗な指輪じゃねえか。
   アクセサリーなんてつけてんの初めてみたぜ。

金森:はい。綺麗でしょう?

城地:ああ。似合ってるんじゃねえか。

 <二人の間に村澤が割り込む>

城地:うお。

村澤:おーっと。すみません、書類が重くて。

城地:一気に運ぼうとするからだろ……。
   半分持ってやる――

村澤:いいえ! 結構です。

城地:……あれ? 金森……村澤ってこんな感じだったっけ?

金森:(微笑んで)ええ、生意気盛りなんです。

城地:(ため息)……お前なぁ……。そんなところは似なくていいだろ……。

村澤:城地部長……!

城地:はいはい……。なんですか?

村澤:俺、負けませんから!

城地:そりゃいいけど……。
   俺がお前くらいの時は、もっと仕事できたよ。

村澤:……え?

金森:まあ、僕も当時を知っているわけじゃないですけど……。
   嘘ではないでしょうね。

城地:お仕事、頑張ってねー。

村澤:くっ……! 言われなくても頑張ります!

城地:期待してんぞ。

 <城地は去り際に一言呟く>

城地:……あ。お前ら、指輪はいいけど、社内でイチャつくなよ?

金森:ご心配なく。

村澤:……クソ。なんだかんだ、壁が高い気がする。
   なんであんな余裕あるんすか……!

金森:ほらほら、お仕事、頑張ってねー。

村澤:うわ、それムカつく!



 了



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