魔王が死んじゃった
作者:ススキドミノ
勇者オルタ:ユーミシア王国の勇者。
死眼のゼド:知的な魔王軍幹部。
色嬢のユダン:淫靡な魔王軍幹部。
豪鬼のギダ―ル:豪傑な魔王軍幹部。
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
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オルタN:魔王グランデシアを倒す。
それは僕の使命。
それを成し遂げることが、この辛く苦しい、死を纏った旅の終点だと思っていた。
ギダ―ル:嘘だろおおおお! 早く! 早くなんとかしろお!
ユダン:うるさいわね喚かないで! こういうときは人工呼吸よ!
ゼド:馬鹿者ォ! 魔王様に肺などという脆弱な器官が存在するかァ!
こういうときは電気ショックだッ!
オルタN:魔王は強かった――それも、とんでもなく強かった。
僕は、魔王からの攻撃をあと一撃でも受けていたら、死んでいたに違いない。
だが……どうだろうか。
ギダ―ル:よおおし! 電気ショックなら吾輩の雷(ライ)ヅチでえ!
ユダン:やめなさいお馬鹿! 止めを刺すつもりなの!?
ゼド:一か八かだ! いけィ! ギダ―ル!
オルタN:信じがたいことに……魔王は死んだ。
それも――部下である魔王軍幹部のせいで、死んじゃったのだ。
◆
<数分後・魔王の間>
ゼド:……えー。
ユダン:何よ……。
ギダ―ル:……吾輩は、知らん。
ゼド:目を反らすな。この事実を冷静に受け止めるのだ。
ユダン:あんただって直視してないじゃないの。
ギダ―ル:あー、吾輩眠くなってきた。冬眠しちゃおっかなー。
ゼド:ずるいぞ! 絶対に寝かさないからな!
ユダン:そうよ! 寝かせるわけがないじゃない!
寝ようもんなら、隣で魔界オペラを大音量で掛けてやるわ!
ゼド:私の骸骨達も横で踊らせてやる!
年末の地獄隠し芸のためにとっておいたとっておきだ!
ギダ―ル:やかましい! 貴様の配下なぞ寝返りで殺し尽くしてくれるわ!
オルタ:……あの。
ユダン・ゼド・ギダ―ル:何だ!!!
オルタ:だから……どうするの?
ゼド:どうする……とは?
オルタ:いや……魔王、死んじゃったんだよね。
間
オルタ:ほら、僕……勇者だから。一応。
ゼド:……まあ、一応な。
ユダン:一応……そうね。
ギダ―ル:そういう説もあるな……。
オルタ:いや……一応っていうのは、僕が勇者なのかどうかが一応ってわけじゃなくて。
僕は間違いなく勇者なんだけど、今この場所に普通にいるのがどうなのかって意味で、『一応』って言ったんだけど――
ゼド:そもそもだ!
オルタ:……なんですか。
ゼド:そもそも! 魔王様が果たして本当に崩御なされたのか、ということだ。
ユダン:そ、そうよ! 死んでないかもしれないわ!
心臓マッサージと人工呼吸を――
オルタ:だから! それ、さっきからもうやってたでしょ!?
ギダ―ル:では吾輩の雷ヅチで――
オルタ:それもやったし!
<オルタはボロボロで倒れている魔王を指差す>
オルタ:いや……。
――ボロボロすぎるでしょ!? 死んでるって、アレ!
間
ゼド:……仮にだ!
オルタ:は?
ゼド:仮に魔王様がご崩御されてしまっていたとしてだ!
オルタ:仮じゃなくて死んでるけどね。
ゼド:この後どうするか! それこそが残された私達魔王幹部の使命なのではないか!?
ユダン:そう……そのとおりよ……! そのとおりだわゼド!
ギダ―ル:吾輩も目が覚めたぞ! それこそが我らのなすべきこと!
オルタ:ずっとそういってるんだけどね……!
間
ユダン:……さっきからそこで喚いてるけど……。
オルタ:は? 僕?
ユダン:あなたは人間国――ユーミシア国の勇者。
そんなあなたの使命は魔王様を討伐することにあった。
ギダ―ル:おう。つまりはどういうことだ?
ユダン:つまり! あなたは魔王様を倒さなければならなかったということよ!
オルタ:うん……まあ、そうだけど。
ゼド:なるほど、つまり今貴様は勇んでやってきたものの、肩透かしを食らっている哀れな道化ということだな。
オルタ:いや……まあ、死んでくれる分にはそれでいいんだけどね。
ギダ―ル:だがしかし! お前も今のままでは母国へ帰れまい?
ユダン:(兵士に扮して)「勇者だ! 勇者が帰ってきたぞ!」
ゼド:(王に扮して)「うむ……勇者よ! して、魔王討伐は成せたのだな?」
ギダ―ル:(勇者に扮して)「あ、いや。倒してないっす」
ゼド:(王に扮して)「は?」
ユダン:(兵士に扮して)「ど、どういうことだよー!」
ギダ―ル:(勇者に扮して)「い、いやぁ、勝手に死んじゃったっていうかー」
ゼド・ユダン:ズコーーー!
オルタ:うん、君たち劇団員かなんか?
ユダン:つまり! あんたも他人事ではないわ。
オルタ:(ため息)何がだよ……。
ユダン:魔王様亡き今! 私達には共通する目的があるのよ!
ギダ―ル:そいつはなんだ!
ユダン:それは――
ゼド:それは……?
オルタ:……ああ。次の魔王を決めるってこと?
間
ユダン:……それ!
ゼド:なるほど! 一理ある。
ギダ―ル:魔王様が居ないとなると、次の魔王は我ら三人以外からは選べまい。
オルタ:それでどうやって決めるの?
ユダン:それはもちろん――
ゼド:魔界は弱肉強食――
ギダ―ル:強いものこそ長に相応しい!
<三人は腕を回しながら睨み合う>
ユダン:ケケケ……勝てると思ってるのかしらぁ?
ゼド:貴様ら……死よりも恐ろしい恐怖を見せてやる。
ギダ―ル:グハハ! 吠えるな……すぐに吾輩が食いちぎってやる――
オルタ:(欠伸をする)……つまり、戦って決めるの?
……僕はいいけど。残ったやつは弱ってるだろうし、さっくり倒して帰るからさ。
間
ゼド:(ヒソヒソ)……確かに。我々が潰しあってはまずいのでは……?
ユダン:(ヒソヒソ)そうね……実際私達が戦ったら泥沼になるだろうし……。
ギダ―ル:(ヒソヒソ)魔王になってもすぐ倒されては意味がないではないか……!
間
ゼド:(咳払い)……いつもなら戦いになるが。
ユダン:なるわよね。いつもならね。
ギダ―ル:リスナーにもわかりやすいように説明できたな。
オルタ:え? 戦わないの?
ゼド:は? 何いってんの?
ユダン:野蛮だわー人間野蛮だわー。
ギダ―ル:戦うとか古くなーい? 五千年前のゼグドロの戦いときのジルバード族かよー。
オルタ:魔族特有の例えやめて?
……え? で、どうするの?
ギダ―ル:我々魔族は知的民族なのであーる!
ユダン:そうね……ならばこれで決めるしかないわ!
ゼド:魔族かいぎ〜!
ユダン・ギダ―ル:ドンドンパフパフ〜!
オルタ:魔族会議……?
ゼド:魔族会議とは! 知的民族たる魔族が、何かを決めるときに行われる神聖なる会議である!
ユダン:その場にいる知的民族、魔族達が各々に意見をかわし、そして民主主義的に物事を決定する!
ギダ―ル:全員でだな! 全員で、手を挙げるんだ!
これが民主主義ってやつだ!
オルタ:魔族が民主主義って――まあいいや……。
……っていうか、魔王が死んじゃったわけだよね。
だとしたら、やっぱり魔王を殺したのは誰かってことになるんじゃない?
ゼド:それは……つまり?
オルタ:だから……。僕は倒してないんだから、魔王にトドメを刺した人間がいるわけだよ。
例えば、魔族がどうなのかはわからないけど……君たちが魔王に忠誠を誓っているとしたら、
その魔王を殺した魔族っていうのは、裏切り者になるわけだよね。
だとしたらそいつは、魔王候補から外れるんじゃないの?
裏切り者なわけだしさ。
ユダン:確かに……魔王様を殺したわけだし。
ギダ―ル:うむ……魔族の面汚しであるな。
間
ゼド:(手を上げて)はい、先生。
オルタ:いや、勇者だけど……。
はい。えっと……死眼(デッドアイ)のゼドだっけ。
ゼド:えっとぉ、確か私の記憶によるとぉ、ギダ―ル君の攻撃がぁ、最後に飛んでいったと思いまーす。
ギダ―ル:はぁ!? 吾輩は勇者に向けて撃ったぞ!
それを言うならユダンの魔術が魔王様に飛んでいったのを見たぞ!
ユダン:この脳筋……。あのねえ! 私が撃ったのは魔王様への支援魔法よ!
バフなの! バフ!
それをいうならゼドの操った死霊が暴れてたじゃない!?
ゼド:私の部下は魔王様を攻撃などせぬわ!
オルタ:ちょっと待った!
……さっきの今でこんなこというのもなんだけどね。
魔族って基本的に弱肉強食なんだよね?
ユダン:そうよ? だから何?
オルタ:さっきの理論で行くのもありだけどさ……。
魔族が弱肉強食だったとしたら、魔王を倒した魔族こそが真の魔王って考え方でもありなのかなって。
ゼド:つまり……。
ユダン:どういうこと……。
ギダ―ル:なのだ……?
オルタ:だから……今こうやって魔王を殺した事実を押し付けあってるけど、
魔王を殺すくらい強い魔族が、魔王になるのもありなんじゃないかって――
ゼド:魔王様を殺したのは私だ!
ユダン:あーら! さっき言ったのは間違いよ! 私が魔王様に致死量のデバフをかけたの!
ギダ―ル:致死量のデバフとはなんだ! 最初から言っているであろう! 魔王様を殺したのは吾輩だ!
ゼド:いいや! 私が殺したのだ! 死霊を使ってこう、もう、内蔵をこう! 引きずり出してだな!
ユダン:んなわけないでしょ!? 内部からぶっ壊してやったのよ! 私の魔法で精神崩壊してパーンと!
ギダ―ル:嘘を言うな! 吾輩がパワーで! 力いっぱいのパワーで土に還して――
オルタ:あー……魔族って、お馬鹿なんだなぁ……。
オルタN:お馬鹿共のバ会議は、三日三晩続いた。
その結果、僕が新しい魔王になるとかならないとか――それはまた別の話である。
はぁ……。
完
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