マシーン阿良川
作者:domino


篠(しの):女性
相馬(そうま):男性






−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−













 <公園>

相馬:おっす。

篠:おう。

 間

相馬:久しぶりじゃん。

篠:……おう。

相馬:いやはや、ビックリしたわー。

篠:そりゃ、そうでしょ。

相馬:そりゃ、そうですがね。

 <相馬、篠の隣に座る>

相馬:駅前、変わってたね。

篠:そうね。
  ……つか、仕事は?

相馬:休みましたよ、そりゃ。
   にしても、久しぶりに帰ってきましたわー。

篠:相馬は付き合い悪すぎ。

相馬:そういう篠は帰ってきてんの?

篠:いや……いっておいて、私も1年振りだけど。

相馬:ほれみろ。

篠:はいはい。
  ……そういやさ、なくなったんだって。商店街の駄菓子屋。

相馬:え……? ラビィ? 本当に!?

篠:(笑いながら)ホントホント。
  それがさ、店主のおじさんがさ、突然「もうやめる!!」って。

相馬:(笑う)それでやめたっての!?

篠:そうそう! その日の午後にはもう閉めちゃったんだってさ!

相馬:うわー。本当に。あー、そうなの。

篠:らしいよ。私も聞いただけだけど。

相馬:でも、正直今ちょっと、ゾッとしたわ。

篠:は? なんで?

相馬:だってさ、俺たちが産まれたころからやっててさ。
   何十年? と、こう、やってきたわけでしょ。

篠:確かに。何十年、毎日毎日ね。

相馬:それがある日突然、ドーン。
   ……人間どう転ぶかわかったもんじゃないね。

篠:どう転ぶか、ね。

 間

相馬:そんで、会ってたの? あれ以来。

篠:……阿良川(あらかわ)? いや、全然。
  松田とは何度か。

相馬:松田かぁ。あいつもずっと地元だっけ。

篠:働かないでパチンコばっかやってるみたいだけど。

相馬:マジかよ。ま、意外じゃないけどな。

篠:それで、あんたは?

相馬:いや、全然。お前も言った通り、俺も付き合い悪いからさ。

篠:仕事忙しいんならしょうがないでしょ。

相馬:それがそうでもないから質が悪いんだなぁ、俺の場合。
   こっち帰ってもやることないし、どうしてもね。

篠:自分でいってちゃ世話ないって。
  友達なくすよ?

相馬:(笑って)もとからそんなもんだったって思うしかないわ。

篠:そういうとこは一周して尊敬に値する。

相馬:ってか、他のやつらは?

篠:さぁ。開始からいたのは私と、村本、赤津さんくらい?

相馬:そっか。
   ……ま、突然だったしな。

篠:突然だよ。こういうのは。

相馬:確かに。いつ死ぬか、なんて誰にもわかんないし。
   あー、でも……阿良川にはわかってたのか。

篠:それだって、きっと突然だよ。
  それこそ、ラビィのおじさんみたいに。

相馬:どうかね。俺にはわかんないわ。
   自殺する人の気持ちなんて。
   周りの人はなんて言ってた? 職場の人とか、いたんだろ?

篠:仕事、仕事、仕事の仕事人間。
  職場の人はみんな、マシーン阿良川って呼んでたみたい。

相馬:何それ、ちょっと趣味悪いな。

篠:悪口とかじゃないくてさ。
  みんな、すごい慕ってたって。
  阿良川が有給勝ち取ってくれたーとか、いろいろ言ってたし。

相馬:……へえ。

篠:「じゃあなんで」とか考えてるでしょ。

相馬:……突然なんだろ。こういうのは。

 間

相馬:そういやさ。ご家族の方がーー(ポケットを漁る)

篠:何?

相馬:……これ、お前にって。

 <相馬、黒いメモリーを取り出す>

篠:なにこれ。

相馬:阿良川のメモリー。二つの意味で。

篠:メモリー?

相馬:阿良川の個人的なものが入ってるパソコンのメモリー。
   つまり、この中には、阿良川の思い出が詰まってるってわけ。

篠:だからそれでなんで、私に渡すわけ?

相馬:さあね、でも、お前宛なんだってさ。

篠:(メモリーを受け取る)いや、そういわれても……。

相馬:お前のこと、好きだったとか。

篠:はぁ? ないっしょ。

相馬:そんなのわかんないだろ。

篠:だって、ほとんど話したことないし。

相馬:話したことないと、好きにならないわけ。それこそよくわかんないけど。

篠:でも……なんで私に。



篠:(ため息)見てみるかぁ。

相馬:お。

篠:一緒に見てよ。

相馬:いやいや。プライバシーは尊重したい。

篠:いいから。
   ……勇気、ないから。お願い。

相馬:(ため息)わかった。

 <篠、ノートパソコンを取り出す>

相馬:あれ……そのパソコン、新型じゃね? お前金あんのな。

篠:会社の支給品。えーっと……?(キーボードを叩く)

 <メモリーの中にはテキストファイルが一つ入っている>

篠:何これ。

相馬:テキストファイル、だな。

篠:タイトル。『篠ひとみさんへ』本当に私宛て……。

相馬:だな……。

篠:なんか……ビビる。

相馬:こんだけ容量あるのに、このファイル一つだけ……。

 間

篠:よし……見てみる。

相馬:マジ?

篠:当たり前でしょ! ……気になるもん……(ファイルを開く)

 間

篠:……どういう意味だと思う?

相馬:どうもこうも……そういうことだろ。

篠:「ありがとう」

相馬:「ありがとう」か。

篠:どういう、意味かな。

相馬:今までありがとう、みたいなことだろ。

篠:……意味わかんない。

相馬:そういうなよ。

篠:だってそうじゃん。

相馬:それでも。いってやるなよ。

 間

相馬:……なあ。阿良川って、どんなやつ。

篠:え?

相馬:ほら、話すもんだろ。こういうときは。

 間

篠:……無口。

相馬:わかるわ、それ。

篠:一年の時は別だったから知らなかったけど、2年のクラス替えの時、教室で初めて話しかけられた。
  っていっても一言だけだけどさ。「クラス、同じだね」って。

相馬:へえ。

篠:そのとき、結構声低いんだーって、思った。

相馬:めちゃくちゃ意識してるじゃん。マシーン阿良川。

篠:そう?

相馬:そうだよ。思春期の男からしたら、相当な事件よ。それ。

篠:……それで、相馬は?

相馬:ん? 俺は一年の時同じクラスだったし、たまに話してたからなぁ。
   なんか、空母とか、戦艦とか好きだーみたいな。そういう話はしたかな。

篠:そうなんだ。ちょっと、ぽいね。

相馬:そうそう。ぽいんだよ。
   でも絶対学校ではそういう本とかは読んでなかったから。意外と気にしてたのかもな。

篠:確かにね。イジられるとか、考えてたのかな。

相馬:かもな。

 間

相馬:……あ。

篠:ん?

相馬:そういやさ。俺、見たことあったわ。

篠:何を?

相馬:阿良川が、笑ったの。

篠:嘘、いつ?

相馬:うわー! 思い出してきた!
   体育の授業中にさ。急にだぜ?
   阿良川が、仲山にボールぶつけたんだよ。

篠:うっそ。それってわざと?

相馬:多分な。だってさ、その後、笑ったんだよ。

篠:え?

相馬:すげえ不敵な笑みでさ。
   それで仲山がキレて、ちょっと揉めて。
   ありゃ驚いたな。仲山もちょっとビビってたし。

 間

相馬:……篠? どうした?

篠:いつだった? それ。

相馬:いつ? いや……あんま覚えてないけど。

篠:そういや私、付き合ってたんだよね。1年から、2年の2学期まで。
  仲山とさ。

相馬:あ。そういえば……。

 間

篠:(立ち上がって)思い出した!

相馬:うわっ! 何だよ……!

篠:泣いてたの! 私! 仲山に酷いフラれ方して。
  それで、放課後に教室で……泣いてて。

相馬:それで?

篠:阿良川が、見てた。

相馬:……見てた?

篠:うん。教室の入り口に立っててさ。こっちをじっと見てるの。
  それで私、「何か用?」っていって。阿良川は「大丈夫?」って……。

相馬:ほうほう! それで?

篠:私、阿良川に「あんたには関係ないから、見るな」……って。

相馬:うわ、きっつ。

篠:しょうがないじゃん……そんときはヘコんでたし……。
  阿良川のこともよく知らないしさ。

相馬:まあ、な。
   それで阿良川は?

篠:わかんない。私、そのまま帰った気がするし……。
  でも、しばらくいたような気もするし……あんま覚えてないかも。

相馬:しっかし……なるほどな、それでか。

篠:それで?

相馬:阿良川は、ムカついたんだよ。お前を泣かせた、仲山に。

篠:……なのかな。

相馬:でもなきゃ、仲山に絡むかよ。一応あいつ、1組のドンだぜ?

篠:そんな大したやつでもなかったけどね……。

相馬:それは今だから言えるんだよ。
   間違いなく仲山は当時、スクールカーストの頂点にいた。
   比べて、阿良川はそれこそ最下層。
   もちろん本人の性格もあるだろうし、上にいりゃいいってわけじゃないと思うし。
   少なくとも阿良川は目だとうとはしなかったと思う。
   でも、そんな阿良川を動かしたのがーーお前の涙ってわけ。

篠:そんな、大げさな。

相馬:大げさなもんかよ!
   だって、少なくとも阿良川は知ってたってことだろ?
   お前が仲山と付き合ってたこと。
   そんで、お前が泣いてた理由は仲山にあったってことをさ。

篠:……かもね。

相馬:俺、考えすぎ?
   っていうか、勝手だな。こんな話。

篠:本当だ……だって、阿良川のこと、ほとんど知らないまんまだしね、私たち。

 間

篠:「ありがとう」か。

相馬:なんの「ありがとう」なのかね。

篠:……これだけ、なんだよね。ファイル。

相馬:ああ。これだけだ。
   マシーン阿良川のメモリーには、これだけ。

 間

篠:許されないのかな。阿良川は。

相馬:許されるとか、許されないとか、そういうことじゃないと思うけど。
   ーーでも、自分にボールぶつけるべきだとは思うね。

篠:は? どうして。

相馬:今度は自分が篠を泣かしてんだからさ。

篠:……泣いてないし。

相馬:(笑って)俺はいまにも泣きそうだけどね。

篠:はい。それ、嘘。

相馬:堪えてんだよ! わかんねえやつだな……。

篠:そりゃそうか。
  だってさーー

 間

篠:阿良川は、いたんだもん。
  悲しくて、当然だ。

相馬:当然だ。

篠:当然、だぁ。

相馬:そうだな。マジで。死ぬこたねえよ。

篠:ほんとだよ。

相馬:ほんとだよ。

篠:全然、マシーンじゃ、ないじゃん。

相馬:だな。すげえ的外れなあだ名。

 間

篠:あーあ、ありがとうじゃないっての。
















−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
台本一覧

inserted by FC2 system