マシーン阿良川
作者:ススキドミノ
篠(しの):女性
相馬(そうま):男性
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
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<公園>
相馬:おっす。
篠:おう。
間
相馬:久しぶりじゃん。
篠:……おう。
相馬:いやはや、ビックリしたわー。
篠:そりゃ、そうでしょ。
相馬:そりゃ、そうですがね。
<相馬、篠の隣に座る>
相馬:駅前、変わってたね。
篠:そうね。
……つか、仕事は?
相馬:休みましたよ、そりゃ。
にしても、久しぶりに帰ってきましたわー。
篠:相馬は付き合い悪すぎ。
相馬:そういう篠は帰ってきてんの?
篠:いや……いっておいて、私も1年振りだけど。
相馬:ほれみろ。
篠:はいはい。
……そういやさ、なくなったんだって。商店街の駄菓子屋。
相馬:え……? ラビィ? 本当に!?
篠:(笑いながら)ホントホント。
それがさ、店主のおじさんがさ、突然「もうやめる!!」って。
相馬:(笑う)それでやめたっての!?
篠:そうそう! その日の午後にはもう閉めちゃったんだってさ!
相馬:うわー。本当に。あー、そうなの。
篠:らしいよ。私も聞いただけだけど。
相馬:でも、正直今ちょっと、ゾッとしたわ。
篠:は? なんで?
相馬:だってさ、俺たちが産まれたころからやっててさ。
何十年? と、こう、やってきたわけでしょ。
篠:確かに。何十年、毎日毎日ね。
相馬:それがある日突然、ドーン。
……人間どう転ぶかわかったもんじゃないね。
篠:どう転ぶか、ね。
間
相馬:そんで、会ってたの? あれ以来。
篠:……阿良川(あらかわ)? いや、全然。
松田とは何度か。
相馬:松田かぁ。あいつもずっと地元だっけ。
篠:働かないでパチンコばっかやってるみたいだけど。
相馬:マジかよ。ま、意外じゃないけどな。
篠:それで、あんたは?
相馬:いや、全然。お前も言った通り、俺も付き合い悪いからさ。
篠:仕事忙しいんならしょうがないでしょ。
相馬:それがそうでもないから質が悪いんだなぁ、俺の場合。
こっち帰ってもやることないし、どうしてもね。
篠:自分でいってちゃ世話ないって。
友達なくすよ?
相馬:(笑って)もとからそんなもんだったって思うしかないわ。
篠:そういうとこは一周して尊敬に値する。
相馬:ってか、他のやつらは?
篠:さぁ。開始からいたのは私と、村本、赤津さんくらい?
相馬:そっか。
……ま、突然だったしな。
篠:突然だよ。こういうのは。
相馬:確かに。いつ死ぬか、なんて誰にもわかんないし。
あー、でも……阿良川にはわかってたのか。
篠:それだって、きっと突然だよ。
それこそ、ラビィのおじさんみたいに。
相馬:どうかね。俺にはわかんないわ。
自殺する人の気持ちなんて。
周りの人はなんて言ってた? 職場の人とか、いたんだろ?
篠:仕事、仕事、仕事の仕事人間。
職場の人はみんな、マシーン阿良川って呼んでたみたい。
相馬:何それ、ちょっと趣味悪いな。
篠:悪口とかじゃないくてさ。
みんな、すごい慕ってたって。
阿良川が有給勝ち取ってくれたーとか、いろいろ言ってたし。
相馬:……へえ。
篠:「じゃあなんで」とか考えてるでしょ。
相馬:……突然なんだろ。こういうのは。
間
相馬:そういやさ。ご家族の方がーー(ポケットを漁る)
篠:何?
相馬:……これ、お前にって。
<相馬、黒いメモリーを取り出す>
篠:なにこれ。
相馬:阿良川のメモリー。二つの意味で。
篠:メモリー?
相馬:阿良川の個人的なものが入ってるパソコンのメモリー。
つまり、この中には、阿良川の思い出が詰まってるってわけ。
篠:だからそれでなんで、私に渡すわけ?
相馬:さあね、でも、お前宛なんだってさ。
篠:(メモリーを受け取る)いや、そういわれても……。
相馬:お前のこと、好きだったとか。
篠:はぁ? ないっしょ。
相馬:そんなのわかんないだろ。
篠:だって、ほとんど話したことないし。
相馬:話したことないと、好きにならないわけ。それこそよくわかんないけど。
篠:でも……なんで私に。
間
篠:(ため息)見てみるかぁ。
相馬:お。
篠:一緒に見てよ。
相馬:いやいや。プライバシーは尊重したい。
篠:いいから。
……勇気、ないから。お願い。
相馬:(ため息)わかった。
<篠、ノートパソコンを取り出す>
相馬:あれ……そのパソコン、新型じゃね? お前金あんのな。
篠:会社の支給品。えーっと……?(キーボードを叩く)
<メモリーの中にはテキストファイルが一つ入っている>
篠:何これ。
相馬:テキストファイル、だな。
篠:タイトル。『篠ひとみさんへ』本当に私宛て……。
相馬:だな……。
篠:なんか……ビビる。
相馬:こんだけ容量あるのに、このファイル一つだけ……。
間
篠:よし……見てみる。
相馬:マジ?
篠:当たり前でしょ! ……気になるもん……(ファイルを開く)
間
篠:……どういう意味だと思う?
相馬:どうもこうも……そういうことだろ。
篠:「ありがとう」
相馬:「ありがとう」か。
篠:どういう、意味かな。
相馬:今までありがとう、みたいなことだろ。
篠:……意味わかんない。
相馬:そういうなよ。
篠:だってそうじゃん。
相馬:それでも。いってやるなよ。
間
相馬:……なあ。阿良川って、どんなやつ。
篠:え?
相馬:ほら、話すもんだろ。こういうときは。
間
篠:……無口。
相馬:わかるわ、それ。
篠:一年の時は別だったから知らなかったけど、2年のクラス替えの時、教室で初めて話しかけられた。
っていっても一言だけだけどさ。「クラス、同じだね」って。
相馬:へえ。
篠:そのとき、結構声低いんだーって、思った。
相馬:めちゃくちゃ意識してるじゃん。マシーン阿良川。
篠:そう?
相馬:そうだよ。思春期の男からしたら、相当な事件よ。それ。
篠:……それで、相馬は?
相馬:ん? 俺は一年の時同じクラスだったし、たまに話してたからなぁ。
なんか、空母とか、戦艦とか好きだーみたいな。そういう話はしたかな。
篠:そうなんだ。ちょっと、ぽいね。
相馬:そうそう。ぽいんだよ。
でも絶対学校ではそういう本とかは読んでなかったから。意外と気にしてたのかもな。
篠:確かにね。イジられるとか、考えてたのかな。
相馬:かもな。
間
相馬:……あ。
篠:ん?
相馬:そういやさ。俺、見たことあったわ。
篠:何を?
相馬:阿良川が、笑ったの。
篠:嘘、いつ?
相馬:うわー! 思い出してきた!
体育の授業中にさ。急にだぜ?
阿良川が、仲山にボールぶつけたんだよ。
篠:うっそ。それってわざと?
相馬:多分な。だってさ、その後、笑ったんだよ。
篠:え?
相馬:すげえ不敵な笑みでさ。
それで仲山がキレて、ちょっと揉めて。
ありゃ驚いたな。仲山もちょっとビビってたし。
間
相馬:……篠? どうした?
篠:いつだった? それ。
相馬:いつ? いや……あんま覚えてないけど。
篠:そういや私、付き合ってたんだよね。1年から、2年の2学期まで。
仲山とさ。
相馬:あ。そういえば……。
間
篠:(立ち上がって)思い出した!
相馬:うわっ! 何だよ……!
篠:泣いてたの! 私! 仲山に酷いフラれ方して。
それで、放課後に教室で……泣いてて。
相馬:それで?
篠:阿良川が、見てた。
相馬:……見てた?
篠:うん。教室の入り口に立っててさ。こっちをじっと見てるの。
それで私、「何か用?」っていって。阿良川は「大丈夫?」って……。
相馬:ほうほう! それで?
篠:私、阿良川に「あんたには関係ないから、見るな」……って。
相馬:うわ、きっつ。
篠:しょうがないじゃん……そんときはヘコんでたし……。
阿良川のこともよく知らないしさ。
相馬:まあ、な。
それで阿良川は?
篠:わかんない。私、そのまま帰った気がするし……。
でも、しばらくいたような気もするし……あんま覚えてないかも。
相馬:しっかし……なるほどな、それでか。
篠:それで?
相馬:阿良川は、ムカついたんだよ。お前を泣かせた、仲山に。
篠:……なのかな。
相馬:でもなきゃ、仲山に絡むかよ。一応あいつ、1組のドンだぜ?
篠:そんな大したやつでもなかったけどね……。
相馬:それは今だから言えるんだよ。
間違いなく仲山は当時、スクールカーストの頂点にいた。
比べて、阿良川はそれこそ最下層。
もちろん本人の性格もあるだろうし、上にいりゃいいってわけじゃないと思うし。
少なくとも阿良川は目だとうとはしなかったと思う。
でも、そんな阿良川を動かしたのがーーお前の涙ってわけ。
篠:そんな、大げさな。
相馬:大げさなもんかよ!
だって、少なくとも阿良川は知ってたってことだろ?
お前が仲山と付き合ってたこと。
そんで、お前が泣いてた理由は仲山にあったってことをさ。
篠:……かもね。
相馬:俺、考えすぎ?
っていうか、勝手だな。こんな話。
篠:本当だ……だって、阿良川のこと、ほとんど知らないまんまだしね、私たち。
間
篠:「ありがとう」か。
相馬:なんの「ありがとう」なのかね。
篠:……これだけ、なんだよね。ファイル。
相馬:ああ。これだけだ。
マシーン阿良川のメモリーには、これだけ。
間
篠:許されないのかな。阿良川は。
相馬:許されるとか、許されないとか、そういうことじゃないと思うけど。
ーーでも、自分にボールぶつけるべきだとは思うね。
篠:は? どうして。
相馬:今度は自分が篠を泣かしてんだからさ。
篠:……泣いてないし。
相馬:(笑って)俺はいまにも泣きそうだけどね。
篠:はい。それ、嘘。
相馬:堪えてんだよ! わかんねえやつだな……。
篠:そりゃそうか。
だってさーー
間
篠:阿良川は、いたんだもん。
悲しくて、当然だ。
相馬:当然だ。
篠:当然、だぁ。
相馬:そうだな。マジで。死ぬこたねえよ。
篠:ほんとだよ。
相馬:ほんとだよ。
篠:全然、マシーンじゃ、ないじゃん。
相馬:だな。すげえ的外れなあだ名。
間
篠:あーあ、ありがとうじゃないっての。
了
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