ラスト・キッス
作者:たかはら たいし
男:
女:
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
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■カーテンの隙間から微かに日が差し込んでいる。
時間は朝9時半を少し過ぎたところ。
部屋の中、ダブルのベットに一組の男女が横になっている。
しかし、特に会話は無い。沈黙の後、男があくびをする。
女「眠い?」
男「うん・・・。」
女「まだ時間あるし、もうちょい寝てたら?」
男「うん・・・。」
眠たげな様子で男が寝返りを打つ。
女「うなされてたけど。」
男「俺・・・?」
女「(咳払いした後で)・・・うん。」
男「なんか、変な夢見たわ・・・。」
女「うーうー言ってたよ。」
男「森にいてさ・・・、」
女「うん。」
男「仏像と、お茶飲んでるの。」
女「仏像?お地蔵さんじゃなくて?」
男「そうそう。お地蔵さん・・・。俺、キャラメルマキアート飲んでた・・・。」
女「(鼻で笑う)変なの。」
男「うん・・・。」
長い沈黙の後、女がカラダを起こして伸びをする。
女「んーっ・・・。あー、喉痛い・・・。入ってたっけなー?冷蔵庫に・・・。」
女はベットから出ると、傍にある冷蔵庫を開けて、ペットボトルの水を手に取る。
女「(咳払い)」
ペットボトルの水を飲み、溜め息を吐く女。
間
女「(少し擦れた声で)それ取って。」
男「ん?」
女「下着。」
男「・・・どこ?」
女「そこ。」
男「ん?」
女「そっち。毛布の端っこ。」
男「ああ・・・。」
指差した先にある、女の下着を手に取る男。
上体を起こして、腕を伸ばして女に手渡す。
男「・・・はい。」
女「ん・・・。(水を一口飲んでから)ありがと。」
受け取った下着を履きながら、女が苦笑する。
女「酷い顔してる。」
男「ん?」
女「顔。」
男「そう?」
女「うん。なんて言ったっけ・・・、あれ。」
男「あれって?」
女「あれだって、あれ。えーとね、どう言うんだっけな?」
男「何が?」
女「言葉が出てこない。えーと・・・、罪悪感。(水を一口飲んでから)失敗したって思ってない?」
男「いや、」
男が枕下に置いていたタバコを銜えて、火を付ける。
男「大間違い。」
女「あっそ。」
男「うん。」
間
男「(煙草を吸って、一息付いてから)・・・好きなんだよね。下着履いてるとこ。」
女「ふーん。」
女が、ベットの中にいる男の隣に戻って横になる。
女「いつも見てんの?」
男「うん。・・・まぁ。」
女「それさ。向こうどんな反応するの?」
男「いや、無反応。(煙草を吸いながら)・・・慣れてるんじゃない?」
女「ふーん。・・・昨日もそんな顔してたよ。」
男「昨日って?」
女「え?・・・やってるとき。」
男「そりゃね。こういう顔してますし。」
女「ちゃんと送った?」
男「まだ。何て言おうか考えてた。」
女「向こうからは?来てた?」
男「いや。そっちは?」
女「うち、放任主義だから。」
男「何も言われないの?」
女「あー。一応、トモダチのとこ泊まってくって送った。」
男「なんて?」
女「わかったー、って。」
男「偉いね。お前んとこのカレシ。」
女「あれは?」
男「なに?」
女「親戚が亡くなったって。」
男「親戚死んでオールしないだろ。」
女「ダメか。」
男「無理あり過ぎ。」
女「ワンチャンいけるんじゃない?」
男「いけないでしょ。」
女「(食い気味に)寝過ごして電車無くした。」
男「連絡しないの不自然じゃない?」
女「だから昨日送っとけって言ったじゃん。」
男「うん。」
女「(水飲みながら)5回ぐらい言ったよ、私。」
男「まぁ・・・、でも、(煙草を銜える)」
間
男「(煙草の煙を吐いてから)何も言わなさそう。」
女「カノジョさん?」
男「そう。」
女「不安はあるでしょ。」
男「あー・・・。」
女「言わないだけで。」
男「そういうもんか、やっぱり。」
女「普通そうじゃない?」
男「まぁ、そうだよな。」
女「カノジョさんのこと知らないからわからんけど。」
男「普通に接してきそうだけどなー。」
女「連絡しといた方がいいって。」
男「うん。」
男が煙草を吸い終えて、スマホを手に取りながら、また1本吸い始める。
男「連絡来てたわ。」
女「なんて?」
男「大丈夫?って。・・・(欠伸しながら)眠みー・・・。」
間
女「え、返さないの?」
男「もうちょいしたら。」
女「早く返した方がいいよ。」
男「(煙草を吸いながら)うん。」
間
女「そういやお金。」
男「ん?」
女「まだだった。」
男「・・・ああ。」
女「幾ら?」
男「ここ?」
女「そう。」
男「1万ちょい。」
女「え、一人アタマ?」
男「いや、二人で。」
女「そうだよね。」
男「そんな高いわけないじゃん。」
女「びっくりした。・・・帰り崩していかないと。」
男「(煙草を吸う)・・・別にいいけどね。」
女「何が?」
男「俺持ちで。」
女「ちゃんと払うって。そんなさー、カノジョじゃないんだから。」
男「うん。まぁ、でもさ、」
間
女「ん?」
男「・・・やっぱいいや。」
女「何が?」
男「いや、別に。」
女「払うよちゃんと。」
男「うん。」
間
女「なんか、でもさー、」
男「ん?」
女「思ったんだけど。」
男「うん。」
女「今のうちらってなんなんだろう?」
男「え?」
女「だってさ。ね?やっちゃったわけじゃん、お互いに。」
男「まぁ・・・。」
女「いまのうちらってさー。」
男「うん。」
女「トモダチでもないし、カノジョでもないわけでしょ。なんだろ?」
男「あれじゃない?」
女「なに?」
男「(煙草を吸いながら)セフレ。」
女「セフレかな?違くない?」
男「どうだろ?」
女「(スマホを手に取りながら)まぁ、世間一般的にそうかもしれないけど・・・。うっわ。」
男「どした?」
女「ほら見て?(男にスマホの画面を見せて)検索したら小難しいのいっぱい出てきた。」
男「なにしてんだよ。マジで検索してるし。」
女「えー。だってさー。セフレは何か違くない?」
男「じゃあ、浮気相手?」
女「浮気相手かー。浮気相手。浮気相手。」
男「いちいち検索すんなよ。」
女「してないよ。・・・性欲を充たす相手だってさ。」
男「なにが?」
女「セフレの定義。」
男「読んでたんかい。」
女「なんて書いてあるのかなーって。」
男「そんな気になる?」
女「うん。」
男「うちらのカンケイ?」
女「うん。」
男「・・・関係っていうか、・・・麻痺ってるんじゃない?」
女「麻痺?」
男「ステータス異常。」
男が煙草を1本取り出して、火を付ける。
女「・・・異常ね。」
男「でもさ、そこまで異常とも思ってない。思ってないっしょ?」
女「まぁ。」
男「だからこそ、異常な気がする・・・。」
女「うん。」
男「麻痺ってんだって。きっと。」
女「麻痺ねー。」
男「俺らさ。(煙草を吸いながら)・・・どうしたかったのかね。」
女「そうだね。相手いるのにね。お互い。」
間
男「正直言っていい?」
女「どうぞ。あ!いや!やっぱりどうしようかな。」
男「どっち?」
女「いいよ。なに?」
男「なんか言い辛くなっちゃった。」
女「いま言おうとしてたじゃん。」
男「いや、」
女「いいよ。なに?」
男「ん?・・・あれだよ。」
女「なんだよ。」
男「うーん。」
女「なに?」
男「いや・・・、まぁ・・・、あ、これダメだ。」
女「なにが?」
男「酷い事言おうとした。」
女「なんだよ。」
男「えー?」
女「あれでしょ。あれ。」
男「なに?」
女「一発で当ててあげようか?」
男「いや当たらないと思うけど。なに?」
女「やってる時の顔すげーブサイクとか言うんでしょ?」
間
女「あ、ほら!当たりじゃん!」
男「いやいやいや違う違う。」
女「本ッ当に酷いね!」
男「いや違うって!」
女「クズだよ、クズ。」
男「だから違うって!寧ろ逆、みたいな?」
女「逆って?」
男「いや、何て言えばいいんだろ・・・、そのー、さ?」
女「うん。」
男「なんか・・・、ね?その、カノジョとするよりも、なんかね。」
女「・・・。」
男「いや、いい意味だから。いい意味。」
女「いいって?相性が?」
男「いや、まぁ、正直それもあるけど・・・、なんだろ・・・?」
間
男「(煙草を吸いながら)安心感っていうの・・・?なんか、あった。そういうのが。」
女「はぁ。それはどうも。・・・え、別に酷い事じゃなくない?」
男「そう?」
女「うん。」
男「なら良かったけど。」
女「じゃあ私も正直言っていいすか?」
男「なんすか。」
女「同じ。そっちと。」
男「うん。」
女「まぁ・・・、悪くはなかった。」
男「どういう意味で?」
女「そういう意味。」
男「あっそ。」
女「なんかさー・・・、」
男「ん?」
女「長く付き合ってると、作業ゲー感出てこない?」
男「(苦笑しながら)お前、作業ゲーって。」
女「まぁ、作業ゲーって言い方は違うかもしれないけど、なんかさー。
カレシとエッチするの、生きていく為に、って感じする。」
男「ああー。」
女「わかる?」
男「メシ作ったりゴミ出しするのと一緒って事?」
女「そんな感じそんな感じ。」
男「二人でいるのに必要な作業、って事か。」
女「そうそう。しない?そういう感じ。」
男「する。」
女「ほんとに?」
男「するする。わかる。」
女「なんでこんな事思うんだろ?だって、ほら、私もそっちも、上手くいってるわけじゃん?」
男「まぁね。」
女「でしょ?」
男「あー、でも、どうなんだろ。ちょっと違うんじゃない?本当に上手くいってたらさ、」
女「うん。」
男「してないでしょ。こんな事。」
間
男「ああ、こんな事って言っちゃったゴメンゴメン。」
女「いや、いいけど。ぶっちゃけさー・・・。」
男「なに?」
女「どうだったの?」
男「なにが?」
女「やってるとき。どう思ってた?」
男「お前、そんなん聞く?」
女「え、だって“こんな事”って思ったんでしょ?」
男「いや、今のは言い方違った。」
女「じゃあどう思ったの?」
男「(銜えた煙草に火を付けながら)うーん・・・、おっぱいだな、って思った。」
女「(鼻で笑う)ふっ。なにそれ?カノジョの見てるでしょ、いっつも。」
男「まぁね。」
女「今更思う?そんな風に。」
男「なんていうのかな。違うわけじゃん、大きさとか形とかが。カノジョと。」
女「まぁね。」
男「うん。同じ乳なのに新鮮な感じする。」
女「・・・なんか、牛乳みたい。」
男「なにが?」
女「言い方。だって新鮮な乳だよ?」
男「確かに。」
女「へ〜。でも、そういうものなんだ?」
男「だってさ、おっぱいの話じゃないけど、」
女「うん。」
男「そこら辺のハンバーガーと、下北で食べるハンバーガーって違うじゃん。」
女「まぁ、下北の方がお洒落な感じするね。」
男「だから、同じハンバーガーでもさー・・・。
(煙草を吸いながら)・・・ん?ちょっと待って。あれ?俺なにが言いたかったんだ?」
女「え?なに?」
男「いや、なんか違った。」
女「どういう事?」
男「いやいい。なんでもない。なんかよくわかんなくなってきた。」
女「あ、そう。・・・私は考えもしなかったけど。」
男「なにが?」
女「カレシのと違うって。」
男「そりゃお前、オンナはそうだろうよ。」
女「逆に嫌じゃない?そんな風に思ってるの。」
男「うーん。」
女「私がアナタのやつ、じーっと見つめて、カレシのと大きさ違うなー、カタチ違うなー、とか、」
男「(女の言葉を途中で遮って)あー、やだ。そう言われると嫌だわ。」
女「でも、凄くない?世の中にはさ、兄妹でしちゃう人とかいるんでしょ。」
男「まぁ。あと、生徒に手出しちゃう先生とか。」
女「そういうのに比べたらさ。健全だよね、うちらは。」
男「健全か?健全じゃない感じするけど。そういうのと比べたらね。マシ。」
女「ていうかさ、いい加減、返信したげなよ。」
男「なんて返そうか全然思い付かない。」
女「既読スルー。だめ、ぜったい。」
男「(溜め息)もう、親戚が死んだって送ろうかな・・・。」
女「ダメだよそんなの。」
男「お前が言ったんだろ。」
女「でもさ。好きなんでしょ?」
男「カノジョ?」
女「うん。」
男「そりゃね。」
女「はい。(マイクを向ける仕草をして)じゃあカノジョさんのどういうとこが好きですか?」
男「唐突。」
女「好きなとこは?」
男「えー・・・。」
女「じゃあ、最近二人でどっか行った?」
男「最近?・・・ああ、スイーツ食べ放題。」
女「どうだった?」
男「どう?どうって?」
女「え、それって向こうが行きたいって言ったの?」
男「いや、俺から。」
女「なんで?」
男「なんでって・・・、そういうの好きそうだから。カノジョが。」
女「はーん。」
男「はーん、ってなんだよ。」
女「それって、カノジョさんが喜ぶから誘ったんだよね?」
男「え?うん。」
女「じゃあ奉仕じゃん、奉仕。」
男「奉仕って。」
女「接待してあげたんでしょ。」
男「そう言われると、まぁ・・・そうなるか。」
女「仕方ねーなー、スイーツ食べに行ってやるかーってさ。」
男「いやー、そんな・・・、食べに行ってやるかーって感じでもないけど。」
女「なんかさ。その・・・、お互いに、相手に対してさー?」
男「うん。」
女「好きって思ってる感情ってさー。」
男「ん?うん。」
女「ホンモノなのかな?」
男「・・・どういう事?」
女「わかんない。」
男「え?」
女「何が言いたいのかわかんなくなった。」
男「さっきの俺かよ。」
女「いやー、わかんない。わかんないわかんない。」
男「なんだよそれ。」
女「え、じゃあさー。どういうとこが好き?」
男「そこに戻るのかよ。」
女「だって、好きなんでしょ?」
男「うん。」
女「だからどういうところが?」
男「えー・・・。」
女「そもそもさ、なんで付き合おうって思ったの?」
男「カノジョと?」
女「うん。」
男「そりゃ、好きになったからでしょ。」
女「もう少し具体的に。」
男「なんだろう・・・。まぁ、一緒にいて楽しかったし、見た目も好みだったし、」
女「ふんふん。」
男「気付いたら、お互いに意識してた、みたいな?」
女「うーん。いまいちマトを得ませんなー。」
男「いや、そんなん聞かれても困るよ。こっちはただでさえ困ってんだから。」
女「困ってるの?」
男「カノジョになんて返そうか困ってんじゃん。」
女「だからさ。そのカノジョさんのどこら辺が好きなの?」
男「えー・・・、」
間
男「優しいとこ。」
女「他には?」
男「ちょっと待って。なに言わせようとしてるの?」
女「してないよ。」
男「なんか、めちゃめちゃ詰めてくるじゃん。」
女「うん。いや、わかんないけどね?どこが好きか、ハッキリ答えられなくない?」
男「・・・ああ、まぁ。」
女「でしょ?あー、良かったー。私と一緒じゃん。」
男「そうなの?」
女「好きは好きだけど。なんていうのかな。感覚的な感じ?」
男「感覚・・・。あー、うん。言われてみれば、そうかも。」
女「だからさ、たまにわかんなくなるんだよね。」
男「なにが?」
女「自分の、カレシ好きーって感覚が本当か。」
男「あー・・・、」
女「そういうときない?」
男「あるかも。」
女「長くいるとさ。付き合った頃の、あの甘酸っぱい感じ?あれ、なんだったのか問いたくなる。」
男「誰に?」
女「自分に。」
男「問いたくなる?」
女「なる。いや、ならない。そもそも問わないわゴメン。」
男「自己完結。」
女「知恵熱出ちゃいそう。でもさー?」
男「なに?」
女「あの甘酸っぱい感じ。どこいっちゃったんだろ?」
男「確かに。どこだろうね?」
女「鴻巣(こうのす)?」
男「なんで鴻巣なんだよ。」
女「違うか。」
男「運転免許センターしかねーだろ。あそこ。」
女「鴻巣住んでる人に失礼だよ。」
男「知らないよ。」
女「謝った方がいいよ。」
男「え?鴻巣住んでる人に?」
女「そう。ほら。」
男「すみませんでした。」
女「(失笑しながら)はい。」
男「なんだよこれ。意味わからんわ。・・・煙草吸おう。」
女「吸え吸え。」
男「(銜えた煙草に火を付けながら)そういやさ、山岸んとこ。」
女「うん。」
男「あそこって別れたん?」
女「そだよ。大分前だけど、それ。」
男「こないだ聞いた。」
女「誰から?」
男「山岸。」
女「あ、本人から聞いたんだ。」
男「別れたよ〜、ってケロッとしてた。」
女「言いそう。」
男「あれ、ミヨちゃんが振ったんでしょ?」
女「そう。」
男「全然知らんかった。普通に三人で遊び行ったわ。」
女「三人って、山岸とミヨちゃん?」
男「そう。」
女「いつ?」
男「先週。水曜だったっけ?」
女「まぁケンカ別れじゃないしね、あそこ。」
男「いや、でも、山岸すげーなーって思った。」
女「なんで?」
男「いや、元カノと遊び行くんだーって。」
女「うん。」
男「俺なら無理だわ。」
女「そーなの?」
男「お前、元カレと遊びに行く?」
女「人による。っていうか別れ方か。別れ方による。」
男「え、行った事あんの?」
女「あるよ。」
男「俺、無理だわ。」
女「気まずい?」
男「気まずいっていうか、誘わないし。誘われたとしても断る。」
女「誘われた事あるの?」
男「いや無いけど。・・・ちなみに、あそこは何が原因だったの?」
女「ミヨちゃんとこ?」
男「そう。」
女「友達に戻りたいって言ったらしいよ。」
男「ミヨちゃんから?」
女「うん。」
男「ああー。じゃあ行くの納得だわ。そういう事か。」
女「うん。」
男「ふーん。・・・ていうか、そっちは?」
女「そっちって?」
男「カレシの好きなとこ。」
女「え、急に?」
男「だってそういう話してなかったっけ?」
女「そうだっけ?」
男「カノジョのどういうとこ好きか聞かれて、」
女「ああ、そうだったそうだった。」
男「つーか、あれか。俺が山岸の話題振ったから脱線したのか。」
女「いや別に、戻して話す話題でもなくない?」
男「だって俺だけ答えたじゃん。」
女「えー!答えてなかったじゃん!言い淀んでたじゃん。」
男「じゃあ、全部。全部好き。」
女「カノジョ?」
男「うん。」
女「そんな事言ったら私だってそうだよ。」
男「いや、だから、誰でもそう答えるんじゃないの?普通は。」
女「じゃあ挙げてみる?」
男「好きなとこ?」
女「うん。そっちから。」
男「えー!・・・うーん、なんだろな。・・・外見。」
女「私もそう。」
男「見た目って大事だよね。」
女「付き合ってから改めて好きになったりしない?」
男「見た目?」
女「そう。だってカレシの見た目とかぜんぜん気にしてなかったし。」
男「そうなんだ。」
女「え、みんな違うのかな。」
男「みんなって?男女で?」
女「そうそう。オトコは気にしそう。まぁ、女子でも気にする人いるだろうけど。」
男「じゃあ・・・他は?」
女「ん?んー・・・、居心地が、良い。」
男「あー、それはあるね。」
女「でしょ?」
男「それ一番好きなとこかも。」
女「変な話するけどさ。あ、変な話していい?」
男「なんだよその前振り。」
女「だって、」
男「今から私、変な話しまーすっておかしいだろ。」
女「いや脱線するような事じゃなくて、もし仮にね?」
男「うん。」
女「このままうちらが付き合ったとしても、居心地悪そうじゃん?」
男「直ぐ終わるんじゃない?」
女「ね?」
男「3日ぐらいだね。」
女「早ッ!もうちょい続くでしょ。」
男「まぁ・・・、でも、」
女「ん?」
男「始まらんけどね。それ以前に。」
女「まぁね。」
男「でも居心地良いのはデカいな。」
女「なんかさ。顔の良さとか、家の事やってくれるとか?そういう事より大事だよね。」
男「空気読めなかったら嫌だしな。」
女「戦争起きるよ。」
男「闘争を求めちゃう?」
女「闘争・・・、求めるかもね。」
男「うん。でもさ、なんかさ。なんかなー。」
女「なに?」
男「いや・・・、結局さ。そのー、好きってなんなんだろ?」
間
女「・・・なんだろうね。」
男「マジでさー、」
男がまたタバコを銜えて、火を付ける。
男「好きってなんだろう。」
女「はっ。」
男「なに笑ってんだよ。」
女「CMみたい。」
男「そうだった?」
女「だって、真面目な顔で煙草吸いながら(男の真似で)好きってなんだろう。」
男「(苦笑)」
女「もっかいやってよ。」
男「やだよ。」
女「えー。」
男「つーか、なんでこんな事になったかね、・・・うちら。」
女「自然とさ、そういう流れになってたもんね。」
男「いつだ?」
女「お店いるときでしょ。」
男「懺悔大会?」
女「そうだよ。二人ともズーンって沈んじゃって。」
男「おうち帰りたくないなーってな。二人して言ってたもんな。」
女「うん。」
男「あれがきっかけか。」
女「そうじゃない?いや、ほんとに泊まるとは思わなかったけど。」
男「俺も。店出て帰るんだろうなーって思ってた。」
女「でも、一回駅まで行ったじゃん?」
男「(苦笑)足取り重かったねー。」
女「二人してね。」
男「ああ、だからあれだよ。これからの不安みたい話、したじゃん。」
女「お店いたときね。その後さ、相手の嫌いなとこ話したじゃん。」
男「まぁ、嫌いなところっていうか・・・、不満っていうか、愚痴?」
女「あれさ。最初は、結構盛り上がったよね。」
男「途中からお通夜みたいな空気になったけどな。」
女「そうそう。」
男「いやお前、あの状況でなんか喋ってよは無いだろ。」
女「だって、二人して黙っちゃったからさー。」
男「あんな空気で何喋るんだよ。」
女「無言ダメなんだって私。でも、あれがトドメだったね。」
男「あとさ、面白かったよね。駅着いて、二人してちっとも電車乗ろうとしないの。」
女「そうそう。二人して端の方行ってさ。」
男「お互いに察したもんね。」
女「私聞いたじゃん。帰る気無いでしょ?って。」
男「聞かれた聞かれた。」
女「そうそう。それでカラオケでも行く?って言われて。」
男「ん?それ俺が言ったの?」
女「言ってたよ。」
男「え、ウソ。」
女「言われたって。」
男「・・・言ったかなー?言ったかもしれない。」
女「そだよ。で、カラオケって気分じゃないなって。」
男「ああー。まぁ、そんな感じだったか。」
女「でもすごかったよね。怒鳴ってるおじさんいたじゃん。」
男「ああ、ここ来るとき?」
女「(怒鳴ってるおじさんの真似で)お前みたいな女に金つぎ込んだ俺がバカだったって事なんだわーって。」
男「なんだわーって。なんだわーはねーだろと思って笑っちゃったもんな。」
女「変な声出してたもんね。ハハン、みたいな。」
男「いや出るだろ。なんだわーだよ?」
女「でも、おじさんと一緒にいた女の人キレイだったね。」
男「そうなの?」
女「うん。ガン見してたもん私。」
男「ガン見すんなよ。」
女「いや、こういう人たち、本当にいるんだなーって思っちゃって。」
男「お前、撮ろうとしてたもんな。」
女「うん。」
男「あんなん動画撮ってどうすんだよ。」
女「いや、思い出に。」
男「もっといい思い出作れよ。」
女「あれ、面白かったなー。」
男「向こうだってさ、色々あるんだから。」
女「笑ってたじゃん。」
男「そりゃ笑うだろ。」
女「あとさー、部屋入ってから、念仏。」
男「南無妙法蓮華経!あんあん!南無妙法蓮華経!あーん!」
女「あれマジで爆笑した。この階泊まってた人かな?」
男「多分そうじゃない?どんなプレイしてんだよっていうね。」
女「うちらの笑い声、絶対聞こえてたよね。」
男「聞こえてたかなー。聞こえてたか。」
女「笑い死ぬかと思ったもん。」
男「でも、そのあとピタッと止んだね。」
女「終わったんじゃない?」
男「知らんけど。」
女「なんか正直さ?」
男「うん。」
女「あれに当てられた感ある。」
男「なにが?」
女「やったの。」
男「え?マジで?」
女「ほんとほんと。なーんか面白くなってきちゃってさ。」
男「あれでエッチする気になる?」
女「いや、なんか、もういっかなー、みたいな。」
男「念仏唱えないの?って言われたの、はじめてだわ。」
女「えっ、聞かれたことない?」
男「ねーよ。カレシに言ってみろよ。事(こと)の最中(さいちゅう)によ。」
女「えー、多分ね。きょとんってすると思う。」
男「普通そうだろ。」
女「どういう事?ねぇどういう事?って真顔で問い詰められる気がする。」
男「当たり前じゃん。」
女「うん。でも・・・、楽しかったなー。」
男「まぁね。」
女「なんかね、新鮮だった。」
男「うん・・・。でもさ、なんて言えばいいんだろ。」
女「なに?」
男「楽しかったし、まぁ、悪くないなーって思ってるわけじゃん。うちら。」
女「うん。」
男「それでもさ。付き合おうとはならないじゃん。ならないでしょ?」
女「ならないならない。あ、」
男「なに?」
女「(わざとらしく)うちらー、付き合っちゃうー?」
男「(苦笑しながら)すっげぇ腹立つ。」
女「(わざとらしく)今の相手と別れて、付き合おうよー。」
男「付き合う付き合う。」
女「ほんと?」
男「うん。毎日ケンカするわ。」
女「でも、実際どうなんだろ?」
男「なにが?」
女「するかな?ケンカ。」
男「あれでしょ。二人ともストレス溜まって、どっかで爆発しそう。」
女「ありそう!」
男「しかもよくわからんタイミングで。」
女「(わざとらしく)もういい加減にしてよ!」
男「それいきなりだろ?」
女「そうそう。(わざとらしく)もういい加減にしてー!って。」
男「しかも大した理由じゃないんだよね。」
女「わかる。」
男「え?そんな事でキレんの?みたいな。」
女「そうそう。それで最終的に、友達に戻りたいって。」
男「(吹き出して)お前それミヨちゃんじゃねーか。」
女「リスペクトしてみた。」
男「してみたじゃねーよ。」
女「まぁ別れても、うちらだったら普通に遊び行くでしょ。」
男「えー、どうだろ・・・。」
女「来週空いてるー?みたいな。」
男「お前それ、俺どんな顔で会いに行くんだよ。」
女「ない?」
男「ねーわ。」
女「ああー。じゃあ別れたら、ほんとに遊び行けない人なんだね。」
男「俺?」
女「うん。」
男「だからさっき無理って言ったじゃん。」
女「うん。いやー、でも無いね。」
男「なにが?」
女「ここがくっつくの。」
男「無い。そんなん絶対無い。」
女「あれ?そういえばさ、そっちって今、何年ぐらい?」
男「カノジョと?」
女「うん。」
男「3年。今年で。」
女「あ、長いね。」
男「いやお前んとこ、」
女「いやまぁうちらはね。」
男「もう10年ぐらいでしょ?」
女「ううん。8年、8年。」
男「長っ。」
女「来月で8年。」
男「あ、そうなんだ。なんかお祝いとかするの?」
女「お祝い?」
男「8周年記念的な。」
女「しないしない。」
男「へー。そういうの毎年してるのかと思ってた。」
女「昔はやってたけどね。」
男「やってんじゃん。」
女「そりゃ付き合い立ての頃はねー。」
男「なんでやらなくなったの?」
女「えー・・・、なんでだろ?」
男「めんどくなった?」
女「そんな事ないけど。まぁ、自然と?」
男「ふーん。」
女「そういうもんじゃないの?」
男「いや、知らんけど。」
女「あー・・・、でも今年はやろうかなー。」
男「おお、いいじゃん。」
女「うん。でも、カレシと予定合わせるのがさー・・・、」
男「ああ、わかるわかる。」
女「めんどくさくって。えっ、めんどいよね?」
男「どんどん延期になってくからね。基本的に。」
女「それな。」
男「いつ行けるんだよ、みたいな。」
女「それでそのままぽしゃるんだよね。」
男「なんか、神経使うよね。予定立てるにも。」
女「乗り気じゃない時とか直ぐわかったりしない?」
男「それ昨日話したじゃん。」
女「そうだっけ?」
男「話聞かない振りされるんでしょ?」
女「そうそう。話題反らされたりする。」
男「俺まだそっちの方がいいわ。」
女「露骨に機嫌悪くなるんだっけ?」
男「悪くなるっていうか、顔見て直ぐわかる。」
女「怒ってるなーって?」
男「いや、この顔は行く気無いなーみたいな。」
女「ああー。でも私もそういう顔する時あるわ。」
男「それやめてあげな、ホント。」
女「えー、だってさー。」
男「いやいやダメだよ、そういうの。」
女「普通に良くない?それぐらい。好きで付き合ってるんだし。」
男「いや、好きでもさ・・・、ていうかさ、ゴメン。すげー真面目なこと言っていい?」
女「だめ。」
男「なんでだよ。」
女「いいよ。」
男「いや、だからさ。そのー、好きって感情なんてもんは・・・、実は存在しないんじゃない?」
女「どゆ事?」
男「だから結局さ。縋りたいだけー、みたいな。」
女「うーん。」
間
女「でも、なんでなんだろうね?」
男「ん?」
女「お互いにさ、大切に思ってるわけじゃん、相手のこと。」
男「そうだよね。」
女「別に壊したいわけでもないのに・・・、なんでこういう事しちゃうのかな。ニンゲンって。」
男「(鼻で笑う)ヒトゴトかよ。」
女「違うよ。」
男「まぁいいやそれは・・・。だからさ。誰だって、誰といても結局一人なのかもね。」
女「あれでしょ?」
男「なに?」
女「ラブストーリー嫌いでしょ?」
男「そんな事ないよ。」
女「えー、うそー?あんなのはお前、幻想なんだよーとか思ってそう。」
男「それは思ってるけど。」
女「思ってんじゃん。」
男「カノジョといるとき見るけどねー。」
女「ああ。」
男「こんなの見て、何が楽しいんだって思っちゃいるけどねー。」
女「カノジョさんに?」
男「カノジョもだしさ。みんな好きじゃん。そういうの。」
女「まぁね。」
男「いつまで夢見るお年頃でいるんだよって感じ。」
女「別にいいじゃん。誰だって夢見るのは自由だし。」
男「いや、別に否定するわけじゃないけどさ。」
女「ふーん。」
間
女「・・・なんかでも、やっぱりさー。」
男「ん?」
女「セフレではなくない?」
男「うちら?」
女「なんか、適切な言葉じゃない気がする。」
男「そうかな?」
女「セフレだとさ、誰でもいい感じするじゃん。」
男「ああ、うん。」
女「私、別に、皆と友達になりたくないし。」
男「100人作らないの?」
女「そんなに要らない。ていうかそんなに作ってどうすんの?」
男「やるんだろ。」
女「無理。要らない。」
男「なんか、でもさ。セックスフレンドってすげー言葉だな。」
女「セフレよりも、愛人の方がすごくない?愛する人って書くのに全然いい意味じゃないんだよ?」
男「深いね、日本語。」
女「愛人かー。」
男「あとさ、ラブホテルってワード、すげー皮肉に聞こえる。」
女「そうだね。」
男「人生って言葉も皮肉に聞こえるわ。」
女「なんでも皮肉に聞こえるんじゃない?今は。」
男「そっか。でもきっとさ?」
女「うん。」
男「明日になったら、戻ってるんだろうな。普通に。」
女「明日っていうか、このあとおうち着いたら戻るでしょ。」
男「だよな。」
女「そういう事にしないとね。やってられないもんね。」
男「うん。」
女「なんか、いつもより変に優しくしちゃいそう。」
男「カレシに?」
女「そうそう。」
男「わかる。俺もそんな気がする。」
女「なんていうのかなー。そうやってさ、贖罪していくわけですよ、我らは。」
男「どういう意味?」
女「えーと、罪ほろぼし的な?多分そういう意味。」
男「じゃあ優しさじゃなくない?」
女「違うか。」
男「わけわかんなくなってきた・・・。」
女「考えない方がいいんじゃない?」
男「いやー、不安だわ。」
女「不安って?カノジョにバレないか?」
男「それもあるけど。自分がいま正常な状態なのかわけわからなくなってきた。」
女「いつもそんなだよ?」
男「いやー、どう言えば伝わるかな?
正常なフリしてるだけ疑惑、っていうか、なんかそんな感じ。もう全然わからん。」
女「ふーん。思考回路はショート寸前?」
男「(苦笑しながら)お前、その言い方・・・、まぁいいや。ショートっていうか、自覚が無い気がして怖い。」
女「自覚って?」
男「俺いま、こうやって普通にしてるじゃん?」
女「うん。」
男「パッと見、いつも通りでしょ?」
女「変わんないね。」
男「自分ではあるのよ?自分は今、正常だって自覚。」
女「じゃあ大丈夫じゃん。」
男「いやでも、正常じゃない気がするんだよ・・・。」
女「ああー。正常だと思ってるけど、おかしくなってるみたいな?」
男「そう。」
女「え、そんなこと言うけどさ。あ、言っていい?」
男「なに?」
女「そもそもうちらさ。さっき言ってたけど、作業ゲーって思ってたわけじゃん?」
男「ああ。ん?それ何話してる時に出たっけ?」
女「エッチしててそういう事思わない?みたいな。」
男「ああ、そうだそうだ。」
女「正直さ。まぁ、私もだけど・・・、」
男「え?なに?」
女「作業ゲーって思った時点で、おかしくなってたんじゃない?」
男「うわ、怖ッ。ニンゲン怖い。」
女「まぁ、うちのカレシと、そっちのカノジョの台詞だと思うけどね、それ。」
男「いや俺も言いたいし。」
女「まぁ、だからさ。・・・早く戻らなきゃね。」
間
男「戻るって、どっち?」
女「どっちって?」
男「カノジョのとこに?それとも正常な状態に?ああ両方か。」
女「うん、両方。早く返信しなよ?」
男「わーってる。」
女「なんか、でもなー・・・、」
男「ん?」
女「んー?」
男「なに?」
女「いや・・・、それはそれで、ちょっと寂しい気もする。」
男「そう?」
女「あ、私だけか。」
男「いや、俺も思ってないわけじゃないけど。」
女「あのさ。」
男「ん?」
女「私としてはね?もうちょい、このままでいたいかな。」
間
男「俺と?」
女「うん。」
男「早く戻らなきゃって言ったばっかじゃん。」
女「だって、貴重だもんこんな機会。生涯二度とないでしょ。」
男「そりゃあね。」
女「ていうか、二度とゴメンだけどさ。」
男「うん・・・。え、いま居心地いいの?俺といて。」
女「悪くはない。」
男「さっき悪いって言ってなかった?」
女「あれは、もし付き合ったらって話だったじゃん。」
男「ああ、そうだっけ。」
女「なんだろうね。料理に例えるとさ、美味しくもないけど、不味くもないみたいな?」
男「それどうなの?」
女「どうなんだろ。」
間
男「・・・よくないね。」
女「うん。」
男「(銜えた煙草に火を付けながら)なんかさ・・・、樹海に迷い込んだみたい。」
女「えっ、行ったことあんの?」
男「無いよ。例え。」
女「びっくりした。」
男「・・・駄目だね。ここから早く抜け出さないと。」
女「うん。でも、住んでれば居心地良くなるかもよ。」
男「樹海に?」
女「うん。」
男「それもう仙人じゃん。」
女「仙人ね。」
男「ニンゲンじゃないよ。」
女「じゃあうちらは住めないね。」
男「(煙草を吸いながら)だからさ。・・・戻ってあげんとなー、やっぱり。」
女「そうだね。」
間
女「・・・でもさ、」
男「ん?」
間
女「・・・まぁ、折角ですし?」
間
女「最後に、もう一回。」
男「ん?」
女「・・・。」
女が男に顔を寄せて、そっと瞳を閉じる。
間
男「うん。」
女の意図を察した男が、キスをする。
間
女「(小声で何か呟く ※アドリブ)」
男「・・・ん?なんつったの?」
女「ん?」
男「いま。」
女「んー?」
男「なんだよ。なに?」
女「ふふっ・・・、」
間
女「(苦笑しながら)タバコくさい。」
END
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