狂獣の檻 -廻答-
作者:たかはら たいし


榊 里菜(さかき りな) ♀
森 祐次(もり ゆうじ) ♂

※字幕やニュースについての表現方法等
 その他描写など、ご自由に改変いただき結構です


※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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■chapter.01 interview_YUJI_01
■祐次の部屋
リビングで祐次が一人、椅子に座っている。

字幕:今日はお忙しい中、ありがとうございます。

祐次「いえ」

字幕:里菜さんから先にお話を伺いました。

祐次「どうでしたか?」

字幕:本当に祐次さんの事を愛しているんだなあ、と感じました。

祐次「そうですか」

字幕:祐次さんも里菜さんのことが好きですか?

祐次「いや・・・」

字幕:好きではない?

祐次「・・・はい、好きではありません」

字幕:では、祐次さんは何故、里菜さんの傍にいるのでしょうか?

俯いたまま、黙って考え込む祐次。

祐次「僕は、檻なんですよ」

字幕:檻、ですか?

祐次「うん。檻です」

字幕:それは、里菜さんの?

祐次「そうです、檻です」

字幕:祐次さんは、里菜さんのことをどう思っているんでしょうか?

祐次「・・・怖いと思ってます」

字幕:里菜さんを?

祐次「はい」

字幕:人を殺すから?

祐次「それも含めて、全部です」

字幕:とても意外です。里菜さんは、祐次さんの事を愛していて祐次さんに見捨てられた時の事を考えるのが怖いと言っていました。

祐次「そうでしたか。前に同じ事を彼女から言われました。僕が何も言わない事に不安を感じていたみたいですね」

字幕:存じております

祐次「あの時、自分に嫌悪感みたいなものを抱きました」

字幕:それは里菜さんを不安にさせたことに対しての嫌悪感ですか?

祐次「違います。あの時、彼女の話を聞きながら、必死で言葉を考えてて。思い付いた事を言いながら、心にも無いなって、自分で凄い嫌な気持ちになりました。でも、彼女の言ってた事は正しいと思います」

字幕:一緒にいて、嫌にならないんですか?

祐次「なりますよ、沢山。でもね、僕が彼女を見捨てたらどうなるのかって考えたときが一番怖い」

字幕:だから、離れられないと?

祐次「そうですね。だから僕は檻だって言ったんですよ。檻は、入ってくる物を選べませんし、それから離れることも出来ませんから」

字幕:檻に入ってきたのは、人殺しだったと?

祐次「そうです。そして、彼女はこの檻の中でしか生きられない。僕も、僕が彼女を見捨てたときどうなってしまうのか考えると、恐ろしくなります」

字幕:自分が殺されるという恐怖ですか?

祐次「それもありますけど。もし里菜との関わりが一切なくなったとしても、彼女の影に付き纏われて怯える・・・、そんな毎日になると思うんです」

字幕:見えない恐怖のような?

祐次「そうです。多分、里菜がいなくなっても、僕は彼女のことを考えてしまうと思います。彼女はきっと、僕の中から一生消えてくれない」

字幕:失礼な話かもしれませんが、お話を伺っていると個人的に、祐次さんは里菜さんのことを深く愛しているような印象を受けます

祐次「そうですか?そんな事はないですよ」

字幕:自己犠牲の愛に近しいものを感じるのですが

祐次「愛、ですか」

字幕:はい

祐次「僕自身は、全くそんな事思っていないんですけど、まぁ、他人にはそう映ることもあるって事でしょうね」

字幕:はい

祐次「よくわかりませんよね、愛って」

■chapter.02 Prologe
■祐次の部屋
祐次と里菜が暮らすマンションの一室。
自室から、下着姿の里菜が出てくる。

里菜「買い物行ってくる」

祐次「出掛けるの?」

里菜「うん、なんかいる?」

祐次「大丈夫かな・・・」

里菜「あ、そう」

祐次「・・・あ、ちょっと待って」

里菜「ん?」

トイレに向かい、何かを確認して戻ってくる祐次。

祐次「トイレットペーパー無かった」

里菜「じゃあ買ってくる」

祐次「頼んでいい?」

里菜「うん。あとは?」

祐次「大丈夫・・・だと思う」

里菜「ほんとに?お茶、まだあったっけ」

祐次「こないだ買ってきた」

里菜「じゃあいいか」

そそくさと外出の準備を始める里菜。
部屋の端に溜まった私服を拾い上げる。

里菜「これでいいかなー」

リビングの奥で、着替え始める里菜。

祐次「あ、里菜」

里菜「なにー?」

祐次「やっぱり一緒に行く」

里菜「あ、やっぱり」

祐次「何が?」

里菜「そう言うと思ってた」

祐次「え、ほんと?」

里菜「うん」

祐次「・・・何か買い忘れてた気がする」

着替えを終えた里菜が、祐次の話を聞き流しつつリビングの奥の窓を開ける。

里菜「あ、外寒いな。上着取ってよ」

祐次「どれ?」

里菜「白いやつ」

祐次「どれ?」

里菜「もふもふしてるやつ」

祐次「はい」

身支度を終える二人。
白い上着を羽織り、玄関から出てくる里菜。
少し遅れて、厚着をした祐次が出てくる。

里菜「寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い」

祐次「(遮って)鍵、貸して」

里菜「はい」

祐次「ああ、寒い・・・」

里菜「今日アイス買うのやめようかな」

祐次「え。こんな寒いのにアイス食べるの?」

里菜「考え中・・・」

祐次「買いそう」

里菜「私も、そんな気がする」

里菜が祐次の手を取る。
祐次が里菜の手を握る。
歩き出す二人。

祐次N「僕の彼女は、人殺しだ」

■chapter.03 interview_RINA_01
■祐次の部屋
リビングの椅子に座っている里菜。

字幕:祐次さんとは、お付き合いを始めて何年ですか?

里菜「4年、ぐらい?前のバイト辞める少し前だから・・・5年ぐらいですね」

字幕:どんな出会いでしたか?

少し考えてから、苦笑する里菜。

里菜「前のバイト先で一緒に働いていて・・・そのバイト先の飲み会で、私具合悪くなっちゃって、終電も無くしちゃったんですよ。その時に祐次が、部屋に泊めてくれたんです」

字幕:その時の事は覚えてますか?

里菜「酔ってて殆ど覚えてないんですけど・・・、私がいきなり抱きついて、あとは成り行き的な展開だったと思います」

字幕:告白は里菜さんから?

里菜「あ、そうです。祐次の家に泊まった次の週に告白して。したら、そこを店長に見られて凄く恥ずかしかったです。それが原因でそこ辞めましたけど」

字幕:その時の祐次さんの反応は?

里菜「ちょっと考えさせて、ってメールが来てから返事が全然来なくて」

字幕:再度アプローチをかけたと?

里菜「いや、かけてないです。これはもう絶対ダメだなって思ってました。したら、ある日帰りにいきなり呼び出されて・・・ファミレスで話(はなし)して、付き合うことになりました」

字幕:嬉しかったですか?

里菜「すごく嬉しかったです」

■chapter.04 one day_01
■祐次の部屋
祐次と里菜が住むマンションの一室。
起床したばかりの里菜が部屋から出てくる。
祐次はリビングでコーヒーを飲みながらテレビのニュースを見ている。

里菜「おはよ・・・」

祐次「うん」

祐次の向かいにある椅子に腰掛け、欠伸をする里菜。

里菜「ねっむい・・・」

祐次「コーヒー飲む?」

里菜「うん」

祐次が席から立ち上がり、コーヒーを手に戻ってくる。

里菜「ありがと」

祐次が淹れたコーヒーが机に置かれると、
里菜はコーヒーに大量の砂糖とミルクを入れる。

傍らに置かれたテレビを尻目に、コーヒーを飲みながら、会話をする二人。

祐次「今日は?」

里菜「休み。明日はお昼から」

祐次「昼からか」

里菜「早起きとか無理」

祐次「そういえば、こないだ遅刻した?」

里菜「してないよ」

祐次「ほんとに?」

里菜「してない」

祐次「鍵忘れて急いで戻ってきたじゃん」

里菜「あー、そんなこともありましたな」

祐次「遅刻するって言ってたじゃん」

里菜「一昨日だ」

祐次「うん」

里菜「鍵は鞄の中に入ってた」

祐次「あの時、間に合ったんだ」

里菜「1分前に着いた」

祐次「それ遅刻じゃない?」

里菜「間に合ったよ」

傍らに置かれたテレビには天気予報が映っている。
ふと、祐次が今日の天気に視線をやっている。

祐次「1分前とか遅刻になるんじゃないの?」

里菜「1分前にタイムカード切ったから、遅刻じゃないしお金はちゃんともらえます」

祐次「よかったね」

里菜「いやー、本当に危なかったんだよ、榊さんが」

祐次「他人事(ひとごと)じゃん」

里菜「そんな事ないよ」

祐次「あ、雨降るのか・・・」

里菜「洗濯出来ないね」

祐次「いいよ。明日起きたらやるよ」

里菜「今日この後私やるよ」

祐次「やらないでしょ」

里菜「やるやる」

祐次「今日のいつ?」

里菜「ゆったりしたあと」

祐次「夕方から雨だって」

里菜「やるやる、ちゃんとやっとく」

祐次「いいよ、明日仕事行く前にやるよ」

里菜「あれ、今日仕事だっけ」

祐次「8連勤中だって」

里菜「あ、そうでしたそうでした」

祐次「今日でやっと5勤だよ」

里菜「あと3日もあるのか」

祐次「俺が言いたいよ」

里菜「大変だね、かわいそう」

祐次「心無いよね」

里菜「そんな事ないよ」

祐次「じゃあ洗濯お願い」

里菜「任せて」

祐次「何時間後にやるの?」

里菜「夕方までにやる」

祐次「だから夕方から雨なんだよ」

里菜「干して乾けばいいんだから大丈夫だよ」

祐次「不安・・・」

里菜「超大丈夫」

立ち上がり、仕事の支度を始める祐次。
その様子を見ながら、里菜が話しかける。

祐次「あ・・・そろそろかな」

里菜「次休みいつ?」

祐次「土日。里菜は?」

里菜「これが休み一緒なんだなー」

祐次「あ、ほんと?」

里菜「土日休み」

祐次「今週休み一緒か」

里菜「あそこ行きたい」

祐次「どこ?」

里菜「トマトのカツレツのお店」

祐次「ああ、あっちの。反対側の方ね」

里菜「そう。小学校の裏んとこ」

祐次「じゃあ俺、オムライス食べよ」

里菜「食べたことないの?」

祐次「うん、どうだった?」

里菜「普通だった」

祐次「他は美味しいのに普通なの?」

里菜「うん。私でも作れそうな感じ。」

祐次「じゃあパスタにする・・・」

里菜「今日はどうする?」

祐次「あとでメールする」

里菜「わかった」

祐次「夕飯決めといて」

里菜「わかった」

祐次「じゃ、いってきます」

里菜「いってらっしゃい」

部屋から出ていく祐次。
視線をやって、見送る里菜。

■chapter.05 one day_02
■里菜の部屋
足の踏み場も無い程、床に物が散らばっている。

里菜「ん・・・」

ベットの中、毛布を被っている里菜。
枕元に置いたスマートフォンからアラームが鳴っている。

里菜「・・・うっさいなァ・・・」

毛布から顔を出し、祐次からの着信である事に気づく里菜。

里菜「もしもし・・・。おつかれさま。うん。もう食べた。うん、わかってる。ん?うん、うん。洗濯物も入れた。大丈夫。ああ、帰りにチョコレート買ってきて。うん、何でもいいから。うん、じゃあね」

祐次との通話を終えると、携帯を投げつける里菜。
壁に当たった携帯が、床に落ちる。

里菜「痛たた・・・」

再び毛布を被ると、うずくまった体勢のまま手を伸ばして、毛布の端を掴む。

里菜「・・・」

里菜の呼吸音だけが、部屋に響いている。

里菜「我慢しなきゃ・・・祐次に怒られちゃう・・・」

里菜の呼吸音が次第に荒くなっていく。

里菜「あれ・・・?でも、今日我慢しても・・・きっとまた我慢できなくなるよね、私・・・」

毛布の端を掴んでいる里菜の手が血で滲んでいく。

里菜「そうだ・・・祐次に怒られる・・・怒られちゃう・・・、見捨てられちゃう・・・、我慢しなきゃ・・・我慢・・・我慢・・・」

里菜の荒い呼吸音だけがしばらく響く。

里菜「あ、でも・・・、そうだ」

毛布の中から伸びる手が、毛布の端を離して力なく落ちる。

里菜「次から、我慢すればいいんだ」

■chapter.06 interview_RINA_02

字幕:里菜さんは自分自身をどういう人間だと思っていますか?

苦笑しながら、考え込む里菜。

里菜「結構、マイペースかもしれないですね。急(せ)かされても、ゆったりしてる事が多いんじゃないかな」

字幕:どういう時に、自分がマイペースな人間だと思われますか?

里菜「え?どういう時?」

考え込む里菜 視線を上の方にやって、照れる素振りを見せながらゆっくりと考え込むと気まずい表情を浮かべる。

里菜「今ですかね」

字幕:確かに。結構悩んでましたね。

里菜「はい。なんか思い浮かばなくて・・・」

字幕:視線が泳いでいました。

里菜「恥ずかしい・・・。あ、でも祐次に何か頼まれたときに思うかも」

字幕:洗濯とか、家事を頼まれたときですか?

里菜「うん。私、自分でやろうって思った時にしか出来ないので」

字幕:結局、祐次さんがやる羽目になると?

里菜「祐次が私に見かねて先に始めて、私が手伝い始める感じですね。たまーに手伝う前に終わってて、申し訳ないなぁって思ってますけど」

字幕:祐次さんはどう思っているんでしょう?

里菜「呆れられてるかもしれません。もうしょうがないって」

字幕:ちなみに、祐次さんに怒られたことはありますか?

里菜「ああ・・・」

字幕の質問を考える里菜。
テーブルの上に頬杖を付いて考え込む。

里菜「ないですね、怒られたこと。祐次、優しいから。」

字幕:お付き合いを始めて4年になるそうですが、里菜さんは祐次さんのことは、わかってきましたか?

里菜「うん。長く一緒にいるから、ある程度は。祐次は多分、私のこと大体わかっているんだろうなって感じがしますけど。でも私は祐次のこと、未だに全然わからないところとか・・・ありますね」

■chapter.07 NEWS
■祐次の部屋
リビングで里菜が作った食事を食べている二人。
その傍らに置かれたテレビからニュース番組が流れている。

里菜「味濃すぎた」

祐次「そう?」

里菜「病気になる味」

祐次「いま食べてるんだけど・・・」

里菜「榊さんは反省しているよ」

祐次「これも、こないだ見てた料理サイトのやつ?」

里菜「そう。載ってたレシピ通りにやったんだけどさ」

祐次「そうなの?」

里菜「だから私は悪くない。あのサイトが悪い」

祐次「全然反省してないじゃん」

里菜「やっぱり悪くなかった」

祐次「開き直った」

里菜「これはもう二度と作らない」

祐次「明日は味の薄い料理?」

里菜「味は薄ければ濃く出来るからね」

祐次「まぁ、そうだけど」

里菜「食べて美味しければいいのだよ」

祐次「俺は好きだけどね」

里菜「え?これ?」

祐次「うん、美味しい」

里菜「味濃くない?」

祐次「俺は丁度いいかな」

タイミングよく里菜が手本にして作った料理サイトのCMがテレビから流れている。

里菜「あ、ほら。これだよこれ」

祐次「本とか出てるんだね」

里菜「定価じゃなかったら買う」

祐次「え、買うの?」

里菜「多分」

祐次「今さっき開き直ったばっかだよね」

里菜「古本屋に200円ぐらいで置いてたら買う」

祐次「買うんだ」

里菜「これはもう作らないけど」

祐次「いや、また作ってよ」

里菜「この味の濃さは病気になるよ」

祐次「里菜だって、結構食べてるじゃん」

里菜「決して嫌いじゃない」

祐次「なんだよそれ」

料理サイトのCM明けのニュース番組。
殺人事件のニュースが流れ始める。

「A区のゴミ捨て場から21日、切断された下半身の遺体が発見された事件で
捜査本部は近辺の捜査を進めていますが、以前として手がかりは掴めていない状態です。
なお、去年6月と8月にはB区で、今年9月と11月にはC区でも切断された下半身のみの遺体が発見されており、
警察は同一犯の犯行である可能性が高いと発表、捜査を進めています」

ニュースを見た祐次の顔付きが変わる。
里菜の表情が曇っていく。

祐次「里菜・・・」

里菜「・・・」

祐次「これ・・・ 」

里菜「・・・」

祐次「また、やったの?」

里菜「(頷く)・・・週末に、お腹痛くなって・・・、それで・・・」

祐次「生理来たの、次の週じゃなかった?」

里菜「あれは・・・」

祐次「・・・」

里菜「嘘、ついた・・・」

祐次「なんで?」

里菜「我慢、出来なかったから・・・」

祐次「・・・」

里菜「ごめん・・・」

祐次「・・・」

里菜「ごめんね・・・」

祐次「・・・もう」

里菜「ん?」

祐次「もう駄目だよ?」

里菜「駄目って?」

祐次「もうやっちゃ駄目だよ」

里菜「うん・・・、わかった」

2人とも食事を再開するが、会話は無い。

祐次「ごちそうさま・・・」

祐次が先に完食し、席から立ち上がる。

里菜「あの・・・祐次・・・、その・・・私・・・・」

祐次「こないだのアイスさ」

里菜「え?」

祐次「食べない?」

里菜「うん。食べる」

■chapter.08 interview_YUJI_02

字幕:学生時代の祐次さんの事を教えて下さい。

祐次「・・・普通の、学校生活でした」

字幕:都内の有名進学校に通っていらしたんですよね?

祐次「はい、そうです」

字幕:成績優秀だった印象を受けます。

祐次「そんなことありません。学年で中ぐらいでした。・・・普通です」

字幕:部活動は、されてたりしましたか?

祐次「映画鑑賞部っていう、視聴覚室で映画を見て、感想文を書いて顧問に提出する部活でした」

字幕:学生時代は、映画をよくご覧になっていたんですか?

祐次「そうですね。DVDをレンタルして週に何本も見ていました」

字幕:好きな映画のジャンルはありますか?

祐次「SFとかファンタジーとか・・・非日常的な作品が好きでした。
逆に、ラブストーリーとか、日常的な映画が苦手で・・・。
映画鑑賞部で、そういう映画を観る日は酷く退屈でした」

字幕:ラブストーリーが苦手と今お伺いしましたが、異性とのお付き合いはありましたか?

祐次「ありましたよ・・・。長続きしませんでしたけど」

字幕:それは、何故ですか?

祐次「よく覚えていません。・・・つまらなかったんじゃないですかね、普通で」

字幕:普通、ですか

祐次「はい、普通です」

■chapter.09 one day_02
■祐次の部屋
リビングで夕食を終えて、テレビを眺めている二人。

里菜「そういえばさ」

祐次「ん?」

里菜「最近お出かけしてないね」

祐次「そうだっけ?」

里菜「何か、変な絵見に行ったっきり」

祐次「変な絵?」

里菜「お風呂のタイルみたいなやつ」

祐次「ああ、近代美術展ね」

里菜「あとニワトリの顔した女の人のやつ」

祐次「ああー、あったあった。怖いって言ってたやつ」

里菜「なんでニワトリの顔してるのか意味がわからなかった」

祐次「なんか、殆ど眠そうに見てたよね」

里菜「近代美術は理解出来ない」

祐次「最後の方とか見てなかったよね」

里菜「パンケーキは覚えてる」

祐次「そんな絵あったっけ?」

里菜「美術館のところで食べたやつ」

祐次「絵じゃないじゃん」

里菜「あれは美味しかった」

祐次「ああ、でもね・・・」

里菜「ん?」

祐次「正直、俺も途中でちょっと眠くなった」

里菜「そうなの?」

祐次「里菜が眠そうにしてたからだよ」

里菜「移っちゃったんだ」

祐次「そう」

テレビからガラス細工の展覧会に関するCMが流れる。

里菜「あ、いいなぁ」

祐次「綺麗だね」

里菜「あ、これ。あそこでやってるんだ」

祐次「近いね」

里菜「これ行きたいなー」

祐次「また寝るんじゃない?」

里菜「これなら大丈夫だよ」

祐次「ニワトリの顔した女の人のガラスがあったらどうする?」

里菜「そんなのないよ」

祐次「あるかもしれないよ」

里菜「そうかな?あったら嫌だな」

祐次「ここから3,4駅だっけ?」

里菜「3駅だね」

祐次「じゃあ行く?」

里菜「行く」

祐次「いつ?今月は無理だけど」

里菜「来月からって書いてあったよ」

祐次「あ、ほんと?じゃあ来月行こう」

里菜「行く」

祐次「休み合うといいな・・・」

里菜「私が祐次の休みに合わせればいいんじゃない?」

祐次「大丈夫?」

里菜「うん、来週シフト出すからその前に休み言ってくれれば」

祐次「じゃあ大丈夫かな」

里菜「あ。あと帰りに手羽のお店行きたい」

祐次「あー、隣駅の?」

里菜「そう。ガード下のとこ」

祐次「いいよ」

里菜「やった」

祐次「とりあえず明日、休みわかったらメールするよ」

里菜「うん」

祐次「でも、今回も寝そうだよね」

里菜「寝ない・・・」

祐次「ほんとに?」

里菜「・・・と、思う」

祐次「なんだよそれ」

■chapter.10 interview_RINA_03

字幕:人をはじめて殺したのはいつですか?

里菜「中3の、夏です」

字幕:何人ぐらい?

里菜「覚えていません」

字幕:経緯を教えてください

俯いて考え込む里菜。

里菜「殺したくなったんです」

字幕:里菜さんが人を殺す理由は?

里菜「気持ちいいから、ですかね」

字幕:気持ちいい、とは?

里菜「性的な意味でしょうね。私、生理酷くて。 だからって事じゃないのかもしれないけど。 生理来た日の一瞬だけ、私が私じゃなくなるっていうか」

字幕:別の自分のような?

里菜「そうですね。自分が自分がじゃなくなる感覚はするんですけど、 どう言えばいいかな・・・?水の中にいる感覚っていうのかな。それで、自分の表面部分が溶けていって、 少しずつ、少しずつ、人を殺すときの感覚がたまらなく好きな・・・、別の自分になっていく、そういう感じです」

字幕:今、教えてくれた別の自分を、里菜さんは見たことはありますか?

里菜「意識ははっきりしているので、その時の自分も知ってます。 人間じゃない、アニメに出てきそうな怪物みたいな姿でした。 全身真っ黒で、とても大きな口で、 頭から腰の辺りまで噛み付いて、食い千切るんです」

字幕:それは、比喩的な例えですか?

里菜「いえ、違います。実際の話です」

字幕:怪物のような別の自分が、怖かったりしないんですか?

里菜「しないです。別の自分になっている時は気持ちがいいんです、とても」

字幕:別の自分でいるとき、祐次さんを殺したいと思ったことはありますか?

里菜「ありません。どうしようもないって思われるんだろうけど、 私、祐次とするの凄く好きなんです。 だから、祐次を殺したいって思った事は一度もありませんね」

字幕:祐次さんはいつから知ってるんですか?

里菜「付き合う前、私が酔って祐次の部屋にはじめて行った日、 家に着く途中で私、一人やったみたいで。祐次はそれを見てたみたいです。 だから色々考える時間が欲しかったって、付き合う日にファミレスで言われました」

字幕:じゃあ最初から?

里菜「うん。最初から知ってたみたいです。 でも、好きって言ってくれました。 私のこと好きだから、その事も黙ってるって」

字幕:祐次さんは人を殺す事について、どう思ってらっしゃるんでしょう?

里菜「駄目だよ、って言われます」

字幕:人を殺す事をやめようとは思わない?

里菜「最近は思ってます。祐次も嫌だろうから」

字幕:でも、出来ないと?

里菜「最近は少しずつ我慢出来るようになってはいるんですけど・・・中々難しいですね」

字幕:今も人を殺す事が快感と思う、別の里菜さんがいる。

里菜「そうです。私、祐次にバレないようにやってる時もありますから。絶対に言えませんけど」

字幕:人を殺す事を辞めれると思いますか?

里菜「そう思いたいです」

字幕:その事で、不安を感じることはありますか?

里菜「なりますよ。祐次に捨てられないか、不安になります」

字幕:そこまで不安に感じていても、我慢出来ない?

里菜「我慢するんですけど、最終的にもういいやって。自分の欲求に流されてしまいますね。それで祐次に嘘ついて、更に不安になるから・・・悪循環ですよね・・・」

字幕:未だに祐次さんのことがわからないと言ってましたが、知ろうとは思わないんですか?

里菜「それは、自分でもよくわかってないんです。知ったら、全部崩れちゃうんじゃないかって不安が強いから。でも、ちゃんと私に言ってほしいって気持ちもあります。だから、祐次のそういう部分、全然わかんないから、きっと不安なんでしょうね・・・」

■chapter.11 one day_03
自宅に帰ってくる祐次。

祐次「ただいま」

リビングの電気を点ける。
すると、自室から里菜が出てくる。

里菜「あ・・・、おかえり」

祐次「うん。なんか食べた?」

リビングの椅子に腰かけると、首を横に振る里菜。

祐次「調子悪い?」

頷く里菜。

祐次「風邪?」

里菜「いや・・・、多分」

祐次「ああ」

里菜「そろそろかな・・・今月・・・」

祐次「そっか・・・。明日さ、休みにしたんだよ」

里菜「そうなの?」

祐次「うん」

里菜「ありがと・・・」

祐次「あと、これね」

鞄からチョコレートと一冊の本を取り出して机に置く。

里菜「あ、これ・・・」

祐次「駅前のコンビニにあったよ」

里菜「定価で買ったの?」

祐次「買った」

里菜「わー、もったいない」

祐次「いいじゃん別に」

早速、本を読み出す里菜。

祐次「普通に読んでるじゃん」

里菜「そりゃあね」

祐次「こないだ作ったやつ載ってたよ」

里菜「病気になる味の?」

祐次「そう」

里菜「あ。あった」

祐次「こんな感じだったっけ?」

里菜「あれ?」

スマートフォンを手に取り、サイトを見始める里菜。

里菜「ねぇ、これサイトとレシピ違うんだけど!」

祐次「え、ほんと?」

里菜「ほら」

本とサイトを見比べる祐次。

祐次「味濃かったんじゃない?」

里菜「あ、掲示板に「作ったけど味濃かったです」って書かれてる」

祐次「ほんとだ」

里菜「薄くしたんだ」

祐次「クレームついたんだね」

里菜「でもこれで私の無実が証明されたね」

祐次「いや、こないだの美味しかったよ」

里菜「あの後、お茶飲みまくってたじゃん」

祐次「まぁ喉渇くね」

里菜「お茶全部飲んで、水飲んでたし」

祐次「夜中ね」

里菜「ねぇ、なんでいつもお風呂の水飲むの?」

祐次「俺、浴槽のお湯なんて飲まないよ」

里菜「違うよ。お風呂場の蛇口の水。なんで台所の飲まないの?」

祐次「冷たくて美味しい」

里菜「そうなの?」

祐次「比べてみたら?」

里菜「やだ。台所のでいいよ、私は」

祐次「ああ、そう」

里菜「うん」

祐次「でも、よかった」

里菜「ん?」

祐次「ちょっと元気になったみたいで」

里菜「あ、うん・・・」

祐次「明日休みでしょ?」

里菜「うん・・・」

祐次「俺、家にいるからさ」

里菜「ありがと」

祐次「明日は我慢出来そう?」

里菜「(頷く)祐次がいるなら、大丈夫かな・・・」

祐次「よかった」

里菜「・・・」

祐次「シャワー浴びてくる」

祐次が浴室に入っていく。
シャワーの音が部屋に漏れてくる。

里菜「・・・どうしようかな」

料理本を捲りながら、頬杖を着く里菜。

里菜「また、嘘ついちゃったよ・・・」

トマトソースのパスタのページを開くと、溜め息をつく。

里菜「私、なんで我慢出来ないんだろ・・・」

■chapter.12 interview_YUJI_03

字幕:お付き合いを始めて何年ですか?

祐次「4年半になります」

字幕:里菜さんの第一印象は、覚えていますか?

祐次「仕事が出来ないとか、物覚えが悪いとか、嫌な印象ばかりでした」

字幕:里菜さんのこと、嫌いでしたか?

祐次「そうですね。好きか嫌いか聞かれたら、嫌いでした」

字幕:では、祐次さんは何故、里菜さんとお付き合いされたのでしょうか?

じっと、険しい顔で考え始める祐次。

字幕:それも、よく覚えていませんか?

祐次「・・・いえ、言っていいものかと、思いまして」

字幕:教えていただけませんか?

祐次「・・・違ったんです、里菜は。普通じゃなかった」

字幕:はい。

祐次「里菜と付き合う前に、仕事先の飲み会で一緒になったことあるんです。
里菜、お酒すごく弱いんですけど、その日、無理して飲んでたらしくて、
お互い帰る方向が一緒って理由で僕、彼女を送っていく事になったんです」

字幕:そのお話は、里菜さんから聞かせていただきました。

祐次「そうでしたか。里菜と帰っている途中、コンビニに水を買いに行ったんですけど、
外に出てみたら、彼女がいなくなっていたんです。
探してみたら、直ぐ近くの路地で里菜を見つけました」

字幕:その里菜さんは、いつもの里菜さんでしたか?

祐次「いえ、それまで僕が見たこともない里菜でした
彼女は、下半身だけの死体に跨って、とても・・・、気持ち良さそうな顔をしていました」

字幕:その時、祐次さんは、何を思いましたか?

祐次「普通じゃないって、思いました」

字幕:警察に連絡しようとは、思いませんでしたか?

祐次「思いませんでした。咄嗟に彼女の手を引いて、僕の部屋へ連れて行って・・・彼女と寝ました」

字幕:それは、何故ですか?

祐次「彼女が、普通じゃなかったからです。
僕、学生時代に付き合ってた人から“普通でつまらない”って言われたことがあるんです。
それから、その言葉が自分の中でずっと引っ掛かっていて
普通じゃあない、何かに憧れていた節があると思うんです」

字幕:つまり、里菜さんとお付き合いされた理由は、普通ではなかったからだと?

祐次「・・・そうです。僕、いま人殺しを犯してるんだって・・・、
これで僕も、普通じゃないんだって、そう思いながら、今でも彼女と寝ています」

■chapter.13 one day_04
深夜。帰宅する里菜。
リビングで祐次は本を読んでいる。

里菜「ただいま・・・」

祐次「おかえり」

リビングに現れた里菜が着ている白い衣服が、
夥しい量の血で染まっている事に祐次が気付く。

祐次「里菜・・・」

里菜「ごめん」

祐次「なんで・・・?」

里菜「我慢出来なかった」

祐次「・・・」

里菜「やっちゃった・・・」

祐次「とりあえずさ、着替えなよ」

里菜「・・・我慢するって先月も、その前も、その前も言ったのにね」

部屋の片隅に干した里菜の服をハンガーから外す祐次。

里菜「ごめんね・・・我慢できない。どうしても・・・」

祐次「・・・」

里菜「祐次さ・・・・」

祐次「ん?」

里菜「なんで、私といられるの?」

祐次「なに?」

里菜「約束、ちっとも守らないのに」

祐次「・・・」

里菜「嘘ばっかりなのに」

祐次「・・・」

里菜「なんでさ、いつも怒らないの・・・」

祐次「・・・」

里菜「わからなくなっちゃう」

祐次「・・・俺が?」

里菜「(頷く)不安なんだよ、私。凄く不安になる・・・、ダメだって・・・自分でね、ちゃんとわかってるんだよ?」

祐次「うん・・・」

里菜「でも、やっぱり無理なの・・・」

祐次「・・・ほら」

里菜に着替えを、そっと手渡す祐次。
里菜は俯いて、泣く事を堪えている。

里菜「駄目だよ、優しくするの。駄目」

祐次「・・・」

里菜「もうちょっと、厳しくした方がいいよ・・・」

祐次「そう?」

里菜「私、きっと怖いんだ・・・」

祐次「・・・俺が、何にも言わないから?」?

里菜「付き合った頃からわかんなかった。今も祐次のこと、ちゃんとわからないもん」

祐次「・・・そうだったんだ」

里菜「私、可愛くないしさ。目細いし、肌荒れまくっててニキビの跡ばっかだし、頬骨出てるし、お腹たるんでるし・・・」

祐次「・・・」

里菜「人殺すし。何回言われても我慢出来ないし・・・」

祐次「うん・・・」

里菜「祐次に嘘つくし」

祐次「・・・」

里菜「でも祐次は何も言わないから。いつも優しく許してくれるから」

祐次「・・・」

里菜「だから、不安になる。いつか、祐次と別れて、一人きりになったとき、私どうなっちゃうんだろうって」

祐次「・・・」

里菜「怖くなるの・・・」

祐次「・・・」

里菜「祐次さ、なんで私と一緒にいるの?」

祐次「・・・」

里菜「嫌でしょ?もう別れたいでしょ?いいよ、もう無理しないで。言ってよ、嘘つきでどうしようもない奴だって私のこと思ってるんじゃ━━」

里菜が言葉を言い終えないうちに、祐次が里菜を抱き締める。

祐次「・・・ごめんね」

里菜「・・・血、付いちゃうよ」

祐次「大丈夫・・・」

祐次の手がそっと、里菜の頭を優しく撫でる。
里菜は祐次に顔を見せないように泣いている。

里菜「・・・」

祐次「ごめんね」

里菜「なにが・・・?」

祐次「ちゃんと言えばよかったね」

里菜「なにを・・・?」

祐次「いや・・・、何考えてるか、わからなかったんでしょ?」

里菜「・・・どう思ってるの、わたしのこと」

祐次「うん・・・」

里菜「・・・」

祐次「言うの、恥ずかしい・・・」

里菜「おしえて・・・」

祐次「・・・」

里菜「祐次・・・」

祐次「好きだよ、全部」

里菜「・・・」

祐次「喋っててたまに適当に返事するとこも、洗濯サボるとこも、寝ながらお尻掻くとこも」

里菜「ちょっと・・・」

祐次「自分のこと、ちゃんと考えて悩んでるとこも」

里菜「うん・・・」

祐次「俺も、不安になるんだよ」

里菜「わたしのことで・・・?」

祐次「そりゃそうだよ、心配になる・・・」

里菜「警察に言おうとか、思ったことないの?」

祐次「ないかな」

里菜「なんで?」

祐次「楽しいから、じゃない?一緒にいて」

里菜「・・・」

祐次「好きなんだよ、全部」

里菜「うん・・・」

祐次「あ。嘘つかれるのは好きじゃない」

里菜「ごめん・・・」

祐次「もう、駄目だよ・・・?」

里菜「うん・・・」

祐次「よかった・・・」

里菜「祐次・・・」

祐次「ん?」

里菜「ありがとう」

■chapter.14 interview_RINA_04

字幕:祐次さんのこと、好きですか?

里菜「好きです」

字幕:どういうところが、好きですか?

里菜「どういうところ?」

考え込むと、苦笑を浮かべる里菜。

里菜「なんかそう聞かれると、迷いますね。そこは祐次と一緒かもしれない」

字幕:全部、ですか?

里菜「うん、そうですね。全部・・・、好きなんだろうなー」

字幕:祐次さんと一緒ですね。

里菜「うん。そうです」

字幕:話は変わりますが、あれから三ヶ月経ちましたがどうですか?

里菜「前より不安じゃなくなった、かな・・・」

字幕:今月も我慢出来ましたね。

里菜「そうですね。でも今月は大変だったんですよ。祐次も飲み会でいなかったから危なかったです」

字幕:よく我慢できましたね。

里菜「いや、玄関出るところで丁度、祐次から電話かかってきて「今どこ!?」って」

字幕:すごいタイミングですね。

里菜「今、家に着いたところって言って慌てて引き返しました」

字幕:家に戻って大丈夫でしたか?

里菜「大丈夫でした。まぁ、辛かったですけど・・・」

字幕:里菜さんも、少しずつ普通に戻れているという事でしょうか。

里菜「そうですね・・・、そうだといいな」

字幕:最後に、もう一度聞かせてください。祐次さんのこと、好きですか?

里菜「大好きです」

字幕:ありがとうございました。

■chapter.15 one day_05
■祐次の部屋
部屋でテレビの最新映画特集を見ている祐次と里菜。

祐次「ああ、この監督なのか・・・」

里菜「好きな人?」

祐次「うん。この人の映画、高校の頃好きでよく見てた」

里菜「ああ、なんだっけ。映画見るだけの地味な部活」

祐次「映画鑑賞部ね」

里菜「野球部とかサッカー部にすればよかったのに」

祐次「嫌だよ」

里菜「陸上部は?」

祐次「やだ」

里菜「運動するの嫌い?」

祐次「嫌いじゃないけど、野球とかサッカーとか陸上って、いかにも部活って感じがしてさ」

里菜「そーなんだ。まぁ、私は運動するの嫌いだったけど」

祐次「入ってなかったんでしょ、部活」

里菜「うん。うちは任意だったから」

祐次「そうなんだ。でも、楽しかったよ、映画鑑賞部」

里菜「あ、これ、来週から公開だって」

祐次「休み取って見に行こうかな。新作久々だし」

里菜「私も行きたい」

祐次「え?」

里菜「私も一緒行く」

丁度、映画特集が終わり、テレビのチャンネルを変える祐次。

祐次「・・・いや、でも。ホラー映画だし、やめといた方がいいんじゃない?」

里菜「なんで?」

祐次「見てる途中で、帰りたいって言いそうだし」

里菜「言わないよ」

祐次「ああ、でもさ・・・」

里菜「なに?」

祐次「いや、映画やってる途中で、気分悪くならないかなって・・・」

里菜「絶対ならないし。ていうか私も、あの監督の映画は」

祐次「(遮って)俺、ちょっと買い物行ってくる」

里菜の言葉を無視して立ち上がり、足早に部屋から出ていこうとする祐次。

里菜「あ、逃げた。ちょっと待って祐次、榊さんは今とても牛乳が飲みたいから一緒に行く」

■chapter.16 interview_YUJI_04

字幕:もう一度聞きます。里菜さんのこと、好きですか?

祐次「・・・好きではありません」

字幕:祐次さんは先ほど、ご自身の事を檻だとおっしゃいました。
好きではない相手に対して、祐次さんが檻である必要はあるのでしょうか?

祐次「・・・さっき、僕が里菜のことを深く愛しているように見えるって、言ってましたね。
多分、それは違っていて・・・、僕が本当に好きなのは、里菜ではないんです」

字幕:どういう事でしょうか?

祐次「僕は別に、里菜じゃなくてよかった。僕は、普通ではない非日常を愛しているんです。
だから僕は、僕が愛しているものが、遠く離れていかない為の、檻である必要があるんです」

字幕:その為なら、里菜さんが人を殺すことも許容すると?

祐次「許容はしていません。僕だって、彼女の得体の知れない部分が怖くてたまらないんです。
でも、彼女のそうした部分に、僕が愛しているものが含まれているんです。仕方が無いんですよ」

字幕:ここ数ヶ月、里菜さんは普通に戻ろうと努力されていますが、どうお考えですか?

祐次「戻れないと、僕は思いますけど・・・、絶対無理だと思いますよ」

字幕:では、もし里菜さんが祐次さんの為に、人を殺すことを完全にやめたら、どうしますか?

祐次「仮に、もしそうなったら・・・・・」

字幕:祐次さんは今まで通り、里菜さんと一緒にいますか?

祐次「・・・もし今後、里菜が人殺しを辞めたら・・・」

字幕:里菜さんが、人殺しを辞めたら?

祐次「僕、きっとおかしくなって・・・、里菜を・・・、彼女を・・・、殺してしまうと思います」

■chapter.17 Epilogue
■祐次の部屋
リビングで外出の準備をしながら話す二人。

里菜「どうしようね」

祐次「14時(にじ)からの回でいいんじゃない?」

里菜「お昼の回、間に合うでしょ」

祐次「いや、このあと俺が一人で洗濯しないといけないから無理だね」

里菜「ぜんぜん信用されてないね、私」

祐次「ガラス展のとき、最悪だったから」

里菜「私、ちゃんと目覚ましかけて早起きしたじゃん」

祐次「早起きしたけど、すぐ二度寝したよね」

里菜「そうだったっけ」

祐次「寝てる間に俺一人で全部、家事やったよ」

里菜「あ、起きたら終わってた気がする」

祐次「しかも、着いたら眠そうにしてるしさ」

里菜「それはきっと、早起きしたからだね」

祐次「二度寝してたじゃん」

里菜「あー、ガラス展の事はパフェしか覚えてない」

祐次「パフェ?」

里菜「うん、チョコレートの」

祐次「え、そんなのあった?」

里菜「上の喫茶店で食べたやつ」

祐次「ガラス展関係ないじゃん・・・ていうか、洗濯するね」

里菜「私も手伝ったらお昼の回に間に合うかな」

祐次「いや、普通に手伝ってよ」

洗濯物を終えた二人が、急いだ様子で玄関から出てくる

祐次「鍵ちょうだい」

里菜「私、持ってないよ」

祐次「あ、そうだ」

ポケットから鍵を取り出す祐次。

里菜「わー、風つめたい」

祐次「ていうか、意外だった」

里菜「なにが?」

祐次「見に行く映画」

里菜「ホラーは嫌いじゃないよ」

祐次「ああ、そうじゃなくて」

里菜「ん?」

祐次「怪物の女の子が、恋した男を食べるって内容だよね」

里菜「うん」

祐次「嫌じゃないの?」

里菜「え、なんで?」

祐次「・・・嫌かな、って思ってたから」

里菜「全然。待望の続編だからね。超面白そう」

祐次「そうなんだ」

里菜「うん。あ、言うの忘れてたけど、私もあの監督の映画好きなんだよね。実家にDVDあるよ」

祐次「・・・」

里菜「なにさ?」

祐次「いや、この前、同じこと言われたけど、俺は里菜の事がよくわからない」

里菜「そう?」

祐次「うん」

里菜「映画、一緒に見るの嫌だった?」

祐次「ううん、そんな事ない」

里菜「ふふ、はい、手貸して」

祐次「・・・」

里菜の手をそっと握る祐次。

里菜「行こ?」

祐次「うん」

寄り添う二人が、雑踏に消えていく。


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