ナイトダンス
作者:ススキドミノ


【※最初に】
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シュウ・ローエン:剣の名門、ローエン男爵家の次男。優れた剣術と正しい心根から、時季のナイト称号に最も近いと目されている。

オズ・ジーナス:議会に席を持つ、ジーナス公爵家の三男。類まれなる剣の才を持つが、遊び人であり、問題も多い男。
        シュウとは幼友達の間柄ではあったが、前季の騎士決定戦に置いてシドに敗れた。

シド:戦奴隷として育った天蓋孤独の男。その英雄的な強さ故に奴隷闘技場でも人気が高い。
   信心深いその姿を気に入った王の計らいにより、全季の騎士決定戦にてオズと戦い、勝利した。




※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
















 <シンド・ラ王国、首都ドラウス>
 <シュウは深夜の協会を訪れている>

シュウ:……誰か、おられますか。司祭殿は――

 間

シュウ:こんな時間では無理もない、か。

 <シュウは椅子に座る>

シュウ:我らが母ルディーネ……不躾な訪問をお許しください。
    できることならば少しだけ、ここで心を落ち着ける時間を頂きたく思います。

 <シュウは手を握って像に祈りを捧げる>
 <しばらくそうしてその場で手を合わせている>

シュウ:(ため息)……ダメだ……どうにも落ち着かない……。
    これならば、剣でも振っていた方が良かった……。

 間

シュウ:そういえば……雑念混じりの祈りなど、不敬だと怒っていたのは誰だったろう――

オズ:そりゃ、お前だ。

 <オズはシュウの背後の椅子に座っている>
 <シュウは驚愕に目を見開いた>

シュウ:……お前は……オズ?

オズ:おいおい、こんな美青年。他に誰が居るってんだよ。

シュウ:どうして、お前が……。

オズ:さあな。それこそ、女神ルディーネの思し召しってやつじゃねえのか。

 <オズはにやりと笑うと、前の椅子に足を乗せる>

オズ:俺が行事だなんだで仕方なしに祈ってると、『雑念混じりの祈りをするな』っていちいち突っかかってきたのは、お前じゃなかったか? シュウ。

シュウ:確かに……そんなことも言ったことがあったな。

オズ:だが、そんな信心深いお前さんが、深夜の教会に侵入とは。

シュウ:……悪意はない。それに、神に懺悔はした。

オズ:そんなもんに何の価値があるのかは知らないけどねえ。
   話なら、そんな石像なんかにじゃなく、俺にしてみろよ。

シュウ:……お前に? 相談があるというなら、お前のほうじゃないのか?

オズ:俺が? どうして。

シュウ:教会にオズ・ジーナスだぞ? 考えられるか? 好色で不真面目、気分屋のお前が教会にいる。
    語る理由が『女神の思し召し』と来ている。よほど深い悩みがあるに違いない。

オズ:(吹き出して)……確かに。おっしゃるとおりだな。

シュウ:……別に、僕に悩みなんてない。今この瞬間も、僕は寝ているのかもしれない。

オズ:夢を観ているって?

シュウ:ああ、そうだ。

オズ:夢なら女の夢を観ろよ。

シュウ:お前ではあるまいし。

 <シュウはオズの前の席に座る>

シュウ:女神のお心はわからない。ただ、ここでお前と話しているのは偶然ではないのかもしれない。

オズ:明日がお前の騎士決定戦(ナイトダンス)だからか?

 <オズは両手を広げて空を仰ぐ>

オズ:時期の騎士(ナイト)昇格を決める為に行われる、真剣での果し合い。
   我らがシンド・ラ王国に数百年に渡って語り継がれる剣闘の祭事。

シュウ:何を今更当たり前のことを……。

オズ:じゃあこんな紹介はどうだ?
   年に一度とあって、他国からも多くの人が見ものに訪れる!
   巷じゃあ金持ちが金を撒き、貧乏人は有り金を賭ける!
   騎士候補同士が一対一で、闘技場の中で対峙する! 打ち合いの果て、勝てば騎士となり富と領地を得る!
   老いも若きも流れる血の匂いに熱狂するイカれたパーティ!
   それが――ナイトダンス!

シュウ:全く……。

オズ:ああ、言い忘れてた。負けた方は死ぬ。

シュウ:あいも変わらず芝居がかった言い方をする。

オズ:的を射た口上だろ?

シュウ:……ナイトダンスは誇りと魂をかけた儀式だ。お前がどれだけ斜めから見ようがな。

オズ:誇りと、魂ねえ……。

シュウ:そうだ。

オズ:流石は伝統あるナイトダンスの最終試合を戦う男。
   『ナイトたるもの信心深く清廉であれ』という格言を地で行ってるな。

 間

オズ:それとも……そんな姿は見せかけだけで、内心は雑念だらけだったりするのかい?
   ローエン男爵家次男、シュウ・ローエン。

 間

シュウ:お前の……そういうところが嫌いだ。いつだってこちらの痛いところを見透かしてくる。

オズ:おいおい……傷つくなあ。兄弟同然に育ったってのに。

シュウ:兄弟同然だからこそ、お前の良いところも、悪いところも知っているさ。オズ。

オズ:それは俺にも言えることだが――まあいい。
   二度目になるが……話なら俺にしろ。シュウ。いるかもわからない女神なんぞにじゃあなくてな。

シュウ:全く……。面倒見がいいというか、お節介というか……。

オズ:良くも悪くも、な。

 <シュウはオズの前の椅子に座る>

シュウ:なあオズ……ナイトになりたいと思ったのはいつからか、覚えているか。

オズ:いつ? 俺は別にナイトになりたいと思ったことはないぜ。

シュウ:いいや、お前はナイトになりたかったはずだ。

オズ:どうしてそう思う。

シュウ:ジーナス公爵は、我が国の議席を持つ大貴族。しかし、三男のお前は家督を継ぐことはできなかった。

オズ:まあ、そうだな。兄貴共は二人共優秀だし、市政や勉学も、ともすれば社交でも落ちこぼれの俺にとっちゃ、家督を継ぐなんて逆立ちしたってできやしなかったぜ。
   巷じゃあ、数年に一度の馬鹿貴族、ジーナス家の面汚しなんて呼ばれてたもんな。

シュウ:僕は別にそこまでは言ってないぞ……。

オズ:気を使うな。だが、そんな俺にも取り柄はあった。

シュウ:ああ……。お前には、剣の才能があった。

オズ:否定はしないぜ。それも、とびっきりの才能がな。

シュウ:……お前は、ナイトになりたかったはずだ。

オズ:ところがそいつは違う。

シュウ:何故そう言い切れる?

オズ:確かに、俺に剣の才能があるとわかってから、周囲は俺を見直したさ。
   女遊びばかりで、不真面目な俺の態度を咎めることもなくなったし、生きやすくはなった。
   だが――おっと、お客さんだ。

シュウ:客?

 <シュウが振り向くと、教会の入り口にシドが立っている>

シド:……すまない。開いているとは思わなんだ。

シュウ:君は……。

シド:祈りの邪魔をするつもりはなかった。俺も祈りを捧げたかっただけでな。

オズ:(ニヤついて)……これもまた、女神の思し召しってやつかな?

 間

シド:俺の顔に、何かついているか?

シュウ:……君は、僕を見ても何も思わないのか。

シド:……すまない。俺は世俗には疎くてな。何か、問題があるのか。

 間

シュウ:いや……何もないよ。

シド:では、席を。

シュウ:僕の許可はいらない。女神の前に、皆等しく祈る権利がある。

 <シドは席に座り手のひらを合わせる>

シド:女神ルディーネよ。今宵の祈りの機会に感謝します……。

 <シュウはしばらくシドの様子を眺めている>

シド:……まだ何か?

シュウ:え――あ、いや、すまない。祈りの邪魔をするつもりはなかったんだが。

 <シドは自らの首筋を指差した>

シド:この地域では、俺のような奴隷は珍しいだろうか。

シュウ:え?

シド:この首に刻まれた奴隷の印が気になるのでは? 見たところ、貴族に見える。

シュウ:いや……君のような屈強な男が、夜中にお祈りをしているのが珍しくて見ていただけだよ。

シド:へえ。

シュウ:それに、女神の前では身分などなんの意味もない。

シド:俺も、そう信じたいがね。

シュウ:……そうではないと?

シド:産まれながらに奴隷として生きていれば、女神様にも目の届かない暗がりがあることには気づくものさ。

 <シドは顎に手を当てた>

シド:しかし、あんたも変わった貴族さまだ。俺のような奴隷に言い訳などいらんというのに。
   奴隷に同じ場所で祈らせるというだけでも、相当変わってる。

シュウ:……なるほど。決めつけとはこういうものか。奴隷だからこう、貴族だからこう――と。

シド:は?

シュウ:されてみると存外、気分が悪いものだな。普段からそんな扱いをされているというなら、同情する。

 間

シュウ:どうした?

シド:……いや、なんだ。本当に変わってやがる。

シュウ:僕は別に変わってなんかないさ。自分は、自分だ。身分が生きているわけではないさ。

シド:……へえ。そうかい。

 <シドはシュウを見つめる>

シド:……ところで、誰かと話していたようだったが?

シュウ:古くからの友人と少し話を。

シド:友人と話、か。

シュウ:どうにも眠れなくてね。そういうときはつい、教会に足を運んでしまう。

シド:それに関しては俺も同じだ。奴隷とはいえ、御主人のところを抜け出してきたわけじゃないぜ?

 <シドは背もたれに背を預ける>

シド:実は俺は『戦奴隷(いくさどれい)』でね。毎日のように闘技場で殺し合いをしてる。
   だが、明日は年に一度のパーティってことで、今夜は自由に過ごしていいって言われてんのさ。
   仲間たちは女を買いに行ったり、酒を飲みに行ったりしてるがね。

シュウ:お前は街に出ないのか?

シド:正直に言うと、俺は戦奴隷の中でも特別でね。酒や女には事足りてるんだよ。
   それに……毎夜、部屋の片隅に自分で作った祭壇に祈ってるものだからな。
   ここは、街でも最も綺麗な教会だろう?

シュウ:ああ。俺もそう思う。ここは、この城下でも最も古い教会なんだ。

シド:で、あんたは?

シュウ:僕……?

シド:あんたはどうしてここに? 俺が話したんだ、あんたも語るのが道理じゃないのか。

 間

シュウ:僕は……迷っている。

シド:へえ、何に?

シュウ:それが……わからないんだ。

シド:そうか……。難題だな。古い友人はなんて言ってる?

シュウ:え?

シド:その友人に、相談しにきたんじゃないのか?

シュウ:いや……そういうつもりではなかったんだけどな。

シド:でも?

シュウ:そういうやつなんだ。いつも突然、僕が何に悩んでいるかもわからない頃に、現れる――


 ◇

 <場面転換・数年前・シュウとオズが今よりも少し幼かったころ>
 <シュウの部屋>


オズ:シュウ! いたな!

シュウ:……オズ? なんだ、突然――

オズ:匿ってくれ! 何も言わず! 入るぞ!

シュウ:お、おい! 人の部屋に勝手に……!

 間

オズ:……行ったか。

シュウ:今のは誰だ?

オズ:ここのメイドのエリーゼだよ。

シュウ:どうしてエリーゼがお前を追い回す……。

オズ:そりゃあ、まあ。手を出したんだけどな。

シュウ:お前は……!

オズ:まあまて! 最後まで聞け! 手を出したんだけどな、ほら、あの娘ってちょっと夢見がちだろ?

シュウ:それがなんだ……!

オズ:いやあね、結婚してやるって口説いたもんだからその……。
   結婚する気が無いって言ったらもうカンカンでさ。

シュウ:お前が悪い! 大人しく責任をとってこい!

オズ:まだ続きがあるんだよ! そうしてエリーザが俺に詰め寄ってきたんだが、それをクリスが聞いててな……。

シュウ:まさかお前……! メイド長のクリスにも手を出したのか!?
    お前は一体うちの屋敷をどうしたいんだよ!?

 <ドアをノックする音が聴こえる>

オズ:ヤバイ! 居場所がバレた!?

シュウ:全く……! ベランダから逃げるぞ!

オズ:流石親友! 頼りになるぜ!


シュウN:あいつは――いつも騒動ばかり持ち込んでくるやつなんだ。


 <街を見渡す鐘楼の上>

オズ:今日は全く、嫌になるほどいい天気だなぁ。

シュウ:……呑気なことをいうな。僕はどんな顔をして屋敷に帰ればいいんだ。

オズ:いやぁ、悪いな。ははは。

シュウ:全く……お前は一つ褒められると、その倍は問題を起こすんだな。

オズ:んー?

シュウ:団長から直々に褒められたと聞いたぞ。

オズ:ああ、この間の訓練の時に呼び出されてな。急に『剣を取れ、オズ・ジーナス』だもんな。

シュウ:それで?

オズ:しばらく逃げ回ってたんだがな、怒った団長の力任せの一太刀をいなして、つばに剣先を突きこんでだな。
   こう! ポーンと!

シュウ:弾いたのか? 団長の剣を!

オズ:振り下ろした瞬間ってのは体重が乗ってるだろ? その力を利用したってわけさ。

シュウ:それが簡単にできたら、僕らは皆ナイトになってる。

オズ:ま、俺は天才だからな。

シュウ:悔しいが……それが本当なら、お前は確かに天才だ。

オズ:何を落ち込んでるんだよ。お前だって、時期のナイト候補筆頭だろ?

シュウ:僕は……お前よりずっとずっと鍛錬をして、それでようやくだ。

オズ:……そうか?


シュウN:でも僕は、そんな彼の生き方にどこか、憧れていたんだ。


オズ:シュウ。努力もまた、才能だ。

シュウ:何を――

オズ:(笑って)いいから聞け!

 <オズはシュウの隣に座る>

オズ:みろ、この城下を。これだけの人間が歩いていて、どいつもこいつも上を見ようとしない。
   その証拠に、俺達がこの鐘楼から見下ろしていることに誰も気づきやしない。
   足元に何かが落ちてないか、石に足を取られて転ばないか、下を見ながら歩いてる。
   上を見るときは、雨が振りそうなときか、嵐か、それかある日突然火の矢が降ってきたときくらいなもんだ。
   だが、それがこの街で生きるってことなんだよ。
   (間)
   俺はこいつらみたいに生きるのはごめんだ。決められた階級やなんかに縛られて生きるのは向いてない。
   俺はいつだって見上げるなら上がいいのさ。地に足がついていなくたっていい、できることなら鳥のようでありたいよ。

シュウ:オズ……。

オズ:だが、彼らには導く人間が必要なんだ。この街を守り、導く人間が。模範となり、規律をもたらす人間が。
   それができるのは、お前だけだと思ってるよ。シュウ・ローエン。お前は政治をやるべきだ。
   お前は信心深く、真面目で、剣の腕も立つ。それにお前は、俺のような落ちこぼれを、友と呼んでくれる。
   信仰の薄い俺でもわかるほど、良い魂を持ってる。

シュウ:買いかぶりだよ。オズ……僕はそんな大した人間じゃない。

オズ:いいや、お前はそんな大した人間だ。シュウ。
   自分から見た自分なんてものは、できの悪い歪んだガラス玉を覗き込んだようなものなんだよ。
   本当の自分というものは、友を通してこそ見えるものさ。

シュウ:じゃあお前は、僕を通して自分を見ているというのか?

オズ:ああそうさ。良くも悪くもな。


シュウN:あいつは、僕の憧れだった。


シュウ:……なら認めろ。

オズ:何を?

シュウ:僕がお前からみてそうだと言うなら。オズ・ジーナスは、どういう男かってことを。

オズ:おいおい……勘弁してくれよ。

シュウ:宰相ジーナス家の人間として、落ちこぼれだと言われているが、そんなことはない。
    オズ・ジーナスはすべての民を平等に見れる男だ。
    身分や、常識にとらわれず、自由な視界でこの国をみることができる。
    俺は、お前のような人間こそ、この国に求められる人間だと思っているよ。

オズ:全く……どうせその後に続くんだろ?

シュウ:ナイトになろう! オズ!

オズ:ほらな……またそれか。

シュウ:僕達がこの国を守り導く方法があるとしたら、ナイトになるしかない!
    それに、僕もお前も剣は得意だし、それに――僕にはライバルが必要なんだ!
    お前だって、僕がいないと困る! そうだろう!?

オズ:……そりゃあまあ。

シュウ:だろう! じゃあ、ナイトになるんだ! どうだ!

オズ:ま、俺なんぞに栄誉あるナイトダンスの権利が回ってくるとは思えないけどな。

シュウ:いいんだな! 約束だぞ!

オズ:わかったわかった! ……ったく、自分の言ったことに首しめられちまったなぁ。
   お前に言われちゃ、断れねえんだ。俺は。

シュウ:お前のような男は、自由で居すぎると飽きるものだよ。
    少しは責任を背負ったほうが、自由を満喫できるというものさ。

オズ:(笑って)違いない! あーあ! ちょっと真面目にやってみるかぁ。


 ◇

 <シドは、シュウの話を黙って聞いている>

シド:なるほど。良き友であったんだな。

シュウ:僕にとっては、そうだった。

シド:そうか。

 間

シド:しかし――後ろめたい。

シュウ:え?

シド:いや。なんとなくだが、そう感じた。

シュウ:後ろめたい……僕が……?

 間

シュウ:どうして、そう思うんだ?

シド:……古い友人と語らうとき、俺も同じような顔をしているのだと思ってな。

シュウ:君は、戦奴隷だったか。

シド:ああ。

シュウ:では、友人というのも?

シド:そうだ。みんな戦奴隷さ。あんたは、奴隷の剣闘を見たことは?

シュウ:……小さい頃に何度か。僕はあまり夢中ではなかったが、周りでは良く話題になっていたよ。

シド:そうか。それは残念だ。
   ……俺達は月に数回戦う。興行が多ければ週に一度なんて月もあるがね。
   闘技場がある街を行き来したりするときは、月に一度なんてときもあるが――話が飛んじまったな。
   一度勝てば、次の戦いまでは生き残れる。
   戦いに勝つと、気分が高まるんだ。気前よく酒や飯が振る舞われるし、それこそ祭りみたいなもんだ。

シュウ:そうなのか。

シド:想像とは違ったか? まあ、薄汚い生活には変わりないが、それでも食い物に困るよりはずっといい。

シュウ:……食事に困る。

シド:とにかく。そんな生活をしてると、自然と仲間意識が芽生えてくるもんさ。
   今回も生き残れたな。次も必ず買って酒を飲むぞ。今日はどんなやつを殺した。内容は碌でもないが、友人さ。
   そして、一緒に居るのが楽しくなってきたころに――今度はそいつと殺し合うことになるんだよ。

シュウ:……え? 友人と、試合をするのか……?

シド:皮肉なもんだろ? あんまり勝ち続けてると、観客は思うのさ。一体どっちが強いんだ? ってな。
   そういう日の試合の前は、相手が誰かは知らされないんだ。
   お互いに傷だらけの兜をかぶって入場すると、観客は大入り。相手が強者だと悟る。 
   数度に渡って打ち合っているうちに、相手のことなんてどうでもよくなっちまう。
   気がつけば、相手は足元に倒れてる。そいつの兜を外すと、友人なんだ。

シュウ:なんという――酷すぎる……!

シド:仕方がない。俺は奴隷だからな。
   友人を殺した夜は、神に祈る。友は、許してくれるだろうか。
   そして許しを乞いたくなる。友を殺してまで生き残っている、この身の後悔を――どうか許してほしいとな。

 間

シュウ:僕は――

シド:すまないな。俺を相手に話してくれる人間は少なくてね。
   ついつい語りすぎてしまう。許してくれ。

シュウ:……いや。語ってくれて感謝するよ。

シド:本当に、珍しいめぐり合わせだ。あんたのような男に出会える夜もまた、女神の思し召しだな。

シュウ:女神の――確かに、そうかもしれない。

 <シュウは椅子に深く腰をかける>

シュウ:僕は貴族なんだ。

シド:その身なりを見れば、誰だってわかるさ。

シュウ:僕はずっと、貴族としての在り方に疑問を抱いてきた。
    確かに、王に従いこの国を守る為に、貴族が担うべき役割は、簡単なことではない。
    しかし、生活に困窮し、生きることもままならない国民がいることも事実。
    命は天秤には乗らないと知っていても、政(まつりごと)もまた生きる国を守るためのもの。

 間

シュウ:どちらでもないのなら、どちらにもなれる。僕の友人はそういった。
    だが僕はこの後に及んでまだ迷っている。
    君が言うように、僕はきっと――後ろめたいのかもしれない。


 ◇

 <一年前のナイト・ダンス>
 <大トリの試合・入場ゲートで肩を並べるシドとオズ>

シド:女神よ……この身に感謝いたします……願わくばこの血肉朽ち果てるとき、貴方様のもとへ……。

オズ:……よう。お祈りかい。栄誉あるナイトダンスの前だってのに、熱心だねえ。

 間

オズ:信心深さを理由に王の庇護を受けてナイトへの挑戦権を得たと聞いたが。
   噂通りだな、奴隷の英雄オズ。

シド:……お前はいいのか? 名も知らぬ貴族よ。

オズ:残念。俺ってばちょっとばかし女神とは喧嘩中でね。

シド:……死せば誰もが女神に抱かれる。安心しろ。

オズ:だと、嬉しいがねえ。俺は抱くばっかりで、抱かれる方はからっきしでさ。

 間

オズ:あんたの試合は、何度も見てきたよ。

シド:そうか。

オズ:ああ。何度も儲けさせてもらった。

シド:……そうか。

オズ:俺は、好きだぜ。あんたみたいな戦士は。

 間

オズ:それに、必要だと思ってる。あんたみたいな男が。

シド:は?

オズ:この国の連中の脳みそには、血がこびりついてる。
   そもそも何だよ? ナイトになるための儀式が、血みどろの殺し合いだぁ?
   脳みそにこびりついた血が固まって、もう動いてやしないのさ。

シド:……俺の知ったことではないな。

オズ:だからさ。そういう男が必要なんだよ。
   貴族であり、正確に難ありだが剣の天才。庶民からの人気も高く、顔も良い――あ。これは俺のことな?

シド:よく喋る男だ。

オズ:そんな貴族の男がナイトダンスを受ける。その相手は――最強の戦奴隷。
   不死の男と評判であり、おまけに信心深く、まさに貧民の英雄。
   王は本来貴族にしか許されないナイトの儀式にその男を特例で選んだ。
   王は貧民にも目をかけてくださっていると、王の株もあがる。
   ついでに新しいナイトとして庶民人気の高い若い貴族が据えられれば――わかりやすい戯曲だろ?

 間

オズ:お前が勝ったら、面白いよな。どんな顔するか、想像するだけでもワクワクするぜ。

シド:俺が言うのもなんだが……負けた方は死ぬとわかっていて言っているのか?

オズ:ん? そんなもんわかってるけど。

シド:お前のいうことにいくつかの真実が混ざっていようが俺にはどうでもいいことだ。
   だが、黙って死ぬような理由があるようには見えない。

オズ:俺だって死ぬ気はさらさらないよ。勝つつもりさ。あんたを殺してさ。

シド:……お前は何が言いたいんだ?

オズ:俺は約束しちまっててね。この国を変えるって。

シド:国を……変える?

オズ:そうさ。一度約束したことは守る性分でね。あー、女との約束は別だが――それはいい。
   とにかく、俺はいつだって次のことを考えているのさ。くたばるその瞬間までな。

シド:変わった男だ……。俺にどうしろと?

オズ:どうもこうもねえさ。ただ、あんたにもわかってほしいだけなんだよ。
   あんたが斬ってきたやつらは皆、生きるために必死のやつらだった。
   明日の日を見ることを願って必死になってたやつらだ。簡単じゃなかったに決まってる。
   (間)
   だが、俺は違う。俺はこの生命果てるまで、この国を変え続ける覚悟を持った男だってことさ。
   あんたの目の前にいるのは、そういう男だ。あんたには、生きるためだけに戦ってもらっちゃ困るんだよ。

 間

シド:……手強いな。

オズ:だろ?

シド:ああ……今まで戦ってきた男のだれより……。お前は、手強い。

オズ:わかってもらえたかね。英雄。

シド:なれば……俺もこの身だけではなく、魂をかけてお前を倒す。
   俺もまた、刻まれた同胞と、我が血肉に誓って、お前に刃を叩き込もう。

オズ:……あー、ちょっとだけ後悔してるけどね。あんたを焚きつけるってのはさ。

シド:もう遅い。俺はもう……武器を握りたいほどに高ぶっている。

オズ:そうかい……。力任せの剣士とやるのは疲れんだよなぁ……。

 間

オズ:さーて、口上が始まった。

シド:ああ。

オズ:行くかね。奴隷の英雄。

シド:おう。変わり者の貴族よ。


 <二人は兜をかぶると、歓声の上がる闘技場へと足を踏み入れる>


シュウN:僕は、こんなにも違うものかと思ったんだ。


 <シドとオズは激しく斬り合っている>

オズ:はああああああ!

シド:うおおおおおお!

 <オズはシドの剣圧に深く押し込まれる>

オズ:ック!

シド:覚悟ォ!

オズ:残念ッ! 見えてんのよそれェ!

 <オズはシドの剣の刃を自らの剣に滑らせ脇腹を斬りつける>

シド:グッ!

オズ:まだまだいけんだろォ!?

シド:なるほど! 天才とはよく言ったものだ!

オズ:集中しろォ! まだまだ行くぞ!

シド:ハハハ! 手強い!

 <歓声の上がる中、二人は激しく斬り結ぶ>


シュウN:僕はずっと、肩を並べていると思っていた。
     彼の隣で、良き友人であり、良きライバルとして、共に高め合っていると。
     だが違った。その時に気づいたんだ。彼は――僕よりずっと先を歩いていたのだと。


 <歓声が徐々にやみ、2人の剣を合わせる音だけが闘技場に響いている>

オズ:(息切れ)はあ……! はあ……!

シド:(息切れ)ふう……! ふう……!


シュウN:その瞬間――彼の本気をはじめてみたんだ。
      剣技だけではなく、その本質。彼がずっと見つめていたこの国の未来。
      同じ景色を見ていたのではなかった。彼が見ていたのは――


オズ:はあああああああああ!

シド:うおおおおおおおおお!

 <シドの剣がオズの剣を弾き飛ばす>

オズ:終わりだッ!

シド:ぐあッ!

 <シドが蹴りつけると、オズは地面を転がった>


シュウN:彼が倒れた瞬間、貴賓席から声が上がった。『もうやめろ!』彼の父――伯爵が立ち上がっていた。
     だれもが思った。『貴族は死なない』俺も、そう思ってどこか安心したんだ。
     しかし――彼だけが、わかっていたんだ。


オズ:うるせええええ!


シュウN:ナイトとは何なのか。


オズ:邪魔すんじゃねえ! 黙って見てろォ!


シュウN:その、本質を。


 <オズは寝転がったまま息荒く空を見上げている>

オズ:(息切れ)……悪いなァ。こんな国でよォ。

シド:(息切れ)……名前は?

オズ:……オズ。ただの……オズだ。

シド:オズ……。お前のような男がいるなら、この国もそう悪くはない。

オズ:はは……そうかい。

シド:……言い残すことは。

オズ:無いね……俺が死んでも、俺は消えねえ。
   女達もみんないい女だァ……嫁ぎ先もあらぁな……。いや……ひとつあるか……。


シュウN:僕は、見た。


オズ:……次はお前の番だぜ? シュウ。


シュウN:彼――オズは、その瞬間いつものように笑ったんだ。


 <シドは剣を振り上げる>

シド:見事だ! オズ!

 <シドは剣を振り下ろすと、オズの首を撥ねた>


 ◇


 <シュウとシドは、教会の中で向き合っていた>

シュウ:それから、一年が経つ。

 間

シド:それで?

シュウ:ん?

シド:あんたはどうして、ここにいるんだ?

シュウ:……そうだな。なんだったか……理由も忘れたよ。

シド:おいおい……。

シュウ:でも、そうだな。

 <シュウは椅子に座った>

シュウ:本当の彼の姿を知るものは少なかった。
     故に、誰もが、死した彼に失望していた。彼の家族や、友人達もみな。

シド:だが……そうではなかった。

シュウ:ああ。少なくとも、ここに2人いる。僕と、君が。

 間

シュウ:僕はあれから、剣の修業に明け暮れた日もあった。
    ある日気づいたんだ。それ以上に今までの自分を変えるべきだと。
    それは僕の強みであり、弱みでもあり、何よりも友が僕を称してくれた姿にも近い。
    きっと僕は、心のどこかでナイトになりたいと思ってはいなかったんだ。
    良き魂とは、慈しみ清廉であるものだと教えられてきたし、それが僕の生き方だった。
    だからこそ、彼は僕に政治の道を勧めていたんだろうと今ならわかる。
    だけど――僕の中にある彼との約束を。僕たちがみたあの日の未来を、僕は欲しいと思った。

 <シュウは、力強い瞳で宙を見つめた>

シュウ:僕は、強くなる。
    だから僕は――明日、人を斬る。

シド:……それが、後ろめたい、か。

シュウ:少しね。でも、それ以上に思うんだよ。
    その先の世界がどうなるのかって。

 間

シド:手強いな。

シュウ:ああ。僕は、強いぞ。彼よりも。

 <二人は笑顔を向けあった>

シド:……俺がナイトダンスでオズを倒したあとのことは?

シュウ:知っているさ。ナイトになるどころか、処刑されることになっていた。

シド:とある貴族が、俺との再戦を理由に命を助けたと聞いた。

シュウ:それは僕だよ。シド。

シド:なるほど。仇討ち……というわけでもあるまい。

シュウ:いや、感謝さ。君には感謝しているんだ。

シド:変わり者の友はまた、変わり者か……。

シュウ:僕に勝てば、今度こそ君にナイトの称号を与えるよう、王に嘆願した。

シド:何故そこまで俺にこだわる。

シュウ:……それは君が、奴隷という身分に甘んじているからさ。

シド:なんだと?

シュウ:いい加減に目を覚ませ。シド。
    君はもう、ナイトダンスに立つ男だということだよ。

 <シュウはシドの肩を叩いて、教会の入り口へ向かう>

シュウ:オズの真の姿を共に分かち合ってくれて、ありがとう。

シド:全く……この国は、面白い。

 間

シド:名を聞こう。

 間

シュウ:僕の名前はシュウ。ただのシュウだ。

シド:俺はシドだ。

 <シュウは教会を去る>

 <シドはゆっくりと祭壇へ歩みをすすめる>
 <シドの耳元で声が聴こえる>

オズ:どうだ?

シド:……何だ?

オズ:俺の親友は。

シド:なあに、叩き潰してやる。

オズ:そいつはどうかな、奴隷の英雄。

シド:お前は黙って女神に抱かれておけ。
   それに――明日の俺は、奴隷ではない。
   ……変えてみせようじゃないか。運命というものを。

 <シドは笑って教会をあとにする>
 <祭壇に腰掛けたオズは、満足げに両手を広げる>

オズ:まったく。女神様の気まぐれにも困ったもんだぜ。
   しかし、なんにしても未来ってもんは、誰にもわかるもんじゃないってこったな。
   ……さあ、我が友たちよ。
   踊れよ――ナイトダンスを。












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