イントロダクション

「4月の第1週」

 朝ベッドから起き上がると、クローゼットの扉に見慣れない制服がかかっていた。役割を終えた中学時代の制服は母親にグローゼットの奥にしまわれ、満足げに眠りについていることだろう。
 少女は起き上がると制服を手に取り、鏡の前で自らの身体に合わせた。
 彼女は今日から高校生になるのであった。
 鏡の前で亜麻色の髪を軽く撫で付ける。これから新しい生活が始まる。何かの予感に、胸の奥がざわついて落ち着かなかった。
「よし、いこう」
 そう呟くと、どこか決心するようにパジャマの裾に手をかけた。


 ◇◆◇


「それで、どうするわけ」
 少女は腕を組んで、少年を見つめた。
「部室だって、このままだと他の部活が使い始めちゃうでしょ」
 少年はバツが悪そうに頬をかきながら笑う。
「それは、そうだけどさ。なんとかなるかなって」
「なんとかなってないからいってんでしょ? 第一、五人集めてないってのが驚きなんだけど」
「そういわないでよ。シュウちゃんなら知ってるでしょ? 俺に友達少ないのはさ」
「カエちゃん、浅井、それと私……本当にこれだけだってのが信じられないけど……。ま、あんたならそうでしょうね」
 少女はため息を一つつくと、机の上のプリントを何枚か手に取った。その中の一枚を手に取り、少年に手渡す。
「来週から部活動勧誘週間始まるから、そこで一年生に入ってもらわないと。あ、そうだ。注意事項、ちゃんと読みなさいよ? ただでさえ楽間ホウスケっていったら職員室からマークされてるんだからね」
「一回停学処分受けただけじゃんか」
「普通は停学になんてなんないの! まったく……」
 少年は手渡されたプリントを机の上に置くと、気だるそうに椅子に座った。
「なんでそんなにやる気ないわけ?」
「ん? いや、やる気ないわけじゃないんだけどさ」
 少年は小さく笑って窓の外に目を向けた。
「入ってくれるような面白い一年生、本当にいるのかなってね」
「たしかに……名前聞いたって何が何だかわからないしね。恋愛研究会なんて」

 一週間後、春風吹きすさぶ校舎の前で、その時は始まろうとしていた。


−−そうして、物語は第一話へと向かう。

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