ホラーモーテルSOS
作者:ススキドミノ


橋本 花(ハシモト ハナ):(25)アルバイト従業員。ウルトラハイテンション。
三ヶ木 みちる(ミカギ ミチル):(21)アルバイト従業員。大学生。腹黒ぶりっ子。
蝶野 親臣(チョウノ チカオミ):(28)社員。仕事に真面目な人情派。
堂島 大貴(ドウジマ ダイキ):(27)新人社員。女好き。蝶野とはアルバイト時代の同期。

ぶりーち:ロリータファッションに身をつつんだツインテールのキグルミキャラクター。橋本が被る。
テラーベア:ホラーモーテルのロボット。三ヶ木と被り役。




※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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テラーベア:泣かないで、よく、頑張ったね。
      この後も、遊園地、グッドワールドで、楽しい、時間を、
      すご……過ごしてね、あはは、アハハハ。


 <遊園地グッドワールド「シティエリア・職員通路」>


橋本:嫌です。

蝶野:橋本さん……まだ何もいってないんですけど。

橋本:(ため息)……なんですか? 蝶野エリアマネージャー。

蝶野:今日の夕方のシフトなんですけど……。
   「ホラー・モーテル」のヘルプに入ってーー

橋本:嫌です!

蝶野:気持ちはわかるんですけど、経験者じゃないと案内ができないのでーー

橋本:絶対! 嫌です!

 間

橋本:殺してください。

蝶野:……はぁ?

橋本:私をあそこに戻すというのなら、今ここで、殺してください。

蝶野:あの……橋本さん、何言ってるんですか?

橋本:あのアトラクションは、モーテルの周りで殺された人達の怨念が集まって、
   客の置いていった忘れ物に取り付き、夜な夜なモーテルを徘徊するって設定ですよね!
   しかも! その怨念に取り殺されたものもまた、その怨念の仲間入りをするという!
   だから! あそこにどーーーしても私を入れたいというなら!
   いっそここで……殺せッ! でもなきゃ私は絶対にあそこにはいきません!

蝶野:橋本さん……。

 間

蝶野:やはりまだ、正確に設定を覚えていらっしゃいましたね。

橋本:しまった……!

蝶野:これなら心配なさそうだ。
   では、『夕(ゆう)2』でヘルプをお願いします。

橋本:待って! 待ってくだせえ! 蝶野様! お代官様!

蝶野:ちなみにこれ、社員命令だから……頼んだよ?

橋本:そんな……! 殺生な……! 殺生なああああ!

 <去る蝶野の背を見つめながら、膝をつく橋本>

三ヶ木:……あのー、花先輩?

橋本:……なんじゃあ、小娘ぇ。

三ヶ木:すみませぇん……ヘルプ、頼んじゃってぇ。

橋本:やっぱりあんたの差し金かぁ!
   みちるこのやろー!

三ヶ木:あは。いやぁ、だって本当に人手不足でぇ。

橋本:だからってね! だからってあんたこれは!
   (項垂れて)この仕打ちはないでしょうが……!

三ヶ木:だってぇ、花先輩って蝶野エリアマネの言うことならきくからーー

橋本:誰に聞いたそんなろくでもないこと!

三ヶ木:え? いや、みちるの感ですけど。

橋本:……は?

三ヶ木:女の子って、惚れた相手には弱いものじゃないですかぁ。

 間

三ヶ木:花せんぱーい? お〜い。

橋本:……ない。

三ヶ木:はいー?

橋本:惚れてないわ! ばーかばーか!

 間

三ヶ木:はいはい。

橋本:流すんじゃないこの!

三ヶ木:っていうか、花先輩って結局今、何やってるんですか?

橋本:え? ……いや、いろんなところのヘルプ。

三ヶ木:覚えてます? ロッカールームで声高らかに、
   『わたしは今日をもって、普通の橋本花に戻ります!
    今日からタイムトラベルツアーに移籍します!』って宣言してたの。

橋本:……そんなんっ……!(顔を覆いながら)……覚えてるに決まってるよぉっ……!

三ヶ木:むりやりみんなの私物から、移籍記念になんかよこせって、色々巻き上げて。
    みちる、あのリップ気に入ってたんですけどぉ。

橋本:やめて! これ以上傷をえぐらないで!

三ヶ木:結局、タイムトラベルツアーはどうなったんですか?

橋本:……列整理のときに……お客さんと雑談しすぎて……
    アトラクションと雰囲気が違いすぎるからって……追い出された。
    万生(ばんしょう)マネージャーに……!

三ヶ木:……ふっ。

橋本:蔑むんじゃない! 本当性格ブスだねあんた!

三ヶ木:あー、そういうこというー? 蝶野マネ呼んじゃおっかなー?

橋本:やめてください。

三ヶ木:そもそもあそこのキャストは園内でも屈指の精鋭部隊ですよぉ?
    花先輩ごときが入り込めるわけないじゃないですかぁ。

橋本:先輩って敬称の後に『ごとき』って……。

三ヶ木:それに、蝶野マネージャーだってわかってるってことですよ。

橋本:……何が?

三ヶ木:(耳元で)花先輩には「ホラー・モーテル」が一番合ってるって。

橋本:……え。

三ヶ木:(耳元で)第一、忙しい社員さんが、わざわざこうやって1バイト従業員にヘルプのお願いにくるなんて……
   よっぽど気にしてなきゃできないですし。

橋本:……そ、そうかな……。

 間

三ヶ木:ちょろいな。

橋本:あっぶねえ! 騙されるところだった!

三ヶ木:っていうかぁ、みちる本当にわかんないんですけど。
   なんでそんなに嫌がるんです? あんなに楽しそうにやってたのに。

橋本:え?

 間

橋本:いや……それはーー


 ◆


  <グッドワールド・社員事務所>

蝶野:……放っておけないよなぁ……。

 間

堂島:(入ってくる)……失礼します。

蝶野:堂島マネージャー、今日はあがりですか?

堂島:はい。どうにか。

蝶野:(微笑んで)お疲れ様です。

堂島:ええ。お疲れ様です。

 間

堂島:(椅子に座る)だぁーー! 疲れたぁ!

蝶野:おいおい、気抜きすぎだぞ。

堂島:いいだろぉ、もうこんな時間だしさ……。

蝶野:まあ、今日は俺達が最後かもな。

堂島:……あん? もしかしてお前、待っててくれたわけ?

蝶野:んなわけあるか。

堂島:はいはい、照れ隠しごちそうさん。

蝶野:バーカ。

 間

堂島:(コーヒーマシンの前で)親臣、いるか?

蝶野:ああ。サンキュ。

堂島:ん。

 間

堂島:(机にコップを置いて)……ほい。

蝶野:どうも。

堂島:ん? この資料って。
   ……んー見してみ……「遊園地グッドワールドは、夏が面白い!」

蝶野:夏キャンペーンの第一弾、任されたんだよ。

堂島:こないだの会議で言ってたやつ!? マジで!? やったじゃんかよ!

蝶野:ああ。

堂島:いやぁー差がつくねえ。

蝶野:キャリアの差があるんだから当然だろ。
   あと、俺の方が歳上なんだから、普段も敬語使え。

堂島:1歳だけな。

蝶野:1歳もな。

堂島:(吹き出す)あー……そんで、優秀な蝶野エリアマネージャーはどうして資料観ながら悩んでるわけ?

蝶野:ん? ……っていうか、それを言うならお前はなんでこの時間までいるんだよ。

堂島:あー、なんていうかねえ。
   シフトだよ、シフト。

蝶野:シフト?

堂島:マジでこの時期大変でさー!
   学生が休み前でドッっと抜けてくだろ!?
   穴埋めがきつすぎ。あいつら遊びすぎ。

蝶野:お前がそれいうか?
   大学時代のお前の口癖だったろ。「女遊びが仕事だ」

堂島:んなセンスない言い方してないですー!

蝶野:そこはどうでもいいって。

堂島:とにかく学生バイトが夏を謳歌しようってんで軒並み長期で抜けるもんだから、
   穴埋めがやばくてさ。……郡司さんがキレた。

蝶野:郡司部長が?

堂島:そう。もうストレスの頂点でさ。
   これじゃあ夏前に逝っちまうってんで、バイト募集の公告、わざわざ配ってきたわけ。
   ショッピングモールに、駅前、学校周り、エトセトラエトセトラ……

蝶野:そりゃあとばっちりだな。

堂島:で、お前はなんで残ってんだよ。

蝶野:え? ああ……。
   (ため息)これ、知ってるか?

堂島:ん?(携帯をみて)
   んだこれ、掲示板? 遊園地グッドワールドについて……何お前、こんなんまで見てんの?

蝶野:生の声が聴けるからな。

堂島:あー……実は、俺も昔書き込んでた。

蝶野:は?

堂島:ほら、まだアトラクションやってたころ。
   「ライトノア・タイム・トラベル・ツアーの堂島さんってキャスト、チョーかっこいいー!」

 間

蝶野:お前……恥ずかしくないのか?

堂島:全然? まあ、完全無視だったけどな。

蝶野:で……ここなんだが……。
   結構広まってる噂があって。

堂島:あー! これ、俺も見たことあるわ。

蝶野:だろ? ……ったく、冗談じゃない……。
   「グッドワールドのアトラクション、ホラーモーテルには本物の幽霊が出る」なんて……。

堂島:もしかしてーー

蝶野:ああ、夏のイベント第一弾は納涼……ホラーモーテルを中心に企画を打つんだ。
   だから、この噂はなんとかして払拭しなきゃ、楽しんでもらえないだろ。

堂島:どうだろうな……物好きで賑わうんじゃねえの?

蝶野:それは俺も考えた。だけどな、そういう物好きで一時は盛り上がっても、その先がない。
   例えばうちの利用者の中でもっとも大きな割合を占めるお客様は、家族連れだろ?

堂島:なるほどな。確かに、子供は行きたがらないな。

蝶野:今はまだ、小さな噂がネットで流れてるだけだが……。
   このままイベントが始まれば、どうなる?

堂島:ま、噂は爆発的に広まるだろうな。

蝶野:しかし、どうかしようにもーー

堂島:いや。

蝶野:……ん?

堂島:これ……いけんじゃねえ?

蝶野:は?

 間

堂島:うん……いけるぜ。これ。
   どうせなら、一石二鳥。ピンチをチャンスに変えちまおうぜ。


 ◆


 <翌々日・閉園後グッドワールド・ホラーモーテル前

堂島:うーし。カメラは大丈夫そうだな。
   うわ、赤外線モードって雰囲気あんなぁ。

蝶野:広報用か?

堂島:いんや、私物。

蝶野:……私物?

堂島:そうそう。夏に友達とバーベキューでも行くかーって話になったときに買ったんだけどさ。
   結局、それがお流れになったもんで、押入れに眠ってたのよ。

蝶野:たくましいな、お前。

堂島:ただじゃ転ばんのよ、俺ってば。
   それに、広報のカメラじゃ本格的すぎて俺には回せないしな。
   ーーあ。それでさ、親臣。

蝶野:ん? どうした?

堂島:これ。ここのアトラクションの資料。まとめておいたの忘れてた。

蝶野:……仕様書?

堂島:ああ。初期のも入ってる、一応渡しとくわ。

蝶野:お前、こういうことには頭回るのな。

堂島:いい査定頼みますぜ、上司殿。

 <三ヶ木・裏口から顔をだして手を振る

三ヶ木:ちょーのマネージャー!

蝶野:三ヶ木さん。お疲れさまです。

三ヶ木:いえいえー、蝶野マネージャーのためならぁ、みちる時間外労働でも頑張っちゃいますぅ。

蝶野:すみません。ちゃんと、特別手当は支給させていただきますから。

堂島:……おーい、これにかこつけて飯でも誘うってのはーー

蝶野:黙れ馬鹿……。

三ヶ木:それでなんですけどぉ、ちょっと困っちゃっててぇー。

蝶野:どうかしました?

三ヶ木:……ほら、出てきてくださいよぉ。

  <三ヶ木、建物の陰から橋本を引っ張りだしてくる

蝶野:……え?

堂島:うぎゃあああ! でたぁ!

蝶野:は、橋本さん……?

橋本:う……うらめしやぁ……。

蝶野:ひぃっ!

橋本:……ちょーのまねーじゃあー……。

蝶野:落ち着いて! しがみつかないで!

三ヶ木:ほーらぁ、良い加減覚悟決めてくださいよぉ。

堂島:あのー、説明を待ってるんだけど……。

三ヶ木:ん? えぇっとぉ、『ホラーモーテルに本物の幽霊が出るのは本当か!? 実態調査!』の収録するんですよね?

堂島:そうそう。噂が嘘だっていう証明と、話題作りも兼ねた一石三鳥の作戦ね。

三ヶ木:それでぇ、2人キャストから特別バイト募集してたじゃないですか?
    それで、どうせ動画に映るなら可愛い方がいいかなぁーって話になったので、
    はーい! 私、三ヶ木みちるでーす!

 間

堂島:……あぁ、そうなんだ。

三ヶ木:ぶぅー! 反応薄いー!

堂島:いや、自分でもびっくりなんだけど、あざとすぎて反応できなかったわ……。
   それで、そこで親臣にしがみ付いてるのは……?

蝶野:わかりましたから! 一度立ってください!

橋本:いかんのじゃ……! 立ったら歩けると判断される……!
   判断されたら最後……! 連れて行かれるに決まっとる……!
   だからいかんのじゃあ!

蝶野:何をわけのわからないことを……!

三ヶ木:えっとぉ、あの人は橋本花先輩です。

堂島:俺、こっちのゾーンの人事には疎いんだけどさ。あの人、あれが普通なの?

三ヶ木:凄腕なんですよぉ? ホラーモーテルの案内キャストとして、一番に名前が挙がるほどに。
    みちるほどじゃないけど、顔も可愛いし。掲示板でも有名だったりしますし。
    ただ、尋常じゃないくらい怖いものが苦手なだけなんです。

堂島:なるほどね……。

橋本:勘弁してつかぁさい……!

蝶野:わかりました……!
   (間)
   ……橋本さんがそこまで嫌なら、大丈夫です。

 間

橋本:……え?

蝶野:(微笑む)というか……そんなに嫌なら、どうして応募したんですか……。
   まったく……。

橋本:蝶野……マネージャー……。

蝶野:橋本さんのような優秀なキャストさんがいれば、動画も説得力が上がって助かります。
   ……ですが、嫌がっている橋本さんを無理に連れて行けるわけがないじゃないですか。

橋本:うっ……! ありがとうございます……!

蝶野:一人で帰れますか?

橋本:はい……! 帰れます!

蝶野:そうですか……。今日も、お疲れ様です。

堂島:……狙ってやってんのか、こいつ。

三ヶ木:そうですかぁ……帰るんですねえ、花先輩……残念ですぅ。

  <三ヶ木は蝶野の片腕に抱きつく

三ヶ木:蝶野マネージャー! みちるもこわーい!

蝶野:えっ……三ヶ木さん!?

橋本:にゃっ、にを……!

三ヶ木:でもでもぉ、みちるのこと、ちゃんと守ってくれますよねぇ……?

蝶野:え? あ。いや……守るっていうか……。

堂島:あー、なるほど……そういうことね。

三ヶ木:撮影中……こうやっててもいいですかぁ?

蝶野:え? いや、でもーー

三ヶ木:そうだぁ、いっそのこと……恋人っていう設定で行きません?

橋本:こっ……!

三ヶ木:だってほらぁ、花先輩が入るんだったら当初の予定どおり、
   キャスト2人で手をつなぎながら説明することもできたけどぉ。
   ……それとも、みちる一人に先に行かせる気ですかぁ……?

蝶野:い、いや。

堂島:いいんじゃない? それ、面白いねえ。

蝶野:おい、大貴!?

堂島:(ニヤニヤしながら)カメラは俺一人が回せばいいんだし。
   設定くらい大した問題じゃないでしょ。
   2人ならバランスも悪くないし……モーテルに迷いこんだカップルって設定で撮っちまうとか。

蝶野:お前なぁ……!

堂島:でも、どうよ。客観的に考えてもいけてるアイディアじゃねえ?

蝶野:……それは、まあーー

橋本:いきます。

 間

蝶野:う、橋本、さん?

橋本:いいからっ! ちょっと……待っててください……!
   準備してきますから……!

三ヶ木:ええー? どうしたんですかー?
    先輩ったら。

橋本:うるさい小娘……! 乗ってやろうじゃないのよさ……!


 ◆


  <ホラーモーテル内・堂島はカメラを回し、三ヶ木はカジュアルルックに身を包んでいる
  <蝶野は困ったように、しゃがみこんでいる着ぐるみキャラクターに声をかける
  <ロリータファッションに身をつつんだツインテールのキグルミキャラクター。「ぶりーち」がいる。

蝶野:橋本さん……本当に大丈夫なんですか?

堂島:こらこら、蝶野マネージャー。
   だめですよー、その子は「ぶりーち」ちゃんなんですから。

三ヶ木:そうそう〜。ねえ、ぶりーちちゃん。

ぶりーち(橋本):……ぶち殺すわよ。

蝶野:……俺はあまりキャラクター方面は詳しい方じゃないんだけど……。
   ぶりーちって、この喋り方で合ってるんだよな?

堂島:少しテンション低めだけど、まあ、こんな感じだな。

三ヶ木:ぶりーちは、この遊園地の近くで捨てられたしまった人形が、魔法の力で命をもらったって設定なんですよぉ。
    だから、人間に対してはすごい毒舌なんだけど、心は寂しがりでいじらしい性格なんです。
    服もゴスロリで可愛いし、顔も可愛いし、大人気なんですよぉ?

蝶野:確かに……うちのキャラクターグッズの中でも売り上げが良かったような。

三ヶ木:もともとうちのアトラクション用に用意されたキャラクターですからいつも使えますし、ラッキーでしたね。

ぶりーち:いいから……行くなら早くしたら……。

蝶野:その着ぐるみを着たら大丈夫ってことでいいんですよね……?

ぶりーち:……防御力が、あがるから。

堂島:それ……心にも影響を与えるんだな。

蝶野:では、確認しておきましょうか。
   僕たちは今から、『ホラーモーテルに本物の幽霊が出るのは本当か!? 実態調査!』
   という動画を収録していきます。
   今回は、閉園後ということで、ライドには乗らず、歩いていきます。
   ルートは随時説明していきますね。

ぶりーち・三ヶ木・堂島:はい。

蝶野:僕が照明を持ちます。
   カメラは堂島マネージャーが回してくれます。

堂島:よろしくー。

蝶野:三ヶ木さんは一般客のようなイメージで出演していただければ。

三ヶ木:はいはーい。可愛く怖がりますー!

蝶野:橋本ーーいえ、ぶりーちさんが、アトラクションを紹介していただくということで。

ぶりーち:……ええ……そうしろっていうなら……。

蝶野:それでは、皆さん。はじめましょうか。
   よろしくお願いしますね。
   オープニングまで、3、2、1……
  『ホラーモーテルに本物の幽霊が出るのは本当か!? 実態調査!』スタート!


三ヶ木:ここがあの有名なホラーモーテルかぁ……。
    でもぉ、ここに本物の幽霊が出るっていうの、本当なのかなぁ。

ぶりーち:あら……あなた。

三ヶ木:え?

ぶりーち:人間が、こんな時間に何をしているの?

三ヶ木:えー! ぶりーちちゃん!?

ぶりーち:そう……私はぶりーち。
     ……人間に捨てられた人形。

三ヶ木:私はみちるっていうの。
    よろしくね! ぶりーちちゃん!

ぶりーち:気安く呼ばないでよ……。

三ヶ木:あー! あんなところに人の顔が!

ぶりーち:ひぃっ!?

三ヶ木:と思ったらただの仮面かー! びっくりしちゃったー! てへっ!

ぶりーち:ぶっ、ぶち殺すわよ……! 人間……!

蝶野:……そろそろ説明を……!

ぶりーち:いい! ここはね、あまねく怨念の集う場所……。
     遊び半分で来ていい場所じゃないんだから……。

堂島:いや……遊園地だから遊びだろ……。

ぶりーち:外野も五月蝿いわね……!

三ヶ木:さっそく中に入ってみましょうよぉ。

ぶりーち:この……! 説明を聞きなさい……!

 <中に入っていく。

三ヶ木:うわぁ〜不気味ですねえ……。

ぶりーち:いつもはここに皆さん並んでいただくのよーー
     じゃなくて! ここで生贄の出番を待っていただくの。

三ヶ木:無駄に設定に忠実ですねぇ。

ぶりーち:この周囲で起こった事件の切り抜きやなんかが壁に張られてあるわ……。
     興味がある人は、列びながら読めばいいんじゃない……。
     どうせ仲間入りするんだから……。

三ヶ木:待ってる間も楽しーです!

ぶりーち:実は、私の事件も小さなものだけどあるはずよ……。
     あなたたち人間に見つけられるかはわからないけど、探してみたらいいわ……。

蝶野:……いいね。キューラインの細かなポイントを紹介するのは、すごくいい。

堂島:確かに。俺も知らなかったな。今度探してみるか。

蝶野:流石は橋本さんだ。

三ヶ木:……ちょっとー、お喋りはいいですけど、ぶりーちちゃん固まっちゃってますから。

蝶野:本当だ。ごめんなさい、橋本さん。苦しいですか?

ぶりーち:う、うるさい! 私はぶりーち……だっていってるでしょ……!
     臓物引きずり出すわよ……!

堂島:(吹き出して)大丈夫そうだな。うっし、次、ライドセクションの入り口から行くか。

蝶野:……それにしても、流石に不気味だな。

堂島:それ、言うなって。俺も入ったときからヤバイと思ってたんだぜ?

三ヶ木:みちるはぁ、いつもアトラクション、最後に閉めてるんで慣れっこでーす!

ぶりーち:(ぶつぶつ)……大丈夫……私はぶりーち……大丈夫……仲間だから大丈夫……。

三ヶ木:花先輩、白目むいてません? 可愛い〜。

堂島:……本当に変わってるのは三ヶ木ちゃんなんじゃないかって気がしてきたわ。

三ヶ木:ぶぅ〜。失礼ですよぉ〜。


 <ライド乗り場>


三ヶ木:うわぁ〜!

ぶりーち:ここにあるのがあなた達が乗ってもらうソファーよ……。
     このソファーにも霊が宿っていて……とはいっても彼らは害の無い、ただのいたずらっ子なんだけど……。
     彼らがこのソファーに座った人間たちを案内するってわけ……。

三ヶ木:可愛い色ですよねぇ〜……本当、3号機なんか家に欲しいーー

蝶野:三ヶ木さん……! それはコメントとしてはちょっと……!

三ヶ木:すみませぇ〜ん、えっと〜。
    すごいこわ〜い! みちる、1人で乗りたくなぁ〜い!

ぶりーち:二人乗りだから安心しなさい……。
     家族でもカップルでも乗れるわ。
     ただし……はぐれたくなければしっかり相手の手は握っておくことね……。

三ヶ木:カップルっていうとぉ、暗いし、怖いし、いちゃいちゃしがいがありますねぇ。

ぶりーち:い、いちゃいちゃは知らないけど……好きにしたら……。

三ヶ木:ぶりーちちゃんはぁ、誰か一緒に乗りたい人、いますぅ?

ぶりーち:……は?

三ヶ木:だからぁ、一緒に乗りたい人、ですよぉ。

ぶりーち:あ……いや……えっと……。

 間

蝶野:……橋本さん?

堂島:(笑いを堪えている)

ぶりーち:ぐ、ぐらはむ……。

三ヶ木:へ?

ぶりーち:スケルトンの! ぐらはむ! なら……乗ってやっても、いいわ……。

三ヶ木:公式カップルで逃げたか……小癪な……。

ぶりーち:マジで出たら殺す……。

三ヶ木:聴こえなーい。

堂島:そろそろ行くか。

蝶野:おう。……二人共、この先はもっと暗いから足元には気をつけて。


 <通路途中・従業員室。


蝶野:よし。一端休憩しよう。

堂島:橋本さーん。頭、外すよ。

 <ぶりーちの頭を持ち上げる。

橋本:ぶっはあああ! 死ぬぅ!

堂島:お疲れ様。

蝶野:橋本さん。これ、お水です。

橋本:ありがとうごぜえますだ……。

三ヶ木:思ったより順調にいきましたねぇ。
    もうあと3分1くらい、ですか?

蝶野:2人の頑張りのお陰です。本当に。

堂島:っていうか、途中からめちゃくちゃスムーズになったよね。
   なんつーか、覚醒?

橋本:いや……なんというか、ぶりーちの息苦しさが恐怖心を越えたといいますか……。

三ヶ木:みちるぅ、花先輩が怖がらなくてつまらないですぅ。

橋本:馬脚を現したなこの腹黒がッ! 締める!

三ヶ木:キャー! マネージャー助けてー!

蝶野:……大貴、この先なんだが。

堂島:ああ。洗濯室を抜けて、304号室、忘れ物保管室、だな。

蝶野:304号室……ここがーー

堂島:噂の場所、だな。

橋本:ひっ……!

蝶野:橋本さん! あくまで噂ですし。
   それに、そんなものがないって証明するために動画を撮ってるんですから。ね?

橋本:そ、そうですけれどもぉ〜……!

堂島:順調とはいっても時間が時間だ。急ごうぜ。

三ヶ木:それ賛成でーす! 私ぃ、明日も朝から撮影あるんでぇ。

蝶野:撮影? 何の?

三ヶ木:みちる、一応、モデルもやってるんでー。

蝶野:そうなんだ。知らなかった。

堂島:へぇー! 何の雑誌?

三ヶ木:教えませーん!

堂島:どうしてー! ケッちいの!

三ヶ木:だってぇ、それで騒がれたら、迷惑かけるじゃないですかぁ。
    (上目遣いで)私、好きなんですよぉ。ホラーモーテルが。

堂島:……なるほどね……こりゃまいった……。
   
三ヶ木:もしかして、落ちちゃいました?

堂島:7割ってところかな。

三ヶ木:ケッちいですねぇ。

堂島:伊達に恋に生きてるわけじゃないんでね。
   ただまあ、今日の帰り、車で送ってあげたいなぁとは思ったけど。

三ヶ木:ざんねん下心ですよぉ! 今日はパパが迎えにくるんで。

堂島:……さいですか……。

蝶野:さあ、そろそろ行こうか。行ける? 橋本さん。

橋本:いや……行けないなんて言えないでしょ……。

三ヶ木:あら、こっちが落ちちゃいましたかね。

橋本:私だって! 怖いのは嫌だけど……好きだもん。ここ。
   怖いのは嫌だけど!

蝶野:(笑って)さあ、あと少し。頑張ろう!



 <304号室>

三ヶ木:ここが、304号室ですね。

ぶりーち:そ、そそそそそうね。

三ヶ木:えっと、ここはどういうところなんでしたっけ?

ぶりーち:あの、そそその……ここは唯一、モーテルの中でその……
     さ、殺人事件が起こったところで……その……!

三ヶ木:マネキンがたくさんありますよねぇー。

ブリーチ:ひ! あ、あの! 事件の後、長く借りて泊まっていたのが、名も無き芸術家で……!
     彼はマネキンをモデルに絵を書いていたんだけど、夜な夜なそのマネキンがああああ!

三ヶ木:ぶりーちちゃ〜ん! ほらほらまだ途中ですよぉ〜!

ぶりーち:は、放して……! お願い!
     吐く! 大ゲロを吐く!

蝶野:一旦止めようか!

三ヶ木:大丈夫です! ぶりーちちゃんまだ余裕ありますよ〜!
    みちるの経験上!

ぶりーち:この鬼畜! 人でなし! 鬼殺し!

三ヶ木:ほらね! さ! 説明を続けてねー!

ぶりーち:くっそ……! あーもう!(深呼吸)
     『マネキンが深夜に自分を見つめてくる』と、彼はそう言ったわ……!
     (雰囲気を作る)……やがて彼は『マネキンが喋りだした』と騒ぎ出し、
     そのうちに彼は誰とも会話をしようとしなくなった。
     同様に周囲の人々も、『妄想に取り憑かれた』と、彼と距離とるようになりーー
     やがて、彼が姿を見せることも少なくなった、ある日の夜。
     この部屋から大きな音がしたの。
     ……そこに伸びた照明がみえるでしょう?
     大きな音というのは、その照明の金具が外れた音。
     彼は照明にくくりつけた縄でーー首を吊ったのよ。

 間

ぶりーち:奇妙だったのは、彼を囲むようにマネキンが並んでいたこと。
     彼が生前、自分の手で、そのマネキンを並べたのだと、誰もが思った。
     でも……カーペットにはマネキンのものと思われる足跡が残っていたの。
     まるでひとりでに動き出して、彼を見上げたかのようにーー。

 間

堂島:作りもんとはいえ、寒気がする話だな……。

蝶野:ああ……夏のキャンペーンに使えそうだ。

堂島:仕事熱心だね……お前は。

ぶりーち:……どうやらここで、聴こえないはずの子供の声がするって話だけど……。
     け、けけけけ結局! ただの噂だったみたいね!

蝶野:まあ、噂は噂ってことだよ。

堂島:いい絵も撮れたし、次行こうか。

蝶野:そうだなーーって、三ヶ木さん?

ぶりーち:……みちる? どうかした?

三ヶ木:……ぁ。えっと……。

ぶりーち:みちる?

三ヶ木:すみません。カメラ、止めてもらっていいですか?

ぶりーち:え?

三ヶ木:私……気分が悪くーー

 <三ヶ木倒れる。

堂島:三ヶ木ちゃん!

蝶野:大貴! 急いで彼女を外へ!

橋本:(ぶりーちの頭を外して)みちる!? みちる! 大丈夫!? ねえ!

テラーベア:やあ、君達。まだ、生きている、かな?

堂島・蝶野:なっ!?

堂島:なんだ!? 今の声!

蝶野:聞き間違えじゃないよな!

テラーベア:泣かないで、よく、頑張ったね。

堂島:おいおいマジかよ!

蝶野:幽霊……! 本当に!?

堂島:こりゃ笑えねえって……!

蝶野:早く三ヶ木さんを外へ!

三ヶ木:ぁ……。

橋本:みちる! 大丈夫!?

三ヶ木:だい、じょうぶです。
    それより、今の声は……?

橋本:んなもんどうでもいいでしょ!
   今から外へ連れ出すから待ってて!

三ヶ木:みちる、歩けます……。

堂島:無理すんな! 俺の背中、乗れるか?

三ヶ木:大丈夫です! 本当に……歩けます。

堂島:いやだからーー

三ヶ木:(堂島に小声で)2人で外、出たいです。

堂島:ーーお前……。

三ヶ木:そこまでいうならみちる、外出てるので……。
    蝶野マネージャーと橋本さんで、幽霊の正体、確かめてください。

橋本:は? 何いってんの!?

蝶野:こんな状況で放っておけませんよ!

三ヶ木:ここまで来て無駄足なんて! ソッチのほうがいやですよ。

堂島:わかった! ……俺が連れ出すわ。

蝶野:大貴?

堂島:お前らは、あの声確かめてこい。

蝶野:何言ってる! 従業員に体調不良が出たんだぞ!?
   中止に決まってるだろ!

橋本:そうですよ! みちるが心配です!

堂島:それでいいんだろ? 三ヶ木ちゃん。

三ヶ木:はい。もう、大丈夫ですから。 本当に!

橋本:そんなーー

三ヶ木:いいから! 確かめてきてください!
    ……ね?

 間

堂島:行くぞ。

三ヶ木:はい。

堂島:悪いな、親臣。任せたからな。

 <堂島は三ヶ木に肩をかしながら305号を後にする

蝶野:なんだってんだ……あいつ……!

橋本:蝶野さん。

蝶野:え?

橋本:……声、どこからしましたっけ。

蝶野:橋本さん?

橋本:幽霊だかなんだか知らないけど……後輩怖がらせるやつには容赦しないっての。


 ◆


 <従業員通路・歩く堂島と三ヶ木

堂島:それで……。

 間

堂島:女優だったっけ?

三ヶ木:何がですか?

堂島:君のもう一つのバイト。

 間

三ヶ木:……やだなぁ。堂島マネージャーったら……モデルですよ。モデル。

堂島:そうだったか。いやぁな。あんまりにも迫真の演技だもんで、てっきりな。

 間

三ヶ木:演技、ですか。

堂島:そう。演技、だろ? さっき倒れたの。

三ヶ木:……乗ってもらっちゃって悪いですね。

堂島:どういうこと? マジであの2人くっつけたいからここまでしたっての?

三ヶ木:それもまあ、ありますけど。

堂島:……関心しないな。やり方が気に食わない。
   あいつらに心配さして罪悪感とかないわけ?

三ヶ木:そりゃあありますよぉ。
    でも……私にも事情があるんです。

堂島:……それ、説明してもらっていい?

三ヶ木:ええ、さっきの声の正体からお話しますね。


 ◆


蝶野:……一体どこから。

橋本:シッ! 静かに……!

テラーベア:……グッドワールドで……。

橋本:しましたね……。

蝶野:やっぱり。録音だ。

橋本:録音?

蝶野:ノイズでざらついてる……。
   間違いなくスピーカーから出てる音声だよ。

橋本:録音……じゃあ、アトラクションの一部ってことですよね。

蝶野:でも、ここにあるシステムは落としてるはずだし、どのギミックからもそんな音声はーー

橋本:仕様書、見せてもらっていいですか?

蝶野:え? ああ、このアトラクションの、だよね。

橋本:はい。

蝶野:(カバンから取り出し)これだけどーー

橋本:お借りします。

 <橋本、資料を確認する

橋本:このアトラクションって、4年前に改修したんです。

蝶野:ああ。最新のシステムだから、誤作動はないはずだけど。

橋本:だとしたらその前……あった。
   ホラーモーテルはグッドワールドでも初期のアトラクションなんです。
   その時はいまよりももっと規模が小さくて、ライドもなかったんですよ。
   4年前の改修以前にも大規模な増築があって……ここ。12年前です。

蝶野:恐怖のモーテル……たしかに、建物の形も当時と違うね。

橋本:その頃のロボットの仕様書はーー
   見つけた! テラーベア!

蝶野:……出口で子供達に挨拶をする、呪われたテディベア……。

橋本:聴こえた台詞とは一致しますよ。

蝶野:壁越し……ちょっと待って。

 <蝶野は、305号の従業員ドアを開ける

蝶野:ここの隣、倉庫になってるよね。

橋本:ええ。予備の衣装とか、部品とかがしまってあります。

蝶野:ちょっと探してーー

テラーベア:泣か、ないで……よ……。

蝶野:ここだ! やっぱり!

橋本:私、奥を観てみます!

 <しばらく倉庫内を探す2人
 <数秒後、蝶野は大きめの木箱を見つける

蝶野:橋本さん!

橋本:はい!

蝶野:多分これです。

 <開けるとそこには、古びたテディベアが入っている

橋本:……これは……。

蝶野:テラーベア、だね。
   間違いない……こいつが、幽霊騒動の犯人だ。

 <テラーベアは時折鈍い駆動音を鳴らしながら動いている

蝶野:きっと倉庫の整理の時に忘れられてしまったんだね。

橋本:そうだったんですね……。

蝶野:……今は総てシステム化されていて、大本をシャットダウンすれば止まるけど、
   当時のロボットはそれぞれが独立して動いていたんだ。
   でも……12年前のバッテリーが急に動き出すなんてことあるのか?

橋本:もしかしたらーー

 間

蝶野:うん?

橋本:え? あ、いや……なんていうか……。
   他のロボットは引退して同じところにいるのに、自分は居ないから……。
   寂しかった、とか……。

蝶野:……そうか。

橋本:いや! なんていうか! すみませんです! メルヘン脳で!
   忘れてください!

蝶野:いや。そういうことは、あるもんだから。
   ……人を楽しませている彼らには、きっと色々な想いが詰まっている。
   俺はそう思います。

橋本:人を楽しませる……そっか。

 間

橋本:この子達は、文句も言わないでずっと、ここで怖がらせて……楽しませて……。

蝶野:……はい。そうですね。

 間

橋本:……あーもう。頑張らなくちゃな。

 <橋本は蝶野に向き合う

橋本:蝶野マネージャー。私を、ホラーモーテルのキャストに戻していただくことってできますか。

 間

蝶野:もう。やめるなんて言わないでくださいね。

橋本:……はい。

蝶野:次に投げ出したら、もう二度と戻しませんよ。

橋本:はい。

 間

蝶野:(笑って)今年の夏の企画、これでなんとかなりそうだ。
   ……ホラーモーテルには、あなたが必要です。橋本さん。

橋本:買いかぶりすぎです。
   なんていうか……もうすぐ私が一番信頼している後輩が辞めるものですから。
   腹くくりました。

 間

橋本:私が、ここを引っ張っていきます。


 ◆


 <ホラーモーテル前、ベンチに座る三ヶ木


三ヶ木:偶然、見つけたんです。掃除をしてるときに。

堂島:……それで、見つけてもらえるようにバッテリーを入れたってわけ。

三ヶ木:はい。そうです。
    夜の数時間だけ、あの子がたまに声を出すってわかってたので。

堂島:……幽霊騒ぎの顛末が、キャストの悪戯とはな。
   流石に想像できなかったわー。

三ヶ木:悪戯って……ひどい言い方〜。
    でも……ご迷惑をおかけしているのは謝ります。本当に、申し訳ありません。

堂島:(ため息)にしたってどうしてまたそんな面倒なことを……。
   自分で助け出してやればよかったじゃん。
   お陰でこの有様だぜ? 駆り出されてる身にもなってよ。

 間

三ヶ木:箱を開けたら……あの子の設定資料も一緒に入ってて。
    持ち主に捨てられたことを理解していて、それを受け入れていて……なんて。
    寂しい設定があってーーまあ、感情移入しちゃったというか。
    私にも……ちょっとそういう時期があったから。

堂島:……幽霊に仕立てあげた理由にはならないな。

三ヶ木:だってーー

 間

三ヶ木:だって、彼はアトラクションの一員なんですよ?
    せっかくだから、ちゃんと怖がってもらって、それでーー
    だって、その為に産まれたんだから。でしょ?
    それなのにずっと忘れられて1人だったんだから。
    ただ見つけられて、大きな倉庫へーーなんて、寂しいじゃないですか。
    みんなが彼を怖がって、それでーーその後で、見つけてもらったって、いいじゃないですか。

堂島:それ、自分勝手だってわかってる?

三ヶ木:わかってます。私、エゴイストですから。

堂島:開き直ったって、自分のしたことは変わらないぜ。

三ヶ木:……はい。

堂島:ったく、お説教ってガラじゃないんだけどな……。
   でもまあーーそういう理由は、嫌いじゃねえよ。
   俺も、アトラクションやってたころは、感情移入しまくってた口だしな。

 間

堂島:(伸びをして)今頃、あいつらは見つけてっかな。
   そもそも……どうして、俺らに見つけさせようとしたんだ。

三ヶ木:時間がなかったし、それにーー
    ……私は怖がったりとか、苦手だから。

堂島:は? ……マジかよ……!
   もしかして……だから、橋本さんを?

三ヶ木:はい。花先輩は、本当にこのアトラクションが好きだから。
    最後に……先輩がアトラクションを楽しんでる姿を観たくて。

堂島:(笑って)いやぁ……君、変態だわ。

三ヶ木:(微笑んで)もしかして、落ちちゃいましたか?

堂島:30点減点。

三ヶ木:ケッちいですね……。

堂島:でも……。
   黙っておいてやるって、決めた。

三ヶ木:……優しいなぁ。別に、いいのに。

堂島:で……『最後に』って?

 間

三ヶ木:事務所にバレちゃって、辞めるんです。ここのバイト。
    今月末に。

堂島:……そっか。

 間

堂島:今までありがとうとか、お疲れ様とか、言わないよ。
   まだ1週間あるしな。

 <三ヶ木は顔を伏せる

三ヶ木:……ケッちいですね。

堂島:『寂し涙は前へ進むための燃料である』
   堂島大貴、名言集。

三ヶ木:(泣きながら)だっさ……。堂島マネージャー、モテないでしょ。

堂島:うっせえ。お互い様だろ。

三ヶ木:みちるはモテますよぉ。
    可愛いですもん。

堂島:……ったく……。
   痛手だよ。可愛いキャストがいなくなんのはさ。

三ヶ木:やめてくださいよぉ!
    ……そういうの、苦手です。

堂島:(笑う)

 <三ヶ木、涙を拭って顔をあげる

三ヶ木:(笑って)あーあ! 寂しいなあ!


 ◆


 <ホラーモーテル前

橋本:みちる! 大丈夫!?

三ヶ木:もうバッチリですぅ! そっちはどうでした?

橋本:えっと、実はーー

蝶野:大貴! 手伝ってくれないか!

堂島:おうおう、重そうだな。
   で、犯人ってそいつ?

蝶野:ああ。12年前のロボットが、見つけてくれってさ。

橋本:ちょっと! 蝶野マネージャー! それ! 無しって言ったでしょ!?

蝶野:(笑って)ごめんごめん。気に入っちゃってさ。
   ……幽霊騒ぎの正体は12年前からやってきた、このアトラクションのロボットだった。

堂島:誤作動ってこと? 人騒がせなだなぁ〜。

三ヶ木:ええ〜、本当ですよぉ〜。困ったちゃんですねぇ。

堂島:ほんっと、困ったちゃんだなぁ〜。

堂島・三ヶ木:あはははは〜。

蝶野:……なんだ、仲良いな。

橋本:まぁ、バッテリーがなんで入ったのかは謎なんですけどね……。

蝶野:……幽霊。

橋本:ひぃっ!

蝶野:冗談だよ。
   ……きっと誰かが悪戯で入れたんじゃないかな。

橋本:だったら、いいんです。だったら!

堂島:……ま、事情はあとでゆっくり聞くわ。

三ヶ木:(小声で)で……花先輩。蝶野先輩とキスくらいしましたかぁ?

橋本:キ!? キキキキキ!!

堂島:……猿?

橋本:(小声で)あんた何いってんのマジで!
   地面に首だけ出して埋めるぞ! 石投げるぞ!

三ヶ木:冗談ですってぇ。

橋本:もしかして……! あんたそのつもりで外に……!

 間

三ヶ木:てへっ!

橋本:返せ! 私の心配を! マネージャー達の心配をー!

三ヶ木:きゃぁ〜! こわ〜い!

蝶野:三ヶ木さん、もうすっかり良さそうだけど。
   また気分が悪くなったらすぐに病院に連絡してくださいね。

三ヶ木:はぁい! ありがとうございますぅ!
    蝶野マネージャー優しい〜!

橋本:マジであんた碌な死に方しないぞ……!

堂島:じゃ、事務所に引き上げるか。

三ヶ木:堂島マネージャー!

堂島:……何?

三ヶ木:(ニヤニヤしながら)申し訳ないんですけどぉ、家まで送ってもらってもいいですかぁ?

堂島:ーーっ! ……だぁ〜もう! トコトンだな……!
   おい! 蝶野! 悪いけど、この悪魔さんの面倒みるから、橋本さんと事務所にこの子運んでくれ。

蝶野:は? いや、この重さは女性にはーー

堂島:だったら1人で気張れ! 俺も後で事務所戻るから!
   ……ああ、あと!
   (蝶野の耳元で)鈍感もいい加減にしろボケ……!

蝶野:は? あ! おい!

堂島:走るぞ! 三ヶ木ちゃん!

三ヶ木:はい!

橋本:えっ! ちょっと!?

三ヶ木:お疲れ様でぇ〜す!

橋本:みぃ〜ちぃ〜るぅ〜! 覚えときなさいよぉ〜!

 <2人は駆け足でその場を後にする


 ◆


堂島:(走りながら)あのさぁ!

三ヶ木:(走りながら)なんですかぁ!?

堂島:俺、君のこと、マジで嫌い!

三ヶ木:(吹き出して)それ、ポイント高いです!

堂島:(笑って)つーか迎えに来るはずのパパは!?

三ヶ木:うち! 母子家庭なんですよねぇ!

堂島:ほんと嫌い!

 <2人は笑いながら走る


 ◆


 <ハローグッドワールド・事務所

蝶野:(箱を机に置いて)っはぁ……!

橋本:す、すみませんです……! お手伝いできませんで……!

蝶野:いや……いいんだ……でもごめん……少し休憩……!

 <机に突っ伏す蝶野

橋本:あの、飲み物。まだ、口つけてないので。

蝶野:すみません……。

 <2人の手が触れる

蝶野:あ。

橋本:ご、ごめんなさい!

蝶野:いや! 俺こそ!

 間

橋本:あの! 蝶野マネージャー! その……えっと……。

 間

蝶野:あの。

橋本:ーーえ?

蝶野:(笑って)もう、業務時間外だから、蝶野でいいよ。

橋本:……あ、はい。あの、蝶野、さん……。

蝶野:うん。

橋本:えっとですね……あの……。
   ですね。ワタクシはですね……あの、ですね。
   少し、その、お話したいことが有りましてですね。

蝶野:うん。何かな。

橋本:ええとですね! その、ワタクシのようなものがですね……。
   いや、なんというか、その……。
   (深呼吸)

 間

橋本:好き、です。蝶野さんが。

 間

テラーベア:……ありがとう!

橋本:え?

 間

橋本:ええええ!? このタイミングで動く!?
   っていうか、電源切るの忘れてた!?
   嘘だ! 夢だ! 覚めろーー

蝶野:(吹き出して笑う)

橋本:あううううう!

蝶野:次のおやすみ、どこかに遊びに行こう。

橋本:へ?

蝶野:デートから、始めようよ。

 間

蝶野:橋本さん?

橋本:は、はひ!

蝶野:と、いうことで、よろしく。

橋本:あ、あの、それは、その、つまりーー

テラーベアー:グッドワールドで、楽しい時間を、過ごしてね!

橋本:こいつはあああ!

蝶野:(笑って)電源、落とすよ。

 <蝶野はテラーベアのバッテリーを落とす

蝶野:さて……こんな時間だし、橋本さんを送っていくとしようか。

橋本:え? いやいや! そんなーー

蝶野:遠慮しないでよ。……それとも、嫌なのかな……?
   (耳元で)……俺のこと、好きなんだよね?

橋本:ぐ、は……。

蝶野:行こう。

橋本:ま、まさかの俺様系……!
   それは、それで……! くそう!

 間

蝶野:(ふと立ち止まって)……ちょっと待って。

橋本:え?

蝶野:テラーベアの台詞にーー

 <蝶野は仕様書を捲る

蝶野:やっぱり……!

橋本:えっと……どうしました?

蝶野:いや……テラーベアの台詞にないんだ……!
   「ありがとう」って台詞が。

 間

蝶野:本当に幽霊だったのかもーー
   ……橋本さん? 橋本さーん?

橋本:私、ホラーモーテルやめます。

蝶野:(にこやかに)許すと思ってんの?

橋本:いやあああ! 誰か! 助けてー!













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台本一覧

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