ハローグッドワールド
作者:domino


足立 愛子(アダチ アイコ):(19)新人キャスト。
万生 獏(バンショウ バク):(28)アトラクションマネージャー。6年前は22歳。
蝶野 親臣(チョウノ チカオミ):(27)エリアマネージャー。6年前は21歳。
堂島 大貴(ドウジマ ダイキ):(26)バイト。6年前は20歳。
江夏 瑛子(エナツ エイコ):(29)6年前のアトラクションマネージャー。






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 (時空間移動システム管理室・以下S室)

足立:(咳払い)
   ラジャー、コントロール! これより、案内を開始します!
   皆様、本日はようこそツアーへご参加くださいました!
   我々、ライト・ノア社では、宇宙開発事業を中心に数年前より様々な事業に取り組んで参りました。
   そして、30年もの研究の結果、我々はある革新的な技術を開発することに成功しました!
   それがこのーー
   (足立が手を叩くと、背後に巨大な歯車にも似た機械が現れる)
   『時空間移動システム』です!
   一体どんなシステムかって? それは、その……私には……あ、博士!
   このお方が我が社が誇る偉大な博士……。
   
 間

足立:我が社が誇る偉大な博士……あれ?
   我が社が誇る偉大なーー

 (万生、入り口に立っている)

万生:我が社の誇る天才科学者。紹介しましょう。アマリ博士です。

足立:あ。万生さん……。

万生:なにやってんの、足立さん。もう閉めるって言われなかった?
   
足立:すみません! ちょっとその、練習を。

万生:あー……それはいいんじゃないの。居残り練習なんて、ポイント高いし。

足立:……ポイントとかそんなんじゃないです!
   初日近くて、その、練習しないとって。

万生:(苦笑)えっと、足立さん。

足立:はい!

万生:いつ? 初日。

足立:はい。明日14時からです。

万生:明日? 本当?

足立:はい。そうです。

万生:いきなり祝日のピークって……まじかよ。
   エリアマネも何考えてんだか。

足立:……やっぱり、大変ですか?

万生:遊び来たことあるでしょ?

足立:GW(ジーダブ)ですか?

 間

万生:……そのジーダブ、って?

足立:あー、うちの遊園地の略称っていうか……。
   グッドワールドで、GWで、ジーダブです。

万生:うわマジかー……えっと、足立さん、今何歳とか聞いてもいい?

足立:今年で19です。

万生:そっか、10近く違うとそりゃそうだよな。
   俺らのときは『グドワー』って略してたんだけど……。
   確かにダサいよな。
   (居直って)あー、ごめん。
   うち、休日結構混むんだけど、大丈夫かなって話。

足立:そう、ですよね。
   えっと……それはそうだと思うんですけど。

万生:ヤル気まんまん! って感じ?

足立:はい! っていうか、まあ緊張しないっていったら嘘なんですけど。
   (間)
   ……私、ずっと好きだったんですよ。
   このアトラクション。

万生:……ふぅん、そうなんだ。

足立:高校の時とか、他の友達はみんなファンタジーエリアとか、
   バンデットエリアとか行こうって言うんですけど、
   もう隙あらば私、『ライトノア・タイム・トラベル・ツアー』行こうよって!
   それで何回もみんなに怒られたりして。

万生:(吹き出して)そりゃね。
   古いアトラクションだし。売りだったCGだって、今となってはショボいし、
   ほとんど俺達キャストの臭い演技を観るところになってるし。
   まぁ、待ち時間は少なくて休めるから、一部じゃ人気があったりはするけどさ。
   ーーとどのつまり、マニア向けの骨董アトラクションよ、ここ。
   働いてるもんがいうようなことじゃないけど。

足立:あはは……それ、私もマニアってことですかね。

万生:そう聞こえちゃうか。
   なんか、ごめん。

 間

足立:……あの、実は私、高校、演劇部に入ってたんです。
   それも実は、このアトラクションの影響で。

 <足立、時空間移動装置を触る>

足立:高校の時よりずっと前、確か小学校低学年の時。
   家族でGW(ジーダブ)にきて、私まだ小さかったし身長も低かったから、
   身長制限のあるアトラクションとかには乗れなくて。
   まぁ性格的にも絶叫系のアトラクションは今でも好きじゃないんですけど。
   絶叫マシン好きの兄と父が絶叫マシンに乗っている間、母が私をここに連れて来てくれて。
   アトラクションが始まったら、最初は何がはじまったのかわからなくて、
   大人の人が色々喋ってるなーみたいな感じで、ポカン、みたいな。
   それから、過去にタイムトラベルするところになって、侍のキャストさんが入ってきたところで、
   私怖くて泣いてしまったんです。

万生:あー、今でもたまにあるよね。

足立:(笑って)そうですね。
   それで……そうなった後、ずっとうつむいて目を瞑っていたんです。
   色々な音が響いているなかで、早く終われー! って思ってました。
   でも、少ししたら肩を叩かれて、お母さんかなって思って顔をあげたら、博士だったんです。
   博士役の人が「お嬢さん、顔をあげなさい」って。
   そうしたら最後の未来の街を見下ろすところの映像が目の前にぶわーって!
   そして「過去が怖くて俯くことは恥ずかしいことじゃない。しかし顔を上げなければ素晴らしい未来だって見えない」
   そういって笑いました。
   今思うと、博士役のキャストさんのアドリブだったんでしょうね。
   私、本当に感動してしまって。
   それから、ここで働きたいって、そう思ってたんです。

 間

足立:あ、あの! すみません! 長々と!
   閉めるっていう話してたのに。

万生:いいよ。俺この後エリアマネと会うし。
   いい話も聞かせてもらった。ありがとう。(頭を下げる)

足立:そんな、大した話じゃ!(頭を下げる)

万生・足立:(吹き出して笑う)

万生:あー……それより終電ないんじゃないの? 大丈夫?

足立:それは……えっと、キャストバスも?

万生:最終24時05分、今は24時20分。

足立:あちゃー……どうしよ。

万生:……俺、車だから送ってくよ。
   家どこ?

足立:え……? いいんですか?
   二子玉川(ふたこたまがわ)なんですけど。

万生:うん。乗ってけ。

足立:……本当、あの、すみません。
   ありがとうございます。助かります!

万生:いいっていいって。
   ロビーで待ってて。……あー、30分くらい待てるかな。

足立:もちろんです!
   あの、待ってます!

万生:ここ、俺がやっとく。ロッカー室、出るとき施錠ね。

足立:はい。ありがとうございます!

 (足立、S室を後に)

 (万生、部屋を見まわっていると、蝶野現れる)

万生:……蝶野エリアマネージャー。
   すみません、今落とすところで。

蝶野:いえ、自分も来るのが遅くなってしまったので。
   手伝います。

万生:あ、じゃあお願いできます?
   座席のチェックだけ。

蝶野:はい。

 <万生、壁のスイッチ等を。蝶野、椅子のチェックをする>

蝶野:席、良しです!

万生:センキュー! ロックします!

蝶野:ロック、オーケー、センキュー!

万生:ほい、これで……と。
   なんですか、ニヤついてますけど。

蝶野:いえ、懐かしいなと思って。

万生:確かに、そうですね。

蝶野:はい。

 間

万生:……それで、話って?

蝶野:エリアマネージャーと、アトラクションチーフとしてのお話じゃありません。

万生:……は?

蝶野:個人的に、俺が万生さんにお話したいことです。

万生:……何だよ。会社絡みじゃないってこと?

蝶野:そういうことになりますね。

万生:ああ、そう。
   ……わかった、聞くよ。

 間

蝶野:遊園地『グッドワールド』では、2年前より続く来場者の減少への対策として、
   様々な対策を打ってきました。
   去年拡張、公開したニューエリアも話題を呼び、
   アニメ会社とのコラボレーションも順調です。
   来場者数も一時期に戻りつつあります。
   (間)
   ですが、ここで手を抜くわけにはいかないという結論に至りました。
   そこでーー

万生:はっきり言えよ。蝶野。

 間

万生:いや、そんなに身構えるなって。
   別に取り乱したりしない、約束する。

蝶野:……この『ライトノア・タイム・トラベル・ツアー』は、半年後、閉鎖します。

万生:そう。取り壊し?

蝶野:はい。取り壊し後、新アトラクションが建設予定です。

万生:……そう。

 間

蝶野:詳しいことは、また後日。

万生:ん? ああ、そうね。

蝶野:……万生さん。大丈夫ですか?

万生:もちろん。わざわざありがとうな、蝶野。

蝶野:いえ。

 (蝶野、S室を去る)
 (万生、ブレーカーに手をかける)

万生:……おやすみ。

 (ブレーカーを落とす)





「ハローグッドワールド」





 (足立、スタッフ控え室)

足立:(小声でぶつぶつと)うわぁ……なんでこんなことに……。
   博士、なんとかならないんですか……。
   皆さんしっかり捕まってください……。
   レバーを倒します……。いきますよー……。
   タイム・トラベル、スイッチオン!

 (堂島、ロッカーの影から飛び出す)

堂島:であえーー!!

足立:キャーー!

堂島:(大笑い)

足立:ど、堂島さん! 何やってるんですか!

堂島:いやいや、アイコちんお疲れっちー!

足立:いやいや、おつかれっちーじゃないですって!
   やめてください! 本当!

堂島:ごめんっていってんじゃん!

足立:言ってないです!

堂島:ごめん!

足立:……本当に私を驚かせるためだけに隠れてたんですか?

堂島:いや、それもあるけどさ。
   初日終わった新人を突撃するのが俺の使命なわけよ!

足立:なんですか、その使命。

堂島:いやね、俺が新人の頃は、キャストみんなでこうバーっと色々やったもんなんだけどさ。
   ここ数年はほら、バイトの入れ替わりも激しいし、そういう伝統とかもね。
   だからこうしてなんか残したいと思ったわけよ。
   それが、これ。

足立:……はぁ。

 間

堂島:どうだったんさ、初日の手応えは。

足立:一緒だった堂島さんが言いますか? それ……。

堂島:俺はほら、モニター越しだし、準備やら色々あるし、お客さんの反応まではわからねえし。

足立:どうしても言わせます……?
   まあ……万生さんは赤点だって……。

堂島:そりゃそう言うよ、獏さんは。

足立:そういいますよねー……でも、全然ダメだったのも確かなんです。
   それはまあ、流石にセリフに詰まったり、忘れたり、お客様の誘導をミスしたりはありませんでしたよ?
   でも、細かなところは全然ダメっていうか……。
   あー……。(頭を抱える)

堂島:(横の椅子に座りながら)ってことは、まあまあってことでしょ。
   いきなり完璧にはいかないだろうけど、自分で課題が見えるってことはいいことさ。
   まあ、練習した成果はちゃんと出るってことじゃないですかね。

足立:(ため息)

堂島:そう落ち込みなさんな! それよりもどう?
   これから飯でも行かない?

足立:え?

堂島:いやいや、聞こえてるっしょー。
   露骨ぅー。

足立:……え?

堂島:いやいや! 別に良いでしょ飯くらい!

 (蝶野、ロッカールームに入ってくる)

蝶野:失礼します。

足立:蝶野エリアマネージャー!

蝶野:初日、お疲れ様です。足立さん。

足立:い、いえ! ありがとうございます!

蝶野:堂島さんも、お疲れ様です。

堂島:へいへい。

蝶野:万生アトラクションマネージャーはいらっしゃいますか?

足立:あ、万生さんですか? えっとーー

蝶野:スケジュール表、確認させてもらいます。

 (蝶野、ロッカーに貼ってあるスケジュール表を観る)

堂島:(不機嫌そうに)あのー。それ一応、俺らの個人情報なんですけど。

蝶野:……権限はありますが?

堂島:だとしてもこっちがいいって言う前に勝手に見られるのはその。
   どうなんですかね?

 間

蝶野:(ため息)すみません。見させていただいても?

堂島:ええ、もちろんですエリアマネージャー。
   すみません、生意気なことを言ってしまって。

蝶野:いえ……用はすみましたので私はこれで。それでは。

足立:あ……はい!

 (蝶野、ロッカールームを出て行く)

 間

足立:あのー……。

堂島:ノーコメント。

足立:堂島さんと蝶野エリアマネってーー

堂島:ノーコメントっていったよねー僕ちん。

足立:……だったらわざわざ私もいる中であんな態度とらなくても。
   気になるというか、気にするんですけど。

堂島:……それは、そうだ。ごもっとも。
   あー、俺、あいつ嫌いなのよ。

足立:……それはなんとなくわかりましたけど。
   社員さんに対する態度としては、その……。

堂島:俺と蝶野はバイト時代の同期。
   言えるのはそこまで! ハイおしまーい!

足立:えー! ケチー!

堂島:で、どうなの? 飯。

足立:えー……でもなぁ。

堂島:なんなわけ。結構俺も仲良くしてるほうじゃない?
   アイコちんとはさぁ。

足立:……あの、行ってもいいんですけど。

堂島:うんうん、何よ。

足立:万生さんも誘ってとかーー

堂島:(ため息)なんだよー! アイコちん、獏さん狙い!?
   気分最悪……! ヘコむわー!

足立:違いますって! 狙うとかそういう話じゃなくって!
   先週、居残りで練習してたら終電逃して、車送ってもらったんです。

堂島:……つまりそれは、すでにヤっちまったってこと?

足立:違います! だから、お礼をいう機会が欲しいというか……。

堂島:(ため息)それってどうなの?
   先輩に飯誘われてて、別の男にお礼言いたいから誘えっての?
   ちょっとそれは失礼すぎない?

足立:それは! ……いや、すみません……。

堂島:まぁ、しゃあないけどね、相手が獏さんじゃ。

 <万生、ロッカールームに入ってくる>

万生:失礼します。

堂島:噂をすれば、お疲れ様っす!

万生:おう、大貴、お疲れ。足立さんも、まだ残ってたんだ。
   初日、お疲れ様です。

足立:はい! あの、ありがとうございます!

堂島:(咳払い)そういえばぁ、獏さん。
   足立さんが、獏さんにお話があるそうですよぉ?

万生:話? 何、どうしたの。

足立:え? あー。えっと。

堂島:『今日は完璧にできました』って、言ってました!
   褒めて欲しいそうですよぉ?

足立:……え? 何いってんですか……!?

万生:へぇ……完璧、ね。

足立:え? あの、いや、違うんです! 今のは作り話で……!

万生:最近の新人はこうなのかね……いや、俺も最近ヌルくなったとは思ってたんだよね。

堂島:そうそう! やっぱり時代に流されて、モラハラだなんだ気にすると失っちゃうものもありますしね!
   ほら、俺らがここに入ったばっかりのころを思い出さないと。

万生:(笑顔で)足立さん、来なさい。
   今日は送ってあげるから、みっちり居残りしよう。

足立:あ、あの、いや、でもーー

万生:いいから。

足立:は、はい!

堂島:(足立に小声で)男子の純情を弄ぶのが悪い。

万生:大貴も、時間あるだろ。付き合え。

堂島:え? マジっすか?

万生:先にS室行ってろ。着替えたら行く。

足立:(堂島に小声で)器が小さいと痛い目みますね。

堂島:(足立に小声で)カッチーン。言うじゃないの。

 <足立・堂島、ロッカールームを出て行く>

万生:(制服を見てため息)

 <万生が上着を着替えていると、蝶野が入ってくる>

万生:蝶野エリアマネージャー。

蝶野:万生アトラクションチーフ。探しました。

万生:ああ。ストロベリーライドの方にヘルプに行ってたんで。
   申し訳ない。

蝶野:いえ、それで、少しお話をと思いまして。

万生:会社の話ですか?

蝶野:個人的な方で。

万生:(ため息)なんだよお前。最近そればっかな。

蝶野:いいじゃないですか、たまには。

万生:いいけど、ちょっと待って。
   これから新人をしごいてやらないといけなくさ。

蝶野:(笑って)珍しいじゃないですか。
   最近ないですもんね、それ。

万生:ああ。どう、付き合ってく?

蝶野:見学でもいいなら。

万生;いいねえ、プレッシャーかけてやって。


 ◇


 <S室・足立と堂島>


足立:ここですよね。

堂島:うん、でもこっちのほうがいいね。
   お客さんがプレッシャー感じるし、後ろのお客さんも見やすいっしょ。

足立:でも、自然にこっちまで移動できますかね。

堂島:できますかじゃなくて、やらなきゃ。

足立:はい!

 <万生、蝶野入ってくる>

万生:言うねえ、大貴くん。

堂島:げっ、蝶野。

蝶野:どうも、お邪魔します。

足立:エリアマネージャーが、どうして?

万生:見学。

蝶野:よろしくおねがいしますね。

堂島:うわー、俺パスします。

万生:許すと思ってんの?

堂島:(ため息)

万生:それじゃあ、はじめようか。

足立:はい! お願いします。


 <数分後・稽古に入る>


万生:正しいかどうか決めるのは俺じゃないだろ!

足立:はい……!

万生:大貴も、小慣れてる感が出てるならやらないほうがマシだ。

堂島:はい!

万生:蝶野、立ち位置は、どんな感じ?

蝶野:万生さんと堂島くんの掛け合いが少し速いと思います。
   若しくは足立さんが遅すぎるという言い方もーー

万生:蝶野! はっきり言え!
   俺らが速いの、足立が遅いの、どっち!

蝶野:はい! 足立さんが遅いです。

万生:足立、少し速く!

足立:はい! わかりました!


 <数分後>
 <座り込む堂島と足立>


蝶野:飲み物、買ってきました。

万生:おー、サンキュー。
   (笑って)お前ら、ほら。

足立:はい……。

堂島:うっす……。

万生:(受け取った飲み物を飲んで)
   お疲れさん。

堂島:(飲んで)ないっすわー!
   絶対ないっすわー! 時給発生してないんすもんね! これ!

足立:そういう問題じゃ……(飲み物)ありがとうございます!

 間

蝶野:懐かしいですね。

万生:ん? ああ、そうね。

足立:皆さんは、ここで昔から一緒にお仕事してたんですよね?
   堂島さんから聴きました。蝶野エリアマネージャーもですか?

蝶野:ええ。そうですね。

万生:蝶野と大貴が同期で、俺は少し前から入ってたな。
   6年ちょっと前かな。

足立:6年もやってらっしゃるんですか……!

堂島:俺は途中一回やめたから実質4年くらいだけど。
   獏さんは俺らより少し早いから7年目ですよね?

万生:そんくらいになる……かな。

足立:はぁー……あの、昔からよくやってらっしゃったんですか?
   こういう、居残り稽古。

堂島:当時はね。むしろ今がヌルいくらいしょっちゅうやってたよ。

万生:(笑う)

足立:でも、そうやって訓練していたから、こうして人を楽しませることができるんですよね。

万生:あの時は、まだここも集客があったし、今ほどノウハウもなかったから。
   今より必死っていうか、なんていうか。

足立:へえ。

堂島:だから逆に俺みたいに小慣れちゃってるパターンとかもあるでしょ。

万生:自覚しろよー。

堂島:へいへい……。

 間

万生:……そうだ、お前らにも話しておかないとな。

足立:え? 何をですか?

万生:(立ち上がって)蝶野。いいかな。

蝶野:ええ……。来週頭には正式に発表になるので。
   もちろん、他言無用ですが。

万生:こいつらなら大丈夫だろ。

堂島:……なんすか。なんかいやな予感がするんですけど。

万生:(笑って)突然なんだけどな……。
   (深呼吸をする)
   『ライトノア・タイム・トラベル・ツアー』は、10月末で閉鎖する。

 間

足立:え?

堂島:……どういうことっすか。それ。

万生:取り壊しだ。新しいアトラクションになる。

堂島:(立ち上がって)どういうことっすか!

万生:どうもこうも、そういうことだよ。

堂島:蝶野、どういうことだ。

蝶野:上の決定です。

堂島:お前……!(蝶野に掴みかかる)

万生:やめろ! 大貴! 

蝶野:手を離せよ、堂島。
   ……手を離せ!

 間

堂島:取り壊しは仕方ねえよ。ボロだし、人気もねえしさ。
   でも、言うならお前の口からだろ!
   獏さんに言わしてんじゃーー

蝶野:お前。
   ……いつまでそんな調子でいるつもりだ?

堂島:あ?

蝶野:だからお前はいつまでたってもーー

万生:お前ら! ……今やるか? それ。

堂島:……いえ。

 間

万生:ごめん、足立さん。

足立:え? あ、いや。
   ……そんな私は。

万生:このアトラクションが好きで、入ったんだもんな。
   なんていうかーー

足立:そんな、私は! 
   ……私なんかより、きっと皆さんの方が……。

 間

堂島:ま、いい機会かも知れねえっすわ。
   ……俺、ここ潰れるなら、辞めます。

万生:……そうか。

堂島:んじゃ、お先に上がります。
   俺、遠いんで。

万生:……おう、おつかれ。

堂島:うっす。
   あ! それまでにアイコちん! 飯ね!

足立:はは……考えておきます。

堂島:うわー……ま、諦めずに誘いますよ。
   それじゃ、失礼します。

 <堂島、去る>

万生:うし……俺達も引きあげるか。

足立:あ。

 <足立、時計をみる>

足立:もうこんな時間……!

万生:(笑う)送ってく。

足立:えっと……! すみません、お願いしてもいいですか?
   明日、大学が早くて……朝まで待てないんです……。

万生:むしろ予定も聞かずに引き止めちゃって悪かったね。

足立:そんな……。
   でも……本当に、残って良かったです。
   その……練習も、ですけど……少しでも早く、
   このアトラクションのこと、知れて。

万生:(時空間移動装置に手を置いて)
   きっと喜んでるよ。こいつも。
   ……それに、寂しがってなんていられないぞ?
   これからが忙しくなる。だろ?

蝶野:……そうですね。取り壊しが発表されたら、きっとたくさんの方がいらっしゃるはずです。

足立:はい。私、もっともっとちゃんとできるようになります。
   (部屋を見渡して)
   少しでも、このアトラクションが人の心に残るように。

万生:(微笑む)じゃあ、また悪いんだけど、少しロビーで待っててくれる?

足立:あ、はい! わかりました!
   (息を吸って)今日もありがとうございました!

万生:ありがとうございました。

蝶野:ありがとうございました。お疲れ様です。

 <足立、去る>

蝶野:本当に、いい娘(こ)ですね、彼女。

万生:ああ。本当に。

蝶野:いいキャストが入りましたね。

万生:その分、面倒なベテランもいるけどな。

蝶野:(吹き出す)

万生:閉めるか。

 間

蝶野:……やっぱり。

万生:ん?

蝶野:最後まで、残ってるんですね。いつも。  

万生:いや、別に残ろうと思ってるわけじゃないけどーー

蝶野:万生さん。

 間

万生:……何だ。

蝶野:万生さん……どうするんですか。

万生:どうする、って何を。

蝶野:もう、いいんじゃないんですか。

 間

蝶野:昇進を断って、このアトラクションに拘っている理由。
   瑛子さん、ですよね。

万生:……そうじゃないって言ったら、嘘になるよ。
   (客席に座って)
   あの人が、なんでここにこだわってたのか、
   ここに居たら、わかるって思ってた。
   でもさ……。

 間

万生:(笑って)今は、純粋にこのアトラクションが好きなだけだよ。
   なんだかんだ、理由なんて変わっていくもんだな。

 間

蝶野:万生さん……俺は、それが嘘だって思ってるから、言ってるんですよ。

 間

万生:……勘弁してくれよ。

 間

万生:……お前は、前に進んでるんだもんな。

蝶野:そう信じてないと、やってられないですよ。
   ……だから、イライラするんです。
   万生さんにも、大貴にも。
   (間)
   いい加減……過去ばかり旅するの、やめましょうよ。

 間

蝶野:今度はご飯、行きましょう。
   それでは、お疲れ様です。

 <蝶野、去る>

万生:(部屋を歩きながら)
   ……ここは、象徴。
   俺達の……過去。青春。家。
   でもこのままじゃーーまるで棺桶だ。

 <時空間移動装置に手を触れる>

万生:……そこに、いるのか。

 間

万生:俺は、何を期待しているんだ……。


 ◇


 <数日後、S室>


足立:(息を吐く)

堂島:おいすー。

足立:お疲れ様です!

堂島:……何してんの?

足立:居残りです。まだまだなんで。

堂島:あー……そうっすか。

足立:堂島さん、付き合っていただけません?

堂島:ん。今日はパス。

足立:ノリ悪いですね……。

堂島:飯断ってる娘の言うことかね。

足立:しっし! やらないなら邪魔しないでください!

堂島:(吹き出す)すいませんでした、先輩。
   失礼しまーす。

足立:(吹き出す)いえ、お疲れ様です。

 <堂島、去る>

 <足立、改めて>

足立:(助手)皆さん! シートベルトはしっかり締めてますか!?
   時空間移動装置は大変揺れやすくなっております!
   お手荷物は足元の籠の中にいれて、眼鏡や帽子等の飛びやすいものは、
   あらかじめ鞄の中にしまっていただくようお願い致します!

江夏(声のみ):(笑って)声張ればいいってもんでもないよ。

足立:……え!?

 <辺りを見渡す>

足立:誰、ですか?

 間

足立:誰か! いるんですか!

 <蝶野、入ってくる>

蝶野:……助手にそんな台詞、ありましたかね。

足立:蝶野マネージャー……。

蝶野:どうかしたんですか。顔色が悪いですけど。

足立:いえ! あの……今一人で練習してたら、その……
   声がして……!

蝶野:声? どんな、ですか?

足立:女性の声でした……!

蝶野:システムボイスとかじゃなくて?

足立:システムボイスだったら、私わかります!

蝶野:そうですか?

足立:そうですよ! 毎日働いてますし、
   アトラクションのCDも、聴きながら来てますし……!
   絶対に、違ったと思います。

蝶野:(微笑む)そう。
   じゃあ……一応管制室をチェックしてみましょうか。

足立:お願いします……!

蝶野:いえいえ。

 <蝶野、管制室へ>

足立:あーもう……お化けじゃない……!
   お化けじゃない……!
   (ドアの外に堂島を見つける)あ……!
   堂島さーん!

堂島:あ、アイコちん? ビックリしたー。
   俺、今日はパスってーー

足立:あの、堂島さん!
   ここって、その、お化けとか、出ないですよね!

堂島:お化け? いや……俺は知らないけど……。
   なに、なんか出たわけ?

足立:女性の声が……。

江夏(声だけ):時空間移動システム、起動します。

足立:え、この声……。

蝶野:(管制室からマイクを使って)
   『足立さん、この声じゃなかったんですよね。

足立:あ……いや! この声だと、思います。

蝶野:『(笑って)やっぱりシステムボイスの誤作動ですね。

堂島:……ってことらしいけど。

足立:……はい……でも、おかしいです。
   システムボイスって変わりました?

堂島:いや、そんな話は聞いたことないけどーー
   あ……まーたあいつこっちくるだろ。
   俺、行くわ。

足立:引き止めちゃって……その……。

堂島:いいっていいって、怯えるアイコちんも可愛かったよん。

足立:お疲れ様でーす。

堂島:つめてーの……。

 <万生、入ってくる>

万生:大貴、まだ残ってたか。

堂島:獏さん。おつかれっす。

万生:あのさ、明日なんだけど、途中でヘルプにーー

 <次の瞬間、時空間移動装置のランプが点灯する>

万生:え? ……モニター動いてないか?

堂島:ホントだ……電源、落としてますよね……?
   誤作動?

万生:統制室、だれかいんの?

足立:えっと、蝶野マネージャーが。

万生:蝶野! そっちで遠隔した!?

蝶野:『いえ!(ブルースクリーンに文字が羅列されている)
    なんだこれ。見たことないエラーです!

 <重い起動音がなる>

堂島:なんだ、この音……!

万生:伏せろ……!

足立:キャッ!

機械音声(江夏):時空間移動システム、実行します。



 【場面転換・6年前】

 (以降、ト書きにて指示があるまで、万生、堂島、蝶野は6歳若返っている)

 <暗転・S室、足立のみ立っている>


足立:……え? 何が……?
  (見回して)堂島さん……? 蝶野マネージャー?

 <江夏、S室に入ってくる>

江夏:ん? 誰?

足立:あ。あ、あのーー

江夏:新人の子?

足立:あ、はい。

江夏:へえー居残りしてるんだ。いいね!

足立:いえ、万生さんたちと。

江夏:ん? 万生と?

足立:ええ……色々と教えていただいて……。

江夏:(吹き出す)あいつが? ダメダメ!
   あんな半人前のいうこと聞いちゃ。

足立:半人前……ですか?

江夏:私、ちょっと休んでたんだけど。
   あー、江夏瑛子です。あなたは?

足立:あ。足立愛子です! 先月から入りました。

江夏:そっか。よろしくね、足立さん。

 <蝶野、堂島、少し格好が若くなっている>

堂島:いいじゃん!

蝶野:俺はいい。

堂島:ノリ悪すぎんだろ。
   あ、瑛子さん、お疲れ様です!

蝶野:お疲れ様です。

江夏:お疲れ様。来たね。

堂島:あの、瑛子さん。俺この後地元で女の子と呑むんですよーー

江夏:だめ。

蝶野:(吹き出して)だってよ。

堂島:やだやだー! 行きたいー!

江夏:女の子といえば、この子。新人さん入ったなら、あらかじめ伝えておいてくれてもいいんじゃない?

堂島:え?

 間

堂島:いや、俺は初めてですね。

足立:え?

蝶野:俺もです。

堂島:俺! 堂島大貴です! ハタチでーす!

蝶野:俺は蝶野です。

足立:え? えっと……足立です。
   っていうか、どうしたんですか? 堂島さんも、蝶野マネージャーもーー

蝶野:……マネージャー?

江夏:初めてじゃないの? 知ってる風だけど。

堂島:いや、こんな可愛い娘、入ってたら覚えてますって。

蝶野:セクハラだぞ。そういうのやめろ。

足立:(小さく呟く)……どういうこと。

江夏:そういえば、万生は?

蝶野:誘ったんですけど、なんか用事があるって。

堂島:マジかよ! 万生先輩やるぅ!

江夏:(ため息)あちゃー……避けられてるなぁー、こりゃ。

蝶野:まぁまぁ。終バス早くなるそうですし、もうやりましょうよ。

江夏:あ、そうだ。足立さんも。

足立:え?

堂島:ナイスアイデアっすね! やってこうよ、足立さん!

蝶野:なんかすげえやる気だな、お前。

江夏:こらこら、囲むなっての。
   ……えっと、足立さん。私達、居残り練習なんだけど。
   もし良かったら、足立さんも参加しない?

足立:いえ、私はこれで……。

江夏:そう。じゃあ、また何かあったら。いつでも言ってね。

 <江夏、手を差し出す>

江夏:足立さん。

足立:(握手をしながら)……はい。

江夏:ようこそ。これからは仲間としてよろしくね。

足立:仲間……。

江夏:(呟くように)ありがとう……付き合ってくれて……。

足立:……え?

江夏:それじゃ! 始めるわよー!

蝶野・堂島:うーっす。



 <足立、フラフラと更衣室へ>
 <更衣室の椅子に、万生が1人で座っている>
 <万生も格好が若くなっている>



足立:……あ。

万生:ん……? ああ、すみません。もう出ます。

 間

足立:あの! 万生さん!

万生:え?

 間

足立:万生さん、ですよね?

万生:えっと……。

足立:足立愛子です。

万生:ああ……新しく入ったキャストさん。
   よろしくーー

足立:万生さん……今って、何年ですか……?

万生:……いや。カレンダー。

 <万生、カレンダーを指差す>

足立:……嘘……。6年……前?

万生:……あの、大丈夫、ですか?

足立:はは……嘘……。

 間

足立:(呟く)そうだ……時空間移動装置……。

万生:あの、じゃあ、お疲れ様です。

足立:待ってください!

 間

足立:あの。聞いてもらえませんか? 話。

万生:なんの……?

足立:実は……私、時間を……そう。時間を戻ってきてしまったみたいで。

 間

万生:はぁ。

足立:6年後、ここで働くことになって!
   それで、万生さんのことも、蝶野さんのことも、堂島さんのことも、私、知ってます。

万生:そ、そうなんだ。

足立:そうなんです! 万生さんが昔やってたみたいに居残りで稽古するっていって、
   私たち、稽古した後ーーモニターが変な音を出して……!

万生:あ、ああ、いや。わかりました。

 <足立は感情的になるあまり、涙と鼻水が止まらない>

足立:本当に! 本当に……嘘なんていってないんです……!
   私、こんなことになってしまって……! もうどうしたらいいかわからなくて……!

万生:ごめんなさい、ちょっと人呼んでもいいですかーー

足立:信じてください! 信じてください! 信じてください!

 間

足立:信じてください……! 万生さん……!
   お願いです……助けてください……。

 間

万生:あの……。

 間

万生:(ロッカーからタオル取り出して)タオル。良かったら。


 <数分後、足立は少し落ち着いている>


万生:落ち着きました?

足立:……はい。すみません。

 間

足立:あの、ありがとうございます。

万生:何が、ですか?

足立:いや……話を聞いていただいて……。

万生:……まだ何も聞いてないですけど。

 間

足立:信じて、くれたんじゃないんですよね……?

万生:それは、流石に、まあ、なかなか……。

 間

万生:6年後のここで働いていて、気がついたら、6年前のここに……?

足立:……はい。

万生:……あー……なんていったらいいんだろう。

足立:本当、なんです。

万生:それで、6年後も俺はその……ここに?

足立:はい……このアトラクションチーフをやられてて……。
   蝶野さんは、エリアマネージャーで……。
   堂島さんはキャストで入ってて……。

万生:(ため息)で、そこから時空間移動したってこと?
   ーーあのオンボロアトラクションで。

 間

万生:君がどういう人間なのかはわかんないけど。

足立:……はい。

万生:俺、来月でここ、やめるんだよね。

 間

足立:辞める……?

万生:だから、ごめん。
   ……タオル。好きにして。


 <万生、更衣室を後に>

 <足立、呆然と座っている>

 <数分後、更衣室に江夏が入ってくる>


江夏:あれ? 足立さん……?



 ◇


 <車の中、運転席に江夏。助手席に座る足立>


江夏:それで、そろそろ話してもらってもいいかな?

 間

江夏:おーい……。

足立:きっと……信じていただけないので……。

江夏:それって、自分でそうだって思い込んでるだけってことない?

足立:万生さんは……信じてくれなかったし……。それに……。

江夏:それに?

 間

江夏:それって、あなたの名前がキャストの登録資料になかったことと関係があったりする?

足立:え?

江夏:確認したの。ほら私、アトラクションチーフだから。
   休み中はエリアマネが監理してくれてたけど、
   その時に採用したとしても、私に連絡がないのは変だもん。
   だから、ね。

 間

江夏:何者なのかな。足立さんは。
   もちろん、行く場所がないっていうから泊めてあげようっていってるのは善意だけど、
   そこら辺がはっきりしないと私もどうしていいのかわかんないし。

 間

足立:実はーー


 ◇


 <江夏の部屋、パジャマを着ている足立>

江夏:お、出た? 似合う似合う。

足立:あの。本当に、ありがとうございます。

江夏:いいのいいの。困ってる女の子を助けるのは当然、でしょ?

足立:……えっと。

 間

江夏:考えたんだけどね。信じることにした。

足立:本当ですか!?

江夏:うん。本当。
   だってその方が面白いじゃない?
   取り壊しが決定してるオンボロアトラクション!
   ある日そのアトラクションが謎の挙動をしたかと思ったらーー
   ドーン! 本当にタイムスリップしてしまった!

足立:まぁ、そういうことなんですけど……。

江夏:それにね。勘だけど、嘘を言っているようには見えないから。

足立:ありがとう、ございます。

 間

江夏:うーん……それにしても、変なこともあるもんね……。
   あのアトラクションが、本当にタイムトラベルをさせた、なんてね。

足立:やっぱり……あれのせい、なんですよね。

江夏:それはわかんないけどさ。
   (間)
   うん。明日から一緒に働いてみよ。
   書類の方はわたしがなんとかするからさ。

足立:それって、タイムトラベルツアーで、ですか?

江夏:そう。近くにいれば、もしかしたらまた作動して今度は未来までいけるかもよ?

足立:……そう。ですよね。

 間

足立:不安、なんです。

江夏:うん。

足立:もし、戻れなかったら。
   このまま過ごすことになったら。
   ……本物の私がいる世界で……。
   私の居場所なんて、なくなってしまって……。

江夏:戻れるよ。

足立:でも。

江夏:戻れるから、大丈夫。
   ……ほら、もう寝よう。明日からビシバシ練習してもらわなきゃいけないから、休んで置かないと!
   (笑顔で)足立さんがいた頃は落ち目かも知れないけど、
   今のライトノア・タイム・トラベル・ツアーは、主力とは言わないまでもそこそこ人気があるからね。
   経験者でも、簡単にはキャストになんか入れないよー?

足立:(笑って)それ、ちょっと嬉しいかもしれないです。
   
江夏:って、いうと?

足立:私、好きなので、タイムトラベルツアーが。

江夏:……そっか。だからか。

足立:……だから?

江夏:そうだ! 足立さんが未来から来たって話、他の人には内緒にしたほうがいいと思うんだよね。

足立:あ。でもあの、万生さんには、そのーー

江夏:あー、あいつは大丈夫。
   頭固いし、放っとけば問題ないから。
   他の人は、ほら、バレたら最悪捕まっちゃうかもよ?
   それで、未来のことを話せ! なんて言われたりして。

足立:(苦笑)それは、嫌ですね。

江夏:でしょ? だから、ね。

足立:……はい。

江夏:うん。良いお返事。

 間

足立:あの……えっと。
   万生さんのこと、なんですけど……。

江夏:うん?

足立:辞めるって言ってて、GW(ジーダブ)のバイト。

江夏:……ちょっとまって? ジーダブって、うちの遊園地のこと?

足立:あ、はい。

江夏:(吹き出す)そっかそっか。グドワーよりはお洒落だわね。
   ごめんごめん! それで、万生だっけ。
   6年後はアトラクションチーフとして働いてる、と。

足立:はい。
   だから辞める、なんておかしいと思うんです。
   辞めちゃってたら、私と出会うことはなかったわけじゃないですか。

江夏:……うーん。そうだね。
   でも、未来でも知り合ってるあいつらは、足立さんのこと、知らなかったわけだよね。
   だとしたら、ここは過去だけど……過去じゃない、とか?

足立:過去じゃない……。

江夏:ほら、平行世界、みたいな。

足立:じゃあ! これからもし、元の時間に戻れたとしても、未来は変わってしまってるってことですか?

江夏:わからないけど……でもーー

 間

江夏:物事はシンプルに考えたほうがいいよ。
   まずは、未来に戻る! 戻るためには、アトラクションの側にいないと!
   ってことは?

足立:キャストにならないと、ですね。

江夏:(笑って)そゆこと。


 ◇


 <翌日、更衣室。 足立と蝶野と堂島>

蝶野:すごいね、足立さん。

足立:え?

蝶野:入ったばかりなのに。

足立:えっと、ありがとうございます!

堂島:そうそう! 台詞も頭に入ってるし!
   瑛子さんの推薦だから只者じゃないとは思ってたけど、
   アトラクション前の説明と列整理、すごいスムーズだったしな!

蝶野:この分だと、次のキャスト入りは足立さんかもね。

堂島:いやいや、俺らも負けてらんないっしょ、普通に。

蝶野:そう思うなら、お前もっとシフト入れよ。でないと本当にずっと列整理だぞ。

堂島:大学生の本分は、バイトと女遊びにある。堂島大貴、名言集。

足立:(笑う)

堂島:あれ? 笑う? そこで。

蝶野:足立さんも大学生?

足立:え? ええ。私は、その……休学中です。

蝶野:そう。深くは聞かない方がいいかな。

足立:助かります。

 間

足立:あの。お2人は、仲良いんですね。

堂島:え? いや、まあ、同期だし?

蝶野:俺のほうが歳上だけどね。

堂島:1歳だけね!

蝶野:1歳もね。

足立:(笑う)

蝶野:うわ……絶対今俺達セットだと思われてるよ……。

堂島:嬉しいくせに! 照れんな照れんな。

足立:あの。

蝶野:ん?

足立:お2人は、どうしてここでバイトを?

堂島:俺は、モテそうだから。

足立:あぁ……。

堂島:何その納得した感じ!

足立:蝶野さんは?

蝶野:俺? ……俺は、家が近いから、かな。

足立:そうなんですね。

堂島:愛子ちゃんは? どうしてここに決めたの?

足立:えっと、好きだから、ですかね。

蝶野:(笑う)そっか。いいね、それ。

堂島:情熱に勝る理由はない。堂島大貴、名言集。

蝶野:理由はモテそうだから。堂島大貴、名言集。

堂島:うっせ!

 <万生、入ってくる>

堂島:万生せんぱーい、お疲れ様です。

万生:ああ、おつかれ。

蝶野:今日も助手役、入ってましたよね!
   なんかトラブルあったって聞きましたけど。

万生:古川さんの担当のとこだから、俺は入ってない。
   ……っていうか(足立をみる)

足立:あ、えっと……。

堂島:ああ、スーパー新人の足立さんです。
   俺が狙ってるんで万生先輩はーー(頭を叩かれる)

蝶野:バーカ。そういうのやめろっつってんだろ。

堂島:冗談と本音の狭間で揺れ動く恋の芽を植えるのが、
   俺の使命なんだよ。堂島大貴、名言集。

蝶野:でも、すごいんですよ。足立さん。
   最近入ったばっかりなのに、もう列整理と案内、完璧なんです。

万生:……そうなんだ。

堂島:経験者顔負けっすね。
   これは俺も抜かれる危機感覚えてるんすよね。

足立:いや……まだまだです!

万生:そうか……あの人が、許可だしたのか……。

足立:あの人……?

 (江夏、ロッカーの影から飛び出す)

江夏:であえーー!!

全員:(悲鳴を上げる)

江夏:(大笑い)

蝶野:瑛子さん!

堂島:(笑う)マジでやりましたね!
   瑛子さんどんだけ隠れてたんすか!

江夏:秘密!

蝶野:あー……ごめん、足立さん。これーー

足立:新人歓迎の儀式……。

蝶野:え?

足立:あ。いや。

江夏:そうそう! わかってるねえ! 愛子ちゃん!

 間

江夏:それより聞いたよ? いい仕事っぷりだったって。
   郡司マネージャーが褒めてたんだから!

足立:あ、ああ。そうなんですね。
   ありがとうございます!

江夏:(大きな声で)いやぁーどっかの誰かが急に辞めるなんて言い出したらしいから、
   どうしようかと思ったけど、代わりが見つかりそうでよかったー。

蝶野:あー……江夏さん。

堂島:居ますよ、そのどっかの誰かさん……。

 <全員、万生の方を観る>

江夏:聞こえるようにいってんの。

万生:(舌打ち)

江夏:ご覧のとおり。
   でもまあ、この更衣室には、空気を悪くするようなやつは必要ないんで。
   調度良かったわ。

堂島:いや! それは、言いすぎっす。

江夏:ごめんね、大貴。
   ーーでもさ、私が休んでるときにコソコソ辞めようなんてね。

万生:……関係ないでしょう。所詮バイトですから。

江夏:うん。やっぱ、あんたダメだね。

万生:そういうと思ったよ。


 <万生、更衣室を出て行く>


蝶野:……あ、俺。次、ヘルプでした。

堂島:お、おう。いってら。

江夏:いってらっしゃーい。

堂島:俺も、この後約束あるんで。

江夏:うん。お疲れ。

足立:あ、お疲れ様です!

蝶野:それでは。

堂島;うーっす。

 <堂島・蝶野、去る>

江夏:ねえ。愛子ちゃん。

足立:は、はい。

江夏:私のこと聞いてる? あいつから。

足立:……いえ。

江夏:そっか。うん。


 ◇


 <数日後、S室>

蝶野:お疲れ様です。

江夏:お疲れでーす。

 間

江夏:最近働くねえー親臣。

蝶野:え? ……まぁ、暇なんで。
   俺、サークルにも入ってないですし。

江夏:そっか。
   青春、したほうがいいよー。

蝶野:は?

江夏:ほら、大貴を見習って。

蝶野:いや、俺はそういうのは別に。

江夏:そう? そんなこと言ってると、どんどん時間は過ぎてっちゃうよ。

蝶野:(笑う)それ、瑛子さんがいいます?

江夏:あ。どういう意味よ、それ。

蝶野:バイトばっかりで彼氏もいないじゃないですか。

江夏:よぉし、そこに直れ!

蝶野:(頭を掴まれて笑いながら)
   いった! いや! すみませんすみません!

江夏:(笑う)あー……あのさ。監理部長にあった?

蝶野:え? いや、最近は全然。

江夏:そっか。あのさ。
   (間)
   私、ここの社員に誘われたんだ。

蝶野:え? すごいじゃないですか!
   おめでとうございます!

江夏:うん、ありがと。

蝶野:それで、いつから?

江夏:うーん……でもちょっとねー。

蝶野:ならないんですか? どうして。

江夏:個人的な理由? まぁ、それも会社に話した上で、誘ってもらえてはいるんだけどね。

蝶野:……そうなんですか。でも、絶対なったほうが良いです。

江夏:(笑って)なんで?

蝶野:だって……それはそうじゃないですか。
   瑛子さんが社員になってくれたら、俺らが嬉しいですから。

江夏:自分勝手だなーおい!

蝶野:すみません。

江夏:私としてはさ。親臣がいいんじゃないかって思ってるんだよね。

蝶野:え?

江夏:卒業、来年でしょ?
   上は新規採用欲しがってるし。ほら、私みたいなバイト上がりでもほしいぐらい人材不足なわけ。
   親臣は真面目だし、それにほら、私と違ってーー感情に流されたりしないし、ね。

蝶野:……いや、それは……。

江夏:その気があるなら、原さんに話してみるけど。

蝶野:……少し、考えさせてください。

江夏:わかった。(ふらつく)
   あら……?

蝶野:え? 瑛子さん?

 <江夏、倒れる>

蝶野:瑛子さん!? だれか!
   誰か来てください! 瑛子さんが倒れてーー


 ◇


 <更衣室、堂島と万生>

堂島:万生せんぱーい。

万生:堂島くん……何?

堂島:これから女の子とーー

万生:いかない。

堂島:いけずぅー! いいじゃないですかー!
   人数合わないと行かないっていうんですもん!

万生:……あのさ。堂島くん、俺のことはいいから。

堂島:はぁ? ナンスカそれ。

万生:いや、だから……。

堂島:万生先輩、すげえかまって欲しいオーラ出してるすもん。

万生:はぁ!?

堂島:全身からこう、ドバーって。

万生:そんなことないから!

堂島:いや、あるんすって。本当に。

万生:……勘弁してくれよ。

 間

堂島:万生さんってここやめて、なんのバイトするんですか?

万生:え?

堂島:だって、するんすよね。バイト。

万生:いや……決めてないけど。

堂島:そうなんすか。
   俺はここ好きなんすけどねー。
   時給は割にあわないことあるけど、なんていうか、
   仲間もいるし、目立つし……そう! 結構女子ウケいいんすよ!
   グドワーで働いてるっつーと!

万生:知ってるよ。一回女の子と来たことあるだろ。

堂島:あ、やっぱ覚えてます?

万生:堂島くん、俺のこと指差して、「あの人俺の先輩なんだ」って言ってた。

堂島:そうそう! いやぁー流石っすね! あれだけ忙しくても見えてるんですから。
   まぁ……実際、そういう先輩なんで! 万生さんは。

万生:……そういうって?

堂島:自慢の先輩なんすよ。

 間

万生:(笑って)そういうの真顔で言えちゃうタイプか。お前。

堂島:万生さん、笑うと可愛いっすね!

万生:うるせえよ!
   あー……ありがとな。

堂島:(笑って)ナンスカ、それ!

 間

堂島:あー……やめましょ。

万生:はぁ?

堂島:やめんの、やめましょ。

万生:いや、俺はーー

堂島:俺は! 先輩のキャストみて、かっけーって思ったんすよ。
   だから、勝ち逃げみたいで、嫌っす。

万生:……それは、嬉しいけどさ。

 間

堂島:やっぱ、理由、あるんすね。

万生:なんだよ……。

堂島:所詮、バイトだってこないだいってましたもんね。

万生:ん? ああ……更衣室か。

堂島:俺、その通りだって思うんすよね。

万生:お前さ……どっちだよ。

堂島:いや……自分でも良くわかんねえっすけど……。

 間

堂島:あ、そうだ! シフト! NG出しとかないと!
   お先、事務局行ってきます!

万生:あ、おう。……また!

堂島:うっす!

 間

万生:また……。
   (ため息)また、か。


 ◇


 <江夏宅。江夏、ベッドに横になっている>

江夏:ありがとね……愛子ちゃん。

足立:いえ。居候させていただいているのに……こんなことしか。

江夏:助かるわー。すごい、助かる……。

足立:少ししたら、タオル、変えておきますから。
   休んでください。

 間

江夏:熱があるからかな。

足立:どうしました?

江夏:……あのね。急に悲しくなっちゃった。

足立:え?

江夏:あいつ、私の事、話したりしてなかったんだね。
   6年後も。

足立:あいつ……?

江夏:うん。獏。

足立:万生さんのこと、ですよね?

江夏:あいつね、私の弟なんだ。

足立:……え?

 間

江夏:親が離婚したんだ。私が高校生で、獏はまだ、小学生だった。
   獏はね。優しい子だから。すごく嫌がったの。
   でも私は言い続けてた。2人も人間だから、しかたがないんだって。
   それでも食い下がる獏を見てて、なんだか自分がすごく汚い人間のような気がしてた。
   裁判では母が親権もらったけど……私は、父さんについていくことにしたんだ。
   これからあの子の側で、あの純粋で優しい瞳で見つめられるのに耐えられなくて……。

 <江夏、涙を流している>
   
江夏:私は……逃げたの……あの子から……!
   でも、あの子は、逃げなかった。私を、探しだした。
   昔家族で一緒に来ていた、大好きだったグッドワールドで、働いている私を。
   思い出に縋っているだけの私の前に、獏は現れたの。
   獏はきっと取り戻そうとしてたんだと思う。
   姉弟としての、家族としての時間を、でもつけ離しちゃった。

足立:どうして、ですか?
   だって、だって、江夏さんだって、万生さんのこと……!

 <江夏、疲れたようで呼吸が深くなっていく> 

江夏:10年だよ? 10年なんだもん……。
   違うんだよ。もう。違う人なんだって、思ったんだもん……。
   私だって、過ごしてきたんだよ……。
   高校を卒業して、短大に行って、好きな人ができたり、友達と別れたり。

足立:そんなーー

江夏:だけどね……私決めたの……そう……(眠りにおちる)

足立:……おやすみ、なさい。

 間

足立:私に、何を見せたいんですか?

 間

足立:私に……どうして欲しいんですか?

 間

足立:……タイムトラベルなんて、いいことないじゃん…。


 ◇


 <S室、万生、足立、片付けをしている>

 <万生、壁のスイッチ等を。足立、椅子のチェックをする>

足立:席、良しです!

万生:センキュー! ロックします!

足立:ロック、オーケー、センキュー!

万生:……お疲れ様。

足立:……お疲れ様です。

 間

足立:……あの。

万生:……何?

足立:瑛子さんのこと、聞きました?

万生:聞いてないけど。

足立:倒れたんです、昨日。

 間

足立:昨日の夜、ここで急に。
   そのまま郡司マネージャーが車で病院に。

万生:それで?

足立:え?

万生:その後は?

足立:私、瑛子さんの家に、泊めていただいてるので……。
   看病、というか、そういうのは。

万生:ふぅん……。

 間

万生:それで、なんでそれを俺に?

足立:いや……だって。

万生:(ため息)
   聞いたってわけ。

足立:来ないんですか?

万生:……別にもう、関係ないから。

足立:そんな……!

万生:……俺が言ったわけじゃないよ。
   そういったのは、あの人なんだ。

足立:だって! 
   だって……家族じゃないんですか?

万生:知ったような口、聞くなよ。

 間

万生:未来から来たっていってたよな。
   それ、あの人は信じたわけ。

足立:……はい。

万生:(笑って)よし! 俺も信じてやるよ。
   それで、未来の俺達は? どうなんだよ。

足立:どうって……。

万生:幸せなのか? どうなんだよ。

足立:そんなの! わかるわけない……。

万生:そう。わかるわけないんだ。
   相手のことなんて、わかるはずない。
   過去を遡って、どうだよ。
   俺とあの人が姉弟だって知って、
   それで何がわかったんだよ。

 間

万生:……良く来てたんだよ、ここ。
   小さい頃。家族で。
   だから、あの人がここで働いてるっていうのがわかって、俺は……!
   (間)
   俺は……期待、してたんだ。
   (時空間移動装置を見上げながら)
   無くした時間を取り戻せるわけないのにな……!
   
 間

万生:(悲しげに笑う)
   だから、俺は君のこと、認められない

 間

足立:じゃあどうして……。
   どうして私はここにいるんですか?

万生:……そんなこと、俺が知ってるわけ無いだろ。

足立:質問、変えます。じゃあどうして、6年後の万生さんは、ここで働いていたんですか。

万生:そんなの俺がーー

足立:そうですよ……!

 <足立、拳を強く握りしめている>

万生:何がーー

足立:タイムマシンなんて、あるわけないじゃないですか!

万生: 君、何言ってんだ……。

足立:でも! だったら……!
   ……私たちがやってることって、なんなんですか?

 間

足立:このアトラクションは最後、どうやって終わるんですか?
   お客さんは、何を感じて帰るんですか!?
   だって、ここは、タイムトラベルツアーで……!
   本当に私を……みんなを時間旅行に連れてってくれる……!
   私は、それを信じていたい! 信じさせたい!
   それを感じたから! 万生さんはーー

万生:……俺は。

足立:私……帰ります。

万生:おい!

 <足立、駆け足で去る>

 間

万生:……なんなんだよ。

 <万生、頭を抱える>

万生:俺……何してんだろう……!

 間

江夏:本当、何してんだか。

万生:え?

 <客席に江夏が座っている>

万生:いつの間に……!

江夏:獏。
   (笑って)座りなよ。隣。


 ◇


 <更衣室、蝶野、ロッカーを整理している>

 <堂島、入ってくる>

蝶野:ん? おう。おつかれ。

 間

蝶野:なんだよ。無視か?
   ……調子狂うな。どうしたんだよ。

堂島:親臣、お前さ。

蝶野:なんだよ。

堂島:社員になるって、本当?

 間

蝶野:いや、それはーー

堂島:どっち?

 間

蝶野:……考えてるとこ。

堂島:原さんから、聞いた。
   お前、瑛子さんの枠に入んだってな。

蝶野:……は?

堂島:お前それ、どういうこと?

蝶野:違う! 瑛子さんは迷ってるって!
   でも、上は人材不足だから推薦してくれるっていう話で!

堂島:それ、瑛子さんの嘘だっつってんの!
   お前が入って、それでおしまいだよ!
   社員の枠なんて、もうないんだってさ……!

蝶野:そんなの……!

 間

蝶野:そんなの、しらねーって……!

堂島:わかってるよ……お前の顔みりゃわかるし。

 間

堂島:でも、相談くらいして欲しかったぜ……。

 間

蝶野:……そういうの、やめようぜ。

堂島:は?

蝶野:たしかにさ、ここは居心地いいよ。
   やりがいもあるし、みんな仲良いし。
   でもさ。就職するとか、そういうの、いちいちお前にいう必要ないだろ。

堂島:んだよ……喧嘩売ってんのか?

蝶野:違うよ。俺さ、考えてたんだよ。
   このままでいいのかなって。
   高校はさ、3年で終わったよ。
   大学だっていつか卒業する。
   でも、ここは、そういうんじゃない。

堂島:だからなんだよ……!
   ここにいる間は仲間じゃねえかよ!
   心配すんのが悪いってのか!

蝶野:そうじゃねえって!
   だから、俺ら自分で前に進まなきゃいけないんだ!
   (唇を噛む)……お前は、優しすぎるから!
   だから、『瑛子さんが死んでからもずっと』ここに居続けちまってんだろ!
   でもそれは、お前の優しさは……!
   ……お前を縛り付けてるんじゃないかってーー

 <堂島呆然としている>
 <蝶野、堂島、6年後の姿に戻っている>

蝶野:どうした……何見てんだよ……。

堂島:お前、今なんていった?

蝶野:え?

堂島:『瑛子さんが、死んだ』っていったか。

蝶野:ああ……。
   俺の目の前で倒れて、それでーー

堂島:そうだ。そうだ!
   瑛子さんは、6年前に……!

蝶野:あ。
   ……ちょっと待て……!
   理解が追いつかない……!
   (間)
   今は、いつだ?
   
 <堂島、カレンダーを掴む>

堂島:6年前……。
   おい! こうなる前、覚えてるか?

蝶野:待てって! ええと……確か……!
   俺達、S室で変なエラーが起きて……!

 間

蝶野:時空間移動システムを実行するって……。

堂島:おいおいおいおい!
   どうなってんだ……!

蝶野:クソ、意味がわからない……!
   本当に、6年前に、戻ったってのか?

堂島:よしんばあの時、俺達がマジで時空間移動をしていたとしてもだ……!
   どうしてこのタイミングで6年前の記憶が戻るんだよ!

蝶野:知るかよ!

 間

堂島:つか……アイコちん!

蝶野:足立さん……?
   足立さんは、そうか、1人だけ記憶を持ってて……!
   探さないと!


 ◇


 <S室、並んで座る>

江夏:獏。
   大学、行ってる?

万生:……ああ。

江夏:そっか。

 間

江夏:私は、短大行った。
   でも、卒業はできなかったんだ。

 間

江夏:その頃かな、ここのバイト募集。
   ほら、駅前のポスターで見かけて。
   こんなにハマっちゃうとは思わなかったけど。
   まあ、やりたいことも何もなかったから、当然かもしれないね。

 間

江夏:そういえばさ、お父さん。再婚したよ。

万生:やめろ……。

江夏:私、新しいお母さんとは反りが合わなくてさ。

万生:やめろ!

 間

万生:なんだよ今さら! べらべら喋んじゃねえよ!
   勝手すぎんだろ……!
   時間だって、いっぱいあったのにさ!
   俺だって! いっぱい話したいこと、あったのにさ!
   
 間

万生:なんで……!

 間

万生:なんで、死んじまうんだよ。姉ちゃん。

 <万生、6年後の姿に戻っている>


 ◇ 


 <アトラクション前キャストバス、停留所前>

 <駆け寄ってくる蝶野、堂島>

蝶野:足立さんッ!

足立:え? ……蝶野さん、堂島さん?
   どうして?

堂島:(息を切らして)
   大丈夫!?

足立:あ、いや……キャストバスを待ってるんですけど、全然来なくて……。

蝶野:思い出したんだ!

足立:え?

堂島:思い出したんだ。俺達、6年後のこと!

足立:え!? それ、どういうことですか!?

蝶野:俺達にもわからない、けど。
   足立さんはずっと覚えてたってことだよね。

足立:はい……ずっと、私一人だけだと……!

蝶野:俺達の場合突然、こう! 思い出したっていうか!

足立:そう、なんですね……!
   嬉しいです! ずっと1人で、心細かったから……!

堂島:おーそうかそうか! アイコちん……寂しい思いをさせたね……!
   俺の胸に遠慮無くーー

足立:そうだ! お二人の記憶が戻ったってことは……。
   万生さんも?

蝶野:……わからないけど、確かめないと。

堂島:ッ!
   (蝶野の肩を掴んで)……気づいたか? 蝶野。

蝶野:ああ。

 <アトラクションの中から微かに起動音が聞こえる>

足立:ライトノア……タイム・トラベル・ツアー。

堂島:そういうこと!


 ◇


 <S室、江夏、万生>

江夏:……獏。
   私ね。ここが好きなんだ。
   (S室を見渡しながら)
   最初はさ、私も楽しかった頃のこと、思い出してた。
   ここにいる間は、ずっとあの頃に戻れる気がしてさ。
   でも、それだけじゃない……。

 <江夏、時空間転送装置の前にたつ>

江夏:覚えてるはずだよ。
   初めて、ここに来た時のこと。

万生:一体何のことをーー

 <蝶野、堂島、足立、駆け込んでくる>

江夏:お、来たね。

足立:(息を切らしている)

堂島:獏さん……!

万生:お前ら……。

堂島:獏さん……! 思い出しました!?

 間

万生:……ああ。

堂島:やっぱりっすか!

 間

蝶野:……瑛子、さん。

江夏:ん? どしたの?

蝶野:瑛子さんなんですか……?
   俺たちをここへ連れてきたの。

 間

江夏:んー……わかんない。

 間

江夏:でも、この子が……。

 <時空間移動装置に触る>

江夏:うん……きっとこの子が作ってくれた時間なんだと思う。

万生:この、アトラクションが……?

 間

江夏:(笑顔で)よし! はじめよっか!

堂島:……は? 何を?

江夏:そりゃ! 居残り練習に決まってるじゃない。

万生:何言ってんだよ……!
   んなことやってる場合かよ!

江夏:口答えしない!
   親臣もまだ社員じゃないし、大貴は列整理だし、あんたは半人前だし!
   (咳払い)
   いい? 私が死んじゃったあとにどうなってるかは知らないけど、
   今は! この私がアトラクションチーフマネージャーなの!
   だから、今は私のいうことに黙って従うこと!
   ……いい!?

 間

蝶野:(吹き出して)
   ふふふ……変わんないな。瑛子さんは!

江夏:オッケー! 親臣、管制入って!

堂島:あー……ほんと、またしごかれるとは思わなかったぜ……。

江夏:うっし、大貴。あんたは、侍とタイムパトロール。いいわね!

堂島:へいへい。言っとくけど、俺だって今……違うな……未来となっちゃ経験豊富っすからね?

江夏:はいはい! とっとと小道具準備。

足立:瑛子さん! 私も……参加させてください。

江夏:(笑って)いいよん。どこができる?

足立:担当は、助手です!

江夏:わかった、期待してるよ。

足立:はい!

 間

江夏:……獏。

万生:……。

江夏:獏! 呼んでんでしょ!

万生:ふざけんな……!

江夏:いいから! ほら、私の代わりに、博士で入んなさい。

 間

江夏:姉ちゃんの言うこと、聞けないの?

万生:ッ! いい加減にーー

足立:(助手)皆様、本日はようこそツアーへご参加くださいました!
   我々、ライトノア社では、宇宙開発事業を中心に数年前より様々な事業に取り組んで参りました。
   そして、30年もの研究の結果、我々はある革新的な技術を開発することに成功しました!

江夏:(大笑い)いいねえ! 愛子ちゃん!

足立:(助手) それがこのーー
   (足立が手を叩くと、背後に巨大な歯車にも似た機械が現れる)
   『時空間移動システム』です!

万生:クソ……! クソクソクソッ!
   (笑いを浮かべて)やればいいんだろ……!

足立:(助手)一体どんなシステムかって? それは、その……私には……あ、博士!
   このお方が我が社が誇る偉大な博士、我が社の誇る天才科学者。
   紹介しましょう! アマリ博士です!

万生:(博士)呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃーん!
   私が稀代の大天才、アマリ博士であーる!

足立:(助手)博士……! ネクタイが曲がってますよ……!

万生:(博士)え? ああ、すまんすまん。
   ゴホン! いやいや、皆様。
   皆様は実に幸運だ! 会社から許可が降りなかったこのツアーの最初の参加者にーー

足立:(助手)ちょっとちょっと! 博士……! それは言っちゃダメです!

万生:(博士)そ、そうだったかな?
   とにかく! 皆様にはこれから、タイムマシンに乗って様々な時代を旅していただきます!
   準備はよろしいですかな!

足立:(助手)皆さん! シートベルトはしっかり締めてますか!?
   時空間移動装置は大変揺れやすくなっております!
   お手荷物は足元の籠の中にいれて、眼鏡や帽子等の飛びやすいものは、
   あらかじめ鞄の中にしまっていただくようお願い致します!

万生:(博士)ふむ、管制室のほうは、どうだね!

蝶野:『こちらはバッチリです博士!

万生:(博士)よろしい! それではみなさままずはどこに行くかというと。
   とっとと……(レバーをひいてしまう)
   あ! スイッチひいちゃった……!

蝶野『あー! 時空間移動システム起動しました!

足立:(助手)何やってるんですか博士! ……皆様! 捕まってー!

 <座席が揺れて暗転する>

足立:(助手)……いたた……ここは?

万生:(博士)うーん……。

足立:(助手)博士! 博士、大丈夫ですか!?

万生:(博士)大丈夫だ……いたた。

足立:(助手)博士、一体どこの時代に飛んでしまったんですか?

万生:(博士)そうだな、ここは(ターミナルを操作して)
   どうやら過去のどこかのようだ。

足立:(助手)どこかって!

万生:(博士)わかったぞ! ここは今から数百年前!
   そのころのここはーー

堂島:(声だけで)出合えー!

足立:(助手)い、今の声は?

万生:(博士)ちょっと、確認してみるか!

足立:(助手)あー! ちょっと! 博士!

 <モニターに昔の屋敷が写っている>

足立:(助手)ここって!

万生:(博士)うわー!(セットの裏から飛び出してくる)

 <侍が裏から飛び出してくる>

堂島:(侍)出合えー!

足立:(助手)ここは! 戦国時代だぁー!

堂島:(侍)む! 面妖な……!
   これだけの人間が隠れていようとは!

足立:(助手)ほ、本物の侍だ……!

堂島:(侍)貴様ら! ここを親方様のお屋敷としっての無礼か!

足立:(助手)いや、あの私達はーー

堂島:(侍)問答無用! 切り捨てにしてくれる!

万生:(博士)そうはさせるか!

 <博士がボタンを押すと、バチバチという音がなる>

堂島:(侍)な、なんだ……! 身体が動かぬ!

足立:(助手)博士一体何が!?

万生:(博士)私が開発した電気ショックでしびれてもらったのだ!
   さぁ、早く外へ連れ出したまえ!

足立:(助手)は、はい!

 <助手が侍を引きづっていく>

万生:(博士)皆さん、少し驚かせてしまいましたな。
   ですが、もうご安心を。
   この天才、アマリ博士がついているからにはーー

 <助手、飛び込んでくる>

足立:(助手)博士ー! 早く! 早く装置をー!

堂島:(声だけ)皆の衆、敵を討ち取れー!

足立:(助手)奥からたくさん侍がー!

万生:(博士)ええい! 仕方がない! 今度は未来に!

足立:(助手)皆さんしっかり捕まってください!
   レバーを倒します! いきますよー!
   タイム・トラベル、スイッチオン!


 <激しく揺れて、タイム通路を通過する>


足立:(助手)なんとか乗り切れましたね! 博士!

万生:(博士)当然だ! 私が企画した時間旅行ツアーは安全そのものだ!

足立:(助手)だったらどうして戦国時代に?

万生:(博士)それは……な、なんだぁ!?

足立:(助手)わぁー! すごい揺れだぁー! これ、マズイんじゃないですかぁ博士ぇ!

万生・足立:うわあああああ!

 <数秒の後、目の前には未来の街>

足立:(助手)いたた……皆さん! は、大丈夫みたいですね。
    博士? 博士!

万生:(博士)みたまえ。

足立:(助手)……これは!

万生:(博士)そう、未来の街だ。

足立:(助手)未来とはいっても、行き過ぎですよ!
    車が空飛んじゃってますよー!

万生:(博士)いやー! 天才過ぎて困ったなあ!

堂島:(時間警察)そこのツアー会社! 止まりなさい!

万生:(博士)この声は……ひょっとして……!

足立・万生:タイムパトロールだぁー!

堂島:(時間警察)今すぐ正しい時空に戻りなさーい!

 <揺れながら逃げる時空間移動装置>

足立:(助手)うわわわ! 車に、建物!
   避けて避けてー!

万生:(博士)急いで戻るぞ!

足立:(助手)早くしてください!
   捕まっちゃいますよ!

万生:(博士)これでよーし!
   行くぞー! スイッチ・オーン!

 <ワームホームを切り裂いた先には現代>

足立:(助手)ここは……?
   よかったー! グッドワールドの上空ですね!

万生:(博士)いやはや、初めてというのは何事も挑戦ということだな!

足立:(助手)何をのんきにいってるんですか……!
   あー、皆さん! お怪我はないですか?
   すみません、せっかくのツアーがこんなことになってしまって。

万生:(博士)いい経験になっただろう!

足立:(助手)全く! 反省してください!

万生:何をいっている総ては私の計算通りだ!
   私はこのツアーでーー

 間

足立:(小声で)……万生、さん?

 間

江夏:言いなさい……。

 間

江夏:言いなさい! 獏!
   お客さんが、待ってるでしょ!

 間

 <万生、あふれだす感情を堪えている>

万生:私は!
   ……私は……このツアーで……!
   過去と、未来を……! 皆さんにお見せすることで……!
   (大きく息を吸う)
   今、この時が!どれだけ素晴らしいものであるかを……!
   お伝えしたかったのです!

足立:……博士。

万生:私はこの装置を開発しましたが! 
   皆さんは、すでに、素敵なタイムマシンを開発していらっしゃる!
   過去に思いを馳せ……! そして、未来へと繋がっていく……素晴らしい……!

 間

万生:素晴らしい、日々を!

 間

足立:調子のいいこといって……それではみなさま!
   忘れ物はございませんか?
   今度は、もっと素敵な観光スポットにご案内しましょう!
   え? 恐竜がみたい? それは……そのうちに、ですよね? 博士。

万生:ああ……私に不可能はない。

 間


江夏:(拍手)
   あー楽しかった!
   いいもんだね、客席から観るってのも!

 間

足立:本当に、私、このアトラクション、大好きです。

蝶野:……6年後には、取り壊しか。残念だよな。

堂島:ああ。でもさ……。
   (笑う)過去にしかいけない装置なんて、欠陥品だろ。

江夏:(笑って)いいこと言うね。

 <江夏、4人の側へ>

 <時空間移動装置のランプが点く>

堂島:ランプが……点いた……!

蝶野:あの時と同じ……ってことは……!

足立:帰れるって、ことですか!

 間

万生:満足、したのかよ。

江夏:まあ、ボチボチ?

万生:勘弁してくれよ……。
   こんな周りくどいこと、しやがって。

江夏:別に私がしたくてしたわけじゃないって。
   さっきも言ったけど、これは……このアトラクションがやったこと。たぶんね。
   (笑って)うっし。別れの挨拶といくか!

 <江夏、蝶野に向き直って>

江夏:親臣。会社のこと、押し付けるみたいになっちゃったよね。
   面倒かけてごめん。

蝶野:いえ……。

江夏:(笑って)親臣には言うことないや。
   すごい立派にやってるもんね。

蝶野:(笑って)ま、そうですね。
   任せて下さい。俺が、やっときますから。

 <江夏、大貴に向き直って>

江夏:大貴。キャスト、小慣れてるじゃん。

堂島:(涙ぐんで)いや、貯金っすよ。
   瑛子さんの、おかげっす。

江夏:これからは、先輩だ。

堂島:もちっす! 儀式も、しごきも!
   全部俺、受け継いでくんで!

江夏:(笑って)おう! 頼んだ!

 <江夏、足立に向き直って>

足立:瑛子さん……。

江夏:愛子ちゃん。ありがとう。

 <足立、瑛子に抱きつく>

足立:(泣きながら)瑛子さん……!

江夏:こらこら……そんな顔しないの!
   (咳払い・耳元で)
   「お嬢さん、顔をあげなさい」

足立:……え?

江夏:「過去が怖くて俯くことは恥ずかしいことじゃない。しかし顔を上げなければ素晴らしい未来だって見えない」

足立:それ、それって……!

江夏:(笑って)私のことも、あなたにとっては過去になっていく。
   このアトラクションだってそう。
   でも、それを恐れないで。
   真っ直ぐな貴女のまま……未来を照らしていって。

足立:……ありがとうございます!

 間

江夏:ここはね、私たちにとって、本当にタイムマシンなんだ。
   幸せだった頃を思い出させてくれる……そんな、過去に来れるだけの場所じゃない。
   この子は、未来へ繋がる『今』に向かって、私達を乗せていってくれる。ね?

 <万生の頭を叩く>

万生:(泣きながら)やめろよ……!
   俺もう、頭叩かれるほど小さくないんだよ! 姉ちゃん!

江夏:(微笑んで)獏。しっかりやんなよ。
   あんたのこと、こんなに心配してくれる仲間がいるんだから、
   もう二度と、情けない姿見せないように!

万生:(泣きながら笑う)偉そうに何言ってやがるんだ……!
   当たり前だろッ!

江夏:(笑って)そうかそうか。

 間

江夏:……元気でね。獏。

万生:(笑って)……ああ。おやすみ、姉ちゃん……。

 間

江夏:(大きく息を吸い込んで)お前らぁ! 『今』を生きろよ!


 <重い起動音が鳴り響く> 


機械音声(江夏):(笑いながら)時空間移動システム、実行します。


 <真っ暗になる>



 ◇



<明るくなるとS室、先ほどの立ち位置のまま>
 <江夏の姿だけ消えている>



堂島:……戻った、のか?

 間

足立:覚えて……ますよね?

万生:……ああ。

足立:夢じゃ……ないんですよね?

 間

蝶野:俺! カレンダー確認してきます!

 <蝶野、走りだそうとする>

堂島:親臣!

蝶野:……なんだよ。大貴。

堂島:いや、俺も行く。

蝶野:……おう。

 <堂島、蝶野S室を去る>

足立:万生さん……私たちも行きましょうか。

 間

足立:すみません、ここにいたかったらーー

万生:いや。いいんだ。

足立:(笑って)そうですか。

万生:うん。早く確認しよう。

 <立ち止まる万生>

万生:ごめん、やっぱり一言だけ

足立:え?

 <万生、セットを見上げて>

万生:(大声で)ありがとう!!

 間

万生:(笑って)よし! 行こう!

 <足立、万生、去る>

 <数秒後、声だけ聞こえる>

全員(江夏以外):(はしゃぎながら)バック・トゥー・ザ・フューチャー!


 ◇


 <数カ月後・S室>


足立:知ってます? 昨日の動員。過去最高だったんですって。

堂島:知らないと思う? 俺が必死で働いてんの、見えなかった?

足立:いや、私も必死だったんで、眼中になかったです。

堂島:アイコちんてば、辛辣……。

足立:こんなに愛されてたんだなーって、思っちゃいますね。

堂島:鼻高々って感じ?

足立:(笑って)感じです。

堂島:そうなー! まさかだぜ? うちが4時間待ちって!
   もう絶叫系の奴らにデカイ顔させねー!

足立:あっちは常時2時間待ちとかですよ?
   最終日だけ勝ってもデカイ顔できませんって。

 <蝶野、入ってくる>

蝶野:でも、次のアトラクションではきっと……だな。

堂島:おーっす、おせえぞ親臣。

蝶野:まだ勤務時間だぞ。部下らしく下手に出てろよ。

堂島:うるせえ。

足立:あっれ? 堂島さん、ひょっとして決まったんですか!?

蝶野:俺から5年遅れだけどな。

足立:うわー! おめでとうございます!

堂島:サンキュー!
   いやー、俺も今更グッドワールドに就職ってのも、どうかとは思ったんだけどさ。
   こいつがどうしても! どうしても来て欲しいっていうもんでねーー

蝶野:で、万生さんは。

堂島:流すなっての。

足立:万生さんなら、あそこですよ。

 <万生、制御室に座っている>

堂島:制御室? 何やってんの?

万生:『あー、テステス……お前ら、聞こえてる?』

足立:聞こえてまーす。

蝶野:(呟く)明日取り壊しだから頭おかしくなったんかな。

堂島:(呟く)あり得るぜ。あの人にとっちゃ命みたいなもんだからな。

万生:『聞こえてるぞコラ』

足立:ほらほら! 早くしてください!

万生:『と、いうわけで……明日からこの「ライトノア・タイム・トラベル・ツアー」は閉鎖!
    再来週には取り壊しになる!
    だから、このアトラクションの統括マネージャーとして最後の仕事をしたいと思う!
    今日俺は……新アトラクションの情報を会社からもらって来た!

蝶野:かませー!

堂島:いいぞー!

足立:やったれー!

万生:『新しい映像技術と迫力のある演出で、今までのアトラクションを過去にする新体験!
    急成長した未来の企業、ライトノア社が開発した装置で、観客を時間旅行に招待する!
    その名もーー
















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