原チャリサンタ
作者:ススキドミノ
西原:男・後輩社員
木村:女・先輩社員
三田:男女どちらでも・メリーピザの配達員
注・この世界にはサンタクロースが存在していない
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
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<舞台は小さな事務所、下手側に事務所のドア>
<西原のデスクは上手寄り、椅子は客席側を向いている>
<中央に木村のデスク、椅子は同じく客席側を向いている>
<椅子に座りキーボードを打つ西原・時折コーヒーを飲む等の所動作>
<木村、上手より手にビニール袋を持って入ってくる>
木村:うっす西原、おつかれ。
西原:あ、木村さん、まだ残ってたんですか。
木村:いや、一回帰ったわよ。声かけたと思ったけど?
西原:全然気づきませんでした…でも、なんでわざわざもう一回事務所に?
木村:なによ、来ちゃ悪いわけ?(椅子に座りながら)
西原:別に悪かないですけど……。
木村:よっ……(ビールの缶を空ける)
西原:え? あー! ちょっと!
木村:ん?
西原:ん? じゃないですって! 見てわかるでしょう?
木村:何が?
西原:目の前に! ほら! 残業してる人がいるんだから!
木村:だから?
西原:あーもう……! いいですよ! 好きにしてください……。
<木村、ビールを飲んでいる。西原、木村に背を向けてキーボードを叩いている>
<西原、木村の方に顔を向けずにイライラした口調で話し始める>
西原:……なんでわざわざここで飲むんですか……?
木村:何がー?
西原:一回帰ったんなら、そのまま部屋で飲んでればいいじゃないですか。
木村:なにもう……機嫌悪いわね。ツマミ喰う?
西原:え? いいんですか? あー……正直昼から碌に食べてなかったんで、助かります。
<西原、嬉しそうに振り向くが、木村の手にはビールの缶しかない>
西原:え?
木村:ん?
西原:ツマミは?
木村:ああ、あとで買ってくるわ。
西原:なんなんだあんたは!
木村:なんなんだって何よ!
西原:いや、だって……! 食べるっていうんですもん! あるもんだと思うじゃないですか!
木村:ないわよ。
西原:しってますよ! みりゃわかりますって。
木村:だから、後で買ってくるの。なんか問題ある?
西原:だからっ!
いや……もういいですよ……。
間
木村:……あ! 今日何日だったっけ?
西原:え? っと……ああ。丁度さっき日付け変わったから――
木村:もしかして12月25日!?
西原:あ、はい。そうですね。
木村:おおおお!
西原:……木村さん有給とってました?
木村:とってないわよ! そんなんで喜んでるんじゃないの!
西原:えーっと……なんかありましたっけ。
木村:(咳払い)今日はね、サンタが来る日なのよ!
西原:三太? 誰です? それ。
木村:何よ、あんたサンタも知らないの?
西原:……どなたなんですか?
木村:UMA(ユーマ)
西原:木村さんアンテナの立て方が謎すぎますって。普通知らないですよそんなの。
木村:だって未確認生物よ未確認生物! しかもサンタはね、全世界で目撃例があるんだよ!
西原:三太、でしたっけ? 思いっきり日本名なのに……グローバルな未確認生物なんですね。
木村:正式名称はもうちょっと長いんだけど……なんだっけ……あー……忘れちゃったけど、とにかく凄い男なの!
西原:男!? じゃあそれUMAじゃなくて、ただの旅人さんじゃないですか?
木村:それが……サンタが目撃される日っていうのが毎年12月24日から25日の朝にかけてなのよ。
西原:……確かにその期間で全世界を回るのは、人間には不可能ですね。
木村:……で、その男はね……真っ赤な服に身を包んでいるの……。
西原:え? 何ですか? そっち系の話? やめましょうよ! こんな夜中に!
木村:何いってんの! こういうのが面白いんでしょうに。
西原:面白くないですよ! だってあれでしょ? その真っ赤な服もーー
木村:当然返り血的なサムシングよ……。
西原:ですよねー……もーやだやだ。
木村:その男はモノが入った大きな袋を担いでいて……音も立てずに部屋に侵入してくるの……。
西原:うわでたー……袋なんてそんなの、絶対よからぬものが入ってるじゃないですか。
木村:そして……男は……その袋の中から……。
間
木村:何かを置いて帰るのよ!
間
西原:……何かってなんですか。
木村:わかんない。
西原:何ですか! オチ無しですか……!
木村:しゃーないじゃん。サイトにそれしか書いてなかったんだもん。
西原:それにしても謎すぎません? 何か別のパターンのないんですか?
木村:んー……一説によると、常に人々を監視していて、その人の一番欲しいものを置いて行くらしいんだけど…。
西原:すごい良い人ですね。
木村:何言ってんの! 知らない人からのプレゼントなんて超怖いじゃない!
西原:なんでUMAとか言ってる癖にリアルな怖がり方してるんですか……。
木村:……ちっ。お前怖がれよ…。
西原:やっぱりそういう意図だったんですね。
木村:いつもならそれで終わりなんだけどね。
今晩は私もサンタにならって、今日は人の欲しいものを届けようと思うわけよ。
<木村そういって立ち上がる>
西原:え? どこいくんですか?
木村:ヒ・ミ・ツ。
<木村、下手へ出ていく>
<キーボードを叩く西村>
<下手側、ドアの前に立つ三田>
三田:あのー!
西原:うわぁ! だ、誰!?
三田:チャイム壊れてますよね、ここ。 あの、いいっすか?
西原:な、何が?
三田:開けてもらっちゃって。
西原:あ、ああ、今開けます!
<ドアを開けると、赤い制服を着た三田が手に袋に入ったピザの箱を持って立っている>
三田:どうも……。
西原:んん!!
<西原ものすごい勢いでドアを閉める>
西原:服が赤い服が赤い服が赤い! なんか手にも白いのもってた! やばいってこれどうすんのこれ!
三田:あの……あのー! ちょっと! どうしたんすか!?
西原:欲しいものないです!
三田:は? なんです!?
西原:欲しいものとか、そういうのは結構です!!
三田:あのー、西原さんですよね?
西原:なんで名前を知っているんだぁああ!?
三田:ピザです!
西原:デス!? それは何!? それがお前の武器かぁ! それで人を殺すのかぁ!
三田:いや、メリーピザです! 西原さんで注文承ったんですけど!
間
西原:……メリーピザ?
三田:そうですメリーピザです! チーズピザのLサイズ一枚! 頼みましたよね!?
西原:……あ、いや、頼んでないんですけど…。
三田:え? 本当ですか? ちょっと確認してみます!(電話する)
西原:うっわ……恥ずかしー……もうすぐ27なのに…これは後で凹むわー…。
……だからこの時間にあの手の話はしちゃだめなんだって……。
三田:あのー!
西原:は、はい!
三田:女性の方からの注文だったらしいんですけど、お知り合いとかではー
西原:あー……! くっそ……あの人、払わせる気で頼んだな……!
三田:違いますか?
西原:あの、はい、多分知り合いです。
三田:えっと……じゃあ、受け取って頂いても……。
西原:はい、わかりました。
<西原、ドアを開ける>
西原:あの、すみません、さっきは何かとりみだしちゃって…。
三田:いえいえ。それではこちら、チーズピザのLサイズになります。
西原:はい。……あれ? 料金は?
三田:店頭で受け取ってるんで、大丈夫ですよ。
西原:あれ? そうなんですか。
三田:それでは、三田がお届け致しました。
西原:どうも、お疲れ様です。
三田:メリークリスマス!
<西原、ドアを閉める。三田、下手へはける>
西原:……メリークリスマス、か……オリジナル挨拶? なーんか卑猥……ん?(匂いを嗅ぐ)あ、良い匂い……。
<木村、ドアが開けて入ってくる>
<西原、ピザの箱を開けて食べる>
西原:(食べながら)うわなにこれうまっ!
木村:ただいまー……あー! 何食べてんの!? ずるい!
西原:あ! あの、いや、ごめんなさい! えと、すごい腹減ってて!
木村:何よ! そういうのとるならいってくれればいいじゃん! 私色々買ってきちゃったよ!
西原:……あれ? これ買ってくれたの、木村さんじゃないんですか?
木村:は? だったらなんでこんなやすっちぃつまみなんか買って来てるのよ。
西原:じゃあ、このピザって…。
木村:ねね! あたしにも一口ちょうだい!
西原:いいですけど……。
<2人、ピザを食べる>
木村:不思議なこともあるもんねえ。誰が注文したかわかんないんでしょ?
西原:そう考えると……食べない方がいいんじゃないですか?
木村:あん? 何ビビってんのよ! 美味しいんだからいいでしょ?
きっとサンタからの贈り物よ!
西原:それが一番怖いですよ……。
間
西原:一晩で全世界を……でしたっけ。
サンタって何に乗って移動するんですか。
木村:さぁねー、あれじゃない? 全世界を一晩でまわるんだから、飛行機とかでしょ。
西原:それだと、目立ちません?
木村:あれよ、ステルスのやつ。
西原:ステルス……戦闘機じゃないですか。
木村:謎の男はそれくらいの科学力を個人で有しているものなのよ! ほら、バットマン的な?
西原:もうそうなるとサンタ、ただの暇な富豪ですよ。
木村:……玉の輿?
西原:かってに乗ってください。
間
西原:……あ、そういえば……メリークリスマスって知ってます?
間
木村:……セクハラ?
西原:違いますよ!
木村:いや、セクハラでしょうそれは!
西原:いや! 気持ちは! 気持ちはわかります! 自分でも最初そういうのだと思いましたから!
木村:略してメリクリってか? はっはっは!
西原:ごめんなさい! 悪かったですって!
木村:謝るってことはやましい考えがある証拠だ、この変態!
<木村、ピザを頬張るも紙と一緒にたべてしまう>
木村:うわっ! うわうわうわ! なんかひらひらの紙敷いてあった……間違えて喰っちゃったらどうすんのよもう…。
西原:広告ですか? 旨いのに、初めて聞いたピザ屋だからちょっと気になってたんですよね。
それ、見せてもらっていいですか?
木村:んー。
<西原、紙を確認する>
西原:……これ……なんて書いてあるんだ……?
木村:何? 見して見して。 ……えーっと……メリー……ちぇすとます?
西原:あー! これ、あれじゃないですか?
木村:……あー! メリクリ?
西原:そうそう! なんだ、外国の言葉だったんですねぇ。
木村:そーねー。
西原:ほんっと興味ないことにはとことん無頓着だな…。
<バイクの音が聞こえる>
西原:なんか聴こえません? シャンシャンって。
木村:お祭りかなんかじゃないのー?
西原:……ちょっと見てきます。
<西原が窓の外を見ると、原チャリに乗った三田が空を飛んでいくのが見える>
木村:なんだったー?
間
西原:木村さん……原チャリが空飛んでます……!
木村:……は?
間
西原:原チャリが空を飛んで行ったんですよ!
間
木村:……仕事しすぎじゃない?
西原:……そうですね……今週末はゆっくり休みます…。
間
木村:あのさ。
西原:はい?
木村:これ。あげる。
<木村は西原に白い袋を手渡した>
西原:なんすか、これ。
木村:いや、ほら、その。
私も、サンタに習うことにしたのよ。だから、それ。
西原:プレゼント、で、いいんですか。
木村:ま、そういうこと。
西原:いや、なんか、すみません。
じゃないですね、ありがとうございます。
木村:ほらほら、開けてみそづけ!
西原:……はいはい。
<西原、袋を開けると、中にはクシャクシャになった紙が一枚>
西原:なんすか……この紙。
木村:何かなーそれ。
西原:『今年の総括。仕事は遅れても良し。乙女を待たせるのは悪し』
木村:んー、金言?
もしくは、アドバイス……とか?
西原:(ため息)……これ、プレゼントって……。
なんか主張したいことが強すぎません?
木村:(笑う)当たり前だろが!
私だって、サンタが来るのを楽しみにしてたんだからさ。
<西原、頭を掻きながら木村に向き直る>
西原:あー……えっと、木村さん。
俺はその……富豪じゃないですけどーー
了
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