ハッピーフォレスト
作者:ススキドミノ





マサ:男・少しおバカなつっぱり男児 エリの彼氏
エリ:女・少しおバカなギャル マサの彼女
カナコ:女・森林パトロール隊員
ヨシハル:男・森林パトロール隊員


※この台本には軽度の下ネタが含まれます。苦手な方はご注意ください。



※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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 <舞台は森>
 <中央の床には女性が横たわっている>
 <しゃがみこんでその序章の頬を叩くマサと、その後ろに心配そうに立つエリ>

マサ:……おい! おい! 大丈夫か!

エリ:ねぇ……やっぱ死んでんじゃないの?

マサ:バカおめぇ! 縁起でもねぇこというな!

エリ:んなこといっても全然起きないじゃん……!

マサ:……やべえ……息もしてねえし、心臓も動いてねえぞ……!

エリ:ヤバい……死体なんてみんの初めてだよ……!

マサ:つかお前、救急車呼んでこいっていったろ!

エリ:はぁ!? さっきもいったじゃんよ、ここ森だよ?
   電波とかないの、わかる? 圏外!

マサ:電波ねぇならよお、人呼びにいくとかあんだろうがよお!

エリ:嘘でしょ!? 全然家とかなかったじゃん!

マサ:……なんか、こういうときにするやつあったよな……どうすんだっけか?
   おいエリ! あれどうやんだ!

エリ:何!

マサ:じん……じんこ……じんこきゅう!

エリ:何よそれ!

マサ:じんこきゅうだよ! ほら、あれ、どうやんだよ。

エリ:は? だから何の事?

マサ:倒れてる人の口に口つけてやるあれだよ!

エリ:もしかして、人工呼吸ってやつのこといってんの?

マサ:ハナっからそういってんだろ! いいから、ほら、どうすんだよ!

エリ:どうもこうも……うちもよくしんないし。
   ……なんかあれっしょ、チューしてんじゃないの?

マサ:ああ!? チューだけでいいんか?

エリ:知らないよそんなの。

マサ:よしわかった!
   ……なあ、舌はいれたほうがいいんか?

エリ:は!? ちょ、まってまって! なんでマサがその子にチューすんの!?

マサ:ああ? 当たり前だろ! 俺しか男居ねぇんだから!

エリ:何で男じゃないとだめなのさ!

マサ:ガキの頃読んだことあんだよ! なんだっけか……。
   あの……あれだよ! リンゴ喰って死んだ女が、男のチューで蘇るやつあったろ!

エリ:あ……それはうちも知ってるわ! なんだっけ? 女がしんでるーみたいなやつっしょ?

マサ:それだよ! 『しんでるやん』ってやつ! 女は男のチューじゃないと魔法がきかねえみたいなのがあったんだよ!

エリ:……でもさあ。

 <マサは髪を掻き上げる>

マサ:エリよぉ……おめぇの気持ちはわかってる……。
   でもよ……俺は目の前に助けられる命があんなら、助けてぇ……。
   ちげぇな、助けなきゃなんねぇんだよ!
   でなきゃ! 俺はな……お前に誇れる漢になれねんだよ……!

 間

エリ:……くっせぇこと言うじゃん……

マサ:エリ……。

エリ:わかった!
   ……チュー、しなよ。

マサ:……いいんか。エリ……。

エリ:そんかわり! 絶対、その子……助けてやって。

マサ:おう。
   おい、お前! 今助けるからな!

 <マサ、唇を尖らせ、倒れている女性の口を近づける>

マサ:んーーー。

 <途中でエリはマサを突き飛ばす>

マサ:いってぇなぁ! 何しやがんだ!

エリ:いやだぁ!

マサ:お前今更何――

 <エリ、後ろを向いて肩を震わせている>

マサ:……おめ……泣いてんのかよ。

エリ:……ないてねぇし……。

マサ:マジ超しらけるわ。何泣いてんだっての。

エリ:泣いてねぇし! 泣いてねぇのにほんとうぜーし――

マサ:エリよお!!

エリ:なによぉ!

マサ:エリ、俺はよお。甲斐性のねぇ男だよ。
   ガス代無くて、新宿から調布(ちょうふ)までKawasaki押して帰ったことも一度や二度じゃねぇ。
   でもな! お前のためならなあ! 初台(はつだい)から……飛田給(とびたきゅう)までだって、Kawasaki、押してやるよ。

エリ:……マサ……。

マサ:だからよお、はっきりいえよ。おめぇは、どうしてぇんだ。

 間

エリ:うち、マサが他の女にチューするの……いやだ……!

マサ:そうか、わかった……。

 <マサ、下手から去ろうとする>

エリ:マサ! ……どうするの?

マサ:他の男、連れてくりゃいいんだろ。

エリ:どこに男なんているってのさ!

マサ:ここは森だぜ?
   木こり……捕まえてくる!

エリ:ちょっ、マサ!!

 <マサ、走り去る>

エリ:……愛されてる、っつーのかな。こういうの……。
   はは、うちが愛されてるとかっ! まじねーわ!

 <エリ、照れながら歩いているうちにマネキンの頭を踏んでしまう>

エリ:うわっ……やっべ! 顔面踏んじゃった! マジごめん……!
   大丈夫?

 <下手からカナコが入ってくる>

エリ:つか……うわ……なんだろ……踏んだ感触、鬼柔らかかったんだけど。
   てゆーか、なんかきもくない? うわやだやだ……なんかつるっつる。

カナコ:こんにちはー!

エリ:うわっ! え? 何?

カナコ:どうも、こんにちはー。何してらっしゃるんですか?

エリ:え、誰?

カナコ:私、森林保護パトロールのものです。

 <カナコ、首から下げた隊員証を見せる>

エリ:ま、マジ!?

カナコ:はい?

エリ:う、うち……! 別に悪い人間じゃないんだけど!

カナコ:……は?

エリ:小学の頃は……! ほら……!
   ちょっと意地悪のつもりで、ミッチーの筆箱の中に消しカス入れたりしたことはあったけど……!

カナコ:ミ? え? あの――

エリ:でも実際ウケんのが! あん時ミッチー意外とノリいいなーってなって!
   ミッチー普通にダチになったっていうか!
   ちなみにミッチーめっちゃカラオケ行くんだけど!
   声低いから男の曲とか上手いの!

カナコ:は、はあ。

エリ:超ウケない?

 間

カナコ:あ、あの……。

エリ:え? 何だっけ。
   ヤバくない? 完全に何の話か忘れたんだけど!
   超ウケない?

カナコ:ウケないですね。

エリ:ってか思い出した! あんた、警察とかでしょ……!

カナコ:いえ、警察では無くて――

エリ:本当うち悪い人間じゃないだって!
   こないだミッチーのマスカラめっちゃいいなって思って勝手に借りたけど――

カナコ:ミッチーさんの話はもういいです……!
    あの、パトロールっていうのは、警察とは違うんですよ……!

エリ:でも警察ってパトロールしてんじゃないの?

カナコ:えっとだから……! それは同じ名称でも名詞としての使い方と――ああもう説明難しい……!
    つまり、警察ではないんです!
    いいですか? 私達はこの森の自然と安全を守ろうってことで、ボランティアで森の中の見回りをしているんです。

エリ:ボランティア? って何? 警察?

カナコ:わからない横文字、全部警察にしないでください……!
    いや……私が言葉選びを間違えた……。
    えーっと……小学校の時に、地域でゴミ拾いとかしたことありますか?

エリ:は? あるし。サボってないし。

カナコ:……まあ、そういう感じで、仕事とかじゃなくて、お手伝い、みたいな……。
    わかります……?

 間

エリ:ふーん……えらいね。

カナコ:(ため息)……はい。

 <カナコは頭を抑える>

カナコ:それで、貴女は何をしてるんですか?

エリ:え? ああ! そうそう、やばいんだって! あんたなんとかしてよ!

カナコ:なんです?

エリ:人が倒れてたんだって!
   しかも息してないんだ!

カナコ:そんな……! まさか……見回っていたのに、見逃してた……!?

エリ:こっちきて!

 <エリ、カナコの手を掴んで女性の前へ>

エリ:ほら! この人!

 間

カナコ:え?

エリ:なんとかなんないの!? パトロールなんでしょ!?

カナコ:えっと……。
    ……マネキン、ですね。

エリ:……え? マネキンって?

カナコ:本気で言って――いや……多分本気ですよね。
    えっと、これはその……人形、なんですよ。

エリ:……でも、人の大きさだけど?
   遊ぶにしてはでかすぎない?

カナコ:遊ぶ用のではなくて……。
    服屋さんとかで、見かけたことありません?

エリ:え! マジじゃん! 服屋のアイツじゃん! これ!

 <エリはその場にへたり込む>

エリ:うわ良かったー……。

カナコ:ふふ。

エリ:笑ってんなよな!

カナコ:すみません、馬鹿にしているとかじゃなくて。
    それにしても……いるんですよね、こうやって不法投棄していく人が。

エリ:ほんとメーワク。めっちゃ焦ったっての。

カナコ:あ。それで、貴女はいったい何を――

エリ:あー!

カナコ:ど、どうしたんですか?

エリ:マサに知らせなきゃ!

カナコ:マサ……? また新しい登場人物が……。

エリ:ねえ、あんたの携帯電波はいんの?

カナコ:え? ああ、これは携帯電話じゃなくて無線ですよ。

エリ:なんでもいいからさ、ちょっとマサにかけさせてくんない?

カナコ:い、いや。携帯にはかけられないんですよ。

エリ:マジ? つかえねー……。

カナコ:その、かけたい人っていうのは?

エリ:ん? マサ。

カナコ:えーっと……。

エリ:彼氏だよ。一緒にきたんだけど、男を探しにいったの。

カナコ:男性を探しに?

エリ:うん。

カナコ:どうしてですか?

エリ:は? チューさせるからに決まってんじゃん。

カナコ:チュー!? え? なんでですか?

エリ:この女……つか人形だったんだけどさ、それ助けるつもりだったんだよ。

カナコ:あ、ああ……助ける……。

 間

カナコ:え? チューで?


 ◆


 <場面転換>
 <周囲を見回るヨシハル>

ヨシハル:うーん……特に怪しいものは見当たらないな……。

 <鳥が飛ぶ音が聞こえて、ヨシハルは驚き飛び上がる>

ヨシハル:うわっ! な、何!?
     ……なんだ、鳥が飛んだのか……!

 <マサの声が聞こえる>

マサ:ああ!? なんだァ!?

ヨシハル:え!?

 <ヨシハルは反射的に物陰に隠れる>

マサ:(低い声で)今……鳥が飛んだよなぁ……。

ヨシハル:(小声で)だ、誰かいる……!
     こんな森の奥に、どうして……!

マサ:足跡……。
   なんだよ人間じゃねえか! やっぱり居たんじゃねえかよ!

ヨシハル:人間を、探してる……?

マサ:斧でもありゃあわかりやすかったんだがな。木こりだって――

ヨシハル:おおおお、斧!?

マサ:早く見つけて連れてかねえと……!

ヨシハル:つ、連れて行く!? あ、あの人……もしかして、ヤバい人……!

マサ:ん……これは……。

 <マサは足元に落ちているヨシハルの隊員証を拾う>

マサ:……森林保護ぱとろーる……高井ヨシハル?

ヨシハル:まずい……! さっき落として――

マサ:おい! そこにいんのか!

 <ヨシハルは意を決して出てくる>

ヨシハル:す、すみません! ぼ、僕は、森林パトロールの――

マサ:お前……。

ヨシハル:決して僕は! あなたを害そうだとか考えていなくてですね!
     ここで出会ったのも忘れて! 誰にも言わないと約束します――

 <マサはヨシハルに顔を近づける>

マサ:うるせえ。

ヨシハル:は、はい……。

マサ:お前……警察か。

ヨシハル:は? いえ、ですから僕はーー

マサ:命に関わるんだ、わかってんのか! 俺の質問に答えろ。

ヨシハル:ひっ! す、すみません……! 従うので……命だけは……!

マサ:お前……恋人とか、いんのか?

 間

ヨシハル:え?

マサ:いいから答えろ!

ヨシハル:は、はい! い、いません!

マサ:よぉし! じゃあ! チュー、できるな。

 間

ヨシハル:……ご、ごめんなさい、なんて……?

マサ:いいからついてこい。

ヨシハル:す、すみません! あ、あの!

マサ:なんだ!? お前、恋人いねえんだろ!?

ヨシハル:は、はい。

マサ:じゃあチューできんだろ!

ヨシハル:その……え? あの、つまりその……!
     そういう……ことですか……?

 <ヨシハルはもじもじと下を向く>

ヨシハル:僕に、その……チューをしろと。

マサ:ああ? そうだっつってんだろ。

ヨシハル:(ブツブツと)そう、ですか……僕もその、経験がないので、どうかわからないというか……。

マサ:あ?

ヨシハル:もしかすると、僕もそれが自分にとって最適なのかもとか……。
     確かに、あなたは男らしくてカッコいいなとかは思ってましたし――

マサ:……ブツブツ何言ってんだお前。
   お前には、女にチューして助けて欲しいんだよ。

ヨシハル:女性に? あ、いや! 僕としてはその方が――え? というか……なぜ女性に、僕が?

マサ:(ため息)お前、『これガチでしんでるやんけ』って知ってるか?

ヨシハル:『これガチでしんでるやんけ』……? 何ですか、それ。

マサ:子供が読む絵本みたいなやつのタイトル。

ヨシハル:絵本で!? そんな攻めてるタイトル!?

マサ:ああ。それでよ、ガチでぶっ倒れてる女を、男がチューで助けるんだよ。

ヨシハル:……えーっと……?

マサ:だからよぉ! チューしてえんだけどよぉ!
   してえとは言っても、そういう意味じゃねえぜ!?
   でもエリが嫌だっていうんだよ! だから俺は木こりを探してたんだ!
   そこにお前が居たってわけだ!

ヨシハル:んー! やばい……! 本当に何を言っているかわからない……!
     これ……何か変なクスリとか――

マサ:は? 俺はクスリなんてしゃばいもんはやらねえ!
   お前奥歯ぶっ飛ばすぞコラ!

ヨシハル:整理させてください。
     ええと……森で女性が倒れていた。

マサ:ああ。

ヨシハル:先ほど出てきた、その……エリさんというのは?

マサ:俺のツレだ。愛する女。守りてえ女。

ヨシハル:倒れていたのはエリさんではないんですね?

マサ:そうだ。その倒れている女が全然起きねえからよ。

ヨシハル:チューで起こそうとした……。
     はいはい、木こりを探すっていうのはわかりませんが……だんだんと話が見えてきましたよ!

 <ヨシハルは手を叩く>

ヨシハル:あ! もしかして『これガチでしんでるやんけ』って、『シンデレラ』のこと言ってませんか!?

マサ:え? ああ、それ、そんな感じだよ!

ヨシハル:なるほど! でもあれですよこれ、倒れている女性をチューで助けるのって、『シンデレラ』じゃなくて『白雪姫』なんですよ!

マサ:あれ? そうだっけか?

ヨシハル:よくある勘違いというか、いや僕も分かりますよ! 結構間違えますよね!
     毒林檎を食べて目覚めなくなちゃうのが白雪姫なんですよね!
     それで王子様のキスで目覚めるっていう!

マサ:……あー、なんかそんな感じだったかもなぁ!
   お前やるじゃん!

ヨシハル:いえいえ! なんかすごいモヤっとしてたんで、良かったです!
     ええと、つまり僕は白雪姫的な女性に、チューをして、助ければいいということで!

マサ:そういうことだよ!

 間

ヨシハル:は? 何言ってんですか?

マサ:あ? んだお前やんのか?

ヨシハル:……いや、この人の言動はどうあれ、倒れてる人はいるのか……?

マサ:そうだよ! マジで倒れてて動かねえんだ!

ヨシハル:そんなまさか……! クソッ、僕らが見ていない間に!?
     案内してください!

マサ:ああ、こっちだ!


 ◆


エリ:あ! マサぁ!

 <マサとヨシハル、駆け込んでくる>

マサ:おう! エリ! 男、見つけて来たぞ!

エリ:マサ! この女、人じゃなかった!

マサ:ああ!?

エリ:何!?

マサ:なんだよ!

エリ:何さ!

カナコ:何で喧嘩してるんですか……!
    っていうか……高井さん?

ヨシハル:林さん! こっちにいたんですか!

マサ:なんだ、お前ら知り合いだったのかよ。

ヨシハル:彼女も僕と同じ森林パトロールの隊員です!

マサ:おお警察か!

カナコ:同じ勘違いしてる。

マサ:……そんでよお! その女は大丈夫なのかよ!

エリ:だから! マネキンなんだって!

マサ:んだよそのマネキンってのは!

エリ:人形だよ人形!

マサ:人形がこんなデカいわけねえだろ!
   ガキが遊べねえじゃねえか!

ヨシハル:……ええと、本当に?

カナコ:はい……不法投棄されていたものです。

ヨシハル:なんだ……意識不明者じゃなかったのか……。

カナコ:ええ。

マサ:マジかよ……! くっそ……人じゃねえんか……!

 <マサ、地面にへたり込む>

カナコ:高井さん、どうしてその……マサさんと?

ヨシハル:……男を探してるって言われて。

カナコ:それって、もしかしてチューを迫られて――

ヨシハル:そのことは……! 言わないで……。

エリ:っていうか、あんたらなんでこんな森の中にいんの?

ヨシハル:え? ああ、それはですね。

カナコ:通報があったんです。
    先週、とある方のご家族が『この森で人生を終える』という書き置きを残して、家を出たそうでして。

ヨシハル:事業に失敗したとかで、借金をかなり抱えてしまったと。
     それでも、家族全員でやり直そうと言っていた矢先のことらしく……。
     時間がある時に見回っていたんです。

カナコ:……一応、確認していただきましょうか。

ヨシハル:そうですね。

 <ヨシハルは写真を取り出して、マサとエリに見せる>

ヨシハル:こちらの方なんですけど、見たことは?

エリ:え? めっちゃイケおじじゃん。

マサ:おいエリ! 俺以外の男、イケてるとかやめろ!

エリ:何妬いてんの? 可愛すぎー!

マサ:うぜえなやめろし!

カナコ:やっぱり、見覚えないですよね――

マサ:あ? おい、エリ……こいつ。

エリ:え? ああ、そうじゃん。

マサ:ファッション違うから気づかんかったわ。

ヨシハル:え? じゃあ、もしかして!

マサ:ちょっと前に見かけたよ、この木こりのおっさん。

カナコ:き、木こり?

エリ:だってこのひと、木こりっしょ?

ヨシハル:木こりはともかく! 見かけたんですね!?

マサ:おうよ!

エリ:うちらが車止めてるとこの側に、車とまっててさ。

マサ:俺らが車出すのに邪魔だからよ、動かさせねえとと思って森の中探しに入ったんだよ。

エリ:そしたらなんかこう……木に紐引っ掛けてさ、それで木倒そうとしてるみたいでさ。

カナコ:それって……!

ヨシハル:多分……通報の通り。人生を終わらせようと……。

マサ:仕事は置いといて、車動かせっつってんのに、なんかゴチャゴチャいって聞きやしねえんだよ。
   だからそこで、言ってやったんだよ。

 <マサは立ち上がって髪を描き上げる>

マサ:木こりよぉ……俺は構わねえよ。ぶつけちまっても、傷ついちまっても……そんなもん、対した問題じゃねえんだ。
   走れさえすれば、俺は気にしねえよ。

カナコ:車のことですよね……。

ヨシハル:でもなんか……。

マサ:でもあんたはどうだ! 自分だけ都合いいように駐めちまって!
   他のやつに迷惑かけるってのは、傷つけちまうよりずっとダサくて、痛えことなんじゃねえか!
   ってよぉ!

エリ:こんときのマサ! 超かっこよかったんだから!

ヨシハル:す、すごい……!

カナコ:奇跡的に、刺さってませんか、これ……!

マサ:したらその木こりが泣き出しちまってよ。「私が間違ってた」だの「ありがとう」だのいいやがって。

エリ:マサに抱きついてきたからうちがドついた。

マサ:で、いいから車動かせって言ったら、そのまま帰ってったよ。

ヨシハル:……奇跡だ。

カナコ:偶然その……自殺を止めた、ってことですか?

ヨシハル:そういうことだね。

マサ:で、何だ。俺ら、なんかしちまったのか?

カナコ:いや、したはしたんですが、すごくいいことをしたんですよ!

エリ:え? マジ?

ヨシハル:本当、たいしたものです! 表彰ものですよ。

カナコ:こんなことってあるんですね! 想定外の善行が行われるなんて……!

ヨシハル:お二方の素敵な人柄あってこそです。

マサ:んだよ! やめろよ!

エリ:うわ、なに、照れるって!

カナコ:ああ、それで……お二人はどうしてこの森へ?

ヨシハル:そうだ……! ここは、見ての通り人の少ない森の中ですけど。

マサ:あん? だからじゃねえかよ。

カナコ:だから、というと?

エリ:ああ。ウチら最近金なくてホテルいけないからさ。

マサ:おうよ。車の中で、な!

エリ:そうそう!

 間

カナコ:え?

ヨシハル:え?

マサ:あん?

エリ:は?

カナコ:えっと……。

ヨシハル:それはつまり……カー……。

 間

カナコ・ヨシハル:あの……それは勘弁してもらっていいですかね。

マサ・エリ:マジで?





 完





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