ギルクライム 第5話
作者:ススキドミノ
【※最初に】
本台本は有料上演配信使用権付き台本の販売がございませんので、基本的には読み合わせや友人同士の声劇などでお使いください。
登場人物
チェルシー=リン:女性。ソムニシティ尋問官。
ブギー:性別不肖。殺し屋兼芸術家。
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
---------------------------
<ソムニシティ刑務所・特別独房1号>
ブギー:どうしたんだい? こっちにおいでよ。
チェルシー:……いえ。ここからで問題ありません。
ブギー:それが人に何かを求める態度かな。
……いいから来いっつってんだろ。
チェルシー:……わかりました。
ブギー:よく顔を見せてよ。チェルシー=リン。
チェルシー:正直にいって、貴方に会うのは気が乗りませんでした。
ブギー:ひどいこというなぁ、僕と君とは初対面だろ?
チェルシー:高名な芸術家であり、史上最悪の殺し屋と対面するのを望む者はいませんよ。
ブギー。
ブギー:まあ、いいや。こういうやり取り、つまんない。
チェルシー:貴方に、聞きたいことがあります。
ブギー:あれぇ? 他の囚人にはやったやつ、僕にはやらないの?
資料ももらったしさぁ、やろうよ。契約ってやつ。
チェルシー:……三つだけ、好きなものを用意します。
見返りに、要人暗殺の事件についての意見を求めます。
ブギー:いいよ。契約しよう、契約。
チェルシー:では……あなたは資料を見てどう考えましたか?
ブギー:まず、やり方が美しいね。痕跡もほとんど残していないし。
犯人だけをピンポイントで捕まえるのは、恐ろしく時間がかかる。
チェルシー:ええ……まるで――
ブギー:まるで、ブギーのやり口だ――って、思ってる?
<ブギーはチェスの駒は指先で転がす>
ブギー:確かに僕は人を使って殺す。
自分の手を汚さず、確実にね。
チェルシー:正直に言います。私は貴方の仕業ではないかと疑っています。
ブギー:浅いなぁ、てめえ。ほんっと浅はかで萎えるよ。
僕の殺しについて、ちゃんと調べた? 捕まったのは随分前だけどさぁ、勉強不足じゃない?
チェルシー:……一致しない点については理解しているつもりです。
ブギー:本当に? マジで? 僕はさぁ、人を使って殺しをする。
でも、僕は殺しに使った人間は、その後確実に自分の手で殺すんだよ。
チェルシー:ええ、そのようですね。
ブギー:僕は芸術家だ。芸術家には、信念と美学がある。
僕がやったなら――関わった人間、全員始末するさ。
チェルシー:では、誰がやったと?
ブギー:はっきり言わせてもらうけど、本質を伴ってない殺しには興味がない。
でも、君が約束した報酬には興味があるから、ちょっとだけ話してやるよ。
チェルシー:お願いします。
ブギー:この暗殺には、大した意味はない。
美しい計画性に値するだけの信念がないんだ。
チェルシー:信念……それは、正義からくる革命ということでは?
ブギー:人が動く時には必ず理由がある――概ね正解。
人は大きな選択を迫られた時、感情を優先する――これは正解。
<ブギーはチェスの駒を倒していく>
ブギー:人間は欲望を開放するために正義という言葉を使う――大正解。
今回の事件はそんな者たちが起こした革命か――超不正解だ。バーカ。
チェルシー:不正解……それは一体。
ブギー:革命なんていうのは、この出来すぎた暗殺事件のティーカップから溢れた、一滴のミルクに過ぎないんだよ。
本質はカップの底。この薄味の紅茶を飲み干すほどの価値もない。
<ブギーはチェスの駒を放り投げる>
ブギー:こいつは、ゲームなんだよ。
チェルシー:……ゲーム?
ブギー:ああ。ゲームだよ。
子供の頃にやらなかった? ホット・ポテト、ダック・ダック・グース。
それと同じようなものさ。
チェルシー:では……本当に、この暗殺には何の意味も――
ブギー:ねえよ。
チェルシー:ですが、工場の爆破事件については――
ブギー:それもミルクだ。間抜け。
ちなみに、君が犯人を捕まえるのも不可能だから、諦めたら。
チェルシー:そんなこと……できません。
ブギー:っていうか君……面白いね。ずっと僕の瞳を見て話してる。
怖かったんじゃないの?
チェルシー:恐怖を抑える訓練もしていますから。
ブギー:訓練……そっか、訓練ね。
何か面白そうだし、僕からも一個アドバイス。
チェルシー:何でしょう。
ブギー:数年前に爆破されたリバースインダストリアルの研究について調べてごらん。
そうすれば、事件の全容が見えてくるかもしれないよ。
まあ……どっちにしてもつまらないことだけどね。
チェルシー:……わかりました。そうします。
ブギー:うん。もう時間か。
<チェルシーが独房から出ようとするところを、ブギーが声をかける>
ブギー:ねえ。チェルシーさん。
チェルシー:はい。なんでしょう。
ブギー:僕がもしここから出れたらさ――君のこと、殺してもいい?
<チェルシーは黙って出ていく>
ブギー:最後まで眼を逸らさなかったかぁ……。
あー……絶対やろう。そうしよう。
---------------------------
第6話
台本一覧