ギルクライム 第2話
作者:ススキドミノ
【※最初に】
本台本は有料上演配信使用権付き台本の販売がございませんので、基本的には読み合わせや友人同士の声劇などでお使いください。
登場人物
チェルシー=リン:女性。ソムニシティ尋問官。
フランツ=グレイヴ:男性。双子の詐欺師。
ミリア=グレイヴ:女性。双子の詐欺師。
※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)
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<ソムニシティ刑務所・特別独房5号>
チェルシー:フランツ、ミリア=グレイヴ。
フランツ:やあ、いらっしゃい。
ミリア:貴方が、尋問官ね。
フランツ:名前はチェルシー=リン。
事前に資料は読ませてもらったよ。
チェルシー:貴方達は……双子でしたか。
フランツ:あまり似ていないと言われるけど。
ミリア:二卵性だし、性別も違うからそういうものよ。
チェルシー:だからこそ貴方達はカップルにも夫婦にもなれるわけですね。
貴方達は双子の詐欺師となり、何百人という人間から富を騙し取った。
フランツ:数字は正確に扱わないと。ミリー、何人だった?
ミリア:815人騙した。
チェルシー:補足をありがとうございます。
フランツ:さて、知りたいことがあるんだったね。
ミリア:貴方の頭を悩ませる、暗殺犯の話。
チェルシー:話が早くて助かります。報酬については?
ミリア:グレイと話したんでしょ? 三つ、欲しい物がもらえる。
フランツ:僕達もそれでかまわないよ。
チェルシー:では、貴方達の考えを教えてください。
フランツ:僕達は暗殺犯と繋がりがあるかもしれない候補者の資料を、分析させてもらったよ。
ミリア:尋問のデータ、特に楽しませてもらったわ。
フランツ:グレイの分析では暗殺犯は実行犯とは別に、協力者がいるという話だったね。
そしてその協力者の中には、子供も含まれていると。
チェルシー:グレイはそう言っていました。
ミリア:子供の尋問はまだかしら。
チェルシー:手続きが進まないようです。法律に阻まれています。
フランツ:今君が置かれている状況……。それすらも彼らの計画の一部さ。
チェルシー:計画?
ミリア:人が人の思考を操ろうとするなら、感情を揺さぶらなければならない。
チェルシー:感情……。グレイも、それをキーワードだと言っていました。
フランツ:だろうね。君達は機械的に状況を分析しようと考える。
だから、数歩も遅れてしまうんだ。
ミリア:人間という車を走らせるときに、論理ではあまりにも遅いの。
感情こそが、最も早く人間を走らせる燃料。
チェルシー:……要点が見えません。
フランツ:候補者の中から、実行犯との繋がりを見つけるのは難しいことだよ、チェルシー。
ミリア:なぜなら、彼らが実行犯と直接やり取りしているとは限らないから。
フランツ:人の行動を操る方法はいくつかある。
そのどれもが有効でもあり、見方を変えれば全く意味がないことだ。
ミリア:人間はどこまでも感情で動く生き物だから、確実性なんてものは存在しない。
フランツ:どれだけ信頼関係を積み上げたと思っていても、金で裏切る人間はいる。
ミリア:どれだけ妻と愛を紡いでいても、頬をひと撫でされただけで靡く夫がいる。
フランツ:信用ではなく。
ミリア:信頼でもなく。
フランツ:人は殺し。
ミリア:人は死ぬ。
フランツ:総ては、感情さ。
チェルシー:では……候補者達は、操られたわけではなく、自ら行動していると?
ミリア:或いは、そう仕向けられている。
フランツ:日常の至るところで、種を蒔かれているんだ。
ミリア:直接何かを命令せずとも、感情を制御することができれば、望む行動を選ばせることはできる。
フランツ:例えば、とある警備員の私生活を見てみよう。
彼がインターネットで繋がったばかりのセクシーな女性がいる。
ミリア:彼女からメールが来るのは決まって夕方頃。
職務中は真面目な彼だけど、数日前は偶然彼女と口論になった。
フランツ:そんな彼女から、パーティの警備中、連絡が来たら?
チェルシー:彼は、メールに目を通す。
ミリア:そういう一瞬が、この暗殺事件を産み出しているんだ。
チェルシー:つまり……彼女との喧嘩すらも、計画の内ということですね。
フランツ:しかし、そのメール相手の彼女も実行犯に操られているとしたら――途方もないことだね。
ミリア:でも、絞る方法はある。
チェルシー:それは?
フランツ:同じ土俵に立つのさ。チェルシー。
ミリア:彼らの私生活を調べ上げて、感情を読み取る。
フランツ:彼らの関心事はすべて、一箇所に向いているはずだ。
チェルシー:一箇所に向いている……?
ミリア:人は潜在的に、安定を求める。
フランツ:人は一様に不安定であり、不幸なんだ。
だからこそ……人は幸福で操れる。
ミリア:候補者に直近で起きた幸福な出来事にこそ、実行犯が関わっているのよ。
チェルシー:幸福な出来事に……確かに、そんなことは考えもしませんでした。
ミリア:……時間ね。
チェルシー:ああ。助かりました、二人共。
フランツ:構わないよ。
<チェルシーは独房を出ていく>
フランツ:彼女をどう思う? ミリー。
ミリア:彼女、とても不思議ね。
フランツ:彼女が異性愛者なら、僕の首元に視線を向けただろう。
ミリア:彼女が同性愛者なら、私の太ももに視線を向けたはず。
フランツ:彼女は最後まで、僕らの瞳だけを見ていたね。
ミリア:ええ、本当に――面白いわ。
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