ギルクライム 第1話
作者:ススキドミノ


【※最初に】
 本台本は有料上演配信使用権付き台本の販売がございませんので、基本的には読み合わせや友人同士の声劇などでお使いください。



登場人物
チェルシー=リン:女性。ソムニシティ尋問官。
グレイ=ラッド:男性。盗賊。




※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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 <ソムニシティ刑務所・特別独房7号>

チェルシー:……盗賊グレイ=ラッド。

グレイ:……あ? 誰だお前。

チェルシー:私はチェルシー=リン。このソムニシティの尋問官を務めています。

グレイ:尋問官……ああ。ソムニシティの犯罪抑制の為に新設された軍隊だったか。

チェルシー:軍ではなく、抑止力ですよ。

グレイ:どっちでも構いはしねえよ。
    それで……その尋問官が俺になんの用だ。

チェルシー:知恵を借りたいのです。

グレイ:おい、こんな地下深くの特別房まで来た理由がそれかよ。

チェルシー:そのために私は、このソムニシティで多くの犯罪に手を染めた知的犯罪者達――ギルクライマーに会いに来ました。
      ……もちろん、私に協力してくれれば、貴方にも得があります。

グレイ:いいねえ、そういう話は好きだぜ。

チェルシー:減刑はできません。ここから出ることも出来ないでしょう。
      ですが、貴方の欲しい物をいくつか、用意させます。

グレイ:俺は曖昧なものは嫌いなんだ。
    いくつじゃなく……そうだな。三つ寄越せ。

チェルシー:いいでしょう。三つです。

グレイ:……即答するってことは、相当切羽詰まった事情があるみたいだな。
    細かいことはいい。そっちに興味が湧いてきた。話してみろよ。

チェルシー:今、ソムニシティでは要人の暗殺事件が横行しています。

グレイ:その犯人を追う手がかりが欲しい、と。
    殺された要人の役職は?

チェルシー:議員が四人、隣国の大使、四大企業のトップが二人。

グレイ:他には?

チェルシー:ソムニシティ前市長。

グレイ:ククク……なるほど、市長の首まで取られちゃ、手段を選んじゃいられねえよなァ……。

チェルシー:グレイ。貴方は数多の盗みを成功させ、それを市民にバラ撒き、義賊として名を上げていた。
      貴方の知恵を貸してくれませんか。

 <チェルシーは操作資料をグレイの独房に差し入れる>

グレイ:……随分と詳細な資料だな……。

チェルシー:わかったことがあったら教えてください。
      私達の面会に許されている時間はそう多くありませんから。

グレイ:……こいつらは単独犯じゃない。特に前市長暗殺の方法だ。
    警備をすり抜け、目線を反らし、行動を起こすには――最低でも十人以上必要だ。

チェルシー:気づいたことは、資料に書き込んでください。

グレイ:市長が居たビルは六〇階建て。最新鋭の警備システムが整った豪華仕様。
    だが、だからこそ……穴ができる。

チェルシー:穴というと?

グレイ:どれだけ技術が進化しようが、そいつを使うのは人間だ。
    人間ってのは慣れる生き物なんだよ。どんな技術にもすぐに適応する。

チェルシー:人間とはそうして進化してきました。

グレイ:まあ、なんていうか……進化とも、退化とも呼べる。
    人間は技術が進むほどに、人間が本来持っていた特性を失っていった。

 <グレイは資料を指差す>

グレイ:技術に慣れれば、人は怠ける。あぐらを掻く。
    警備システムが堅牢なら、柔らかいところを狙えばいい。俺ならそうする。

チェルシー:人を狙ったということですか。

グレイ:パーティの参加者全員を特定しろ。間違いなくその中に、暗殺犯と繋がっている人間が居る。
    俺の見立てでは……若い人間。それも、子供。

チェルシー:子供?

グレイ:パーティ会場の下を走る空調ダクトは、ドローンの侵入を防ぐシステムが組まれている。
    だが、子供なら通れる。

チェルシー:……なるほど。

グレイ:他にも侵入経路や、タイムラインを書き込んでおいた。
    参考にするといい。

チェルシー:……流石ですね。盗賊グレイ。

グレイ:もう少し時間があれば色々教えてやれたんだが……。

チェルシー:ああ、残念ですが……時間です。

グレイ:チェルシー=リン。

チェルシー:何ですか?

グレイ:人を殺したことは?

チェルシー:あります。私は、尋問官ですから。

グレイ:お前は命令で人を殺せるか。

チェルシー:それが私の仕事です。

グレイ:実はそうじゃない。お前は殺したくて殺してる。

チェルシー:……何の話でしょう。

グレイ:人には、感情がある。どんなもっともらしい理由を用意されようが、感情で動く。
    お前が殺したのは、お前が殺したいと思ったからだ。

チェルシー:私の心を揺さぶろうとしても無駄です。
      訓練を受けていますから。

グレイ:俺が言いたいのは……この考えを受け入れなければ、お前には犯人は捕まえられねえってことだ。

チェルシー:考えを……受け入れる?

グレイ:利害だけで犯罪を働けるのは、最初の数回だ。
    そこから先は、めくるめく感情の世界さ。

チェルシー:感情……。あなたも感情のままに盗みを働いていたということですか。

グレイ:ああそうさ! 弱者に金をバラ撒くというもっともらしい理由をつけてな!
    俺は盗むのが好きなんだよ、チェルシー。

チェルシー:覚えておきます。

 <チェルシーは独房を出ていく>

グレイ:ククク……鋼の心を持つ尋問官……チェルシー=リン。
    この犯罪を楽しめよ……。クククク……!





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