恋する乙女は極道娘 2nd
作者:紫檀




片桐 蒼汰(かたぎり そうた):男子高校生
際道 沙織(きわみち さおり):女子高校生。お嬢
君島 代五郎(きみしま だいごろう):沙織の世話役
翌内 泰斗(よくない たいと):いじめっ子。やたら蒼汰に絡んでくる


※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)





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蒼汰M「俺の名前は片桐 蒼汰。極坂(きわみさか)高校に通う、ごく普通の高校生だ」

翌内「オイコラ蒼汰ァ!! パァン(裏声)買ってこいやァッ!!」

蒼汰M「彼の名前は翌内 泰斗。同じく極坂高校に通う同級生で、いわゆる不良ってやつだ」

女子生徒「(小声で)うわ、片桐君また翌内に絡まれてるよ。カワイソー」

男子生徒「(小声で)てかアイツ髪の毛テカりすぎじゃね? ワックスつけすぎだろ」

翌内「アァンッ!? 文句あっかコラァ!!」

男子生徒「ヒィっ」

女子生徒「こわーい!」

蒼汰M「泰斗はめちゃくちゃ目つきが悪いので、クラスのみんなからは怖がられている。でも俺は幼馴染なのでもうだいぶ慣れた」

蒼汰「なあ泰斗」

翌内「アァッ!? 気安く呼ぶんじゃねえ!」

蒼汰「あ、ごめん」

翌内「………(蒼汰にガンをつける)」

蒼汰「………(黙ってもじもじしている)」

 奇妙な間

翌内「…で、ナニ!?」

蒼汰「ああ、うん。パンは何パンがいいかなって」

翌内「んなもんカレーパンに決まってンだろ! 毎回同じこと聞くんじゃねえ!」

蒼汰「でも、流石に飽きないかなって」

翌内「食堂のおばちゃんが作るカレーパンは最高なんだよ! 飽きるわけねえだろ!!」

蒼汰「わかった。買ってくるね」

翌内「おいちょっと待てやコラ」

 ヒュンッ、パシッ

蒼汰M「僕は泰斗から投げつけられた何かを受け取った。それは五百円玉だった」

翌内「釣り忘れたらブッコッすからなッ!!」

蒼汰M「ああ見えて、そんなに悪い奴じゃないことを俺は知っている」

 軽く手を振り、教室から掛け出ていく蒼汰

翌内「おい! あんまり急いで怪我すんじゃねっぞォッ!」


 ピッ、という電子音と共に、映像が止まる
 画面を注視していた君島と安原の目が、リモコンを持つ沙織へと向く


沙織「以上が、昨日の昼休みの一部始終だ」

君島「お嬢……いつの間にこんな隠しカメラを」

沙織「私の席からだと見えない蒼汰きゅんの角度があるからな、当然だ」

君島「なるほど……!」

沙織「3カメまである」

安原「流石っす、お嬢!」

沙織「それでだが……お前たちの率直な意見を聞かせて欲しい――」

 ゆっくりと息を吸い込む沙織。ごくりと固唾をのむ君安コンビ

沙織「――この翌内 泰斗という人物と、蒼汰きゅんとの関係性だ」

安原「関係性……っすか」

沙織「ああ…英語にするとrelationship(リレイションシップ)…」

 間

君島「駄目だお嬢、俺はこういうのはさっぱりで」

沙織「そうか…私にもはっきりとしたところは――」

安原「俺、分かりました」

沙織「なにィ!?」

君島「本当か!? 嘘じゃあねえだろうな!」

安原「ええ、間違いねえっす」

 薄暗い部屋の中で、安原の眼がキラリと光る

安原「この二人は、“親友”ってやつっす」

沙織「なん…だと…」

君島「ヤスゥゥウ!! お前はまた適当な事をォ!!」

沙織「待て! 君島!」

君島「ッ!?」

沙織「そうか……そういうことだったのか…!」

安原「お嬢…!?」

沙織「あれは…三日前のことだ…」


ほわんほわんほわん
《沙織、回想》

沙織「蒼汰くん!」

蒼汰「あ、際道さん。どうしたの?」

沙織「あの…さ、今日の放課後、時間空いてたりしないかな…?」

蒼汰「え、なんで?」

沙織「『メイドインラビリンス』の新作映画、公開されたじゃない!? 良かったら一緒に、観に行けないかなって…」

蒼汰「ああ! ちょうど僕も気になってたんだよ」

沙織「…! じゃあ!」

蒼汰「でもゴメン。今日の放課後は泰斗の奴に、先にゲーセンに誘われてるんだ。だからまた今度の機会にしよう」

沙織「ガーン」

翌内「オイ蒼汰ァ!! パァン(裏声)買ってきゃァッ!!」

蒼汰「ああ、すぐ行くよ。じゃ際道さん、また」

沙織「ああっ…! 蒼汰くんっ…!」


《回想終了》

沙織「今…全てが繋がったぜ…。つまりアイツは…」

君島「つまり…アイツは…」

 間

沙織「私の『恋敵(KOIGATAKI)』ってことかァ!!」

安原「そういうことッス!!」

君島「そういうことかァ!!」

沙織「そうと分かればこうしちゃいられねえ! 君島! 安原! 作戦を言い渡す!」

君島・安原「へい!」

沙織「名付けて、『ドキドキ☆蒼汰きゅん変わり身大作戦』ッ!!」

君島「おお!」

安原「ノルマンディーみたいな感じっすね!」

沙織「愛の炎は――壁が厚いほど高く燃え上がるもの………」

 沙織、天高くガッツポーズ

沙織「勝ち取るぞ…ッ! 蒼汰きゅんとの放課後ふわふわタイムを!!」

君島・安原「押忍ッ!!」



 次の日、放課後

沙織「あ、蒼汰くん! ちょっと聞きたいことが」

蒼汰「え、何かな」

沙織「これからだけど…この間話してた『メイドインラビリンス』、観に行けないかな…?」

蒼汰「あ…ゴメン…。今日も今から泰斗の奴に――」

沙織「(食い気味に)彼なら大丈夫よ!」

蒼汰「えっ」

沙織「放課後にゲームセンターに誘われてる件よね?」

蒼汰「そ、そうだけど」

沙織「それなら、他に一緒に行く友達が見つかったから蒼汰くんは行かなくてもいいって言っていたわ。だから大丈夫」

蒼汰「そうなのか」

沙織「………」

蒼汰「じゃあ行こうか、映画」

沙織「(小声で)…シャオラッ!」

蒼汰「えっ」

沙織「あ……………………シャオ………小狼(シャオラン)くん! 知ってる? 最近流行ってるソシャゲのキャラクター」

蒼汰「あー、知らないなあ」

沙織「ほんとに? じゃあ後で教えてあげるね」

蒼汰「うん、お願い」

沙織「じゃあ、校門で待ってて! 私はちょっとだけ先生と話すことがあるから」

蒼汰「わかった、待ってるよ」

 蒼汰、立ち去る
 沙織、そそくさと陰に隠れ、小型無線機を取り出す

沙織「こちらアルファ、ブラボー応答せよ」

安原『こちらブラボー、どうぞ』

沙織「作戦状況は?」

安原『はい、ターゲット尾行できています。報告通り、早めに学校を抜け出してゲームセンターに来ています。間違いなく不良です』

※国家公安委員会に探偵業の届出をしていない者による尾行は犯罪です。決して真似しないでください。
(詳細については、警視庁による「探偵業の業務の適正化に関する法律等の概要https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/tetsuzuki/tantei/tantei_menu/tantei_gaiyo.html」のページをご参照ください。)

沙織「チャーリーの用意は?」

安原『確認します。君島さん、どうっすか』

君島『いつでも行けますぜ、お嬢』

安原『チャーリー、気合十分です』

沙織「よし…あとは手筈(てはず)通りにな…」

君島・安原『了解!』



同日、一時間ほど後、ゲームセンター

 スマホで時間を見る翌内

翌内「あん? もうこんな時間かよ。蒼汰のやつまだ来ねーのか」

翌内「チッ……まさかあの野郎……」

 翌内の眼がギラリと光る

翌内「やむを得ない事情に巻き込まれて遅れちまってるんじゃねぇだろうなァ!!」

 ゲームの台に座り直す翌内

翌内「全く仕方ねぇ奴だ。後で来たらボコボコにしてやるぜ。この『剛拳2』でなァ!」

 その時、翌内の背後から君島が歩み寄る

君島「泰斗さん、遅れちまってすいやせん」

翌内「アァン!!? 蒼汰ァ!! テメェどのツラ下げてこんな遅れてきやが…………えっ?」

君島「ご苦労さんですッ!!」

 極坂高校の制服をピチピチに来た君島が立っている

翌内「えっ、誰」

君島「……片桐蒼汰っす」

 間

君島「ご苦労さんですッ!!」

翌内「いやいやいやいや。違う違う違う」

君島「なんすか?」

翌内「いや、『なんすか?』じゃなくて。…え? 違い、ますよね?」

君島「……片桐蒼汰っす」

 間

君島「さて、なんのゲームして遊びやしょうか」

翌内「うん待って待って待って。あのそんな、強引に行っても駄目だから」

君島「え?」

翌内「違うんだ、あの、多分ね。人が、違う。というか、明らかにカタギの人じゃないよね。声とか、目つきとか。蒼汰くんのさ、いかにも人畜無害です〜って見た目のもはや対極だよね。むしろ何でそれで行けると思ったのか教えて欲しい」

君島「(笑いながら)ちょっと何言ってるか分かんないっすね」

翌内「なんで分かんねえんだよ」

 影で無線機を操る安原

安原「こちらブラボー。チャーリーがターゲットに接触、替え玉には………気づいてないみたいっす!!!」

沙織『ヨシ! その調子で頼む!』

安原「了解!」



蒼汰「ねぇ、際道さん」

沙織「ひゃいっ!?」

 沙織、慌ててトランシーバーを背後に隠す

蒼汰「映画の時間までまだしばらくあるみたいだから、どこか喫茶店で時間でも潰さない?」

沙織「え!? そ……そうね!」

沙織M「ふッ、ふ、ふ、fu〜〜↑二人でKISSA☆TEN(喫茶店)!? おおおwow wow wow落ち着くのよ私ッ…! これはむしろ嬉しい誤算…! 棚からぼたもち? 瓢箪(ひょうたん)からコマ? いずれにしろこのチャンス…ものにしなけりゃ女じゃねぇ!!」

蒼汰「ロッテ〇リアでいい?」

沙織「ええ、構いませんことよ」

蒼汰「?」



 一方ゲーセン組、パンチングマシーン前

君島「ヌゥゥゥゥウウウウウンッ!!!」

 ドゴォッ!!! (衝撃波)ブォォオンッ!!

翌内「わあ」

君島「ふぅ…俺も衰えたもんだな…」

翌内M「パンチングマシーンのランキングを一人で塗り替えちゃったよ。1位から30位まで全部カタギリソウタだよ。ソウタ何者だよ」

君島「全盛期はこの倍の数字まで行けたんですがねぇ」

翌内「いやクマかよ」



 一方ロッ〇テリア組

蒼汰「やっぱり喫茶店は涼しくていいね」

沙織「え、ええ、そうね」

沙織M「まさかのカウンター席ッ!! 近い! 近いわ蒼汰キュンッ!!!」

蒼汰「最近また暑くなってきたよねぇ」

 蒼汰、シャツの第二ボタンまでを開ける

沙織M「嘘ッ!!? 第二ボタン!? 第二ボタンまでお開けになられてしまうの蒼汰キュンッ!? そんな…! そんなことしたら鎖骨が丸見えッ!!」

蒼汰「どうしたの? 際道さん?」

沙織「いえ、なんでもありませんことよ」

沙織M「ええそう、落ち着きなさい沙織。私と蒼汰きゅんは実質もはや恋人(※前話参照)。恋人に少し隙のある姿を見せるのは世間的にも当たり前田のクラッカーではありませんこと?」

 ズゾゾゾゾゾッ(ミルクティーを凄い勢いで飲む沙織)

蒼汰「そんなにミルクティー美味しい?」

沙織「え? ええ、悪くありませんわ、おほほほ」

蒼汰「なんか僕もミルクティー飲みたくなってきたな〜。ひとくち貰っていい?」

沙織「え゛っ゛」

 間

沙織「そそそそそれってももももしかしてててて」

蒼汰「?」

沙織「か、かかか、間接キキ、キ、キ…」

蒼汰「あ、もし嫌だったら別に…」

沙織「嫌ではないッ!!」

蒼汰「そ、そう?」

 沙織、コップを両手で持ち蒼汰に差し出す

沙織「さあ! するなら! ひと思いに!!!」

蒼汰「あ、うん」

 蒼汰、沙織の手に自分の手を添える

沙織M「ハァァァァンンッ!! 蒼汰きゅんの手がッ!! 私の手にぃッ!!」

蒼汰「(飲む)」

 間

沙織「(ドキドキ)お、美味しい…?」

蒼汰「うん、美味しいよ(ニコッ)」

沙織「ギュンッ!!」

 沙織、倒れる

蒼汰「え? …際道さん? 際道さんッ!?」

沙織M「もう…思い残すことはない…わ…」



 数時間後、ゲーセン組
 君島、泰斗、安原の三人で格ゲーを遊んでいる

君島「おいヤスゥッ!! 残りミリじゃけえさっさと削り切らんかい!!」

安原「ちっと待ってくださいよアニキィッ! このガキここからのネバりがパネェんすよォ!」

翌内「オラァ! 勝負は最後まで分からねェってなあ! 勝ちを確信したならもうその瞬間に"負けて"るんだよ!」

安原「アアッ!! まくられたぁ!!」

君島「何してんだヤスゥッ!? 代われッ! 俺が出ちゃる!!」

安原「ちょっ、待って下さいよアニキ! さっきレバーぶっ壊して店員さんに怒られたばっかじゃないっすか!?」

君島「なりふり構ってられるかァ! ワシらの代紋かかっとるんじゃあッ!」

翌内M「見た目怖いけどなんか愉快な人たちだな」

翌内「ちょっと自販機行ってくるわ」

君島「おう! 逃げたら承知せんぞ!」

安原「いってらっしゃいっス」



 ゲーセン内自販機前

翌内「ふぅ、アイツらにもなんか買ってくか。コーヒーとか飲むかな」

不良B「お、ヨクナイくんじゃ〜ん」

翌内「ゲッ」

不良B「あれ〜? 今日はいつもの友達はいないわけ〜? 珍しいねえ〜」

翌内M「コイツは同じ学校の先輩…街で見つかると絡んでくる、タチの悪い不良だ…」

不良B「丁度いいんだけどさァ、金貸してくんない? すぐ返すかっさ〜」

翌内「いや…今は手持ちが…」

不良B「手持ちィ? 今コーヒー買おうとしてたよなァ? その金でもいいんだけどよォ」

翌内「そ、それは」

不良B「何? 反抗とかしちゃう感じ? いいのかな〜そんな態度取って。俺パンチングマシーンでランキングとかもノってっからさァ〜、結構痛い目見ちゃうかもよ〜?」

君島「なんやワレゴラァ」

不良B「えっ」

君島「泰斗さん、コイツ知り合いっすか?」

翌内「え、まあ、うん」

君島「まさかオドレェ、わしのツレにガンとばしよりゃせんよのう?」

不良B「はい、違います」

君島「おう、なら丁度ええわ。お前格ゲー出来るか」

不良B「え?」



君島「今からァ! 俺たちの中で最強の漢(オトコ)を決める! この『剛拳2』でなァ!」

安原「押忍ッ!!」

翌内「おう!」

不良B「お、おー」



翌内M「その後、俺たちは格ゲーのトーナメント戦を行い、カタギリソウタを名乗る謎のオッサンは最下位、タチの悪い不良の先輩は3位、途中からいつの間にか一緒に遊んでいたヤッスと呼ばれるオッサンは2位、俺が1位という結果に終わった。自称ソウタのオッサンはめっちゃ悔しがっていて、腹いせにパンチングマシーンを殴ったら今日の自己ベストを更新していた。それを見た不良の先輩は震えあがって、それ以来もう二度と俺に絡んでくることはなかった」

君島「泰斗さん。今日はありがとうございやした」

翌内「おう、俺も楽しかったよ」

君島「久しぶりに童心に返った気分ですわ」

翌内「そうか、久しぶりかぁ」

君島「実は…一つ泰斗さんに謝らにゃいかんことがありまして…」

翌内「なんだ」

君島「実は…わしはカタギリソウタさんじゃない、別人なんですわ。騙しててすいやせんでした」

 間

翌内「いや知っとるわ」




恋する乙女は極道娘 2nd 了


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