エイトミリオンストーリー
作者:domino


八塚 ミキオ(はちつか みきお):25歳。電気屋の息子。

伊藤 ヒマワリ(いとう ひまわり):19歳。駄菓子屋の孫娘。

赤塚 セイト(あかつか せいと):25歳。赤塚コーポレーションの若社長。

八塚 ハルオ(はちつか はるお):48歳。電気屋の店主。

島村 ユミエ(しまむら ゆみえ):25歳。セイトの秘書。

関 マツリ(せき まつり):26歳。アイドル。地元ラジオ局のパーソナリティ。


少年:商店街に住む少年。マツリと被り役。

友人:ヒマワリの大学の友人の少女。ユミエと被り役。

司会:テレビのベテランキャスター。ハルオと被り役。

会社員:インタビューを受けた男性。ハルオと被り役。

学生:インタビューを受けた女学生。ユミエと被り役。

OL:インタビューを受けた会社員。マツリと被り役。

アナウンサー:テレビアナウンサー。マツリと被り役。


エイトミリオン:八万町、八百世帯のヒーロー。

マネーロンダラー:テレビで人気の金持ちヒーロー。







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 【八万(はちまん)商店街の奥に店を構える、駄菓子屋ひまわりにて】


少年:ねえ、姉ちゃん。

ヒマワリ:んー? どしたの。

少年:これさ、古いよ。

ヒマワリ:何が?

少年:これ。このお菓子のおまけ。

ヒマワリ:……どれ? (首を伸ばす)
     『正義超人ブルージャスティス・正義ウエハース』……何かおかしい?

少年:あのさ。これ3年前のヒーローだよ? どれだけ古いもん入れてるわけ。

ヒマワリ:3年前って……君そんとき何歳よ……。

少年:今の流行りは、「拝金戦隊マネーロンダラー」

 間

ヒマワリ:……それ、ジョークだよね?

少年:(ため息)ナツばあちゃんいないの?

ヒマワリ:え? ああ……今は入院中だけど。

少年:……ナツばあちゃんだったら絶対入れてくれる。

ヒマワリ:残念。私はお留守番。しばらくは私だし、私は発注には触らないの。

少年:今日のところは引くけど……このことは学校で話させてもらうからね。

ヒマワリ:ご自由に。

少年:じゃあ、これ。

ヒマワリ:んー……(商品を数えて)50円ね。

少年:はい(小銭を手渡し)姉ちゃんモテないでしょ。

ヒマワリ:そりゃあ貴重な放課後にこんなところで店番やらされてちゃね。

少年:そういうとこだぞ。

ヒマワリ:うるせい。

少年:最近のヒーローは女の人にも人気があるんだぞ。
   イケメン 俳優を起用してるからね。

ヒマワリ:知ったような口をきかない。
     ……ていうか、私はどっちかっていうと悪役の方が好みだし。

少年:……そういうとこだぞ。

ヒマワリ:うるせい。早く帰れ。

少年:それじゃ、またね。

 <少年:店を出て行く>

ヒマワリ:転ぶんじゃないよー。

 <蝉の声>

ヒマワリ:あっつ……扇風機しかないって、どういうことよ……。

 <ヒマワリ、通りを眺めながめている>

ヒマワリ:拝金戦隊マネーロンダラー……ぷっ。(吹き出す)
     あー……くだらないことで笑っちゃった……。

 間

ヒマワリ:ほんっと……あっつ……。



 「エイト・ミリオン・ストーリー」



 <ミキオ、公園の木陰のベンチに座っている>

ミキオ:あっつ……。

 <蝉の声>

ミキオ:うるせえなあ……もうちょいボリューム抑えてくれよ……。
    リモコンねえんか……。

少年:あー! ミキオだー!

ミキオ:ああ?

少年:おいミキオ。何してんだよ。

 間

少年:無視すんなよ。生意気だぞ、ニートの癖に。

ミキオ:ニートじゃねえぞ、クソガキ。

少年:働き口がないからって子供に当たるなよ。
   大人げない。

ミキオ:都合の良いときだけ子供をたてにすんじゃねえっての……。

少年:なあなあ。

ミキオ:なんだっつーのよ……!

少年:金で買えない、ものはない!

 間

ミキオ:……なんだって?

少年:今流行ってるヒーロー。なんだよ……ミキオも知らないの?

ミキオ:んなヒーローがいるか。

少年:ほんっと、マネーロンダラーに言わせれば、ミキオは『怠惰な豚』だな。

ミキオ:ちょっと興味沸いてきちゃったじゃねえかよ。
    なにその番組。超面白そう。いつやってんの?

少年:自分で調べな、怠惰な豚! アディオス! ハーッハッハッハ!

 <少年・去る>

ミキオ:……ほんっと、あっちーわ……。

 間

 <電気屋の入り口からハルオが顔を出す>

ハルオ:おいこら愚息!

ミキオ:あー、なんだよ親父。

ハルオ:これから商店街の集会いくから、オマエ、店番しとけ!

ミキオ:それ、バイト代でんの?

ハルオ:やかましい! とっとと来やがれ!

ミキオ:はいはい。

 間

ミキオ:金で買えないもん、か……。


 ◆


 <赤塚コーポレーション・社長室>

ユミエ:GN(ジーエヌ)ホテルでの新しい経営戦略は概ね好評を得ています。
    先月末のチャリティイベントの成功もあり、ニチモトテレビジョンからも感謝の言葉が。

セイト:当然だろう……。では、次。

ユミエ:平均株価も去年の上半期を2ポイントあげています。
    新規テレビCMの製作も順調だとの連絡が。
    会長からは会食のセッティングをするように、と。

セイト:先方とスケジュールの調整を。

ユミエ:承知いたしました。

セイト:それで……他には何かないのか?

ユミエ:いえ……社長がご執心の……パルム建設の件ですが……。
    野木和(のぎわ)課長によれば賛成過半数。年末の総会で可決されるそうです。

セイト:そうか。ふふ……そうだ。それが聞きたかった。
    これで、私の野望にまた一歩近づく。

ユミエ:本日中に報告のあった案件は以上になります。

セイト:ご苦労、島村秘書。勤務時間は30分前に過ぎている。
   崩したまえ。

ユミエ:……かしこまりました。では、遠慮なく。
    (ファイルでセイトの頭を殴る)フンッ!

セイト:アダッ! 痛いではないか!

ユミエ:セイト。あんたって……もしかして本当にバカ?

セイト:……なんだと?

ユミエ:だって、どう考えても金になりそうにないじゃない。あんなところ!
    パルム建設の取り込みだって綱渡りなのよ!? なんだってこんな面倒くさい……!

セイト:何か勘違いしているな、島村秘書。
    一見して価値のない場所にこそ、本当のーー

ユミエ:あーはいはい。いいから、そういうの。
    あんたとの付き合いどんだけ長いと思ってんのよ。

セイト:他意はない……。

ユミエ:他意しかないでしょうが……!

セイト:問題ない。
    俺はーー赤塚コーポレーションの未来を見据えている。
    八万(はちまん)商店街は、俺がいただく。


 ◆


 <商店街集会・小料理屋【サム・オノ】二階>
 <商店街の者たちが集まって机を囲んでいる>

ハルオ:なるほどな……。
    まあ、あんたらの言いたいことはわかった。

 間

ハルオ:親父から店ぇ受け継いで20年近くになるがーー
    江戸で大工やってたころから数えやァ、八塚電気店はここいらじゃ一番の古株よ。
    なんとかできるかはわからねえが、このまま手をこまねいてるわけにはいかねえ。
    いっちょーーやってみっかぁ!


 ◆


 <八塚電気店・二階のリビング>

ハルオ:つーわけだ。

ミキオ:……何がつーわけなのか教えてもらっていいか?

ハルオ:だから、オメエに名誉ある役割をやるっつってんだ。

ミキオ:おいこらクソ親父。説明しろっつってんだろ……!

ハルオ:誰がクソ親父だテメエ!
    誰が男手一つでテメエにおまんま食わして、ここまで育ててやったと思ってんだこのロクデナシが!

ミキオ:そんなの今は関係ねえだろ!

ハルオ:いいか! 別に頭の悪いテメエがうめえ解決策をひねる出せるとは考えてねえ。
    ただなぁ、ただでさえ景気のわりぃ商売抱えて、こっちは参ってんだ。
    テメエが日がな一日ぼーっとしてるよりは、なんか仕事させてやろうって親心だろうが。

ミキオ:うっせえ! どうせ商店街の連中にせっつかれて、
    なんも思いつかなかったから俺になすりつけようって魂胆だろ!

ハルオ:グダグダ文句いうんじゃねえ愚息が。
    なんども言わせんな、テメエの出来の悪い頭でいい考えが浮かぶなんてこっちは思ってねえんだよ。

ミキオ:じゃあ俺は何すりゃいいってんだよ……。

 <一階のベルが鳴る>

ヒマワリ:あのー、すみません。

ハルオ:あー! はいはい! ちょっと二階まであがってもらえますか!

ミキオ:は……? 誰?

ハルオ:いいからオメエは大人しくしてろ。

 <ヒマワリがゆっくりと二階のリビングへと姿を表す>

ヒマワリ:あの、お邪魔します……。

ハルオ:いやいや! ご足労いただいてすみません!
    伊藤さんとこのーーですよね!

ヒマワリ:あ、はい。伊藤ヒマワリと言います。えっとーー

ハルオ:どうもどうも! 八塚電気のハルオです!
    こっちのは愚息のミキオと言います。
    おらテメエ! 頭下げねえか!

ミキオ:……ども。

ハルオ:こちらのお嬢さんは、駄菓子屋んとこの、お孫さんだ。
    伊藤のナツ婆さんが足やっちまって入院してる間、夏休みをつかって店番してるっつー孝行娘さんでな。

ヒマワリ:ええ、まあーー

ハルオ:しかもだ! トーキョーの方の有名大学に通ってらっしゃるって話だ!
    こう、才色兼備っていうか! 素晴らしいお方なんだよ!

ヒマワリ:あの、いや、別に私はーー

ハルオ:というわけで! ヒマワリさん、うちの愚息になんでも申し付けてやってください!
    こいつはこうみえても体力には自信があるんで! なぁ!

ミキオ:は? おい親父!?

ハルオ:それでは、ちょっと私は用事があるんで、ちと失礼させていただきますがーー
    オイ! テメエ、失礼なことすんじゃねえぞ!

ミキオ:あ”! おい親父テメエ! まさか八百屋んとこで麻雀ーー

ハルオ:時間は気にしなくていいからな!

 <ハルオは階段を駆け下りていく>

 間

ミキオ:(ため息)

ヒマワリ:……あの……。

ミキオ:いや、ごめん、本当。あんな親父で。

ヒマワリ:いえ……それは、いいんですけど。

 間

ミキオ:あー……座る?

ヒマワリ:あ……はい。

 間

ミキオ:えっと……結局さ。どういうことになってるわけ?

ヒマワリ:あの……私も、お婆ちゃん達に一方的にまくし立てられて、ここにいるっていうか……。

ミキオ:やっぱそうかー。

 間

ミキオ:で、どうする?

ヒマワリ:どうする、って?

ミキオ:このまま適当に時間潰して、思いつきませんでしたーとか。

ヒマワリ:いや、それはちょっと……。

ミキオ:そう? 俺たち、被害者なんだしそれくらいいいんじゃねえ?

ヒマワリ:なんていうかほら。お金、預かっちゃってるんで……。

ミキオ:……金?

ヒマワリ:はい。結構なお金。

 <ヒマワリはかばんを握りしめた>

ミキオ:どれくらいもらったんだ。

ヒマワリ:えっと……だいたい、50万円くらいーー

ミキオ:マジかよ! つーか、そんだけかけるんなら自分らでやれよな……!

ヒマワリ:私もう、本当どうしたらいいか……。

 間

ヒマワリ:(ため息)東京の大学っていったって、私、経済学部でもなんでもないですし。
     こんなのわかりっこないですよ……。

ミキオ:まあ……ここいらのジジババからしたら有名大学に行ってるってだけで、
    猫型ロボットにでも見えちまうのかもな。

ヒマワリ:……ですよねぇ……やっぱり断ろうかなぁ……。

ミキオ:それでいいんじゃねえ? できねえってこと説明すりゃあ無理にやらせようとはしねえだろ。

ヒマワリ:こんな重荷、背負えないもん……。
     しかも、相手はあの赤塚コーポレーションですし。

 間

ミキオ:(真剣な顔で)……オイ、伊藤さん。

ヒマワリ:はい?

ミキオ:今……アカツカっつった?

ヒマワリ:はい。あの大手企業のーー

ミキオ:気が変わった。やろうぜ。

 間

ヒマワリ:は?

ミキオ:浮いた経費はバイト代変わりにもらえるんだろ?

ヒマワリ:あの、もしかして、八塚さんーー

ミキオ:ミキオでいいよ。

ヒマワリ:あ、はい。じゃあ私もヒマワリでーー
     じゃなくて! もしかして、お金もらえるからってやる気になってません!?

ミキオ:ん? まぁ、そうだけど?

ヒマワリ:(ため息)それ、マジですか……。

ミキオ:ヒマワリさんだって、大切な大学生の夏休み消費してまでこっち帰ってきたんだろ?
    どうせなら、それなりにまとまった金持って東京帰りたくない?
    それとも、一銭にもならない駄菓子屋の店番でしてたいわけ?

ヒマワリ:それは……! まあ、みんなも助かって、バイト代もでるのはいいですけど……。

ミキオ:別に必ず成功しなきゃいけないってわけじゃないんだから、
    とりあえずやってみたってバチはあたんないだろ?

ヒマワリ:……本当に、大丈夫かな……。

ミキオ:(ニヤついて)すこーし、思いついたこともあるしな。

ヒマワリ:何をですか?

ミキオ:ほら、ヒマワリさんのワンピースの横。

ヒマワリ:へ?

 <ヒマワリの服には、ヒーローモノのシールが貼られている>

ヒマワリ:うわっ! あの子たち……! 悪戯しやがったなぁもう!


 ◆


 <五日後>
 <八万商店街・居酒屋ひのもと>

マツリ:こんちわー。

ハルオ:お? マツリちゃん。

マツリ:電気屋さん。

ハルオ:仕事終わりかい。

マツリ:そうですそうです。
    で、大将は?

ハルオ:日野ちゃんはちょいと野暮用で外してるよ。

マツリ:あっそう……自由だねえ、相変わらず。

ハルオ:瓶ビールでよければ勝手にとってくれってよ。
    ビールでいいかい?

マツリ:あー。じゃあ、お言葉に甘えて。
    喉乾いちゃって。

ハルオ:あいよ。

 <ハルオはカウンター横の冷蔵庫から瓶ビールとグラスを取り出す>

ハルオ:注ごうか。

マツリ:いえいえ! それはさすがに。自分で。

ハルオ:遠慮すんな。ほい……お疲れさん。

マツリ:はい。ありがとうございます。

 <二人はグラスを合わせる>

マツリ:(ビールを飲んで)ーーップハァ! い”きがえるぅぅ!

ハルオ:(笑って)いい飲みっぷりだなぁ。

マツリ:もぉーほんと! 飲まなきゃやってらんないですよ!

ハルオ:仕事、忙しいのかい?

マツリ:夏なんで、それなりに……。

ハルオ:いいことじゃねえか。人気商売なんだからよ。
    うちなんて、このご時世だ。暇すぎてたまったもんじゃねえよ。

マツリ:ははは……。
    ……でもべっつに……相変わらずやりたい仕事が回ってきてるわけじゃないし……。

 間

ハルオ:覚えてんなぁ。マツリちゃんが高校生のときのこと。

マツリ:えー?

ハルオ:商店街の祭りで歌って、踊って。

マツリ:あー……はい。

ハルオ:俺らは地元からアイドルが出るってんで、そりゃあもう大盛り上がりよ。

マツリ:それが今じゃ。地方FMのパーソナリティ……。
    ある仕事といえば小さなイベントの司会ばっかり、と。

ハルオ:おいおい。滅多なこというもんじゃねえぞ。

マツリ:わかってますよ、素晴らしい仕事だって。やりがいだってあるし、プライドもあります。
    けど、この歳になってみて、まだ若かった自分が描いていた理想って、あるじゃないですか。

 間

マツリ:地方アイドルとして有名になって……東京に進出して……。
    年末の歌番組とか、バンバン出て、地元には観光大使として帰ってきたりして……。
    なかなか、思う通りにいかないものですね。

ハルオ:ーーいーや。

 間

ハルオ:マツリちゃんは、まだまだ若いんだ。
    そんな愚痴吐くのは10年はええよ。

マツリ:あはは。怒られちゃった。

ハルオ:うちの商店街の麻雀大会の最中には、ずーっとマツリちゃんの番組流してんだぜ?

マツリ:(笑って)麻雀のついでですかぁ?

ハルオ:そういわねえでよ。応援してんの、おっさんらもよぉ。

マツリ:ありがとうございます。

ハルオ:俺たちも、いつまで応援してやれるかわかんねえからなぁ。

マツリ:それはーー

 間

マツリ:……うちでも、今日取り上げたんです。ニュースとして。
    赤塚君のところの会社が、商店街ごと買収するって聞いて……。
    だから、実家に帰ってきたってところも、あって……。

ハルオ:おう。
    もう、商店街の表側半分は買収に了承してる。
    もう半分は、老舗がなんとか引き止めてるが……。
    年度末までに客足が戻らなければ、買収に同意するって話だ。

マツリ:ニュースでももう、ほぼ決定みたいな話になってますもんね。

ハルオ:間違っちゃいねえよ。
    そもそも条件は悪かねえし、俺らだってギリギリの生活をしてる。
    天から垂らされた雲の糸だぁな……。

 間

マツリ:……仕方ない、っていったらそうかもしれないけどーー

ハルオ:だが。まだ諦めたわけじゃねえのさ。

マツリ:え?

ハルオ:うちの愚息も、少しはやる気になったみたいだしなァ。

マツリ:……ミキが?


 ◇


 【会議】

ヒマワリ:なるほど、確かにそれなら。

ミキオ:金もそんなにかからないし、話題性もある。
    わるくないだろ?

ヒマワリ:ええ。ただ、似たようなことを考えている人たちはたくさんいますよ。
     全てが全て、成功しているわけでもないしーー安易っていったら安易というか……。

ミキオ:……そうか。

 間

ミキオ:じゃあ別の方法をーー

ヒマワリ:ダメとは、言ってないです。

ミキオ:え?

ヒマワリ:あ。いや、ほら……何事もコンセプト次第じゃないかなって。

ミキオ:コンセプト……?

ヒマワリ:八万商店街には確かに真新しいお店もありませんし、話題になるようなスポットもありません。
     ただ、それは裏を返したら、伝統ある古いお店が多いということです。
     ですから、それを前面に押し出せるようなコンセプトで作っていくんです。
     こういうデザインで、この辺は呉服屋さんにお話してみます。
     ーーそして、持っている武器もーー


 ◇


  <後日、ヒマワリは、呉服屋の主人に話している>

ヒマワリ:すみません! じゃあ、お願いしてもいいですか?
     一応、これがデザインなんですけど……。
     絵とかあんまり得意じゃなくてーーはい! わからないところがあったらいってください。


 ◇


  <後日、ミキオは、金物屋の主人に話している>

ミキオ:わりぃな、おっちゃん。助かった。
    しっかし、流石は自称鍛治師だ。すげえかっこいいよ。
    (笑って)うるせえな! 今はただの金物屋だろ!


 ◇


 【会議】

ヒマワリ:いけるかも……。
     うん! いけるいける! いけるよこれ! ミキオさん!

ミキオ:やってみなきゃわかんねえけど、いっちょやってやろうぜ!

 <2人はハイタッチをする>


 ◆


 <一週間後>
 <八塚電気店・二階>

ヒマワリ:ミキオさん! 早速着てみてくださいよ!

ミキオ:あん? なんで俺?

ヒマワリ:いいから! とりあえず見てみたいですから!

 <数分後>

ミキオ:どうだ?

ヒマワリ:これがーー八万町のヒーロー。
     八百世帯の住民、”エイトミリオン”……!

 <ハルオは青色のタイツに艶やかな布を羽織った、ヒーロースーツを身につけている>

ミキオ:結構しっかりしてるな。ちゃんと前が見えるし。

ヒマワリ:うわー! すごいすごい! 本当に私のデザインそのまんま!

ミキオ:羽織が……動きにくいなーー

ヒマワリ:それがいいんです! ヒーロースーツと、和服の融合!
     そして武器はなんていったって刀ですからね!

ミキオ:こんな衣装……よく思いつくな。

ヒマワリ:この商店街って、昔はお侍さんが集まる問屋街として有名だったらしくて。
     だったら、侍の商店街ーーなんてイメージつけちゃえばいいのかなって。

ミキオ:へえ……ずっと住んでんのに知らなかったぜ。

ヒマワリ:なんていうか。私、実家は他県にあるんです。
     だから、この商店街って祖父と祖母に会いに、夏休みとかにくるくらいで。
     それで、小さい時に街の資料館で読んだことがあるんです。

ミキオ:しかし、かっこいいはかっこいいけど……なんか。

ヒマワリ:なんですか?

ミキオ:ちょっと……悪役っぽくないか?

ヒマワリ:そ、それは! ……なんていうか、趣味、です。

ミキオ:……趣味?

ヒマワリ:悪役の方が好きなんです! こう、なんていうか……悪いですか?

ミキオ:いや、全然。俺もそっちのほうが好み。

ヒマワリ:ですよね! やっぱり悪役のほうがカッコいいですよ!
     第一ヒーローなんてーー
     ……なんですか? その顔……。

ミキオ:……いや、別に……。

ヒマワリ:……ひかないでくださいよ……。

ミキオ:別にひいてるとかじゃねえって。
    ……で、どうする?

ヒマワリ:どうする、って?

ミキオ:いやだから……こいつを誰かに着せて、なんて、その、すんだろ?

ヒマワリ:……何も、考えてない、とか?

 間

ヒマワリ:(ため息)ほんっとにもう……。

ミキオ:いや……わりぃな……。

ヒマワリ:……中に入ってくれる人は、私が探します。
     他にも色々……ミキオさんはそれまで、街の人たちに受け入れてもらえるようにしてください。
     最初は、ゴミ拾いとかからでいいですから。

ミキオ:は? もしかして、俺が中にーー

ヒマワリ:いいですね! お願いしますよ!


 ◆


 <翌日・八万商店街>
 <セイトはサングラスを押し上げながら商店街を歩いている>

セイト:ふむ……。

ユミエ:どうかなさいましたか。社長。

セイト:いや、暑いな。

ユミエ:誰にでもわかることをわざわざありがとうございます。
    入り口に車は回してありますが、いかがなさいますか。

セイト:このデリケートな時期に車で往来など、イメージが悪いと言ったのは君ではなかったか。

ユミエ:今は、私だけ車で待っていたいという意思表示でした。
    まあ、社長の脳みそではわかりっこありませんでしょうが。

セイト:そうはいうが、君も一度、休日の雰囲気を見たいといっていただろう。

ユミエ:それは、まあ……。

 間

ユミエ:……かわんないわね。

セイト:ん?

ユミエ:いえ……。

セイト:別にいい。崩したまえ。
    というより……いつも君は崩しているがな。

ユミエ:なんていうか。驚くほどに変わんないなって、ね。
    入り口の方は入れ替わりも激しいけど、奥の本はほんっと昔のまんま。

セイト:確かに。変わらないな。

ユミエ:あーほら。ムラカミ商店。

セイト:懐かしいな。

ユミエ:あいつの家にいく前にさ。
    よく寄ってったよね。肉まんとか、ポテチとか買って。

セイト:ラムネが安かったな。

ユミエ:そうそう! あんた、ビー玉みたの初めてでさ。
    私らから買い取ろうとしたよね。

セイト:そうだったか?

ユミエ:そうそう。ほんっと、金持ちって発想キモいわーって思ったもんね。

 間

セイト:やはり、客足はそう多くないが、独特の活気がある。

ユミエ:まあ、昔ながらの商店街って感じだわね。

セイト:……だからこそ。

ユミエ:だからこそ、何よ。

セイト:だからこそ。俺は、この商店街を救わなくてはならない。

ユミエ:救う、だって。
    (微笑んで)……ほんと、キモいわ……あんた。

セイト:……そうか。

ユミエ:あれ? 空き地の方、人集まってない?

 <空き地に人だかりができている>

ユミエ:バザーかなんか?

セイト:いや、違うな。

ユミエ:……あれはーー



少年:オイ! ミキオ! いいからそれ貸してよ!

エイトミリオン:ミキオじゃねえっていってんだろ! つーか離れろマジで!
        あちーんだよ!



セイト:……なんだ、あれは……?

ユミエ:なんかの出し物ーーっていうか、今、ミキオってーー



エイトミリオン:俺は! 八万を守るヒーロー、エイトミリオンだっつってんだろうが!

少年:なあミキオ!

エイトミリオン:ミキオ言うな! なんだよ……!

少年:八百屋のおっちゃんがこれ! スイカ割ってくれってさ!

エイトミリオン:はぁ!? おい、おっちゃん! なんでそんなことーー
        いや! 親指立てられても意味わかんねえって!

少年:その棒で割ってよー! なあなあ!

エイトミリオン:だぁかぁらぁ! これは……! なんだっけな……八万の人の力を集めてどうたらこうたらした……。
        ったく……! ヒマワリさんの設定ややこしいんだっつの……!



ユミエ:(吹き出して)ぶっ……くくく……! あははははは!
    あいつ何やってんのよ! ほんっとおかしい!

セイト:……ミキオ、なんだな。

ユミエ:何言ってんのよ。どう見たってあいつでしょ、あの言葉遣い。

セイト:……ああ、あいつだ。間違いなく。

ユミエ:……そっか……。あれ以来、ダメになったって聞いてたけど……。
    (微笑んで)少しは、まともな顔するようになってるみたいね。

セイト:ふ。

ユミエ:ん?

セイト:ふふふ、はははははは!
    そうかそうか! それでこそお前だ! 八塚ミキオォ!
    この俺が生涯のライバルだと認めただけはある!
    やはり、お前は俺の前に立ちふさがるのだな!

ユミエ:はぁ? いや……なんでそんなに喜んでるわけ?
    少しだけ立ち直ったってだけでしょ。

セイト:いや。間違ってるぞ、島村秘書。
    お前の見通しは、今回ばかりは間違っている。

ユミエ:……どういうこと。

セイト:商店街が最後の力を振り絞って客を取り戻そうとしている。

ユミエ:まあ、想像はできたことね。
    あの衣装を見る限り、この商店街の根底にある侍街(さむらいまち)文化を取り入れてるし、
    目の付け所は悪くないわ。
    ただ。キャラクターもので町おこし、なんてそれこそありきたりにもほどがあるし、
    年末までに集客を目に見えて増やすのは、現実的に考えて不可能よ。

セイト:だから、その見通しが間違っているといっている。

ユミエ:ムカついた……納得のいく説明がなければ、ど突くわよ。



少年:ミキオー! 前! 前!

エイトミリオン:なんで覆面の上から目隠ししなきゃいけねえんだよ……!
        おい! 次、どっちだ!

少年:右だ! 右!

エイトミリオン:いいかクソガキども! ぜってえ離れてろよ!
        怪我したらぶっとばすからな!



セイト:俺たちの知っている八塚ミキオという男は、いつだって俺たちの予想を覆す。
   (微笑んで)本気になったあいつは、怖いぞ。

ユミエ:言いたいことはわかるけど……納得のいく説明じゃないから。
    (セイトの頭をど突く)ふんっ!

セイト:いったー!




少年:割れたー!

エイトミリオン:おっしゃー!


 ◆


 <半日後>
 <八塚電気店・二階 ミキオはエイトミリオンの衣装を脱ぐ>

ミキオ:っだぁー! あっつー!

ヒマワリ:お疲れ様です。あ、飲み物ここに置いておきますね。

ミキオ:サンキュー……。
    (飲み物を飲んで)しっかし……マジで、地獄だ……。ほんっと地獄……。

ヒマワリ:ねえねえ! これ! 見てくださいよ、ミキオさん!

ミキオ:あー? 何ー?

ヒマワリ:(携帯を見せて)これ!

ミキオ:……商店街に現れたヒーローが、なぜかスイカ割りをしてた、わらい。

ヒマワリ:動画なので……再生しますね。

ミキオ:え? はぁ!? これ、昼間の!

ヒマワリ:結構拡散されてるんですよ! これ! すごくないですか!?

ミキオ:いや、マジかよ。なんかみんな持ってるとは思ってたけど……!
    ネットに上げられてたのかよ、こえー……。

ヒマワリ:見てください! コメントもついてますよ! これ、どこなのーとか。
     何者なのーとか!

ミキオ:いや、それよりもツッコミどころあんじゃないの……?

ヒマワリ:何がですか?

ミキオ:ほら……なんか色々設定練ってくれただろ?
    クールな侍ヒーローで、とか……いろいろさ。

ヒマワリ:ああ。そんなのどうでもいいです。

ミキオ:いいのかよ……! すげえ頑張って覚えたのに……!

ヒマワリ:何も設定がないよりはいいってくらいですし、人気がでればなんでもいいです。

ミキオ:さいですか……。

ヒマワリ:それに! ミキオさんって口が悪いじゃないですか!

ミキオ:は?

ヒマワリ:ほら! 動画にも乗ってるんですよ!
     「ヒーローにあるまじき言葉遣い、ワロタ」とか「完全にチンピラですありがとうございました」とか!

ミキオ:そいつら、叩き斬ってもいい?

ヒマワリ:いいじゃないですか! ヒール感があって!

ミキオ:ヒーロー、なんだよな。一応……。

ヒマワリ:自称ヒーローってことにしましょう。うん。その方がいい。絶対。

ミキオ:なんじゃそりゃ……。

ヒマワリ:それにしても……この動画、本当にありがたいです。
     これで、ちょっと説得力が増すかなって。

ミキオ:説得力?

ヒマワリ:はい。実は明日、打ち合わせなんです。

ミキオ:打ち合わせって、なんの?

ヒマワリ:ひながたFMさんに、紹介してもらうんです!
     エイトミリオンを!


 ◇

 <三日後>

 ◇


 <赤塚コーポレーション・社長室>

ユミエ:社長……時間になりましたが、いかがなさいますか。

セイト:ああ。つけてくれ。


 ◇


 <ふくい八百屋・二階 通称麻雀部屋>

ハルオ:時間だ! 静かにしろ!

 間

ハルオ:気張れよぉ……バカ息子……!


 ◇


  <ひながたFM>(ここだけ笑うところを(w)で指示してあります)

マツリ:さあ、ひながたFMからヨロズ地域を中心にお送りしております、『関マツリのお祭り騒ぎ』
    改めましてこんにちはこんばんは! 関マツリでーす!
    ここからは、ヨロズで起きた出来事を中心にニュースを取り上げて行こうってコーナーなんですけど……。
    そういえばみなさん、知ってますかー? 最近ネットで話題になってる動画!
    すっごーく流行ってるってわけじゃないんですけど、私が見たときには結構盛り上がってたのー!
    『ヒーローがスイカ割りしてる』ーって、どこかで聞いたことない?
    とある商店街で取られた動画が話題になってたんだけど。 私も見たとき思わず笑っちゃった!
    動画の内容としては、商店街の空き地で謎のヒーローが子供たちに囲まれてて、
    急に渡されたスイカで、スイカ割りをしてるって動画なんだよね!
    それだけ聴くと、何それ? って思うよね。うん。私も思うもんw
    でもそれがすっごい面白くて! それを撮った動画が、アップされたってことなんだけどねー。
    なんでそんな話するかっていうと、実はそのヒーローさん。八万町(はちまんちょう)の商店街のヒーローさんなの!
    知ってる人もいるかもしれないけど、私、関マツリ、八万町出身なんです。
    すごくないですか!?w これ、本当びっくりしたんだけどね! 偶然なんです!
    そしてそして、今日はそれだけでは終わらないんですよ! じつはね、そのヒーローさん、今日、来ていただいてます!
    わー! ぱちぱちー! これは前代未聞だよ! ヒーローなんて初めてくるもん!
    私オープニングから結構緊張してたからね、本当に!w だからトークでもヒーローさんに助けてもらおうかなってw
    だめですか?w そうですよね。それでは、登場していただきましょう!
    八万町のヒーローさん、『エイトミリオン』さんでーす! 拍手ー!

エイトミリオン:……うっす。

マツリ:wwwうっすってー! ちょっと入りがおかしすぎますよー!

エイトミリオン:あ、すんません。

マツリ:フランクだなー! とんでもないくらいフランクですね!w

エイトミリオン:いや、マジでこういうの初めてで、よくわかんないし。

マツリ:そういうときのために台本があるんでしょうがー!

エイトミリオン:台本とか、俺そういうのいらないんで。

マツリ:自然体すぎますって! どんなヒーローですか本当!w

エイトミリオン:あれ? なんか、台本とか読んだ方がいい?

マツリ:ちょっと! 本番中に打ち合わせしないでw

エイトミリオン:偉そうな人がいいって言ってるみたいだけど。

マツリ:偉そうな人って!w プロデューサも笑ってるしw

エイトミリオン:いや、多分ヒーローの方が偉いと思うし。

マツリ:あんたスイカ割りしてただけでしょ!w いや……あんたっていっちゃったよ。
    アイドルに何言わすんですか!
    っていうか、動画のコメントで何書かれてるか知ってます?

エイトミリオン:匿名のコメントとか興味ねえっす。

マツリ:はいでたー! 言われてますよー! 毒舌ヒーローだって!w
    噂に違わないですねぇーー

エイトミリオン:さて、ではエイトミリオンさんについて色々と聞いてーー

マツリ:それは私の台本です!www勝手に読まないの! 大人しくしてて! ほら! おすわり!

エイトミリオン:すみません、じゃあ2ページまで携帯見てていいかな。
        ネットの反応気になるから。

マツリ:ダメです! なんでいいと思ったんですか!
    っていうか興味ないとか言っておいてバッチリ気にしてるんじゃないですか!
    えー、いいですか、おとなしく聞いててくださいね!
    エイトミリオンさんは、自称! 侍ヒーローだとw
    衣装の凶悪さもかなり話題になってますがーー


 ◆


 <赤塚コーポレーション・社長室>

セイト:……どう思った。

ユミエ:それ、どういう目線で答えればいいわけ?

セイト:島村ユミエ個人としては。

ユミエ:……面白いわよ。あいつらしい、というか。
    マイペースで他人の目線なんて気にしてないし、緊張とかそういうのも感じない方だしね。
    昔から話は上手かったから、これくらいのやりとりはできて、不思議じゃない。

セイト:俺の秘書、島村ユミエはどう思う。

ユミエ:たかだか地域FMでしょーーとは思ってたけど。
    ……厄介ね。多分、人気出るでしょうし。
    ただしーー

セイト:一過性のものになる、か。

ユミエ:ええ。間違いなく。

セイト:面白いんだ。確かに。あいつは面白いやつだ。
    だから、あいつの周りにはたくさん人が集まる。
    ……だが、それだけでは、金にはならない。

 間

セイト:金で買えないものはあるかもしれない。
    だが、金でしか救えないものがあるんだよ。わかってるだろ、ミキオ。


 ◆


  <その日の晩 八万商店街・居酒屋ひのもと>

ハルオ:おい! もっと飲めよ! お前よぉ!

ミキオ:うるっせえ! 飲みすぎなんだよ!
    暑っ苦しいから絡んでくんな!

ハルオ:いやぁよぉ! お前もっとあれだぁ!
    もっとかっこいいこと言わなきゃいけねえわな!
    あれじゃあそれこそ、若い子の人気がでねえしよぉ!

ミキオ:はいはいわかったって……! 俺もう帰るから!
    中田のおっさん! 親父潰れたらあとで電話して!

ハルオ:おいどこいくんだよバカ息子! ……あー! つーか酒ぇ! もっとくれ!

 <ミキオ・店の外に出る>

ミキオ:(ため息)

ヒマワリ:あ。

ミキオ:……おう。どうした、こんなとこで。

ヒマワリ:え? ああ、いや。
     ちょうど、ラジオの方の打ち上げが終わって、帰りです。

ミキオ:そうか。お疲れ……つーか、まかしちゃって悪かった。
    俺、そういう飲み会みたいなの、苦手でさ。

ヒマワリ:いえ。でも、すごく反響があったみたいで、いろんなお話いただきました。
     また、出してもらえるみたいですし。

ミキオ:マジかよ……。あんなんでよかったのか。

ヒマワリ:(微笑んで)そりゃあ、いいに決まってます。
     面白かったですから、本当に。

ミキオ:そうか。わかんねえな、俺には。

ヒマワリ:そういうところかなー。

ミキオ:まあ、ヒマワリさんがいいなら、それでいいわ。

 間

ヒマワリ:あの。

ミキオ:ん?

ヒマワリ:いや、なんていうか……。

 間

ミキオ:なんかあった?

ヒマワリ:そういうわけじゃないですけど。ほら。
     今日のラジオのパーソナリティさんの。

ミキオ:マツリさんか?

ヒマワリ:はい。地元の先輩だって聞いて。

ミキオ:ああ……学校も一緒だしな。

ヒマワリ:ええ。それは、聞いたんですけど。

ミキオ:そっか。

ヒマワリ:それで、あの……。

 間

ヒマワリ:私、ミキオさんのこと、そういえばあんまり知らないなーって。思って。

ミキオ:俺のこと?

ヒマワリ:私はほら、この街の人間じゃないし。
     でも、ミキオさんのこと、みなさんはよく知ってて。

ミキオ:それを言うなら、ヒマワリさんのことだってよく知らないけど。

ヒマワリ:私のことは、いいんです。今の所!

ミキオ:いやいや……。

ヒマワリ:ミキオさんが自分のことあんまり話さない人だっていうのは、私もわかりますけどーー

ミキオ:いいよ。

ヒマワリ:え?

ミキオ:別に俺のことなんて聞いても面白くないと思うけど、聞きたいことがあったら答えるよ。

ヒマワリ:……じゃあ……。

 間

ヒマワリ:あれ……?

ミキオ:ん?

ヒマワリ:いや……いざとなると、何を聞いたらいいのかわからなくって。

ミキオ:(吹き出して)なんだ、それ。

ヒマワリ:笑わないでくださいよ! なんだろ……こういうの、私も慣れてないから……。

ミキオ:別に、いいんじゃねえの。

ヒマワリ:なにがですかぁ……もう……。

ミキオ:そいつがどんな人間かなんて、言葉にしたってわかんねえと思う。
    何が好きかとか嫌いかとかで、付き合い方が変わるわけじゃないし。

ヒマワリ:そりゃあ……そうですけど……。

ミキオ:俺はさ、ヒマワリさんのことはよく知らないけど、すげえ信用してるよ。
    ーー相棒としてさ。

 間

ヒマワリ:相棒とか、やめてください。恥ずかしいんで。

ミキオ:人が頑張って言ったのに……そういうこというか?

ヒマワリ:(小さく笑って)でも、そうですね。
     きっと私が知りたかったのは、そういうことだったのかも。

ミキオ:……どういうことよ。

ヒマワリ:そういうとこですよ。

 <ヒマワリは拳を突き出す>

ヒマワリ:やるからには行けるとこまで盛り上げてやりましょう。共犯者さん。

ミキオ:……そういうの、好きな。君。

 <二人は拳を合わせる>


 ◆


 <一週間後>


 ◆


 <遊園地グッドワールド・野外ステージ控え室>

ミキオ:……なんでヒマワリさんの方が緊張してんの。

ヒマワリ:え?

ミキオ:気づいてないかもしんないけど、貧乏揺すり、半端ない。

ヒマワリ:別に、緊張はしてないですけど。私がでるわけじゃないですし。

ミキオ:は? じゃあなんで?

ヒマワリ:好きなんですよ! ジーダブ!
     ずっと来たくって! 今日ほら、フリーパスもらったじゃないですか!
     しかも関係者用だから、ショートカットで乗れるし!
     イベント終わってから回るとしたらどこ行こうかなってーーあれ? ミキオさん聞いてます?

ミキオ:あーはいはい聞いてる。

ヒマワリ:ミキオさんはテンションあがらないんですか!?

ミキオ:いや……遊びにきてるわけじゃねえしな……。
    30分後には出番だし。

ヒマワリ:そりゃそうですけど……。
     (間)
     あの、終わったらちょっとくらい一緒にーー

 <控え室を誰かがノックする>

マツリ:失礼しますー! 入ります!

ヒマワリ:あ、どうぞ!

マツリ:どうもー関マツリですー!
    本日はよろしくお願いいたします!

ミキオ:どうも。

ヒマワリ:よろしくお願いします!

マツリ:ミキ! ヒマワリちゃんも、一昨日ぶり!
    ねえミキ、見た? 私のアカウントのフォロー人数!

ミキオ:いや、見てないっす。

マツリ:1万人増えたの1万人! すごくない!? ふふーん!

ミキオ:あ。今見たらエイトミリオンのアカウント、マツリ先輩の倍以上いますね。

ヒマワリ:またそういうことをーー

マツリ:そういうこというかね……。
    でもー! 実際、私の番組出てからヒットしたわけじゃない?
    お互いにー。

ヒマワリ:た、確かにそうかもしれないですね。
     あの後の反響すごかったですから。

マツリ:でしょでしょー? それで今日のトークショーも決まったわけでぇ。

ミキオ:完全にエイトミリオンに乗っかる気でしょ……先輩。

マツリ:あ、わかっちゃう?

ミキオ:っていうか、少し打ち合わせしろって言われてるんすけど。

マツリ:あー、そっか。まあ、ミキとだったら別にフリーでもいいと思うけど。

ミキオ:一応約束事があるみたいなんで。

マツリ:ほぉー、流石にでかいものには巻かれるわけだ。

ミキオ:地域FMだったら気にしないっすけどね。

マツリ:(笑って)いったなー!

ヒマワリ:あの!

ミキオ:ん?

ヒマワリ:あ。いや。私、ステージの方、見てきますね。

ミキオ:おう。わかった。

マツリ:またあとでねー! ヒマワリちゃん!
    ……っていうかさーー


 <ヒマワリは控え室を出る>


ヒマワリ:(ため息)……なんか、いやだな。


 ◆


 <グッドワールド・野外ステージの客席>

ハルオ:セイトくんじゃねえか。

セイト:え?

ハルオ:元気かい。

セイト:おじーーいえ、八塚さん。

ハルオ:いまは仕事中じゃねえんだろ。
    おじさんでいいよ。

セイト:……はい。お久しぶりです。おじさん。

ハルオ:確かに、説明会には言ってねえもんなぁ、俺。

セイト:出てもらえないですか。とは、言えませんね。
    仕事中じゃないんですから。

ハルオ:そうさな。そりゃ野暮ってもんだ。
    ただでさえ、遊園地なんだからよ。
    で、どうした。ミキオに会いにきたんじゃねえんだろ?

セイト:仕事ですよ。
    今日は夏のイベントで花火をあげるので、その話し合いに。

ハルオ:いやぁ、立派なもんだな。
    話し合いとやらはもう終わったのか?

セイト:実は、島村さんに任せて出てきてしまいました。
    どうしても気になってしまって。

ハルオ:ははは! ユミエちゃんも気の毒に!

セイト:むしろ、邪魔だからどっかいってろ、と。

ハルオ:そうか。なんだか思い出すナァ。

 間

セイト:ミキオは、どうしてますか?

ハルオ:どうって、どういうことだい?

セイト:いや、なんというか……。

ハルオ:そうか、あれ以来話してねえんだな。お前ら。

セイト:……はい。

 間

ハルオ:ガキにはよぉ。ガキなりのやりかたがあんだろう。
    俺ぁなんも言わねえよ。

セイト:ガキ、ですか。

ハルオ;ガキだよ。俺に言わせりゃ。大企業の社長だろうが、ニート崩れのバカ息子だろうとな。
    お、ヒマワリちゃん。

ヒマワリ:あ。ハルオさん! 来てたんですね!

ハルオ:そりゃ招待してもらったんだ。
    商店街、総出で応援に来てるぜ。

ヒマワリ:もう! それでお店閉めてちゃ意味ないですって。

ハルオ:あー、この子は伊藤さんとこのお孫さんのヒマワリさんだ。

ヒマワリ:あ。どうも、伊藤ヒマワリです。

セイト:あなたが……そうか。

ヒマワリ:え?

セイト:お名前は存じていますよ。お会いできて光栄です。
   僕は、赤塚セイトといいます。

ヒマワリ:どうも……どうしてーーって、え? 赤塚、さん?

セイト:赤塚コーポレーションの社長をしています。

ヒマワリ:は、はひ……ど、どうも。

セイト:あなたがミキオにあれを着せたのは知っています。
   そもそもどういうビジョンであのーー

ハルオ:おいコラ。

セイト:は、はい。

ハルオ:ここじゃ仕事の話はなしっつったろ。
    昔みたいに泣かすぞ、クソガキ。

セイト:す、すみません! つい……。

ハルオ:つーわけで、仲良く一緒に見るんだな。
    俺はトイレいってくるからよ。

ヒマワリ:あ。もう始まりますよ!?

ハルオ:ここ酒売ってるもんで、いっぱい引っ掛けちまったのよ!

ヒマワリ:あ、ええ!? ……あーもう……!

セイト:改まして。

ヒマワリ:は、はい!

セイト:俺は、赤塚セイトです。

ヒマワリ:あの、はい……。

セイト:そんなに緊張しなくていいですよ。
    今の俺は、おじさんに泣かされてた、ハルオの元同級生ですから。

ヒマワリ:元、同級生、ですか。


 ◇

マツリ:はーい! どうもみなさんこんにちわー。

エイトミリオン:うっす。

マツリ:ひっくー! 低いってほら! 遊園地グッドワールドなんだからさ、テンション上げて!

エイトミリオン:うーっす。

マツリ:伸ばしてるだけじゃなっすか……。
    っていうか前提として、ヒーローショーなのにまぁた戦わないからね! この人!

エイトミリオン:いや。そもそもトークショーでブッキングされてたし。

マツリ:はい、ブッキングとかいわない! ほんっと適当だよねぇ、エイトミリオン。

エイトミリオン:別にトークとかじゃなくて色々やってるんだけどさ。

マツリ:例えば何?

エイトミリオン:……スイカ割り?

 (笑い声)


 ◇


セイト:やっぱり、今日はトークショーなんですね。

ヒマワリ:え?

セイト:いや。ヒーローショーって聞いていたから、戦うのかと思っていてね。

ヒマワリ:あ、はい。でも、トークに需要があるみたいで。

セイト:そうだろうな。

 間

セイト:仕事の話ではなく、いち視聴者として話をさせてもらってもいいかな。

ヒマワリ:え。

セイト:ヒーローって、なんだろう。そう、思うんだ。俺は。

ヒマワリ:ヒーロー、ですか。

セイト:確かにエイトミリオンは面白い。でも、それは中に入ってる人間の面白さと、
    ヒーローであるという矛盾が産み出したギャップにすぎない。
    ではヒーローとは一体何か。覆面を被って、スーツを着ていればヒーローなのか。

ヒマワリ:それはーー

セイト:一人で立てるヒーローなど存在しない。
    倒すべき敵がいて、助けるべき人々がいて、はじめてそこにヒーローという概念が現れる。
    だがあいつを見てみろ。あいつは一人であそこに立っている。

ヒマワリ:一人でって、どういう意味でですか。

セイト:そのままの意味だよ。
    今のあいつは、確かにヒーロースーツを着ている。
    デザインは素晴らしい。侍というコンセプトも悪くはない。
    だがーーそれがたとえなんだったとしても、あいつはあそこに立っているだろう。
    例え、君が協力しても、していなくてもな。

ヒマワリ:それは!

セイト:すまない。だが、本当に思っていることだ。
    君自身感じているだろう。あそこにいるのは八塚ミキオというただのタレントにすぎない。
    そして、君もそんなやつをただステージに上げているだけだ。
    それでは赤塚コーポレーションには勝てない。

ヒマワリ:……別に勝負じゃないですし。

セイト:違うのか? エイトミリオンの目的が、八万商店街に人を戻すことだろう?
    それは間接的にだが、俺の会社と戦うということではないのか?

 間

セイト:君はどうも勘違いしている。
    俺はいたずらに商店街を取り壊そうとしているわけではない。
    むしろ、今の八万商店街に必要なものはなんだ?
    ーーそれは、金だ。

 間

セイト:俺はそれを持っている。
    だがーーエイトミリオンは、金にならない。
    それで、ヒーローだと言えるのか?

ヒマワリ:お金、にーー


 ◇


エイトミリオン:金で買えないものはない。


 ◇


ヒマワリ:え?


 ◇


エイトミリオン:っていうヒーロー、今流行ってるんだろ?

マツリ:あー! マネーロンダラーさんだよね! 人気だよねー。

エイトミリオン:なんか面白そうだなーって思って、俺も観たんだよね。

マツリ:ヒーローの先輩だもんね。

エイトミリオン:俺は、あんまりだったわ。

マツリ:あー! ダメダメ! それは禁止でしょ!
    絶対あとで炎上するって!

エイトミリオン:違う違う。すげえ、かっこよかったんだよ。
        でもあいつってさ、金持ちじゃん。
        あんまり参考にならなかったって話。

マツリ:なーんか言い訳くさいなぁ……。

エイトミリオン:生きるのには金がいる。
        でも、金がなくても生きている人間だって山ほどいる。
        俺みたいなエセヒーローとかな。
        まあ、不器用なりに金を稼ぐために生きているって言われりゃそれだけかもしれないけどさ。
        それでも、欲しいもんはーー

 間

マツリ:エイトミリオン?

エイトミリオン:欲しいもんは金で買えるけど、金そのものが欲しいわけじゃねえだろ。
        マネーロンダラーは最後に金を配って颯爽とさってくけど、別にその行為事態に救われてるわけじゃねえし。

マツリ:それは……ノーコメントで。

エイトミリオン:ヒーローは平和を守る。
        じゃあ、平和って何って考えたら、悪役がいないと成り立たないじゃん。
        だったら、俺みたいなのがヒーローって名乗ってもいいかなって。

マツリ:……つまり、自分が悪役だっていってる?

エイトミリオン:まぁ、俺を産み出した博士は、俺をヒールだって言ってるよ。

マツリ:まぁた面倒臭いことを……本当、知らないからね。私は言ってませんからね!

エイトミリオン:オイーー覚悟しとけよ。

マツリ:え? いや、どこ指差してんの?
    お客さん指差すのやめなさい!

エイトミリオン:いや、金持ちそうだったから。

マツリ:ただの嫉妬で指差すんじゃないーー


 ◇


ヒマワリ:だ、そうです。

セイト:あいつ……俺に気づいていたのか。

ヒマワリ:赤塚さん。一つだけ、いいですか?

セイト:何かな。

ヒマワリ:私。別にこれ、仕事でやってるわけじゃないんで。

セイト:そう、なのか。

ヒマワリ:普通に大学生ですし。これは頼まれてやってるだけですし。

セイト:それはーー

ヒマワリ:でも、本気なんです。

 間

ヒマワリ:いえ、いまの、嘘です。
     ……本気に、なってきちゃってるんです。
     充実してきちゃってるんです。楽しくなってきちゃってるんです。
     悪いですか? 子供の遊びに見えますか?
     お金の話をしたら、怯むと思いましたか?
     その通りです。すごく怖いです。
     でも、楽しくて。でも、怖くて……。

 間

ヒマワリ:わかんないんです。自分でも。
     なんでこんなことになってるのか……。

 間

セイト:これは本当に、一人の男のアドバイスだと思ってほしい。

ヒマワリ:なんですか……。

セイト:もう。やめたほうがいい。

 間

セイト:君はもう。自分の世界に帰るんだ。

 間

ヒマワリ:……そっか。

 間

ヒマワリ:なんていうか、セイトさんと話していて、
     ミキオさんのこと、少しわかりました。

セイト え?

ヒマワリ:あの人、最初に商店街を盛り上げるって話を押し付けられた時、やる気、なかったんです。
     そのあと、宣伝費の余った分がもらえるからって、引き受けてーー
     でも、そうじゃなかった。
     覚えてるんです。赤塚さんの名前を出した瞬間、変わったんです。

セイト:俺の、名前を。

ヒマワリ:(吹き出して)……ふふふ、ははははは!

セイト:伊藤さん?

ヒマワリ:……そっかぁ。だから私ーー

 間

ヒマワリ:ーーだから私、ミキオさんのこと、好きなんだ……。

セイト:君はーー

ヒマワリ:でもって、赤塚さんって、ヒーローなんですよ。

セイト:俺が、ヒーロー?

ヒマワリ:はい。だから、嫌いなんです。



セイト:(笑って)そうか……なぜだかはわからないが。俺は今、君のことをーー
    敵だと感じている。

ヒマワリ:ええ。覚悟していてください。

セイト:ああ。叩きのめしてやる。
 
ヒマワリ:あ。そうだ。ハルオさんに、チクリますから。

 間

セイト:……え?

ヒマワリ:赤塚さんにいぢめられたって、チクりますから。
     絶対、チクりますから!

セイト:いや、すまない! そういうつもりじゃなくてーー

ヒマワリ:じゃあ! 言わない代わりに。

セイト:な、なんだ?

ヒマワリ:教えてもらっていいですか。

セイト:何を、かな……。

ヒマワリ:ミキオさんのーー4年前の話。詳しく。



 ◆


 <遊園地グッドワールド・野外ステージ控え室>

ミキオ:あーあっつ……。

マツリ:あっつーじゃないっての!
    ほんっと、お客さん入ると手つけらないね!

ミキオ:いや、別に大したこと言ってないでしょ。

マツリ:(笑って)こんなこといってるし。

 <マツリは机に肘をついて扇風機に当たるミキオを見ている>

マツリ:ねー、暑くないの?

ミキオ:暑いっていいませんでした。今。

マツリ:そうじゃなくて。ほら、剣道の防具で慣れてるとか。

ミキオ:……あー。

マツリ:あーって……。

ミキオ:言われるまで気づきませんでした。
    なんか懐かしいとは思ってたんすよね。

マツリ:いやいや……忘れるようなことじゃないでしょ。

 間

マツリ:それとも、忘れた?

ミキオ:……何がっすか。

マツリ:剣道のこと。

ミキオ:いや、別に。

マツリ:聞いたら、まずかった?

ミキオ:いえ、別に。

 間

マツリ:私、結構嬉しかったんだよ。あれ。

ミキオ:あれ、ってなんですか。

マツリ:……言わせるのはなしね。
    忘れてるわけ、ないだろうしね。

ミキオ:どんな自信っすか。

マツリ:これでもアイドルだかんねー自信はありありよ。
    ……それに、今はよくわからないけど、あの頃のミキなら知ってる。

 間

マツリ:「全日本選手権連覇したら。俺と付き合ってくれませんか」

 間

マツリ:私まだ、答え、言ってなかったよね。

ミキオ:……4年も前の話ですよ。

マツリ:勝手に逃げたくせして何言ってんの。

ミキオ:それはーー

 <ヒマワリが入ってくる>

ヒマワリ:失礼します。

ミキオ:あ。

マツリ:お疲れ様ー! ヒマワリちゃん!

ヒマワリ:お疲れ様です。

ミキオ:うっす。

マツリ:ねえねえどうだった! 私たちのステージ!

ヒマワリ:まぁ、及第点ですかね。

マツリ:かー! 辛口だなぁ……!

ミキオ:今日は、これで終わりだよな。

ヒマワリ:あ、はい。それで、ミキオさん、この後って何か予定あります?

ミキオ:この後? いや、特に予定はねえけどーー

ヒマワリ:じゃあ! 私と遊びに行きましょ。

ミキオ:は? まあ、いいけど。

マツリ:えーじゃあ私もーー

ヒマワリ:2人で! 反省会も兼ねて!

マツリ:……こんにゃろ……。

ミキオ:反省会なんて、やったことなくねえ?

ヒマワリ:今日のトークイベントは絶対、ネットでニュースになりますよ。
     マネーロンダラーを批判したツケは払わないといけないですよ。確実に一部からは叩かれると思いますし。
     でも、注目されているからこそ、ここで攻めないと。

ミキオ:お、おう。じゃあ、着替えるから待っててくれるか。

ヒマワリ:はい! わかりました!
     マツリさんも、すみません……!

マツリ:いやぁ、そういうことなら全然いいよぉ〜。

ミキオ:じゃ、俺も更衣室いってきますわ。

マツリ:あ、そう……。

ヒマワリ:じゃあ、失礼します。お疲れ様でした。

マツリ:はいはーい。

 <2人は控室を後にする>

マツリ:(苦笑い)……くっそ、楽勝だと思ったんだけど……。
    こりゃあ、自覚したかな。



 ◆


 <グッドワールドを走る2人>

ヒマワリ:ミキオさん! 早く早く!

ミキオ:どこ向かってるわけ!?

ヒマワリ:決まってるじゃないですか! 話題のホラーモーテルです!

ミキオ:どんな話題よ!

ヒマワリ:なんか、2人で乗ると、恋愛が成就するんですって!

ミキオ:それ、俺らに意味あんの!?

ヒマワリ:いいから! 走って!


 ◆


ヒマワリ:バック・ハンガー・リミテッドは……ダメだ……。
     ぎもちわるい……。

ミキオ:ほら、水買ってきたぞ。

ヒマワリ:ありがとうございます……。

ミキオ:いや……いいからベンチに座ってろって。

ヒマワリ:……なんでミキオさん、平気なんですか?
     あんな激しいアトラクションだったのに……。

ミキオ:いや、上下するだけだし。


 ◆


ヒマワリ:ハッピーハッピージャングル、どうでした?

ミキオ:いや……なんかキモい。

ヒマワリ:はぁー!? あんなに可愛いのにぃ!?

ミキオ:だって、鳥が踊ってるとか、あり得ないだろ。

ヒマワリ:次いきますよー! 次!


 ◆


 <辺りはすっかり夜>

ヒマワリ:いやー! 乗りましたね!

ミキオ:……あのさーー

ヒマワリ:ストーップ! 今、何言おうとしてるかわかったんで。

ミキオ:へえ。何?

ヒマワリ:え? いや……。反省会してないじゃんとか、連れ回し過ぎとか、なんか……!
     ……まあそんなことです、よね?

ミキオ:(吹き出して)残念。外れ。

ヒマワリ:え? じゃあーー

ミキオ:俺が言おうと思ったのはさーー

 <ミキオは指を指す>

ミキオ:俺、アレ乗りたいんだけど。

ヒマワリ:え? 観覧車?

ミキオ:今、空いてんだろ。ほらーー

ヒマワリ:あ、ちょっと!


 <2人が乗り込んだ観覧車はゆっくりと上っていく>


ヒマワリ:……。

ミキオ:……。

 間

ヒマワリ:……。

ミキオ:……。

 間

ヒマワリ:……あの。

ミキオ:ん?

ヒマワリ:……いえ。

 間

ミキオ:前から好きなんだ……。

ヒマワリ:……え?

 間

ヒマワリ:え……? え? えー……!

 間

ヒマワリ:あのー……つかぬ事をお伺いしますが……。

ミキオ:おう。

ヒマワリ:好きというのはその……どういう意味なのかといいますか……。

ミキオ:あー、もしかしてヒマワリさん。
    高いところ苦手?

 間

ヒマワリ:……あー……はい。まあ……。
     いや……べつに、平気。

 間

ミキオ:今日、セイトといただろ。

ヒマワリ:赤塚社長、ですよね。

ミキオ:どうだった?

ヒマワリ:どうって、どういうことですか。

ミキオ:あいつってさ。いいヤツだろ。

ヒマワリ:……ええ。すごく。
     私なんて、心配されちゃいましたもん。

ミキオ:金持ちで、性格も良くて、それに金持ちでさ。

ヒマワリ:はは……言いたいことはわかります。

ミキオ:八万商店街買収の件。
    あんな寂れた商店街、普通に考えて、シャッター街まっしぐらだろ。
    そんなとこ、どんな企業も、金もらったって買いたがるわけねえ。
    それなのにあいつは、莫大な金かけてまで、あの商店街を買おうとしてる。
    ……ただの土地の買い取りだけじゃなく、後にできる商用施設へのテナント提供だのなんだの……
    形を変えて、あの商店街が生き残れるような、甘ったるいプランを用意してる。
    そんなことしなくても、札束でしばけば全員尻尾振るような貧乏人ばっか相手してるくせして、
    わざわざ説明会を何度も開いて、頭下げて回って、納得してもらおうとしてる。
    ありえねえだろ? しかも、そんなことをしてる理由が、高校時代によく通ってたってだけなんだぜ。

 間

ミキオ:変態だよ。変態。
    金持ちってのはどいつもこいつも。
    俺なんかにはそいつがーーそいつを享受することがどんな気分なのか知れねえ……。

ヒマワリ:はい。

ミキオ:結局、買収に反対してるのは、うちの親父どもみたいな古くせえ考えしたロクでなしばっかりだ。
    自分たちがサボってたの棚に上げて、やれ商売あがったりだのなんだのゴチャゴチャ……。
    (笑って)ま、俺もそんなロクでなし側なんだけどな。

ヒマワリ:……はい。私も、今日、気づきました。

ミキオ:何を?

ヒマワリ:私達は、そんなロクでなしのヒーローだってこと。

 間

ミキオ:(吹き出す)……そっか。それなぁ……。

 <観覧車の外で花火が上がる>

ヒマワリ:うわぁ! 綺麗!

ミキオ:……花火か。

ヒマワリ:知ってます? この花火って、赤塚コーポレーションがあげてるらしいですよ。
     ……すごいですよね。お金があれば、花火だってあげられる。
     観てる人たちだって、こんなにたくさん……笑顔にして……。

ミキオ:ああ……すげえな……。

 間

ヒマワリ:そういえば、私、知ってますよ。

ミキオ:なにを?

ヒマワリ:4年前にミキオさんに何があったか。

 間

ヒマワリ:そりゃ、最初から知ってることは知ってましたけど。
     ニュースにもなってましたし。おばあちゃんも、泣いてましたもん。

 間

ヒマワリ:天才剣士、八塚ミキオ。
     学生時代から全国優勝を一度たりとも譲らず、若干二十歳にして最年少で全日本剣道選手権を優勝。
     連覇を期待された年の予選会中にーー自身の剣道具を売買していたことが発覚し、連盟を破門された。

ミキオ:……すげえな、わざわざ覚えてるのかよ。

ヒマワリ:もちろん。今は携帯ひとつで簡単に調べられますから。
     それに……赤塚さんにも聞いたんです。当時のこと。


 ◇


 【4年前の回想】
 【とある道場の入り口から、顔を腫らしたミキオが出てくる】

ミキオ:……よう。

ユミエ:あんた……。

ミキオ:ユミエかァ。ご苦労なこったな、わざわざこんなところまで。

ユミエ:その顔、おじさん?

ミキオ:さァな。誰に殴られたかなんて、いちいち覚えちゃいねえよ。

ユミエ:……そう。

ミキオ:……やっぱりお前も一緒か。セイト。

セイト:……。

ミキオ:んだよ。結局ユミエのお守りもないと俺の顔も見れねえんだろ、弱虫。

ユミエ:ミキオ、あんたねぇ!

ミキオ:お前にいってねえんだよ!

 間

ミキオ:(鼻で笑って)おいどうしたセイト。殴りにでも来たんじゃねえのか?

セイト:……殴る価値もない。

ミキオ:じゃあ、なんでわざわざ来たんだ?

セイト:お前はどうして、こんなことをしたのか。
    それを確かめに来た。

ミキオ:……なぁにお前……。
    それ話したら、金かしてくれんの?

ユミエ:(ミキオにビンタをする)ーーッ!

ミキオ:っつー……。

セイト:行くぞ、島村女子。

ユミエ:……ええ。

 間

ミキオ:クソが……。


 ◇


 【時は現在】

ミキオ:俺に、直接聞けばいいだろ。

ヒマワリ:ううん。ミキオさんに聞いても、きっと嘘をつくでしょうし。

ミキオ:嘘なんかつくかよ。
    俺は、金に困ってた。当時は人気もあったから、興味ある金持ちに高値で売りつけた。
    別に道具なんて売って余った金で買えばいいだろーって思ってたんだけどさ。
    なんつーか、剣道っつーのは、礼節と信義、誠実の競技だからな。
    そういうの、許されねえってさ。
    ま、そんな程度のことさ。

ヒマワリ:……そう、ですか。

ミキオ:まあ、いろんな人に迷惑かけたのはわかってるし、
    がっかりさせたのもわかってる。
    いや……それすらもどうでもいいっちゃどうでもいいんだけどな。
    だってそいつら、俺に金くれなかったわけで。

ヒマワリ:やっぱり……嘘つくじゃないですか。

ミキオ:あ?

ヒマワリ:どうして、お金に困ってたんですか?

ミキオ:いや、どうしてってーー

ヒマワリ:確かに。やったことは事実です。
     きっと誰の前に出しても恥ずかしくないくらい、
     その時のミキオさんはダメな人間だったのかもしれない。

ミキオ:おいおい……。

ヒマワリ:でも私は、悪役になれる人が好きですーー

ミキオ:え、ヒマワリーー

 <ヒマワリは、ミキオにキスをした>

ミキオ:は……何……?

 間

ミキオ:ヒマワリ、さん?

ヒマワリ:そういう! こと! です!

 間

ヒマワリ:もう。夏休み、終わるんです。
     大学、あるので、帰ります。

ミキオ:お、おう……。

ヒマワリ:週末のどこかで、こっちくるんで、そのとき、また。

ミキオ:……おう。

 <観覧車が下につくと、ヒマワリは駆け足で降りた>

ヒマワリ:それじゃ! また!

 <そんなヒマワリの後ろ姿を、ミキオは呆然と見送っていた>


 ◆


ヒマワリ(ナレーション以下N)
    :あれから、2ヶ月。エイトミリオンはどんどんとその活動を広げていった。


 ◆


 <移動車・車内>

ユミエ:とんでもないことになったわね。

セイト:ああ……正直ここまでとは……。

ユミエ:あいつに火をつけたのは、あんたでしょ?

 間

ユミエ:何が、『初披露、エイトミリオンの華麗なる剣さばき』よ。

セイト:……たかだが4年で錆び付くような腕ではないからな。

ユミエ:……ほんと、何考えてんだか……!
    このままじゃ、アイツーー

セイト:島村秘書、会議の時間だ。

ユミエ:……ええ……。


 ◆


 <テレビの中で華麗に立ち回るエイトミリオン>

マツリ:さあ! 現れた怪人をどうする!

エイトミリオン:ほい、予定調和すらーっしゅ。

マツリ:素晴らしい太刀さばきでバッタバッタとなぎ倒して行く!
    エイトミリオンの腰から抜かれた名刀ハチサメが、血の雨を振らせて行く!

エイトミリオン:どんな実況だよ、それ。

司会:はい! というわけで、今話題のヒーロー? エイトミリオンさんによるパフォーマンスでしたー!

 <拍手>

司会:それにしても、すごくかっこいいですねえ!

エイトミリオン:マジで? サンキュー。

マツリ:だから! フランクすぎ!

司会:いえいえ! でもねえ、視聴者のみなさんも思ってたと思いますよ?
   トークばかり有名で戦ってるのみたことないじゃないですか。
   こう……口だけなんじゃないかってね。

エイトミリオン:大抵そういうこといってるやつのほうが口だけだけどね。

マツリ:はいストーップ! 最近ほんと私まで炎上してるんだから!

司会:関マツリさんは、エイトミリオンの相方として脚光を浴びてますよね。

マツリ:ええ、不本意ながら。

司会:ネットだと、飼い主だとか言われてますけど。

マツリ:アイドルです! 本業アイドル!

エイトミリオン:アイドルとしては売れてないじゃん。

マツリ:やかましい! ほんっとこいつ嫌い!

エイトミリオン:一蓮托生だって楽屋ではいってました。

マツリ:楽屋の話をしない!


 ◆


ヒマワリ(N):エイトミリオンは、一躍時の人となった。


 ◆
 

 <某大学構内>

友人:ねえねえみてみて!
   エイト様またネットニュースなってるー。

ヒマワリ:……へえ。

友人:なんか機嫌悪いねぇ。
   ヒマワリもエイト様推しじゃなかった?

ヒマワリ:別に、推しってわけじゃないし……。

友人:もしかして、もうすでに見てた?
   『話題のヒーロー、エイトミリオンとアイドルの関マツリ、熱愛発覚!?』ってやつ。

ヒマワリ:見てないし! 興味もないし!

友人:嘘つけ。じゃあ、二人がホテルに消えてく写真どう思った?

ヒマワリ:嘘っ!? そんなのどこにもーー

友人:ほれ、見てる。

ヒマワリ:……うざ。

友人:ちょーっとこういうことあるとすぐに機嫌悪くなるから、オタクってやーよねー。

ヒマワリ:オタクって何よ!

友人:ちゃんと文面を読み取らないとだめだよ。
   これ、ぶっちゃけ記者の予想で、どこにもソースないじゃん?

ヒマワリ:うるさいなあ! わかってるよ!

友人:それよりも、こないだのトークナインに出てた時さーー
   ……ヒマワリ、めっちゃ携帯鳴ってるよ。

ヒマワリ:え?

 <ヒマワリ、携帯を見る>

友人:……何、その顔。

ヒマワリ:(ニコニコしながら)え? いやー、別に?

友人:怪しいなぁ……男か?


 ◆


会社員:個人的には下品なので、あまり子供には見せたくないんですけど。
    まあ、子供はハマってますね。よく妻と出てる番組はチェックしてます。
    なんだかんだ言うことは的を得てるなーと思いますし、
    個人的には応援してますね。

学生:エイトミリオン? 面白い! なんか最近見なかったタイプの感じ?
   ズバズバいうし。まぁ、スーツ脱いで言えよって叩いてる友達もいるけど。
   トークもするヒーローってめっちゃ新しいし。流行ってますね。

OL:もう、好きです。あんなに自然体なのに、戦ってるとすごい刀さばきが美しいんですよね。
   口が悪いとことかも個人的にはどストライクで、エイト様のグッズは全部持ってると思います。
   八万商店街には、週末は必ずいってます。


 ◆


 <ミキオの部屋>

ミキオ:(ベッドに横たわって)……人気ヒーロー、エイトミリオン。

 間

ミキオ:(鼻で笑って)……んなわけあるかよ。バーカ。


 ◆


ヒマワリ(N):しかし、人気が出るということは、それだけ注目されるということ。
        それから数週間も過ぎた頃、エイトミリオンが八塚ミキオであるということが周知されることとなり、
        それは同時に、八塚ミキオ自身の過去を掘り返すことに繋がった。
        声援は裏返りーー罵声となる。


 ◆


 <赤塚コーポレーション・社長室>

アナウンサー:(テレビ番組にて)
       『今回発覚した件についてですが、依然としてエイトミリオン並びに、八万商店街から公式の発表はありません。
        しかし、エイトミリオンを演じている八塚ミキオさんが、4年前に剣道着の売買を理由に、
        剣道連盟から大会等への参加を取り消されているのは事実であり、「過去など関係ない」
        「十分な罰則を受けた」といったような声も聞こえる中、世間では、
        「ヒーローを名乗るのは違う」「偉そうなことは言えない」「剣を振るうのは許せない」という批判的な意見が上がっています。
        この事実に対し、剣道連盟のーー(電源を消す)

ユミエ:……やっぱり、こうなったわね。

セイト:ああ。

 間

ユミエ:ふざけんじゃないわよ。

セイト:島村秘書。

ユミエ:ふざけんじゃないわよ!

 間

ユミエ:なんだってこう! バカばっかなのよ、私の周りは!

セイト:……ユミエ。

ユミエ:大人しくしてりゃあよかったじゃない……!
    あいつなら何がどうやったってきっとうまく生きていける!
    それなのに、のこのこと……!

 <ユミエは雑誌を掴むと、セイトを殴りつける>

ユミエ:あんたの! せいだからね! あんたが!
    あんたが……! あの商店街に手を出すから!
    金ばらまいて、喜ぶ人間だっているわよ!
    そりゃ、お金に勝る善意はないわよ!
    でも、それで誰かの平和を乱したらどう!?
    こんな……こんないびつな……ヒーローが出てきちゃったじゃない……。

セイト:ユミエ……。

ユミエ:もういや……やってらんない……。
    どうして私は! 
    ーー大切な友達が傷つけ合うのを、何年も何年も見せられ続けなきゃなんないわけ!?

 間

セイト:まだ、終わってないからだ。

ユミエ:……はぁ……?

セイト:終わってないんだ! 俺たちは!
    ……あの時の決着がまだ、ついていないんだよ!

 間

ユミエ:(ため息)知らないわよ。んなもん。
    勝手にして。

セイト:ユミエッ!

ユミエ:まだ勤務時間でしたね。社長。
    ……次のアポイントをお通しします。

セイト:まだ話はーー

ユミエ:あとは当人同士でどうぞ。

 <ユミエは社長室を後にする>
 <入れ替わるようにミキオが入ってくる>

ミキオ:よう。セイト。

セイト:……ミキオ。

ミキオ:言ったろ。覚悟してろって。
    会いにきてやったぜ。


 ◆


 <八塚電気店・二階>
 <店の前からは怒号が聞こえてくる>
 <ハルオは椅子に座って、ぼーっと宙を眺めていた>

ヒマワリ:おじさん。

ハルオ:おう、ヒマワリちゃん。

ヒマワリ:……すごいですね。外。

ハルオ:ああ。そうだなァ。

 間

ハルオ:どいつもこいつも、ミキオを出せ。説明しろってよ。

ヒマワリ:テレビだけじゃないですね。

ハルオ:商店街の連中ーーいや、町内の連中も集まってやがる。
    (笑う)ったく、ちょっとしたお祭りだぜ。

ヒマワリ:(苦笑する)お祭りみたいに、いいもんじゃないですけど……。

ハルオ:……申し訳ない。

 間

ハルオ:本当に、申し訳ありませんでした。

 間

ヒマワリ:何が、ですか?

ハルオ:もとはといやぁ、俺たちのケツを若者に拭かせようっつー浅ましい考えのせいで、
    ヒマワリちゃんに、こんなこと押し付けて、俺はなんて頭を下げていいかーー

ヒマワリ:そんなこと、思ってないですよ。

ハルオ:俺も、調子に乗っちまった。
    あいつがーーミキオが生き生きとしてるもんでよ……こんなことになるなんて、思いもしなかったんだ。
    本当に、申し訳ない。

ヒマワリ:なに言ってるんですか。
     ……むしろ、感謝してるんです。私、こんなに楽しい夏休みは初めてですから。

ハルオ:楽しい? ……おいおい。今じゃあ全国から悪口言われてるヒーローの生みの親なんだぜ……?
    
ヒマワリ:ハルオさん。

ハルオ:なんだ……?

ヒマワリ:私もーー私たちも、謝らなくちゃいけません。
     こんなことになってしまったーーいえ、こうなるようにしたのは私たちなんです。

ハルオ:は? どういうことだよ。

ヒマワリ:こうして世間から敵視されることも、私たちの計算どうりなんですよ。

 間

ハルオ:おい、おいおい。俺ァ頭が悪いもんでよ。
    いったい、どういうこった?


 ◆


セイト:……座れよ。

ミキオ:おう。サンキュ。

 間

セイト:どうして、来たんだ。

ミキオ:あん?

セイト:いや……お前は、俺のことを敵だとーー

ミキオ:(吹き出す)ぶ、くくく……! ははははは!

セイト:何故笑う! 俺は真剣にーー

ミキオ:バーカ。何当たり前のこと言ってんだよ。

セイト:何……?

ミキオ:俺は、お前をぶっ飛ばすためにきたんだぜ?
    ……あの時の決着、まだついてねえだろ。

セイト:ミキオ……!


 ◆


ヒマワリ:嘘つきですね。

ハルオ:は?

ヒマワリ:嘘つきです。ハルオさんも、ミキオさんも。
     不器用っていうか、なんていうか……。
     さっき、「自分たちのケツ拭かせるために私たちにやらせた」なんていってましたけど。
     ……そんなの、嘘じゃないですか。

ハルオ:……なんだって?

ヒマワリ:知ってますよ。もうハルオさんたち、買収に同意してるんでしょ。

 間

ヒマワリ:買収にはすでに、商店街全体が同意していて、総会でも可決。
     八万商店街は、来年には赤塚コーポレーションの元で新しく産まれ変わる。


 ◆


セイト:……俺の勝ちは決まった。
    それともお前は、俺を殴りにでもきたか。

ミキオ:誰がんなことするかよ。

セイト:じゃあーー

ミキオ:週末の正午。グッドワールドのステージでヒーローショーをやることになってる。


 ◆


ヒマワリ:おばあちゃんから聞きました。
     私が夏休み、バイトもせずに手伝いをしてくれているのが申し訳ないって、相談したんですよね。
     だから、お小遣いを渡すつもりで、私に頼んだんだって。

ハルオ:知ってんならどうして、お前たちはまだ、エイトミリオンを続けてんだ。

ヒマワリ:駄菓子屋、ヒマワリ。……私の名前です。
     確かに、私はこの街の人間じゃないですけど、理由なんてそれで十分でしょ?
     それにーー


 ◆


ミキオ:俺はエイトミリオンとしてステージに立つ。

セイト:俺に……どうしろっていうんだ。

ミキオ:例の番組……提供は、どこだったっけな……。
    ああそうだ! ……赤塚コーポレーション、だろ?

セイト:お前、まさか……。

ミキオ:衣装、もってこい。相手してやっから。


 ◆


ヒマワリ:ヒーローにただ守られるだけの商店街じゃ、つまんないじゃないですか。

 間

ハルオ:(吹き出す)ふ、あっはっはっはっはっは!
    (間)
    ……惚れた。

ヒマワリ:はい?

ハルオ:ヒマワリちゃん。ミキオを! 頼む!

ヒマワリ:……え?

 間

ヒマワリ:ええええええ!?
     いや、それはあの……! どういった意味のーー

 <店の外が一層騒がしくなる>

ハルオ:なんだぁ?

 <窓のから外を覗き込むと、そこには群衆相手に暴れている老人が見える>

ハルオ:かぁー! ……伊藤のばあさんだ!

ヒマワリ:おばあちゃんが!?

ハルオ:ったく! 外に出すなっつったのに、杖振り回して暴れてやがる!

ヒマワリ:あーもう! 止めないと!


 ◆


 <週末・グッドワールド野外ステージ>
 <詰めかけている大群衆>

 <舞台袖で立つマツリとミキオ>

マツリ:……すっごい数。それにカメラも。

ミキオ:ああ。

マツリ:ま、当然っちゃ当然か。
    騒動以来、初めての登場だもんね。

 間

マツリ:それとも……最後の登場?

 間

マツリ:にしても! こんなやばいイベント、よくグッドワールドが貸してくれたよね。

ミキオ:俺もよく知らねえけど、夏のキャンペーンにどうしても人を呼びたいって、
    担当の人が通してくれたってよ。

マツリ:商魂たくましいこって……。

ミキオ:俺、結構好きになったわ。この遊園地。

マツリ:単純ー。

 間

マツリ:(ため息)あーあ! せっかくいい金づるを見つけたと思ったのに。
    結局これかー。

ミキオ:……あのさ、先輩ーー

マツリ:悪かった。とか、言わないでね。
    私、後悔してないよ。
    (笑って)腐ってたんだよ。根っこが。
    腐って、腐って、だって、どれだけ頑張ったって結果なんてでなくて。
    私なんかより可愛い子なんてたくさんいるし。
    話が面白い子もたくさんいて、面白い子だっていて。
    そりゃ、腐ってもしかたないでしょ? なーんて、認めちゃってさ。

 間

マツリ:簡単なようで、難しいんだよ。自分を認めることって。
    どうしても周囲のひとのことを気にしちゃうんだよ。
    認められたい、求められたい、そうじゃない自分には価値がないんだ、なんて……。

ミキオ:先輩ーー

マツリ:ストップ! こういうセリフは最後まで聴くの!
    ……私は、私です。私は、私のままでいいんです。
    そう、思えたのは、ミキのおかげです。
    いつだって自然体なミキとーーエイトミリオンができて、私は……。
    (間)
    ありがとうございます。エイトミリオン。
    ダメダメで、口が悪くて、どうしようもない気分屋だけど、
    私にとってはあなたはーー間違いなくヒーローです。

 間

マツリ:……ミキ? 沈黙はきついんだけど……。

ミキオ:(微笑んで)いや……なんつーか。
    俺が憧れてたころの、関マツリだ。

マツリ:『ころ』て……!
    女心って知ってる!? 知ってるわけないか!

ミキオ:悪いな。俺って、ダメダメなんだよ。

マツリ:開きなおんな!

ミキオ:(マスクを被りながら)聞こえねえ。

マツリ:バーカ! ……曲があがったら、行くから。
    呼び込むまで、覚悟しててね。

ミキオ:ああ……。

マツリ:(耳元で)私が紅白出たら! 付き合って!

ミキオ:……聞こえねえ。


 ◆


 <グッドワールドの野外ステージにマツリが登場する>

マツリ:みなさーん! こんにちわー!


 ユミエN:会場は、異様な雰囲気に包まれていた。


マツリ:声が聞こえませんねー!
    ……そりゃ、そうか。


 ユミエN:全員が、とある男の登場を待っていた。
      それは、ヒーローか、それともーー


マツリ:あーはいはい! わかりました!
    お約束なんてお呼びじゃないんですよね!
    先にいっときますけど! ものとか、投げないでくださいね!
    罵声とかも、すぐに警備員さんにつまみ出してもらいますから!
    なぜならー、ここは遊園地グッドワールドですから、ね?


 ユミエN:司会のアイドル、関マツリが手をあげると、その場にいる全員が目を見開いた。
      待ち焦がれていた男はーー


マツリ:ほら! 出ておいで、エイトミリオン!

エイトミリオン:うーっす。


 ユミエN:いつもと変わらない、軽い口調で現れた。


マツリ:みなさんにまずは何かいいたいことがあるんじゃないの?

エイトミリオン:あん? いや、別に。


 ユミエN:「謝らないのかよ」 場内はざわつく。


エイトミリオン:あ。いっこだけあったわ。


 ユミエN:「なんなんだよ、あいつ」


エイトミリオン:うちの前まで来てる人とかいたみたいなんだけど。
        それは迷惑だからやめてくんねえかな。


 ユミエN:「ふざけんな!」 どこかから声が上がった。


エイトミリオン:あー。説明しとく!
        今日俺は、ある男と戦いに来た。


 ユミエN:そして、エセヒーローは呼び込んだ。


エイトミリオン:来いよ、マネーロンダラー。


 ユミエN:本物のヒーローを。


マネーロンダラー:金で買えない、ものはない!


 ◆


 <観客席>

ヒマワリ:すごい歓声ですねぇ。さすが、マネーロンダラー。

ハルオ:おーおー。ありゃあセイトくんか。

ヒマワリ:ハルオさん、全然、動じてないんですね。

ハルオ:……なんでかなぁ。昔っからそうなんだよなぁ。
    どうにも俺はそういうのには無縁でよ。

 <ハルオは手に持ったビールを飲む>

ハルオ:だから、うちの嫁が逝っちまったときも、なんでか涙は出なくてな。

ヒマワリ:……ええ。

ハルオ:ミキオもそんな俺をみて、真似したみてえに涙堪えてた。
    だめだねえ、俺ァ親としては半人前でよ。

ヒマワリ:そんなーー

ハルオ:こんな俺に育てられちまったせいで、あいつはちっとも面(ツラ)に出さなくなっちまった。
    だから、いつだって俺ァ見逃しちまってきたんだよ。
    4年前、あいつが金のために道着売っちまったのだって、道場の先生がやってきたときに初めてしったんだから。


 ◆


マネーロンダラー:君が、エイトミリオンか。

エイトミリオン:ああ。こうしてあえて光栄だぜ。

マネーロンダラー:……こちらこそ。

エイトミリオン:なあ。俺は昔、金のために剣道具を売ったんだ。

マネーロンダラー:そうか。

エイトミリオン:あんたは、どう思う。

マネーロンダラー:さあな。あいにくと私は金に困ったことはない。

エイトミリオン:だよなぁ……だと思うよ。
        あんたならそう言うと思った。

マネーロンダラー:だからこそ私は、自分の金を使い、救っている。
         世界の人々を。

エイトミリオン:ああ、うん。立派立派。
        それでいうとさ、あの時の俺の前にいたとしたら、あんたは金をくれたのかよ。

 間

マネーロンダラー:……君が本当に困っていて、君がそれを私に伝えたのなら。
         私は君に手を差し伸べただろう。

エイトミリオン:まじかー、そっかそっか……あんたがあの時いりゃあなあ……。

マネーロンダラー:なにがいいたいのか、はっきりしてくれないか。


 ◆


ハルオ:……あいつは俺に金の入った封筒差し出して、こう言いやがった。
    「これで、続けられんだろ」ってよ。
    (間)
    このご時世、個人経営の電気店なんて流行んねえよ。
    4年前、俺は店畳もうとしてたんだ。
    もちろんあいつには言ってなかった。
    ただな、一度だけ聞かれちまったんだ。
    嫁の写真に、謝ってたとこをな。

ヒマワリ:だから、お金を稼ごうと……。

ハルオ:ミキオは世間様に文句言われるようなことをしたかもしれねえ。
    叩かれたってしかたねえような卑怯なことをしたかもしれねえ。
    でも、俺ァ知ってる。あいつが頭を下げることなんてひとつもねえことをな。
    頭を下げるべきは、俺だ。
    俺……なんだよ。


 ◆


エイトミリオン:気に食わねえ。

マネーロンダラー:なに?

エイトミリオン:気に食わねえんだよ! お前みたいなやつ!
        バーカバーカ!

マネーロンダラー:ガキが……。

エイトミリオン:俺の住んでる八万商店街なんだけどなぁ、買収されんだよぉ!
        そんでもって、俺は買収されないよう人手を戻すために、PRの一環としてここにいるってわけだ!


 ◆


ヒマワリ:ハルオさん……。顔をあげてください。

ハルオ:あん……?

ヒマワリ:はじまりますよ。

ハルオ:なにが?

ヒマワリ:エイトミリオンの、ショータイムが。


 ◆


エイトミリオン:ありがてえ話だぜ! 寂れたシャッター街を救おうとしてるやつは、あんたと同じ金持ちの会社の社長さんだ!
        うだつの上がらねえ商店街に手を差し伸べていただいてるわけ!
        あの会社に従えば! みーんな救われるって寸法だ!

マネーロンダラー:ならなぜ、お前は!

エイトミリオン:うぜえからだよ! お前らみたいな金持ちがうぜえから!
        俺は邪魔してやろうとしたってこと!

マネーロンダラー:なんだと……!

エイトミリオン:さっきもいったけどなぁ! 俺はあの時助けてくれなかったお前らを許さねえ!
        金持ちなんてみーんな揃いも揃って偽善者だろ!?
        それともなんだ! 俺みたいなやつにも金くれるわけ!?
        だったらちょっとだけ優しくしてあげるけどよぉ!

マネーロンダラー:お前は! そこまで腐ってるのか!

エイトミリオン:ああ腐ってるね! 腐りきってちょうどいい塩梅よ!
        商店街の連中もわかりやすかったぜ! 少し俺が客集めてやりゃあ嬉しそうにしやがって!
        買収されておきゃあ幸せだってのによぉ!

マツリ:ものを! ものを投げ込むのはおやめください!

マネーロンダラー:(小声で)なんのつもりだミキオ……!

エイトミリオン:(小声で)台本通りがお好みかよ、小心者。

マネーロンダラー:(小声で)む……!

エイトミリオン:さあ! どうすんだよ! マネーロンダラー!
        金に裏切られ! 金持ちを憎む!
        俺の正体は……! 悪の怪人エイトミリオン!

マネーロンダラー:ク、ククク……! ハハハハハ!
         なるほど! 通りで邪悪な気配がしたわけだ!

エイトミリオン:剣を抜け! マネーロンダラー!
        俺が勝てば、八万町は諦めてやろう!

マネーロンダラー:……ああ、わかった。
         俺が勝ったら! 八万町は私が守る!

マツリ:それではここで! エイトミリオンとマネーロンダラーの剣術試合を行いたいと思います!
    ルールは、頭部、腕部、胴部への有効打を与えた方の勝ちとなります!
    それでは、スーツの上から防具をつけてもらいましょう!
    ッて……! うわー、すごいブーイング……! みなさん! ちょっと落ち着いてーー


 <袖にはけるエイトミリオンとマネーロンダラー>


ミキオ:……うし。

セイト:……まったく。お前ってやつは。

ミキオ:あ? なんだよ。

セイト:いや……なんでもない。

ミキオ:そっちの防具、つけろよ。

セイト:ああ。

 間

セイト:俺は、お前に憧れて剣道をはじめたんだ。

ミキオ:あん?

セイト:お前は俺にとって、憧れであり、目標だった。

ミキオ:きもいからやめろよ……。

セイト:俺は特別な人間だ。ミキオ。
    産まれだけではなく、人の上に立つべくして産まれた人間だ。

ミキオ:うざ。

セイト:そんな俺が唯一、憧れたんだ。お前に。
    お前はいつだって自由で、何に媚びることも、縛られることもなく、
    誰よりも強かった。

 間

セイト:日本選手権で、戦うと約束したな。

ミキオ:まぁ、お前が勝ちあがれたらな。

セイト:抜かせ。俺は総合5位だったぞ。

ミキオ:前大会で最年少優勝した俺に言うこと? それ。

セイト:ふん……抜かせ。

 間

セイト:すまなかった。

ミキオ:んだよ。それ。

セイト:あの時、俺は腹が立った。
    お前ともう剣道で戦えなくなったことに。
    ……そして、お前が金のことで悩んでいたことに気づかなかったことに。

 間

セイト:俺のことを、恨んでいるだろ。

ミキオ:はあ?

セイト:言っていただろう。俺の邪魔をするためにやっていたと。

 間

ミキオ:……お前それ、マジで言ってる?

セイト:マジ、とはなんだ。さっき言ったばかりではーー

ミキオ:(吹き出す)ぶっ! ククク……!
    アッハッハッハッ! マジかよ! お前!

 <ユミエが舞台袖に現れる>

ユミエ:聴こえるわよ。バカ。

ミキオ:おお! ユミエ! でもこいつ……プププ! マジで言ってんだぜ!?

ユミエ:そういうやつなのよ、そこのバカは。

セイト:おい、どういうことだ!

ユミエ:ほら、防具つけるの手伝うから早くしろ。
    マツリさん、一人で頑張ってるんだから。

ミキオ:そいつからでいーよ。

セイト:おい! 無視をするな!

ミキオ:あるんだよ。

セイト:何がだ!

ミキオ:金で買えないもん。

 間

ミキオ:古くせえ店ばっかで、食レポサイトで星がつくどころか、登録の仕方もわかんねえ。
    ただ常連のやつらが集まって、くだらねえ世間話しながら、金がねえなんて嘆いて、    
    けどそんなもんが居心地よくて、あの商店街の連中は、そんな生活の中で生きてきたんだ。
    そりゃあ金がありゃあ生活は救われるぜ。
    でも、心はそうはいかねえ。
    今はお前の提案を受け入れたかもしんねえけど、それじゃあ心までは救われねえ。
    そういうやつらの心ってのは、底抜けに優しいもんなんだ。
    どんなに辛い記憶だって、何年かすりゃあ大切な思い出にしちまってる。
    同じように、どんなにしょうもない生活だって、捨てるには勇気がいんだよ。
    ……お前もそうだ。まっすぐで優しすぎるからな。何もかもを救おうとしちまう。
    だから、必要なんだよ。俺みたいな、悪役が。

 間

セイト:お前は、商店街のために、そこまでーー

ミキオ:なんでそうなんだよ……俺がんなこと考えつくか。
    つーかこれは、ヒマワリさんが考えたことでーー

ヒマワリ:呼び捨てでいいっていってるでしょ。

 <ヒマワリが舞台袖に入ってくる>

ユミエ:優秀ね。あなた。

ヒマワリ:いえ。ただの趣味ですから。

ユミエ:趣味?

ヒマワリ:悪役が、好きなんです。

ユミエ:……あ、そう。

ヒマワリ:うわ、ひかれた。

ミキオ:つまりだ! お前が俺を倒して万々歳。
    商店街の奴らのもやもやとした未練だなんだは、ヘイトと一緒にエイトミリオンで包んで捨てちまうって算段だ。
    エイトミリオンはそれで、めでたくお役御免。

セイト:しかし! それではあまりにも……!
    ヒマワリさん! 君はそれでよくても、ミキオの人生はどうなる!

ミキオ:別にどうもしねえよ。考えたのは、ヒマワリーー(咳払い)……だが……。
    やるって決めたのは俺だ。

ヒマワリ:いえ、でも確かにそこまでの責任はーー

ミキオ:いいって。っつーかさぁ、マジで別に気にしてねえから。
    剣道がなくても、まあ暇だけど、生きていける。
    同じことだろ。世間からどう思われようが、俺は生きていける。

セイト:そうやって!

 間

セイト:また逃げるのか。

ミキオ:一度だって逃げたつもりはねえよ。ダボハゼ。
    勘違いすんな……俺は本当に大事なもんを金で売った覚えはねえよ。
    ……お前に金借りちまったら、対等じゃねえだろ。

セイト:たい、とう?

ミキオ:それともお前、俺に剣道しかないって思ってる?
    あーそう。別にそれならそれでもいいんだけど。

セイト:いや、それはーー

ミキオ:俺は、いつだってお前と対等にやろうと思ってる。
    このステージも……これからだってそうだ。

セイト:ミキオ……。

ミキオ:つまり! こっちのセリフだぜ。
    ……いい加減、逃げんじゃねえぞ。セイト。
    俺の喧嘩は、金じゃあ買えねえからな。

 間

セイト:そうか。逃げていたのは……俺だったのか。

ミキオ:俺に言わせりゃあな。
    ……ま、多少はその……あんときは、悪かったとは思ってるよ。

セイト:らしくない。これから殴りづらくなる。

ミキオ:お前の剣が俺にかするとでも思ってんの?
    ま、最後はわざと負けてやるから安心しろ。

セイト:そんなことをいって、手を抜けなくしてやるさ。

 間

ヒマワリ:さ。準備できましたよ。

ユミエ:とっとと終わらせてきなさい。


 <2人はステージの上に登場する>

エイトミリオン:うっし!

 間

エイトミリオン:……あれ? なんでこんな静かなんだよ。

 <ステージの周りは静まり返っている>

エイトミリオン:マツリさん、これ、どういうこと?

マツリ:あー……えっと……。
    いや、その、なんていうか……。

エイトミリオン:は? なに。

マツリ:……泣かない?

エイトミリオン:何を?

マツリ:いや……なぜだかわからないけど……。
    舞台袖の話が、ステージに聞こえちゃってて……。

エイトミリオン:……は?


 ◆


ユミエ:そのマイク、生きてたわけ。

ヒマワリ:はい。こんな話になるかなーって思って。

ユミエ:あなた、本当に優秀ね。

ヒマワリ:ふふふ……。

 <ヒマワリは袖口からワイヤレスマイクを取り出す>

ヒマワリ:私が、ミキオさんを悪者で終わらせるはずがないじゃないですか。


 ◆


エイトミリオン:えっと……じゃあ……。

マツリ:……うん。聴こえてた……。

エイトミリオン:どこから……?

マツリ:……えっと……商店街に対する……愛の告白……? から……。

 間

エイトミリオン:泣いていい?

マツリ:ダメダメ! キャラ崩れちゃうから!

エイトミリオン:崩れてんだろうが! もうずるっとまるまる!
        もう殺せよ! いっそ俺を全員でなぶりごろせ!


 ◆


ユミエ:これで逆転負け、かしら。

ヒマワリ:そんなことありませんよ。
     ヒーローはただ、迎え撃てばいいんですよ。
     仕掛けるのは、悪役の役目ですから。

ユミエ:(吹き出して)あー……あいつも相変わらず、変な女にばっかり好かれるわ……。

ヒマワリ:(笑顔で)変な女『ばっかり』って……どういうことですか?
     
ユミエ:え?

ヒマワリ:詳しく聴かせてもらってもいいですか?

ユミエ:うわ! 顔ちかっ!

ヒマワリ:そういえば、島村さん。ミキオさんの同級生なんですよね?
     いったいどういうご関係なんですか? 詳しく教えてもらっていいですか?

ユミエ:怖い! 怖いって!


 ◆


マネーロンダラー:さあ、はじめるか。エイトミリオン。

エイトミリオン:ごめん、ちょっと待って、今俺それどころじゃない……!

マネーロンダラー:何を恥じる必要がある。

エイトミリオン:恥ずかしいだろうが! あそこまで一生懸命準備しておいて!
        自分で全部ネタバレして……! 茶番だろ!? 茶番!

マネーロンダラー:……。

 <マネーロンダラーは剣を構えて歩き出す>

マネーロンダラー:英雄的行いとは、須らく自己犠牲上に成り立つ。
         ならばヒーローとは、一体なんなのだろうか。
         ……お前は確かに、口が悪く、素行も悪い。
         人も平気で騙すようなやつだ。

エイトミリオン:あぁ……下げて下げて……マジで頼むわ。

マネーロンダラー:だが、お前が自らを捧げて、誰かの心を救おうとしていたと言うのなら。
         ……お前は間違いなく、ヒーローだよ。

エイトミリオン:傷口えぐるんじゃねえよ……!

マネーロンダラー:自分で口にしたんだぞ。ヒーローだと。
         そしてお前は今、証明した。自らがヒーローなのだと。
         ならば、決着をつけよう。
         (間)
         ーー剣を取れ! エイトミリオン!

 間

少年:がんばれー!

 間

少年:頑張れ! エイトミリオン!

 間

エイトミリオン:ったく……うるせえなあ……クソガキ。


ハルオ:頑張れええええええィ! エイトミリオォォォン!


エイトミリオン:うっせえ! いい歳こいて叫ぶんじゃねえ!


マツリ:ほら! 声援もらってるんだから、頑張ってよー! エイトミリオン!


エイトミリオン:あんたは面白がってるだけだろ!


ユミエ:負けたら承知しないわよー!


エイトミリオン:お前はどっちにいってんだ!


ヒマワリ:がんばって。エイトミリオン。


マネーロンダラー:……拝金戦隊、マネーロンダラー!
         金で買えない、ものはない!

エイトミリオン:あー! 俺そういうのねえから!


ヒマワリ:みんな知ってるよ。


マネーロンダラー:いくぞ! 札束ブレードォ!

エイトミリオン:クソみてえな武器つかってやがんなあオイ! 


ヒマワリ:あなたが本当に。


エイトミリオン:覚悟しやがれ! 俺はァ! 八万町のヒーロー!
        八百世帯の住民、”エイトミリオン”だ!


ヒマワリ:ロクでなしのヒーローだってこと。













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