デザートクローバーB
『最強』
作者:ススキドミノ



レイシー・ウォーカー:女性、18歳。『鉄戦士(ゼレゾニーク)』を目指す少女。父は世界的『鉄戦士(ゼレゾニーク)』の『ヴォルフ』

スコット・”ジャズ”・レノビリ:男性、24歳。デザートクローバーに拠点を置く『鉄戦士(ゼレゾニーク)』、戦士としての呼び名は『ジャズ』

ゼレット・”グリフィン”・ノース:女性、36歳。世界を又に掛ける最強の『鉄戦士(ゼレゾニーク)』、戦士としての呼び名は『グリフィン』

ムービー・パーキー:男性、24歳。デザートクローバーの鉄鋼所『ビットレイト』にて『ジャズ』の整備を担当している。

ケイ・”ブロード”・ホーキング:女性、42歳。『ブロード』の名で呼ばれた元ゼレゾニーク。デザートクローバー『鉄鋼組合』の組合長(ギルドマスター)。


語り部:物語を見守っている。ムービーと被り役。




※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




【用語解説】

『鉄闘(スーヴォイ)』
・鉄でできた巨大な人型装甲「鉄戦士(ゼレゾニーク)」が、闘技場で一対一で戦う闘技。
 平均的な競技時間は十数分。相手を無力化する(破壊する、行動不能にする、相手の戦意喪失など)か、審判員による判断により勝敗が決まる。
 死と隣り合わせの危険な競技ながら、大陸各国が開催を認めており、市民や身分の高いものを問わず人気がある。
 国によっては賭け等も認可されており、スーヴォイが主要な産業となっている都市も少なくない。

 『簡易訳:おっきいロボットにのってたたかうのをみんなでみるよ! あぶないけどおもしろいとにんきだよ!』


『鉄戦士(ゼレゾニーク)』
・鉄製、全長は19~22フィートの鉄製装甲、列びにその装甲に乗り込み闘うパイロットのことを総称してゼレゾニークと呼ぶ。
 コックピット内部は振動や光熱により常に過酷な環境であり、鉄の巨体を操るためにはパイロット自身の身体能力や精神力が大きく影響する。
 当然、命の保証などなく、ゼレゾニークとなったものの半分以上が、スーヴォイが原因で命を落としている。
 故に一試合で得られる富も多く、貧富の差が激しい大陸各国に置いて、ゼレゾニークになりたいと願うものは後を絶たない。
 何度も勝利を収めている戦士には、パイロットの名前の他に『呼び名』を名乗ることが許される。
 呼び名を持つゼレゾニークは、各国の都市に自由な立ち入りが許されており、各国の闘技場でスーヴォイをすることが許可されている。

 『簡易訳:ロボットとそれにのるパイロット、どっちもゼレゾニークだよ! パイロットはたいへんだけど、おかねもちになれたり、にんきものになれるよ!』


『デザートクローバー』
・大陸の南西部にある砂漠地帯の都市。
 鉄鋼業とスーヴォイが盛んであり、その過酷な環境はゼレゾニークにとって『砂鉄の街』と呼ばれ恐れられている。
 サボテンをフレーバーした地酒、クローブエールが名産品。


『鉄鋼組合(ギルド)』
・鉄鋼業とスーヴォイを管理する組合。
 デザートクローバーにおいては、仕事の斡旋や街の運営補助、国と都市との連絡役など、その役割は多岐に渡る。


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語り部:少女レイシーは亡き父と同じく鉄の戦士になることに憧れ、父の弟子であったゼレゾニーク、『ジャズ』の元を訪れた。
    しかし、頑なに彼女を拒絶するジャズ自身もまた、自らの父をスーヴォイによって失っていたのだった。
    一方、冷たい鉄と心を通わす街、デザートクローバーにて――その日の夜、『最強の鉄』が戯れに刃を抜こうとしていた。


 ◆


 <ゼレットは観客席から砂漠の競技場を見下ろしている>

ゼレット:この砂埃……オイルの匂い。
     お世辞にも綺麗だとはいい難いが……なるほど。
     変わらないというのも、そう悪くはない……。

 間

 <闘技場の照明が点けられる>

ゼレット:おや……。

ケイ:闘技場に侵入する命知らずなんて久しぶり……と思ったら。

 <ゼレットの背後から、女性が歩み寄る>

ケイ:珍しい顔が拝めたわね。
   久しぶり、ゼレット。

ゼレット:……ケイ・”ブロード”・ホーキング。
     十数年ぶりになるかな。

ケイ:そうね。

ゼレット:相変わらず、綺麗だね。ケイ。

ケイ:そう? 最近じゃ忙しすぎて、髪の手入れもできやしない。
   ゼレゾニークをやっていた頃のほうがまだ気にしていたくらい。
   それより……この街に寄るなら、連絡の一つくらいくれても良かったんじゃないかしら?

ゼレット:再会というのは、突然のほうが面白いものだよ。

ケイ:ロマンチストなのも変わりないようで安心した。

ゼレット:(微笑んで)ロマンがなければ世界はあまりにも退屈だよ。

ケイ:……どう? 久しぶりのデザートクローバーは。

ゼレット:随分と健康になったじゃないか。
     建物も増えたし、昼も夜もこの賑わいだ。
     観光客も増えたようだね。

ケイ:努力したのよ。この街に住む全員がね。
   この砂漠の街じゃ、努力をしなければ生きていけないから。

ゼレット:努力……なるほど。

ケイ:ええ。そうよ。
   この街はいつだって、努力を忘れない。
   だから、私はこのデザートクローバーを愛しているの。

ゼレット:ケイの口からそんな言葉を聞くとは……。
     その愛とやらが、あなたを”組合長(マスターオブギルド)”にしたのかい?

ケイ:(笑って)残念ながら、そっちのほうは頼み込まれて仕方がなくって感じ。

ゼレット:(笑って)あなたも随分と変わったものだ。
     あの『鉄の女(ブロード)』が、まさかね。

ケイ:努力してるわ。私もね。

 <ケイはゼレットの肩を叩いた>

ケイ:巡業?

ゼレット:ああ。東に向かっている最中だよ。

ケイ:噂はきいてるわ。『無敗の最強』の伝説は継続中だそうね。

ゼレット:(苦笑して)『最強』、か。

ケイ:でも……そろそろいい歳でしょう。引退は考えてるの?

ゼレット:いいや。

ケイ:でも、死に場所を探している?

 <ゼレットは少し考えたあと、視線を伏せる>

ゼレット:確かに……私は女神様の覚えが悪いようだからね。
     そう見えてもおかしくないだろう。
     ただ――そんなことには興味はないんだよ。

 <ゼレットは客席に背を預ける>

ゼレット:観客は歳の話ばかり並べ立てて、ベテランだ引退だなどと囃し立てるが……。
     私にはそんな目に見えないものにかまっている暇などあるはずもない。
     ……研ぎ澄まされている。
     一戦を終えるたび、一体を潰すたび、私は自分自身の成長を感じ、身体はその痛みに喜びを感じている。
     私が歳? 引退? 冗談じゃない。
     私の最盛期はこれからだと感じている。
     そして――私は女神すらも殺すことになるかもしれない。

ケイ:(微笑んで)……高慢だけれど、貴女が言うなら、あながち冗談にも聞こえないわ。

ゼレット:何をいっているんだい。
     ……冗談などではないさ。


 ◆


 <岩場の上に作られた物見塔の上>
 <スコットは酒を片手に街を見下ろしている>

スコット:……ゼレゾニークの誇り、か……。

 <スコットは酒を逆さにして口に残った酒を落とすとゆっくり立ち上がる>

スコット:興味ねえよ。んなもん。

 間

スコット:ただでさえ……生きるのに必死なんだこっちは……。
     死に場所を探すなんて、贅沢ってもんだろ。
     クソ親父だけかと思いきや……どいつもこいつも勝手にくたばりやがって……。
     ……なあ……レインのおやっさん、あんたは――あ?

 <スコットは後ろを振り向く>
 <はしごを息を切らして登ってきたのは、レイシーだった>

レイシー:(息切れしながら)はあ……はあ……。
     スコット、さん……! 本当に……物見塔(ものみとう)の上に……居たんですね……!

スコット:(ため息)……なんだってんだよお前は……。
     本当にイカれてやがんのか……!

レイシー:あの……! すみませんでした!

 <レイシーは頭を下げる>

レイシー:私、無神経なことを――

スコット:バーカ。

 <スコットは新しい酒の瓶を開ける>

スコット:どうでもいいし、気にしちゃいねえ。
     そもそも俺は、んなことで傷つくような繊細な人間じゃねえんだよ。

レイシー:でも……!

スコット:だから俺の要求は一つだ。
     俺の前から消えろ……! 二度と俺につきまとうな……。

 間

レイシー:……嫌です。

 <スコットは面倒そうに頭を掻く>

スコット:なんで俺なんだ……! 俺以外にもゼレゾニークは山ほどいるだろ……!

レイシー:だからそれは――

スコット:それにだ……お前はゼレゾニークには向いてねえ。

レイシー:向いてない……どうしてですか?

スコット:お前は、優しい。

レイシー:優しい……?

スコット:……あの程度のことでいちいちこんなとこまで登ってきて、頭を下げるようなやつは、鉄なんぞに乗る必要ねえよ。

レイシー:そんなの……! 向いているかどうかには関係ないです!

スコット:あるんだ。
     ……鉄は……冷たくて、重い。
     お前だって触れたことあんだろ。
     恐ろしいもんなんだよ。あんなもんを人間相手に叩きつけるなんざ、正気じゃねえんだ。

 間

レイシー:なら、安心しました……。

スコット:あ?

レイシー:私も……思ったことありますから。
     小さい頃……父が整備している機体に、こっそり近づいたんです。

 <レイシーはスコットの隣に立つ>

レイシー:とても、怖いと思いました。
     動いているときにはあんなに生き生きとしているのに……私を見下ろす姿はまるで……。
     そう。絵本で見た、恐ろしい巨人のようで。
     登ってみようと触ってみたら、恐ろしいほどに冷たくて――

 <レイシーは街を見下ろす>

レイシー:同時に……思ったんです!
     あの巨人の中からは――世界はどんな風に見えるんだろうって。

スコット:世界が――どう見える?

レイシー:だって、少しだけ高さを変えただけで、街一つだってこんなに変わるでしょう?
     いつも通る道を一つ間違えただけで、そこには新しい景色がある。
     私は――ずっと、クロデアで母と暮らしてきました。
     変わらない景色の中で、変わったものを探して……。
     父は巡業から帰ってくるとそんな私に、世界の話をしてくれました。
     色々な街のお土産や、映像なんかも見せてくれて……でも、それだけ!
     楽しかったけど……それだけです。
     十年前に初めて父と”グリフィン”の試合を見た時の衝撃は――生きてるんです!
     私の中で……!

スコット:……あの試合か。

レイシー:……父からスコットさんの話を聞いたのは、あの頃です。
     弟子をとったって。
     若いが筋がいいんだって。

 <レイシーは拳を握りしめてスコットに詰め寄る>

レイシー:あの!

スコット:な、なんだよ……!

レイシー:あなたは……! ずるいです!

スコット:……ずるい……?

レイシー:あなたは! 父に教わってゼレゾニークになった!
     世界を廻って――そして、独立してここでジャズとして戦っています!

 <レイシーはスコットの胸に拳を押し付けた>

レイシー:……私が、男だったら。

スコット:おい……それは――

レイシー:でも、そうじゃないですか!
     私が男に産まれてきたら、父は私を弟子にしたかもしれない……!

スコット:……んなことは――

レイシー:ずるいんです! みんなみんな……!

 <レイシーは物見台から身を乗り出す>


レイシー:――私だって! 最強になりたい!


 <スコットは目を丸くしてその背中を見つめている>


レイシー:やめとけ……無理だって! みんなそういいます! 経験があるから!
     後悔があるから! 失ったものがあるから!
     でも……! だからって、私がここで諦めたら!
     私の後悔は、どこへ行くんですか!? 私の失った情熱を、何が受け止めてくれるんです!?
     あの日抱いた憧れを忘れて、普通の女として生きていけっていうんですか!?
     そんな……そんな生き方! 死んだものと一緒じゃないですか!

 <レイシーはスコットに向き直る>

レイシー:誰もが平等だなんて、デタラメです。
     でも……そんな不平等な世界でも、目指す権利はあるはずです。
     クロデアという穏やかな街に生きてきた、平凡な私にも……!
     闘う権利はあるはずです! それを!
     それを……! 誰にも否定はさせません……!

スコット:……それは……。

レイシー:父が言っていました。
     『ジャズは、他のやつとは目が違った』って……。
     『小さくて臆病なくせに、生意気に最強の戦士を目指してるんだ』って。

スコット:……んなこと……言った覚えねえ。

レイシー:でも、鉄の冷たさを知っている。でしょう?
     だから……私を必死に辞めさせようとする。
     そんなあなただから、私は教わりたいんです。
     鉄との生き方を……。

 <レイシーは微笑むとはしごを降りはじめる>

レイシー:私、待ってますから。

スコット:……期待すんなよ。

レイシー:はい! 絶対に、弟子にしてもらいますから。

スコット:おい……人の話を――

レイシー:それでは! 風邪、引かないうちに降りてくださいね!

 <レイシーが降りていくのを見届けると、スコットは柵に手をかける>

スコット:……最強に、なりたい……か。

 間

スコット:くだらないことをいつまでも覚えてるもんだな……。
     (微笑んで)なるほど……おやっさんの娘らしいよ。

 間

スコット:ガキの戯言(たわごと)だろ、んなもん……。
     ……俺はもう――

 <ふと眼下を見つめていると、闘技場に明かりがついているのが目に入る>

スコット:あ? 闘技場の明かりが――


 ◆


 <闘技場の観客席>

ゼレット……私のことよりも、彼はどうだ。

ケイ:彼?

ゼレット:ノービスの息子さ。

 <ケイは目を見開く>

ゼレット:東西のはぐれ戦士が集うこのデザートクローバーにおいて、最も優秀な戦士。
     ……それがあのノービスの息子とあれば、見てみたいと思うのは自然なことだろう。

ケイ:……ジャズよ。

ゼレット:ん?

ケイ:ノービスの息子という表現はお控えなさい。
   ……ジャズはね、今のこの街の誇りであり、象徴なのよ。
   いくらあなたの口からでもね、ゼレット――いえ、あなたの口からだからこそ、そんな言い様は許さないわ。

ゼレット:……そうか。確かに一理ある。だが――

 <ゼレットは観客席を乗り越えると、闘技場に降り立って、少し離れたところにいるケイに向けて笑う>

ゼレット:(笑顔で)だが! この神聖な闘技場のステージでは、嘘は言えないな!

ケイ:嘘?

ゼレット:そのジャズが如何にこの街の象徴だろうと、『ノービスの血縁』――私にとっては、それだけの存在だ!

 <ケイは不機嫌な笑みを浮かべる>

ケイ:……てめえ……。

 <ゼレットは無邪気に笑って>

ゼレット:ははは! ここ――闘技場のサークルには、ゼレゾニークと整備士以外は入ることができない!
     ケイ! ゼレゾニークを引退したあなたでは、どれだけ腹に据え兼ねたとて、ここにいる私は殴れない!

ケイ:ええそうねぇ! なんなのよ! そんなガキみたいな真似をして!

ゼレット:いいじゃないか! たまには私もこうして思いの丈をぶつけたいんだ!
     ここでなら、正直で居られる!

ケイ:(ため息)まったく……。

ゼレット:私はね! 正直にいって、飽き飽きしているんだ!
     この大陸をどれだけ廻っても、私に敗北を教えてくれる戦士は居ない!
     私と相対したとき――誰もが同じ目をしている! 
     恐怖し! 畏怖し! 死にたくないと顔に書いてある!
     普段は女神に愛されるなどと、死を肯定したようなことをいっているくせに!
     軟弱にも程がある!

 <ゼレットはケイに背を向ける>

ゼレット:ケイ! あなたは『組合長(ギルドマスター)』という職に付き、戦場を去ってから随分と朦朧(もうろく)したようだ!
     私が誰の名を覚える必要がある!? 私以外の戦士の名など、『ないに等しい』のだよ!
     この私がなぜ『最強』と呼ばれるか!      それは――最強だからに他ならない!

 <ふと、視界の隅に何かを見たケイは大笑いをする>

ケイ:あはははは!

ゼレット:おやおや! 言い返しもせずにどうした! 笑うしかないのか!

ケイ:――なら! やってみる!?

 <ケイは腕を組んで笑みを浮かべている>

ゼレット:……なんだって?

ケイ:戦士を引退した私は、どうしたってサークルに立つあんたを殴ることはできやしない!
   だが、私に出来なくても――『この街』が殴ることはできるんだよ!

ゼレット:……この街?

 <闘技場の向こう側から人影が現れる>

ゼレット:……ん? 君は――

スコット:よお。なにしてんだよ、あんた。

 間

ゼレット:なるほど……君が、ノービスの息子かい。

スコット:ああ? 知るかよんなもん。

ゼレット:奇妙な偶然――いや、必然かな。

スコット:んなことより――

 <スコットはゼレットを殴りつける>
 <ゼレットはその拳を片手で受け止める>

スコット:誰だか知らねえが……『俺の場所』に勝手に立ってんじゃねえ。

ゼレット:いきなり女に殴りかかるとは……。躾がなってないな。

スコット:は? ここに立てんのは戦士だけだぞ。
     優しく抱かれてえなら宿にいけ。

ゼレット:ふふふ……面白い子だ。

スコット:……おい、ケイ! んだよこいつはぁ!
     なんで入れた!

ゼレット:君は、本当に私のことを知らないのかい?

スコット:ああ? 知らねえなぁ。人の顔を覚えんのは苦手でね。

ゼレット:そうか……ふふふ。本当に、躾がなってない。

 <ゼレットは地面の砂を掴んだ>

ゼレット:この私が負けたのは一人だけだ。
     もはや数えることもやめたほどの戦いの中で一人だけ――私に勝った戦士の名はノービス。

 <ゼレットはスコットの胸元に砂を投げつける>

ゼレット:彼には、勝たれたまま、逃げられてしまった。

スコット:だから……んなもん俺には関係ねえんだよ。

ゼレット:いいや、関係がある。
     私はノービス――このデザートクローバーに大きな借りがあるんだよ。
     そして君は今、この闘技場を『俺の場所だ』と言った。
     なら私は、この借りを返さなくてはならない。

 <ゼレットはスコットに背を向ける>

ゼレット:怪我の具合はいいのかい。『ノービスの息子』

スコット:……人の心配より、自分の心配をしろよ。『元最強』

ゼレット:……へえ。それはつまり――

 <ゼレットはギラついた瞳でスコットを睨みつける>

ゼレット:私と――闘うということでいいのかな?


 <スコットは拳を突き上げる>


スコット:ケイ・”ブロード”・ホーキング!
     祭りの準備だァ!


ケイ:おう! ドデカイ祭りにしようぜ!

 <ケイもまた拳を振り上げた>

ケイ:さぁて、準備をしないと……。
   あんたたち! 終わったら電気、落としておいてよね!

スコット:おう!

 <ケイが客席を去ると、ゼレットはスコットに向き直る>

ゼレット:祭り……? どういうことかな?

スコット:自分が言ったんだぜ? 『この街』と闘うってよお。
     『鉄闘(スーヴォイ)』は、この街に張り巡らされた血管。
     アウェイなんて言葉じゃ生ぬるいぜ――

 <スコットは両腕を広げた>

スコット:こいよ、『最強』――『デザートクローバー』が相手してやる。

 <ゼレットは嬉しそうに微笑む>

ゼレット:なるほど。少し、面白くなってきた……君は、いいんだね。
     ここは、君の父が――

スコット:勝った場所だ。

 <スコットはまっすぐにゼレットを見つめた>

スコット:親父は死んだ。あんたとの試合で。

ゼレット:……ああ。そうだね。

スコット:俺にとっちゃそれ以上でもそれ以下でもねえんだ。
     何の因果か、親父と同じくゼレゾニークなんてやってるが……。
     いくら戦ったって、親父の言うことなんて理解出来やしねえし、理解する気もねえ。
     そいつは今だって変わらねえ。
     だけどな――

 <スコットは顔を伏せる>

スコット:もしかしたら……繋がってんのかも知れねえだろ。

ゼレット:……ほう、何が、かな?

スコット:……さあな。
     ここ最近、どこぞでくたばったバカ師匠の娘に付きまとわれて――
     いや……いいわ。

 <スコットはゼレットに背を向ける>

スコット:とにかく――しばらく闘わねえと思ってたけど、気が変わった。
     あんたには勝つ。
     俺の名が、忘れられなくなるようにな。

 <スコットは闘技場を後にする>
 <ゼレットはしばらくその場に立ち尽くしたあと、肩を震わせる>

ゼレット:ふふふ……。

 <ゼレットは顔を覆ってうずくまり、笑う>

ゼレット:はははははははは!! 面白いじゃないか、おい!!

 <ゼレットが顔をあげると、その顔には獰猛な笑みが張り付いている>

ゼレット:……私に勝つだと……? ガキが! 舐めてくれる!
     街ごとだ! すべて、私が喰らってくれるッ!


 ◆


 <夕方・作業を終えたムービーの元にレイシーが歩み寄る>

レイシー:ムービー。

ムービー:おおレイシー嬢! あいつには会えたかい?

レイシー:はい! おかげさまで。

ムービー:よくやるねえ、そんなにあいつがいいのかい?

レイシー:ええ。

ムービー:(口笛を吹く)お熱いねえ!

レイシー:え? いや……! そんなんじゃ!

ムービー:この街じゃ、『恋は砂鉄』って言い回しがあんだよ!
     磁石みたいにくっつけないと、恋はすぐ見失っちまうっていう――

レイシー:ムービー! だから違うの!

 <ムービーは磨いていた金槌を水につけると顔を上げる>

ムービー:あ、そういや! さっきは手伝ってくれて助かったぜ、レイシー嬢。
     ここ最近細かな依頼が多くてさ!
     無事に納品できそうなのはあんたのお陰だ!

レイシー:え、あ、そうですか。こちらこそ、とても勉強になりました!。
     お邪魔になっていなくて良かったです。
     それと……レイシーで良いですよ。ムービー。

ムービー:そうかい? じゃあ、レイシー!
     こいつは報酬みたいなもんだ――冷えたクローブエール! ここの名産だ!
     クブルムサボテンの実をフレーバーにしていて、爽やかで美味しいーー

レイシー:ください!

 <レイシーはムービーの手から瓶を取ると一気に煽る>

レイシー:ッぷはーッ! 生き返るー!
     実は走り回って喉がカラカラで……!

ムービー:ははは! 豪快だねぇ!

レイシー:美味しいですね! クローブエール!

ムービー:気に入ったか! なら、ここでも上手くやっていけるかもなぁ。

レイシー:はい!

 <レイシーはふと視線を泳がせる>

レイシー:ここで……この街で……。

ムービー:ん? どうした?

レイシー:あ、いえ……。

 間

レイシー:……スコットさんは、私を弟子にしてくれるでしょうか……。

ムービー:おいおい、さっきの今で、もう音をあげたのか?

レイシー:いえ……! 絶対に諦めません!

ムービー:おう! その意気だ!

 <ムービーはエールを煽って笑う>

ムービー:言葉なんて、そう意味はないんだ! レイシー!

レイシー:え?

ムービー:良くも悪くもな! この街にはこんな古いことわざがある!
     『鉄は口ほどにものをいう』!
     良い鉄鋼匠になるには、寡黙に、実直たれってことだ!
     諦めずに黙って叩いてりゃ、どんなに硬い『鉄頭(アイロニア)』でも丸くなるもんだよ!

レイシー:ふふ……じゃあお喋りのムービーは?

ムービー:俺様は特別さ! 喋りながらも、腕は動かす!

 <レイシーはその場に座り込む>

ムービー:ひとつ言えることは、何をいうかではなく、何をするかだ!

レイシー:何をいうかではなく……何をするか……。

 <ドアが開くと、スコットが入ってくる>

レイシー:あ。スコットさん……! あの、さっきは――

スコット:ムービー。ジャズの整備はどうだ。

ムービー:は? あー、いや。しばらくはいいっていうから、格納庫に――

スコット:今すぐに整備をはじめろ。

ムービー:え? あ、いや……どうしたよ。療養してるんじゃ――

スコット:祭りだ。

 <ムービーはすぐに立ち上がる>

ムービー:いつだ。

スコット:十日後――いや……今日を抜けば九日後だ。

ムービー:相手は。

スコット:最強。

 <三人の間に冷たい風が吹き込む>

レイシー:最強……え? それって――

ムービー:来た……キタキタキタァ!
     そいつはやべえ! マジで血がたぎるってもんだ!
     あのイカれた機体とジャズがやるって!? 皇国製のマジモンの軽量型だぜ!?
     そいつぁ最高に最高で最高じゃねえか!
     くぅ―ッ! 早速今晩から磨くとするぜ!

スコット:明日には乗れるか?

ムービー:当たり前だろ! 俺様を誰だと思ってやがる!
     この街一の天才鉄鋼匠、ムービー・パーキー様だぜ!?
     兵装抜きなら明日の昼ってところだ!

スコット:兵装の代わりのダミーは残ってるよな?

ムービー:ああ! だが、振動兵装は少し改良しようと思ってる。
     昼までにはその分の重量を削っとくさ。

スコット:頼む――そろそろ放送が入るぞ!

ムービー:待ってましたァ!

 <カンカンカン――と、街中に鐘の音が鳴り響く>

レイシー:この鐘の音は!?

ムービー:『鉄鋼組合(ギルド)』からの合図だ!
     電波受信機を入れろってことさ!

 <ムービーは受信機に飛びつくとダイヤルを回す>
 <しばらく砂嵐の音が入ったあと、声が聴こえる>

ケイ:『繰り返す! 黄天(こうてん)の月、十八の日――『鉄闘(スーヴォイ)』が行われる!
    対戦カードは我が街のエース、ジャズ! そして相手は、最強の戦士『グリフィン』!』

 <街中から声が上がる>

レイシー:グリフィン……! 本当に……!

ケイ:『手の空いている商人は、すぐに周辺の都市に噂を広めてきなさい!
    その辺で寝転がってるあんた達も! すぐに起き上がって顔を洗うこと!
    かきいれ時よッ! どいつもこいつも気合をいれろ!
    特に鉄工所に休みはないわよ! これから馬鹿みたいな量の注文が行くわよ!
    職がないろくでなしは各種組合に相談に行って、何が何でも金をかき集めてこい!
    そして! 稼いだ金は全部、『鉄闘(スーヴォイ)』にぶち込むのよ!
    ――お前らァ! 祭りだァ!』

 <街中から声が上がる>

ムービー:おおおおおおお! きたーーーー!

レイシー:街中から、声が……!

スコット:ああ。これがデザートクローバーさ。

ケイ:『最後にこれだけは言っとく!
    ノービスもきっと、この祭りに来るわよ! 最高に盛り上がれ!』

 <ひときわ大きい歓声が街中から聴こえる>

レイシー:ノービス……。

スコット:(微笑んで)……はっ。死人が祭りに来るかよ。

 <スコットは出口へ向かって歩く>

スコット:じゃあ、そういうことだから。頼んだぞ、ムービー。

レイシー:あ……! スコットさん――

ムービー:ちょーっとまった! スコットよぉ。

スコット:あ? 何だよ。

ムービー:人手が足りねえ。

スコット:……金なら払うから、誰でも雇えよ。

ムービー:わかってねえなあ……金で集まるようなやつは役に立たねえ。
     だからこそ、俺様は一人で全部やっちまうんだがな? ほら、天才の孤独ってやつよ。

スコット:んだよ……何が言いたいんだ。お前。

ムービー:俺はこれからお前と、この祭りのために全力で腕を振るう!
     だから! お前はには雇い主として俺の希望を叶える義務がある! そうだな!

スコット:回りくどいんだよてめえは! 何でも希望通りにしてやるっつってんだろ!

ムービー:そいつが聞きたかったんだ!
     なら! 俺の希望は一つ!

 <ムービーは笑顔でレイシーを指差す>

レイシー:……え? 私?

スコット:……は? お前……何を――

ムービー:レイシーに俺の助手をしてもらう!

レイシー:……え!?

ムービー:その子の腕は今日で見た!
     俺の速度にも十分ついていける!

レイシー:ムービー……!

 <スコットは背を向けたまま呟く>

スコット:……ああ。好きにしろよ。

ムービー:おっし! 言ったからな!

レイシー:あの……! 本当に……いいんですか!?

ムービー:なんだよレイシー、まさか嫌だなんて言わねえよなぁ!

 <ムービーはスパナをレイシーに突きつける>

ムービー:鉄を知るには――行動あるのみ、だぜ!

レイシー:ッ――はい! よろしくおねがいします!

ムービー:じゃあ、早速宿の手配だ!
     レイシー! ここの裏に良い宿が――

レイシー:ちょっと! ちょっと待ってください!

 <レイシーは工具箱に近寄ると、大きな鉄切狭を手に取る>

ムービー:は? おい、ハサミなんて何に――

レイシー:うんっしょっ!

 <レイシー美しい髪をまとめると、首の後ろにハサミを当てる>

スコット:は?

ムービー:おいおい! 頭に近づけんな! 危ねえぞ――

レイシー:んー!

 <ジャキという音がして、髪がバッサリとその場に落ちる>
 <レイシーは首を振るうと、顔を上げて笑顔を浮かべる>

レイシー:よし! スッキリした―!

ムービー:おいおい……! せっかくの綺麗な髪……!

スコット:なんで、お前……切っちまったんだ……?

レイシー:だって! 鉄工をするなら、長い髪なんてもってのほかでしょう?
     事故の一番の原因ですから!

ムービー:まあ、そりゃそうだが……!

レイシー:それに! ……スコットさんがグリフィンと闘うっていうなら……!
     ……最強に挑むっていうなら!
     私も……! チームとして、ちゃんと闘いたいんです!
     これは、その覚悟……みたいなものです!

 <腰に腕を当てて笑うレイシーを見て、パーキーとスコットは顔を見合わせる>

ムービー・スコット:(吹き出す)ぷっ……! あはははははは!

レイシー:ちょっと……! 笑うことはないんじゃないですか!?

ムービー:いやぁ! そうじゃないけどさぁ!

スコット:……ああ。何ていうか――

 <スコットはレイシーに近づいて、頭に軽く触れる>

スコット:似合ってるよ。こっちのほうがイケてる。

 <レイシーは満面の笑みを浮かべる>

レイシー:……はい!

スコット:うっし!
     ごちゃごちゃと考えてはいたんだが……とりあえずそういうのは全部、『最強』になってから考える。
     パーキー。それと――レイシー。

 <スコットは二人の顔を見つめた>

スコット:勝つぞ!

レイシー・ムービー:おー!

 <三人は腕を突き合わせた>



@「砂鉄の街」
A「鉄の女神」


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