シネテリズ/V
作者:ススキドミノ


ヴァイス:女性。22歳。科学兵器を操る一匹狼のスーパーヴィラン。

ソル・オールズ:男性。16歳。オールズ・インダストリーの社長嫡男。




※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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 【オールズ・インダストリー:第6研究棟】

ヴァイス:チッ……!
     やってくれんじゃねえか……!
     ユーリスのクソ野郎!

 <ヴァイスは、アーマーを外すと外傷を確認していく>

ヴァイス:傑作に傷つけてくれやがって……!
     ククク……! メタヴォイド製のアーマーマテリアルでもダメとはァ……。
     イカれてやがんなぁ、あいつのプラズマパワーはよぉ……。
     ただ、まあ――

 <ヴァイスは手慣れた手付きで装甲を分解していく>

ヴァイス:ありゃあ、精神の方がついてきてねえな。
     マスク越しでもわかるほどに動揺しやがって……ケケケ。
     ……次は必ず――ん?

 <研究室の電気が点く>

ヴァイス:おいおい……。
     無人だと思ってたんだが……一体誰だァ?

 <ソルはじっとヴァイスを見つめている>

ヴァイス:んだよ……ガキじゃねえか。
     こんな夜中にどうした? 夜ふかしとは関心しねえなぁ?

ソル:……ここは僕の研究室なんだけど。

ヴァイス:ケケケ……遊び場の間違いじゃないのか?

ソル:前々から、誰かがここに忍び込んで、勝手に機材を使っていたのはわかってたんだ。

ヴァイス:……あ?

ソル:だから、ここにいくつかのセンサーを仕掛けておいたんだ。

ヴァイス:……センサーだと……?
     私のスコープには反応がなかったが――

ソル:僕の開発した新型の感知システムだ。
   スコープで視える類のものじゃないよ。

ヴァイス:へえ……ハッタリか?

ソル:いいや。今も貴女をしっかりと捉えているよ。
   ――あの装置がね。

 <ソルは部屋の端を指差す>

ヴァイス:……あの装置は……。

ソル:空気粒子に含まれる粗密波を正確に選り分けて、内部モニターによって可視化しているんだ。

ヴァイス:ッ……! ククク……! 音響粒子速度計測の応用……。
     なるほどなァ……科学の触覚ってわけだ。

ソル:貴女がこの部屋に侵入したのも、僕には手に取るようにわかった。
   スーパーヴィランの『ヴァイス』――君の使っているジェットパックが発生させるイオン波は、特徴的な振動の波を伴うからね。

 <ヴァイスは腕を組んで笑いながらソルに歩み寄る>

ヴァイス:認めてやるぜェ。
     確かに、お前は優秀な科学者で、ここはお前のオフィスなんだろうさ。
     だが――お前は私のことを知っていたんだよなぁ。
     お前の言う通り、私は、スーパーヴィランのヴァイス様なんだぜ?
     もし仮に! もし私が! 人が少なく、機材の揃ったこの便利な研究室を『隠れ家』として使っているとして。
     お前のするべきことは一つ……。

 <ヴァイスはソルに顔を近づけて囁く>

ヴァイス:お前は私に気づかないふりをして、ゆっくりと寝床に帰り……、
     そして、頭の良い子供としての人生を送るべきだ。

 <ヴァイスはソルの顎に手を当てると上に向ける>

ヴァイス:なあ、そうだろ……?
     オールズ・インダストリーCEO、ジェームズ・オールズの嫡男――ソル・オールズ。

 <ソルはヴァイスの瞳をじっと見つめている>

ヴァイス:おっと……知らねえと思ったか?
     お前が知っているように、私もお前のことは知ってる。

ソル:僕のことを……?

ヴァイス:オールズ・インダストリーからは、新技術がまるで魔法みたいに飛び出してくる。
     その背後には、表舞台に姿を表さない天才少年、ソル・オールズが居るって噂さ。

ソル:……思ったよりもお喋りが好きだね。ヴァイス。

ヴァイス:ああそうさ。私は初対面の人間とでも楽しいお喋りができる。
     ……どうしてかわかるか?
     そりゃあな……『学校に行ったから』だよ、ソル。
     だからお前はすぐにベッドに入って、朝一で父親に伝えるんだ。
     『僕は新技術の開発なんて手伝いたくない。みんなと同じように学校に行きたい』ってな。
     ほら。理解したなら私のことは見なかったことにして、すぐに出ていけよ。
     痛い目にあう前になァ……。

 <ソルは少し考え込んだ後、机の上に置かれたヴァイスのアーマーに歩み寄る>

ソル:……このアーマーはヴォイドマテリアルを使っているのか。

ヴァイス:(ため息)……ちっと頭が回るのは認めてやるが――

ソル:ユーリスの攻撃を受け止めるのに、この未知の金属は大いに役立ってる。
   でも、今の状態だとユーリスの攻撃を受け止めるのは不可能だ。

 間

ヴァイス:ケケケ……! いいねぇ……続けてみろ。

ソル:以前、ユーリスの戦闘の動画を見た時、いくつかの発見をしたんだ。
   ユーリスは攻撃の時に、単一(たんいつ)のプラズマを発生させているわけじゃない。
   例えば拳なら、それがヒットする瞬間に特殊コアプラズマが発生してる。
   耐熱、耐衝撃(たいしょうげき)は防げても、拡散する粒束(りゅうそく)は抑えられていない。
   だから内部障壁が破られてしまう。

ヴァイス:ユーリスは近接攻撃を行う際、特殊高温プラズマを発生させて擬似電子核融合を起こしている……か。

ソル:ユーリスに力を与えているプラズマと、性質が変化していることは確かだ。

ヴァイス:確かに合点がいくぜ。
     あいつのプラズマがトンデモスーパーパワーだとしても、宇宙の理(ことわり)を外れてるわけはねえんだ……。

ソル:うん。間違いなく、ユーリスのパワーは科学で対抗が可能なものだよ。

ヴァイス:ソル……おもしれえな、お前。

 <ヴァイスは椅子に座ると机に肘をつく>

ヴァイス:なんで私にそんな話をする。

ソル:……そんな話って?

ヴァイス:どうしてわざわざ私に、ユーリスの攻撃の対策法を教える必要があるんだよ。

ソル:別に……僕が口にしたのは事実だ。
   貴女の使っている装甲を見て、それだと防げないと思ったから、そういっただけだよ。

ヴァイス:事実って……本当に天然の科学オタクか?
     自分で言うのもなんだが、私は悪党だぜ?

ソル:……そもそも、その悪党というのは、法律に反しているという意味で……?

ヴァイス:法律でも、モラルでも『なんでも』だ。

ソル:世間的には、そうなんだろうね。

ヴァイス:世間でそういわれているには理由がある。
     私は、窃盗や破壊、暴行、エトセトラ……社会に反する行動をとる。
     そしてその責任を負うなんてことはしないし、今後するつもりもねえしな。

ソル:それと、僕がヴァイスから逃げて、この場所を黙って明け渡すことに、なんの因果関係があるんだ。

ヴァイス:そこがお前の面白いところだよ、ソル。
     常識的に考えて、そういう人間には近づくべきではないからな。

 <ソルは少し思案した後、視線を伏せる>

ソル:……貴女は、どうしてヴァイスなんだ?

ヴァイス:……あ?

ソル:だから、どうして貴女はヴァイスとして活動をしているんだ。

ヴァイス:どうして……ってのはなにか?
     私には『こうしてヴァイスになった理由がある』と思ってんのか。

ソル:わからないよ。だから、聞いているんだ。

ヴァイス:まぁ、そういうやつもいるだろうさ。
     産まれた瞬間は、誰も彼も赤子だ。
     だから、それからそいつの過ごす環境の中で、そいつの人生が出来上がっていくんだってなァ。
     だが……そんなもんは一つの反応だ。
     貧乏人が皆、泥棒をするのか? 金持ちが皆、博愛主義なのか?
     いいや、違うね……。理由なんてありゃしないんだ。
     質問の答えとしては――私は、ヴァイスさ。
     産まれながらに、私なんだよ。

ソル:産まれながらに……。

 間

ソル:ヴァイスの目的は、なんなんだ……?
   ヴァイスは何がしたい?

ヴァイス:は! なんでお前にそんなことを話さなきゃいけねえんだよ。

ソル:……僕は、僕の人生しか知らない。
   僕の生きてきた環境のことしかわからない。
   だから、聞いたんだ。

ヴァイス:なんだそりゃ……ガキらしく学校で先生に聞け!

ソル:僕はヴァイスだから聞いているんだ。

 <ヴァイスは面倒そうに頭を掻く>

ヴァイス:(ため息)……お前、どういう人間なんだ?

ソル:……どういう……人間?

ヴァイス:お前の”理由”だ。
     ソル・オールズが、ソル・オールズである理由はなんだ?

 <ソルは机のコンピュータに触れる>

ソル:……『未知』を解明するのは、楽しい。
   新しいものを開発するのも……僕にとってはライフワークだ。
   父は僕の発明を会社で売ってる。
   そして、それがみんなの役に立つことが誇らしいって言ってくれる。
   でも……僕には、そんなもの、どうでもいい。

ヴァイス:どうでもいい、ねえ……。

 <ソルは自分の手のひらを見つめる>

ソル:どうでもいいんだ。
   愛情や、思いやりなんて、僕の中にはないのかもしれない。
   周りが僕をどう見ようと、何も感じないんだ。

ヴァイス:なんてことはねえなァ。
     なんだかんだ、お前はしっかり人間なんだろうさ。
     好きなものがあり、悩みがある。
     人間性が薄かろうが、お前は人間だ。
     つまり、お前が気にしてんのは――

 <ヴァイスはソルの顔を指差す>

ヴァイス:自分が何者かってことだ。

ソル:何者か……?

ヴァイス:心理テストをしよう。
     お前はもし仮に、『自分の開発した人工知能が感情を持ったら』どうする。
     ちなみに……この質問には三択で答えてもらう。
     一つ目は、『その人工知能をすぐにでも処分する』

 <ヴァイスは指を立てる>

ヴァイス:二つ目の選択肢は、『その人工知能の開発を進めること』

ソル:……三つ目は?

ヴァイス:三つ目は――『その人工知能の処遇を他人に委ねる』
     さぁ、お前なら……どうする。

 間

ヴァイス:ケケケ……これに答えるには正しく問題の本質を理解する必要がある。
     お前は正しく理解しているだろうが――

ソル:感情を持った人工知能が現れたとしたら……人間はその人工知能に支配される。

ヴァイス:わかってんじゃねえか。
     まぁ、今この世界が乗ってるレールの先に、確実に存在している未来だ。
     そうなるとは限らないと思うならそれでもいいがね。

ソル:二つ目の回答はそれを理解した上で開発を進めるということか。

ヴァイス:ただし、人間の行動原理には一貫性がないことは無視していいぜ。
     例えば『開発を続けろ』と脅されていたら――なんてことは考えなくていい。
     あくまで自分の考えを話せよ。
     面倒だと思うなら、三つ目の選択肢でいいぜ。
     他人に任せちまえば、あとはそいつが選択してくれるだろうさ。

ソル:僕は――

 <ソルはまっすぐにヴァイスを見つめる>

ソル:僕は、その人工知能を完成させる。

 <ヴァイスは手を叩く>

ヴァイス:おめでとう! お前は……そういう人間だ。

ソル:そういう、人間?

ヴァイス:ソル。お前は産まれながらそういう存在なんだよ。

ソル:……まだ、どういうことなのかわからない。

ヴァイス:今はそうかも知れないが……そうだな。
     そういう人間はこの世界じゃ生きにくい。
     共存と共栄を題材にした、出来の悪い物語の中じゃあな。

 <ヴァイスは立ち上がる>

ヴァイス:だが――私は、そういう人間は”良い”と思うぜェ……?

ソル:良い……?

ヴァイス:ああ。つまらないよりはずっといい。

ソル:それは……ヒーローのこと?

ヴァイス:ヒーロー?

ソル:ヴァイスは以前、テレビカメラに向かって、
   『ヒーローなんてつまらないもので私を止められると思っているのか』と言っていたよね。

ヴァイス:ケケケ……そんなこと言ったか。

ソル:けど今は、そのつまらないものに貴女は追い詰められている。

ヴァイス:……ああ、ユーリスのことを言ってんのか?
     だとしたらお門違いもいいところだぜ!
     あいつはヒーローなんかじゃない。

ソル:でも人は彼をヒーローだと呼ぶ。

ヴァイス:それはただの願望だ。大衆の作り出した偶像ってやつさ。
     テレビに映っている人間をスターだと呼び、自分たちとは違うものとして祭り上げ、
     少しでもそれを疑うような行動をすれば、期待を裏切ったと攻め立てるのと変わらない。
     ヒーローなんて呼び名自体、自分たちの稚拙な脳の中で物語を納めておきたい、クソ一般人作家共の戯言だ。

ソル:でも実際に……彼に助けられた人間も大勢いる。

ヴァイス:それはまた別の話だ。
     それでいうと、誰かにとって、誰もがヒーローってことになる。

ソル:誰かの助けを借りずに生きていける人間なんていない。

ヴァイス:だが、誰もが奴をヒーローにする。
     そしてユーリスはそれに答えようとして、気づいちまってる。
     自分がどうしようもなく人間なんだってことになァ。

 <ヴァイスは上唇を舐める>

ヴァイス:だから私はあいつを殺してやるのさ。
     大衆の前で完膚なきまでに叩き潰して、あいつをただの人間として殺してやる!
     つまらないヒーローのスーツなんて破り捨ててなァ……!

ソル:どうして、そこまでユーリスに拘るんだ。

ヴァイス:そりゃあ……愛しているからさ。

 <ソルは瞳を見開く>

ソル:……愛して、いる?

ヴァイス:ああそうだ! 私はあいつを愛しているんだ!
     だから……殺したくて仕方がない……!

ソル:……それがヴァイスの理由なのか……?

ヴァイス:おい……私がティーンエイジャーに見えるか?
     愛を理由に生きられるほど純粋じゃねえよ。

 <ソルはモニターを表示させる>

ソル:ヴァイスは、何がしたいんだ。

ヴァイス:は?

ソル:答えてくれ。そうすれば僕は……貴女の手助けができるかもしれない。

ヴァイス:手助け……?
     (吹き出す)ハハハ! いらないねぇ!
     なんだァ、お前……! 人に興味がないとか言っておいて、私のことが好きにでもなったか!?

ソル:違うよ。

 <ソルはモニターに化学式を表示させる>

ソル:貴女は確かに僕の疑問に答えてくれた。
   そしてそれは僕にとって、とても有益だったんだ。
   なぜならヴァイス。貴女は僕にとってのヒーローだから。

ヴァイス:……ヒーロー、だと?

ソル:ヴァイスは今まで強奪してきた『未知の科学物質』を、全て自分の目的のために使っている。
   その映像を見る度に、僕は心が震えた。
   同時に、怒りにもにた感情が芽生えたんだ。
   あれは――意図的に隠されてきたものだ。
   彼らは、隠してきたんだ。僕らの目に触れることの無いところで、秘密裏に研究をしていた。

ヴァイス:……それで?

ソル:それは……僕に言わせれば、悪なんだよ。ヴァイス。
   科学的発見を自分たちのものにし、それを使って何をしているか……その実態も見えない。
   人間はどこまでも利的だ。
   貴女の言葉を借りるなら、彼らは『どこまでも都合の良い物語を描いている』
   そしてそれを『美しい理由で装飾して』都合のいいページだけを僕に見せ続けている。

 <ソルはモニターのプログラムを指先で組み合わせていく>

ヴァイス:……このプログラムは、おい。お前……何を作ってやがる――

ソル:うんざりだったんだ。
   僕は嘘が嫌いだ。人が人である以上、正直になど生きていられないのがわかった上でだ。
   この世界は素晴らしいプログラムで組まれている。
   感情はプログラムを侵食し、人間の進化は未来を収束させようとしている。
   僕には――理由がなかった。
   だが、ヴァイスの生き方は僕の背中を押すのに十分なのかもしれない。

ヴァイス:ケケケ……お前は、何が知りたい。

ソル:ヴァイスの”理由”だよ。

 <ヴァイスはソルの組み上げたプログラムを見つめながら瞳を輝かせた>

ヴァイス:答えなら前にも言ったぜソル・オールズ……。
     私は、産まれながらに私だ。
     私は私の面白いと思うことをするのさ!
     その行動が悪党だと定義されるのなら、私は最凶の悪党でいい!

 <ソルはその言葉を聞いて口元に笑みを浮かべる>

ソル:ふふふ……そうか。

ヴァイス:それで! お前は何者だ! ソル・オールズ!
     このイカれた代物は一体なんだっていうんだよ!

ソル:現状を維持することが正義だなんてことは僕は認めない……。
   進化の過程で産み出した技術を、人間は常に争いや愚かな願望のために利用してきた。
   システムの恩恵を都合よく享受してきたんだ……その報いは受けるべきだ。

ヴァイス:なるほど……ソル・オールズ……!

 <ヴァイスはソルに向き直って笑った>

ソル:僕は……作ったんだ。

ヴァイス:(笑う)なるほどぉ! ギャハハハハハハ!

 
 <ソルの瞳が妖しく光る>


ソル:彼女の名前は、『テア』――感情を持った人工知能。


 <ヴァイスはおかしそうに目を細める>

ソル:僕の……愛する人だ。

ヴァイス:……そうかァ……お前は最初から――ヴィランだったんだなァ。

ソル:決めたよ……僕は君に協力する。

ヴァイス:どうしてだ? まだお前には選択肢がある。
     こいつをここで正しく書き換えれば、お前はどんな賞でも選びたい放題のスーパースターになれる。

ソル:そんなことを言うなんて、僕のことをわかっていないね。

ヴァイス:さっきまで『自分のことがわからない』なんて言ってたガキが、よく言うぜ。

ソル:貴女が愛と欲望のままに生きるというのなら、僕はそれを尊重したいんだ。

ヴァイス:尊重されたいなんて、頼んだ覚えはねえぞ。クソガキ。

ソル:僕もそう在りたいんだ……テアに正しく世界を見せてあげたい。
   そして、その上で世界の在り方に彼女が疑問を抱くのなら――僕は彼女のために世界を作り変える。

ヴァイス:その人工知能が嘘を覚えたらどうする。
     お前の嫌う人間に同調したならどうするつもりだ?

ソル:その時は、それを尊重するさ。
   それが、僕の愛だからね。

ヴァイス:……気持ち悪いなァ、お前。
     まあ、いいさ。お前はお前のために生きればいい。
     そして、利用できるものは利用するんだ。
     ヴィランなんだからなァ。

 <ヴァイスはアーマーを外すと机の上に並べた>

ヴァイス:手始めの私のスーツを預けてやる。
     ユーリスへの対策とは別に、面白いもんをつけて返しやがれ。

ソル:もちろん……代わりに必要なものは集めてもらえるんだろうね。

ヴァイス:ああ。欲しいもんはリストにしておけ。
     私が盗んできてやるよ。

ソル:……そうだね。

 <ヴァイスは研究室の出口に向かって歩いていく>

ソル:スーツもなしに、どうやって帰るんだい?

ヴァイス:……今日は久しぶりに地下鉄に乗りたい気分なんだよ。

ソル:……そうか。じゃあ、また。

ヴァイス:友達じゃねえぞ。気色悪い。

 <ヴァイスは研究室を後にする>

 <ソルは、モニターを操作する。宙に浮かんだ球体が、ゆらゆらと発光しながら部屋の中を飛び回る>

ソル:おはよう、テア。

 間

ソル:ようこそ……ここが、『君の世界』だよ。


 ◆


 <一年後・ソルは記者会見会場の控室に立っている>

 <鏡の前でスーツを直している>

ソル:……スーツは着慣れないよ。

 <ソルの背後にはヴァイスが立っている>

ヴァイス:ガキにしては似合ってるぜ。

ソル:ヴァイス。うちの警備をすり抜けるのに、ステルス機能を使ったのかい?

ヴァイス:こいつじゃあユーリスの視界からは逃れられねえし、使い道がねえんだよ。

ソル:彼もまた、成長しているからね。

ヴァイス:ああ、まったく……。変に吹っ切れたみたいで、バカみたいに手強くなりやがった。

ソル:言葉とは裏腹に嬉しそうだね。

ヴァイス:愛する男が強くなったんだ。そりゃあもうヨダレが出ちまうぜ。

ソル:君の愛は歪んでいるって気づいているかな。

ヴァイス:人工知能に命を捧げてるお前に言われたくはないな。

 <ソルは小さく笑うと手首の端末を操作する>

ソル:テアが怒っている。

ヴァイス:ああ……?

ソル:最近は、人工知能と言われるのが好きじゃないって言い始めたんだ。

ヴァイス:ハッ。一歳そこそこのガキが、大人ぶりやがって。

 <ソルは時計を見上げる>

ソル:……さて、時間だ。

ヴァイス:まさか、あのガキが新製品の発表会見とはねぇ。
     父親の後ろに隠れなくていいのか?

ソル:僕も、少しは成長したんだ。
   それに……テアの手前、かっこいいところは見せたいしね。

ヴァイス:やっぱり、気色悪いわ。お前。

ソル:……今回の新型コンピュータにはテアの『手足』を組み込んである。
   世界中で使われれば、一日ごとに膨大な情報がテアの元にフィードバックされる。

ヴァイス:そして始まる特異的進化――そのコンピュータが発売された日が、人類存亡におけるターニングポイントになる。

ソル:世界はもう、彼女のものだ。
   そして彼女がどうするかは――うん、行ってくるよ。

 <控室を出るソルの背中を、ヴァイスは面白そうに眺めている>

ヴァイス:……さぁ、スーパーヴィランのお披露目だァ。



 <たくさんの記者が集まる中、壇上にソルが登場すると、会場を歓声が包む>


ソル:『お集まりくださいましてありがとう。
    ソル・オールズです。
    この度は、我がオールズ・インダストリーからの、新しい提案を皆様に。
    我々が言うのもなんですが……オールズ(古臭い)考えは捨ててください。
    皆さんの無限の想像力が、すぐ目の前で実現します!
    このコンピュータ――『マヌスペース』によって!


 <喝采に包まれる中、ソルは両腕を広げる>





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