シネテリズ/H
作者:ススキドミノ


ユーリス:男性。22歳。プラズマを操り平和を守る正義のスーパーヒーロー。全身をスーツに包み、マスクをつけている。正体はマンガオタク。

エマ・グリース:女性。16歳。修理屋を営む実家のガレージに住んでいる。正体は科学オタク。




※2019年1月18日 台本使用規約改定(必読)




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【北部の街・フォアクロースの修理店・ガレージ】

 <ユーリスはマスクの通信機に向かって話している>

ユーリス:(息切れしながら)……ごめん。ヴァイスは逃してしまったよ。
     良いのが何発か入ったから、向こうもただじゃすんでいないはずだけどね。

 <ユーリスはボロボロの姿で電気店のガレージの中に座り込む>

ユーリス:(ため息)……こっちも大分消耗してる。
     スーツのシステムが言うには……うん。
     骨もいくつか折れてるし、脇腹には穴が空いてる。
     ……いや、一時間もあれば塞がるよ。
     ただ、そんなに猶予はないだろうから……。
     とにかく、ヴァイスを見つけないと。

 <ユーリスは破れたスーツに触れながら呟く>

ユーリス:うん。見つけたら連絡をいれてくれ。
     僕は――少し休憩が必要みたいだ。
     ここはガレージみたいだけど……僕の今の現在位置は……。

 <ユーリスは机の上に置いてある工具を手に取る>

ユーリス:修理屋ーー街の北側みたいだ。
     ……いや、大丈夫だよ。
     ヴァイスの位置を探ってくれ。ああ、また。

 <ユーリスは通信を切るとゆっくりと両手を上げる>

ユーリス:……さて、その手に持っているものをおろしてもらえるかな?

 <エマは階段の影から出てくる>
 <手に持った猟銃をユーリスに向けてしっかりと構えている>

エマ:……貴方、何者?

ユーリス:勝手に入ったのは謝る。
     望むならすぐに出ていくよ。

エマ:答えてないわ。貴方は何者?
   強盗っていうなら入る家を間違えてるわ。
   うちには金目のものなんてないもの。

ユーリス:……僕は――

 <エマは電気をつける>
 <ユーリスを見て、エマは目を見開く>

エマ:貴方は……!

ユーリス:僕のことを知っているのかな?

エマ:ええ……ニュースで。

ユーリス:そうか――おっ、と。

 <ユーリスはふらつく>

エマ:……怪我してるの?

ユーリス:……ああ。恥ずかしい話ね。

エマ:それって……ヴァイスって悪党と戦ったから?

ユーリス:……それも、テレビでやっていたのかい?

エマ:ラジオで聞いたの。
   隣町であなた達が戦っているから、今日は外に出ない方がいいって。

ユーリス:ああ、そうだね……。
     日々、生活を営んでいる人達には、迷惑をかけてしまっているよ。

 <エマは猟銃を下ろすと、近くの戸棚に近づいていく>

エマ:……待ってて。

ユーリス:え?

 <エマは薬箱を取り出すと、ユーリスに手渡す>

エマ:……これ、使って。

ユーリス:……どうして――

エマ:中のものは好きにしていい。
   傷の手当ての仕方なんてわからないから……手伝えないけど。

ユーリス:……ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ。

 <ユーリスがマスクに手をかけると、エマは視線を反らす>

エマ:……マスク、外してもいいの?

ユーリス:スーツを脱がないと治療ができないし……。
     マスクのままスーツだけ脱いでたら――こう……変態っぽいだろう?

エマ:そうじゃなくて……。
   私に素顔を見せていいわけ?

ユーリス:ああ……まあ、君が喋らずいてくれるなら、僕は構わない。

エマ:私が黙っている保証はないわ。

ユーリス:なら、君は悪党に狙われてしまうかもしれないね。

エマ:……それをいうなら今だって、貴方を匿っているようなものなんだから。
   今後、私が狙われるリスクは変わらないわ。でしょう?

ユーリス:だから、僕が守るよ。

エマ:守るって――

 <エマが振り向くと、ユーリスはマスクを外して微笑んでいる>
 <汗に濡れた髪を掻き上げた姿は、大学生程度の普通の青年に見える>

ユーリス:こんなに良くしてもらった君に、手を出させるわけにはいかない。
     僕が必ず、君を守る。約束する。

 間

エマ:……そう。

ユーリス:アルコールと、包帯を使わせてもらうよ。

エマ:ええ。好きにしたら。

 <エマはスーツを脱いで治療しているユーリスをじっと見つめている>

ユーリス:(苦笑して)……見るのは別にいいんだけど……そんなに気になるかな?

エマ:貴方って思ってたよりも若いのね。

ユーリス:まあ、そうかな。

エマ:いくつ?

ユーリス:えっと……22だけど。

エマ:じゃあ普段は学生かなにか?

ユーリス:急にインタビューが始まったみたいだけど、どういう心境の変化?

エマ:よく考えたら、こんな機会なんて一生に一度あるかないかじゃない?
   だから聞けることは聞いておこうと思って。

ユーリス:まあね。『人智を超えたスーパーパワーを持ったヒーロー』なんて、そうそういてもらっちゃ困る。
     ……あー……インタビューといえば――

 <ユーリスはガレージの至るところに置いてある実験器具を見渡す>

ユーリス:この器具は、君が?

エマ:え?

ユーリス:ただの街の修理屋じゃあ、どうしたって使わない機材ばかりだからね。
     その机の上のは確か――

エマ:それは摩擦試験機……作ったのは大分前よ。

ユーリス:そっちのコンピュータは、むき出しのデザインがクールだ。

エマ:それはエマセブンティーン。
   ボディはまだ、作ってないけど……。

ユーリス:エマセブンティーン?

エマ:だから……このコンピュータはエマセブンティーンって名前なの。
   その……私が一からデザインしたのよ。

ユーリス:なるほど。
     推察するに、エマとは君の名前で……セブンティーンは君の年齢って所かな。

エマ:私は16歳。来年に売り出す予定だから、セブンティーンにしてる。

ユーリス:歴史的発明品のプロトタイプにこうして出会えて光栄だよ。

エマ:からかってる? 本当に売れるんだから。

ユーリス:からかってないよ! 本当に。

エマ:そう……。

 間

エマ:……そのスーツ、見せてもらっていい?

ユーリス:ああ、構わないよ。

 <エマはユーリスのスーツを手に取る>

エマ:偏向シールド……これって、通電式だったわよね。

ユーリス:え? どうしてそれを――

エマ:コミックで読んだわ。
   ほら、貴方がインタビューを受けたってやつよ。

ユーリス:あれか! もう発表されたんだね。

エマ:よりによって、初めてのメディア出演がコミックだなんて……。
   貴方ってコミックオタクなの?

ユーリス:まさに。僕は生粋のコミックオタクさ。

エマ:だと思った……。
   ねえ、このスーツ。破れている所、回線を繋ぎ合わせるくらいならできるけど。

ユーリス:本当かい?

エマ:ええ。

ユーリス:でも、君にそこまでしてもらうのも――

エマ:……見ての通り、私は科学オタクなの。
   現役ヒーローのスーツ技術をいじらせてもらえるなら、私も願ったり叶ったりよ。

ユーリス:……なら、頼んでもいいかな。

エマ:うん。

 <エマはユーリスのスーツを手に取ると、机に向かう>

ユーリス:両親は?

エマ:旅行中。……わかってて入ったんじゃないの?

ユーリス:偶然だよ。街の東にある運動場で戦っててさ。

エマ:ってことは、壊したの?

ユーリス:少し……もしかして、君も使ってた?

エマ:私が男の子に混じってベースボールをするように見える?
   父さんが小さい子向けのチームでコーチをしてるのよ。

ユーリス:あー……すぐに直せるようにするよ。

エマ:ゆっくりでいいわ。父さんには仕事に集中してもらいたいし。
   もうすぐ冬なのに、うちには蓄えも少ないしね。

ユーリス:ここいら一帯は、積雪が多いからね。

エマ:知ってるの?

ユーリス:小さい頃、アイスホッケーをやってたんだ。
     この街のすぐ近くで試合があったんだけど、大雪で通行止め。
     国道でバスが停まってしまったことがあってさ。

エマ:ふうん……。
   あなたの街も近いんだ。

ユーリス:それなりにね。

エマ:自分の街の近くでスーパーヒーローが育ったなんて、なんだか不思議。

ユーリス:僕だってスーツを脱げばただの人間――とはいいけれないけど……。
     その時はまだパワーもなかったしね。

エマ:ねえ、スーパーヒーローになる前からスポーツマンだった?

ユーリス:それが全然。身体が小さくて、メガネをかけていて……まさにって感じだった。
     今だってフットボールの選手で、ムキムキの二枚目には見えないだろ?

エマ:そうね。少なくとも、その身一つでスーパーヴィランと戦っているようには見えないかも。

ユーリス:うん。そんなもんなんだよ。
     この世には、意外なほどに予想外なことがあったりもするんだ。
     僕らがもっているスーパーパワーとかね。
     こんなの、全くもって現代科学的じゃない。
     僕の身体の中に流れているプラズマは、核融合とは別物なわけだしね。

エマ:この世で起こっていることは科学で証明できるわ。
   つまり貴方の身体の中は、新しい科学的発見のブラックボックスだってこと。

ユーリス:おっと……研究対象にはしないでほしいな。
     例えば、スーツに付着してる血液をサンプルとしてとっておく――とかね。

エマ:……その手があった。

ユーリス:おいおい、勘弁してくれよ……。

エマ:冗談よ。
   私はまっとうに成功するから、スーパーヒーローの身体に興味はないわ。

ユーリス:それがいい。

 間

エマ:ねえ……あなたはどうして戦えるの?

ユーリス:どうして?

エマ:あなた今まで、人と戦うことなんて無縁だったんじゃないの?
   ひょろくてメガネをかけたコミックオタクが、スーパーパワーを手に入れたからって急にヒーローになるなんて信じられない。

ユーリス:ワオ、ぐさっとくるねえ。
     ……でも、ヒーローなんてそんなものじゃないかな?

エマ:そんな理由だとしたら、すぐやめると思わない?
   そりゃあ、私だって言い切れないわよ。
   急にスーパーパワーを手に入れたら、有頂天になって自分のために使うと思う。
   ムカつくやつをぶっ飛ばしたり、欲しい物を手に入れるのに使ったり――

ユーリス:(笑って)それじゃあヴィランまっしぐらだ。

エマ:(笑って)確かに。私はもしかしたらヴィランになっていたかも。
   それだけ鬱屈してるし、支配されてることに嫌気がさしているもの。
   女で、しかも科学オタクなんて、思っている以上に肩身狭いし。
   顔を見るなり嫌がらせばかりで……頭も悪いやつばっかで反吐が出る。

ユーリス:うん。

あま:でも……根っから悪い人間じゃない自覚もある。
   もし、目の前に困ってる人間がいたら、きっと――ううん、助けると思うわ。

ユーリス:……それが理由じゃ納得できないのかい?

エマ:だって、貴方のことを悪く言う人間もいるでしょ?
   街を破壊された人からしたら、ただの犯罪者だって。

ユーリス:事実だね。

エマ:貴方がいるから、悪党が現れる。

ユーリス:事実だ。

エマ:貴方の存在は、国の安定性を脅かしている。

ユーリス:全部事実さ。

エマ:でも、貴方に救われた人間はそれ以上にたくさんいる。

 間

ユーリス:誰もが等しく人間なんだってことだよ。

エマ:……そんなの、当たり前でしょ?

ユーリス:うん。そうなんだけどね。

 <ユーリスは血がにじむ傷口にアルコールを吹きかける>

ユーリス:誰しも、弱いんだよ。
     表面的な強さはそれを明らかにする。

エマ:スーパーパワーを持つ貴方も怪我をするってこと?

ユーリス:僕が怪我をしたと知られれば、僕の居ない間に悪党共は僕の守ってきたものを狙いにくるだろう。
     だから僕はそういう姿を見せないように気をつけているんだ。
     でも……それでも人は怖くなってしまう。
     今の僕は誰にも被害が出ないように、誰もを等しく救えるように戦っている。
     でも、いつ僕が周りを気にすることなく戦うようになるかもしれない。
     もしかしたら自分の敵になるかもしれない。

エマ:そんなの、考えていたらきりがないわ。

ユーリス:でも、考えずにはいられないんだよ。
     僕の力を抑えることができたら。
     そもそも、僕がいなくなれば安心なんじゃないか。
     だったら、いざというときに僕を殺せたらいいんじゃないかってね。

エマ:……やっぱり納得できないわ。

 <エマは、機材にスーツを繋いで電源を入れる>

エマ:貴方がそんなに強い存在には見えないもの。

ユーリス:そうかい? 僕はプラズマを操って空を飛ぶことができる。
     200トンの瓦礫だって持ち上げられるし、それ以上の重さを触れずに動かすことだってできる。

エマ:それはただの力の説明で、貴方の力じゃない。

ユーリス:僕の力?

エマ:本当にあなたが持っているのは……そこまでわかっていて戦い続けることができる、そのハートなんじゃない。

ユーリス:ハート?

エマ:貴方は別にスポーツマンじゃなかった。
   誰とも争うことをしないことで、自分と相手を守ってきた。
   それが今、力で相手とぶつかることで戦っている。
   その根底にあるものは、きっと昔からあったものなんだと思うわ。

 <エマはユーリスの眼前に立つ>

エマ:貴方、ヒーローだったんだわ。最初から。
   だから、怪我をしても、助けた人に感謝されなくても、国民から恐れられても――今も戦い続けている。

 間

エマ:10年前、修学旅行でラットヴィールズの科学博物館に行ったのよ。
   そこに展示されている宇宙鉱石のひとつを狙って、スーパーヴィランが私達を人質にとったの。
   その後……私達は、あなたに助けられた。

 <エマはユーリスに背を向けてスーツに電気ボルトをつける>

エマ:父や母は、あなたのことが嫌いなの。
   そのヴィランが捕まったとき、『鉱石を盗みに入ったのは、ユーリスを倒すためだ』って言ったから。
   あいつが居なければ、私は危険な目に合わなかったって。

ユーリス:ご両親の言うことはもっともだよ。

エマ:違うわよ。
   それが、違うって言ってるの。私は。

 <エマはスーツを広げる>

エマ:この街の人間は貧乏だから、よく強盗が起こるの。
   それが普通。数週に一度は発砲事件が起こっても、それがなんだって感じ。
   心まで貧乏になっていくのよ。だから高望みなんてしない。
   でも私は……それが当たり前だからなんて思わない。
   私は、自分の力で自分の環境を変えてみせる。
   エマセブンティーンだって、私の成功の第一歩。

ユーリス:……君は、立派だね。

エマ:何言ってるのよ……。そのチャンスを私にくれたのが、貴方よ。

ユーリス:……え?

エマ:あのヴィランだって、貴方の名前を出したけど……根っからの悪党だった。
   あいつも……私の街のゴロツキと一緒なのよ。
   金がないから。家が貧乏だから。誰も自分を認めないから。
   そんな言い訳をして、誰かを傷つけて、持ってるものを奪ってやろうってだけなのよ。
   「ユーリスというスーパーヒーローがいるから、自分は悪事をしてる」――なんて……その時の都合の良い言い訳でしかない。
   ……自分たちが強盗に襲われたら?
   そこを誰かに助けられたら?
   そんなの……することは一つしかないじゃない。

 <エマはユーリスにスーツを差し出す>

エマ:ユーリス……私を助けてくれてありがとう。
   ずっとお礼が言いたかった。

 <ユーリスはスーツを受け取ると、握りしめる>

ユーリス:……僕は……。
     今日、ヴァイスというヴィランに言われたんだ。
     『お前は弱ってる。孤独に呑まれかけてる、ただの臆病者だ』ってね……。
     ……僕はね、図星を付かれたんだ。
     最初はただの正義感だったんだ。誰かを助けて、喜んでくれる声に舞い上がって――
     でも、慣れてきた頃に、その中のひとりが僕を偽善者と呼び始めた。
     するとどんどん声は増えていくんだ。今まで応援してきた声をかき消すように大きな意志が、僕を押さえつけてくる。
     その声を振り払うために必死に戦って、戦い続けていって――
     ……今、それが誰のためかと聞かれて……すぐには答えられなくなっていたんだ。

 <ユーリスは自分の手のひらを見つめる>

ユーリス:……僕の身体を流れるプラズマには、意志がない。
     それを振るうのは僕の責任だ。だけど僕はその責任を果たせているとは言い難い。
     言葉や、意志や……そういうものは、僕の力をどんどん奪っていく。
     君の言う通りだよ。僕のスーパーパワーの源は……僕のハートだったんだ。
     ハートが燃えない僕じゃ、ヴァイスや……他のスーパーヴィランになんか勝てっこない……。

 <ユーリスは自分の胸に触れる>

ユーリス:確かに僕は……誰に感謝されなくても、ずっと戦ってきた。
     でも、そうやって意識をしていないふりをしているうちに、僕は一人になっていった。
     だんだんと思考が切り替わっていくようになっていったよ……僕はただの人間なんだって。
     だから落ち込むこともある。仕方がないことなんだってね。
     ……でもそうしているうちに、怪我が怖くなった。戦うのが怖くなっていった。
     確かに、僕はただの人間だ。
     このスーツの内側には、プラズマを操れるだけどただのオタクの少年がいるんだ……!      そんな少年の僕が――どうして戦うことができるのか。
     どうして僕が戦うのか……その理由を、君との出会いで思い出したよ。

 <ユーリスはスーツを装着する>

ユーリス:エマ……君は、未来なんだ。
     君がひたむきに自分の世界で戦うかぎり、僕も戦う……!
     君が理不尽な暴力にさらされた時、僕はそれを止める……!
     君の大切なものを誰かが奪おうとするかぎり、僕はなんどでも君の前に現れる!
     そして、君を――助けを求める誰かを助けることで!
     僕は初めて、未来を守るために戦うことができるんだ!
     そうだ……!

 <ユーリスはマスクを装着する>


ユーリス:僕は――ユーリス。

 
 <ユーリスの全身をプラズマが駆け抜ける>


ユーリス:弱きを助け、悪を挫く!
     正義のヒーローだ!


 <エマはその姿を見て微笑む>

エマ:……大げさ。

ユーリス:(笑う)ははは! そうかな?

エマ:うん。オタクっぽい言い回し。

ユーリス:じゃあついでにもうひとつ。
     ……エマ。僕を助けてくれて、ありがとう。
     僕はまた――ヒーローになれた。

 <ユーリスは屈伸すると、手にプラズマをまとわせる>

エマ:調子はどう?

ユーリス:完璧だ。うちのエンジニアが君を欲しがるかもね。

エマ:じゃあ、そのエンジニアさんに言っておいて。
   大学にいくまでに声をかけてって。

ユーリス:(笑って)ああ、わかった。
     そのときは、一緒に仕事をしよう。

 <ユーリスはガレージの出口に手をかける>

ユーリス:あ、そうだ。
     エマセブンティーンの発売日はいつだった?

エマ:え? まだ決めてないけど――

ユーリス:それじゃ! 一台予約しといて。
     それまでは古いウィンドウズで我慢しておくからさ。

エマ:え、本当に?

ユーリス:もちろん。
     来年までは、世界が終わらないようにしておくとするよ!

 <ユーリスは外へ飛び出していく>
 <窓の外には雪が降り出していた>


 ◆


 <一年後・エマは電話をしながらガレージに入ってくる>

エマ:(電話口に)……だから。結局ダメだったの。
   だから……! 出資するって言ってた資産家が、やっぱりやめるって……!
   オールズ・インダストリーの新作に出資するって……!
   どうせすぐ新作をだして『古いガラクタ(オールズ)』になるに決まってる!
   クソ腹が立つ……!

 <机の上には完成したエマセブンティーンが数台置いてある>
 <エマその中の台数が足りないことに気づく>

エマ:……あれ……? いや、なんでもない。
   プレゼン用に納入したエマセブンティーンが二台なくなってて――あー、ごめん。一度切るわ。
   また電話する。

 <エマは電話を切ると、机の上に置いてある封筒と手紙を手に取る>

エマ:(吹き出して)……嘘でしょ……?


 <それはユーリスからの手紙>

ユーリスN:やあ! ようやく形になったみたいだね。
      僕もSNSで動向をチェックしてたんだけど……画期的なデザインでかなりクールだ!
      光スクリーンを使った操作システムも、僕好みで楽しみにしてたんだ! あれを触ってみたところを想像したら、化学系のヒーローっぽくなりそうだろ?
      ああ、そうだ。カラーリングも数種類出しているみたいだけど、レッドがないのはどうしてかな?
      いや、いいんだけど、新しいテクノロジーってやっぱり赤が似合うかなって。
      どうかな? 取り入れてもらえると嬉しいよ!

エマ:(ため息)オタク丸出し。

ユーリスN:どうやら発売する前に出資先が居なくなってしまったみたいだね。
      そこで! 出資先として立候補するよ!
      その封筒には僕が持っている会社に向かう飛行機のチケットが入ってる。
      ぜひ一度話をさせてもらえると嬉しいな!
      あ、サンプルを一台持ち帰らせてもらったけど、許してほしい!

エマ:(笑顔で)勝手なことしないでよ……!
   ……で、あと一台はどうしたわけ?

ユーリスN:もう一台は――予約したよね?
      値段がわからなかったから、お代は封筒に。

エマ:(微笑んで)まったく……ヒーローが盗みとはね。


ユーリスN:17歳の誕生日おめでとう!
      僕のヒーロー、エマ。




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