アストミライ
作者:domino


阿諏訪 秀人(あすわ ひでと)
川合 未来(かわい みき)






−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−









秀人N:川合未来は、とにかく目立つやつ。
    ありきたりだけど、俺にはそんな印象しかなかった。
    そもそも、俺は社交的なタイプではないし、クラスの中でも目立たないタイプだってのは理解している。
    かといって1人でいたって平気だ、なんて強がるつもりもないし、輪の中に入りたいと思ったことは何度だってある。
    そこまでわかっていて尚、数少ない友達と呼べるやつと居ないときは、教室の隅で座っている。
    だから、ちゃんとわかっている。何度も言うとおり、俺は社交性なタイプではないということだ。
    対して川合未来はーー俺の真逆、といってしまうのは彼女に失礼だろう。
    きっと彼女も俺なんかにはわからない悩みや、それこそ俺にはわかりっこないような事情だってあるに違いない。
    ただ、俺から観た川合未来というのは、それこそ地味で目立たない立ち位置に居るような存在ではなかった。
    いつも彼女の周りにはたくさんの人がいて、彼女を中心に幾つものコミュニティがクラス内に存在している。
    それが、俺にとっての川合未来。
    だから彼女が立候補したとき、それはまさに俺にとって晴天の霹靂だった。

未来:阿諏訪君。

秀人:……はい?

未来:えっと、さっきホームルームで言ってたボランティアの話。

秀人:あ、ああ。それが?

未来:私、やりたいんだけど。どうしたらいい?

 間

秀人:え?

未来:おーい。イヤホンとかしてる?

秀人:いや。

未来:だぁかぁらぁ。ボランティアの話、さっきいってた。
   学童クラブのクリスマス会の企画? だよね。

秀人:ああ、そう、だけど。

未来:私、やりたいんだけど。

秀人:ああ、うん。

未来:反応うっすー……。

秀人:いや、そうじゃなくて……。

未来:ん?

秀人:デカく観えないけど、すげえリアクションはした、つもり。

未来:え?

秀人:いや、だから……。

 間

未来:(吹き出して)ああー! なるほどね!
   固まっちゃうくらいビックリした、みたいなね!
   そっち系のリアクションかー! ウケる! 確かにね!

秀人:そっち系……とかはわかんないけど。

未来:あーおっかし……。
   それで、どうしたらいい? なんか紙とか書く?

秀人:いや、そういうのはいい。

 間

未来:いやいや。じゃあ、どうするの?

秀人:あ、悪い。

未来:……無視されてるみたいで笑えないんだけど。

秀人:いや、だから……まだ驚いてるっていうか。

未来:はぁ? 流石にもういいでしょ。
   ってか……そんなにイメージない?

秀人:えっと、いつ来れる。

未来:え?

秀人:だから。いつ来れる。放課後。

未来:あ。うん。別に、いつでも。

秀人:じゃあ、今日はあれだから、月曜日。
   学童の場所ってわかる?

未来:あー……なんとなくだけど。

秀人:じゃあ、校門前で待ち合わせで。

未来:うん。わかった。

 間

秀人:それじゃ、帰る。

未来:あ、うん。

秀人:そうだ。あの……川合さん。

未来:ん?

秀人:ありがとう。

 間

秀人:いや、なんていうか……正直、先生に言われたから告知しただけで。
   誰か手伝ってくれるって、思ってなかったから。

未来:……いや、まだなんもしてないし。

秀人:それでも、嬉しい。

 間

未来:ふぅん。変なの。

秀人:じゃあ、月曜日。



秀人N:すっぽかされたらどうしよう、とか考えなかったわけじゃない。
    実際、忘れてしまうような用事だと思うし、なにせ川合さんのこともよく知らなかった。
    そうなったらわざわざ声をかけることもない。なかったことにしてしまおう。
    そんなことを考えながら、月曜日の放課後、自転車を押して校門へ向かった。
    川合さんは、居心地悪そうに立っていたーーいや、俺を待っていた。



川合:何時とか!

秀人:え?

川合:何時とか! 言ってないし。

秀人:いや……たしかにそうだけど。

川合:声掛けてくれてもよくない!?
   同じクラスなんだし!

秀人:……それは、でも、そっちも。

川合:はい! 行くよ! 早く!
   見られたらダルいし!

秀人:ああ、うん。



 ◆



未来N:阿諏訪秀人は、とにかく地味なやつ。
    当時の私にとって、阿諏訪の下の名前をあらためて意識する機会がくるとは思っていなかった。
    それくらい、印象にすらないくらい、関わることのない相手だった。
    別にあえてそうしているとかそういうことではなくて、単純に私の周りにはたくさん人が居て、毎日が騒がしいのだ。
    部活にも入っていないから時間はあるし、遊ぶ場所だってたくさんある。
    土曜日に塾に行っている分、勉強もついていけないわけではない。
    彼氏だってついこの間までいた。
    そう言えば、今思うときっかけはそれだったかもしれない。
    友達に言わせれば『軽い男』だったわけだが、
    私にしてみればやつがどんな男だったかも、別れた理由もどうでも良かった。
    ただ、やつが別れるときにいった一言がずっと気になっていた。
    『実際、お前普通すぎてつまらないっていうかさーー』
    普通って、なんだ。つまらないのはお互い様だろ、なんて思った。
    それでも鏡を覗く度にリフレインする。
    普通って、なんなんだろう。


秀人:えっと、二週後のクリスマス当日に、児童クラブで児童向けのクリスマス会をやるんですが、
   それの出し物を企画するのに、その……まあ興味があれば、ボランティアになるんですが、
   手伝ってくれる人がいたら、お願いします。


未来N:まばらな拍手と、取ってつけたような担任のコメントを背に、彼が席へと戻る姿をジッと見つめていた。
    名前は確か……出席番号前だった。『あ行』とか、そんな感じ。
    そう、阿諏訪。
    阿諏訪はなんで、ボランティアなんてやってるんだろう。
    クリスマスだし……まあ、彼女がいそうかと言われたら正直そんな風にも観えないけど。
    私は、なんとなく思ったんだ。
    なんでそんなことしているんだろう、なんて思ってしまっている私は普通で。
    そう思われている阿諏訪は、もしかして、普通ではないんじゃないのか、なんて。
    そうして私は、ホームルームの後、阿諏訪の後を追ったんだ。



 <三日目・児童クラブ・空き室>


未来:だからさぁー! もっとキラキラしてないとつまんないって。

秀人:予算がないんだって……この話何回目だよ。

未来:つまんなー! 却下ばっかじゃん……。

秀人:別に意見自体を却下してるわけじゃないだろ……。
   現実的にできる範囲に絞ろうってだけで。

未来:もう3日たつってのに……大元がきまんなきゃ準備にも入れないし?
   あと1週間ちょいしかないのに。

秀人:『キラキラしたクリスマス』ってのはいいと思うよ。
   でも、大きなクリスマスツリーを何本も、とか。
   電飾も安くないし、お笑い芸人とかラッパーとか呼ぶ金もないってだけ。

未来:はいはいわかりましたー! すみません、口だけで考えなしで!

 間

未来:何? 怒ってんの?

秀人:いや……。

未来:何よ。

秀人:違うよ。だから……。

未来:何が!

秀人:だから。川合は、ちゃんとやってるって。

未来:何よその言い方は!

秀人:本当に! 意見、すげえ出てくるし。
   ダメなのは、俺っていうか……。

未来:はぁ?

秀人:俺、こういうの本当ダメなんだよ。
   全然思いつかない。アイディアとか。

未来:……あっそ。

 間

未来:ちょっときゅーけー。

秀人:……おう。

未来:阿諏訪ぁ〜、お菓子〜。

秀人:ああ……(放り投げて)はい。

 間

未来:(食べながら)あのさぁ、阿諏訪。

秀人:ん?

未来:阿諏訪はなんでボランティアしてんの。

秀人:なんで、って。

 間

秀人:別に、理由という理由はないけど。

未来:そうじゃなくてさ。どうしてここで、この企画1人でやってるのかっていう。

秀人:経緯とかそういうのか。

未来:ざっつらいと。

秀人:俺、この学童クラブ出身っていうか、小学校のときずっと世話になってて。

未来:へえー、じゃあ中学も近所の第三中学とか?

秀人:そう。

未来:じゃあ藤本とかアッキーとかと一緒じゃん。マジで?

秀人:そうそう。

未来:意外。サンチュウ出身者ってみんなあんな感じじゃん。

秀人:派手系?

未来:そーそー!

秀人:じゃあ俺は地味系かよ。

未来:そーそー。

秀人:容赦ねえな。

未来:それで、ずっと手伝ってるってこと?

秀人:うん。中学入ってからも、人手足りないの知ってたから、たまに。

未来:ふぅーん。

秀人:……まあ、普通だったらもっとやることとかあるんだろうけど。
   俺は特にやることもーー

 間

秀人:川合? どうした?

未来:……んーん。なんでもない。

秀人:……そっか。

 間

秀人:川合はどうして、手伝ってくれる気になったんだ?

未来:別に。

 間

未来:どうでもよくない? そんなの。

秀人:……おう。

 間

未来:あー、今日水曜じゃん。

秀人:え?

未来:普通に忘れてた。ちょっと用事あるんだよね。

秀人:おう。そっか。

未来:じゃ。



未来N:馬鹿みたいだけど。しょうがないじゃん。
    普通だって、言われたみたいで、拗ねてしまったんだ。
    用事なんて別にないのに。



 ◆



 <4日目・児童クラブ・空き部屋>


未来:……うっす。

秀人:おう。来たんだ。

未来:……おう。来たけど。

秀人:今日は話し合いは中止だから。

 間

未来:え? なんで?

秀人:俺も考えたんだけどさ。
   あー、細かい説明はいいか。

未来:いや、しろよ! 説明!

秀人:うわ。キレんなよ。怖いから。

未来:そうじゃなくて!

秀人:違う違う! ただやらないだけじゃなくてさ。
   どうしても、お願いがあって。

未来:……何。

秀人:遊んでやってくれないかな。

未来:はぁ?

秀人:ここのチビ共と。

未来:……なにどもと?

秀人:今日、いつもきてるひとが来れなくて、人手足りないから。
   雨降ってるし、中で遊ぶんだけど、一緒に面倒見てくれない?

 間

秀人:子供とか、嫌い? じゃないと、いいんだけど。

未来:(吹き出して)いいよ。

秀人:マジで!?

未来:いやいや、ここ来てんのに子供苦手とかなにいってんのって話だし。

秀人:じゃあ、下の体育館で。
   あ。上履きあるからもってくる。足のサイズ、いくつ?

未来:え? 何?

秀人:……そのスリーサイズ聞かれたみたいな反応なんだよ。

未来:いいたくないでしょ。ってか、自分で選びに行くし。

秀人:なんでいいたくないわけ。

未来:きもい。

秀人:うわぁ。


 ◆


 <数時間後・空き部屋>

未来:っ……だぁー! つっかれたー!

秀人:おつかれ。(飲み物を置く)

未来:なんなのあの子ら! 元気すぎるでしょ!
   私らと一緒で、学校行ったあとなのになんで!?

秀人:年ですかね。

未来:は? なにそれ。

秀人:真顔はやめてくれ。

未来:ん? これ! ネクターじゃん!
   懐かしー! ちっちゃいとき飲んだわー!

秀人:甘ったるすぎるかな? お茶もあるけど。
   ここの自販機、甘いのそれくらいしかなくて。

未来:ぜんっぜんいい。むしろいい。

秀人:そっか。

 間

未来:あのさ。

秀人:ん?

未来:なんか、みんなでできたほうがいいのかも。

秀人:……何が?

未来:出し物。ほら、電飾とかそういうので飾るより、みんな参加できたりしたほうがいいかなって。
   なにかなー……例えば、出店の屋台みたいなの。
   それのクリスマス版とかーー阿諏訪?

秀人:ん? 何?

未来:メモってよ! 忘れるかもしんないし!

秀人:ああ、ごめん。

未来:そういえば! クリスマスといえば基本のさ、あれある?
   サンタのコス!

秀人:ああ、それはあるよ。毎年職員が着るしね。

未来:オッケ。やっぱサンタ絡みだよなぁ……。
   んで、好きに遊べて……。

秀人:持って帰れる、とか。

未来:ん?

秀人:ほら、家に帰って、親に見せられるし。

未来:あー、そっか。そうだね。それナイス。

秀人:おう。

未来:んー……遊べて、持って帰れて……。

 間

秀人:あ。

未来:え? 何?

秀人:退館時間。

未来:マジでー!? 超いいところだったのにー!

秀人:また明日だな。

未来:私のさ! この灰色の脳細胞が、こう! ひらめきを!
   エジソンも真っ青の発明をするところだったわけ!
   わかる!? 阿諏訪! 感じてた!? 私が乗っているのを!

秀人:はいはい、わかったって。荷物まとめて先に出てろよ。


 ◆


 <帰り道>

未来:うわ、さっむ。

秀人:そりゃあ12月も中頃だし。

未来:それもそうだけど……汗も冷えたっていうかさ……。

秀人:あー、そっか……。

 間

秀人:俺の上着ーー

未来:阿諏訪。

秀人:……何?

未来:おすわり。

秀人:いや……犬じゃないし。

未来:ダメ! 上着貸すとかダメ。

秀人:なんでだよ。

未来:どこで覚えた、そんな知識。

秀人:どこでとかの問題か?

未来:そうじゃなくて! それは、ズルいやつだから。

秀人:……なんのズルだよ。

 間

秀人:ほら、着ろよ。駅まででいいから。

未来:ダメだってー! もうー!

秀人:俺はジャージの上あるから。
   ……ってか川合、ジャージ着りゃいいじゃん。

未来:は? 普通に置いてきた。

秀人:いや……洗濯は?

未来:1週間に一回でよくない? ジャージだし。

秀人:今日も体育あったろ。

未来:……よくない?

秀人:うわぁ。

未来:寒いから汗かいてないし。

秀人:うわぁ。

未来:かいていたとて女の子だし。

秀人:関係ないだろ。

未来:女の子の汗は汚くないの!

秀人:(上着を差し出して)いいから早く着てくんね?
   俺もジャージ着たいから。

未来:(上着を受け取って)……おう。

 間

未来:……ねえ。

秀人:なに。

未来:……ズルだから。

秀人:……おう。

 間

未来:……ねえ。

秀人:ん。

未来:楽しかったわ。今日。

秀人:……おう。

 間

未来:あー、雪、降んないかなー。

秀人:雪?

未来:そ。ホワイトクリスマス。憧れじゃん?

秀人:俺ずっとこの辺住んでるけど、降ったのなんて何回かしかないな。

未来:そっか。

 間

未来:あれ? そういえば、近所だったんじゃないの?

秀人:ん? ああ、家?

未来:……うわー……私、送られてる。

秀人:今更だろ。それに、駅までなんてそんな距離でもないし。

 間

未来:……ズルだわ。

秀人:もういいって。


 ◆


 <7日目・児童クラブ・空き部屋>

未来:できたー! 可愛くない!? これ!

秀人:ああ! いい出来だと思う!

未来:阿諏訪!

秀人:なんだ!

未来:どいて!

 間

未来:写真取りたいから! どいて!

秀人:……はいはい。

未来:(写真を取りながら)んー! いいよぉ……可愛いよぉ……もっと笑顔みせてもらおうかぁ……。

秀人:(伸びをする)

未来:次はちょっとはだけてみようかぁ……ぽろりしてみよかぁ……。

秀人:やめろエロカメラマン。

未来:マジで興奮するわー! 2人で作ったとは思えなくない!?

秀人:3日かけたから……とはいっても、かなりクオリティは高いと思う。

未来:流石私だわー!

秀人:流石俺だなー。

未来:はいはいすごいすごい。

秀人:うざ。

未来:後は、細かなオーナメントだけ?

秀人:作り方の本はここの図書室から借りてきといた。
   先ず教えられるくらい上手くならないと。
   どっちにしろ作り置きしなきゃいけないんだし、やってれば覚えるだろうけどな。

未来:私はすぐ覚えられると思うけどねぇ。

秀人:ん? いや、俺は川合に言ってるんだけど。

 間

未来:は?

秀人:俺は毎年作ってるから、作り方完璧なんで。

未来:はぁ!?

秀人:これは、貸し出してあげますんで、ちゃーんと練習してください。

未来:うざ。

秀人:代わりに俺も、一つ考えたからさ。

未来:ん……何?

秀人:ほら、川合が前に言ってただろ。
   それ、やる。

未来:私は色々言ってるからどれかわからないんですけどー?

秀人:お楽しみってやつで。

未来:なんでよー! 2人でやってきた企画だろうがー!

秀人:実際さ。

 間

未来:なんだよう。

秀人:実際、俺はなんもできてないっていうか。

未来:これ、一緒に作ったの忘れた?

秀人:そういうことじゃなくて! これやるのとか、アイディアとか、川合が考えたろ?

未来:そんなの気にしなくていいのにーー

秀人:違うんだって。だから……なんていうかさ。
   俺、思ったんだ。俺は、なんていうか、逃げてばっかだったなって。

 間

秀人:そんな重い話でもないんだけど、俺的には、なんていうかさーー

未来:いいよ。

秀人:……え?

未来:私は、何をしたらいい?

秀人:……じゃあ。

未来:うん。

秀人:期待して、待ってて、ください。

 間

未来:それだけ?

秀人:え? いや、じゃあ。なんていうか……。
   俺が、すごいものを、サプライズ? っていうか、用意するからーー

未来:あー、はいはい。期待してますって。

秀人:伝わってるかぁ……!?

未来:じゃあとりあえず私はオーナメント修行に勤しみますので。
   ああ楽しみ楽しみ。

秀人:伝わってるんですかねえ! ちょっと!



秀人N:そういえば、そうだ。
    この日を境に、川合は、学童クラブに来なくなったんだ。
    次に川合が顔を出したのは、5日後ーークリスマス・イブの前日だった。



 ◆


 <12日目・学童クラブ・空き部屋>


秀人:……うっし、いいか。

 間

秀人:……もう閉館、か。

 <未来・ゆっくり部屋に入ってくる>

未来:あー、いたいた。阿諏訪君じゃーん。

秀人:……ああ。

未来:いやぁーごめんねぇ! かれこれ、どれぶり?
   5日ぶり? だっけー! いやぁーはっは。

 間

未来:あー! これオーナメントできたんだー!
   すっごーい! 全部綺麗にできてるじゃーん! さっすがー!
   でもこれならあれですねー! 十分な数っていうかねー!
   はっはっはー!

秀人:閉館だから、部屋出てくれない。

未来:待って。

 間

未来:ごめん。待って。お願い。

 間

秀人:……何。

未来:いや、だからーー

秀人:来なかった理由?

 間

秀人:学校でも、無視してるだろ。
   いい加減3日目からわかったけどさ。

 間

秀人:正直、最初は口だけかなって思ってたけど。
   本当、嬉しかったんだ。
   川合のお陰でここまでこれたわけだし。
   感謝してる。ありがとうーー

未来:待ってって!

 間

未来:待ってよ……! そんなひどいこと、言わないで……。

秀人:ひどくは、ないだろ。

未来:ひどいよ!

 間

秀人:閉館だから、出て。

未来:待ってって!

秀人:別に帰れって言ってるわけじゃないし。
   上の公園で、話そう。


 ◆


 <公園・ベンチ>

未来:……あのさ。

秀人:うん。

 間

未来:……あのさ。

秀人:うん。

 間

未来:ごめんなさい。

 間

秀人:……いや、なんで謝ってるのかも俺はーー

未来:これ!

 <未来はボロボロになった折り紙の教本を差し出す>

秀人:教本……なんで、こんな、ボロボロに。

未来:学校に、持っていって……!
   そしたら、レイとかに、見つかって……それで、なんでこんなんやってるんだーって。
   変なノリになって……男子とか混じって、なんか……最終的に……。
   ムキになって止めたらどうしてそんな大事なんだとか、何のための本かとか、詰められるし……!
   ボランティアのこといったら、あいつら面白がって、阿諏訪にも迷惑かかるようなことしたりとか、
   色々考えちゃって……!
   関係ないのはわかってるんだ! 止めればよかっただけなんだって!
   わかってはいて、わかっては……いたはずなんだけど……。

秀人:……それで、本がダメになったから、来れなかったってこと?

未来:わかんないよお!

 間

未来:これ……同じの……。探して買ったんだ。
   その日のうちに。
   新しいの渡して、謝ればいいじゃんって、思って。
   でもね。買った後に気づいたんだ。
   こっちの、ボロボロにしたほうの本にはさ……。
   (泣き始める)
   子供達の、落書きとか、変に折った痕とか、そういうの、ついてて。
   こっちの新しいのには、そういうの、思いでとか何もないから。
   ああ私、思い出とか、そういうのも、ボロボロにしちゃったって!
   思って……!
   だって! この落書き、名前! 阿諏訪が! 小さい時かいたやつでしょ!?

秀人:……うん。

未来:ひらがなで! あすわひでとって! これ阿諏訪でしょ!?
   私! 阿諏訪の名前! はじめて知ったんだ!
   私さ……! こんなひどいことしたのに、なんか、嬉しくってさ!
   もうわけわかんなくなってさ!
   どんな顔して会えばいいのかわかんなくなってさぁ!

秀人:うん。

 間

未来:ごめん、なさい。

秀人:……俺も、一つ謝らなきゃいけないことがあるんだ。

未来:……何。

秀人:川合の名前、今日はじめて知った。

未来:……え?

秀人:ガキ共がさ。言うんだ。『ミライは?』『こないの?』って。
   俺は、なんか哲学的なこと言ってるなって思ってたら、蹴り入れられて。
   『振られたのか?』なんて言われて。
   それで……音は知ってたんだ。良く名前、呼ばれてるから。
   でも、ミライって書くことは知らなかったんだ。
   だから、初めて紙に書いてみた。川合未来(ミキ)って。

未来:……別に、謝ることじゃないじゃん。

秀人:いや、そうじゃなくてさ。
   本当に謝らなきゃいけないのは、俺が……川合に学校でちゃんと話しかけなかったこと。
   川合に気使わせてるの、俺が学校で……なんていうか……。
   まあ、スクールカーストの底辺だって自覚はあるくせに、それに甘んじてるような雑魚メンタルだし。
   どこかで思ってたんだ。川合みたいな人気者と、放課後に一緒に作業してるなんて、夢なんじゃないかってさ。
   学校では川合は人間で、俺はネズミとかで、偶然放課後に魔法にかかって俺も人間になれて、みたいな。
   変えなきゃ、変わらなきゃって、川合を見てて、そう思えてきてて……そう思えてきたはずなのに。
   やっぱり、川合が悩んでるのわかってて、声かけられなかった。

 間

秀人:だから、ごめん。

未来:なんだよ……それ……。

 間

秀人:明日。

未来:え?

秀人:明日、学校で作ろう。

未来:は? 何いってんの?

秀人:そうじゃなくてさ。単純に、さっき俺が作ってたオーナメントじゃ、子供達の分にしかなんないんだよ。

未来:それ以外、なんかいんの?

秀人:忘れてたんだけど、実は近所の老人ホームからも数十人来るから、倍はいるっていうかーー

未来:ハァ!? それマジで言ってる!?

秀人:マジです。

未来:バッカ! どうすんのよ!? 間に合わないじゃん!

秀人:だから! クラスのみんなに協力して欲しいわけ。

未来:協力ったって……!

秀人:俺も、もう一回ホームルームで頼むからさ。
   川合も、なんなら横に立ってるだけでもーー

未来:生意気いうな。私が喋る。

秀人:え? いやでも俺がーー

未来:あんたのあのもじもじした容量の得ないトークで集まる人間がどこにいるのよ。

秀人:川合がいただろ。

未来:それは偶然。たまたま。奇跡。

秀人:ひでぇ言い草……。

未来:とにかく! 明日は私が喋るから、阿諏訪はみんなに作り方教えて回る!
   いいね!

秀人:……わかった。

未来:あーもう! なんかもう……!
   あー! トイレで顔洗ってくるから!

秀人:好きにしろよ。

未来:阿諏訪!

秀人:何?

未来:……ネクター、買ってきて。

秀人:(笑って)おう。



 ◆


未来N:そんなこんなで、翌日、クラスでは私の圧倒的なカリスマ性が発揮され、
    つつがなくオーナメント作成大会が開催された。

秀人N:途中から折り紙のペンダントとか作ってた人もいたけどな。

未来N:それは私が教えた。何か文句ある?

秀人N:2時間で必要数の倍くらい集まったんだから、文句はありません。

未来N:ちなみにだけど、少しだけ阿諏訪秀人の株が上がっていてムカついた。

秀人N:それは俺の実力。何か文句ある?

未来N:クリスマス・イブは会場の設営に奔走。
    紙でできた大きなクリスマスツリーを数カ所に貼り付けーー

秀人N:たのは主に男集で、川合含め女性職員達は飾り付け等を担当。

未来N:ここでコソコソと動き回っている阿諏訪を発見。

秀人N:それは当日のお楽しみ。

未来N:いよいよクリスマス当日! 会場は満員御礼。
    開始の挨拶で、サンタに扮した阿諏訪が子供達に襲われる。

秀人N:ちゃんと練習したスピーチが台無しでした。

未来N:さていよいよメインイベント。ツリーの飾り付け。
    折り紙のオーナメントに名前を書いて、子供達と参加者のご老人が貼り付けていく。

秀人N:オーナメントは帰りに持って帰れるようにたくさん用意しました。

未来N:ここで阿諏訪が子供達に襲われ、オーナメントを全身に張られる。

秀人N:ここでオーナメントを渡されて告白される川合を発見。

未来N:未来で待ってるぜ。

秀人N:明日には忘れそうだけど。

未来N:ここでサプライズ! 薄明かりにすると!
    塗料を塗ったオーナメントがキラキラとひかーる!

秀人N:これは徹夜で塗りましたね。

未来N:そんなこんなで終了しーー

秀人N:ちょっと待て、もう一つあっただろうが。

未来N:……えー、阿諏訪秀人、一世一代の出し物。
    室内に雪を降らせましたとさ。

秀人N:実際はプラネタリウムの原理で、雪の結晶の形にーー

未来N:おだまり。いいでしょ、そのほうが格好つくんだから。

秀人N:あー……じゃあ、俺ことサンタクロースが、室内に雪を降らせました。



未来:雪を降らせた……って、書いてて恥ずかしくないわけ?

秀人:格好つくって言ったのはだれだよ。

未来:私が言うから格好つくんですー。

秀人:……つーかこれ、何のために書かされたわけ。

未来:ん? 明日(あす)への手紙。

秀人:俺への?

未来:あ・す・へ・の!

秀人:ミライが、明日(あす)へ?

未来:ミキ様が! 明日(あす)へ。

2人:(笑う)

秀人:あー……明日は、ようやくなんにもない休日かー。

未来:企画で潰れたんだから、遊び行くよ。

秀人:え?

未来:文句ある? あすわひでと。

秀人:その言い方、ズルだから。かわいみき。




 了



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